塩飽本島

￥3,050

• 著者 大阪商船
• 出版社 大阪商船株式会社
• 刊行年 昭１１
• ページ数 97p
• サイズ 19ｃｍ
• 状態 中古品
• 解説 鹽飽本島
  目次
  第一編 地理上から見た本島
  一、總說
  二、位 置
  三、地 勢
  四、潮流と航路
  五、氣候之產業
  六、人 口
  七、交通と各種施設
  八、本島の展望
  
  序に代えて
  十数年、私は方々で夏冬をすごした。人の行くところには大抵行つ
  てみた。そして夫々の土地で感じた事は、人間の選擇といふものに
  は根があるさいふ事であった。
  軽井澤も、葉山も、日光も、或ひは小笠原島のやうなところも、夫々
  の個性を以って旬の滞在にへた。楽しくなかったところはなかった。
  風景の事は云はすもがな、流れうつる季節の美しさ、設備せられた
  人工通常さ夫々に心憎いものがあった。
  然し私にさつて本島ですごしたひと夏ほど楽しいものは無かった。
  本島には何か一つの不思議なエスプリがある。然もこの捕へがたい親しさほど、心に永く残るものはなかった。心を非常に安らかにし、
  土着せしめるものがある。
  それは海の中に浮んでゐる孤島である爲めか、周圍に見える島々、
  陸地の持つてゐる圓味あるた、すまひの爲めか、それとも吾々を包
  んでゐる大氣の中の何か特殊な氣流の爲めか。
  私は暫くこに滞在してゐる間に、この島から見える風景と別れる事
  に、非常な愛情を感じるやうになった。
  神武天皇御東征以來、海路の安全を保證し、或ひは脅威したもの
  がこの島であった事を思へば、この島の位置の重大さ傳説の積み
  重ねが自然に吾々の心にわかってくるのである。
  毎日のやうに鳥の前を通過してゆく、華麗なる内外汽船の幾十隻。
  また金剛峯から見える一望の中に浮んでゐる、明暗二様の島々。
  、（少傷み）