佐藤泰志 著、集英社、1991年12月、254p、20cm
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ひとつの街が衰退し始め、その代わりに郊外が成長していく現象は、一九八〇年代以後の日本において、全国各地で起きていた出来事であり、現在の私たちはそれらによってもたらされた社会の風景の変容の果てに佇んでいることになる。
そうした街とその周辺に生きる住民の視点と心象風景から、社会の変容の初期過程を描いた連作小説集というべき一冊があって、それは佐藤泰志の『海炭市叙景』として、九一年に刊行されている。「海炭市」とはもちろん架空の土地だが、佐藤の生まれ故郷の函館市をモデルとするもので、人口三十五万人の街とされ、次のような説明がある。
元々、海と炭鉱しかない街だ。それに造船所と国鉄だった。そのどれもが将来性を失っているのは子供でも知っていた。今では国鉄はJRになってしまったし、造船所はボーナスの大幅カットと合理化をめぐって長期のストライキに突入したままだ。兄の炭鉱でも、将来の見通しを一番身近に感じていたのは、おそらく組合員自身だったろう。街は観光客のおこぼれに頼る他ない。