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児玉花外、21×9.9センチ、1冊

児玉花外『社会主義詩集』は明治36年9月14日に発禁処分となった。当該写本は発行元である金尾文淵堂の金尾種次郎が発禁直後に筆写したものであろう。

表紙にはペン書きで「社会主義詩集」とある。扉には挿絵、書名、著者名、蔵書印。次のページには挿絵、序詞、蔵書印。その次のページからノンブルが付され、「労働軍歌」以下、全30篇の詩が筆写されている（P.1～P.150、ノンブルここまで）。次に目次4ページ。その後に「朝顔に対して　社会主義詩集発売禁止の朝」という詩が3ページ。巻末の6ページは白紙である。

現在、我々が知る『社会主義詩集』は、昭和24年に岡野他家夫が編纂した復刻本が元本になっている。岡野は明治36年当時の雑誌広告の目次から全30篇の詩の題名を知り、『社会主義』や『東京独立雑誌』などの初出誌より復元を試みた。しかし、それだけでは完全なものにならず、芥川徳郎から見せてもらった写本でようやく全篇を復元できたという。

「芥川徳郎から見せてもらった写本」とは、入江信雄が筆写し、昭和17年頃に芥川徳郎へ渡ったペン書きの写本を指す。さらに遡って入江信雄が筆写した写本の元になっているのが、金尾種次郎による筆写本である。金尾種次郎の写本は、昭和24年の入江文庫売立で落札されてから姿を消したと言われている。芥川徳郎による転写本も今の行方は知れない。

当該写本が、入江文庫売立で落札された金尾種次郎写本そのものであるのかどうかの確証はない。ただ、当該写本の癖のある筆跡は金尾種次郎によるものと見て、まず間違いないだろう。

なお、当該写本と岡野他家夫編纂の復刻本を比較すると、字句の異同はかなりの数にのぼる。

ちなみに小寺謙吉『発禁の詩』には、小寺自身が発見した「稿本」（明治36年付の当局の押収印が表紙に捺された和綴本）が紹介されている。また、太田雅夫『不遇の放浪詩人 児玉花外・明治期社会主義の魁』では、金尾種次郎が『社会主義詩集』の「原稿」を明治37年に大阪府立図書館（現在の中之島図書館）へ寄贈していたという事実を突き止めた。ところが、小寺の「稿本」も、寄贈された「原稿」も現在は行方不明となっている。

発禁当時の資料がいずれも所在不明の中、発禁直後に金尾種次郎が筆写したと思われる当該写本はあらゆる意味で貴重な資料と言えるであろう。