上林暁 著、新潮社、平成5年11月、258p、15cm
<新潮文庫> 復刊 13刷 カバー帯付 カバーヤケ無 オビヤケ無し 本体三方ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
表題作の「聖ヨハネ病院にて」は、短編作品のうちの一つです。この短編(聖ヨハネ病院にて)で重要と思われる部分を抜粋してみると、「しかし僕が、『如何なる基督教徒よりも基督教徒的でありたい。』と、心に噛み締めて呟いた時、僕にはそれを具現すべき一つの目途が、心に浮んでゐた。それは、もつと妻にやさしくしてやらうと思ふことであつた。それによつて僕は、『如何なる基督教徒よりも基督教徒的でありたい。』との願ひを、果し得ると考へた。道は遠きに求むるに及ばず、また信仰は神に憑る必要はない。自分の身近には、妻といふ廃人同様の人間が居るではないか。眼も見えなければ、頭も狂つてゐて、その苦痛をすら自覚しない人間が居るではないか。この人間を神と見立ててはいけないだらうか。この人間のために、もつともつとやさしく、もつともつと自分を殺してやれば、自分は基督教徒ではないけれど、彼等以上に基督教徒的であり得ないことはないはずだ。さうすれば、道はおのづから求められ、神はおのづから身を寄せて来るにちがひない......。」
精神病科に入院している妻は、余命もあまりないようだが、夫が健気に付き添う姿は、究極の夫婦愛を感じる。
とても、素晴らしい作品に思われました。