結城信一 著結城信一 著、講談社、2002年11月、235p、16cm
1刷 カバー付 カバーヤケ無し 本体天少点シミ (3ヶ所) 本体三方ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
結城信一のこの作品が、とてもわたし自身に近く寄り添ってくるのを感じていた。はじめの数行でそれと分かる。
山形老人は夏の強い日差しの中、庭の片隅に30分あまりもうずくまり、漆のような黒い背中を見せてゆっくり歩く虫を見つめている。
その虫が30年前の佳子の化身のように見えるのだ。
75歳の山形老人の夢の中に、また日常の中に紛れ込む幻想の中に、16歳で死んだ娘の秋子が、また秋子の友人だった佳子がいつも現れる。この佳子も18歳で死んでいる。
二人の少女は孤独な山形老人を慰める者として幻想の中に現れる。佳子は娘の友人という事を越え、ひとりの女性として老人のからだの奥に仄かに炎えるものを走らせるもする。
二人の少女達は老人がこれから向かおうとする死の世界に属する者たち。
老人を癒す者、老人を愛し、受け入れる者の象徴。
それがなくては生きることの難しい心の支え。
例えそれが目には見えない幻想の中の者であったとしても。
二人の少女達の対極にあるのは、山形老人の息子だろう。