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自著を語る(85) 『幕府のふみくらー内閣文庫のはなしー』

『幕府のふみくらー内閣文庫のはなしー』

長澤孝三

人は誰でも一生のうちに一篇の小説を書くことができると聞いたことがある。文学的素養のない私には、人を感動させる小説などが書けるとは思われないが、自身の人生の多くの時間を費やした職務について何か書き残しておきたい、これなら私にもできるのではないかと思うようになっていた。ちょうどその時、出版社から本書執筆のお声をかけていただいた。

出版社からは、江戸時代に将軍の文庫として成立した御文庫(明治以降、紅葉山文庫と称されていた)と江戸幕府の研究的諸機関(昌平坂学問所・和学講談所・医学館)等の蔵書を基礎に明治18年12月に成立した内閣文庫の歴史をと所望されたが、制度的な方面と代表的な資料については、内閣文庫創立100周年を記念して刊行した『内閣文庫百年史』に網羅されており、私には、それ以上の知見を持ち合わせないうえに、与えられたページ数も十分でなかったので、思い切って、私が関係した内閣文庫に限ることとした。幸い、出版社も承知してくださったので、結果として「私と内閣文庫」とでも言うべき内容となった。

私は、昭和54年5月に国立公文書館に採用されたが、実質はその一課で古書と古文書を管理する内閣文庫の和漢書専門職として勤務することとなった。私の前任者は、戦後の内閣文庫の基礎を名実ともに築かれた福井保和漢書専門官であった。後任というには余りに頼り無い私は、困ったこと、不明なことがあるとご指導ご助言をお願いしてきた。病を得て退職された福井さんではあったが、その後もお元気で、在職中の23年、退職後の10年、何か疑問が発生すると電話を掛けたり手紙を書いた。これは、先人の持つ情報を、その人だけの情報として私蔵されることなく、業務に有効に役立てるべきだとは表向きの理由で、自らの能力の不足を補いたい一心からである。

一方私には、不徳の致すところか、質問してくれる人もいないので、日常の業務の中で調査実施したこと、実行した業務の経緯、館に関係する人々の訃報などを館報『北の丸』誌上に、昭和62年から退職するまで刊行年の干支を冠して『餘禄』と題して記録することとした。これは、私の日常的な業務活動の報告であるとともに、将来、何かの資料となるのではと思ったからでもある。一つ例を挙げると、毎号『北の丸』に掲載していた春秋の展示会についての報告記を、新鮮味が無いとの理由で、掲載が中止され、展示会の日付や展示資料の羅列だけの味気無いものとなってしまった。

文庫では、実際に展示物等の選択、解説を担当した者だけでなく、管理の立場の者や時には文庫長に依頼し、それぞれの立場で、展示会を回顧し、問題点を確認するなど、展示会が文庫全体の業務として位置付けられるように考えて来ただけに、残念な決定であった。その後、味気無い展示会報告に加えて、公文書館の重要な年中行事である展示会の中で、是非残しておきたい主題の選定、展示物の決定、解説文の執筆に用いた資料、(特に公表を嫌われたが)誤記・誤植、入場者の反応、反省などを、この『餘録』中に忍び込ませることとしたことがある。

今回の著書は、これらの記録を中心に記述したので、その内容は個人的なものになったかもしれないが、かなり生々しく内閣文庫とそこでの仕事を報告できたと思っている。
humikura
『幕府のふみくら』長澤 孝三 著
  吉川弘文館 好評発売中 本体3,300円+税
 http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b102875.html

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編集長登場(8) 「日本古書通信」通巻1000号にあたって

「日本古書通信」通巻1000号にあたって

樽見 博

 昭和9年1月、八木敏夫によって創刊された「日本古書通信」が、本年11月15日発行の第77巻11号で通巻1000号を迎える。戦時中の雑誌統合で一時「読書と文献」と改題したが、昭和20年、21年の休刊を挟み、79年間で1000号を積み重ねてきたことになる。これはほかでもなく、本誌を支えて下さった全国の古書店と古本を愛する人々の賜物であると、心より感謝している。

 本誌の魅力は、後半の通販目録により、古書店の無い地域に住む人々でも優良な古書を入手出来、立地に恵まれない古書店が全国の愛書家を相手に商売できる手段を提供してきたことにある。また、前半の記事は、古書店主、愛書家、研究者らが書物知識を披露する場所であり、森銑三、柴田宵曲、木村毅、斎藤昌三、柳田泉、長澤規矩也、高橋邦太郎、八木佐吉氏など書物随筆の名手や、反町茂雄、山田朝一、小梛精以知氏など古書業界のブレーンを得たこも大きかった。本誌は、目には見えないけれども、古書店と古本ファンのネットワークを築いて来たと言えるのではないだろうか。

インターネット社会の到来で、情報入手・提供手段としての本誌の役割は明らかに減少したことは事実である。しかし、際限ない情報の宇宙の中で、本誌の持つネットワークという網を通して伝える情報は、抽象的な表現になってしまうが、人の温もりや、実際の本を手にした時の重みや手触り感をも伝えるものであり、今後も残して行くべきものではないかと考えている。

「日本古書通信」の編集に生涯をかけた八木福次郎が、この春2月8日に満96歳で天寿を全うし、1000号を見ることが出来なかったのは残念だが、八木敏夫の開拓心と、福次郎の書物趣味が、読者の心を捉え、本誌に強い生命力を与え、現在発行人は、敏夫の息壮一と乾二が引き継いでくれている。私が入社したのは昭和54年で、通巻600号を間もなく迎える時期であった。以来34年間、同じ仕事を続けることが出来たことはこの上もない幸いであった。

文字通り微力であり、先人の業績に頼るばかりではあるが、1号でもながく本誌の継続刊行に全力を注ぎたいと思っている。通巻1000号は、全国40余軒の古書店のご協力で60頁分もの古書目録で飾ることが出来た。勿論本文も記念の原稿を沢山頂いている。いつもの倍のボリュームだが、長年のご愛顧に感謝して、通常と同じ1部定価700円とした。一般書店への注文、アマゾン、富士山マガジンからの注文も出来ますので、どうかご購入下さいますよう心よりお願いいたします。

日本古書通信  http://www.kosho.co.jp/kotsu/

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自著を語る(87) 『上京する文學』自著を語る

『上京する文學』自著を語る

岡崎武志

 これまで私の出してきた本は「古本」および「読書」が主流で、つまり「本に関する本」だった。たとえば『文庫雑学ノート』『古本でお散歩』『読書の腕前』というふうに。よくぞ、狭いテーマのなかでこれだけ本を執筆してきたものだと我ながら驚く。映画論や音楽論、コラムなども折り混ぜた雑文集『雑談王』は晶文社得意のバラエティブックだったし、『昭和三十年代の匂い』(学研新書)などは、私の仕事のなかでは異色と言っていいものだった。

 それが今回、一つのテーマで近現代文学を読込む本を出すことになった。『上京する文學』(新日文出版社)である。これは「赤旗」に連載された。しかし連載時の原稿を、五~七倍に新たにふくらませ、村上春樹の章を書き下ろしで加えることに。刊行日も決っており、正直、これは難事であった。  夏目漱石に始まり、斎藤茂吉、山本有三、菊池寛、川端康成、江戸川乱歩、太宰治、林芙美子、井上ひさし、松本清張など、上京した作家、あるいは主人公が上京していくる作品を、「人はいかにして上京するか」「上京者にとって東京はどう見えるか」など、「上京」という切り口で、よく知られる作品や作家を新たに読みなおすことになった。

 そこに、三代続いた江戸っ子や、生まれながらの東京っ子の作家では気づかない「東京」の姿があるのではないか、と思ったのだ。私自身が、三十過ぎてからの上京者で、その「不安」や「昂り」についてもよく知っているつもりだったから、それが強みになるとも考えた。

 たとえば茂吉による郊外の発見、井上ひさしを苦しめた方言の問題、菊池寛をして親子丼に感激させた食べ物についてなど、「上京」に狙いを定めることで、近現代文学の特色も見えてきたのだ。  また今回、連載時の担当、単行本の担当、装幀、絵葉書の提供と、この本にかかわった主要な人がすべて「上京者」であった。これは狙ったことではないだけに、それがわかった時は愉快だった。だから愉快に読んでもらえるとありがたい。
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 『上京する文學』岡崎武志著 好評発売中
  新日本出版社 定価1,575円(本体1,500円)
https://www.shinnihon-net.co.jp/general/detail/name/%E4%B8%8A%E4%BA%AC%E3%81%99%E3%82%8B%E6%96%87%E5%AD%B8/code/978-4-406- 05632-8/

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即売展の魅力を語る その3 古書即売会の魅力 あれこれ即売会

古書即売会の魅力 あれこれ即売会

鈴木 宏宗

図書館(史)とその周辺が興味をもっているテーマの一つで、それに関連する本や雑誌などをさがしている。関心のある分野はうつりかわってゆくものの古本屋に行くのは大学生の頃からかぞえてかれこれ20数年になる。古書即売会にはじめて行ったのは、それよりも何年かあとになる。きっかけは覚えていない。はじめてはいってみたのは東京古書会館の2階のはず。神田古本まつりの特選古書即売会が最初であったか、あるいは紀田順一郎氏の書物の本を…どの本だったかまでは覚えてないけれども…読んで行ってみたのではないかと思う。

毎週初日に通うほどではないが、時間があればなるべくおとずれるようにしている。初日の午後や二日目に行くことが多く、この時間は比較的混んでおらず、本棚をゆっくり見回せる。たとえば、岡田温『図書館』(社会科文庫)(三省堂、1949)を見つけたのは二日目の午後だったと思う。中学生向きでありバランスのとれた図書館の案内書である。背文字はほとんど読めなくなっていたが、うれしいことに月報の「社会科文庫だより」が挟み込まれていた。

戦前の図書館に関係しそうな、自分の関心のある分野の文献は、どういう即売会で買いやすいか、文学書や歴史、書物の本にも関連するかなぁ…といったことが頭に浮うぶこともある。ただ、特にひとつふたつの即売会のみに行くと決めているというわけではない。なんとなく関連する本をたまたま見つけるたのしさがあるので、気もそぞろになってでかけることが多い。それでも、どの古書即売会がどのような分野に向いているのかというのは気にかかる。

新宿展、ぐろりや会、新興古書展などなどいろいろとあって、はじめのうちはそれぞれの即売会のことはよくわからなかった。東京古書会館にくわえて西部古書会館や南部古書会館にも行くようになり、会場に入ってから、“今日はあたらしい本が多いのだなあ”とか“あ、和本が多い”と気がつくことも経験した。そのうちには即売会の販売目録にも手をふれるようになり、何となく傾向を覚えるようになってきた。ちょっと変わったものもでそうかなとか、安いかなとか、それぞれの傾向をたのしみながら足をのばしている。出品している古本屋については目録からうかがい知る面もあるけれども、即売会の傾向もふくめて、売り出したい特色について、『日本古書通信』に紹介の記事も見受けらえるが、もうすこし案内、宣伝を行ってもらえるとありがたい。また、これから、かつてのアンダーグラウンドブックカフェのように、あらたな即売会のこころみがあるかなと期待もしている。

日本図書館文化史研究会会員
日本図書館文化史研究会
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編集長登場(9) 『古本の雑誌』は『「古」本の雑誌』です!

『古本の雑誌』は『「古」本の雑誌』です!

浜本 茂

 10月の末に3年ぶりの別冊を刊行した。その名も『古本の雑誌』。書名を見ると、ふるほんの雑誌、と「ふるほん」を平板なアクセントで読んでしまう人がほとんどだと思うが、フフフ、違うのである。「本の雑誌」の別冊だから「『古』(古に傍点フッてください)本の雑誌」なのだ。そう。「ふる」にアクセントがくるわけです。余談だが、3年前に出した別冊は『SF本の雑誌』というタイトルだが、こちらも「SF本」の雑誌ではなく、「SF」本の雑誌なのである。おわかりいただけますか。

 どうでもよさそうなことにこだわっているのは、この書名にこそ『古本の雑誌』のエッセンスが集約されているからだ。何を隠そうこの別冊はすべが新原稿ではなく、4割弱が本の雑誌に掲載された古本関係記事の再録。もっとも古いのは77年の第5号に載った椎名誠「さらば国分寺書店のオババ」で、椎名の同名のデビュー作の原型となったものである。

さらに現役古書店主としての出久根達郎さんへのインタビュー(91年6月号)から、ネット界で噂の古本者御三家がマニアックな自慢の限りを尽くす座談会(02年2月号)、そして11年11月号の突発的古書店主座談会まで、本の雑誌37年の歴史から古本関係の傑作記事を厳選。ようするに「古」(い)本の雑誌なのだが、これがまったく古びていない! 自慢じゃないが、「古」×「古」でコクが倍増というか、いい感じに熟成されたヴィンテージワインのような滋味が誌面のそこかしこに漂っているのである。古本の普遍性ゆえでしょうか。

 もちろん新原稿も自信の逸品揃い。吉祥寺よみた屋店主・澄田吉広氏による「古本屋を開業するには」をはじめとする実際に古本を売っている人の弁もあれば、喜国雅彦氏の「古本未来日記」など、掘り出しものを探す古本マニアたちの弁もあり、売る人買う人ががっぷり四つ。中でも特筆したいのは前後編合わせて17ページに及ぶ「日本全国古本屋ガイド座談会」で、なんと4人の古本者が6時間語りっぱなしという超ロングラン。しかも沖縄以外の46都道府県を制覇しているのだから、マニアの世界はすごいのお、と感心するばかり。

頭の先からしっぽまで丸ごと古本一色。理解できない人にはまったく理解できない古本の深~い世界を堪能していただける一冊に仕上がったと自負している。「バカだねえ、こいつら」と自分に重ねつつ、にやにや笑いながら読んでください。
zasshi
本の雑誌社
別冊本の雑誌16『古本の雑誌』 編集長 浜本 茂
1,680円(税込) 好評発売中
   http://www.webdoku.jp/kanko/page/9784860112349.html

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古本屋ツアー・イン・ジャパン 古本屋ツアー・イン・ジャパン2012年を振り返って

古本屋ツアー・イン・ジャパン2012年を振り返って

古本屋ツーリスト 小山力也

私はもしかしたら古本屋さんに呪われているのではないだろうか…そう妄想してもおかしくないほど、古本屋さんを探し、訪ね、調査し、古本を買い、それらに生活をブンブン振り回され、楽しく毎日を過ごしてしまっている…。

 古本屋自主的調査活動五年目に突入した今年は、正月早々古本屋で地震に遭い、また『古本福袋』を買い古本で幸せを呼び込むことから、その古本屋まみれの一年をスタートさせた。古本的幸せをしっかりと呼び込めたせいなのか、何事も無く怒濤のように各地のお店に顔を出し、古本を買い続けることが出来た。一月は京都「善行堂」で精算時に店主に正体を見破られ、二月は雪の気仙沼を訪れて不死鳥古本屋「唯書館」の再スタートを祝うことが出来た。三月は店舗を持たぬ憧れの「月の輪書林」に突撃し強引にツアー。四月は塩尻でお休み中の倉庫のような「対山堂書店」に優しく招き入れてもらえ、五月は火力発電所の特需で湧く福島・植田「瑞林堂書店」で古本と共にコインを買った。

六月は昭和三十年代が冷凍保存された街、山梨の月江寺で「不二御堂」の登場に驚く。七月は琵琶湖畔に出向き、彦根「半月舎」・長浜「さざなみ古書店」の両女性店主店でやに下がる。八月は関内に若者がオープンさせた詩に傾倒する「中島古書店」に感激し、九月は山形の「紙月書房」でミステリ&探偵小説文庫本を買いまくる。十月は奈良に仕事で出張して仕事の合間に郊外の二店を巡りつつ、神保町に勇気ある出店をした「マニタ書房」に拍手を送る。十一月は千葉・太東の崖際で古本を売る「GAKE」に『何でこんな所で古本を売るんだ!』と思いつつ、秋田・羽後本荘の「文弘堂書店」で寒さに震えて棚を見る。十二月は徳島から森下に移転して来た「古書ドリス」に感謝し、大阪の「天牛堺書店 船場店」で均一本を買う…もちろんここに挙げた以外にも、印象的なお店は十指では足りないほどたくさん控えている。

 それに私は一月の終りに、ある三店の古本屋さんと、お店を必ず今年中に訪ねることを約束していた…。岐阜「徒然舎」、倉敷「蟲文庫」、犬山「五っ葉文庫」である。前回のメルマガ(2012年7月25日号第117号)で『話す相手が古本屋さんなら、私は『伺います』の言葉を、社交辞令には決してしない覚悟で生きて行くつもりである』とほざいてしまったので、必ず訪ねなければならぬ重い十字架として、ずっと背中にのしかかっていたのだ!しかしどうにか、五月に「徒然舎」、十一月に「蟲文庫」、十二月に「五っ葉文庫」を強引な滑り込みで訪ね、しっかりと約束を果たすことが出来た…それにしても古本屋さんを訪ねるのは、こんなにも難事業だったのか…。

 何故そこまでして?と自分でも時たま立ち止まって考えてしまうのだが、そこに未踏の古本屋さんがある限り仕方の無いことと、もはや諦めてしまっている。それに十字架であった三店がどれも良いお店であったことが、結果としてとても爽やかな達成感をもたらし、さらなる古本屋さんへの旅を促し続けているのである!

 このように、古本屋さんに呪われたかのような『古本屋&古本狂い』の毎日…とここで結べば例年通りなのだが、しかし今年はちょっとひと味違い、全国から集めて来た古本を、様々な所で販売する機会に恵まれた一年でもあった!西荻窪「盛林堂書房」の常設棚貸しイベント『古本ナイアガラ』(一月ごとにテーマを変えて三十冊ほどを並べている)、わめぞ主催の「みちくさ市」&「外市」、そして一般古本界とはあまりクロスしないライターやクリエイターが主催したアナーキーな「古本ゲリラ」、六角橋商店街で夜に開かれる「一箱古本市」。これらへの参加に加え、自主的に古本屋に関するフリーペーパーを毎回創ることがまた楽しかった。『ナイアガラ』テーマ別の目録擬き・『中野通り古本屋ベルト』(中野通りを中心とした縦3キロ×横1キロに含まれる古本屋さんを紹介)・『古本屋テンプテーション・スパイラル』(自分がどれだけ古本屋が好きでしょうがなくて訪ねているかを、とことん言葉にして表現してみた試み)・『都電荒川線古本屋分布図』・『東海道古本屋さん六次』(神奈川古書組合での古本屋入門講座に備え、神奈川県内にある東海道の宿場町にある古本屋さんを訪ね、古本を買いまくるレポート)・『十九画の呪い』(どうして古本屋を訪ねるのかを、詩で表現した試み)、『古本屋レクイエム』(今年閉店した大好き&印象的だった九店を取り上げ追悼!)・『選挙に行って、一日赤いドリルで管を巻く!』(「古書赤いドリル」での一日店長的受動イベントに合わせて作成した、店主と私がお互いのことを書き連ねたたもの)などなど…書き出してみると、明らかに作り過ぎであることが良く判る…。

 元々は、古本屋を開きたくて始めた『古本屋ツアー』なのであるが、未だ開業に飛び出す勇気も甲斐性も無く、庇を貸して母屋を取られる状態が続いている。もたもたしている間に、新しいお店が、新世代のお店が次々と開店し羽ばたき飛び立って行く…。勇者たちの行動にエールを送りつつ、私はその周囲をウロウロウロウロ様子を窺っているだけ…。この調子だと、来年も古本屋にはなれずに、ますます古本屋調査にのめり込んで行く毎日を送るに違いない。一体これは、何の因果なのだ!…あぁ、やはり私は、古本屋さんに呪われているのではないだろうか…。

 しかし例えそうだとしても、私はこの先の見えない『こちらが倒れるのが先か、お店を調査し尽くすのが先か』と言うチキンレースから降りるつもりは毛頭無い。来年は、北海道・青森・山陰・四国・九州・沖縄に足跡をつけて来たいものだと、すでに考えてしまっているのだから。

 日本全国の古本屋さん、良いお年を!来年もどうか良い古本を、よろしくお願いいたします!

 『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。
お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。
トマソン社のリトルプレス「BOOK5」で『新刊屋ツアー・イン・ジャパン』を、
webマガジン「ゴーイングマガジン」で『均一台三段目の三番目の古本』を連載中。
http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/

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即売展の魅力を語る その4 古書即売展のたのしみかた

古書即売展のたのしみかた

古書蒐集家秘書・画家 前田久美子

十年程前、神保町の近くで働いていて、古書会館を知りませんでした。古書店は立ち寄りましたが、普通の女の子が古書展に辿り着くには水先案内人が必要かもしれません。

その後、就職した会社の社長は大正生まれのコレクターで、古書店の知り合いに社長の話をすると「神保町の古本屋で社長を知らない人はモグリだ」と言われるほどの蒐集家。蔵書は数十万冊。近代文学のコレクションのほかに、和本、短冊、原稿、掛軸などの書画、浮世絵、地図と幅広い内容です。 社長のお手伝いで古書即売展に毎週通い始めて最初の頃、キラキラとした水色の分厚い「泣菫詩集」(大正14年刊)を手に取ると随分古い四つ葉のクローバーが押し草にしてあっておそらくこの本の持ち主は大正時代の乙女でと色々と想像いたしました。四つ葉のクローバーを自分で見つけたいとずっと探しておりましたので、とても嬉しく、即売展には良いご縁があると思いました。

本は人間より長く生き、長い時間ずっと読まれるのを待っています。そして、本の過ごしてきた時間を触感、匂い、自分の記憶と絡み合わせて、現物を手に取ると自然と愛おしさを感じます。インターネットで買い求めるのも良いですが、便利なものは思い出をショートカットしがちに思われ、私は勿体無いようにも思います。時間に研磨され、当時は斬新な本も奥ゆかしく感じられたり、価値も変わります。本は生き物だと思います。

古書展にいらっしゃるお客様や出展の古本屋さんは、皆さんそれぞれ専門の分野があり知識も深く、教えていただく言葉の端々にも只者ではないことがわかります。お客様や古書店主だけでなく古書店の番頭さん、アルバイトのかた、古書に関わる方は面白い人たちが多く、絵描き、役者、演奏家と幅広く、私も絵を描くので良い刺激をいただいております。

先日、旅行中の知人が一人で神保町を散策して面白くなかったとのことで、案内役を請われ、古書即売展でお勧めの本屋さんなど教えていただき、神保町をブラブラしました。結果、神保町は素晴らしく楽しいと満足して帰りました。何事も本当の魅力に気づき面白いと思うには時間が必要だと思います。街も全く同じだと思います。何度も繰り返し通うことが出来ないのだったら謙虚に教えを請うと良いと思います。私は十年ほど神保町に通って、街の方々に顔を覚えていただき、道を歩いていても色々な方とご挨拶ができて、かけがえのない財産ができたと感じております。ありがとうございます。

即売展には色々な会があり、雰囲気も品揃えも違います。出展する本屋さんが違えば本の傾向も変わってきます。ぜひ会の特徴を覚えるまで通ってみてください。そして、本屋さんと仲良くなって、事前に作られる古書即売会の目録に目を通して、本屋さんに注文して受け取りにいらしてください。人気の本だと抽選になります。当たると嬉しいですが、外れてとても悔しかったら、本当の本好きでしょう。そして、探していた本を手に入れる嬉しさに生きる活力を得ます。

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自著を語る88 『書評紙と共に歩んだ五十年』

『書評紙と共に歩んだ五十年』

井出 彰

 週間の書評新聞を刊行しているのに、その週の内に刷り増しして、書店に直接持ってゆく、なんて時代が時代があったことを信じる人が今、いるだろうか。六〇年代から七〇年代はじめ、三島由紀夫の自決、ベトナム戦争、浅間山荘の籠城、よど号のハイジャック、11・21新宿騒乱罪などの事件を背景に新聞は売れに売れた。そんな時代に私は「日本読書新聞」に入社した。まるで会社というより、全国で揺らいでいた大学の延長のような雰囲気だった。わずか一年後に編集長となった蒼白き世間知らずの青年の、良くも悪くも人生の価値観を決定してしまった。

吉本隆明と花田清輝の有名な論争をはじめ、埴谷雄高、竹内好、橋川文三、村上一郎、谷川雁等々、挙げれば切りがない。六〇年代、この国の言論界をリードしてきた人たちが、こぞって、ここを舞台に自分たちの主張を展開してくれていた。書評紙の出発点は戦争の足音が聞こえてきた1937(昭和12)年、当時の帝大新聞を拠り所に反戦の論陣を張っていた、学生たち、のちに哲学の祖といってもいい三木清、戸坂潤らが国からの弾圧に、では自分たちで広告をとって刊行すれば文句はないだろうと発刊をはじめたことにある。その余韻余波がずっと続いていたのだ。

 しかし、高度成長からバブル期を通って今日にいたるに及んで、人は、いや思想ももの書きも商業化、芸能化の途を辿ることと反比例して、書評紙の発行部数は激減していった。  編集者生活の出発点でこんな時代に遭遇した男は、不器用だった。時代と共に曲がり切ることが出来ずに、ただまっすぐに歩き続けるだけだった。一人去り二人去り、やがて誰もいなくなった。男は出来もしない金繰りをやり、まっすぐな道でさみしい、などと山頭火の句に自分を重ねて悦に入り、酒を浴びては、同じ道を辿っている「図書新聞」に移り、足掛け五〇年になる。時代を背負って同伴してくれた出版社、竹村一の三一書房、石井恭二の現代思潮社、社会思想社、小澤書店等は姿を消している。今日の思想雑誌の魁をなした「伝統と現代」「技術と人間」もない。

かつて、書評文化のない文明国などない。欧米並みの書評紙を造ってやると、嘯いていた青年も、今や目がかすみ、肺に穴があき、足を引きずりながら酔いどれて、今にも沈みそうな泥舟の水を一所懸命にかき出し続けている。バカは死ななきゃ治らない男の半生記である。
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『書評紙と共に歩んだ五十年』 井出 彰 著
 (論創社刊、定価(税込):1,680円)
   http://www.ronso.co.jp/

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自著を語る番外編 『なにわ古書肆 鹿田松雲堂 五代のあゆみ』

『なにわ古書肆 鹿田松雲堂 五代のあゆみ』

柏木隆雄

昨年11月末に和泉書院から出版された『なにわ古書肆 鹿田松雲堂 五代のあゆみ』について「自著を語る」と題すれば、文字どおり自著を「騙る」ことになる。本書の著者は19世紀半ばから百年もの間、大阪船場で5代続いた松雲堂4代鹿田静七の長女四元弥寿さんである。私は彼女の稿を少しばかり整理したに過ぎない。

古稀をすぎて実家松雲堂の事績をまとめにかかった弥寿さんは、80歳の折、中之島図書館の『近代大阪の輝き展』(平成17年)で鹿田松雲堂関係の典籍が展観されるや、ますます力を入れて家に残る資料を繙くとともに、縁故の人々に聞き合わせて86歳逝去の時まで細かに綴られた。その稿の首尾を整え、それに関わる原資料を添えれば、大阪の出版・古書肆文化が浮かび上がるのではないか。編集にあたった私たちは鹿田本家から四元家に預けられた明治23年以来の古書カタログ「書籍月報」や「古典聚目」の揃いや古典籍を前に目をみはり、息を呑む思いでその整理から始めた。以来刊行に至るまでのこの1年余は、著者の長女山本はるみさんの大奮闘や長男大計視氏の全面的協力を得て、忙しいながらまことに楽しい時を過ごすことになった。

資料の漢文訓読にあたった合山林太郎大阪大講師や2代古丼の「思ゐ(ママ)出の記」、3代余霞の未公開の日記などの翻刻や注記に力を尽くされた山本和明相愛大学教授、それにお二人を仲間に誘うとともに常に的確な道筋をつけられた飯倉洋一大阪大教授には感謝のほかないが、皆さんそれぞれ大好きな古書のことに携わる楽しみを満喫しておられたようにも思う。本書をお読みになれば、私たちが味わった楽しさを理解していただけるに違いない。

たとえば口絵第1頁にある大塩平八郎市中施行券引札(天保8年)の写真。大塩が蔵書を売って貧民の救済に当ったのは有名だが、この引札は売り立てを取り計らった本屋が、引札と引き換えに1朱(16分の1両)を渡すとする證文で、1万人に配ったと称する。合わせて600両を超す大金となり、大塩がいかに良書を擁していたかも知れ、売り立てた金子は本屋がそのまま預かって庶民に配ったわけで、それを軍資金としたという通説も再検討したい気持ちになる。

また3代余霞の日記は2代の養子になる以前の店員として主人と行を共にしての購書の旅や蔵書家のありようなどの興味深い記述ばかりでなく、結婚して後の家庭人としての心配りなどもその人となりを偲ばせて胸を打つ。また日清戦争時の記録は、一庶民が戦争をどう見ていたか、新聞記事に影響されるところもあるが、率直な戦争の推移を見る目も歴史の証言として貴重だ。

表紙見返しに掲げる昭和10年代の船場の地図は60歳の弥寿さんが同級生に聞き合わせ、また記憶を頼りに写し取ったものだが、その精密さに驚く。裏表紙見返しの明治41年と昭和3年の東西古書肆番付も古書店ファンには見逃せまい。そのいずれの番付にも西の大関、横綱は鹿田松雲堂となっている。東西合わせて栄枯の跡を番付から辿ってみるのもまた一興だろう。 なお本書については忘却散人のブログに詳しい記述がある。ご覧いただければこの稿の不足が補われよう。
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『なにわ古書肆 鹿田松雲堂 五代のあゆみ』 四元 弥寿 著
飯倉洋一/柏木隆雄/山本和明/山本はるみ/四元大計視 編
  (和泉書院 定価2,625円)好評発売中!
http://www.izumipb.co.jp/izumi/modules/bmc/detail.php?book_id=48118&prev=released

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自著を語る91 『図書大概』について

『図書大概』について

大沼 晴暉

 このほど汲古書院より刊行した『図書大概』の内容は、林望氏のほめ言葉を爆弾の如く炸裂させた広告と、その上層にのせられた目次とに尽くされていよう。

 ただ、私が書物を見る上で常に心掛けているのは、物としての本、云わば物体、民具としての本なのだ。

 そこで、
第1章で、図書と他の文献との比較を行い、
第2・3章 物としての本を成立させている要素である容れ物、形態、外形と内容と      の連関に及び、
第4章 内容を記述する文体や漢字・片仮名・平仮名の関係に触れ、
第5章 日本の印刷の歴史と、
第6章 図書の調査の仕方とを略述した。

 物はどんなに佳い物であろうと、それ一点だけでは何の存在意義も持たぬと云ってよい。他の物と比べることによって、その存在意義や価値は定まってくる。

 博物館の鎌は一点のみでは何も語らないが、100点集まれば、その100点を比べることによって、地域性、時代差、用途、使い方など自ずと分かってくる。
 図書もその基本は比べ考えることだ。本書はただそれだけを、愚直にくり返し述べたものだと云ってよい。
 概説だけでは抽象に過ぎ分りにくいので、後半は250点ほどの図版を用いて、具体と実用とに意を注いだ。
 その図版も全国の図書館・文庫の資料に広く眼を向ければ、もっと佳い実例や写真は幾らでもあったであろう。だが現実にそうできない事情は図版写真の掲載料で、一点一万五千円もする図版を250点も掲載していたのではとてつもない高価な本になる。そこで学術書や紀要類に掲載する場合、刷部数も少ないこととて現所蔵者が考慮してくれるが、一般の営利出版ではそうはいかない。
 本書の図版を私の属していたもとの職場(斯道文庫・慶應義塾)のもののみに限った理由はそこにある。こうした所蔵者の厚意なくしてはこの本はまず出来なかったであろう。

 索引をほめてくれた人がおり、自分の必要もあって繰った折、試しに読み直して駭いた。誤植-近頃はむしろ誤変換と云うべきか-が少なからず見つかったのである。急いだとは云え、これほどとは思わなかった。
(誤)-(正)
449ページ下段 後5行目 本活-木活
           後1行目 禁合-禁令
457ページ 2段 10行目 影字-影写
460ページ上段 後1行目 標柱-標注
本文  47ページ 6行目 糸編-糸偏 (以下2項 佐藤道生氏)
81ページ 8行目 大学守-大学頭
128ページ 後2行目 流盛-隆盛 (延広真治氏)122ページ 後6行目にもあり
193ページ上4行目 寛永九年-寛永九

 まことに世に誤植の種は尽きない。どうか皆さんも一冊購入して誤植を捜し出して下さい。

taigai
『図書大概』 大沼晴暉 著
  汲古書院 定価 本体8,000円+税
 http://www.kyuko.asia/book/b106210.html

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