『早稲田古本村通信』復刊!
古書現世・向井透史
今年の6月初めに、思い立ってメールマガジン「早稲田古本村通信」を復刊した。調べてみるとこのメルマガが初めて配信されたのは2003年。
今年はちょうど10年目にあたることに後から気づいた。かつては早稲田古書店街の広報部が発行する公的なメルマガだと宣伝していたのだが、実際には自分が勝手にやっていたものであり、自由に編集をしていた。
古本だけでなく早稲田という街の情報を集めた「情報号」と、知人に書きたいを書いてもらう「コラム号」の月2回配信。コラム号からは、倉敷の古本屋、蟲文庫店主の田中美穂さんの連載が書き下ろしを加えて『わたしの小さな古本屋』(洋泉社)として単行本化、『私は猫ストーカー』で知られる浅生ハルミンさんの愉快な人生相談も『猫座の女の生活と意見』(晶文社)に収録された。
書き手に恵まれて配信していたものの、連載が変わっていく中で、どこか疲れてしまったというか、新たな依頼をしないのでコラムは減っていき、次第にメルマガはイベント前日に「明日からです」ということを伝える増刊号だけになり、2010年の秋ごろに自然消滅した。そのころにはすでに新たなメディアであるツイッターが人気を伸ばしてきていて、そこでの広報が主流になっていき、もはやメルマガに戻ってくることはないと思っていた。そんな気楽さからか、ブログで書いていた「古書現世店番日記」も更新しなくなり、なんとなく短い文章をツイッターで流し続けることで満足していた。
今年に入り、千駄木にある新刊書店、往来堂書店さんが地道に配布しつづけてきた手書きのフリーペーパー「往来っ子新聞」を合本したものを販売した。おすすめの書籍などが毎号とても自由な感じでまとめられていて、なんだかとても「編集欲」が刺激された。紙という枠におさまっている情報はただ流れていくだけのとは違う「意識」が感じられた。自分も意識ある媒体を作りたくなった。
自分は、早稲田・目白・雑司が谷の三地域で本に関する仕事をしている人間のグループ「わめぞ」という団体で、古本のイベントなどを手掛けているが、ただイベントをやるだけでなく、どういう思いで、どんな毎日の中でやっているのかを、ブログもやめてしまっている現在、伝えるメディアを何も持っていなかった。そこで思い出したのが冬眠していたこのメルマガの存在で、ここからもう一度個人として、「自分の思い」を人に伝える作業をはじめようと思い6月に復刊したというわけだ。
メルマガは週刊。その週に思ったことを書く巻頭言、ブログでやっていた店番日記、本に限らず面白いと思った情報にリンクを張るトピックス、自分の関係する古本市の情報でなる。あまり気張らず、等身大の自分の「物語」をお伝えできればと思っている。
「早稲田古本村通信を復刊して」 古書現世 向井透史
http://d.hatena.ne.jp/sedoro/20130614
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『大阪に東洋1の撮影所があった頃』について
株式会社ブレーンセンター 編集部
大阪──といったとき映画や撮影所、俳優さんたちを連想する人が何人いるでしょうか。え!?ポカンと口をあけているあなたにガツンと衝撃をあたえてくれるのが、本書です。映画の興業面だけでなく、製作面でも大阪の映画会社がかつて日本の映画界をリードしていたのです。もしかすると大阪は日本のハリウッドになっていたかもしれない、というほどの勢いが一時はあったのです。これはそんなことを書いた本なのです。
人形浄瑠璃や歌舞伎、立方舞い…など、江戸の昔から大阪人の芸能好きは有名ですが、映画にもまた大阪人の心をとらえてはなさない、なにかがあったのでしょう。 大阪人の映画熱に火がついたのは明治末。千日前に映画館の前身、電気館が開場したことにはじまります。またたく間に千日前は映画街となり、新世界、道頓堀そして周辺地域へと爆発的に映画館はふえてゆき、昭和初期には日本の映画館の10%は大阪にあるとまでいわれました。
千日前が映画街となったその一軒に娘義太夫の“小屋”を改装した三友倶楽部がありました。経営者は山川吉太郎。時代の風雲にのり、映画製作にも進出。やがて大阪の映画産業をリードし、“映画王”への階段を一気に駆けあがります。本書では東京目線からはまったくみえない客観的な映画史を展開すると共に、歴史のチリにうもれた、この時代の寵児にも頁をさき論じています。
大正末から昭和初期、大阪は未曾有の好景気にわきかえり、映画産業も急速に発展してゆきます。映画会社や撮影所も雨後のタケノコのごとくに乱立。阪妻プロや東亜キネマ、マキノキネマ…などです。山川が興した映画会社は、このころ伝説的な相場師・松井伊助の協力をえて、規模を拡大し帝国キネマ演芸となり、日活、松竹につぐ日本3位のメジャー映画会社へと成長します。
この帝国キネマ演芸、通称帝キネが建設したスタジオ(現・東大阪市 長瀬)は東洋一の規模をほこり、ハリウッドのメジャー級と当時評判をよんだものです。そんな写真も多数掲載しています。 また帝キネのドル箱スターといえば、チャンバラ映画の市川百々之助。当時、阪妻や市川右太衛門と並び称せられながら、なぜかこんにち誰も知らないという、不思議な大スターの写真もぜひご覧下さい。 藝術、文化、娯楽…かつて大阪は東京にひけをとらない“文化的首都”としての地歩をえていました。それがいつの間に、という思いは大阪人だけではないでしょう。
失敗から学ぶ。大阪が歩んできた道を<栄光と挫折>の両面からふりかえろうとする市民講座<新なにわ塾>の第5弾。 本書は明治以来のチリをはらい、監督、小説家、俳優…など映画の世界にかかわる熱い人びとをとりあげ、大阪がもっとも輝いていた時代を再現させます。また収蔵庫のかたすみで眠っていたお宝写真もあわせてご覧いただきます。 さらに、現在、日本国内よりも世界で著名な、プラネット映画資料図書館代表の安井喜雄氏のインタビューも掲載しています。
株式会社ブレーンセンター 編集部
新なにわ塾叢書 第5巻 「大阪に東洋1の撮影所があった頃」
講話者:安井喜雄、笹川慶子、芦屋小雁、橋爪紳也、船越幹央、藤井康生、増田周子、阪本順治
編著:大阪府立大学観光産業戦略研究所+関西大学大阪都市遺産研究センター+大阪府+新なにわ塾叢書企画委員会(橋爪紳也・薮田貫・音田昌子・江島芳孝)
株式会社ブレーンセンター 定価 2,000円+税 好評発売中!
http://www.bcbook.com/eiga.html
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曲がりなりに1周年 ぷねうま舎
中川 和夫
「真理との、救いとの間合い、ひととの、社会との間合い、良い本との、悪い本との間合い、ベストセラーとの、倒産との間合い……“はざま”を吹き抜ける風でありたい。これからも、間合いを大切に泳いでいきます」。 いささか負け惜しみめいてもいますが、創業1周年フェアのポスターに「“ぷねうま”のこころ」として上の言葉を記しました。出版のいのちである多様性を保持する途はあるのか、ないのか。
この1年、念じ続けてきたことが口をついて出た、ゴマメのつぶやきです。 あっちにダークマターとIPS細胞、こっちに社員食堂と枕絵の本、陽のあたるところもあれば、ほの暗い場所もある。ぶつぶつと情念の圧力でマグマが躍っている、これが私のイメージする出版界の理想状態です。この多様性がいま、間違いなく失われようとしています。
そんなことはない、という声が聞こえます。電脳図書館となれば、誰でも容易に文化財にアクセスできるではないか、雲のイメージの、つまり中空に浮いている情報のプールができれば、いつでもどこでも、もっと簡便に必要な知識を手にすることができる、と。たしかに、3次元の冊子体という「物」の重さから人類は解放されました。しかし、あれよあれよという間の、享受する側の便宜の拡大に目を奪われて、送り手の側、発信する側の問題には蓋をされているのではないでしょうか。
80年代のはじめからほぼ30年、編集の現場にいた者として、かつて教えられ、あるいは自分なりに嗅ぎ分けてきた出版の常識は完全に崩れ去ったと思わざるをえません。その「常識」なるものには、制作の技法から、流通のシステム、著者との関係の作り方までが入ります。そして、その変化のスピードにはこの1年〔2012年度〕、さらに加速度が加わった、とは同業の仲間たちが異口同音に口にするところです。
「出版は産業にはならないよ」。3世代上の先輩がなにかにつけて言っていた言葉でした。なぜか。書き手がいるからです。そこには「書く」という、人間的あまりに人間的な営みを引き出す“関係”があるからです。経済の原則と論理に乗りきらないものが、間違いなくあるためにです。
なにも昔はよかったなどと言いたいのではありませんし、メディアの革命前の出版界もさまざまな問題を抱えていたのは当たり前のことです。ただしかし、そこには競争の場を提供するという仕方であれ、登竜門を置くやり方であれ、次の世代の書き手を育てるシステムがあって、水源から川下までの体制の全体がそれを支えていたことは事実だと思います。
書き手を再生産する、人間を育てる、その方法を組み込んだシステムをつくる、これは技術革新や経済原則とはそもそも次元を異にする課題です。いまや斜陽産業となった出版の抱える問題の中でも、これがもっとも深刻な壁だと、私は思っています。 「人生で一度くらい、完全な敗北を味わってもいいではないか」。創業に際して、同業の先輩が贈ってくれた一句です。「人生とは敗北のようなもの」でしょうから、ここでの力点は「完全な」にあります。文字通り蟷螂の斧ながら、なんとかこの「完全な」を回避して、書物の多様性の一端を担いたいものと考え続けています。
(ぷねうま舎主・中川和夫)
ぷねうま舎
http://www.pneumasha.com/
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古本屋ツアー・イン・ジャパン2013年前半を振り返って
古本屋ツーリスト 小山力也
ここが人生の正念場である。切々とそう感じた半年間であった。
全国の古本屋さんを自主的に調査し始めてから、ついに五年目を突破。実際にそのお店まで出向いて対峙し、内部構造や棚を記憶して、店主をチラと盗み見し、古本を買い、それらを文章化してブログにアップする。そんなことをもう、およそ1500軒以上は繰り返して来たことになる。しかしそれでも、訪ねるべきお店は全国にまだまだ残っており、未だ道半ばの思いばかりに囚われている。
前回の原稿『古本屋ツアー・イン・ジャパン2012年を振り返って』では、「私はこの先の見えない『こちらが倒れるのが先か、お店を調査し尽くすのが先か』と言うチキンレースから降りるつもりは毛頭無い。来年は、北海道・青森・山陰・四国・九州・沖縄に足跡をつけて来たいものだ」と書いていた。正にここがポイントで正念場なのである。列記した地方は未踏の古本屋さんを多く残し、今までの南東北?中部までの比較的安値で訪ねられる近めな所とは異なり、交通費も移動時間もグンと跳ね上がる遠距離ばかり。しかし! ここに足を延ばさねば、全国の古本屋さんを調査すると言う野望は、決して達成出来ぬのである。
関東は、街の片隅に隠れるようにひっそりと残るお店・神保町に集中するお店・リサイクル店・これから開店するお店・事務所店を残すのみで、ほぼ巡り倒してしまった。その周辺である、新潟・山梨・静岡・長野・福島・宮城・山形辺りも、チェックメイトが近付いている。だが、去年宣言していた土地には、まだ一度も足を踏み入れていないだらしなさ…。古本屋調査が進むのは良いことだが、遠くへ飛び出せずに、近くを虱潰しにしている偏向性が、その無闇に高い志と常識人たる己の心を、押し潰し始めているのだ…。
かといって意気消沈ばかりの半年であったわけではなく、地道で孤独な“独りローラー作戦”の調査は刻々と進み、様々な古本屋さんとの出会いと別れを繰り返して来たのも、また事実なのである。日光の別荘地にあるカレーが振る舞われる古本屋「霧降文庫」、浦和の夜の町に生き残り続けていた「んぐう堂」、静岡に無政府主義関連本を核にして良書を並べる「水曜文庫」、新発田の冬の雪まみれのシャッター商店街で見た暖かな「いと本」、宮古で人々を元気づけるためにコミックを掻き集めた「春夏冬書房」、東青梅のついに入れた児童書の殿堂「青梅多摩書房」、静岡の過去から舞い戻って来た「一冊 萬字亭」、柏崎の忘れ去られた古本屋「加納書店」、三鷹に生まれた無人古本屋と完全少女趣味の「点滴堂」、「つちうら古書倶楽部」のグランドオープン、仙台で震災から甦った姿をようやく確認出来た「ビブロニア書店」と「有隣堂」、金町の幻の古本屋「一草洞」、長野の観光客で賑わう成功を見せる「団地堂2号店」、国分寺バス停前のSFを得意とする小さな三角形のお店「まどそら堂」、陶器の町・益子に潜む様々なカタチでの古本販売、深川『のらくロード』にやって来た古本一兵卒「ほんの木」、航空公園の団地に出来た「古書つくし」、ようやく学芸大学に腰を落ち着けた「SUNNY BOY BOOKS」、スーパー源氏が神保町に攻め入って来た「スーパー源氏 神保町店」、学生のためではなく若者のために開いたつくばの新店「PEOPLE」、福井県初ツアー、愛知県の調査が徐々にジワリと進行中……以上は喜ぶべき出会いと成果ばかりだが、その代わり悲しい現場にも多数直面した。
長津田の雑書王「ヨコヤマ書店」、藤沢の名店「聖智文庫」、郡山の駅前店「古書ふみくら 郡山店」、下町柴又の「健文堂書店」、阿佐ヶ谷の老舗「今井書店」、早稲田の文庫&映画スチール充実店「文省堂書店 早稲田店」、神奈川湘南地区の「耕書堂」「ほづみ書店」などがドスドスと閉店し(事務所店やネット販売を主とする営業に移行のお店多々あり)、半べそをかきながら頭の中の古本屋地図を大きく書き換えることを強いられたりもした。これらの楽しく、時に涙を流しながら駆け抜けた記録は、血と汗の結晶として、ブログ内に無事に残されている。しかし記録は記録であり、すべては過ぎ去ったこと…それは未来に残すデータとしての遺産であり過去の集積であり、未来そのものにはなりえないのだ。つまりは、立ち止まったらそこで終了…やはり私は、己の手で未来を掴んで記録し続けなければ、この先生きる意味も無いのではないか…。
正念場…つまりは“古本屋ツアー”を促進させるのか、それともペースダウンするのか…いや、時間は無尽蔵ではない。今のペースを保たねば、とても生きているうちに、全国の古本屋さんを調査し切れるはずがないのだ! 一度行ったお店に、テーマなどを設定して再訪するのも非常に楽しいのだが、所詮は“古本屋ツアー延命”のごまかしでしかないのである(もちろん、これからもこの手法は使うつもりであるが…)。やはり覚悟は決めなければならない。時間と体力と資金の続く限り、私は逸脱しなければならない!と自身を追い込む! これからも、ただただ未踏の古本屋さんを目指して進み続けるのだ!
しかしそんな孤独な道中でも、時にすがれる物を激しく必要としたりする。そこで先の見えない道すがらの里程標、ブログ以外にも己のしていることが正しいと過信させてくれる力強いアイテムとして、年末に某出版社から『古本屋ツアー・イン・ジャパン』の単行本の出版を予定している。現在、必死に鋭意編集制作中。さらにこれを起爆剤とし、まだ見ぬ古本屋さんを目指して、持てる力の限りを尽くして邁進するつもりである。
…あぁ、私はもしかしたら大事な選択を誤ってしまったのかもしれない。足を見事に踏み外し、崖下に転落している真っ最中なのかもしれない。いやしかし、もうそれでもいい! それが、己が好きで選んだ道なのだから。どうか、全国の古本屋さんよ、営業日と営業時間内にお店を開けて、私が訪ねるのを待っていて下さい!
『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。トマソン社のリトルプレス「BOOK5」で『新刊屋ツアー・イン・ジャパン』を、webマガジン「ゴーイングマガジン」で『均一台三段目の三番目の古本』を連載中。http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/
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「離島の本屋には、いったい何がある?」
朴 順梨
人口わずか600人あまりの北大東島。東京23区よりも大きな面積を持ち、「島」と呼ぶにはかなりの広さがある奄美大島。日本には実に6800もの島があり、人が住んでいる島は約400程度。さらにその中で「本屋」がある島は・・・・・・? いくつなのかは、正直私には分からない。しかしそんな島々を約8年かけて巡り、本屋を訪ね歩いた日々をまとめた『離島の本屋』という本を7月に出版した。版元は“ころから”。今年1月に赤羽で生まれた、まさに旅を始めたばかりの出版社だ。
今までに訪ねたのは22島。本土と橋が架かっているため、車でびゅーんと行けた島もあれば、25時間半フェリーに揺られて、ようやく辿り着いた島もある。どこも海と自然に囲まれていることから、景色が似ることもなくはない。しかしそれぞれに違った空気が流れ、それぞれに違った人達が暮らし、時を紡いでいた。それは本屋も、同じことだった。
店主やその友人が作ったハンドクラフトや写真が棚を飾る本屋、駄菓子や雑貨が人気の本屋、図書館が併設された本屋、お酒も一緒に選べる本屋、誰がどの本を買ったかが一目瞭然の、売上ノートをつけている本屋・・・・・・。離島の本屋はその島の人達や土地に合わせ、まさに変幻自在だった。旅を始める前の私は「離島の本屋は、きっとこういうものだ」と、根拠のない絵を頭に描いていた。しかしいざ訪れてみると、その絵どおりの本屋など一軒もなかった。でもいずれの本屋も「その絵」以上だったと、個人的には思っている。
「今度○×島に行くんだけど、どこに寄ったらいい?」
私が島に取材でよく行くことを知る友人知人から、こう聞かれることがある。そのたびに私は、本屋に立ち寄ることを勧めている。なぜなら本屋に行けば、その町や村のことがわかるからだ。
本屋にはその土地の歴史やゆかりの人物、文化に関する本が必ずといっていいほど置いてある。たとえば私も奄美大島にもユタがいたことや、新島のヨベームン(呼ぶものの意味。山の神や天狗、魔物説があって、人々に怖れられている)伝説のこと、そして『忘れられた日本人』を書いた宮本常一と周防大島との縁については、島で出会った本で知った。
また本屋には地元の人達が連日、多数訪れる。ガイドブックにはない「ナマの情報」が聞けるし、島の人と話す機会も得られる。島を知りたければ、本屋に寄ってみることだ。 ただ残念なことに、本屋がない島もかなりある。そして取材時には「あった」のに、今はなくなってしまった本屋も、残念ながら存在する。だからある意味、旅行ガイドブック的な意味合いで『離島の本屋』を手に取ると、少しがっかりしてしまうかもしれない。
だけど「あの日」「あの時」「あの場所」に本屋があったことに思いを馳せながら、ページをめくって頂けたら。これほど嬉しいことはないと思っている。
『離島の本屋』朴 順梨 著 ころから刊
定価1680円(税込み) 好評発売中!
http://korocolor.com/rito_no_honnya.html
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『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』
宇田智子
はじめまして。沖縄にあります「市場の古本屋ウララ」と申します。開店してまだ1年9ヶ月、古書組合には加入しているものの「日本の古本屋」には出品していなくて、沖縄県外の市に参加したのは一度だけ、店にはレジも固定電話もなく、狭いので均一本もなく、もちろん稀覯書もない、このメールマガジンを読んでいる方には怒られそうな古本屋です。
このたび、『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』という本を出版しました。いかにも古本屋の本らしい薀蓄やエスプリはないかわりに、多少は変わった話を書いているかもしれません。
ひとつは、沖縄の出版事情について。
私は古本屋を始めるまで那覇の新刊書店(ジュンク堂書店那覇店)で働いていました。本は東京から船で来るので発売が3、4日遅れ、台風のたびに流通が止まります。東京で話題になっている新刊がまだ入荷もしていないという状況を悲しみ、時間や送料の問題に頭を悩ませていました。
一方で、沖縄は郷土本の出版が全国一といえるくらいに充実しています。沖縄本の担当として多数の出版社(者)と個別に取引をし、一般的な本のつくりとは違う本(バーコードがないとか、背表紙がないとか)も扱って、お客さまから次々に寄せられるローカルでマニアックな問合せに対応してきました。大変でありながらとても面白く、古本屋になってからも沖縄の郷土本をメインに売り買いしています。新刊書店では出会えなかった本が続々と出てきて、古本屋の醍醐味を味わっています。
もうひとつは、「那覇の市場」の話です。
「市場の古本屋ウララ」は那覇の牧志公設市場の向かい、市場中央通りにあります。観光客も地元の人も集まってきて、車社会の沖縄には珍しく人が歩いている場所です。
市場中央通りはアーケードの下にあり、みんな店の前の道路に棚と椅子を出して路上で店番しています。通行人ともまわりの店の人とも距離が近くて、いろいろなやりとりが生まれます。また、特に沖縄の本を見たお客さまから「それ、うちの父が書いた本だ」「この写真に写っているのは私なの」と声をかけられ、そこから思いがけないお話を聞かせてもらえることもあります。ほんの数分の立ち話からその人だけの言葉や歴史がうかがえるようで、切れぎれのままに書きとめました。
ほかに中国の古書イベント「広州書墟」に参加した話や30年前の市場の写真、那覇の本屋のイラストマップなどのおまけもついています。こんなへんな古本屋もあるのかと、本棚の片隅に差していただけたら、幸いです。
『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』
宇田智子著 ボーダーインク刊 定価:1680円(税込み) 好評発売中
市場の古本屋ウララ http://urarabooks.ti-da.net/
ボーダーインク http://www.borderink.com/?p=9190
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本屋はやっぱりおもしろい
空犬太郎(本屋図鑑編集部)
記憶にある最初の本屋さん。昭和40年代後半を過ごした大阪の小さな町にあった、小さなお店である。10坪ぐらいだろうか。よくわからない。小学生の身丈には十分に大きく見えたのだ。
M書店、としておこう。同級生Mくんのお母さんが帳場(レジというよりも帳場、という感じだった)に立っていた。毎日、通った。飽かずに眺めていたのは漫画の棚で、1冊増えても抜けてもすぐに気がついた。棚は1本しかなかったが、毎日眺めても、あきなかった。本を手にとることは、あまりしなかった。立ち読みに厳しい店だったからではない。本が棚に並んでいるのを眺めているのが好きだったからだ。
当時住んでいた町には、小学生が徒歩で通える距離に3軒も本屋さんがあった。大阪の小さな田舎町に、である。いまぼくは吉祥寺を抱える東京・武蔵野市に住んでいる。吉祥寺には新刊書店・古書店がいくつもあって、本好きには最高の環境だが(夏葉社が事務所をかまえる街でもある)、吉祥寺の中心から少しはずれた我が家の近所には新刊書店がない。市内には千坪クラスの書店まであるのに、我が家の小学生を安心して送り出せる徒歩圏には、町の本屋さんはないのである。昭和のあのころと今と、本屋さん事情はよくなったのか後退したのか。どちらが幸せなのか。ときどき、よくわからなくなる。
『本屋図鑑』に関わることになって、M書店のことを書きたい、まずそう思った。M書店のことを実際に『本屋図鑑』で取り上げたい、ということではない。今も全国で、その町の本好きのみなさんに本を届けているであろう、たくさんの「M書店」のようなお店のことを書きたいと思ったのだ。はたして、『本屋図鑑』ではそのようなお店をたくさん取り上げることができた。『本屋図鑑』の感想に、「なつかしい」「うれしい」ということばを見かけることが多いのは、読んでくださった方が自分にとっての「M書店」に本書の中で出会えたからなのかもしれない。そうだとしたら、書き手の一人として、こんなにうれしいことはない。
「図鑑」ということばと作りにはこだわった。なにしろ、ウルトラ怪獣図鑑で育った世代である。人気怪獣、最強怪獣も、あんまり人気のないマイナー怪獣も、同じ図版サイズ、同じスタイル、同じキャプション量で扱うのが図鑑だ。そこには作り手が押しつける優先も優劣もない。どれを気に入るも、どこから読むも、すべては読み手にゆだねられていた。“図鑑好きの本屋好き”は、そのような本屋本があってもいいと思ったし、あるべきだ、とも思った。幸運だったのは、同じように考えている“図鑑好きの本屋好き”に出会えたことだ。夏葉社の島田さんである。島田さんと、酒の席で、本屋さんと図鑑の話をしなかったら、この本は「図鑑」にはならなかったし、そもそも生まれもしなかった。
ちなみに、今も、本屋さんではあまり立ち読みはしない。本が、本屋さんの棚に並んでいるのを眺めているのが好きだからだ。
『本屋図鑑』
得地直美絵 本屋図鑑編集部文
夏葉社
定価:1,785円(本体1700円)
得地直美 http://www.hitokuchi.com/
夏葉社 http://natsuhasha.com/
空犬通信 http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/
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『釜ヶ崎語彙集 1972-1973』のふしぎ
小沢信男
「釜ヶ崎は明治天皇がつくった」とは、本書の第一章「地域」のサブタイトルです。明治三十六年に天王寺公園での勧業博覧会に天皇が行幸するので、道筋の貧民長屋どもを取り払って、強制移転させた先が、釜ヶ崎なのでした。そしてこの界隈の足跡を、江戸初期より幕末、明治、大正、昭和とたどる。ひとつの地域の事典を編むべく、歴史からはじめる。本書は、いたって正統派です。
と同時に、ケタはずれだ。編著者の寺島珠雄を中心に、数名の書き手は現場に居住し、活動していて、体験と見聞にとことん依拠する。客観よりも主観で書くぞと、ひらきなおっているのですから。 第四章「住」のサブタイトルは「すみかは街のすべて」とある。日払いアパート、酔い倒れ、アオカン(野宿)等々の項目をたてて、公園や路上や街全体が居住環境なのだと、具体的に語ってゆく。狭苦しい宿よりも夏のアオカンはのびやかだ。だが寒冬の焚火集団はやはり陰惨だ。と、いたって率直に臨場的です。
ほんとうにこれは、めずらしい本だ。そもそも本書の内容は、四十年前にできあがっていた。いきなり古本みたいなはずなのに、奇妙にナマナマしい。「眠れる美女」が目を覚ましたかのように。 本書には、現場写真も多々あって、書き手たちが撮り溜めてきた目撃証拠の数々です。とりわけ人々の集合写真は、歳月が過ぎるほどにかえってナマナマしくなるのだな。かつてアッタ状景が、こうも眼前にアル衝撃。読み合わせてゆくと、文章だってまったくおなじことなのだ。
一九七二~三年の釜ヶ崎が、こうして目を覚ます。同時に、低廉な労働力の使い捨てを、かくも常時必要としてきたこの国の資本と権力の構造が、浮かびあがる。それはいよいよ眼前焦眉の現実でしょう。非正規雇用の労働者がみるみるふえて二〇〇〇万人におよぶ、この国の釜ヶ崎化のこんにちに。
編著者の寺島珠雄は、詩人で、アナーキストで、練達の土工で、鉄筋工でした。生涯独身で、けっこうモテモテの男でもありました。一九二五年生まれで、五〇歳にもならぬ壮年期の仕事だった。一九九九年に亡くなったが。当時の若手の協力者たちが、それなりにいい歳になって、本書の目を覚ますことに尽力した。こういう愉快も、まだまだこの世にあるのだな。
『釡ヶ崎語彙集1972-1973』
寺島珠雄 編著 新宿書房刊
定価:3200円(税別)
新宿書房 http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/440_Kamagasaki.html
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トマソン社『BOOK5』
編集長 松田友泉
一般書店であまり流通していない冊子(ミニコミ・リトルプレス)などをネット販売する「トマソン社」を立ちあげたのが2012年の1月。その数カ月後の5月5日に“本に関わるすべての人へ発信する情報バラエティ誌”と銘打ち、隔月刊行誌『BOOK5』を創刊した。
最新号である9号は、「古書目録」を特集した。目録を刷っている印刷屋さんや、古書目録制作実務、支払いのために奮闘するコレクター、“古書目録そのもの”の面白さ、即売展と古書目録……と、今までにない内容となっているのではないかと思う。今号はご好意で、「地下の古書市」で行われたトークショー「薔薇十字外伝」も収録させていただいた。
古本に関する特集は2回目にあたる。1回目は第3号の「しばったり、つつんだり」という特集で、古本屋さんの「本縛り私史」や「縛りの実際」などとともに、マイカロン、スズランなどのビニール紐の違いや、オープン、スパットⅡなどの紐切りの種類などを取材した。古本屋さんには、非常に好評を持って迎えられた。
他にも、出版者、本の流通、医学書、30代女性、名画座、日記などの特集を組んだ。こうやって書いていて気がついたのだが、頑なに本そのものをほぼ取り上げていない。あえて周辺、ではなく、周辺ド真ん中だ。名画座に至っては、本ですらない。そのせいか、売れゆきはいいとは言えない。
私自身は、地方の印刷屋に勤務後上京し、古本屋、図書館、新刊書店とアルバイトをしてきた。それぞれの本業界には、面白いことが沢山ある。今回の古書目録特集にしても、そもそも「古書目録」じたいを知らない人もいるわけだし、また東京古書会館と神田古書センターを混同している人も当り前のようにいる(これはよく言われる)。私自身も、古書会館の即売展はそれぞれメンバーが違っていて、特色があることを知ったのは、東京に来てからのことだった。
それぞれの業界、つまり本の周辺の妙味をわかりやすく、また敷居を低くさせながら個々の溝を埋め、そして「バラエティ雑誌」の名の通りなるべく面白い(笑って楽しめる)誌面をつくろうとしているが、なかなかうまくいかない。ここ最近になって知ったのだが、大体の人は自分の根っこにある経験(編集者・ライター・新刊・古本・取次等)をベースに考えたり好奇心を持ったり、あるいは判断したりするもので、私のように節操のない関心を持ってベースのない人間はごく僅かなのだ。売れないはずである。
もともと編集者の経験がないので、作業は手探りだ。活字系の雑誌も、自分で作るまでは熱心に読んだ経験が浅い。そのため、もっぱら参考にするのはテレビ番組で、創刊当初は『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の構成や企画を参考にしていた。 次号でついに10号になる。特集は「本と腰痛」。この特集タイトルを言うと笑われることが多いが、しかしこれほどまでに腰を痛める業界もないのではないか。百万塔陀羅尼や古活字本が生まれるはるか以前から、脈々と続く「腰痛」と、「本」との出逢い……どうしても、儲からない方へと行っている気がするが、それでも出し続けることで、何かが変わるのではないかと思っている。
(買える場所) ジュンク堂書店吉祥寺店・池袋店・福岡店他 まんだらけ中野店記憶・大予言 古書往来座 タコシェ 模索舎 ガケ書房 古書善行堂 古本徒然舎他
通販はトマソン社で! http://tomasonsha.com/
『BOOK5』9号 特集:古書目録 トマソン社刊
定価:800円(税込) 好評発売中
http://tomasonsha.com/?mode=cate&cbid=1262007&csid=1&sort=n
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古本屋に過ぎた時間の一束
内堀弘
御茶ノ水の駅から緩い坂を下りていくと、やがて神保町の古書店街に突き当たります。その少し手前に東京古書会館があって、業者の市場(入札会)がここで毎日開かれています。 大型のトラックで何台もの蔵書が運び込まれることもあれば、長年のコレクションが売り立てられることもあります。引っ越しをした学生さんの本もあれば、七十年代に学生だった方の蔵書がそのまま並ぶこともあります。
この仕事はじめた頃、とにかくここに通い、本を見続けること。それが古本屋の勉強だと教えられました。何かを見つけ、入札をして、でも買えない。なら、そこでまた勉強しろと。それがもう三十年も前のことです。
『図書新聞』という書評紙で、「古書肆の眼」というコラムを連載をしてきました。月に一回、古本屋暮らしでの発見や驚きを書いて、それがもうすぐ二百回になります。 最初の百回ほどは十年前に出した『石神井書林日録』(晶文社)に入りましたが、これはそれからの十年をまとめた続編です。しかし、十年は本当にひと昔です。
たとえば、以前は十万円もしていた全集が、いまは一万円もしないという話をよく聞きます。そういう変化が顕著な十年でした。手放す人はいても、それを求める人がいない。価格の向こう側で、人は入れ替わっています。
この本は晶文社の中川六平さんが編集してくれました。『図書新聞』での連載の他にも、あちこちに書いたものが溜まっていて、それを六平さんが組み立ててくれました。ただ古い順に並べただけにも見えましたが、「こうすると時代がみえてくるよ」と言うのでした。 古書の市場では本と出会うだけでなく、たくさんの人とも出会いました。本に負けないほど人も個性的で、入れ替わっていたのはこちら側も同じでした。何人もがもう思い出深い人になっています。
だから、六平さんが「これは時代の追悼集だよ」と言ったのを、私はなるほどと思って聞いたものでした。でも、古本の世界はどこか渾然としていて、遠い時代の本をあたりまえに手に出来るように、亡くなった人もすぐ隣で笑っている。そんな、大らかな時間が流れています。 古本屋に過ぎた十年を一束にして『古本の時間』としました。気に留めていただければなによりです。
『古本の時間』内堀 弘著 晶文社刊 好評発売中
定価2310円(税込み)
http://www.shobunsha.co.jp/?p=2904
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