多田富雄 著、青土社、1995年6月、236p、20cm
27刷 カバー 帯付 カバーヤケ無し 本体三方ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
「寡黙なる巨人」を読んで著者のことを知ったが、本書のアプローチはとても面白い。以下の点がとても良かった。
1.30年も前に書かれた本なので免疫学の詳細については多くのアップデートがあることを前提に読む必要があるが、例として引用されている内容や表現が分かりやすく、免疫学の基礎的な考え方については現代でも十分に通用する良書である。
2.超システムという生命の基本原理に関する捉え方が面白い。著者は、変容する「自己」に言及(リファー)しながら自己組織化していくような動的システム、と表現している。血液細胞は、幹細胞から分化して絶えず供給されながらも、幹細胞から分化した細胞(リンパ球、赤血球、血小板など)の割合を大きく変化することなく絶えず全体のバランスを取りながら、非自己を排除するための記憶を体系的に維持しつつ、更に新しい外的にも対応する、という包括的な免疫機能を維持している。免疫系は、生命の基本原理である超システムを理解するための良い素材(シンプルな素材)としつつ、生命だけでなく、社会の仕組みや組織の構成を理解するためにも有用である可能性について、この時代に本書の中で提唱している。
3.「自己」と「非自己」を対比させ、哲学的な描写で意味論について展開している。免疫系は「非自己」を認識して排除する機能に見えるが、「自己」を認識することによって「非自己」を認識している(表現が難しい)。また、免疫的に排除されない「自己」についても予め決定されているものではなく、「自己」を規定する「行為」によって定められている、という表現も面白い。免疫系だけでなく心理学的な視点でも興味深い描写だなと感じた。
本書の後に出版された「生命の意味論」があるが、もっとマクロな視点で「意味論」を展開しており、とても面白かった。