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第二版の跋
今、この小説の合を出すに當り、自分は日本に於けるプロレタリヤ文藝運動の發展過程、即ち實踐のあとを顧み、一種の感慨無きを得ない。
自分がこの小説を書き始めた時から、既に十年、その間に、わが無産階級解放運動も、深刻な血
の歴史を展開したが、その一翼たる藝術運動にあつても、同じく激しい闘争の道を辿って来た。
凡ての運動がさうであるやうに、過去十年のプロレタリヤ藝術運動に於ても、かなりの誤謬と迷
行があり、一時はその正體の見失はれるまでに、多くの夾雑物が含まれたこともあった。否現在
にもさういふ過誤が無いとは言へない。しかし大體、日本のプロレタリヤ藝術運動は、無産階級
運動の社會的條件に應じ、次第にそれらの誤謬迷行を清算し、闘争の過程に於て多くの夾雑物を
麦除しながら、藝術運動の本營を進めて来たことは事であり、今は一層ふとい足跡を印しなが
ら歩いてゐるのである。
くわ
従つてこの十年の間に、所謂作品行動にあつても、幾多の優れたプロレタリヤ作品を提供して
ゐるのだ。しかし、自分のこの作品の如きは、プロ藝術運動の本營『文藝戰線』一派の、劃期的
な『目的意識論』よりも遙かに以前の作品であり、所謂『轉換』以前のだ物足りない小説であ
るが、これをプロレタリヤ藝術運動發生當時の、一つの拾石として読んでもらへば、歴史的にも
多少の興味はあるかと思ふ。
一九三〇年五月　著者
重版、函、函デザイン部分に剥がれ有り、函と本体に経年ヤケ、保存状態良好です。