小池昌代 著、みすず書房、2006年11月、225p、20cm
初版 カバー 帯付 カバーヤケ無し 帯背スピ色アセ 帯ヤケ無し 本体散歩いうヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
最近旅した、沖縄の大神島には、遠見台へ登る道の途中に、石の、円形の、井戸があった。汲み上げる道具もなく、ただ、空へむかって口を開いている。のぞきこめば、底のほうには、浅くたたえられた、暗く透明な水があり、積み上げられた石の隙間から、青草が勢いよく生え伸びていた。
目をあげると、真っ青な空。赤いハイビスカスの生垣が続いている。
深夜になれば、満天の空から、星のひとつ、ふたつが、間違って井戸のなかへころがり落ちてきそうな気がした。そう思うと、もうその水音を聴いたことがあるような気がするばかりか、かつてここに立った、わたしでない誰かもまた、同じことを感じたに違いないと思われてくるのだった。
井戸をめぐる、そんなこころが、本をめぐる本書の題名につながった。
——「あとがき」より
本を読む者を深くさしぬく孤独、そして歓びと哀しみ。エッセイ、書評、詩、書き下ろし短編小説をおさめた「本をめぐる本」。濃密で、うっとりする味わい。