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自著を語る92 『貧乏暇あり 札幌古本屋日記』

『貧乏暇あり 札幌古本屋日記』

須賀章雅

「札幌の古書須雅屋と申します。これは最底辺に淀んでいる或る古本屋が浮遊しつつ流されてゆくモノトーンな日々の記録でございます」という端書きのあるブログ日記を書き始めたのが、もう八年前のことです。このブログが奇特な(実は目利きと信じているのですが)編集者さんの目に留まり、この度書籍化されたのが本書でございます。

 中身は2005年から2011年に亘る日録。この間に書かれた日記がほぼ2150日分あり、そこから約14分の1の155日分を選んで、修正、補筆の上、七年間の私の人生をぎゅっと絞り込んで335頁に詰め込み、お買い得な一冊に仕上げました。出来上がってみると、悔恨と貧困、回想と妄想に彩られた、危うい綱渡りの、だが、ゆるーい日常を綴った赤裸々な古本屋長篇ドキュメントになったのでは、と思っております。  古本屋と申しましても、十数年前に実店舗を撤退した後は通販専門となり、アルバイトをしながら食い繋ぎ、今日まで奇跡的に生き延びて来た次第です。

 札幌の業者市場、古本市、お客さん宅の蔵書整理など、自分と自分の周囲の古本屋事情のみを記述してきたつもりですが、発売約二ヶ月が経過し、思いがけなくも、いくつかご感想も寄せられております。「家中が本だらけで押し入れに寝かせられている奥さんが気の毒」、「『うどん、ナットウ、冷水、ミニあんパン、カフェオレ』などという奇怪な食生活」、「古書業者の交換会(市場)の様子や古本屋経営がリアルに描かれている」、「冒頭から爆笑の連続」、「古書業界の実態とそこでもがく古本屋さんたちの姿が描かれていますね」、「古書業界の流れ行く風景をスナップ写真を撮り続けるように記している」などなど、ほお、そうでっか、と誰か他の人が書いた本への反応のように感心しております。

 ちなみに、取材をして頂いた新聞記者さんに「この本で一番訴えたかったことはなんですか?」と真顔で訊かれて、「は?」と言葉に詰まりました。そんなだいそれたモノはないのです。こんなバカな男でも生きているのだなあ、と笑って楽しく読んで頂ければ嬉しいのですから。  ただでさえ恥ずかしい内容であるのに、恥の上塗りの「まえがき」「登場する古本屋さんたち(一覧)」「書庫兼自宅の間取図」「あとがき」も入っております。まずは書店でお手にとられて、「まえがき」を覗いて頂けたらありがたく存じます。

ブログ
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 『貧乏暇あり―札幌古本屋日記 』 須賀 章雅著
 (論創社 価格:1,890円(税込))好評発売中!
  http://www.ronso.co.jp/

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自著を語る97 『立花隆の書棚』について

『立花隆の書棚』について

立花 隆

 この本を書きあげて、つくづく思ったことは、私がどれほど古書店とつながりが古いかということだ。

 全書棚を撮影したカメラマンの見立てによると、蔵書数はざっと10万冊くらいだろうといっていたが、その半分以上が、古書店で買ったものだと思う。新刊の本を思う存分買えるようになったのは、比較的最近 のこと(特に書評をするようになって新刊書の購入代金を出版社に請求できるようになってから)で、若い頃はそんなに金がなかったから、大半は古書店で買っていた。

 私と古書店の付き合いは古い。だから古書通信も相当前から読んでいた。神保町に足しげく通うようになったのは、高校生になってからだから、昭和三十二年からだ(この年に上京して都立上野高校に入った)。

 最初に神保町に行ったのは、本を買うためではなく、本を売るためだった。父親が出版業界新聞・書評新聞の仕事(「全国出版新聞」→「週刊読書人」)を終戦直後からずっとやっていたから、家にはいつでも本がゴロゴロしていた。処分していい本がある程度たまると、「これを○○(今は廃業した古書店)に持って行って売ってこい」、と命じられて、大きな風呂敷包みをブラ下げて、本を売りに行ったのである。といっても、「父に言われてきました」といって、店主に本を渡すだけの”お使い”である。行く店はおおむね決まっていたが、ある時点から、古書店は、同じ本でも 買い値も、売り値も、時によって、店によってまるで違うということを学習して、何店かまわって、駆け引きを試みるようなこともした。そのうち、古書店の棚を見て歩く面白さがわかってきて、ひまさえあれば、古書店を見て歩くようになった。

 あの頃、神保町周辺、水道橋周辺には、いまの何倍も古書店があった。
大学生になってからは、自分の欲望で古書店通いをした。いつも金がなくてアルバイト生活だったから、本は古書店をまわって、いちばん安いものを買うことにしていた。都内全域の古書店地図帖を入手して、それを片手に、主な古書店街は歩きつくした。神保町・水道橋周辺以外では、早稲田周辺、本郷東大前周辺、中央線沿線の主だった古書店はだいたい歩きつくした。どの書店のどの棚のどこに、どういう本がどれくらいの値付けで置いてあるか、いつのまにか頭の中で記憶し、比較検討していた。

 あの頃は、いまのように、ネットで古書店のページを開けば値段を簡単に比較できるなんてことはなかったから、ひたすら自分の記憶だけが頼りだった。

 大学を卒業して、出版社に就職して雑誌取材の仕事をするようになってからは、地方に出張するたびに、その土地の古本屋を漁るのを楽しみにした。特に京都、大阪、神戸の古本屋はなかなかの店が多く感心した。

 いまは年をとったせいもあるが、足が弱くなり、体力も相当に落ちこんだので、昔のように、足にまかせて歩きまわるということができなくなった。しかし、ネットが発達したおかげで幾らでも本探しができて、行ったことも、聞いたこともないような地方の古書店を含めて、簡単に欲しい本が入手できるようになったのはありがたいかぎりだ。おかげでいまは若い頃より、もっと古書店を利用しているといえるかもしれない。

 最近は、ネットで商売をするだけで、リアルな店舗すら持たない古書店が結構あると聞いている。リアルな出版業の世界では、不景気な話しか聞こえてこないが、本の流通の世界では、古書店を通しての、価値ある本の流通総量はこれからも衰えることなく増えていくと思う。今日も神保町の三省堂に新刊本を買いにいって、帰るときには、新刊本の包みより大きな古本の包み(三省堂近傍の古書店で買った)をぶら下げていた。
syodana
『立花隆の書棚』 立花 隆 著  薈田 純一 写真 
中央公論新社 定価3150円(本体3000円) 好評発売中!
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自著を語る96 『満洲出版史』のこと

『満洲出版史』のこと

岡村敬二

昨年12月に吉川弘文館から『満洲出版史』を刊行することができた。ここでいう満洲とは、日露戦争後に南満洲鉄道株式会社が経営していた時期、満洲国建国後に満鉄と並立していた時期、さらに治外法権撤廃により満洲国に経営権を移譲して以降の時期をさしている。つまり本書の出版の歴史は、この満鉄から満洲国崩壊までの満洲時期を通したもので、通史ということになる。そして実は、これら満洲時期に集積された出版物が戦後に中国の図書館に遺されたという歴史的事実を勘案すれば、その出版の歴史は、終戦時以降今日まで継続しているとも言いうるのである。

この満洲の時期に、いわゆる出版という営為が存在したのかとまずは問われるであろう。もちろんそれは統制の色合いが濃い歴史ではあったが、人びとが本源的に持っている表現への志向としての出版は、満洲に渡った日本人にあっても、また「満人」と呼称された満洲国に住まう人たちにとっても、その営為が成熟はしていなくとも確かに存在していたのだと答えておきたいと思う。だからこそ逆に強く統制が掛けられてきたと言えるわけだ。

とはいえ満洲の出版を論じるといってもこれに関する資料としてまとまったものはない。今回の作業でも、年鑑や法令輯覧などでその事象や法令をひとつひとつ拾って年表を作成していくことから始めた。そしてまたその記述や年月の表記も資料により不安定であり、なかなか確定しがたいところがある。しかも満洲地域で流通した出版物のうち、満鉄の刊行物や満洲国の官庁刊行物を別にすれば、民間で刊行された出版物はほとんど日本に残されておらず、図書館などの所在は少なく、古書市場に出た場合は大変な高値を呼ぶのが実情である。戦後の引き揚げでも持ち帰りの荷物に入れるには事情が許さなかったことから、現物自体が希少なのである。そんななかで、ともあれここまでまとめたものを一度通史として提出し満洲出版研究のスタートとしておきたいと考えて今回の刊行に至ったのであった。論述にあたっては、以前に満洲地域の全国書誌に近いものをと考えて編纂した『満州出版目録』や、満鉄・満洲国の図書館でさかんに刊行された図書館報を活用した。そんなことから本書もいささか納本や検閲といった方面に偏したきらいがないでもない。

これまでこうした研究を進展させるために何度か中国東北地方の図書館に出向き、中国に遺された資料を閲覧し調査した。その訪書の記録は、科研調査報告や拙著のなかで随時報告してきた。そしてこの資料調査で中国に渡ったときには、図書館での資料閲覧現を終えたあとに、できるだけその町を歩いて満洲時代の出版機関や図書館などの場所を確認し建物を実見した。満洲での出版活動の、空間的かつ地理的な感触をも身に着けておきたいと考えたからである。こうした町歩きについては、展示図録2冊を刊行し、またこの3月に「古都と新都-満洲国 奉天と新京」としてまとめることもできた。

資料中心のこのような『満洲出版史』であるが、現地を実際に歩くといったこうした現場感覚も、本書のなかから少しでも感じ取っていただけると嬉しく思う。

資料展示図録は『満洲の図書館』(2011年)、『終戦時新京 蔵書の行方』(2012年)の2冊、「古都と新都-満洲国 奉天と新京」は『比較古都論-町の成り立ち、人の往来』に所収で、ともに京都ノートルダム女子大学の刊行。

入手ご希望の方は、『満洲の図書館』『終戦時新京蔵書の行方』は80円切手、『比較古都論』は160円切手を同封のうえ下記住所に送りくだされば、クロネコメール便で送付します。また3冊では340円の切手同封で、ゆうメールにてお送りします。 連絡先 〒610-0351 京都府京田辺市大住ケ丘4-5-5 おおすみ書屋
man
『満洲出版史』 岡村敬二著 
吉川弘文館 定価 8,500円+税 好評発売中!
http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b105558.html

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自著を語る95 『表紙裏の書誌学』評判記

『表紙裏の書誌学』評判記

渡辺守邦

[頭取]  『表紙裏の書誌学』という本が出ました。

[ワル口]  屋根裏、路地裏、足の裏、裏のつく字は数々あれど、表紙裏ってのは初耳だ。

[ヒイキ]  表紙はいわば本の顔、和本では浅葱色とか栗皮色とかに染めた紙、あるいは金襴とか緞子などを使ってお洒落をしてます。そして表紙のもう一つの役目は中身の保護、芯紙というやや厚手の漉返しを表紙に貼りつけますが、それは板本の発行部数が増大した以降のこと、江戸時代の初期までは反古紙二枚ほどを貼って補強材に充ててました。これを表紙裏反古と申します。

[頭取]  表紙屋の手元に集まってくる反古紙といえば、印刷現場から出る校正刷りとか試し刷り、刷りやれ等々、それも……。

[ヒイキ]  それも今回出現したのは、淀君と秀頼の最期を伝える『大坂物語』とか本邦初の一切経摺本とされながら全貌の明らかでない宗存版などの古活字版、はたまた表紙屋のものと思われる大福帳などのお宝。

[ワル口]  大福帳がお宝とは、大袈裟な。

[ヒイキ]  表紙裏に反古をひそませるのは出版業の揺籃期に限るところから、調査対象として採りあげられた書物も『全九集』(元和古活字版)・『史記』(慶長古活字版)・『鴉鷺合戦物語』(寛永古活字版)・観世流謡本(寛永六年板)などと絢爛豪華、それに応じて反古もまた珍品が出てきました。

[ワル口]  出てきましたじゃなくって、表紙から引っぺがしましただろう。

[頭取]  たしかに原態への復帰はむずかしい課題、その配慮は常に怠ることがなかったもののようでござります。

[ヒイキ]  表紙裏への関心は、ある文庫の『史記』に接することを境に変化があったようです。ここの『史記』は観世流最古版の謡本反古を表紙裏にひそませることで有名ですが、反古の保存と公開との双方への配慮のあることを発見して補修に当った関係者の心配りに著者は驚いてます。また別の図書館では、スケルトン写真によって表紙の前面から裏反古を透視するなど、表紙の解体なしに進める調査を模索したりもしてたようです。

[ワル口]  怪しやな、見えないはずの裏側を見透かすとは、キリシタン伴天連の法か。

[頭取]  詳しくはこの本をお読みくださりませ。
hyoushi
 『表紙裏の書誌学』 渡辺守邦著
  笠間書院 定価 3,500円+税 好評発売中!
   http://kasamashoin.jp/2012/12/post_2497.html

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s

自著を語る94 『S先生のこと』

『S先生のこと』

尾崎俊介

 「須山静夫先生のことを本に書いた」と人に言うと、「フラナリー・オコナーの作品は須山訳で読みましたよ!」とか、「フォークナーの『八月の光』は冨山房の須山訳で読みました」といった反応が返ってくることが多い。須山静夫先生のお名前は、世間一般からすればあまり有名ではないかも知れないが、一部の本好きの間では依然として熱烈に支持されているところがあるのだろう。時に「伝説の翻訳家」などと紹介されることがあるのもよく分かる。

 無論、いたずらに須山先生を神格化するつもりはない。しかし、翻訳家としての須山先生の姿を間近に見てきた経験からして、先生の翻訳に賭ける情熱は、確かに「伝説」のカテゴリーに入るものだったのではないかと思うことがある。

 例えばハーマン・メルヴィルの晩年の大作『クラレル』。原著で500頁に及ぶこの難解な長詩を15年という長い年月を掛けて本邦初訳された時、須山先生は、3種あるテキストを注まで含めてすべて参照し、本作品に少しでも言及している研究書をことごとく読破されたばかりか、舞台となっているイスラエルに二度まで足を運ばれ、主人公である神学生クラレルが作中で歩いたその道をご自身の足で歩まれた。そういう詳細を究めた下調べを当然のごとく済まされた上で、1万8千行になんなんとする詩の一行一行を、それこそメルヴィルがこれを綴った時と同じ気持ちにならんと努めながら、珠玉の日本語に移し替えて行かれた時の先生の峻厳さと気迫は、先生の穏やかにも見える外見を内側から突き破って燃え出すかのようだった。

 だが、そこまでの峻厳さ、そこまでの気迫を込めて須山先生が翻訳に、研究に、邁進されたのは、「それが先生のご気質だったから」と言って済まされるものではなかったのである。

 若き日に最愛の奥様を病気で失われたこと。そしてその奥様との間にもうけられたご長男を、長じてから交通事故で失われたこと。掛け替えのないお二人を、お二人とも奪われた須山先生の心には、埋めようもない暗黒、「神の残した黒い穴」が大きく口を開いていた。先生の過酷な生涯は、この絶対の暗黒の中を、狂気に落ちる誘惑と戦いながら歩まれた軌跡であり、先生の翻訳も研究も、すべてこの暗闇から抜け出すための、否、この暗闇の果てを見極めるための必死のもがきだったのだ。

 本書『S先生のこと』は、先生の苦悩に満ちたご生涯のごく一部を、ただ傍で見守るしかなかった不肖の弟子が、せめてその一部だけでも語り継ぐべく書き上げた、「アメリカ文学者・須山静夫」の墓標のようなものである。

 須山静夫という名前に聞き覚えのある方はもちろんのこと、「愛する者を失った時、人はどう生きるべきか」という問いに一度でも触れた経験のある方すべてに本書を読んでいただきたい。そして「S先生」が苦悩の果てに選び取られた生き方が如何なるものであったか、知っていただきたい。

 そしてそれを知った時、読み手一人一人が何を思い、何を考えるか――。この本の著者として、私はそれが知りたい。
s
 『S先生のこと』 尾崎俊介 著 
  新宿書房 定価 2,400円+税 好評発売中!
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/html/mybooks/437_Ssensei.html

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自著を語る100 『西洋靴事始め』

『西洋靴事始め』

稲川實

 私たちは今、何の抵抗もなく靴を履いていますが、今から150年ほど前までは、日本人が履いては ならない、ご禁制の履き物であったという事実は、意外に知られていません。この禁令の影響で、浮世絵師が描く日本人と靴という題材では、靴を靴らしく描けませんでした。当時の国貞や国周の絵の中から、西洋靴探しをしてみて下さい。靴が靴らしく、自由に描けるようになったのは、明治中頃からで、靴の絵一つにも明治維新がありました。

 着流しに懐手で立つ、坂本龍馬の写真はあまりに有名だが、あの写真をもって、龍馬が常日頃靴を履いていたとは考えにくい。国事に奔走する革命家が、わざわざ人目を引く禁制の靴を履いて行動したとは思えないからです。しかしそれでも、靴業に携わった者として、新しい時代に向け駆け抜けて行った龍馬には、いつまでも靴を履いていて欲しいと思う一人である。

 私の子供の頃、軍人でありながら乃木将軍と東郷元帥のお二人は、超のつく有名人であった。その乃木希典(1849―1912)は、軍靴の改良にも一家言をもつ人であった。明治10年代は、軍靴の試行錯誤の時代で、緊急時に暗闇でも履けるよう、左右同形の靴を試作したりしたが、足を痛める兵が続出、失敗に終わったという笑えぬ挿話がある。乃木希典は晩年まで自説を曲げず、常在戦場の意識か、左右同形の靴を特注し、常用していたようである。かつて京橋にあったイトー靴店の創業者が造ったといわれているので、この確認も楽しみの一つである。

 現在その靴が、京都桃山の乃木神社に、合わせて5足収蔵されている。(『はきもの研究会』会長・田口秀子先生確認)写真によれば、砂ぼこりにまみれているようなので、長く現状保存できるよう、何かお手伝いができないかと思っている。

 業界誌『皮革世界』(明治43年発行)に「足の大小」という記事がある。それに九文七分(23.3cm)の部に東郷平八郎、十文(24cm)の部には乃木希典が載っている。初代総理大臣の伊藤博文公は、九文八分(23.5cm)の部にある。どなたの自伝、伝記を読んでも、ご本人の足のサイズまでは書いていないから、業界誌記者ならではの貴重な記録である。

 一つ一つ、25年間紡いできた情報である。靴の歴史を通じ、改めて足下を見つめ直してみませんか。
kutu
 『西洋靴事始め』 稲川實著
  現代書館 定価:2,000円+税 好評発売中!
  http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-5703-0.htm

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自著を語る99 忘却の彼方に葬ったつもりだったのに・・・

忘却の彼方に葬ったつもりだったのに・・・

内藤三津子

 昨年夏、論創社からこのお話をいただいたとき、正直なところ大変困惑しました。 ・・・なにしろ、ある方に「精薄的経営」とまで言われた薔薇十字社のことです。苦痛ぬきに話すことができるのか・・・何十年も経って、ようやく私の中の「恥多き過去」として閉じ込めに成功、最晩年をひっそりと生きているだけのときでしたから。

 が、ともかくお会いするだけお会いして、場合によっては・・・などと思っていたのですが、結局、小田さんの巧みな質問に誘われるまま、恥を含めた洗いざらいをお話ししてしまった次第です。

 思えば、私が編集者になったのは半世紀以上も前のことです。確かまだ、コピー機すら存在していなかったアナログそのものの時代でした。活字はひと文字ひと文字職人さん ― 植字工さんに拾われて組版となり、紙型となって印刷される。印刷会社によって活字の美しさも異なっていた、そんな時代です。それが、数年経つと、組版ではなくモノタイプとなり、やがて活版印刷という言い方がなくなり、書物の1ページを撫でてみても立体的な凹凸の感触が失われ・・・・・・あれよあれよという間に、現在のようなパソコン時代となって、フロッピーから印字転換できるようになってしまった。

 そう考えると、その昔の1冊の本の原価は、現在に比べるとかなり高価についていたのではないでしょうか。そんな時代に私の場合はさらに贅沢な本造りを敢行、後先考えずに反省することもなく続けていたのですから、何をかいわんや、です。

 ですが、今回、恥ずかしながらお話ししたことすべてを含めて、いまとなると懐かしい。経営に関しては、戻れるものなら、ああしたのに、こうしたのに、と思うものの、若い時代の体力にまかせて、お酒も飲んだが、のべつ出版のことを考えていたあの頃。・・・人に、仕事のほかにあなたの好きなものは、と聞かれると、映画と猫、と答えていたものでしたが、現在私は、視力も衰え、読書量もぐっと少なくなり、映画館へはほとんど行きません。もっぱら、猫の存在と、TVでのプロ野球中継などに救われている日々です。

 そんな私ですが、少しでも遊んでやろうというお気持ちの方がおいでになったら、どうぞ、論創社気付でお便りいただければ、どんなに嬉しいでしょうか。
bara
『薔薇十字社とその軌跡』 内藤三津子 著 
論創社 定価:1,600円+税 好評発売中!
http://www.ronso.co.jp/

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自著を語る98 『探偵作家発見100』

『探偵作家発見100』

若狭邦男

『探偵作家発見100』には、100名の探偵作家が登場する。彼らは戦前に生まれ、戦中、戦後に娯楽雑誌やカストリ雑誌に執筆、時には、少部数の単行本を刊行している。それらの収集を通じて、探偵小説研究に力を注いだ江戸川乱歩、鮎川哲也、中島河太郎らがなしえなかった、探偵作家の略年譜や来歴、探偵作家の発表作品や探偵小説の発掘を試みた。

 30数年にわたる私の収集は紆余曲折を経てなされたものである。学生時代をすごした東京、なかでも神田の古書店や大岡山のA書店から、読物としてのカストリ雑誌や探偵小説を集めはじめた。しばらくして、会員制(会員数800名)の定期刊行「古書目録」(20頁、100名参加、一人30点登録、年4回発行)には、探偵雑誌(新青年、宝石、黒猫など)やカストリ雑誌が出品されているので、会員に「葉書」を出し、連絡を待って、振込み後に入手する、というような、のんびりした時代のなかで、探偵物のマニアの存在を知ることになった。やがて、親しくなった10名のマニアから直接連絡があって、私にだけ送られてくる出品リストから戦後刊行仙花紙の探偵小説(小栗虫太郎、海野十三、木々高太郎など)を見境なく購入し、また、雑誌「宝石」や様々な種類の雑誌を手当たり次第に手に入れた。 

 同時期、私の手元には、史録書房、龍生書林、八勝堂書店、芳林文庫、西村文生堂、落穂舎などから探偵物に特化した「古書目録」、また各地の古書店の出した「古書展目録」が年間800点も送られてきていたので、止めどなく購入することになった。今では、定期的に探索ノートを見ながら、ホームページ「日本の古本屋」をチェックしている。勿論、発行されたカストリ雑誌、すべてを完全収集することを目指しているからである。

 本書は、そのようにして購入した探偵小説や雑誌に目を通して長い期間にわたってまとめた「探偵作家ノート」50冊をもとに執筆した。探偵物に興味がある若い世代の方々には、探偵作家ごとに、あるいは雑誌ごとに項目をわけて、自分用のデータを蓄積することを薦めたい。そこには、素晴らしい発見があるからで、おそらく君を捉えてはなさないだろう。
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『探偵作家発見100』 若狭邦男 著 
日本古書通信 税込定価2,940円 好評発売中!
http://www.kanaishoten.jp/kotsu/

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お茶ナビゲート “お茶ナビ”を起点に個性的な街歩きを始めましょう!

“お茶ナビ”を起点に個性的な街歩きを始めましょう!

国立情報学研究所/NPO法人連想出版 中村佳史

2013年4月12日、聖橋のふもとにお茶の水の新しいランドマーク「御茶ノ水ソラシティ」がグランドオープンしました。その地下1階にできた街の案内施設「お茶ナビゲート」をご紹介します。“お茶ナビ”を起点にして、個性的なお散歩を始めてください。

お茶ナビゲートには大きく3つのコーナーがあります。まず入口正面に、お茶の水を中心とした約2キロ圏内の大きな地図が掲示している「お散歩ステーション」。その前に設置しているタッチパネル端末では、文豪ゆかりの地やこだわりの店など、お茶の水界隈の見どころ約300件の情報を見られます。この中から気になったスポットを選んで、自分だけの散歩地図をプリントアウトして持ち帰ることができます。

次に「歴史ギャラリー」です。ここでは、お茶の水地域の歴史と御茶ノ水ソラシティが建っている神田駿河台4丁目6番地の歴史を、江戸時代から現代までおおまかに紹介しています。また、大型フラットタッチパネルモニタでは、お茶の水一帯の街並みの変遷を、時代ごとの古地図と古写真を自由に切り替えながら詳しくふりかえることができます。

3つめは、床から天井まで迫力ある棚が3方を囲む「想-IMAGINE」コーナー。ここでは今後、アート作品を鑑賞したり書籍をじっくり読むことができるイベントや企画など、お茶の水らしい文化の薫り高い体験を提供できればと考えています。

その他、幽霊坂沿いの長く開放的な通路空間には、大型モニタが27台ずらりと並んだデジタルアートギャラリー「KS46Wall」があり、他ではなかなか見たことのない映像作品が愉しめます。また御茶ノ水ソラシティの脇には、大正6年(1917)に、書籍商「松山堂」の書庫蔵として上棟し、その後「淡路町画廊」として多くのアーティストや地域住民の方々に親しまれてきた蔵が移築され、「Gallery 蔵」としてオープンしました。今後、貸ギャラリーとして活用される予定です。

お茶ナビゲート/KS46Wall/Gallery 蔵
  http://ocha-navi.solacity.jp/

運営:NPO法人連想出版
管理:大成建設(株)/大成有楽不動産(株)/安田不動産(株)

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即売展の魅力を語る その4 古書展の初日は出先つくる術(すべ)

古書展の初日は出先つくる術(すべ)

小沼和典

わたしは神田のとなり町にある会社で営業職に就いています。勤務中、外回りと称して即売展をのぞくのが趣味です。
題に引いたのは、古書上野文庫の中川道弘氏による川柳です。中川氏の『古書まみれ』では、ほかにも古本好きのサラリーマンが「あるある」と膝を打つ作品が掲載されています。

古本は駅で預けて今日も帰社
古書店へ来るも激務の一つなり
日誌には古書店めぐり抜かし書く

性に合う本屋さんがでる即売展の初日は、いつもより早く出勤し、勤務開始時間まえに雑事をすませ(感心だねと言われる)、開場の十五分前には古書会館へ着けるようこころがけています。
買いすぎた本がカバンに入りきらないときは、川柳よろしく駅のロッカーへ預けたり、会社の室外機の陰に隠し、帰宅時に回収します。

以下、苦労しながら(?)即売展で入手したブツをいくつか紹介します。

1.「安藤徳器 送別会」の芳名帳
小型の折帖。安藤は主に歴史よみものを手がけた作家です。送別会は、1940年ごろの北京で催され、安藤と親交のある連中が別れの言葉を寄せています。
魯迅の弟周作人、周と同じく知日派の銭稲孫、村松梢風などのメンツです。ほかにも、日本軍占領下の北京で働いていたと思われる人たちが、日本人中国人とわず大勢集まったようです。
また、安藤は汪兆銘の自伝を邦訳しており、芳名帳の人脈とあわせて、大陸に太いコネクションを持っていたことがうかがえます。
周作人の肉筆と印があるにもかかわらず値段は千円でした。本屋さんがちゃんと見ていなかったのでしょう。一年ほどまえに買いました。

2.署名入『学術維新原理日本』
戦前を代表するファナティックな思想家、蓑田胸喜の代表作です。本屋さんがつけた紙帯の背に「署名入」と書かれていたので手にとりました。しかし、署名の主は著者本人ではなく、なぜか徳富蘇峰でした。
宛先は田中蛇湖とあります。田中は浩山人・池上幸二郎の父で、池上の旧蔵書が最近、市場に流れたのだと、あとから本屋さんに聞きました。蘇峰が、人にぜひ読ませたいと考えるほど、蓑田へ関心を持っていたのだとわかります。

3.「月刊書好」 書好会同人編 昭和5-6年 17冊揃
大阪の古本屋グループによる書物誌です。業界動向、店主らの随筆や、漫画など掲載されており、全体にただようトボけた感じが楽しいです。

4.日清戦争の陣中日誌
日清戦争にともなう「台湾攻略」に出征した一兵士が陣中で記したメモを、帰国後に清書した和装の写本です。敵兵は、良民にまぎれて家屋に籠り、不意を襲う戦法をとるため、村落をすべて焼き払うといった物騒な記述が散見されます。

5.『投書投稿に強くなる本 趣味でお金のもうかる法』 昭和38年
新聞、雑誌に採用される文を書くにはどうすればいいかを説いたノウハウ本です。メルマガに書くことが決まったとき、文章力をあげるため、買って読みました。わたしの文が読みにくければ、この本のせいです。

※古本川柳は 中川道弘著『古書まみれ』(弓立社) より引用しました。

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