奈良国立文化財研究所 編、奈良国立文化財研究所、1985-3、44p 図版16p、26cm
序
古都奈良に押しよせる開発の波は、近年ますますその激しさを増
し、地上の景観が変貌するとともに、地下に残された遺構も急速に
失われつつある。こうした状況の中で、 平城京内の発掘件数は急速
に増加し、当研究所もその調査研究に追われている。
今回発掘調査をおこなった奈良市四条大路町一帯は、 平城京左京
四条二坊の東半部にあたる。 この地は、奈良時代中頃に極位極官を
きわめ一転して非業の最期を遂げた藤原仲麻呂の邸宅 「田村第」の
故地と推定されている。 残念なことに、 「田村第」 推定地の南半部
は、 平城京の発掘調査体制が整う以前に大規模な住宅団地が進出し
たため、すでに調査不可能となっている。 また北半部についても、
奈良市役所・国道24号線バイパスに近いことから、新市街地として
の開発が急速に進行しており、 開発されつくすのは今や時間の問題
である。今回の調査は、こうした状況の中で実施したものであり、
「田村第」推定地の奈良時代の姿の一端がはじめて明らかとなった。
調査の成果と問題点は本書に詳しく述べているが、 大規模な礎石
建物のほか多くの建物や塀を検出し、 左京四条二坊十五坪における
土地利用状況の変遷について見通しを得ることができた。 今回検出
した遺構が「田村第」の一部を構成するのか否か決定するためにも、
周辺地域における今後の調査の進展を強く望む次第である。
1985年3月
奈良国立文化財研究所長
坪井清足