佐藤春夫著、河出書房、昭和29年1月、175p、15cm
改訂[版] 初版 帯付 両府ピシと背ヤケ無 帯少ヤケ 本体三方少経年ヤケ 線引き無し 書き込み無し 賛否う経年ウヤケしていますが保存状態良好です。
内容は、序章、森鴎外のロマンティシズム、新体詩小史、島崎藤村の破戒について、自然主義功罪論、外国文学の影響、芥川龍之介論、の構成である。
明治の45年と大正の15年にわたるわが国の文学界の動向を、「田園の憂鬱」の著者佐藤春夫(1892-1964)が同時代人として展望・思索したものである。
オリジナルな点は、1つには、これらの文学上の多様な動向や現象をそれぞれ個別にではなく、それを引き起こさないではいなかった、ある一貫する理念(イデー)を解明し、基づけたところにある。また、それはこの「近代」(=半封建)日本の社会や国家とも深く結びついているのである。この理念の把握も確なものである。
2つには、明治・大正期の文学史のこれまでの概論・解説とは異なった見方や示唆が数多くなされている。詩人でもある佐藤春夫は、森鴎外の詩や新体詩の流れにも詳しく言及している。ある意味では前半は鴎外論でもある。
3つには、言うまでもなく青年作家として自己の内面をまた友人や他の作家仲間の考えや行動を観察してきた同時代人による確かな視点があることである。たんなる概論や評論にとどまらない視点や文学青年たちの息吹が描写されている。一読に値するといえよう。