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生命いとおしむ
私は、 梅宮馨四郎さんの絵から、いつも心のなかへ滲
み透ってくる情感を感じる。 その情感は生命をそしてま
た生命あるものを、さらには生命あることをいとおしむ
性質のものである。
梅宮さんの創作の航跡を振り返ると、 文明社会から取
材したモチーフが見あたらない。 文明社会ではともすれ
ば生命あるものが人工の影に没してしまうからであろう。
1952年の作品「馬と母子」から1993年の作品 「並木」 ま
で、この画集に掲載した20数点の絵に表わされているも
のは、たとえば1984年の作品 「樹」 のなかで、 小鳥を胸
に抱いてたたずむ女性の如く、生命をいとおしむ情感を
象るものである。
梅宮さんの生命をいとおしむ心がより広がり、さらに
深まる気配は、中近東の土地を体験したころから濃縮さ
れてきた。 大自然に包みこまれて生きるものへの共感は、
1991年の作品 「トレド遠望」 や 「霧はれる」 などの風景
画からも感じることができる。 私は、 「霧はれる」 の絵
に、 梅宮さんの画境の究極を見る想いがする。 そしてこ
の画境が澄み渡った次なる創作を心待ちして止まない。

増田 洋
美術評論家
少ヤケ、少シミ　謹呈署名入り