20250325_tsutaya

蔦重版と古本屋(『蔦屋重三郎』)

蔦重版と古本屋(『蔦屋重三郎』)

鈴木俊幸

 ここのところ、蔦屋重三郎版の和本の売れ行きが好調とか。安いものではない。蔦重版は
時代の名物である。江戸時代中期末を飾る名品の数々が蔦重によって出版された。彼が手掛
けた浮世絵にしても黄表紙にしても洒落本にしても、一過性の娯楽、本来流行の流れの中に
あって過ぎ去ってしまうはずのものであった。そんなものほど、後に価値が見出された時には
簡単には入手出来なくなっている。入手困難ということが蒐集の食欲を一層かきたてるので
ある。

 大田南畝の手控『丙子掌記(へいじしょうき)』に、山東京伝の訃報に接した文化13年
(1816)9月7日、息定吉を柳原の床店古本屋に行かせて京伝洒落本三冊を得てこさせたと
いう記事が見える。そのうち二点は蔦重版である。この記事の後に、もともと所蔵していた
京伝洒落本八点を並べている。その内七点は蔦重版、残り一点は鶴屋喜右衛門初版であるが、
後に蔦重が求版したものである。南畝は、盛時の戯作類を多く所蔵していた。自分自身、
当時の戯作に手を染め、他の戯作者たちとの交遊が密であったこともあって、その頃を
懐かしむ気持ちは強かったであろう。しかし、それだけではなかった。当時得てそのまま
持ち続けていたものもあったろうが、本の蒐集は彼の趣味であり、性癖のしからしむる
ところでもあった。マニアである。余暇には自分自身で湯島天神下や柳原の床店古本屋を
冷やかしては古い草紙類を漁っていた。

 南畝の蒐集癖は、その時代の趣味とも合致するものであった。その趣味を牽引していった
人間の一人が南畝であったと言うべきかもしれない。『浮世絵類考』の原撰本『浮世絵考証』
は南畝が編んだものである。昔の草紙類を蒐集して、それに基づいての考証を展開していく
趣味が18世紀末から盛んになる。この南畝の編著もそれと一連のものである。

そして考証随筆を著した山東京伝・柳亭種彦・曲亭馬琴なども、その中心的存在であった。
その蒐集熱は比較的近時の草紙類、天明頃の黄表紙や洒落本にまで及んでくる。そして、その
時代の空気を象徴する名物、優品は蔦重版が他を圧倒して多かったのである。天明期戯作の
滑稽に憧れた式亭三馬も時代の潮流の中の一人である。彼の蔵書印のある戯作をよく見かけ
る。享和3年(1803)の黄表紙『稗史億説年代記(くさぞうしこじつけねんだいき)』など、
その趣味、その考証をもって作り上げた黄表紙と言ってよいだろう。

 こういった趣味の裾野は、幕末になるにしたがって、ますます広がっていく。原則その年々
の正月のみの新版として消耗品的に享受された黄表紙はもともと残りにくく、特に早期のもの
は幕末には入手が困難になっていた。蒐集家の増加はそれに拍車をかけ、蒐集家の熱は稀本に
なればなるほど高まる。ここに蒐集家向けの商売が成立する。「珍書屋」と呼ばれた古本屋が
登場してくる。安政元年(1854)序、四壁庵茂蔦の『わすれのこり』に「珍書持/四日市
達磨屋悟一待賈堂/豊島町からしや豊芥子/池之端仲町加藤家内土島氏 黄表紙好/下谷
上野町紺屋 黄表紙好/大師の千六本といふ黄表紙一冊を、金一分に買ひとりたりと」という
記事が見える。黄表紙はすでに「珍書」、それを専ら対象とした蒐集家の存在を確認できる。

達磨屋五一は、文化14年(1817)築地に生まれ、十二歳のころ西村宗七店に丁稚奉公に出、
さらに英文蔵・山田佐助店を勤めた後、嘉永3年(1850)、四日市に「珍書屋」の看板を
掲げる。好事家相手の店である。熱心な蒐集家がいて、蒐集家に磨かれ、蒐集家を満足させる
ような目利きの古本屋が現れた。彼ら蒐集家と古本屋の存在があって、黄表紙などの草紙類の
散逸はかろうじて食い止められ、今、われわれがこれらに接することができているのである。

 さて、下谷上野町紺屋が金1分で買ったという「大師の千六本」は、北尾政演画・芝全交
作の黄表紙『大悲千禄本(だいひのせんろくほん)』で、天明5年(1785)正月の蔦重版で
ある。今でも稀覯に属するが、江戸時代においても同様だったのである。この黄表紙は
蒐集家垂涎の的であり、幕末には覆刻版も作られた(達磨屋五一によると伝えられる)。
不出来な覆刻であるが、需要は大いにあったのである。

中央大学所蔵の黄表紙社楽斎万里作山東京伝画『嶋台眼正月(しまだいめのしょうがつ)』
(天明7年、蔦屋重三郎版)には「福田文庫」印があって、福田敬園の手になると思われる
識語に「芝全交作 当世大通仏買帳/同 御手料理御知而已 大悲千禄本 但当安政五午年秋
再板五拾部余すり立候分聞く尤もはし(以下難読)/京伝 嶋台眼正月/右安政五午年九月
廿五日湯嶋天神様切通し床見世ニ而求之畢ぬ代十百ノ拾文」とある。「福田文庫」印を備える
黄表紙はよく目にする。彼も熱心な蒐集家であった。この三冊、湯島天神切通の床店古本屋で
得ているが、その中に覆刻版『大悲千禄本』もあって、それが安政5年(1858)製のもので
あるという情報が備わる。それはともかく、福田敬園が古本屋で入手し、大切に収蔵していた
から、それがそのまままた古本屋の手に渡り、めでたく中央大学の蔵書となったのであった。

 さて、昨年、『蔦屋重三郎』(平凡社新書)を上梓した。ひたすらわかりやすさを心懸けて
作ったつもりであるが、いかがであろう。蔦重版の和本に吹いているらしい景気の風がこの
小冊にも及ぶであろうか。

 
 
鈴木俊幸
1956年、北海道生まれ。中央大学文学部教授。専攻は近世文学、書籍文化史。中央大学文学部国文学専攻卒業。同大学大学院博士課程後期単位取得満期退学。著書に、『江戸の読書熱-自学する読者と書籍流通-』、『絵草紙屋 江戸の浮世絵ショップ』(以上,平凡社選書)、『江戸の本づくし―黄表紙で読む江戸の出版事情』(平凡社新書)、『近世読者とそのゆくえ―読書と書籍流通の近世・近代』(平凡社)など。
 
 
20250325_tsutaya
 
書名:『蔦屋重三郎』
著者:鈴木俊幸
発行元:平凡社
判型/ページ数:新書/208頁
価格:1,100円(税込)
ISBN:9784582860672
Cコード:0223
 
好評発売中!
https://www.heibonsha.co.jp/book/b651740.html

Copyright (c) 2025東京都古書籍商業協同組合

2025年3月10日 第414号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
          古書市&古本まつり 第147号
      。.☆.:* 通巻414・3月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━【本とエハガキ】━━━━━━━━━━

本とエハガキ(3)古書即売会のエハガキ
                            小林昌樹

 古本の即売会が好きだ。というか第二の人生を歩み始めた2005年から、
ほぼ毎週末南部、西部、そして本部(神保町、というか小川町(まち))の
古書会館に通っている。前職、国会図書館で書庫で仕事の立ち読みを
たくさんしたけれど、週末古書展のほうが数倍楽しい。だって買って
帰れるんだもの。

 その即売会、どうやら戦前からあるらしい。名著にして大著『東京古書
組合五十年史』に「古書即売展」(p.548-572)という章があって、日本初は
横浜で、明治42年11月20日と翌日、浜港館で開かれたものだと分かる。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=20212
 
 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━【シリーズ古書の世界】━━━━━━━━━━

破棄する前に3 全集書簡篇で読む作家の年賀状
                            三昧堂

 岩波書店の「図書」を定期購読し始めたのは、昭和40年代半ばの高校生
時代だった。読んで理解できる記事は殆どなかったが、巻末の広告ページに
掲載される文学者個人全集の「予約出版」広告を毎号恨めしく眺めていた。
予約期限が近付いてくると買えもしないのに焦ったりしたものだ。

 学校の図書室でジャワハルラール・ネールの『インドの発見』という古びた
二冊本を見つけた。自分でも欲しいと思い岩波書店に在庫問い合わせのハガキを
出すと、当社刊行書は絶版にせずすべて在庫していますのでお近くの書店へ
ご注文くださいと言った文面のハンコを捺した返信があった。
 

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=20257
 
 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━【書庫拝見34 お休みのお知らせ】━━━━━━━

「シリーズ書庫拝見34」は都合によりお休みさせていただきます
楽しみにお待ちいただいた方には申し訳ございませんでしたが、
次回配信まで、楽しみにお待ちいただければ幸いです
 
 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964
 
 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━【3月10日~4月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

------------------------------
うつのみや書店の古書市

期間:2025/02/10~2025/03/30
場所:うつのみや書店香林坊店  金沢市香林坊 2-1-1 香林坊東急スクエア B1F

------------------------------
球陽堂書房メインプレイス店 春の古書フェア

期間:2025/02/27~2025/03/31
場所:球陽堂書房メインプレイス店 (サンエー那覇メインプレイス2F)

------------------------------
ハンズ横浜古本市

期間:2025/02/28~2025/04/09
場所:横浜モアーズ7階 ハンズ横浜店イベントスペース
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
第113回 彩の国所沢古本まつり

期間:2025/03/05~2025/03/11
場所:くすのきホール
  西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.com/

------------------------------
BOOK & A(ブック&エー)

期間:2025/03/13~2025/03/16
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843

------------------------------
紙魚之會 ザ・ファィナル

期間:2025/03/14~2025/03/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=604

------------------------------
第193回 神戸古書即売会

期間:2025/03/14~2025/03/16
場所:兵庫県古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5
URL:https://hyogo-kosho.com

------------------------------
神保町さくらみちフェスティバル 春の古本まつり

期間:2025/03/20~2025/03/23
場所:神田神保町古書店街(靖国通り沿い)
URL:https://jimbou.info/

------------------------------
趣味の古書展

期間:2025/03/21~2025/03/22
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.tokyo

------------------------------
中央線古書展

期間:2025/03/22~2025/03/23
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=574

------------------------------
新橋古本まつり

期間:2025/03/24~2025/03/29
場所:新橋駅前SL広場
URL:https://twitter.com/slbookfair

------------------------------
第108回シンフォニー古本まつり

期間:2025/03/26~2025/03/31
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

------------------------------
青札古本市

期間:2025/03/27~2025/03/30
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=618

------------------------------
浦和宿古本いち

期間:2025/03/27~2025/03/30
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
URL:https://twitter.com/urawajuku

------------------------------
和洋会古書展

期間:2025/03/28~2025/03/29
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=562

------------------------------
五反田遊古会

期間:2025/03/28~2025/03/29
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4 
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=567

------------------------------
立川フロム古書市

期間:2025/03/29~2025/04/09
場所:フロム中武 3階バッシュルーム(北階段際) 立川駅北口徒歩5分
URL:https://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm

------------------------------
東武古書の市(昭和レトロ展内)

期間:2025/04/03~2025/04/08
場所:東武宇都宮百貨店 
URL:https://www.tochigikosho.com/?page_id=162

------------------------------
第2回 ひろしまブックフェス

期間:2025/04/04~2025/04/10
場所:ひろしまゲートパーク 大屋根広場
   (旧広島市民球場跡地/〒730-0011 広島県広島市中区基町5-25)
URL:https://www.hiroshimabookfes.com/

------------------------------
下町書友会

期間:2025/04/04~2025/04/05
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=572

------------------------------
オールデイズクラブ古書即売会

期間:2025/04/04~2025/04/06
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12
URL:https://hon-ya.net/

------------------------------
大均一祭

期間:2025/04/05~2025/04/07
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=622

------------------------------
フジサワ古書フェア

期間:2025/04/08~2025/05/07
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場 
   JR・小田急藤沢駅南口フジサワ名店ビル4階
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
書窓展(マド展)

期間:2025/04/11~2025/04/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=571

------------------------------
好書会

期間:2025/04/12~2025/04/13
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=620

------------------------------
横浜めっけもん古書展

期間:2025/04/12~2025/04/13
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国1、003書店参加、データ約695万点掲載
の古書籍データベースです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=48

┌─────────────────────────┐
 次回は2025年3月下旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*゜*.:*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の古書店で ☆*.:*゜*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(約2,000店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

==============================

日本の古本屋メールマガジンその414 2025.3.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

==============================

・メールマガジンの購読停止、アドレスの変更はこちら
 https://www.kosho.or.jp/mypage/

・このメールアドレスは配信専用です。
 返信いただいても対応致しかねます。ご了承下さい。

・メールマガジンの全てまたは一部を無断転載することを禁じます。

・メールマガジンの内容に対するご意見、ご感想は
  melma@kosho.ne.jp までお願い致します。

・メールマガジン内容以外のご質問は info@kosho.or.jp へお願い
 いたします。なお、ご質問の内容によりましては、返信が大幅に
 遅れる場合もございます。ご了承下さい。

============================================================
☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*・
============================================================

本とエハガキ③ 古書即売会のエハガキ

本とエハガキ③ 古書即売会のエハガキ

小林昌樹

エハガキはチラシの代わりでもある

 古本の即売会が好きだ。というか第二の人生を歩み始めた2005年から、ほぼ毎週末南部、西部、そして本部(神保町、というか小川町(まち))の古書会館に通っている。前職、国会図書館で書庫で仕事の立ち読みをたくさんしたけれど、週末古書展のほうが数倍楽しい。だって買って帰れるんだもの。

 その即売会、どうやら戦前からあるらしい。名著にして大著『東京古書組合五十年史』に「古書即売展」(p.548-572)という章があって、日本初は横浜で、明治42年11月20日と
翌日、浜港館で開かれたものだと分かる。横浜には古本屋がほとんどないので、東京の業者を呼んでやる「古書展覧会」だと当時の『横浜貿易新報』にある。
 たまたま【図3-1】のような広告エハガキを拾った。

図3-1 第5回和漢洋古書籍展観即売会
【図3-1】「第五回和漢洋古書籍展観即売会」(1933?)

 はがきの表面を見ると、京都市高倉二条上にあった白洲堂書店が、丸太町に住んでいた衣笠貞之助という人物に出した「京都局市内郵便」であることが分かる。どうやら、俳優、映画監督の衣笠貞之助(1896‐1982)のものらしい。

 それはともかくネットで月日と曜日のかけ合わせから年代候補を考えると、1933年か1937年。おそらく1933年のものだろう。14店舗が合同で、日曜日、月曜日と2日間、昭和図書館という会場で開催している。「毎月十、十一両日開催」とあるので、曜日と関係ない開催だったようだ。

 ヤフオクなどを見ると分かるが、こういった広告エハガキの中には古書展のエハガキもある。絵がないので厳密にはエハガキではないが、たまに典籍の絵・写真があしらわれていたりする。
 以前の連載で、戦前「古書」というと基本的に和古書、つまり、和本や仏書、唐本を指したことを書いたが、では戦前期の古書展はどのようなものだったのだろうか。

最初は本棚のない古書展が普通

 実は『東京古書組合五十年史』に写真があるのだが、せっかくなのでエハガキで高精細な
写真を見てみよう。まず【図3-2】から。「柄鏡に関する図書 於雲泉荘弓場」とキャプションにある。表面には罫線なしで「杉浦雲泉荘」と印字がある。気を付けて見て欲しい。和本が、いちおう毛氈を引いてあるとはいえ、畳敷きに展開されていることがわかる。

 いまNDLデジコレを検索すると、杉浦三郎兵衛編『雲泉荘山誌 巻之1』(杉浦丘園、昭和3)という本が見つかるので、下京区三条通り柳馬場東ルにいた第10代・杉浦三郎兵衛利挙(号・丘園、1875‐1958)という人が発行したエハガキと分かる。
 とすると、これは売らない展覧会、ということになるが、それでもなお、戦前の和本を中心にした古書展の典型例と見て良い。年代は、デジコレで『史学研究』8(3)、昭和12年3月号)にそれっぽい記述があるので1937年と見た。杉浦丘園は古物や古書のコレクターだったが、たびたび展覧会を開いたので斎藤昌三に「模範マニア」とホメられている(『閑板書国巡礼記』p.272)。

図3-2 柄鏡に関する図書
【図3-2】「柄鏡に関する図書 於雲泉荘弓場」(京都、1937?)

 杉浦の展示会は売らないものだったろうが、売る方の展覧会の写真は「五十年史」にある【図3−3】。

図3-3 常盤木倶楽部古書展会場
 【図3−3】「常盤木倶楽部古書展会場(第二回明治45年)」
(1911、『東京古書組合五十年史』p.552より)※これはエハガキではない

 「五十年史」によると常盤木倶楽部という貸席で行われたもの。この貸席は元「柏木」という会席茶屋で「日本橋白木屋の手前、榛原の隣」にあったという。会場写真【図3−3】を見ると、基本的に和本ばかりが畳敷きの会場に面陳されているのが分かる。奥に「伝記類」「教訓□」「修身□」などと垂れ幕がああるのは、これは展示書のジャンルを示しているのかもしれない。エハガキに比べ網版印刷なので、よくわからない。元写真がどこかに残っていないものだろうか。

古書展の近代化――デパート展

 かように明治末に始まった古書展は、会場は畳敷き、本棚はなく、和本がヒラに並べられているものだったのが、大正末あたりから「近代化」したらしい。古書界における近代化とは、本に和装本だけでなく洋装本(洋本)が並ぶようになり、本棚が導入されるということなのだが、象徴的なのは近代消費文明の華、デパートにおける古書展、「デパート展」が始まったことだろう。やはり「五十年史」(p.559)によれば、デパート展の最初は昭和7年11月12日〜20日、白木屋(東京日本橋)で行われたもので、25店舗もが参加した大規模なものだった。肝いりは戦前の大書痴・斎藤昌三である。

 戦前始まった「デパートの展覧会」は結果として大成功で、昭和10年頃にピークとなった。
 手元にあるエハガキ【図3-4】はデパート展を宣伝する一枚。大阪梅田駅の阪急百貨店で
開催されたもの。年代は表面文言が「郵便はがき」と、「が」を使っているので昭和8年以降だろう。デパート展は昭和15年ごろから統制価格の関係で当局が難色を示し始めたというから、昭和一桁ごろか。NDLデジコレで全文検索できる『古本年鑑』でヒットしないので、昭和11年以降の可能性が大きい。

図3-4 創刊号の雑誌類即売会/大阪・梅田阪急百貨店
【図3-4】「創刊号の雑誌類即売会/大阪・梅田阪急百貨店」(1933年以降)

 エハガキによると雑誌創刊号を「二階(西館)古書売場」で「展観即売」するという。昭和21年頃の敗戦直後、デパートに古書部が続々と出来た話は有名だが、戦前から古書部門があるデパートがあったというわけである。創刊号を収集する趣味は戦前から古書業界で認知されていたこともわかる(創刊号目録の書誌がネットにある)。

 ところで【図3-1】の古書展は京都の「昭和図書館」という施設が会場となっていた。図書館と古書は最近でこそ相性が良くなってきているが、昭和後期〜平成期はほぼ無関係のものだったので、とても興味深い。どんな施設かと思っていたら、これもエハガキで拾うことができた。【図3-5】がそれ。和風建築の2階建てで、入口の庇にお宮風な「てりむくり」があって、なかなか面白い。

図3-5 昭和図書館
【図3-5】昭和図書館「本館側面図」(1928)

 実はこの昭和図書館、たしかに図書館ではあるのだが、設置母体が「京都書籍雑誌商組合」という京都の書籍商団体なのである。昭和3年、中京区木屋町御池に設置されたもの。この
正面玄関もエハガキで入手している【図3-6】。

図3-6 昭和図書館 正面玄関図
【図3-6】「昭和図書館 正面玄関図」(1928)

 門柱に看板が掛かっているので読んでみる。右側には「昭和図書館」、左側には「京都書籍雑誌商組合/京都古書組合事務所」とある。そう、この図書館は古書組合の事務所でもあるのだ。それゆえ、古書展も開かれるのである。その会場は二階の大広間であったろう。

図3-7 昭和図書館「会場大広間」
【図3-7】昭和図書館「会場大広間」(1928)

 昭和図書館は古書会館でもあるので、毎日のように開かれていた「市会」(古書籍業者相互の交換会)も、この大広間であったろう。
 現在の古書展は普通に本棚を使うので(下図、東京古書組合ブログより、2008年のもの)、畳敷きの会場がデフォルトというのはちょっと意外かもしれない。

即売展写真

 戦前の東京組合事務所は昭和20年に空襲で焼失。戦後再建された建物は「五十年史」を見ると板敷きであるようだ。その時代の交換会(振り市)再演が三島由紀夫原作、映画『永すぎた春』(大映、1957)にあるというが、未見。

 【図3-8】は昭和図書館の閲覧室風景だが、戦前の図書館らしく、本が見当たらない。今でも国会図書館へ行けば体験できるように、戦前の図書館は本はみな閉架書庫にしまわれており、閲覧者は職員(出納手)に頼んで出してもらい、館内閲覧をするというのはデフォルトだった。この写真には映り込んでいないが、別に出納所や書庫があるはずである。写真がやけにスカスカに見えるのは、奥に講壇があることから分かるように、適宜、講演会などに使うためだったのだろう。この図書館は戦時中、防空緑地を作るため強制撤去されたようだ。しばらく前、『昭和図書館月報』なる綴りを買ったので手があいたら調べてみたい。

図3-8 昭和図書館「図書閲覧室」
【図3-8】昭和図書館「図書閲覧室」

 今回は古書展示会や古書会館のエハガキを紹介しつつ、柴野京子著の書名にいう「書棚と
平台」問題を古書即売会がらみに当てはめて瞥見してみた次第……。ん? いや台すらもなかったか。

 
 

Copyright (c) 2025 東京都古書籍商業協同組合

破棄する前に3 全集書簡篇で読む作家の年賀状

破棄する前に3 全集書簡篇で読む作家の年賀状

三昧堂(古本愛好家)

 岩波書店の「図書」を定期購読し始めたのは、昭和40年代半ばの高校生時代だった。読んで理解できる記事は殆どなかったが、巻末の広告ページに掲載される文学者個人全集の「予約出版」広告を毎号恨めしく眺めていた。予約期限が近付いてくると買えもしないのに焦ったりしたものだ。

 学校の図書室でジャワハルラール・ネールの『インドの発見』という古びた二冊本を見つけた。自分でも欲しいと思い岩波書店に在庫問い合わせのハガキを出すと、当社刊行書は絶版にせずすべて在庫していますのでお近くの書店へご注文くださいと言った文面のハンコを捺した返信があった。その頃、NHK番組で「婦人手帳」というのがあって、様々な文化人へインタビューしていた。一人一週間続き、田舎の高校生を文化の香りに包んだ。昼間の番組だから
夏休みにでも見たのだろう。よく覚えているのがドイツの児童文学者ケストナーの翻訳者高橋健二、映画監督新藤兼人、それに岩波書店の小林勇だ。軽井沢あたりの別荘でのインタビューだった。これが岩波書店への興味をさらに掻き立て、何でもいいから連絡してみたくなったのである。何を期待したのか簡単な返信に少し落胆を覚えたものだ。
 
 ともかくも、高校生の身では予約出版の全集は高嶺の花で、大学生時代には予約版全集は
完結した途端に古書価が暴騰した。神保町の古書店では予約全集もバラで、しかも一割引きで買えたが、それでも数千円はしていてなかなか買えない。早く社会人になって高価な全集も
買えるようになりたいと思ったものだ。高校時代に有島武郎のファンになった。筑摩書房の
全集が出る前は、立派な叢文閣版と、円本の新潮社版の戦前版全集しかなかった。新潮社版は製本が粗悪で大半はボロボロ、叢文閣版を一冊一冊古本で求めたが、全部集め終わる前に筑摩書房から刊行が始まった。予約して購入した初めての全集で今も我が書架にある。

 個人文学全集の魅力は日記篇や書簡篇にある。私は年譜が好きなので、年譜を収めた別巻も気が付けば古本で購入してきた。亡くなってしまったが克書房さんは全集を専門とする古本屋さんで、東京古書会館の即売会では全集端本を数百円で販売してくれた。そうした中から日記や書簡、年譜の収められた巻を随分求めた。克さんは晩年、「全集類が安くなって、それでも売れなくていやになるよ」とよくこぼしていた。私と同じような昭和40年代、50年代に青年期を過ごした者は全集への憧憬が強く、克書房さんはありがたい古本屋さんであった。全集を扱う古本屋はまだいるが、克さんのように専門で扱う店はないだろう。商売にならないほど
安くなってしまったからだ。

 先日、知り合いの古本屋が抜けた巻が三冊あるからと旧版と定本版混合の『中野重治全集』をくれた。第二十四、二十五巻と別巻が抜けていて、月報もほとんどない。確かにこれでは
商品にならない。「日本の古本屋」で検索しても別巻だけでは売られていない。いわゆる
キキメなのかもしれない。将来処分する時に困ることになるが、非常に状態の良い本なので
頂くことにした。だが、問題は置き場所である。書棚を見回して、吉川弘文館の『日本随筆
大成』を物置に移すことにした。この叢書も現在人気がなく投げ売りされている全集だ。この叢書の欠点は索引がないことである。シリーズを通した完璧な人名、書名、事項索引を作れば利用価値は格段に上がる。もっとも現在は電子化されて全文検索も出来るようだが、利用できる者は限られている。それに全体を俯瞰するには印刷された索引が必要である。索引は案外に読むと面白いものなのである。

 その当面不要な『日本随筆大成』を書棚から運び出し、偶々一冊手に取ったのは第三期第四巻。中に森山孝盛の「賤のをだ巻」があり読みだしたら面白い。どんな人物かと解説を見ると第二期二十二巻の「蜑の焼藻の記録」の解説を参照とあった。それを見ると、森山は幕臣で
冷泉家門下の歌人であるが、あの鬼平・長谷川平蔵組に属する火付盗賊改役だったという。
何とも興味を惹かれる人物である。処分しようとすると、よく起きる実例の一つである。
しかし、これは次回に語ろう。

 さて、今回は困り物の全集端本だが、その書簡篇の魅力に注目したい。何方も感じていると思うが、今年は例年にも増して年賀状仕舞を伝える挨拶が多かった。葉書が値上がりしたことも理由だが、義理で惰性的に出すことを嫌う風潮が受け入れられてきたのだろう。メールや
ラインの普及で知り合いとの連絡は頻繁にもなっている。ありきたりな年賀状ならいらないという感じだろうか。

 近代日本の作家たちはどんな年賀状を出していたか、手元にある全集の書簡篇から拾ってみよう。基本的に最初期のものを上げることにする。

〇漱石・斎藤阿具宛 明治28年 
新年の御慶目出度申納候今度は篠原嬢とご結婚のよし謹んで御祝ひ申上候小子昨冬より鎌倉の楞伽窟に参禅の為帰源院と申す處に止宿し旬日の間折脚鐺裏の粥にて飯袋を養ひ漸く一昨日
下山の上帰京仕候五百生の野狐禅遂に本来の面目を撥出し来らず御憫笑可被下候先は右御祝ひまで餘は拝眉の上萬々。
一月九日 夏目金之助拝 斎藤學兄

〇啄木・小林茂雄宛 明治37年 
 天姫がうちふる領の白彩に光は湧きて新世成りぬ
 地に理想天に大日の眩ゆき希望の春をむかへぬ
明治三十七年一月一日 渋民村 石川啄木 小林茂雄様

〇荷風・井上精一宛 明治42年 
二日三日両日とも君とあや子をまつてゐた二日の晩寒月を踏んで一人濱町へ行つた新富座で
ブイキな鼠小僧を見た「ふらんす物語」はすつかり出来上つた今年から原稿料全額を貯蓄し
五年間に千円ためて伊太利へ行てヱスビアスの火山へはいつて死にたい。兎に角今年からはつゞくだけ書く。書いて金をためる日本にゐるのはいやだ。

〇芥川・葛巻義定宛 明治42年 
粛啓 新年の御慶目出度申し納め候 先達は結構なる御歳暮を頂戴致し難有く存じ候。小弟の貧しき書庫が新しき光を放つべきも近き事と思ひ候へば此上なく嬉しく覚え候 予て御存知の旅行は愈々本夕六時半の列車にて出発の事と相成候 ロングフェローが歌の巻を懐にせる痩軀の一青年が青丹よし奈良の都に其かみの栄華を忍び、薬師寺の塔を仰いで、大なる「タイム」の力を思ひ 去つて東山のほとりに銀閣を望んで 室町将軍の豪奢を懐ひ、嵯峨野のあたりに蕭条たる黄矛を踏んで祇王祇女のむかしを床しむは近く来む七日間に御座候 小生は唯今 
学校の奉賀式に列する所に候 早々頓首 芥川龍之介 兄上 硯北

〇朔太郎・萩原栄次宛 明治44年 
昨年中の御無沙汰平にご海容被下度願上候 まへばしニテ 朔太郎
賀正 赤城山かのこまだらに雪ふれば 故郷びとも門松を立つ

〇朔太郎・白秋宛 大正4年 
新正 うららかに俥俥とゆきかへるけふしも年の初節なるらむ 
大正四年一月一日 萩原朔太郎

〇野上弥生子・小手川実宛 大正8年 
あけましてお目で度う。赤さんのお誕生もおめで度う。お日立もおよろしいのですか。二度目のことで今度は万事に経験があつて先ほど困ることもないとおもひます。長い手紙を一度かき度い〵〳とおもひながら何となしに心にゆとりがなくて今日まで延引、あしからず。皆様へ
よろしく。その内に何か赤さんへあげませう。兄さんからもよろしく申します。明子へまりを送つておきましたよ、

〇梶井基次郎・宇賀康宛 大正12年 
盲腸炎でねてゐることを矢野からきいた。困つたことだね。早く癒つて呉れ。Bone(-―)D(d) ryだつたから小喀血はやつてゐる。こちらは小康だ。今日は元旦だ、お芽出度を云つておく。どうか皆様によろしく御慶を申し上げておいて呉れ。元旦 梶井基次郎

〇柳宗悦・志賀直哉連名・圖師尚武宛 
其后どうです、待つてたけど、こないから、もう断念してる。勉強はお正月に逢つちや
―a+bなんか駄目だと思、其かはり、Cornetの練習は、成巧してると想像してる、今、
志賀、田村、木下の三兄と一緒、病院通ひはまだ續けてるんですか、學校の事は大丈夫にや、そろ〵〳近いので気がもめる 宗
謹賀新年 當地今日は、朝四十二度。(志)

〇堀辰雄・神西清宛 昭和5年 
お正月の旅行が駄目になりて残念なり 「文學」第五號に小説を書いてほしい 〆切十日嚴守(三月の豫定を急に繰上げたのだ)七草すぎまで僕は一歩も出られぬ

〇太宰治・尾崎一雄宛 昭和13年 
拝啓 昨年は、いろいろ御むりをお願ひいたし、さぞ、ごめいわく でございましたでせう どうやら 切り抜けました故 他事ながら御安心下さい、原稿なかなか むづかしく、どうやら三枚、本日別封にてお送りいたしました、あんなのでよかつたら、どうか御使用下さいまし、年賀状いただき、私喪中ゆゑ欠礼いたしました、あしからず御了承下さい、末筆ながら
山崎様にもよろしく 不一

 こういう物は、全集の書簡篇でしか読めない。以上のような年賀状なら誰でも貰えば嬉しいだろうし、「年賀状仕舞」が流行ることもないだろう。
 
 
ozakikazuo
◯尾崎一雄・十和田操宛 昭和26年(筆者家蔵)
 
 
※シリーズ古書の世界「破棄する前に」は随時掲載いたします。
 
 

Copyright (c) 2025 東京都古書籍商業協同組合

2025年2月25日 第413号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
    。.☆.:* その413 2月25日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国1、001古書店参加、データ約683万点掲載
の古書籍データベースです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.ラピュタ阿佐ヶ谷で上映(3月9日~4月26日)
 「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」
                            村山 恒夫

2.語りえぬものとしての「会社」(『会社と社会の読書会』)
                     若林恵(黒鳥社・編集者)

3.傑作、伊藤明彦著『未来からの遺言─ある被爆者体験の伝記』を復刊
                     西 浩孝(編集室 水平線)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━

ラピュタ阿佐ヶ谷で上映(3月9日~4月26日)
「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」
                           村山 恒夫

3月9日(日)午後から、東京・阿佐ヶ谷駅近くにある名画座「ラピュタ
阿佐ヶ谷」で、ほぼ2ヶ月間の長期に渡る映画上映が始まる。映画監督・
村山新治(むらやま・しんじ1922〜2021)の名前をご存知だろうか?

今回の特集のタイトルは、「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」。
B2判のポスターとB5判仕上がり・巻き3折り(6P)のパンフレットが
届いた。そのラピュタのパンフレットのキャッチにはこうある。

「警視庁物語」シリーズで東映現代劇に新生面を拓き、大映の増村保造、
日活の中平康らとともにニューウェーブの監督として注目された村山新治。
その後、犯罪アクション、純愛メロドラマ、名作リメイク、風俗もの、
任俠映画まで……あらゆるジャンルを手がけた〈職人監督〉に、今また
光をあてる7週間。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=19765
 
 
書名:『村山新治、上野発五時三五分―――私が関わった映画、その時代』
著者:村山 新治
編集:村山 正実
発行元:新宿書房
判型/ページ数:四六判/416頁/上製
価格:4,070円(税込) 
ISBN:978-4-88008-474-9
 
好評発売中!
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/474_Murayama.html
 
 

━━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━

語りえぬものとしての「会社」(『会社と社会の読書会』)

                      若林恵(黒鳥社・編集者)

自分が編集をしておいて言うのもなんだが、この度刊行された『会社と
社会の読書会』という本は、だいぶ変な本だと思う。

 7回ほど実施した「会社の社会史」というトークイベントのシリーズを
書籍化したものだが、ろくに会社勤めをしたことのない私(5年強の出版社
勤務以後、ほとんどフリーランス)と民俗学者の畑中章宏さんが対話の中心に
いるため、実体的な会社体験に基づかず、ある意味観念的な「会社」について
しか語られていない。トークに参加した残りの半分は、コクヨという広く
知られた大企業のメンバーで、このふたりが何とか実社会における会社体験を
担保してくれているが、その体験をもって「日本の会社体験」を遺漏なく
語れているのかと言えば、もちろんそんなわけもない。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=19759
 
 
書名:『会社と社会の読書会』
著者:畑中章宏、若林恵、山下正太郎、工藤沙希
編集:コクヨ野外学習センター・WORKSIGHT
発行元:黒鳥社
判型/ページ数:A5判/224頁
価格:1,980円(税込) 

好評発売中!
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910801018

 
━━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━

傑作、伊藤明彦著『未来からの遺言─ある被爆者体験の伝記』を復刊

                    西 浩孝(編集室 水平線)

 伊藤明彦(1936-2009)は元長崎放送記者。1960年入社、68年に
「被爆者の声」の記録・保存・放送を目的とするラジオ番組『被爆を
語る』を企画。初代担当者。

 「最後の被爆者が地上を去る日がいつかは来る。その日のために被爆者の
体験を本人自身の肉声で録音に収録して、後代へ伝承する必要があるのでは
ないか。被爆地放送関係者の歴史に対して負うた責務ではないか」という
使命感から会社に提案したものだった。

 しかし、自分で取り組めたのはわずか半年。労働組合活動が原因で担当を
外され、佐世保支局へ飛ばされた。これに納得のいかなかった伊藤は70年に
退社。単独での聞きとり録音作業を開始した。
 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=19769
 
 
書名:『未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記』
著者:伊藤明彦
発行元:編集室 水平線
判型/ページ数:四六判並製カバー装/356頁/上製
価格:2,420円(税込) 
 
好評発売中!
https://suiheisen2017.jp/product/3763/
 
 

━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━━━

書名:出版流通が歩んだ道--近代出版流通誕生150年の軌跡
著者:能勢仁、八木壮一、樽見博
発行元:出版メディアパル
判型/ページ数:A5判/208頁
価格:2,640円(税込) 
ISBN:978-4-902251-45-6

好評発売中!
https://www.murapal.com/sangyodoko/227-2025-02-06-07-19-53.html

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
書名:蔦屋重三郎
著者:鈴木俊幸
発行元:平凡社
判型/ページ数:新書/208頁
価格:1,100円(税込)
ISBN:9784582860672
Cコード:0223 

好評発売中!
https://www.heibonsha.co.jp/book/b651740.html

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
書名:砂の器 映画の魔性
著者:樋口尚文
発行元:筑摩書房
判型/ページ数:/四六判/384頁
価格:2,750円(税込)
ISBN:978-4-480-87417-7
Cコード:0074

2025年3月6日発売予定!
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480874177/

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━━

2025年2月~2025年3月の即売展情報

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
【バックナンバーコーナー】
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=49

┌─────────────────────────┐
次回は2025年2月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(約2,000店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

================================

日本の古本屋メールマガジン その413・2月25日

【発行】
東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
広報部・編集長:藤原栄志郎

================================

・メールマガジンの購読停止、アドレスの変更はマイページから
お願い致します。
https://www.kosho.or.jp/mypage/

・このメールアドレスは配信専用です。
返信いただいても対応致しかねます。ご了承下さい。

・メールマガジンの全てまたは一部を無断転載することを禁じます。

・メールマガジンの内容に対するご意見、ご感想は
melma@kosho.ne.jp までお願い致します。

・メールマガジン内容以外のご質問は info@kosho.or.jp へお願い
いたします。なお、ご質問の内容によりましては、返信が大幅に
遅れる場合もございます。ご了承下さい。

============================================================
☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*・
============================================================

0225_cover_murayama

ラピュタ阿佐ヶ谷で上映(3月9日~4月26日)
「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」

ラピュタ阿佐ヶ谷で上映(3月9日~4月26日)
「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」

村山 恒夫

3月9日(日)午後から、東京・阿佐ヶ谷駅近くにある名画座「ラピュタ阿佐ヶ谷」で、ほぼ2ヶ月間の長期に渡る映画上映が始まる。映画監督・村山新治(むらやま・しんじ1922〜2021)の名前をご存知だろうか?今回の特集のタイトルは、「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」。B2判のポスターとB5判仕上がり・巻き3折り(6P)のパンフレットが届いた。そのラピュタのパンフレットのキャッチにはこうある。

「警視庁物語」シリーズで東映現代劇に新生面を拓き、大映の増村保造、日活の中平康らとともにニューウェーブの監督として注目された村山新治。その後、犯罪アクション、純愛メロドラマ、名作リメイク、風俗もの、任俠映画まで……あらゆるジャンルを手がけた〈職人監督〉に、今また光をあてる7週間。

「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」は、3月9日から4月26日までの連日、1日4本、
合計31本の村山新治作品が上映される、まさに「プログラム・ピクチャー」の職人、村山新治の大回顧上映会だ。

◯映画4兄弟の誕生

村山新治は私の叔父にあたる。父・村山英治(1912〜2001)の弟だ。長野市で小学校の教員をしていた父は、1933年(昭和8)2月4日に治安維持法違反の疑いで多数の教員ともに逮捕される。わずか21歳のときだ。これは世にいう「長野県教員赤化事件」であり、いまは「二・四事件(にし・じけん)」と呼ばれる。

村山英治は、一年間の拘留後、執行猶予付きの有罪判決を受けて釈放される。しかし村八分のような空気の故郷にいたたまれず、東京に出る。1937年、大村英之助が経営する芸術映画社(GES)の企画室に入り、初めて映画の世界に足を踏み入れた。それから東京にいる次兄の
英治を頼って、弟たちはつぎつぎと上京する。

四男の村山新治は兄にいたGESから東映へ。五男の村山祐治は次兄・村山英治が興した桜映画社から新生映画を創業、長男の治久が次ぐ。末弟の六男の村山和雄は兄の英治のツテで映画キャメラマンとして、東宝に入社。東宝争議後は東映へと歩き、最後は兄の英治の桜映画社に。ここに「映画・村山四兄弟」が誕生する。

映画の血脈はさらに続く。桜映画社では、私の長兄・村山正実は映画監督に、次兄の村山英世は桜映画社の社長から記録映画保存センターの代表、そして現在の桜映画社の社長は英世の
長男(村山英治の孫)の憲太郎が引き継いている。ではこの私、英治の三男、村山恒夫はどこにいったのか?大学を出た頃にはすでに、私が映画の世界に入る余地(座席)はなく、仕方なく出版の世界に向かう。平凡社の百科事典編集部をへて、父・村山英治が1970年に桜映画社の片隅に創業し、1980年当時は休眠状態であった「新宿書房」を、ひとり引き継ぐことになった。2023年末、新宿書房は閉業・解散したが、それまでの仕事を『新宿書房往来記』(港の人、2021年)としてまとめることができた。

◯邦画旧作のフィルム上映にこだわる名画座

今回の特集「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」。何本かの映画はすでに多くの観客の間では知られているが、監督村山新治個人については、映画雑誌や文化雑誌の特集になったこともないし、いわんや村山新治研究書などというのもない。その意味では、今回の特集上映
「村山新治を再発見する」はめったにない大企画であり、たぶん今後二度と出ない企画だろう(おじさん、ゴメン)。

村山新治は劇場公開映画を45本(うち東映作品は44本)、教育映画を15本、合計60本の映画を監督している。今回のラピュタでの特集では、このうち劇場映画から27本、教育映画から
4本、合計31本の村山新治作品が、3月9日午後から4月26日までのなんと7週間、連日午後から夜までの4本のスケジュールで上映されるのだ。

この「村山新治を再発見」の上映は支配人の石井紫(いしい・ゆかり)さんのすさまじい熱意から生まれている。いやラピュタ阿佐ヶ谷の特集上映はすべて彼女ひとりで編成しているのだ。1950〜60年代の日本映画(邦画)の旧作、ことのほか東映現代劇映画の旧作の上映に
力を入れてきた石井さんは、この間ずっと村山新治作品を取り上げてきてくれた。以前、石井さんに、いままでのラピュタ阿佐ヶ谷での村山新治作品の上映記録をたずねたことがあった。石井さんからすぐさま返事が返ってきた。

それによると、2006年11月の『孤独の賭け』(主演:佐久間良子、1965)に始まり、2021年1月の『七つの弾丸』(主演:三國連太郎、1959)まで32回。さらに2021年12月の『警視庁者物語 一〇八号車』(主演:松本克平、1959)から2024年4月の『男度胸で勝負する』(主演:梅宮辰夫、1966)までの12回、じつに合計44回の上映があったという。石井さんがすごいのは、前期32回のうち6本、後期12回のうち3本の合計9本は、なんとニュープリントのフィルムで上映していることだ。「日本映画(邦画)旧作のフィルム上映」を掲げる
ラピュタ阿佐ヶ谷は、劣化したフィルムや上映できるフィルムがない映画は、ネガから
ニュープリントに焼く。その金額は、90分の映画1本で40万〜60万円もかかるという。
しかも、上映が終わったら、このニュープリントは所蔵元の配給会社に返さないといけない。

◯映画を東京で見る

今回上映される村山新治作品31本のうち、「警視庁物語」シリーズ24作のうち7本を監督している村山新治作品から『警視庁物語 顔のない女』(1959)が、そして『七つの弾丸』(1960)、『白い粉の恐怖』(1960)、『消えた密航船』(1960)、『故郷は緑なりき』(1961)など、わたしの大好きな作品にふたたび会えるのがほんとうに嬉しい。
村山新治ファンの映画評論家のなかに、川本三郎さんがいる。映画の「ロケ地探索」を趣味とする川本さんは、『警視庁物語 顔のない女』について、著書『映画の戦後』(七つ森書館、2015)の中で、「作品そのものとしても素晴らしいし、なによりも〈映画を東京で見る〉
人間として、こんな面白い映画はない。」と絶賛している。

◯村山新治が自ら語った映画人生「わが映画の谷は緑なりき」

今回の特集上映「東映現代劇の名手 村山新治を再発見」にあたって、新宿書房が2018年5月に刊行した『村山新治、上野発五時三五分―私が関わった映画、その時代』(著者:村山新治、編者:村山正実、写真:大木茂、デザイン:桜井雄一郎)のことをぜひ紹介したい。書名は村山新治監督デビュー作のタイトル『警視庁物語 上野発五時三五分』にちなんでいる。本書は今回の特集上映の、そして村山新治研究のガイドブックです。ラピュタの1階ロビーで販売しています。どうか手に取って、見てください。

村山新治が、劇場映画の監督から1967年頃からテレビドラマの演出に仕事の舞台を移し、70歳を迎え仕事もなくなってきた1991年から回想記を書き始め、1998年に監督デビューまでを「私の関わった映画、その時代」として書き上げる。この原稿を読んだ村山組の助監督をつとめた深作欣二(『七つの弾丸』などでチーフ)、澤井信一郎(『東京アンタッチャブル』でサード)が、雑誌『映画芸術』の荒井晴彦編集長を司会にして、著者村山新治に質問する形で座談会を行う。これを2000年から2001年にかけて『映画芸術』に4回連載し、単行本を企画した。しかし、どこの出版社からも声がかからず、10年の時が過ぎる。この間、2003年には深作欣二が亡くなっている。

2011年になり甥の映画監督の村山正実の発案で出版化が始まる。監督デビューからテレビまでをカバーする、毎月1回の10時間を超える著者インタビュー「自作を語る」が行われ、編集がはじまった。
しかし、あがってきた原稿を見て、今度は著者本人が「ホンの内容」が気に入らないと出版作業をストップ、ここで文字通り「お蔵入り」となる。5年後、村山新治を説き伏せ、なんとか編集が再開。2018年5月20日にようやく刊行することができた。本が誕生するまで実に20年の時間がたったのである。この時、村山新治は80歳。本書の前見返しの絵は、村山新治夫人の容子さん(新制作会員)の作品だ。

「編者の二十年に及ぶ執念の企画は詳細なフィルモグラフィーや周辺資料も充実し、単に戦後の映画資料を超え、ともすれば個人の記憶に埋没してしまう戦後日本人の精神の軌跡を鮮やかに描きだした。」(小野民樹評『東京新聞』2018年7月15日)
そして、本書は2018年キネマ旬報映画本大賞第2位を獲得する!

◯小林寛、かんちゃんのこと

最後に小さなsequel(続編)。村山新治の映画にたびたび出演した俳優、小林寛(こばやし・ひろし)のこと。村山新治は1957年8月、東映で監督デビューするまでの14年間で、実に49本の作品の助監督をつとめている。その中には、今井正の『ひめゆりの塔』(1953)や佐伯清の『大地の侍』(1956)などがあるが、その『大地の侍』に小林寛は出ている。今井正監督、橋本忍脚本の『真昼の暗黒』(1956)に出演し、力演した小林寛は大いに注目されていた。

当時、新協劇団の座員だった小林寛は、東映の村山作品には、村山のデビュー作『警視庁物語 上野発五時三五分』をふくめ、5本の映画に出演していて、今回ラピュタ上映の映画、『警視庁物語 顔のない女』『警視庁物語 12人の刑事』の2本に小林寛が出ている。
実はこの小林寛こと、「かんちゃん」は、私の義叔父(ぎしゅくふ)である。1980年頃に
義叔父となった小林寛は、すでに役者の仕事はまわってこなくなり、ずいぶん前から杉並の
高円寺近くで山小屋風の居酒屋「イワン」を営んでいた。ここのボルシチがうまかった。

あの若き日の「かんちゃん」にラピュタでまた会えるのがとても楽しみだ。

最後にふたたび川本三郎さんの言葉を借りよう。「10代の時、『故郷は緑なりき』に感動し、村山新治の名前を知った。そして「警視庁物語」シリーズ、鉄道映画『旅路』。東映の現代劇は村山新治なしには語れない。
(『村山新治、上野発五時三五分―私が関わった映画、その時代』の帯文から)

参考サイト:
ラピュタ阿佐ヶ谷:https://www.laputa-jp.com/laputa/main/
港の人:https://www.minatonohito.jp
 
 
20250220_rapyuta
〇ラピュタ阿佐ヶ谷で上映
 (3月9日~4月26日)
 
0225_cover_murayama
 
村山新治、上野発五時三五分―――私が関わった映画、その時代
著者:村山 新治
編集:村山 正実
発行:新宿書房
判型/四六判/416頁/上製
価格:4,070円(税込)
ISBN:978-4-88008-474-9
 
好評発売中!
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/474_Murayama.html
 
 
前著についてはこちらから
 『周縁(マージナル)、路上(オン・ザ・ロード)から生まれた本たち』
 2022年2月25日 第341号【自著を語る(287)】より

Copyright (c) 2025東京都古書籍商業協同組合

会社と社会の読書会_書影

語りえぬものとしての「会社」(『会社と社会の読書会』)

語りえぬものとしての「会社」(『会社と社会の読書会』)

若林恵(黒鳥社・編集者)

自分が編集をしておいて言うのもなんだが、この度刊行された『会社と社会の読書会』という本は、だいぶ変な本だと思う。

 7回ほど実施した「会社の社会史」というトークイベントのシリーズを書籍化したものだが、ろくに会社勤めをしたことのない私(5年強の出版社勤務以後、ほとんどフリーランス)と民俗学者の畑中章宏さんが対話の中心にいるため、実体的な会社体験に基づかず、ある意味観念的な「会社」についてしか語られていない。トークに参加した残りの半分は、コクヨという広く知られた大企業のメンバーで、このふたりが何とか実社会における会社体験を担保してくれているが、その体験をもって「日本の会社体験」を遺漏なく語れているのかと言えば、
もちろんそんなわけもない。

 しかしながら、ふと足を止めて立ち止まると、そもそもの話、「日本の会社体験」などと
いうものを日本の会社員を代表して語ることができる人なんて一体どこにいるのだろうという
疑問も湧いてくる。もちろん、アカデミアの世界には、おそらく経済、社会、歴史、法、文化といった様々な切り口とスコープから「日本の会社体験」を研究している方々がたくさんいて、そうした方々による膨大な書籍群もあるので、自分たちのような門外漢がしゃしゃり出ることもないのは、確かにその通りだ。けれどもだからと言って、例え会社勤めをしていなかったとしても、これだけ自分たちの暮らしや人生に深く関与している「会社」というものについて、学者さん以外の方は「門外漢」でしかないと言ってしまうのも、何だか腑に落ちない。
むしろ会社勤めしている人はすべからく「会社の専門家」とみなしたっていいじゃないか、と思ったりもする。

 ここには学者、専門家、あるいは知識そのものの根幹に関わってくる、大きな矛盾というか困難が隠されている。「猫」の専門家は全員猫ではないだろうし、「子ども」の専門家は世界のどこに行ってもまず間違いなく大人だろう。というのは、いかにも幼稚なツッコミだが、
とはいえ、「子どもでない人が子どもの専門家である」ということが成立するために、予め
いくつかのことが合意されてなくてはならないはずだ。あらゆる物事は客観的に対象化することができる、とか、そうやって対象を客体化しうる中立的な視座がある、とか、そうすることで得られた知識というものは誰が扱っても客観的なものである、といった前提がなくては、
専門家というものは存在しえないはずだ。

 英国の詩人、作家、美術評論家のジョン・バージャーは、移民問題を扱った名著『第七の男』(弊社刊)で、移民という体験の「不自由」を語るには、客観的な記述だけでも、主観的な記述だけでもダメなのだと語っている。主観と客観は互いを入れ子のように含み込んでいるので、切り離すことができないのだとバージャーは言う。結果『第七の男』は多種多様な
モードの文章の断片が入り混じる奇妙にしてユニークな本となっている。

「会社という体験」は、バージャーが語った「移民の体験」に似たところがあるような気が
しなくもない。本書冒頭で語られるように「会社」という概念は、明治期の日本人にとって、まずもって理解不能な異様なコンセプトで、その意味で客観的に定位することが困難なものだった。それを自分なりに理解して主体化していく経緯そのものが日本の会社史だと言ってもいいほどで、本をつくり終えての結論は、「いまだ日本人は会社が何なのか、よくわからないままなんだな」ということだった。

 私たちが会社というものをどのように捉えて、それに対してどのように振る舞うかは、そのまま経営や社会的な制度へと反映され、それに合わせて私たちの会社をめぐる捉え方も、日々刻々と変化し続けている。会社は、絶えざる無限フィードバックループのなかで生き続ける、かたちのない生き物のようだ。そして、それは「家」というもののあり方、「国」というもののあり方に干渉しながら、それぞれの形をも少しずつ変えていく。

 社会の全方位にわたって影響を与え続ける、そんな鵺のような存在は、それが死にでもしない限り、客体化することができない。であればこそ、だらだらと話し、芋づる式に本を読み、また話す、という融通無碍な向き合い方は、あっているのかもしれない。客観的な知識を専門家が上位下達するようなやり方で本としてパッケージするのではなく、タコが餌に誘われて、瓶や籠のなかにぬるぬると入り込んでいくようなイメージで、この本はつくられた。

といって、本のなかに、会社の全体が入り込んだとは到底いえない。むしろ足先くらいは
捕えられたかも知れない、くらいの感触だ。なので、本書で紹介した240冊以上の本は、
鵺ともタコとも知れない異様な生き物の図体はまだまだこんなにデカいぞ、ということを
指し示すための、ある種のこけおどしと思ってもらって差し支えない。
「語りえぬものについては沈黙せねばならない」とは良く言ったものだが、語りえぬもので
あればこそ、語りたくなるというのもまた、会社というものの厄介なところだ。

 
 
会社と社会の読書会_書影
 
書名:『会社と社会の読書会』
著者:畑中章宏、若林恵、山下正太郎、工藤沙希
編集:コクヨ野外学習センター・WORKSIGHT
発行元:黒鳥社
判型/ページ数:A5判/224頁
価格:1,980円(税込) 
 
好評発売中!
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910801018

Copyright (c) 2025東京都古書籍商業協同組合

ito hideaki-1(オビアリ)

傑作、伊藤明彦著
『未来からの遺言─ある被爆者体験の伝記』を復刊

傑作、伊藤明彦著『未来からの遺言─ある被爆者体験の伝記』を復刊

西 浩孝(編集室 水平線・長崎市)

  昨年12月、真の傑作といえる伊藤明彦著『未来からの遺言─ある被爆者体験の伝記』(
青木書店、1980年/岩波現代文庫、2012年)を復刊した。

 伊藤明彦(1936-2009)は元長崎放送記者。1960年入社、68年に「被爆者の声」の記録・保存・放送を目的とするラジオ番組『被爆を語る』を企画。初代担当者。
 「最後の被爆者が地上を去る日がいつかは来る。その日のために被爆者の体験を本人自身の肉声で録音に収録して、後代へ伝承する必要があるのではないか。被爆地放送関係者の歴史に対して負うた責務ではないか」という使命感から会社に提案したものだった。
 しかし、自分で取り組めたのはわずか半年。労働組合活動が原因で担当を外され、佐世保支局へ飛ばされた。これに納得のいかなかった伊藤は70年に退社。単独での聞きとり録音作業を開始した。

 夜警や皿洗いなど早朝・深夜のパート労働に従事しながら、退職金で買った重さ13キロの
録音機をさげ、東京、広島、東京、福岡、長崎と転居をくりかえし、そこを足場に東北、
北陸、神奈川、備後、呉、筑豊・筑後地方、長崎県北、五島列島、沖縄本島、伊江島、宮古島などの被爆者を訪ね歩いた。
 すべて自費である。この間、夜具はなく、寝袋で寝て、座布団を二つに折って枕がわりに
するような生活を送った。自分より貧乏な被爆者に会ったことがなかった。
 79年までの8年間で全国21都府県の被爆者およそ2000人を訪問。これは平均すると3日に
2人というペースで、凄まじいと言うしかない。

 だが、半数には断られた。広島での例。
 「うちが被爆者じゃいうこたあ、どこから聞いて来んさったんですか。もう来んでください。娘の縁談の最中じゃあ言うのに。この話が壊れてしもうたら、あんたが責任をとってくれんさるんですか」
 「人いうんは、不幸じゃった過去を忘れて生きるいう権利があると思うとるんよ。ほいじゃがあんたは、その権利いうんを踏みにじるみたいなことをしとりんさるんよ」
 「責任団体がはっきりしとらんのう。あんた、なんのこたあなあ、トロツキストなんじゃあなあのかいや」
 「うるさい! いまものすごく忙しいんじゃ。わりゃあ、ぐちゃぐちゃぬかさずいにゃあええんじゃ。はよういねえ! いないんかい! しごうしたったろうかいや!」

 何日も何日も、録音をお願いにいった被爆者からきびしい拒絶にあうことが続くときは、
つぎの被爆者を訪ねていく勇気がなかなかわかず、昼間からふとんをかぶって、当の被爆者からさえ支持されないことに心身をけずっている自らの愚かさを哀れんだ。ときには鬱症状に
おちいった。しかし、それでも伊藤は作業をやめることなく、最終的に約1000人の声を収録した。

 さて、このあと伊藤が真っ先に取りかかったのが、今回復刊した『未来からの遺言』の執筆であった。録音した被爆者1000人のうちで、もっとも印象に残った人物、そのたった一人について書いたノンフィクションである。
 序文から興味をそそる。引用する。
 「この物語の主人公と、周辺の人々の本名をあかすことはできません。その理由は、この
文章を最後まで読んでくだされば、お判りいただけると思います。いまから九年前収録され、ある場所に眠っている三巻の録音テープ。このテープのなりたちをめぐる事実を、自分の記憶が正確なうちに書きとめておくために。そしてもしできることなら、この文章を読んでくださるあなたにも、この録音テープをめぐるふしぎを、私といっしょに考えていただくために」

 長崎で被爆した吉野啓二さん(仮名)は、原子爆弾と人間との関係を一身に具備したような存在だった。一家全滅。寝たきり生活。白血病による姉の死。医療認定。独り暮らし。生活保護。被爆者組織と原水禁運動への参加。「生きがいは社会を変革することだ」。
 なまなましい感情のこもった、情景(シーン)に満ちた話に、伊藤は深い感銘を受ける。
しかしその一方で、つぎのような感想もいだいた。
 「この話はほんとうだろうか」
 「あまりにもできすぎているのではないだろうか」
 傍証がほしい。伊藤は吉野さんの身の上について調べはじめる──。

 ここから先の展開を書くことはできない。読んでもらうしかない。しかし最初に記したように、「傑作」であることを保証する。
 被爆者とは誰なのか。被爆体験とは何なのか。原子爆弾と人間との関係の本質とはどのようなものなのか。
 このような大きな主題を、極上のミステリー小説のように読ませ、描ききる。その驚くべき深さ、豊かさ、おもしろさに、私のこころは震えた。

 たまたま古本屋で手に取った本であった。調べてみたら、絶版状態であった。
 なぜこれほどの本が埋もれているのか。なぜこれほどの人物が知られていないのか。
 2016年9月、私は家族の事情で東京の出版社を辞め、長崎に移った。縁もゆかりもない土地だった。当時はこれからどうするという見通しもなかった。だが、この本に出会うために、
この人物に出会うために、長崎に来たのかもしれない。そう思った。いまやそれは確信になった。

 私は彼が残したすべての著作を〈復活〉させるべく、シリーズ「伊藤明彦の仕事」の刊行を決意した。全6巻。10年かけて完結させるつもりだ。
 本書はその第1巻である。ぜひお読みいただきたい。
 
 
ito hideaki-1(オビアリ)
 
書名:『未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記』
著者:伊藤明彦
発行元:編集室 水平線
判型/ページ数:四六判並製カバー装/356頁/上製
価格:2,420円(税込) 
 
好評発売中!
https://suiheisen2017.jp/product/3763/

Copyright (c) 2025東京都古書籍商業協同組合

2025年2月10日 第412号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
          古書市&古本まつり 第146号
      。.☆.:* 通巻412・2月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━【本とエハガキ】━━━━━━━━━━

本とエハガキ(2)古本屋のエハガキ
                            小林昌樹

■写真エハガキは記念写真の代わり
 戦前の写真エハガキは、戦後の「名所絵葉書」ぐらいにしか思われて
いないが、全く違う。戦後各種のメディアの代わりを務めていたである。

具体的には、Flashのような写真週刊誌であったり、ブロマイド(今は
チェキっていうか)であったりしたのだが、組織や団体の周年記念や、
重要な建築物の竣工(完成)記念、周年記念などでもほぼ必ず発行されて
いたものである。記念アルバムや、記念写真の代わりと言ってもよいだろう。
実際、朝鮮の都市対抗野球を写した写真エハガキなども見たことがある。

 
続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=19372
 
 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見33】━━━━━━━━━━

秩父宮記念スポーツ博物館・図書館
雑誌とエフェメラにみるスポーツ資料の豊かさ
                          南陀楼綾繁

 昨年の12月24日。クリスマスイブのJR京葉線の車内で、私は憂鬱だった。
 東京駅で京葉線に乗り換えるためには、体感で1駅分ぐらい歩かなければ
ならない。やっと電車に乗ると、車内にはディズニーランドに向かう浮かれた
カップルや家族連れでいっぱいだ。

 しかも、これから向かうのがスポーツの専門図書館というのだから、自分で
決めたこととはいえ、さらに憂いが増す。
 幼稚園で縄跳びに挫折し、小学校では鉄棒や跳び箱でつまずいて以来、私は
あらゆるスポーツを避けて生きてきた。部活動は吹奏楽部で、運動会では地蔵に
なるか、裏山にエスケープした。おかげで健康的とはほど遠い身体になったが、
全然後悔していない。
 そんな私がスポーツの資料を集めた図書館で、なにか見つけることが
できるだろうか?
 

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=19440
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
 
 
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 
━━━━━━━━━【書影から探せる書籍リスト】━━━━━━━━━

「日本の古本屋」で販売している書籍を、テーマを深掘りして書影から
探せるページをリリースしました。「日本の古本屋」には他のWebサイト
には無い書籍がたくさんあります。ぜひ気になるテーマから書籍を探して
みてください。
 
「日本の古本屋」書影から探せる書籍リスト
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=13964
 
 
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━【2月10日~3月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

------------------------------
港北古書フェア

期間:2025/02/01~2025/02/15
場所:有隣堂センター南駅店店頭(ワゴン販売) 
   横浜市営地下鉄 センター南駅より徒歩1分
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
イービーンズ 古本まつり

期間:2025/01/10~2025/02/16
場所:イービーンズ 9F杜のイベントホール
URL:https://www.e-beans.jp/event/event-14922/

------------------------------
フジサワ古書フェア

期間:2025/01/16~2025/02/12
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場 JR藤沢駅南口・フジサワ名店ビル4階
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
第8回ジュンク堂新春古書展

期間:2025/01/11~2025/02/11
場所:ジュンク堂書店那覇店1F  レジカウンター横
沖縄県那覇市牧志1-19-29

------------------------------
ハンズ渋谷・古本市

期間:2025/01/24~2025/02/16
場所:ハンズ渋谷店B2Cフロア・イベントスペース
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
港北古書フェア

期間:2025/02/01~2025/02/15
場所:有隣堂センター南駅店店頭(ワゴン販売) 横浜市営地下鉄 センター南駅より徒歩1分
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
フィールズ南柏 古本市

期間:2025/02/07~2025/02/27
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  
 柏市南柏中央6-7(JR南柏駅東口すぐ)

------------------------------
河原町地下古本市

期間:2025/02/07~2025/03/04
場所:丸善京都本店 地下2階 MARUZENギャラリー 
 京都市中京区河原町通三条下ル山崎町251 京都BAL

------------------------------
第10回 調布の古本市

期間:2025/02/13~2025/03/02
場所:調布PARCO 1F イベントスペース

------------------------------
第11回 古書会館de古本まつり

期間:2025/02/14~2025/02/16
場所:京都古書会館 京都市中京区高倉夷川上ル 福屋町723
URL:https://kyoto-kosho.jp/archives/news/1616/

------------------------------
浦和宿古本いち

期間:2025/02/20~2025/02/23
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)
URL:https://twitter.com/urawajuku

------------------------------
書窓展(マド展)

期間:2025/02/21~2025/02/22
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=571

------------------------------
BOOK DAY とやま駅

期間:2025/02/22
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)
URL:https://bookdaytoyama.net/

------------------------------
好書会

期間:2025/02/22~2025/02/23
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=620

------------------------------
球陽堂書房メインプレイス店 春の古書フェア

期間:2025/02/27~2025/03/31
場所:球陽堂書房メインプレイス店 (サンエー那覇メインプレイス2F)

------------------------------
第153回 倉庫会 古書即売会

期間:2025/02/28~2025/03/02
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12 
URL:https://hon-ya.net/archives/4918

------------------------------
ぐろりや会

期間:2025/02/28~2025/03/01
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 
URL:https://www.gloriakai.jp/

------------------------------
第8回 Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2025/03/01~2025/03/02
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.vintagebooklab.com/

------------------------------
反町古書会館展

期間:2025/03/01~2025/03/02
場所:神奈川古書会館・1階特設会場
横浜市神奈川区反町2-16-1
URL:https://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

------------------------------
岐阜駅 本の市 2025

期間:2025/03/01~2025/03/02
場所:JR岐阜駅直結 アクティブG 2階 ふれあい広場、3階吹き抜け周辺
URL:https://x.com/gifu_honnoichi

------------------------------
第113回 彩の国所沢古本まつり

期間:2025/03/05~2025/03/11
場所:くすのきホール
  西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.com/

------------------------------
東京愛書会

期間:2025/03/07~2025/03/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

------------------------------
高円寺均一まつり

期間:2025/03/08~2025/03/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

------------------------------
BOOK & A(ブック&エー)

期間:2025/03/13~2025/03/16
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=843

------------------------------
紙魚之會

期間:2025/03/14~2025/03/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:https://www.kosho.ne.jp/?p=604

------------------------------

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国1、001書店参加、データ約683万点掲載
の古書籍データベースです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=48

┌─────────────────────────┐
 次回は2025年2月下旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*゜*.:*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の古書店で ☆*.:*゜*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(約2,000店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

==============================

日本の古本屋メールマガジンその412 2025.2.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋」事業部
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  https://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

==============================

・メールマガジンの購読停止、アドレスの変更はこちら
 https://www.kosho.or.jp/mypage/

・このメールアドレスは配信専用です。
 返信いただいても対応致しかねます。ご了承下さい。

・メールマガジンの全てまたは一部を無断転載することを禁じます。

・メールマガジンの内容に対するご意見、ご感想は
  melma@kosho.ne.jp までお願い致します。

・メールマガジン内容以外のご質問は info@kosho.or.jp へお願い
 いたします。なお、ご質問の内容によりましては、返信が大幅に
 遅れる場合もございます。ご了承下さい。

============================================================
☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*゜*・゜☆*.:*・
============================================================

秩父宮記念スポーツ博物館・図書館
雑誌とエフェメラにみるスポーツ資料の豊かさ
【書庫拝見33】

秩父宮記念スポーツ博物館・図書館
雑誌とエフェメラにみるスポーツ資料の豊かさ【書庫拝見33】

南陀楼綾繁

 昨年の12月24日。クリスマスイブのJR京葉線の車内で、私は憂鬱だった。
 東京駅で京葉線に乗り換えるためには、体感で1駅分ぐらい歩かなければならない。やっと電車に乗ると、車内にはディズニーランドに向かう浮かれたカップルや家族連れでいっぱいだ。

 しかも、これから向かうのがスポーツの専門図書館というのだから、自分で決めたこととはいえ、さらに憂いが増す。
 幼稚園で縄跳びに挫折し、小学校では鉄棒や跳び箱でつまずいて以来、私はあらゆるスポーツを避けて生きてきた。部活動は吹奏楽部で、運動会では地蔵になるか、裏山にエスケープした。おかげで健康的とはほど遠い身体になったが、全然後悔していない。
 そんな私がスポーツの資料を集めた図書館で、なにか見つけることができるだろうか?

 二俣新町駅で降りると、そこは千葉県市川市だった。周囲には工場や倉庫が立ち並んでいる。トラックが行き交う道を少し歩くと、船橋市に入る。
 やっとたどり着いた住所には、大きな倉庫があった。とてもこの中に図書館があるとは思えない。

IMG_1756
★秩父宮記念スポーツ博物館・図書館の外観

 5階に上がると、たしかに〈秩父宮記念スポーツ博物館・図書館〉という表示がある。
中に入ると事務室があった。ここも図書館というよりは、会社っぽい雰囲気だ。
 いろいろ疑問はあるが、司書の寺本沙織さんに案内されて、書庫に入る。

「スポーツの宮様」の名を冠して

 中に入ると、奥に広い。書庫というよりは、倉庫のイメージだ。

IMG_1821
★書庫の内部

 ここで出迎えてくれたのは、新名佐知子さんと羽戸稔明さん。新名さんは2012年から勤務し、博物館と図書館の係長を務める。司書の羽戸さんは最近入ったばかりだそう。
 もうひとり、アシス堂の巻田徹さんは、フリーランスとして図書館に関する業務をサポートする。本に関するトークイベントを開催する「西荻ブックマーク」のスタッフとして、以前にお会いしている。

 スポーツにうとい私に、寺本さんを加えた4人は丁寧にこの館の歴史を教えてくれた。
 秩父宮記念スポーツ博物館・図書館は、1959年に開館した日本初のスポーツ専門の博物館・図書館だ。
 現在は、独立行政法人 日本スポーツ振興センター(JSC)が運営している。
 同種の館としては、1954年に蔵前国技館内に設立した〈相撲博物館〉、1959年に後楽園球場の隣接地で開館した〈野球殿堂博物館〉があるが、スポーツ全体を総合的に扱う館はここだけなのだ。

「秩父宮記念」と冠されているのは、秩父宮雍仁(やすひと)親王にちなむ。
 秩父宮は1902年(明治35)生まれ。スキー、ボート、登山、ラグビーなど、さまざまな
スポーツを愛好する。
「私はスポーツを心から愛する。自分でスポーツをすることも楽しみであり、またスポーツを見ることも好きである。成年に達した後、戦争までの二十年の間に、ずいぶん各種のスポーツを試みた。一、二回したものを加えれば二十種くらいのものに手を出した。またいろいろの競技を見、あるいは関係もした」(「私とスポーツ」、『皇族に生まれて 秩父宮随筆集』渡辺出版)

 1923年(大正12)、大阪市立運動場で開催された第6回「極東選手権競技大会」で総裁となる。この頃から「スポーツの宮様」と呼ばれるようになる。
 その後も、複数の体育大会や日本ラグビー協会、日本陸上競技連盟の総裁に就任。1953年に死去したのち、秩父宮ラグビー場などに名前を残した。
 博物館もまた、秩父宮のスポーツ界の功績を記念するために開設されたものだった。

 開館時に発行された冊子『秩父宮記念スポーツ博物館』では、「殿下ご自身、スポーツマンとして、ご使用になった数々のご遺品をはじめ、わが国スポーツの発達史を一目でわかるように、記念資料を収集して展示する一方、スポーツ、体育に関する文献を蔵書して、広く閲覧に供することとし、国民のスポーツ文化に対する理解と普及に役立てることとしたのであります」と記している。

IMG_1832
★『秩父宮記念スポーツ博物館』

さまよえる図書館

 博物館と図書館が開館した場所は、1958年に竣工した旧国立競技場のなかだった。
 博物館は北側(千駄ヶ谷側)の1、2階で300坪、図書館は西側(代々木側)の2階で150坪だった。これは『月刊国立競技場』第2号(1959年1月)の森田重利「秩父宮記念スポーツ博物館の由来」に書かれていることだ。同誌には国立競技場に関するさまざまな記事が掲載されており、非常に役に立つ。

IMG_9039
★『月刊国立競技場』

 蔵書の内容については後でみる。
 開館して3年後、「現場の事を話合う 国立競技場の各ポストから」という座談会(
『月刊国立競技場』第35号、1962年1月)では、図書館担当の木坂登茂子が次のように述べている。
「体育関係の蔵書については、まだ日本一だというには程遠い収蔵数です。(略)知られていないためにまだ十分に活用されていません」
 それでも最近は、研究目的の来館者が増えたという。

 博物館と図書館は、1964年の東京オリンピック開催の前後3年間休館。その後、改修や移設が行なわれた。
 旧国立競技場は建て替えのため、2014年5月に閉鎖された。博物館と図書館は、一時休館して、足立区綾瀬に倉庫を借りて移転する。
「ここでは収蔵品や蔵書の点検を行ないました。それまでOPACに登録していなかったものを、順次登録していきました」と新名さん。

 本来であれば、2019年に開設した新国立競技場のなかで再開するところだが、競技に特化したスタジアムにするという方針によって、ここには入れなかった。国立競技場には〈秩父宮記念ギャラリー〉が開設され、常設展示や企画展示を開催する。
 宙に浮いたかたちになった博物館と図書館は、2022年に現在の場所に移転する。
 博物館は長期休館中だが、図書館は毎週木曜日に開館する(予約制)。

 今後は、新たに建て替えられる秩父宮ラグビー場のなかで再開する予定だが、その工事が
遅れており、まだ数年はかかる模様だという。
 門外漢の私にも、文化施設である博物館と図書館が国のスポーツ政策に翻弄されている様子が感じられる。現場の人たちは歯がゆい思いをしているだろう。

幅広いスポーツ雑誌

 図書館の蔵書は約17万冊。そのうち12万5000冊が雑誌、4万5000冊が図書とそれ以外の
資料だ。
 開館時の蔵書目録は、「田尾栄一氏蔵書関係」「財団法人 日本体育協会関係」「スポーツ博物館関係」に分類されている。

 田尾栄一は昭和初期、大阪で旅館を営みながら、「関西ラグビー倶楽部」の世話人を務めた。スポーツ関係の図書・文献・ポスター等の収集を行ない、そのコレクションの一部は兵庫県の芦屋市立図書館に〈田尾スポーツ文庫〉として収蔵されている。田尾は秩父宮スポーツ
図書館の開設実行委員でもあり、約400冊を寄贈している(及川佑介「スポーツ資料収集家・田尾栄一の資料について」、『国士舘大学体育研究所報』第31号、2012)。
 まず、雑誌の棚を見てみよう。およそ2000誌が所蔵されている。ほとんどは合本されず、
1号ごとに並べられている。

IMG_1784   IMG_1779
★雑誌の棚  

 その中から古そうな雑誌を抜き出してみる。
「運動全般雑誌」をうたう『スポーツマン』、陸上選手の人見絹枝を追悼する
『体育時報』など。

IMG_1765   IMG_1769 
★『スポーツマン』       ★『体育時報』

 山岳会が発行する『山岳』の創刊号には、「財団法人 日本体育会蔵書印」が
押されている。

IMG_1785  IMG_1786  
★『山岳』           ★『山岳』蔵書印

 雑誌の一部には、「秩父宮記念スポーツ図書館」のエンボス印が押されているものもある。
 また、図書には、かなり凝った絵柄の蔵書票が貼られているものもある。さまざまな経緯を経て、ここに集まってきたことが判る。

IMG_1788
★蔵書票

 雑誌には、野球、陸上、体操などのほか、ボートレースや釣り、武道などの専門誌があり、スポーツの範囲が意外に広いと感じる。『月刊秘伝』は武術、格闘技の雑誌で、現在も発行
されているようだ。こんな雑誌があったとは。

IMG_9036
★『月刊秘伝』

 詩人の尾崎喜八や随筆家の串田孫一が創刊した山の文芸誌『アルプ』は、とてもいい状態のバックナンバーが揃っている。古本屋で見つけると、つい買ってしまう雑誌だ。

IMG_1781
★『アルプ』

「当館の雑誌で閲覧希望が一番多いのは、『アサヒ・スポーツ』で、かなり多くの号を
所蔵しています。他に同誌を所蔵している館は少ないです」と、寺本さんは話す。1923年(大正12)に朝日新聞社が創刊。戦後は1956年まで続いた。
 寺本さんが見せてくれた1934年(昭和9)3月1日号は、「日濠ラグビー試合」の特集で、表紙にはオーストラリアのチームと握手する秩父宮の写真が使われている。

IMG_1808
★『アサヒ・スポーツ』日濠ラグビー試合特集

 また、太平洋戦争中の1943年(昭和18)3月第2号は、「決戦下女子体力増強の要請」などの記事があり、表紙の写真は、女子青年団が薙刀を修練する様子だ。スポーツが軍事力に置き換えられている。

IMG_1817
★太平洋戦争中の『アサヒ・スポーツ』

 同誌については、立命館大学アート・リサーチセンターと連携して、所蔵する全号の
デジタル化が進められているそうだ。
「一九三〇年代までには『アサヒスポーツ』とともにスポーツ雑誌の代表的な存在となっていた」のが、博文館の『野球界』だ(佐藤彰宣『スポーツ雑誌のメディア史 ベースボール・
マガジン社と大衆教養主義』勉誠出版)。
 同館に所蔵されている『野球界』には、日本職業野球連盟(プロ野球)公式戦の優待券が
挟み込まれている。
IMG_1823   IMG_1824   
★『野球界』          ★野球試合の優待券

 なお、『野球界』の編集長だった池田恒雄が、博文館を辞めて、1945年に創刊したのが『ベースボール・マガジン』で、同誌を中心としてベースボール・マガジン社は、さまざまなスポーツ雑誌を発行していく。

独自の分類とエフェメラ

 同館では、開館当時から、独自の分類表が使われている。
 巻田さんが見せてくれたのは、以前の館内に掲げられていた「分類主綱表」だ。
「ここでは『元祖様』と呼んでいるんです」

IMG_1828
★分類表の「元祖様」

 この元祖様には、「A スポーツ全般・総合」「B 国際競技」「C 国内競技大会」と
ある。Bにはオリンピックの歴史や各大会の報告書が含まれる。
1936年(昭和11)に開催されたベルリン・オリンピックは、ナチス政権下で行なわれた。
その報告書には、ハーケンクロイツがデザインされている。レニ・リーフェンシュタールは、この大会を記録したドキュメンタリー映画『民族の祭典』『美の祭典』を撮っている。

IMG_1795
★ベルリン・オリンピック(1936年)報告書

 国内では、1964年の東京オリンピックの関連資料や、国立競技場を会場に行なわれた各種競技の資料が多く集められている。
 また、雑誌、書籍だけでなく、チラシ、パンフレットなどの紙資料も多い。その数は7100点にのぼる。
 同館ではこれらを「エフェメラ」と分類しているが、この呼び方は主に美術の世界で使われるものだ。「前任者が美術館出身だったからかもしれませんね」と、寺本さんは話す。

 同館では1964年の東京オリンピック終了後に、廃棄処分にされそうだった紙資料を当時の司書が救出したことから、エフェメラの収集に熱心だという証言もある(『ブレインテック・ライブラリー・リポート』第8号、2023年10月)。
 これらのエフェメラは、1点ずつ袋に入れて、棚に収められている。

IMG_1810
★エフェメラの棚

 そのなかには、1972年に開催された札幌オリンピックのパンフレットがある。

IMG_1812
★札幌オリンピック(1972年)のパンフレット
 
 
 古いものでは、江戸時代に発行された『相撲名所圖繪』(立川焉馬作、歌川豊國画)も
ある。当時の相撲取りの名鑑だ。

IMG_1814
★相撲名所圖繪(立川焉馬作、歌川豊國画)

 現在、「スポーツ エフェメラ コレクション」として、1点ごとに表紙とともに発行者や
内容などのデータをOPACに登録する作業を進めている。
「検索して見つけたからと、来館する研究者が増えています」と、寺本さんは嬉しそうだ。

 また、スポーツ新聞は原紙を保存している。

IMG_1803
★スポーツ新聞の棚

「貴重書」に分類されているもので、私の目を引いたのは、博文館の「内外遊戯全書」シリーズだ。表紙の美しさに息をのむ。
『端艇競漕(ボートレース)』『新游泳術』『ベースボール及クリケット』『玉突術』『陸上競走』などの競技について、専門家が書いた解説書。この並びに『昆虫採集』『福びき集』が入っているのが面白い。

IMG_9042  IMG_9043  
★内外遊戯全書

貴重なスクラップブックを発見

 ひととおり案内していただいたあと、『月刊国立競技場』のバックナンバーをめくっていたら、「図書館蔵書紹介」という欄があるのに気がついた。
 日本大学教授でスポーツ史研究者の木下秀明が、同館の貴重書を紹介している。
 第224号(1977年10月)の同欄は、「スクラップ・ブック」と題されている。
「先日、共同通信の石川輝氏を介して、当図書館に、故渡辺勇次郎氏のスクラップ・ブック
三冊と、『日本陰乃拳闘史』と題した『創始者渡辺勇次郎』の署名入り原稿とが寄贈された」とある。

 日本ボクシング界の生みの親で、1921年(大正10)に「日本拳闘倶楽部」を創設した渡辺勇次郎が作成したスクラップブックが、ここに所蔵されているというのだ。
 そういえば、スクラップブックが並んでいる棚があったなと、探しに行ってみたが、スポーツ記者が試合のメモを取ったノートなどはあるが、古いものは見つからなかった。

IMG_9045
★スクラップブックの棚
 
 
 諦めて帰ろうかとしたときに、「ありました!」と寺本さんが持ってきたのが、まさにそのスクラップブックだった。棚のいちばん奥で見つかったという。
 一冊は「日本拳闘倶楽部1921」と表紙に書かれているもので、海外や日本の新聞記事がびっしりと貼り込まれている。
 
IMG_9052

IMG_9054  IMG_9055

★渡辺勇次郎の貼込帖 「日本拳闘倶楽部1921」
 
 
 もう一冊は「Japan Boxing Club 1921-27―」と書かれているもので、こちらには試合のチケットや選手のブロマイド、ボクシングが描かれた切手などが貼られている。一冊目に比べると、色刷りの紙モノが多い。
 
IMG_9046  IMG_9047
 
IMG_9048  IMG_9049
 
IMG_9051
★渡辺勇次郎の貼込帖 「Japan Boxing Club 1921-27―」
 
 
 木下氏の記事は「三冊」とあるが、この日は二冊しか見つからなかった。それでも、貴重な資料であることには変わりない。寺本さんは「早速整備します!」と喜んでいた。

 渡辺勇次郎については、木本玲一『拳の近代  明治・大正・昭和のボクシング』(現代
書館)に詳しい。
 渡辺は1889年(明治22)、栃木県に生まれ、1906年(明治39)に外国語を勉強する目的でサンフランシスコに渡った。そこでボクシングのジムに入り、ライト級のアマチュア選手として戦う。
 帰国した渡辺は目黒に「日本拳闘倶楽部」を設立した。その練習生には、国際試合でも
戦ったピストン堀口らがいる。

 渡辺は多くの雑誌にボクシングについてエッセイを書き、世の中に広めた功績者だった。
その一方で、渡辺による「封建的師弟関係にもとづくジムの有り様も日本のボクシング界特有のローカルな文化として定着」したのだと、木本は評価する。

 なお、乗松優『ボクシングと大東亜 東洋選手権と戦後アジア外交』(忘羊社)には、渡辺の遺稿「廿五年の回顧」が掲載されているが、この文章は「渡辺自筆の『日本陰乃拳闘史』に加筆修正を加えて、彼が逝去する数年前に出版されたものと考えられる」という。同書には、渡辺のスクラップブックから引用したと思われる図版も掲載されている。
 このスクラップブックの存在はかつては知られていたが、同館の移転などの過程で、忘れられてしまったのかもしれない。
 ともあれ、貴重な資料に再び光が当たったことを喜びたい。
 なお後日、寺本さんから「もう一冊のスクラップブックも見つかりました」と連絡が
あった。これで渡辺勇次郎のスクラップブックが全部揃ったことになる。

 取材を終えて、もういちど二俣新町駅まで歩く。スポーツ嫌いは相変わらずだが、スポーツの資料の面白さはよく判った。
 あと数年は、この場所で、資料の整理と登録作業が続く。数年後、秩父宮ラグビー場に新しい博物館と図書館が開館する頃には、必要な資料がもっと探しやすく、使いやすくなっているはずだ。

秩父宮記念スポーツ博物館・図書館
〒273-0017 千葉県船橋市西浦2丁目5-3 JBS物流センタービル
(株)ロジ・レックス ジェイビーエス事業部 船橋第一倉庫5階
ウェブサイト
https://www.jpnsport.go.jp/muse/library/tabid/146/Default.aspx
OPAC
https://sports-library.opac.jp/opac/Top
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu
 
 

Copyright (c) 2025 東京都古書籍商業協同組合

Just another WordPress site