大竹昭子 文・写真、河出書房新社、2001年4月、142p、21cm
初版 カバー 帯付 カバーヤケ無し 帯背スピ悪露アセ オビリョウメンヤケ無し 本体三方ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
1950年代の半ばに大学を卒業し、パリ、ローマに留学、その後10年近くをミラノで暮らした須賀敦子。異国での体験を追憶のような形で記しはじめたのは、それから20年以上を経て、60歳を過ぎてからだった。98年に急逝するまでの10年間、須賀はわき出るように著作を発表していった。それは自分の生きてきた道を確かめる最後の「旅」だったのかもしれない。
本書は、須賀を愛する著者が、今は亡き作家の見たミラノを写真とエッセイで旅する美しい紀行文。須賀と夫のペッピーノがいたコルシア書店(今では名前が変わっている)や夫妻が暮らしていたアパートを訪ねたり、彼らを知る人へのインタビューを通じて、須賀が過ごしたミラノを手繰り寄せていく。いつの時代でも、ミラノは生の喜びにあふれている。老いも若きも、富める者も貧しき者も、力強く人生を謳歌している。しかし、この旅で著者に見えてきたのものは、須賀敦子の「孤独に敏感な魂」だった。
「実際の生活では孤独な影などはみじんも見せず朗らかに生きていただろう。だが作品を書いたとき、“宇宙のなかの小さな一点”のような魂の姿が描き出されたのだった。須賀が描いたのは悲愴な孤独ではない。硬質な輝きをもった恒星のような孤独、人を励ますことのできる力強い決意だ」
今のミラノを活写した写真は、生き生きしながらヨーロッパのシックな雰囲気を伝えるもので見飽きない。簡潔で美しい文章と相まって、須賀の作品を読んだことのない人にも十分魅力的である。しかし、須賀の作品を1冊でも読んでいると、本書は一層味わい深いものとなるだろう。(松本肇子)