多田道太郎責任編集、中央公論社、昭和44年11月、518p 図版、18cm
初版 函付 函に紙カバー付 本体にビニールカバー付 カミカバー抄シミ 本体三方ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し <月報>付の保存状態良好です。
正直、私は大杉栄という人物にも思想もそれほど共感しない保守・右派の読者です。しかし、本書に収められたロシア革命論にて、10月革命直後の時点で、レーニン&ボルシェヴィキの専制体制の本質を見抜いていた大杉の慧眼には驚かされる。当時の日本の左翼から、「なぜ進行中の革命を弁護しないのか」と言われて、ロシアの革命は支持するが、ボルシェヴィキの独裁を支持などできない、と言い切っているのは、やはりアナーキストとしての信念だ。そして「無政府主義将軍ネストル・マフノ」は、おそらく当時のわずかな資料で、ウクライナの農民のために赤軍とも白軍とも戦ったマフノ運動の本質を見事に理解し評価している。
日本の農村自治の伝統を基本に、近代国家の上からの統制と資本主義による村落共同体の破壊を憎んだ「右翼反近代」派の思想家、権藤成卿と、大杉栄とはどこまで交流があったのだろう。少なくとも、権藤が、大杉を惨殺した国家権力を敵とみなしていたことは確実だ。ひたすら個人の自由を求め続けた大杉と、個人より共同体を大切とした権藤では話も合わなかったとは思うが、この二人の対面や会話の記録があったら、ぜひ読んでみたかったと思う。