¥3,660
張季琳
、東方書店
、2009年
、272p
、A5判
今も読み継がれている自伝的小説『次郎物語』の作者・下村湖人は、作家デビューする前、佐賀中学、唐津中学校長を経て台湾に渡り、台中一中校長、台北高校長を歴任しています。彼の台湾経験がいかなるものであったのか? 著者は『台湾日日新聞』などの史料を渉猟し、台湾人生徒による日本人炊事夫排斥運動に端を発した台中一中ストライキ、その後の台北高ストライキ、2つの事件による挫折感が、帰国後に始まった彼の後半生に深い影響を与えたことを明らかにします。理想とする教育を植民地体制下の台湾では実践することができず、「大いなる道を念じてこの島にわたり来し日を思いつつ淋し」と歌い、「虎人」から「湖人」へと改名する心境にあった湖人は、次郎の故郷と東京郊外を舞台とする『次郎物語』にも〝台湾〟を語ってはいません。しかし、著者は「第四部には、作者の人生の転機となった台北高等学校ストライキ事件およびそのときの人物関係がはっきりと反映している」と言います。戦前日本の台湾植民政策に新たな視点を開く、作家論、作品解説です。
構成
序 植民地台湾における下村湖人──文教官僚の挫折と教養小説作家の誕生(藤井省三)
第一章 下村湖人との出会い
第二章 九州から台湾へ
第三章 台中一中ストライキ事件
第四章 台北高等学校ストライキ事件
第五章 台湾時代の下村湖人の短歌
第六章 離台後の湖人
第七章 下村湖人の台湾経験と『次郎物語』
終 章 台湾人にわびたい
あとがき