『釜ヶ崎語彙集 1972-1973』のふしぎ
小沢信男
「釜ヶ崎は明治天皇がつくった」とは、本書の第一章「地域」のサブタイトルです。明治三十六年に天王寺公園での勧業博覧会に天皇が行幸するので、道筋の貧民長屋どもを取り払って、強制移転させた先が、釜ヶ崎なのでした。そしてこの界隈の足跡を、江戸初期より幕末、明治、大正、昭和とたどる。ひとつの地域の事典を編むべく、歴史からはじめる。本書は、いたって正統派です。
と同時に、ケタはずれだ。編著者の寺島珠雄を中心に、数名の書き手は現場に居住し、活動していて、体験と見聞にとことん依拠する。客観よりも主観で書くぞと、ひらきなおっているのですから。 第四章「住」のサブタイトルは「すみかは街のすべて」とある。日払いアパート、酔い倒れ、アオカン(野宿)等々の項目をたてて、公園や路上や街全体が居住環境なのだと、具体的に語ってゆく。狭苦しい宿よりも夏のアオカンはのびやかだ。だが寒冬の焚火集団はやはり陰惨だ。と、いたって率直に臨場的です。
ほんとうにこれは、めずらしい本だ。そもそも本書の内容は、四十年前にできあがっていた。いきなり古本みたいなはずなのに、奇妙にナマナマしい。「眠れる美女」が目を覚ましたかのように。 本書には、現場写真も多々あって、書き手たちが撮り溜めてきた目撃証拠の数々です。とりわけ人々の集合写真は、歳月が過ぎるほどにかえってナマナマしくなるのだな。かつてアッタ状景が、こうも眼前にアル衝撃。読み合わせてゆくと、文章だってまったくおなじことなのだ。
一九七二~三年の釜ヶ崎が、こうして目を覚ます。同時に、低廉な労働力の使い捨てを、かくも常時必要としてきたこの国の資本と権力の構造が、浮かびあがる。それはいよいよ眼前焦眉の現実でしょう。非正規雇用の労働者がみるみるふえて二〇〇〇万人におよぶ、この国の釜ヶ崎化のこんにちに。
編著者の寺島珠雄は、詩人で、アナーキストで、練達の土工で、鉄筋工でした。生涯独身で、けっこうモテモテの男でもありました。一九二五年生まれで、五〇歳にもならぬ壮年期の仕事だった。一九九九年に亡くなったが。当時の若手の協力者たちが、それなりにいい歳になって、本書の目を覚ますことに尽力した。こういう愉快も、まだまだこの世にあるのだな。
『釡ヶ崎語彙集1972-1973』
寺島珠雄 編著 新宿書房刊
定価:3200円(税別)
新宿書房 http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/440_Kamagasaki.html
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トマソン社『BOOK5』
編集長 松田友泉
一般書店であまり流通していない冊子(ミニコミ・リトルプレス)などをネット販売する「トマソン社」を立ちあげたのが2012年の1月。その数カ月後の5月5日に“本に関わるすべての人へ発信する情報バラエティ誌”と銘打ち、隔月刊行誌『BOOK5』を創刊した。
最新号である9号は、「古書目録」を特集した。目録を刷っている印刷屋さんや、古書目録制作実務、支払いのために奮闘するコレクター、“古書目録そのもの”の面白さ、即売展と古書目録……と、今までにない内容となっているのではないかと思う。今号はご好意で、「地下の古書市」で行われたトークショー「薔薇十字外伝」も収録させていただいた。
古本に関する特集は2回目にあたる。1回目は第3号の「しばったり、つつんだり」という特集で、古本屋さんの「本縛り私史」や「縛りの実際」などとともに、マイカロン、スズランなどのビニール紐の違いや、オープン、スパットⅡなどの紐切りの種類などを取材した。古本屋さんには、非常に好評を持って迎えられた。
他にも、出版者、本の流通、医学書、30代女性、名画座、日記などの特集を組んだ。こうやって書いていて気がついたのだが、頑なに本そのものをほぼ取り上げていない。あえて周辺、ではなく、周辺ド真ん中だ。名画座に至っては、本ですらない。そのせいか、売れゆきはいいとは言えない。
私自身は、地方の印刷屋に勤務後上京し、古本屋、図書館、新刊書店とアルバイトをしてきた。それぞれの本業界には、面白いことが沢山ある。今回の古書目録特集にしても、そもそも「古書目録」じたいを知らない人もいるわけだし、また東京古書会館と神田古書センターを混同している人も当り前のようにいる(これはよく言われる)。私自身も、古書会館の即売展はそれぞれメンバーが違っていて、特色があることを知ったのは、東京に来てからのことだった。
それぞれの業界、つまり本の周辺の妙味をわかりやすく、また敷居を低くさせながら個々の溝を埋め、そして「バラエティ雑誌」の名の通りなるべく面白い(笑って楽しめる)誌面をつくろうとしているが、なかなかうまくいかない。ここ最近になって知ったのだが、大体の人は自分の根っこにある経験(編集者・ライター・新刊・古本・取次等)をベースに考えたり好奇心を持ったり、あるいは判断したりするもので、私のように節操のない関心を持ってベースのない人間はごく僅かなのだ。売れないはずである。
もともと編集者の経験がないので、作業は手探りだ。活字系の雑誌も、自分で作るまでは熱心に読んだ経験が浅い。そのため、もっぱら参考にするのはテレビ番組で、創刊当初は『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の構成や企画を参考にしていた。 次号でついに10号になる。特集は「本と腰痛」。この特集タイトルを言うと笑われることが多いが、しかしこれほどまでに腰を痛める業界もないのではないか。百万塔陀羅尼や古活字本が生まれるはるか以前から、脈々と続く「腰痛」と、「本」との出逢い……どうしても、儲からない方へと行っている気がするが、それでも出し続けることで、何かが変わるのではないかと思っている。
(買える場所) ジュンク堂書店吉祥寺店・池袋店・福岡店他 まんだらけ中野店記憶・大予言 古書往来座 タコシェ 模索舎 ガケ書房 古書善行堂 古本徒然舎他
通販はトマソン社で! http://tomasonsha.com/
『BOOK5』9号 特集:古書目録 トマソン社刊
定価:800円(税込) 好評発売中
http://tomasonsha.com/?mode=cate&cbid=1262007&csid=1&sort=n
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古本屋に過ぎた時間の一束
内堀弘
御茶ノ水の駅から緩い坂を下りていくと、やがて神保町の古書店街に突き当たります。その少し手前に東京古書会館があって、業者の市場(入札会)がここで毎日開かれています。 大型のトラックで何台もの蔵書が運び込まれることもあれば、長年のコレクションが売り立てられることもあります。引っ越しをした学生さんの本もあれば、七十年代に学生だった方の蔵書がそのまま並ぶこともあります。
この仕事はじめた頃、とにかくここに通い、本を見続けること。それが古本屋の勉強だと教えられました。何かを見つけ、入札をして、でも買えない。なら、そこでまた勉強しろと。それがもう三十年も前のことです。
『図書新聞』という書評紙で、「古書肆の眼」というコラムを連載をしてきました。月に一回、古本屋暮らしでの発見や驚きを書いて、それがもうすぐ二百回になります。 最初の百回ほどは十年前に出した『石神井書林日録』(晶文社)に入りましたが、これはそれからの十年をまとめた続編です。しかし、十年は本当にひと昔です。
たとえば、以前は十万円もしていた全集が、いまは一万円もしないという話をよく聞きます。そういう変化が顕著な十年でした。手放す人はいても、それを求める人がいない。価格の向こう側で、人は入れ替わっています。
この本は晶文社の中川六平さんが編集してくれました。『図書新聞』での連載の他にも、あちこちに書いたものが溜まっていて、それを六平さんが組み立ててくれました。ただ古い順に並べただけにも見えましたが、「こうすると時代がみえてくるよ」と言うのでした。 古書の市場では本と出会うだけでなく、たくさんの人とも出会いました。本に負けないほど人も個性的で、入れ替わっていたのはこちら側も同じでした。何人もがもう思い出深い人になっています。
だから、六平さんが「これは時代の追悼集だよ」と言ったのを、私はなるほどと思って聞いたものでした。でも、古本の世界はどこか渾然としていて、遠い時代の本をあたりまえに手に出来るように、亡くなった人もすぐ隣で笑っている。そんな、大らかな時間が流れています。 古本屋に過ぎた十年を一束にして『古本の時間』としました。気に留めていただければなによりです。
『古本の時間』内堀 弘著 晶文社刊 好評発売中
定価2310円(税込み)
http://www.shobunsha.co.jp/?p=2904
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本の配達人 品川力とその兄弟展より
品川 純(次男)
品川力(つとむ 1904~2006)は、東京本郷の東大赤門前で「ペリカン書房」という古書店を営み、 多くの作家や研究者から信望を集めた書籍探索の達人で、自ら『内村鑑三研究文献目録』等を上梓する書誌学者でした。
新潟県柏崎の海辺近くにある品川牧場で父・豊治と母・ツネとの間に、五人兄弟の長男として生まれ、弟妹には後に詩人・品川陽子として知られる約百(よぶ・次女)、国内外で高い評価を得た芸術家の工(たくみ・次男)がおります。父・豊治は牧場のほか、品川書店や牛乳配達店も営んでおり、また夫婦共に敬虔なキリスト教信者で、内村鑑三の崇拝者であったことも、父・力や兄弟の人生に大きく影響したようです。
動物が好きだった父より、若い頃は飼育係になりたかった、と聞いていました。子供の頃、他人のまねをしていて自分自身が吃音者になってしまったから、他人とあまりしゃべらなくても済む職業を、と考えたようです。 結局、父はしゃべらなくて済む古本屋を選んだようですが、元々本が大好きで、趣味を超えて恋人の様な存在だったと聞いています。
一家で上京後、神田猿楽町に「品川書店」を開業しましたが、父が19才の時に関東大震災で店舗を失い、母方の叔父の紹介で勤めた銀座のレストランを経て、本郷東大前の落第横丁にレストラン「ペリカン」を妹弟と共に開業しました。 多くの文学者、作家、画家らが訪れ、一種の文化サロン風な雰囲気であったようです。
ところが、繁盛していたレストランを突然廃業し、3軒奥に「ペリカン書房」を再々転身で開業するのです。本は、レストラン稼業の合間に早朝割引きの電車で古本屋を回り買い揃えたようです。祖父の影響を多大に受け、内村鑑三研究をライフワークとし、文献学者、書誌学者として研究仲間に知られていました。
純粋で、少年がそのまま大人になった様な父は正義感も強く厳格でしたが、吃音の為か、口より先に手が出るという、やや短気な面もあり、ダダをこねたり、間違ったことをした時にはビンタされたこともあります。その反面、機嫌の良い時は本郷から都電に乗り、父の好きな西部劇で往年のスター・ゲーリークーパー、アランラッドの出演する映画を見せてもらいました。
カウボーイハットが好きで、 生涯愛用し父のトレードマークになっておりました。父の持論で、貴重な文献類は自分一人で死蔵せず、また散逸しないように駒場の日本近代文学館にせっせと愛車の自転車で運んでは寄贈していました。店で扱う本はキリスト教関係の思想書が多く、 来店されるお客様は限られており、大学や図書館に出向くことが多かったのは、そこで文学談義をする事が楽しみの一つであったかも知れません。
ある大学では、白髪でセミロングの風貌から「ライオンが来た!」と幼い生徒達から人気があったようです。私達兄弟が成人する頃の父は、外出以外は研究書、思想書、文献類等を熱心に読みあさり、周りが静かになる夜間によく物を書いており、必要がない限り、あまり家族とも世間話をする事もなく寡黙でした。ただ、人から頼まれると生来断り切れない性格なのか、従兄弟の写真家・立木義浩に頼まれファッション雑誌でモデルをしたり串田孫一氏より誘われて映画「上海バンスキング」に出演ました。
「自分のした事が相手の為になり、喜んでもらえばそれで十分だ」と、無欲で、もうけ主義とも無縁。探すのを頼まれた本も新刊書は一割引、古本も購入した時の価格で、労力・電車賃など上乗せすることなく、さらにお届けまでしており、我々には 到底理解が出来ませんでした。晩年は文学研究の友人、後輩達が先に他界され段々と寂しい思いをしていたようです。 そして平成18年の夏、猛暑の影響で一ヶ月位入院した後、自宅で療養生活をしておりましたが、兄家族が見舞いに来た一時間後、いつも話しかけてくる声が無く静かだなと振り向くと、キリストに祈る、両手を胸の前で合わせる姿勢で、息をひきとっていました。
11月3日。102才と9ヶ月余りの生涯でした。いろいろと述べてきましたが、父の生き様の一端でもお分かりいただければ幸いです。私が若い頃は、恨んだり、遠い存在だったりした事もありましたが、自分の信念を曲げずに貫き通した人生には、身内ながら敬服します。一方的に、こちらから書き記しましたが、父はどう想っているのか?今となっては誰にもわかりません。
本の配達人 品川力とその兄弟展図録
柏崎ふるさと人物館 本の配達人 品川力とその兄弟展
http://www.kisnet.or.jp/~k-museum/event/ev_20130917_003.html
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ネットでは検索不能な書誌の世界の整備を行う「文圃文献類従」普及のために――1999年『文献継承』創刊
田川浩之
『文献継承』は、書誌・出版史に関する記事を掲載した片々たるリーフレットです。これまで書店に陳列されることもなく、でももうまもなく23号が発行されます。 そもそも『文献継承』は、天野敬太郎編『雑誌新聞文献事典』(小閣、1999年9月)の内容見本(1999年7月)とともに4頁の体裁ではじめて刊行しました。
小閣は、石川県金沢市に存在しますため、なかなかに大都市の大学・図書館に直接に新刊出版物の営業活動をすることもままなりません。『文献継承』を刊行したその訳は、営業・普及活動の一助になればとの思いからでした。 「書誌・情報学からの提案・ノート・随筆等の文章を、僅かなスペースではありますが、読者の皆様にお届け」すると宣言し、新刊内容見本を発行の都度、少しでもそのパンフレットを見てもらえるようにとの営業・普及補助ツールとの位置づけにてうまれたという訳です。
新刊出版物は、日本の近代における書誌/出版/書物メディア文化史に関する資料をその内容とし、ネットでは検索不能な部分の整備を行うシリーズ「文圃文献類従」として、最初の出版物、上記『雑誌新聞文献事典』を刊行しました。 その刊行に先立って、内容見本を作成し、全国の大学・公共図書館、歴史・社会・図書館学研究者の方々に、この『文献継承』とともにご案内申し上げました。
歴史研究に雑誌が資料として活用されるちょうどとば口だったのか、本の内容がよかったのか、タイトルがよかったのか、『文献継承』の効果もあったのか、『雑誌新聞文献事典』は300部を売切り、それ以後「重版未定品切中」。 それから14年。『雑誌新聞文献事典』は重版されないまま、只今もその状態、『文献継承』は22号まで継続刊行することができ、頁数も当初の4倍16頁になりました。しかし、肝心の新刊出版物の発行部数は、例えば天野敬太郎ほか編『日本図書館史年表―弥生時代~1959年』(2012年)では136部で、『雑誌新聞文献事典』の半分以下。
一タイトルあたりの売上は半分以下に減少しているが、『文献継承』にご寄稿いただける方が、当初の4倍に増えた(?)と考えたい。片々たる葉っぱ『文献継承』があるおかげで、執筆者が4倍に増え、遠い将来、読者・「文圃文献類従」利用者の方々とも4倍のご縁ができるかもしれない。
わずかな人びとの支持と大勢の無関心の間で本日もゆれながら、『文献継承』23号は、今月末に発行される。十四年間の軌跡いわゆる総目次・バックナンバーは、
http://kanazawa-bumpo-kaku.jimdo.com/文献継承-20号記念/
にて公開しておりますので、ご高覧ください。
金沢文圃閣 田川 浩之
金沢文圃閣
http://kanazawa-bumpo-kaku.jimdo.com/
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『ベストセラーで振り返る中公文庫の40年』について
中公文庫編集部 福岡貴善
一九七三年、中公文庫が創刊されてから四〇年を記念し、四月十月に記念小冊子を作成しました。春号は、『ベストセラーで振り返る中公文庫の40年』と題し、小池真理子、角田光代、誉田哲也、島本理生、嵐山光三郎、鵜飼哲夫、瀧井朝世の各氏に思い出の中公文庫について語っていただきました。
秋号は、「中公文庫40年 メディアをにぎわせた名著」と題しました。橋本治(青春小説)、三浦雅士(歴史物)、小谷野敦(谷崎潤一郎)、岡崎武志(日本人論)、香山二三郎(エンターテインメント)、末國善巳(歴史・時代小説)の各氏に、中公文庫の特色をジャンルごとに分析していただいた他、新聞や雑誌メディアで話題となった品を、編集部作成のコラムで取りあげています。
コラム執筆に際して多くの資料を集めましたが、面白かったのは、『週刊読売』一九七一年五月七日号が「特別企画 日本人」と題した、「日本人論」についての三〇ページにわたる特集です。巻頭に会田雄次「母性的社会のニッポン」と題する学術的な論文が掲載されていますが、「上杉謙信女性説」など意外性あふれる史観で一世風靡した八切止夫が騎馬民族征服王調節を批判した「日本原住民 謀略のにおいが漂う”韓国こそわが祖国説”」、ベストセラー『How To Sex』の著者・奈良林祥による「性意識ではまだまだ世界の”田舎もん”」など、懐かしすぎるエッセイが掲載されています。川本信正が「日の丸と金メダルに帰一するスポーツ価値観」と題して展開した勝利至上主義批判は、スポーツ界の体罰問題に揺れる今読んでも、古びない論考です。
「日本人とは何か――17氏は、こう見る」と題した著名人へのアンケートでは、浅丘ルリ子の「ハワイのホテルでステテコ姿の日本人を見ましたが、マナーをわきまえないのもいやです」という回答に、「ノーキョー」(農協主催の団体旅行)が世界各国で顰蹙を買っているという噂があったことを思い出します。渥美清は「日本人でありながら、日本人であることを恥ずかしいと思っている」と回答しています。七〇~八〇年代は数多くの日本人論が著されましたが、まさにその理由を言い当てた言葉でしょう。
それから四十年、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」、「失われた二十年」を経て、日本人は「内向き」になっていると言われます。出版界のあり方も変革を迎えつつある今、過去を振り返ることは決して無意味ではない、そんな思いをこめて製作しました。書店で見かけることがございましたら、ぜひ、手にとっていただきたく存じます。(敬称略)
『秋の中公文庫40周年記念フェア 小冊子』
http://www.chuko.co.jp/bunko40th/
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『神保町公式ガイド Vol.4』発行のお知らせ
神田古書店連盟 藤下真潮
「古書店が新刊本を世に送り出した!」と評判の『神田神保町公式ガイド』は、今年で 4 回目の発行。今回の目玉はなん といっても、過去最多119 店舗の古書店紹介。
「文学」「歴史」「自然科学」から「趣味・芸術」「サブカルチャー」に至る11ジャンルに渡って、店主&店員が自ら書 いた個性あふれる〈お店&商品紹介〉で読み応え十分。まさに公式ガイドにふさわしい内容です!
これまでの熱烈な古書マニア御用達店舗のほかに、男女問わずミドル層が若い頃に親しんだ『平凡パンチ』『GORO』 『明星』『平凡』などの雑誌、またその時代のアイドルスター写真集を扱うサブカル系店舗が数多く載っているので“おっ 、なんだか懐かしい!”とノスタルジーな気分にも浸れます。
そこで今回表紙は、消しゴム版画家でイラストレーターのとみこはんに色んな山羊のハンコを作って頂き、60~70 年代を 彷彿とさせるポップなイメージにしてみました。
他に第1特集として、近年『舟を編む』で注目を浴びた”辞書”をテーマに、古辞書の世界から三省堂辞書編集部の内部 に至るまでを網羅。さらに第2特集では古今東西津々浦々の絵本の華麗な世界をご紹介。
世界一の古書ワールド”神保町”を堪能できる充実のコンテンツ満載です!
<本書の内容>
★第 1 特集 辞書の旅
・まるで宇宙のごとく奥深い。歴史から読み解く「古辞書探究」
・古書店が選ぶ「これぞ! 逸品辞書」
・サンキュータツオが聞く「“辞書男”談議 ~辞書に魅せられて~」
・『舟を編む』で注目を浴びた 辞書編集部を直撃!!
★第 2 特集 ようこそ! 絵本ワールドへ
・絵本の歴史を紐解く
・スペシャル対談 サトシン(絵本作家)×宮崎亜古(千代田区立四番町図書館 館長)「絵本は、子どもの笑顔を引き出す 便利ツールです」
★古書店主&店員が自ら書いた古書店案内 119 店舗一挙掲載!
「文学」「古典籍」「歴史」「思想・宗教」「外国語」「社会科学」「自然科学」「美術・版画」「趣味・芸術」「サブ
カルチャー」「古書全般」
★古書の祭典「東京名物・神田古本まつり」の歩き方
★“世界一の本の街”をつくる 神田古書店連盟全 156 店リスト
★神田神保町古書店MAP(年間イベントスケジュールつき)
発売:2013 年 10 月 8 日
発行:神田古書店連盟 発売:メディアパル
制作:風讃社「ナビブラ神保町」編集部
仕様:A4 判、オールカラー 176 ページ
定価:1,200 円(税込) 発行部数:25,000部
メディアパル http://www.mediapal.co.jp/book/562/index.html
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『古書手帳』の出版
駱駝舎・川村光郎
『古書手帳』はなぜこんなに売れるのだろう。編集作業をほぼ終えた9月10日に東京古書組合員にファックスで「発刊のお知らせと予約のご案内」を送った。そうしたら、なんと1週間も経たないのに、予約注文は500部を超えてしまったのである。当初は800部印刷の予定だった。東京の古本屋さんだけではなく、全国の古本屋さんにも渡したいねということで部数を1000部に増やしたばかりだった。発行予定日が10月15日だからそれまでに予約数がどれだけ増えるのか予想が付かない。
発行前に売り切れてしまうこともあり得るのではないかと嬉しいような不安がある。結局、印刷所に1500部の注文をした。ところが、9月23日中央線支部ホームページに案内を載せ、広報部長の三暁堂・梶塚氏がツイートしたところ、1時間に100件を超えるリツイートがあったという。そして一般の人たちからの注文メールが全国から集まってきた。10月初めに予約だけで1000部を超えてしまった。
わたしが約40年やってきた外国書の輸入販売から手を引いて、まだ肉体は頑健だから古本でも扱ってみようかと東京古書組合に加入したのは7、8年前のことだ。水道橋の日大の近くにあった事務所兼店舗も閉じて、中野の自宅で古本屋といっても仕事にならない。倉庫を持つこともなく、古書を山で買うこともできない。同じ本を扱うにしても不慣れな仕事に戸惑うばかりだ。市場で耳に入る言葉も意味がよく分からない。仕事もままならぬまま、昨年夏から中央線支部の(部下のいない)機関紙部長となり月刊で『支部ニュース』をつくりはじめた。 A4判2段組の2ページ。どうということもない内容だが、自分の意見を折り込みながら支部長黙認のまま勝手に編集している。
そもそも『手帳』の発端は日本の古書についてもっとよく知りたいと思ったことだ。自分のためのメモ書きのようなものだったのである。それが機関紙部長など引き受けたものだから、支部の組合員のために一肌脱ぐかとなり、役員会で内容の一部を見せたりしている内に東京の組合員にも宣伝しようとなり、もっと広げて全国の組合にも案内を出そうとなり、最後は一般の人たちにも売りましょうということになった。
考えてみれば、これほどの反響を得たのは、出版の原点に戻ったからではないだろうか。それは自分が求めている情報を集めてそれを多くの人と共有しようと始まった企画だからである。そして支部組合員用には定款・規約類、住所録を付加した特別版を別に200部つくるようにした。いろいろ事情があり、中央線支部員用の『組合員手帳』と市販用の『古書手帳』の2種類をつくることになったのである。原稿・イラスト・レイアウト・入力・編集・校正・装丁をほとんど1人でこなしたので、楽しい作業ではあったが、酷暑の後は疲労困憊の状態になった。
内容的には、我ながら面白い本に仕上がったなと思う。これまでこのようにまとめた小冊子がなかったことが不思議だ。文庫本サイズだから携帯しやすいし、「和本の作法」、「古本屋の流儀」、「洋古書目録を読む悦楽」の章それぞれに図解をつけ、用語集は読み物としても面白い。「西暦・和暦比較対照表」、東京で開催されている約50の即売展情報は役に立つ。古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山力也氏のエッセイまで入っている。これで定価はわずか500円なのだから売れないはずはない。再版はしないので、今年中(あるいは10月末)には絶版書となり、古書店での価格は倍に跳ね上がるかもしれない。
10月26-27日には高円寺フェスの西部古書会館で、10月26日から11月4日まで行われる神田古本まつりの案内所でも手帳の販売をします。その分の300部は確保してある。売り切れないうちにお出かけ下さい
色は2種類ありますが、中は一緒です。
東京古書組合 中央線支部
定価:500円+送料 好評発売中
http://kosho-chuousenshibu.jimdo.com/
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「なぜか? 出た 音羽館の本」
広瀬洋一
皆さまこんにちは。このたび、9月に本を出しました音羽館の広瀬と申します。 当店は何の変哲もない小さな町の古本屋です。ですから、まさか自分が書いた本が出版されるとは! と正直、今でも不思議な気分でいます。
ただ書いたといっても、実は自分が書いた部分は少なく、おもに喋った内容を、ライターの北條一浩さんに書き上げていただきました。北條さんは昨年、『わたしのブックストア』を出したり、夏葉社の『冬の本』を編集している、今とても脂の乗った書き手のひとりです。近場の何時間いても嫌な顔をされない、ナイスな喫茶店で何度も話を聞いていただきました。版元は「本の雑誌社」、そちらの宮里さんに編集担当をしていただきました。お二人ともこの本を出す前から、当店のお客さまで、最近では来店時に必ず話し込んでしまうような間柄になっていました。
そんなこともあって、気の合う仲間同士に語ったような、肩の凝らない作りになっているようです。何人かにお聞きしたところ、読みやすく、あっという間に読んでしまったそうです。
店の事から始まって、自分の事、出身の高原書店、関わっているイベントの話、西荻窪の町の話、すべて当然ながら自分と店の周りの事柄です。なんだか恥ずかしくもあり、瑣末な事ばかりで、ゲラを見せていただいた時には、これで大丈夫なのかな?と不安になりました。
ただ穂村弘さんを始め、大竹昭子さん、岡崎武志さんなど、強力な助っ人も登場していただいています。またウチのカミさんのイラストや、川畑さんや望月さんの装丁や写真にも助けられ、なんとか体裁は整っていると思います。 気恥ずかしさもあり、いまだに自分では通読できない! のですが、ぜひ書店に並んでいる本をお手に取り、ページをめくってみてください。いかに周りの方の応援で、成り立っているかが確認できると思います。考えてみると本当に店と同じですね。これからも調子の良いときには考えられる、こんな気持ちをいつまでも持ち続けられるよう励んでゆきたいと思います。
メールマガジンご購読の皆さま、近くにお越しの際は、ぜひご来店ください。お待ちしております。
『西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事』 広瀬 洋一 著
本の雑誌社刊
定価1575円(税込)好評発売中
http://www.webdoku.jp/kanko/page/9784860112462.html
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『古本屋ツアー・イン・ジャパン』予告編
百町研一(原書房編集部)
12月中旬に『古本屋ツアー・イン・ジャパン』(原書房)が刊行されます。「古ツアさん」こと、小山力也さん初の著書です。 小山さんは 5年ほど前から1日1軒の古書店調査を自らに課し、これまでおよそ2000件に上る記録をブログに刻んできました。そこには最寄り駅からお店までの道順に始まり、外観、店頭台や店内のレイアウト、棚の構成が克明に記されています。こうしたタイプの古本屋探訪記は今まで見たことがありませんでした。
「修行僧か伊能忠敬の生まれ変わりか」というくらい無茶に丹念に各地を回り、「それふつう電話してから行くでしょ」というような遠方の古書店にも、いきなり出かけて、閉じたシャッターや貼紙の前でションボリうなだれるという奇行すれすれのふるまいも、ブログの読者には新鮮に映りました。この人おかしぃんちゃうかと。
書籍化のきっかけは、音羽館の広瀬洋一さん肝煎りによる第50回「西荻ブックマーク」(2011年3月19日)でした。「岡崎武志×小山力也対談」の会場は、大正末期創業という古めかしいビリヤード場の2階。トーク中に襲った震度3の余震にビクビクしながらも、「おぉ、あれが幻の古本屋ツアーの人か」と興味シンシンで話を聴きました。常識の斜め上をゆく古本屋さんや奇抜な店主のエピソードに笑い、驚きながらトークは終了。そうして進行役の岡崎さんが最後に言いました。
「これ誰か本にする人、出版社いないですかぁ。早いもん勝ちですよ」
…それから幾年月、ようやく出版にこぎつけたわけですが、簡単にそれまでのプロセスを記しておきましょう。
まずはブログにアップされたお店や古書イベント全件の訪問日/エリア/店名/特徴などを入力し、載せるべきお店を段階的に絞り込み、打ち合わせを重ねてどのような構成?姿かたちにするかを話し合い、独特なテキストの表記に手を入れ、 リライトするといった作業がおよそ2年間かけて行われました。
当初は全件・全店載せるつもりで企画しましたが、いったい何巻本で何千ページになるのか、その間にもブログは日々更新され…、ということでその案はボツになり、「じゃあベスト版でいきましょう」と社内と著者を丸め込み、最終的にはA5判、2段組384ページほどに落ち着きました。
今回の書籍化にあたり、沖縄取材「古本屋ツアー・イン・ナハ」をはじめ、小山さんが心の中で「ドヒャッホウ!」と叫んだ本のコーナーや、古本屋さんの見取り図セレクト編など、お楽しみも盛り込みました。岡崎武志さんの解説も必読、そして「コレは売りになると思うんですよね」とささやく小山さんの口車にうっかり乗せられ、ツアーした1600件近い古本屋さんリストも巻末に付けてしまいました。
この本は一般的な古本屋ガイドではありません。電話番号やお店へのインタビューもありませんし、ゲリラ的に、勝手に取材しています。かといって紀行文のたぐいでもない。営業担当も「これどういう棚に置いてもらうといいんでしょうねえ」と困り顔です(でも、ちょっと楽しんでいるようにも見えました)
15年ほど前、古本屋を歩く夢を繰り返し見ていた時期がありました。かつて住んだ場所や、なじみのある街をぶらぶら歩き、途中で中古レコード店に立ち寄ったり、夕暮れの酒場へ吸い込まれたりしながら、夢の中で様々なルートを歩き古本屋を訪れました。
よほど古本に入れ込んでいたのでしょう。気に入ったシブい店には何度も通ったり、ずっと気になっているのにどうしても行き着けない奇妙なお店もありました。しまいには実際の古書店の記憶、場所の感覚、夢のお店とが混ざり合って、「よしよし、これで龍膽寺雄全集はあと一冊」、「アレ? あそこに古本屋があるはずなんだけどな」ということすらありました。あったはずの場所にお店がないと、夢の中でもさびしい気持ちになったものです。
小山さんが2008年にツアーを開始してからはや5年。この本ができる前に営業終了、リニューアル、オンライン販売に移行したお店など、大小変化がありました。新規に開業したところも随分あるようです。
つい先日、西部古書会館のある高円寺で戦前から続くお店の支店が店名を変えるという衝撃ニュースが飛び込んできました。年内いっぱいで慣れ親しんだ看板が架け替えられるわけです。
今なら間に合います。「まだ」お店を開けているあなたの街の古本屋さんを、見知らぬ土地の古本屋さんを訪ねてみてください。『古本屋ツアー・イン・ジャパン』には、ヘンテコでチャーミングでいとおしくなるようなお店たちがたくさん載っています。この本を眺めていると、きっと古本欲がムズムズして、ツアーを敢行したくなりますよ。
『古本屋ツアー・イン・ジャパン──全国古書店めぐり 珍奇で愉快な一五〇のお店』
小山力也著 原書房刊
定価2520円(税込) 12月17日発売予定
http://www.hanmoto.com/jpokinkan/bd/9784562049745.html
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