筒井康隆 作 ; 横尾忠則 画、ミリオン、1995年11月、154p、22cm
<新装復刻版> 1刷 カバー付 カバーヤケ無し カバー背3少磯アセ カバー両面ヤケ無し 本体三方ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
演劇志望だった筒井が、「もし戦後の日本が経済大国ではなく映画大国への道を進んでいたら」と言う仮定の下、その映画産業に係る人物や状況を詳細に綴ったもの。筒井の夢を小説の形で実現した誇大妄想小説とも取れるし、戦後日本への風刺小説とも取れる。
美芸公とは、その名の通り美しく気高い芸を魅せる映画界の主役。世襲制ではなく、実力本位で代々継がれる。作中には、前美芸公も登場する。そして、この世界では役者は勿論、登場する人物が全て良い映画を作るために活動している。筒井の演劇・映画に対する愛情が滲み出ている。役者は映画の中で役を演じる際、その役柄の職業を本職さながらに勉強し身に付ける。筒井が持つ役者のあり方の理想像を反映しているのだ。炭鉱を舞台にした映画では、落盤事故が起こった際、勉強を積んだ美芸公や前美芸公を中心に本職さながらの対応をして、見事にピンチを切り抜ける。
こうして見ると、現代の映画人だけではなく、職業を持ってはいるが真の意味で自身の職業を愛していない一般人全体への批判が込められているようにも思える。筒井の理想と批判精神が味わえる秀作。