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『近代出版史探索Ⅶ』

『近代出版史探索Ⅶ』

小田光雄

 『日本古書通信』の樽見博さんに、本書を書評用に献本した。するとずっと書いてきた小田さんの努力もさることながら、これだけ大部のものを持続して出版してきた論創社の森下紀夫さんの功績も大きく、特筆すべき出版営為ではないかとの言葉が返ってきた。

 確かにそうなのである。ここでは関係者に対する謝辞も含め、第7巻に至るまでの経緯と出版事情を記してみたい。まず森下さんのことから始めると、1999年に刊行した『出版社と書店はいかにして消えていくか』(ぱる出版、後に論創社)は対談形式で書かれ、その対談相手の名前は明記されていないが、森下さんに他ならない。これが始まりであった。

 この『出版社と書店はいかにして消えていくか』の刊行後、出版業界本を続けて出していったけれど、私の問題提起は本格的に論議されることもなかったので、ほどなく出版状況論を書くのを止めてしまった。ところがその一方で、2002年に樽見さんから『日本古書通信』に「古本屋散策」連載の依頼があり、それだけは書き続けていくことになった。

 それからしばらくして、森下さんから21世紀に入ってからの出版状況論が空白になっていることもあり、それを再開してくれないかと慫慂されたのである。そこであらためて2007年から「出版状況クロニクル」を書き始めた。ただ私は自らを冷静な出版史家だと自覚しているので、現在を浮かび上がらせるために、明治から昭和戦前にかけての出版史を併走させるべきだと考えた。それは「古本屋散策」のために浜松の時代舎などから購入した古本資料が大量にたまり、片づける必要性に迫られたからでもある。

 その試みは2009年から「古本夜話」というタイトルで始められ、私のブログ連載は「出版状況クロニクル」との2本立てとなった。それでも「出版状況クロニクル」のほうはアクチュアルな同時代出版状況分析であり、刊行を望む声も届いていたようで、これもまた森下さんが5冊目までは出してくれていた。だが拙論は再販委託制批判とその崩壊がコアとなっていることもあって、ほとんど書評に上がらず、重版となることもなかった。それはさらに3本立てにするつもりで始めた「出版人に聞く」シリーズも同様だった。

 そこで私としても、これ以上森下さんと論創社に負担をかけるわけにはいかないので、もはや著書の刊行を断念すべきだという心境に追いこまれていた。

 そんなところに『日本古書通信』連載の「古本屋散策」が2018年に200回目を迎えた。ちょうど千枚になるし、ずっと連載してくれた樽見さんの好意に応える意味でも、1本とすべきだと考えていたのである。それを最後の1冊として、森下さんにお願いし、快く引き受けてもらった。この『古本屋散策』も例によって書評も出ず、売れずに終わってしまえば、いつもと同じだった。

 ところがまったく思いがけず、選者のフランス文学者の鹿島茂さんによって、19年のドゥマゴ文学賞に選ばれた。それを機に、森下さんの配慮により、授賞式に間に合わせるべく、千回近くに及んでいた「古本夜話」を『近代出版史探索』として刊行することが決まったのである。そして今回の第7巻まで続いたことになる。

 それから最後に「古本夜話」の最大の功労者として、わが妻を挙げなければならない。私は愚直に書き続けてきただけだが、その編集と運営はひとえに彼女の営為によるものだ。しかも連載当初から言及書の書影を挙げるという試みを行ない、これはとんぼ書林の藤原さんの言によれば、古本屋のサイトや古書目録にも大きな影響を与えたのではないかとされる。だがこれらはさらなる厚さになってしまうので、単行本化では見送るしかなかった。

 こうした事実はいわずもがなのことかも知れないが、身近な人たちの好意と支援によって、『近代出版史探索』シリーズの成立と出版も続いていることを伝えてみたかったのである。

 
 
 
 


『近代出版史探索Ⅶ』
論創社刊
小田光雄著
税込価格:6,600円
ISBN:978-4-8460-2349-2
好評発売中!
https://ronso.co.jp/book/2349/

Copyright (c) 2024 東京都古書籍商業協同組合

2024年2月9日号 第388号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第133号
      。.☆.:* 通巻388・2月9日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━【トークイベントのお知らせ】━━━━━━━━

「古本乙女、母になる。」出版記念トークイベント

『古本乙女の日々是口実』のヒットから5年、息子”アト坊”の誕生と
ともに、古本乙女の生活も変わった。それでも、年をとっても、親に
なっても、自分の根っこは変わらない。カラサキ・アユミの心はいつで
も乙女。趣味と育児の間、理性と欲望の間、そして過去と未来の間で揺
れ動きながら、今日も自分の愛する古本を追い求める!
聞き手は『古本屋ツアー・イン・ジャパン』の小山力也氏。

3月16日(土) 13時30分開場 / 14時開演
会場:東京古書会館 7階会議室
料金:無料
定員:50名(応募申込み多数の場合は抽選)
主催:株式会社 皓星社
共催:東京都古書籍商業協同組合

応募申込みは下記ページにて(2月14日 午前10時まで)
https://www.kosho.ne.jp/entry2024/0309/0309.html

詳しくは東京古書組合WEBサイト「東京の古本屋」内にて
https://www.kosho.ne.jp/?p=987

━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見22】━━━━━━━━━━

東近江市ガリ版伝承館 印刷技術と「家」の歴史を受け継ぐ
                           南陀楼綾繁

 12月18日の朝、近江八幡駅からのバスに乗った。

 早朝に東京を出て、名古屋、米原と乗り換えて、ここに着いた。米原
の手前はかなり雪が積もっていたが、トンネルを抜けると急にいい天気
になった。

 バスは民家の連なるくねくねと細い道を進む。旧街道らしい通りだ。
その揺れに身を任せながら、自分とガリ版との縁を思い出していた。

【ガリ版に魅せられて】
 ガリ版(謄写版)は、表面にロウを塗った原紙に、鉄筆で削るように
して文字や絵を書き、その上にインクを乗せて刷るものだ。版にあけた
孔からインクを通して刷る「孔版印刷」の一種である。ヤスリに乗せた
原紙に鉄筆で書くときにする音から「ガリ版」の名で親しまれた。

 1967年生まれの私の小学生時代には、テスト用紙や連絡物などはガリ
版で印刷されていた。ただ、私自身はそれを使った記憶はない。中学生
の時、図書委員会の通信をつくったときは、鉄筆などは使わず、ボール
ペン原紙に文字を書いていた。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13157

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu

東近江市ガリ版伝承館
https://www.city.higashiomi.shiga.jp/0000000117.html

━━━━━━━━━━━【調べる古本3】━━━━━━━━━━━━

古書展で拾った調べの本
 ―江戸市中の住宅地図『復元・江戸情報地図』ほか―
                             書物蔵

■はじめに
 前回まで、古い調べ方の本を紹介した。調べのハウツー本である。今
回は、実際に特定のことを調べる道具になる本、調べの道具本である。
英語でレファレンス・ツール、中国語で「工具書」と呼ばれるものだ。

■市井の人物を調査する――ファミリーヒストリーなどに
 趣味でも、仕事でも、人物情報を調べたいと思うことは結構ある。人
物を調べる場合には、超有名人、限定的有名人、無名人の3つに区分し
て調べると効率がよいことは、ネットでも指摘されている通り。そこで
前2者、つまりそれなりに有名人なった人を調べるにはそれなりの手があ
るのだが、まったくの無名人というか、市井の人を調べるのは難しい。
1980年代まで戸籍が閲覧できたが、これは現在、法曹や直系の子孫に閲覧
が限られている。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13138

※当連載は隔月連載です

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「コショなひと」始めました

YouTubeチャンネル「東京古書組合」
https://www.youtube.com/@Nihon-no-Furuhon-ya

※今月の新コンテンツはありません。

━━━━━【2月9日~3月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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第7回ジュンク堂新春古書展(沖縄県)

期間:2024/01/15〜2024/02/25
場所:ジュンク堂書店那覇店1F  レジカウンター横
   沖縄県那覇市牧志1-19-29
https://honto.jp/store/news/detail_041000084263.html?shgcd=HB300

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2024/01/18〜2024/02/14
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場 JR藤沢駅南口フジサワ名店ビル4階
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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イービーンズ 古本まつり(宮城県)

期間:2024/01/19〜2024/03/20
場所:イービーンズ 9F杜のイベントホール
https://www.e-beans.jp/event/event-11214/

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2024/02/01〜2024/02/13
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売
最寄駅:横浜市営地下鉄「センター南駅」下車 駅構内改札口直進1分
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2024/02/09〜2024/02/29
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場
   柏市南柏中央6-7(JR南柏駅東口すぐ)

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杉並書友会

期間:2024/02/10〜2024/02/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=619

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反町古書会館展 (神奈川県)

期間:2024/02/10〜2024/02/11
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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第9回 調布の古本市

期間:2024/02/14〜2024/02/27
場所:調布PARCO 5階催事場  調布市小島町1-38-1

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2024/02/22〜2024/02/25
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
https://twitter.com/urawajuku

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『BOOK DAY とやま駅』(富山県)

期間:2024/02/23〜2024/02/23
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
https://bookdaytoyama.net/

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ぐろりや会

期間:2024/02/23〜2024/02/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
http://www.gloriakai.jp/

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第149回 倉庫会 古書即売会(愛知県)

期間:2024/02/23〜2024/02/25
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12
https://hon-ya.net/archives/3585

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好書会

期間:2024/02/24〜2024/02/25
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=620

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東京愛書会

期間:2024/03/01〜2024/03/02
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
http://aisyokai.blog.fc2.com/

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第18回 カジル横川古本市(広島県)

期間:2024/03/01〜2024/03/10
場所:フレスタモールカジル横川1F通路
   広島市西区横川町3-2-36 JR横川駅隣接

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Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2024/03/02〜2024/03/03
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=830

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第109回 彩の国所沢古本まつり (埼玉県)

期間:2024/03/06〜2024/03/12
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)
https://tokorozawahuruhon.com/

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2024/03/07〜2024/03/10
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=843

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紙魚之會

期間:2024/03/08〜2024/03/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
https://www.kosho.ne.jp/?p=604

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趣味の古書展

期間:2024/03/15〜2024/03/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
https://www.kosho.tokyo

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第一回 広島護国神社古本まつり(広島県)

期間:2024/03/15〜2024/03/17
場所:広島護国神社境内  広島県広島市中区基町21-2
   (バスセンターより北へ徒歩約10分/アストラムライン県庁前駅より北へ徒歩約10分) 
https://twitter.com/BookHiroshima

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日本の古本屋メールマガジンその388 2024.2.9

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 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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調べる古本③ 古書展で拾った調べの本 ―江戸市中の住宅地図『復元・江戸情報地図』ほか―

調べる古本③ 古書展で拾った調べの本 ―江戸市中の住宅地図『復元・江戸情報地図』ほか―

書物蔵

はじめに

 前回まで、古い調べ方の本を紹介した。調べのハウツー本である。今回は、実際に特定のことを調べる道具になる本、調べの道具本である。英語でレファレンス・ツール、中国語で「工具書」と呼ばれるものだ。

市井の人物を調査する――ファミリーヒストリーなどに

 趣味でも、仕事でも、人物情報を調べたいと思うことは結構ある。人物を調べる場合には、超有名人、限定的有名人、無名人の3つに区分して調べると効率がよいことは、ネットでも指摘されている通り。そこで前2者、つまりそれなりに有名人なった人を調べるにはそれなりの手があるのだが、まったくの無名人というか、市井の人を調べるのは難しい。1980年代まで戸籍が閲覧できたが、これは現在、法曹や直系の子孫に閲覧が限られている。

 一方でファミリーヒストリーが流行って、無名の人、市井の人を調べるニーズが掘り起こされている。一介の市井人を調べるツール、それも公刊されたものもいくつかある。昭和生まれには懐かしいだろうが、電話帳(電話番号簿)がその筆頭だ。しかし、ここでは個人レベルの情報がわかるもう一つの公刊物、『住宅地図』と、その江戸時代版にあたる『復元・江戸情報地図』を紹介したい。

 しばらく前に、神保町の古書会館における週末古書展で『住宅地図』の旧版がかなり安く拾えた。以前は5千円以上したように思うが、いま「日本の古本屋」を見ると最近になって古書価がこなれてきたように思う。国会図書館の地図室へ行けば日本全国の住宅地図を見ることができるが、自分の関係する場所の旧版住宅地図を購入するととても楽しい。

【図1】住宅地図 ’90江東区(中身は1989年)

 私が買ったのは江東区のものなので23区でも面積が広く、「図郭」――見開き2ページで1枚の地図――が152図もある。つまり300ページ以上の厚みがある冊子だ。他に「別記」という集合住宅(5〜6階建て以上)ごとの表札リストが100ページ以上ついているので400ページ以上のA4判の地図帳である。冊子の先頭にグリッド線(縦横のマス目)で区切られた図郭番号つき索引図【図2】が掲げられているので、それで見開きの図郭【図3】を開くことになる。今は無くなった商店などが見られて懐かしい。

【図2】「区分図」という名の索引図 1990江東区

【図3】住宅地図の版面 富岡八幡宮(江東区)周辺 図郭49部分

住宅地図とは

 不動産業に関わったことがあれば誰でも知っているものが住宅地図である。家が1軒ごとに枠として描かれており、縮尺は1/1500といった「大縮尺」地図である(ものが図上で大きめに見えるのが大縮尺図)。国土地理院が作っている「地形図(一般図)」は縮尺が1/25000で、大きな工場でも地図記号で示されるだけだったりする。これはもともと地形図が数万人規模の軍隊が野戦で展開するために作られたものだからだ(戦前の地形図は標準が1/50000)。それに対して住宅地図は個人が街中で住居表示を頼りに訪ねて行くために作られたものなので、大縮尺図なのである。日本にしかないものと言われている。

 現在はネット上にあるGoogleマップが、地形図以外の用途をすべてカバーしているので紙の地図はかたなしなのだが、それでもなお紙の地図ならではの利点はあって、要するに古本で旧版が利用できるところだ。旧版地図が利用できれば、むかしの街並みを楽しめる。

戦前は「火災保険地図」

 住宅地図は便利なものだが、戦後分、それも都市部で昭和30年ごろから、地方だと昭和50年ごろからしか出版されていない。それ以前の住宅地図が欲しい場合どうすればいいか。

 一つは火災保険地図(火保図)がある。これは火災保険会社のためにオンデマンドで複製された地図で、原図は各種の火災保険地図製作会社が作った1/600ほどの大縮尺図である。

 火災保険地図はまれに各地の図書館に保存されていることもあるが、セットで残っているのは都市整図社の沼尻火保図だ。沼尻火保図は以前から一部がオンデマンド出版されていたが、原図のコピー本で、使い勝手が悪かったし、東京都立中央図書館ぐらいしか所蔵がなかった。

 ところが、それが今年からとりあえず東京全部が復刻されるという報を聞き喜んでいるところだ【図4】。個人で買える値段ではないので、図書館にリクエストを出さねばなるまい。全部の建物に名前が入っているわけではないが、それでもなお、かけがえのない史料だ。

【図4】『戦前期東京火災保険特殊地図集成』(創元社)の内容見本

江戸時代の住宅地図は?

 戦前期が火保図という形であるとすれば、江戸時代も欲しくなってしまう。江戸の住宅地図はないの? という疑問には「実はある」というのが答えになる。ただし、お武家さんしか分からないが、という限定つきで。

 江戸の住宅地図帳は次の『江戸城下変遷絵図集』という復刻セットである。
・幕府普請奉行編『江戸城下変遷絵図集:御府内沿革図書』 原書房、1985〜1988、全22巻

 これはもともと幕府が家臣に江戸の土地を貸与した際の土地台帳のようなもので、江戸初期から末期に至るまで江戸のほぼ全部がカバーされている。またこの地図帳セットには、やや使いづらいが人名索引が付いており、幕臣ならば旗本の全員と、ヒラ社員にあたる御家人の一部までいちおう検索できる(町人は分からない。また索引図が不備)。

 ただしこれは何冊にもわたるセットなので、普通の個人が買うようなものではない。近くの図書館で持っているところを探すと良いだろう。

その代替『復元・江戸情報地図』

 そこでここで紹介するのは上記、お武家さん住宅地図帳の索引図的に使える次の地図帳である。
・吉原健一郎ほか編『復元・江戸情報地図 : 1:6,500』朝日新聞社、1994

 こちらにも索引図【図5】があるので、【図3】と同じ富岡八幡宮の部分を探してみよう。すると図郭32に見つかった【図6】。

【図5】『復元・江戸情報地図』索引図

【図6】『復元・江戸情報地図』図郭32部分 富岡八幡宮

 もし江戸市中や明治初期東京の地名を調べたいと思うのなら、これを買っておいて損はない。ネットに同系統の情報をアプリにしたものがあるが(「大江戸今昔めぐり」)、この地図帳よりやや情報が簡略化されているようである。

 本書は索引が完備され、橋の名前などからも引ける。旗本も大きな屋敷の持ち主は引けるようだ。小さい屋敷の場合は『江戸城下変遷絵図集』の人名索引から引く。

 町人は基本引けないが、もし大店の商家であれば、『江戸商家・商人名データ総覧』(柊風舎、2010、全7巻)に乗っているかもしれない。住んでいた町がわかるはず。旧家などの町人であれば『町方書上』(江戸東京博物館友の会、2013〜2016)の総索引を引くことになろう。

「テレビの下の本棚」に最適

 かなり前、江戸の街のことがきちんとわかる今の地図帳はないか、と探したところ、これがいちばん良いとわかった。今でもこれを超えるものはない。これも古書展で安めに拾って、テレビの下に置いてある。時代劇や歴史番組で江戸が取り上げられた場合、即座に引けるようにという算段である。そういえば小田原市立図書館の名物館長だった石井富之助が1960年代に「テレビの下の本棚」という運動をやっていた。本人談によると、河野洋平を通じて松下幸之助に影響を与え、テレビの下に棚がついたのはこの運動のおかげだという(『神奈川県図書館学会誌』65号、1990.10)。

 江戸と戦後はなんとかなるとして、今年から昭和前期も調べられる段階になったわけだが、明治大正、特に関東大震災以前の街並みがわかる大縮尺図があるとよい。しかし、目下のところ、地割りはわかるが地上の物件はわからない地籍図【図7】くらいしか見当たらない。今後の課題だろう。

【図7】『東京市及接続郡部地籍地図 下卷』東京市区調査会、1911

 
 
 
 

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※当連載は隔月連載です

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東近江市ガリ版伝承館 印刷技術と「家」の歴史を受け継ぐ 【書庫拝見22】

東近江市ガリ版伝承館 印刷技術と「家」の歴史を受け継ぐ 【書庫拝見22】

南陀楼綾繁

 12月18日の朝、近江八幡駅からのバスに乗った。

 早朝に東京を出て、名古屋、米原と乗り換えて、ここに着いた。米原の手前はかなり雪が積もっていたが、トンネルを抜けると急にいい天気になった。

 バスは民家の連なるくねくねと細い道を進む。旧街道らしい通りだ。その揺れに身を任せながら、自分とガリ版との縁を思い出していた。

ガリ版に魅せられて

 ガリ版(謄写版)は、表面にロウを塗った原紙に、鉄筆で削るようにして文字や絵を書き、その上にインクを乗せて刷るものだ。版にあけた孔からインクを通して刷る「孔版印刷」の一種である。ヤスリに乗せた原紙に鉄筆で書くときにする音から「ガリ版」の名で親しまれた。

 1967年生まれの私の小学生時代には、テスト用紙や連絡物などはガリ版で印刷されていた。ただ、私自身はそれを使った記憶はない。中学生の時、図書委員会の通信をつくったときは、鉄筆などは使わず、ボールペン原紙に文字を書いていた。

 1977年に登場した「プリントゴッコ」は、ガリ版と同じ孔版印刷で、謄写版資器材メーカーの理想科学工業が開発したものだが、そんなことは知らず、年賀状などでよく使っていた。

 20代になって、古本にハマり、戦前のコレクターが発行した「趣味誌」を集めた。それらの多くはガリ版で印刷されていた。

 1997年に創刊した『季刊・本とコンピュータ』のスタッフとなってからは、デジタル文化の対極にある「メディア」のかたちに関心が向いた。第2号では「本なんか一人でも出せるぜ」という座談会を担当。ファックス通信、オンラインマガジン、電子出版の発行者とともに、ガリ版について志村章子さんに話してもらった。

 志村さんは月刊『文具と事務機』編集部などを経て、ジャーナリストとして活動した人で、社会学者の田村紀雄との共編著『ガリ版文化史 手づくりメディアの物語』や『ガリ版文化を歩く 謄写版の百年』(ともに新宿書房)を出していた。

 座談会では、ガリ版の器材や情報を必要とするためのつなぎ目として、「ガリ版ネットワーク」を設立し、『ガリ版ネットワーク通信』を発行していることを話していただいた。とっくに消滅していたと思っていたガリ版に、これだけ情熱を注いでいる人がいることに驚いた。

 その後、ガリ版の「筆耕」(ガリ切り)として働いたことがある俳優の佐藤慶さんと、「刷り師」の経験のあるジャーナリストの鎌田慧さんの対談(第6号)を経て、第9号から「ガリ版【本コ】」というコーナーを開始した。

 雑誌内雑誌的なページで、ガリ版の再評価の動きや資料館などを紹介するもので、ガリ版で制作した版下を使用した。製版の担当は、『謄写技法』というミニコミを出していた坂本秀童子さん。徳島の出羽島という離島で謄写版の工房を営んでいる坂本さんは、当時メールなどを使わなかったので、原稿や版下は宅配便でやり取りした。文字直しが発生したり、悪天候で宅配便が遅れたりすると、冷や汗をかいたが、DTPでつくる雑誌の中に、すべて手づくりで進行するページがあることが、なんだかとても面白かった。

 私自身、このページの取材を通じて、ガリ版の歴史について耳学問をすることができた。「ガリ版【本コ】」は、『季刊・本とコンピュータ』第1期の終了にともない、8回で終わった。

『季刊・本とコンピュータ』1期第9号(1999年7月)

二人の堀井新治郎

 30分近くバスに乗って、「ガリ版伝承館」というバス停で降りると、目の前に洋館が建っていた。その後ろに和風建築の母屋がある。これが、東近江市ガリ版伝承館なのだ。入り口は母屋の方にある。

東近江市ガリ版伝承館の外観

ガリ版伝承館の入り口

「ここはガリ版を発明した堀井新治郎父子の本家でした。母屋は1908年(明治41)、洋館は1909年(明治42)に建てられています」と、田中浩さんは説明する。

 田中さんは東近江市の隣町の生まれで、この館のある旧蒲生町の役場に勤めていた。現在は一般社団法人「がもう夢工房」の理事として、ガリ版伝承館の運営に関わっている。この日は、東近江市役所博物館構想推進課の竹村祥子さんも立ち会ってくれた。

 東近江には、「近江商人」と称される商人の文化があった。作家の外村繁が生まれた五個荘も、近江商人が多く出たところだ。彼らは京都や大阪、江戸に進出し、その中から現在の大企業も生まれた。堀井家もその流れに連なると云えるだろう。

 それにしても、「堀井新治郎父子」とはどういうこと? 堀井家はこの地方の旧家で、代官を務め、醸造業を営んだ。じつは、謄写版を発明した父子は、どちらも「新治郎」という名前なのだ。1856年(安政3)に生まれた父は、謄写版の開発後、「元紀」(最初という意味)と改名。1875年(明治8)に生まれ、のちに母が初代新治郎と結婚した堀井耕造が「第二代新治郎」を襲名した。耕造は「仁紀」(二番目という意味)を名乗った。

 ここでは、初代、二代として話を進めよう。

堀井新治郎(初代)の像

 初代は内務省に勤務し、二代は三井物産で働いていたが、1893年(明治26)にともに退職し、簡便な印刷機の開発に取り組んだ。

 この年、初代はアメリカのシカゴ万博を視察し、エジソンが開発したミメオグラフにヒントを得た。そして、1894年(明治27)に第一号機を完成。神田鍛冶町に「謄写堂」を設立した(『ガリ版文化史』)。

 謄写版は日清戦争で軍隊の通信の道具として採用されたことを機に、広い範囲で普及していった。

 堀井父子は謄写堂の開発のために、滋賀の土地を売却して資金に充てた。
「研究費や研究材料を買うため資金はすぐに底をつき、一家は赤貧洗うがごときくらしとなった」(『ガリ版文化史』)

 現在の本家は、謄写版で成功した堀井父子が、近江に土地を買って建てたものだ。苦労しただけに、故郷に錦を飾りたいという思いが強かったのではないか。

紙モノ好きの血が騒ぐ

 この家がガリ版伝承館となった経緯は、あとで述べることにして、館内を見ていこう。

 母屋の1階には、ガリ版の歴史に関する展示室がある。そこに展示されている印刷物は、ガリ版がいかに広い範囲で使われていたかを示すものだ。
『ほりゐ』は、堀井謄写堂のPR誌。表紙が美しい。
『昭和堂月報』は、謄写印刷器材店「昭和謄写堂」のPR誌で、謄写版の美術印刷を進化させたと云われる草間京平らが編集していた。ちなみに、私は『季刊・本とコンピュータ』の時代に、この月報を復刻した『昭和堂月報の時代 戦前戦後「ガリ版」年代記』(トランスアート)の編集も担当している。
『南極新聞』は、昭和30年代の南極観測船「宗谷」で、隊員に向けて発行されていた新聞で、ガリ版で印刷されていた。

 ほかにも、芝居やテレビの台本、パンフレット、チラシなどが展示されていた。

『ほりゐ』

『昭和堂月報』

『南極新聞』

 母屋はそのまま洋館に続いている。そちらには器材や孔版画家の作品が展示されている。

作品の展示室

 公開部分の見学を終え、いよいよ資料が収蔵されている蔵に案内していただく。

 堀井家の蔵は、本家と分家合わせて8棟あった。そのうち3棟に資料が収められているそうだ。

 まず、「北の蔵」と呼ばれる2階建ての蔵に入る。

北の蔵

 1階で目につくのは、数々の雑誌だ。東京の堀井家にあったものがここに移されたという。図書館と同じように合本されている。『東京パック』『婦人画報』『グラヒック』『写真画報』など、ビジュアルな雑誌が多いのは、仕事の参考のためでもあったはずだ。

『東京パック』

『グラヒック』

 また、別の一角には「売上帳」と題された帳簿がずらりと並ぶ。堀井家の経理を記録したものだ。しかし、これは氷山の一角で、このあと、堀井家の記録への執念に度肝を抜かれることになる。

 2階に上がると、謄写版の器材が並んでいる。鉄筆やヤスリなどもさまざまな種類が揃っている。

さまざまな鉄筆

 ある棚には「業務付録 解説書」と題されたアルバムが並んでいる。一冊手に取ろうとして、その大きさに驚く。製本も堅牢だ。

 その下にあるのが、「堀井謄写堂印刷見本集」。同社が担当した仕事の見本が貼り込んである。めくっていると、改めて広い範囲でガリ版が使われていたのだと判る。陸軍の精神鼓吹を呼び掛けるものもあった。

業務解説書と印刷見本集

印刷見本

陸軍

 また、デザインの参考にしたと思われる海外のラベルを貼り込んだものもあり、紙モノ好きの血が騒ぐ。

 こういった紙モノはいくらでも見ていられるし、いろいろ発見があって楽しい。たとえば、あるチラシには明らかにミッキーマウスが描かれているし、別のスクラップブックに貼られている「Niagara」の文字は、大瀧詠一の「ナイアガラ・レーベル」のロゴにちょっと似ている。

ミッキーマウスの絵

「Niagara」のラベル

すべてを記録する執念

 次にコンクリート蔵と呼ばれる。2階建ての蔵へ。

 1階には、大量の写真が貼り込まれたアルバムが並ぶ。たとえば、「家族」と題されたアルバムには、年代順に家族の写真が貼られている。その量が尋常ではないのだ。
「この地下には、ガラス乾板も保存されているんです」と、竹村さんが教えてくれる。

コンクリート蔵

アルバム「家族 1」

家族の写真

 2階には、本家と分家に関する記録が年代順にまとめられた台帳が並ぶ。さらに、「記録索引」「類別索引」と称する台帳もあるのだ。

 これらの台帳は、すべて同じかたち、同じ造本で、計画的にまとめられている。いかに旧家とはいえ、これだけ膨大な資料を誰が、どうやってまとめたのか? 
「堀井家では、記録係として3人雇っていたと聞いています」と、田中さんは云う。それだけの時間と費用をかけて、家の記録をまとめた執念は、ちょっと怖いくらいだ。

索引の台帳

 また、別の箱には『謄写版の発明家 堀井新治郎苦闘伝』という冊子が、100冊以上収められている。内容はいわゆる立志伝。日統社は企業経営者の伝記を多く出している出版社のようで、買い取りを条件とする、いまでいう企業出版だったのかもしれない。

『堀井新治郎苦闘伝』

同書を収めた箱

 もうひとつの箱には、『大正十二癸亥年大震火災記』という本が何冊も入っている。

 1923年(大正12)9月1日の関東大震災で、神田鍛冶町の堀井謄写堂本店は火災に遭った。本書は本店や工場、別宅などの被害の状況を克明に綴った記録で、色刷り謄写版の図版が15点収められている。ことに本店が焼け落ちる様子を描いた図版は迫力がある。

 同書の内容については、北原糸子「私家版・関東震災復興誌 神奈川県農工銀行と堀井謄写堂」(『非文字資料研究センター News Letter』第49号、2023年3月)で詳細に分析されている。

『大正十二癸亥年大震火災記』

ガリ版文化の継承

 かつては国内外に普及し、多くの人に使われたガリ版も、他の印刷技術が発展するなかで、次第に衰退していく。

 初代・元紀は1932年(昭和7)に75歳で、2代・耕造は1962年に86歳で亡くなっている。

 1985年、堀井謄写堂はホリイ株式会社と改称、その2年後には謄写版の生産を終了する。

 本家についても、昭和50年代には無人になっていたという。

 1989年に遺族から旧蒲生町に本家が寄贈されたのを機に、建物の改修を行なった。そして、1998年に「ガリ版伝承館」が開館したのだ。蒲生町は2006年に東近江市に編入され、現在は東近江市が同館を運営している。

 2005年からは年1回、企画展を開催。孔版画家の作品展などを開催している。また、堀井家の資料の整理も進めている。

 蔵の見学を終えると、田中さんは道を挟んだ先にある家に案内してくれた。そこには「がりばん楽校」という看板があった。

がりばん楽校

「堀井家に関係している方の民家を提供していただいたんです。ここでは、ガリ版を体験してもらえます」と、田中さんが話す通り、器材が一式揃っている。

 同行の編集者Hさんがいちどもガリ版に触ったことがないというので、体験してもらう。田中さんの指導のもと、原紙に鉄筆で文字を書き、スクリーンにインクを乗せて、印刷する。楽しそうに手を動かす。10分ほどで、この連載のタイトル文字が刷り上がった。

ガリ版体験

印刷した文字

 ガリ版伝承館を訪れる客は、実際に使った経験のある世代が中心だが、ジブリ映画の『コクリコ坂から』でガリ版のシーンが描かれた影響もあり、若い世代も増えているという。「今日も静岡から若い人がいらっしゃいます」と、田中さん。

 また、アートの技法として、ガリ版に注目する美術家も多い。ガリ版にはまだ多くの可能性があるのだ。

 2008年、前年に活動を終了したガリ版ネットワークを受け継ぐかたちで「新ガリ版ネットワーク」が発足し、ガリ版伝承館に拠点を置いた。田中さんはその事務局長も務める。ガリ版伝承館が、文字通りの「伝承」の中心になったわけだ。
「ガリ版の器材や資料の寄贈は増えています。それらを整理して、適切な研究機関に引き継ぐのも、私たちの役目だと思います」と、田中さんは語る。

 最後に見せてもらったのは、志村章子さんの資料だ。ガリ版文化の発掘を続けながら、ガリ版ネットワークを運営してきた志村さんは、2022年、82歳で亡くなる。志村さんの資料は、ご本人より、没後は遺族より新ガリ版ネットワークに寄贈された。その数は1万点近くになるという。整理を終えた後、ガリ版伝承館を含む関係機関に寄贈を呼びかける予定だという。 

 同館が所蔵するガリ版に関する資料は、印刷や美術の歴史を知るための重要資料だ。また、堀井家の詳細かつ膨大な資料は、江戸時代から明治・大正・昭和にいたる「家」の記録として、さまざまなかたちで活用できるのではという予感がする。

 いちどは終わったはずの印刷技術と「家」を、資料によって未来に受け継ぐ。小さな資料館だが、ガリ版伝承館は大きな使命を担っているのだ。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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東近江市ガリ版伝承館
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古本屋ツアー・イン・ジャパン2023年総決算報告

古本屋ツアー・イン・ジャパン2023年総決算報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 2024年元日、能登半島地震が発生してしまった。北陸の皆様にお見舞い申し上げるとともに、石川・富山・新潟の古本屋さんが無事であることを、ただ祈るばかりである。そして人間社会はすっかり新型コロナウィルスを御した形となり、方々でいわゆる日常を取り戻し、人が集まるイベントなども頻繁に行われるようになった。それはやはり賑やかで活気があり、素晴らしいことなのであるが、引き続き最低限の感染対策は続けるべきであろう。混み合う場所でのマスクや手洗いは、これからも必須にして行くつもりである。面倒ではあるが、おかげで相変わらず風邪もひかないのが大きなメリットである。と言うわけで古本屋さんも通常通りに営業するようになり、催事類も大きなもの含めて開かれるようになった。2023年は、感染症がマイナス面で世界をひとつにした時代から、抜け出した始めた特殊な時代になっていた気がする。トンネルを抜け出し、明るい世界に飛び出し始めたが、実はその長く暗いトンネルが、ジワリジワリと人々の気持ちに影響を与えていたのかもしれない。私はトンネル時代もそこから抜け出しても、古本屋通いと古本買いの毎日は決して変わらなかった。そんな愚かな男の行動と情報収集から(ほぼ東京近辺であるが)、何かの姿が浮かび上がって来るかもしれない…。まずは上半期の動きをおさらいし、下半期に突入して行こう。

 まず開店について言えば、神保町にパチンコ屋跡地を利用した巨大店「@ワンダーJG」、西荻窪に武道と関連深い外国人武道家が営む「文武堂」、祖師ケ谷大蔵にシェア型書店「BOOK SHOP TRAVELLER」が挙げられる。対して閉店情報は残念ながら賑やかで、荻窪「藍書店」、神保町「友愛書店」、浦和「金木書店」、川崎「朋翔堂」、沼袋「天野書店」などが惜しまれながらお店を閉めた。催事では由緒ある『城南古書展』が“ザ・ファイナル”と称し、東京古書会館地下での活動に終止符を打った。だが新たに西部古書会館では『高円寺優書会』と言う催事がスタートしている。この新しい催事の波は、実はこの後も続いて行く。これは古本業界の必死さであり、新たな道を切り開く決意表明でもあるのだ。と言うわけで下半期へ。

 七月には立石の下町老舗店「岡島書店」が閉店。実は駅近くのリサイクル系古書店「BOOKS-U」もすでに閉店してしまっていたので、立石から古本屋さんはなくなってしまったことになる。だが「岡島書店」の血は息子さんの「立石書店」&「古書英二」に脈々と受け継がれているので、これからも古本業界の一翼を支え続けてくれるはずである。また催事では『中央線はしからはしまで古本フェスタ』と言う、その名の通り主に中央線沿線の古本屋さんが多数参加した古書市が開催され、いつもは神保町に足を踏み入れぬ若者たちが大挙押し寄せる、伝説的な成果を上げ、古本業界の耳目を集めた。八月は京都に出張取材に赴いた折りに、好みの古本屋さんを訪ねつつ、一乗寺に出来ていた「TAKE書房」を訪問。ラーメン街道にある、古書の多い激安店であった。九月には三鷹で「藤子文庫」の閉店を確認。十月にはひばりケ丘で、何度訪れてもシャッターが下りっ放しの「近藤書店」の閉店を確信。十一月は、神保町路地裏のミステリ専門店「富士鷹屋」が閉店。十二月には高円寺で、「えほんやるすばんばんするかいしゃ」の隣りに出来た、ほとんど屋根裏部屋のような古書も扱う書店「ヤンヤン」に遭遇し、青年が営む新たなお店の息吹を気持ち良く身体に受け、本と言う文化はこれからもまだまだ続いて行くと、暖かな希望を感じてしまう。

 全体を見ると、ちょっと閉店が多い状況であろうか。しかも長らく営業していたお店の閉店が目立った気がする。店主の高齢化や跡継ぎ問題が原因のひとつであろうが、やはりコロナの影響も感じてしまう。さらに実際に目にした閉店ではなく、ブログのコメント欄にタレ込まれた情報も列挙しておこう。鹿島田「南天堂」、滝野川「龍文堂書店」、名古屋「つたや書店」、岡山「万歩書店中之町店」、盛岡「浅沼古書店」、早稲田「ブックス・ルネッサンス」、横須賀「沙羅書店」、西新井「古本のりぼん」、白楽「鐵塔書院」、大森「松村書店」などの閉店が確認されている。さらに東京では、リサイクル系のお店である「ブックセンターいとう」と「DORAMA」系列店の閉店が相次いでいる。常に閉店は悲しい寂しいことであるが、致し方ないことでもある。今現在、何かの条件が様々に重なり、このような事態を生み出しているのであろう。だが、人が動き、工夫を続ける限り、古本のある限り、きっと新たな局面は展開されるはずである。その展開を少しでも応援する為に、微力ながらこれからも大好きな古本を買い続けるつもりである。

 またこの年は、古本屋さんの手伝いを頻繁にした年でもあった。もう十年以上、西荻窪「盛林堂書房」で大きな買取の時に“盛林堂・イレギュラーズ”と称し、本を運ぶ苦役を担っているのだが、何と一年で二十三回も出動していたのである(恐らく冗談ではなく十万冊は運んだ気が…)。そのおよそ半分は、稀代のアンソロジスト・日下三蔵氏の書庫片付け手伝いであるが、実はその書庫も段々と完成に近付いており、今年中にはクライマックスを迎える予感がヒシヒシとしている。さらに盛林堂では、“盛林堂・イレギュラーズ・エクストラ”と称し、三月の『神保町さくらみちフェスティバル 春の古本まつり』四月の『SFカーニバル』十月の『神田古本まつり 青空掘り出し市』でブースの売り子を務め、攻め寄せるお客と暗算地獄に、頭から煙を吹き出しそうになる。こんな風に古本屋さんと関われるとは、古本屋好き冥利に尽きるお仕事であった。こちらも依頼のある限り、今年も続けて行く予定である(すでに正月明けに一万冊を二階から独りで下ろす仕事が……)。

 古本屋さんとの関わりと言えば、一昨年横須賀中央の「港文堂書店」が店主の急逝により閉店してしまったのだが、以前から親交のあった娘さんが、お店は継がなかったが、時折片付けの終わった店舗部分で、常連客さんが集まり『BOOK赤提灯』と称する飲み会を行っていると言うので、年が押し迫った三十日に参加させてもらった。あの元気でおしゃべりで笑顔の輝く店主はもういなかったが、本の無くなった骸骨のような棚、主のいない番台、そこに集まり昔話に花を咲かせる人々を見て、ここに古本屋さんがあったのは、かように意味があったのだなと思い、しんみりじんわりかつてのお店を懐かしんで来た。その時にいただいた、片付けの際に出て来た、横須賀の風景を描いた版画が印刷された、古いオリジナル書皮は、大事な宝物となっている。

 こんな風に、一年間古本屋さんの中を駆け抜けて来たが、今年も変わらず駆け抜けて行く所存である。さて、最後に古本者の業としての、下半期の古本成果を挙げておこう。国土社「空をはしるヨット/香山美子 伊坂芳太郎」二百円、現代社「はだかの王様 山下清日記/式場隆三郎編」(山下・式場連名書名入り)二千円、講談社「怪奇雨男/都筑道夫編」五千五百円、奢覇都館「美童 山崎俊夫作品集 上巻」八百八十円、などであろうか。今年も引き続きこのような値段で良書をハントして行きたいものである。

 
 
 
 
小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書店」で古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。
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『古本乙女、母になる。』 ベストセラーにはならない半端者文学、ここにあり。

『古本乙女、母になる。』 ベストセラーにはならない半端者文学、ここにあり。

カラサキ・アユミ

 昨年12月に皓星社から刊行した2冊目の拙著となる『古本乙女、母になる。』は、古本に目がない筋金入りの古本者である自分が、結婚出産育児という人生のターニングポイントを迎えてからの日々の出来事を書き綴ったエッセイ本だ。

 珍スポットトラベラーで二児の母でもある金原みわさん、古本界のスーパースターである古本屋ツアー・イン・ジャパン小山力也さんという敬愛してやまないお二人による素晴らしい寄稿も収録されている。

 どんな本かと問われれば、「育児と趣味に奔走する一人の母親の日常風景が綴られている。」と答えるだろう。だが、育児をしていない人にもこの本はきっと楽しめてもらえると思う。

 切らしていた洗濯用洗剤をスーパーで買う行為と、古本屋で本を買う行為とでは一見違っているようで実は本質は一緒だ。

 古本者にとって本は生活必需品と同様の位置付けなのだ。それはたとえ母親という立場になっても変わらぬ価値観であることを私は身をもって体験した。

 ドラッグストアで50枚入り1200円の紙オムツの袋をレジに持って行きながら「これで古本屋で数冊本が買えるよなぁ」と考えたり、夫に子守を任せて遠くの街の古本屋で漁書をしながらも「今晩のおかずは何にしよう、あの子が好きな焼き魚にしてあげようか…早めに切り上げて帰りにスーパー寄らなくちゃ」と思案している自分がいる。

 子供が生まれたことによって、趣味に対して時間もお金も思考も全力投資できなくなってしまった私は自分のことを半端者と呼ぶことにした。これは決して揶揄なんかではない。むしろ誇りを持ってこの称号を自分に与えた。

 それにしても、毎回書店に行くとこんなにも面白そうな書籍達が日々大量に刊行されているのかとワクワクして感動すると同時に「すべての本を把握することも読むことも叶わない生涯の短さと人生の時間の足りなさ」を改めて痛感してしまう。

 どこの新刊書店も最近映画化された本や、テレビで芸能人が紹介した本、SNSで話題になった本、これらの書籍が大々的に目立つように平積み陳列されているわけだが、そんな中、自分の本がひっそりと片隅にでも置いていただけていることに興奮しつつ感謝が尽きない。

 ほぼ無名の著者による限りなくマイナーと言われる〝古本趣味〟についてのエッセイ本である。

 フラッと書店に立ち寄り棚を眺め、この膨大な書籍の大海原の中から拙著の背表紙に目を留め「おや、この本は?」とおもむろに棚から抜き出しパラパラとページをめくってもらえる確率は果たしてどれくらいあるのだろうか…そんなことも考えてしまう。

 各業界に人脈も交友関係もほぼ皆無な市井の作家である自分が唯一情報発信できるささやかな場がSNS(主に旧TwitterことX)のみなので、とにかく〝本の存在を一人でも多くの人に知ってもらう〟べく地道に宣伝活動に勤しむ現在だ。せっかく世に出たからにはやはり一人でも多くの読者に繋がってほしい。一方で売れた数なんて関係ない、マイナーなジャンルの本だからこそ刺さる人にだけ刺さればいい、なんて格好つけながら、しかし本当に心の底からそう思う自分もいる。このジレンマはある種の、商業出版における呪いのようなものかもしれない。

 だが実際、本の存在を知られなければ書店さんから注文してもらうきっかけも生まれないわけで、拙著を目指して探しに来てくれる人がいなければ、きっと現在店頭で並べられている本達も発売から時間が経って旬が過ぎたら返品されゆく運命だろう。そして発行部数もそう多くはない初版が売り切れたとしても重版もされずに潔く絶版になるかもしれない。なので、もし、この「自著を語る」をお読みいただき少しでもご興味を持たれた奇特な方々がおられたら是非書店に出向いて『古本乙女、母になる。』が店頭に並んでいるうちに探してお手に取っていただけたら幸いである。

 昨年の本の発売日当日の夕方、ささやかなお祝いにと地元のお気に入りの渋い焼き鳥屋に行った。一人で来たことは何度かあったが、この日は初めて2歳になる息子と一緒に暖簾をくぐった。年季が入ったコの字カウンターで、息子を膝に乗せて流し込んだあの冷えたビールの一口目の味は、きっと一生忘れないだろう。

 イヤイヤ期真っ只中の幼子を育てながら、仕事をしながら、減ることのない家事を日々こなしながら、子供が眠った後に睡眠時間を削りながらの書籍作業はやはり楽ではなかった。大変だったけれど、私のような半端者が古本の話をする本があっても良いのではないか、と不確かな自信もあって楽しく執筆活動に臨むことができた。

 こうして母がしみじみと感慨に耽っているその間、息子は焼き上がったばかりのつくねを私の膝の上に絶妙なバランス感覚で姿勢よく座りながらハフハフと頬張っていた。酒場の女将さんが優しく微笑みながら次々と焼き上がった串を息子の皿に乗せていく。この楽しい時間を息子と共有するなんとも言えぬ多幸感。幸せを熱々の砂ずりに重ねて、串から口に含み噛み締めて味わった。

 いつか古本漁りの面白さもこんな風に息子と共有できる日が来るのかもしれない。

 これからも母親として子育てに奔走しながら古本半端者道を極めていきたいと思う。

 
 
 
 

 
 


『古本乙女、母になる。』
皓星社刊
カラサキ・アユミ著
税込価格:2,200円
ISBNコード:978-4774408019
好評発売中!
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2024年1月25日号 第387号

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1.『古本屋ツアー・イン・ジャパン2023年総決算報告』
                   古本屋ツーリスト 小山力也

2.『古本乙女、母になる。』
 ベストセラーにはならない半端者文学、ここにあり。
                        カラサキ・アユミ

3.『ものと人間の文化史190 寒天』
                中村弘行(元小田原短期大学教授)

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『古本屋ツアー・イン・ジャパン2023年総決算報告』
                   古本屋ツーリスト 小山力也

 2024年元日、能登半島地震が発生してしまった。北陸の皆様にお見舞
い申し上げるとともに、石川・富山・新潟の古本屋さんが無事であるこ
とを、ただ祈るばかりである。そして人間社会はすっかり新型コロナウィ
ルスを御した形となり、方々でいわゆる日常を取り戻し、人が集まるイ
ベントなども頻繁に行われるようになった。それはやはり賑やかで活気
があり、素晴らしいことなのであるが、引き続き最低限の感染対策は続
けるべきであろう。混み合う場所でのマスクや手洗いは、これからも必
須にして行くつもりである。面倒ではあるが、おかげで相変わらず風邪
もひかないのが大きなメリットである。と言うわけで古本屋さんも通常
通りに営業するようになり、催事類も大きなもの含めて開かれるように
なった。2023年は、感染症がマイナス面で世界をひとつにした時代から、
抜け出した始めた特殊な時代になっていた気がする。トンネルを抜け出
し、明るい世界に飛び出し始めたが、実はその長く暗いトンネルが、ジ
ワリジワリと人々の気持ちに影響を与えていたのかもしれない。私はト
ンネル時代もそこから抜け出しても、古本屋通いと古本買いの毎日は決
して変わらなかった。そんな愚かな男の行動と情報収集から(ほぼ東京
近辺であるが)、何かの姿が浮かび上がって来るかもしれない…。まず
は上半期の動きをおさらいし、下半期に突入して行こう。

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小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所
の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書
店」で古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、
「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(320)】━━━━━━━━━━━

『古本乙女、母になる。』
 ベストセラーにはならない半端者文学、ここにあり。
                        カラサキ・アユミ

 昨年12月に皓星社から刊行した2冊目の拙著となる『古本乙女、母に
なる。』は、古本に目がない筋金入りの古本者である自分が、結婚出産
育児という人生のターニングポイントを迎えてからの日々の出来事を書
き綴ったエッセイ本だ。

 珍スポットトラベラーで二児の母でもある金原みわさん、古本界のスー
パースターである古本屋ツアー・イン・ジャパン小山力也さんという敬
愛してやまないお二人による素晴らしい寄稿も収録されている。

 どんな本かと問われれば、「育児と趣味に奔走する一人の母親の日常
風景が綴られている。」と答えるだろう。だが、育児をしていない人に
もこの本はきっと楽しめてもらえると思う。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13001

『古本乙女、母になる。』
皓星社刊
カラサキ・アユミ著
税込価格:2,200円
ISBNコード:978-4774408019
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/literature_criticism/9784774408019/ (試し読みあり)

━━━━━━━━━【大学出版へのいざない14】━━━━━━━━━

『ものと人間の文化史190 寒天』
                中村弘行(元小田原短期大学教授)

 テングサの煮汁をこした溶液は常温で固まる。それがトコロテンであ
る。トコロテンは飛鳥時代から作られた。そのトコロテンを凍結・融解・
乾燥、つまり寒ざらし(フリーズドライ)にしたものが寒天である。江
戸時代初期に京都で発明され、摂津、薩摩、信州、天城、岐阜、樺太へ
と伝わった。本書は、各地へ伝播した寒天産業の盛衰を時系列に沿って
体系化した本邦初の本格通史である。ここでは、私自身が「あっ!」と
驚いた新事実を3つ紹介しよう。

続きはこちら
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書名:『ものと人間の文化史190 寒天』
著者名:中村弘行
出版社名:法政大学出版局
判型/製本形式/ページ数:四六判/上製/本文316頁・口絵8頁
税込価格:3,300円
ISBNコード:978-4-588-21901-6
Cコード:C0320
好評発売中!
https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-21901-6.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

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「大学出版へのいざない」シリーズ 第15回

書名:『合成開口レーダによる高精度な地球観測の原理と実際』
著者名:島田政信
出版社名:東京電機大学出版局
判型/製本形式/ページ数:A5/並製/520ページ
税込価格:8,800円
ISBNコード:9784501335502
Cコード:3055
好評発売中!
https://www.tdupress.jp/book/b634382.html
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『昨日も今日も古本さんぽ 2015-2022』
書肆盛林堂刊
岡崎武志著
税込価格:3,000円
ISBN:978-4-911229-02-6
2024年1月28日(日)発売
https://seirindousyobou.cart.fc2.com/ca0/1112/p-r-s/
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『近代出版史探索Ⅶ』
論創社刊
小田光雄著
税込価格:6,600円
ISBN:978-4-8460-2349-2
好評発売中!
https://ronso.co.jp/book/2349/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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1月~2月の即売展情報

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日本の古本屋メールマガジン その387・1月25日

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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kanten

『ものと人間の文化史190 寒天』 【大学出版へのいざない14】

『ものと人間の文化史190 寒天』 【大学出版へのいざない14】

中村弘行(元小田原短期大学教授)

 テングサの煮汁をこした溶液は常温で固まる。それがトコロテンである。トコロテンは飛鳥時代から作られた。そのトコロテンを凍結・融解・乾燥、つまり寒ざらし(フリーズドライ)にしたものが寒天である。江戸時代初期に京都で発明され、摂津、薩摩、信州、天城、岐阜、樺太へと伝わった。本書は、各地へ伝播した寒天産業の盛衰を時系列に沿って体系化した本邦初の本格通史である。ここでは、私自身が「あっ!」と驚いた新事実を3つ紹介しよう。

1.「寒天の発明」以前にあった寒天
 寒天は従来、京都伏見の旅館館主・美濃屋太郎左衛門が1657年ごろに発明し、「心太の干物」として販売、これを食べた隠元禅師が「寒天」と名づけたとされてきた。しかし私の調査では、もっと以前に寒天は作られていた。茶人・金森宗和の『宗和献立』の「こごりところてん」(1655年)、金閣寺住職・鳳林承章の『隔蓂記』の「氷心太」(1641年)がそれである。『隔蓂記』には、「氷豆腐」(高野豆腐)、「氷餅」、「氷こんにゃく」も登場する。これらは鎌倉時代から作られていた寒ざらし食品である。トコロテンの寒ざらしは、それにヒントを得た名もなき人々によって発明されたと思われる。

2.岐阜寒天の創始者は菖蒲治太郎
 岐阜寒天は大正時代に農家の副業として始まった。従来、県農務課副業担当の大口鉄九郎が岐阜寒天の創始者とされてきた。しかし、大口は寒天製造の専門家ではない。水産伝習所出身の菖蒲治太郎こそ真の創始者である。
佐賀県に生まれた彼は1893年(明治26)、水産伝習所製造科に入学し寒天製造を学んだ。水産伝習所は1888年(明治21)に誕生した私立の教育機関である。1897年(明治30)に国立の水産講習所となり、戦後、東京水産大学、東京海洋大学へと発展した。

 朝鮮総督府で寒天製造の実績を積んだ彼は1921年(大正10)、岐阜県に派遣され、農家の青年たちに寒天製造を教えた。1928年(昭和3)、3人の青年が最初の工場を立ち上げたが大赤字。昭和初期の大不況下、彼は大口鉄九郎とともにどん底からはいあがろうとする3人を激励し支援した。彼らが赤字を克服すると寒天製造を志す者は増え、3年後には25工場にまでなり、今日の岐阜寒天の基礎を築いた。

 私は東京海洋大学附属図書館で菖蒲が筆記した「水産動物学」の講義録を見せてもらった。その端正な文字と精緻な絵に圧倒された(本書に収録)。

3.樺太寒天史を解き明かす一人の医師の手記
 樺太寒天の原料はテングサではなく遠淵湖産の無名の海藻である。トコロテンにすると黒褐色のため脱色法の研究を要した。1915年(大正4)、東京深川の材木商・杉浦六弥が、水産講習所の技手・伊谷以知二郎の支援を得て脱色法の開発に成功し、製造特許を得た(彼は無名の海藻を「伊谷草」と名づけた)。1920年(大正9)樺太寒天合資会社設立。杉浦は特許権を理由に伊谷草採取と寒天製造を独占した。従来、この樺太寒天合資会社の寒天がイコール樺太寒天とされてきた。

 私が東京都港区にあった一般社団法人全国樺太連盟(2021年解散)を訪ねたのは、2017年(平成29)10月下旬のことである。『異国となった遠淵村』という本を借りて読んだ。それには、伊谷草の採取権を求めて寒天会社と闘った遠淵漁業協同組合の話が書かれていた。私が注目したのはその闘いを香曽我部穎良という一人の医師が支援したことだった。その珍しい名字を頼りにインターネットで子孫を探し、同年12月15日、穎良自身が書き残した手記を借り受けた。これで真の樺太寒天史が書ける! と思った瞬間だった。

 樺太寒天合資会社のやり方は非道だった。杉浦は伊谷草の採取を、遠淵湖を漁場とする漁協にではなく低賃金で雇った北海道の採取労働者にあたらせた。調停役になるべき樺太庁は、あろうことか、漁協に対して「作れないのだから採るな」と言い放った。漁民は途方に暮れた。

 杉浦の独占に風穴をあけたのは、漁業組合長になった医師・穎良だった。材木業で失敗した杉浦の特許料不納を見抜いたのだ。一転、樺太庁は漁協の伊谷草採取権を承認。漁協側はさらに裁判闘争・帝国議会請願を行い、1935年(昭和10)には寒天製造権をも獲得した。敗戦にいたるまで、漁協は30余りの個人工場で寒天を製造・販売した。

 2019年(令和元)8月(新型コロナ流行直前)、私はサハリンに渡り、コルサコフの杉浦の樺太寒天合資会社跡、ブッセ湖(遠淵湖)畔の漁民の寒天工場跡を見学した。詳しくは本書「第10章 サハリンに日本人寒天遺跡を訪ねて」をお読みいただきたい。

 
 
 
 
 


書名:『ものと人間の文化史190 寒天』
著者名:中村弘行
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判型/製本形式/ページ数:四六判/上製/本文316頁・口絵8頁
税込価格:3,300円
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2024年1月10日号 第386号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第132号
      。.☆.:* 通巻386・1月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━【懐かしき古書店主たちの談話】━━━━━━━━

懐かしき古書店主たちの談話 第4回
                     日本古書通信社 樽見博

 神保町の古書街の魅力は何かと言えば、毎週末の会館展と内容豊富な
各店の均一台と答える古書ファンは少なくないだろう。かく言う私もそ
の一人だ。均一小僧を名乗っていた岡崎武志さんとは、田村書店の店先
や、四冊100円の棚があった文省堂書店(前々回書いた明文堂さんの隣に
あった時代)、神保町古書モールかんたんむ書店の100円均一棚の前で良
く出会った。会うたびに「樽見さん神保町パトロールですか」と笑って
いわれた。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=12844

※当連載は隔月連載です

━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見21】━━━━━━━━━

江北図書館 建物と蔵書を未来へ受け継ぐ
                           南陀楼綾繁

 12月19日の朝、私と編集のHさんは江北図書館の前にいた。JR北陸線・
木ノ本駅東口の真正面にある建物だ。1937年(昭和12)に建てられた2階
建ての洋風建築で、風格がある。

 木之本町は滋賀県の北部、湖北地方の長浜市に属する町だ。北陸に向か
う北国街道沿いの宿場町として栄えた。地蔵院の前の通りには、薬局や酒
造、醬油店などの古い建物が並ぶ。

 三角屋根と丸窓が印象的な建物を眺めていると、車で館長の久保寺容子
さんがやってきて、入り口を開けてくれた。

 玄関を入ると、外とは異なる空気を感じる。この図書館が経てきた長い
時間から生じるものだろうか。

 正面の上には、「江北図書館」の扁額が飾られている。その下にある引
き戸を開けると、そこに豊かな本の世界が広がっていた。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=12935

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu

江北図書館
http://kohokutoshokan.com/

江北図書館文庫
http://kohokutoshokan.com/library/
(滋賀大での閲覧には事前に許可申請が必要です)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「コショなひと」始めました

YouTubeチャンネル「東京古書組合」
https://www.youtube.com/@Nihon-no-Furuhon-ya

※今月の新コンテンツはありません。

━━━━━【1月10日~2月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2024/01/05〜2024/01/16
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣)
   3階バッシュルーム(北階段際)
http://mineruba.webcrow.jp/saiji.htm

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三省堂書店池袋本店 古本まつり

期間:2024/01/08〜2024/01/15
場所:西武池袋本店 別館2階=特設会場(西武ギャラリー)
   東京都豊島区南池袋1-28-1
http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/events/7033

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第50回 古本浪漫洲 Part.1

期間:2024/01/10〜2024/01/12
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

------------------------------
東京愛書会

期間:2024/01/12〜2024/01/13
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
http://aisyokai.blog.fc2.com/

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オールデイズクラブ古書即売会 (愛知県)

期間:2024/01/12〜2024/01/14
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12
https://hon-ya.net/

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大均一祭

期間:2024/01/13〜2024/01/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=622

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第50回 古本浪漫洲 Part.2

期間:2024/01/13〜2024/01/15
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第50回 古本浪漫洲 Part.3

期間:2024/01/16〜2024/01/18
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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ハンズYOKOHAMA古本市(神奈川県)

期間:2024/01/16〜2024/02/07
場所:横浜モアーズ7階ハンズ横浜店イベントスペース
最寄駅:横浜駅西口駅前
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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さんちか古書大即売会(兵庫県)

期間:2024/01/18〜2024/01/23
場所:神戸・三宮 さんちか3番街 さんちかホール
https://hyogo-kosho.com/

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2024/01/18〜2024/01/31
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前
   千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2024/01/18〜2024/02/14
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場  JR藤沢駅南口フジサワ名店ビル4階  
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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五反田遊古会

期間:2024/01/19〜2024/01/20
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分
https://www.kosho.ne.jp/?p=567

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和洋会古書展

期間:2024/01/19〜2024/01/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
https://www.kosho.ne.jp/?p=562

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第50回 古本浪漫洲 Part.4

期間:2024/01/19〜2024/01/21
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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イービーンズ 古本まつり(宮城県)

期間:2024/01/19〜2024/03/20
場所:イービーンズ 9F杜のイベントホール
https://www.e-beans.jp/event/event-11214/

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第50回 古本浪漫洲 Part.5(300円均一)

期間:2024/01/22〜2024/01/24
場所:新宿サブナードジャングルスカイ広場(催事場)
   新宿区歌舞伎町1-2-2
https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2024/01/25〜2024/01/28
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
https://twitter.com/urawajuku

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趣味の古書展

期間:2024/01/26〜2024/01/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
https://www.kosho.tokyo

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中央線古書展

期間:2024/01/27〜2024/01/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=574

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2024/02/01〜2024/02/13
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売
最寄駅:横浜市営地下鉄「センター南駅」下車 駅構内改札口直進1分
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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書窓展(マド展)

期間:2024/02/02〜2024/02/03
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
https://www.kosho.ne.jp/?p=571

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西部古書展書心会

期間:2024/02/02〜2024/02/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=563

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2024/02/09〜2024/02/29
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場
   柏市南柏中央6-7(JR南柏駅東口すぐ)

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杉並書友会

期間:2024/02/10〜2024/02/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
https://www.kosho.ne.jp/?p=619

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反町古書会館展 (神奈川県)

期間:2024/02/10〜2024/02/11
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10
http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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日本の古本屋メールマガジンその386 2024.1.10

【発行】
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 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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懐かしき古書店主たちの談話 第4回

懐かしき古書店主たちの談話 第4回

日本古書通信社 樽見博

 神保町の古書街の魅力は何かと言えば、毎週末の会館展と内容豊富な各店の均一台と答える古書ファンは少なくないだろう。かく言う私もその一人だ。均一小僧を名乗っていた岡崎武志さんとは、田村書店の店先や、四冊100円の棚があった文省堂書店(前々回書いた明文堂さんの隣にあった時代)、神保町古書モールかんたんむ書店の100円均一棚の前で良く出会った。会うたびに「樽見さん神保町パトロールですか」と笑っていわれた。

 最近ファンからの要望で再開した小宮山書店ガレージセールで良く出会ったのが中野書店の智之さんだった。私と同年だが、文学書は勿論、古典から漫画まで古書全般に通じた数少ないオールラウンダーだった。「日本古書通信」の古書目録欄は毎号欠かさず掲載してくださり、売れないなどの苦情を言われたことも一度もない、本当にありがたいお客様でもあった。

 智之さんは中野書店の二代目。父上実さんは、九大工学部卒のインテリだが、戦地から帰還した兄上が久留米で開いていた古書店を引き継ぐ形で古本屋になった。昭和35年に一大決心して上京、三鷹に出店した。昭和53年には神田古書センターに移転、当時の神保町では珍しい漫画や児童物を専門に扱った。その後文学書や古典を扱う有力書店になったことは周知のことであろう。実さんのお話は、平成15年3月号「古本屋の話3」で取り上げている。体の大きな方で、それは智之さんに遺伝している。実さんは平成13年に奥様に先立たれ、追悼の冊子を作られた。そこには智之さんの少年時代の写真が沢山収められていた。所謂坊ちゃん刈で、大きな襟のついたジャンパー姿、私は茨城の田舎の少年で、智之さんはいかにも東京の少年だが、同じ時代を生きてきたのだなと感慨深いものがあった。実さんと智之さんは仲の良い親子で、智之さんが優しく父を敬っていたという印象が強い。「日本古書通信」への初めての寄稿も「親父の目録」(1993年12月号)であった。

 実さんは苦労した創業者として商売一途の面があったが、智之さんは組合や交換会の運営にも積極的に尽力されていた。実力も人望もあるから当然であったろう。神田古書店連盟や東京古典会の会長や役員も何期か勤められている。東京古典会会長当時、智之さんと小林書房の小林芳夫さん、一心堂書店の高林和範さん、浅草御蔵前書房の八鍬光晴さんに「東京古典会古典籍大入札会への思い」と題して東京古典会の運営について座談会を「日本古書通信」に掲載したことがある。(2013年11月号)

 智之さんは「明治古典会は新しさを追求しようという姿勢が強いですね。いろいろアイディアを活かしていこうとします。東京古典会はその点変わらないというか、姿勢を変えない。珍しくて貴重な書物や資料を掘り起こし、業者が競争して、その価値を高めていこうという、その点はずっと昔から変わっていない」「お客さんの変化に合わせるというのではなく、和本というのはこういうところが面白くて、価値があるのだという、これまで積み上げてきた専門業者の目を信じてお客さんの方が、こちらに近づいてきて欲しい。それを願ってやっている」などと語っている。

 神田古書店連盟の最も大事な行事が神田青空古本まつりの開催である。毎回連合目録を出していたが、各店の古書目録だけでなく、巻頭に諸家の古本にまつわるエッセイを掲載していた時期があり、司馬遼太郎氏など著名な作家の寄稿もあったと記憶する。この企画も智之さんなどのアイディアではなかったかと思う。智之さんご自身も確か「牛肉の味噌漬け」という一文を書いていた筈である。作家の書簡などに人気が出始めたころで、著名人のものは軒並み高額になる、所謂自筆物バブルが起きた。そんな中で智之さんも漱石の葉書を買った。それが牛肉の味噌漬けを貰った礼状で文学的資料にならない。著名な作家の書簡でも内容を見て扱わねばと自らを戒めたといった内容だった。それが面白可笑しくユーモアにあふれた文章であった。以来、何度か「日本古書通信」への寄稿を依頼したが、企画もの以外の原稿は貰えなかった。智之さんもメンバーだった反町茂雄氏主宰の文車の会の機関誌「ふぐるまブリティン」にもあまり寄稿されていないので、文章力はあってもその点はストイックだったのかもしれない。

 現在、「日本の古本屋」の陰に隠れて目立たないが、神保町のオフィシャルサイト「BOOKTOWNじんぼう」の開設にも智之さんは関係していた。技術的なサポートをしてくれたのが東大情報研の高野明彦先生である。高野先生の開発された連想検索Webcat Plusは、書籍検索上画期的なもので、あふれる文字情報の海から、キーワードにそって関連する本や記事を拾い出してくれる。書名や著者名だけでなく、目次や内容紹介のデータもその網の目にかかってくる。高野先生とも親しい智之さんは、この機能を利用して新しい古書目録を作り始めた。タイトルは「おしゃべりカタログ」。取り上げる古書を読み、その面白さを紹介、その本の背景や関連事項まで解説に書き込んだ。その解説に含まれる言葉が、連想検索によってヒットしていくのだ。智之さんの解説は、古書価の高低にかかわらずその本の面白さを伝えていく。しかも対象は古典籍から遊女の手紙、大名の借金証文、ナチス文献、浅草オペラの楽譜などなど極めて広い。これらに取って付けたような説明文でなく、読ませるエッセイに仕立てている。これはかなり広範囲な読書と知識がなければできないことだ。最初に書いたように小宮山ガレージセールで智之さんが古本を漁っていたのはその為だろう。

 私が中野好夫への興味からアラビアのロレンスとの繋がりで、サイードの『オリエンタリズム』を読もうとしたが歯が立たない。或る時智之さんに「サイードは難しくて」と話したら、「サイードは分かるでしょう」と一蹴され、これは並みの読書家ではないなと思ったことがある。

 2011年の夏ころだろうか、智之さんが病気らしいという噂を耳にした。編集者とは因業な職業で、智之さんに連載をお願いするなら今だなと思ったのである。大江健三郎が師渡辺一夫を評した言葉の中に、人間は回復期にもっとも良い仕事を残すものだというのがあった。私はきっと引き受けてくれるに違いないと、思いついてすぐ古書センターのお店に伺い、「おしゃべりカタログ」に書いたものを本誌用に書き換えて連載して下さいとお願いするとその場で承諾してくれた。「一つだけ、樽見さんが面白くないと思ったら、遠慮なく伝えて。即やめるから、それが条件」と言われたことを覚えている。

 連載は、2012年1月号から14年10月号まで32回続いた。一回目は「傾城の恋文」であった。横浜岩亀楼の遊女が旦那に送った懸想文である。原稿を頂いた時のメールがのこしてある。「一応五回分、お送りしておきます。懸想文は一回目用ですが、以下の順番は適宜で結構です。追ってもうすこしお送りします」とある。連載の一回目に遊女の手紙はふつう選ばない。今回読み直して、これは意図があったのだと気が付いた。遊女の手紙は流麗な崩し字である。なかなか読めないし、花街独特の作法、用語もある。

 総合した知識がないと解説できない。しかも智之さんは今風に翻訳までしている。智之さん実は杉並のご自宅を一部劇場にし、ユニット演劇集団「ガザビ」を主宰、脚本を担当している。つかこうへい原作「熱海殺人事件―哀愁のトワエモア」、シェイクスピア原作「ベニスの商人」をアレンジした「さくらどき、鏡のよのなか」などの脚本を書いているようだ。このような経験と技術がなければ遊女の懸想文を今風には書き直せない。商品にはなりにくい物に価値を与えていくにはそれだけの下地が必要である。そのことを、それとなく示したかったのではないかと今にして思う。三回目の「榎本武揚の別れの手紙」は古書店主に求められる瞬時の判断力の話ということになる。いつもの東京古典会の市場の壁にポツンと掛けられていたもの。智之さんはその日付と、その書簡の三名の宛先に注目。勿論内容も読み切り、価値ありと判断した。唯の直観ではない。これも下地がなければ出来ない。

 十五回目は「極道和尚、板にたつ」。演劇人でもあった智之さんならではの一篇。金星堂先駆芸術叢書『六人の登場人物』(ピランデルロ・大正13)の紹介だが、眼目はたまたま挟まっていたこの芝居の「非公開パンフレット」にある。演劇史では公演禁止とされたこの芝居が、実は三日間だけ「非公開」で上演されたことが分かった。面白いのは配役にある后東光が、極楽和尚今東光の誤植であると書いていることだ。この時のメールも残してある。私が「后東光よく気が付きましたね。『浅草十二階』といったか、今東光の青春自伝がありますが、それにも出てきますかね」と書いたら「今、手元にないのですが、たしか女の話題ばっかりで、あ、文学も少し。たしか芝居の話はなかったように記憶します」と返信があった。

 連載は途中から病床からとなった。亡くなられて古書会館地下でお別れの会があった時、石神井書林さんがこの連載にふれて、「回を追うごとに文書が良くなっていくのに感動を覚えた」と語っていた。このお別れの会に頒布すべく、奥様千枝さんの支援を得て連載をまとめた『古本はこんなに面白い 「おしゃべりカタログ」番外編』を刊行した。千枝さんが巻末のあいさつに「本が好きで好きで、休みの日も自転車で本屋めぐりをしていた」と書かれている。思っていた通りである。

 同世代の古本屋さんたちと話していると、「智ちゃんが生きていてくれたらな」と必ずのように出てくる。「日本古書通信」今年の2月号に前全古書連会長の河野高孝さんにお話を伺った。その中で「20年以上前「東京の古本屋」で中野書店の中野智之さんが、本部交換会の開催日組替えを提言されています。本心は交換会そのものの再編にあったことを、のちに当人から聞かされました。現会館が出来たときは、交換会再編の好機でもあったのですが」と語られている。本当に惜しい方を失くしてしまったと思う。(2014年12月没・60歳)

 
 

 
 
(「全古書連ニュース」2023年11月10日 第497号より転載)

※当連載は隔月連載です

 
 
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