W.S.モーム 著 ; 西川正身 訳、岩波書店、1969年8月、314p、18cm
(全2冊) 2冊とも両表紙と背ヤケ無し 本体天2冊とも天シミ 本体2冊とも小口と地ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
モームの原文と西川正身の訳を読み比べてみると、明らかに、西川正身の訳のほうが面白い。もちろん、モームの原文も面白いが、西川訳で一段と面白さが増しているような気がする。不思議なことだ。西川訳は、原文をそのまま訳しているのだけど、独特の言い回しとリズムを使って、『窯変』とも言うべき効果を生み出している。こういう効果は、西川正身が訳したほかの作品には見られないので、明らかに、西川がモームの雰囲気を読み取り、それを写し出そうとして、うまく行き過ぎたという例であろう。モームが『そうだよ、俺の言いたいことはそういうことだよ、だけど、お前の言い方のほうが面白いな』と苦笑しているような気がする。一例をあげよう。
"He threw her out so brutally that even his mother was outraged."
このモームの文が、西川訳では次のように窯変する。
『フローベールは、情け容赦もあらばこそ、母親でさえあんまりなと、驚きあきれたほど乱暴に女を家の外へおっぽり出してしまった』