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加藤久勝・著、海文堂書店、大正15年8月8日発行、329頁、タテ200ミリ×ヨコ130ミリ、1冊

自序より「僕は大正7年に『魔海横断記』を、同11年に『船頭の日記から』を書き、そして今又『甲板に立ちて』を上梓いたします。何の教養も有ち合はしてない僕であり、加之二十幾年といふ長い年月を浩波の上に送ってきた僕は、とても著作をするといふやうな柄じやないのは勿論ではありますが、最も酷く虐げられ重き負擔に苦しむもの、人間としてのあらゆる幸福を奪はれてゐる船乗といふ職業者の生活の實相と、そして、僕等の環境に綴り出さるる血の滲むやうな裏面消息を赤裸々に社會へ発表し、更に、恵まれぬ人生の逆旅に泣く僕等の實感を基礎として鬱勃たる肚裡の不平と反骨の叫鳴と併せて一帆長航途上の見聞による感想を率直に描寫することは、或は日本の憂ひを憂ひとする識者の一願を喚起することに於て決して徒爾じやないだらうといふことが再び禿筆を呵さんとした動機の全部であります。幸ひに本書を通じて僕等船乗の思想や人生観や社會観に就て批判を仰ぐことが能き、併せて何かの参考として資することあり得るなら僕の満足は之に過ぎぬのであります。が、僕は、走馬燈のやうに推し移りつつある現代の世相に鑑み、かうしたものを書いて見るのも、或は僕等の義務じやないかと考えてゐる心持に共鳴を期待したいのです」
函に少イタミ、背表紙タイトル剥がれ、小口・表紙に小印、巻頭・最終ページ・小口ほかにシミ、少エンピツ書き込みがあります。