畠中尚志 訳、岩波書店、昭和48年11月、445p、15cm
初版 帯付 本体両表紙と背ヤケ無し 帯ヤケ無し 本体天と小口少ヤケ 本体地ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
本書を繙いてほどなく私は驚いた。私は「往復書簡集」というタイトルから、日常の些細な出来事が綴られたものを勝手に想像していたのだ。しかし、そこにはスピノザと彼の友人・知人との間の侃々諤々たる哲学の議論の応酬があった。本書は紛れもなく哲学を語ったものだったのだ。
畠中尚志氏の解説によれば、17世紀における学者の書簡往復は19~20世紀における学術雑誌の役割をつとめており、当時において学者の書簡往復は単に受信者個人に宛てられたものであるに止まらず、広く一般の読者に知られることをも念頭に置いたものであったという。そして、スピノザ自身も早くから書簡の公表を意図していて、書簡の草稿に後から手を加えたり注を付したりしていたという。つまり、本書はスピノザ自身による、スピノザ哲学の解説という極めて重大な意義を持つのである。
本書においてスピノザが書簡を交わしている相手は、彼の門弟・親友から彼の哲学を全く理解せずに論難するような人物まで多様である。その一人ひとりの疑問反論にスピノザは丁寧に答える。スピノザの誠実・実直な人柄がここに顕れており、感動せずにはいられない。あのゲーテが本書を絶賛したことは大いに肯ける。