フィリップ・K.ディック 著 ; 友枝康子 訳、サンリオ、1981年12月、331p、15cm
初版 カバー付 カバーヤケ無し 本体三方少ヤケ 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
サスペンスフルな導入部、SFらしい見事なアイデア、古いハリウッド映画のようなケレン味たっぷりの展開。映像化されたわけではないのに、映像が頭に焼き付く読後感は、これらがもたらすものでしょう。
でありながら、これは愛についての物語だと作家自身が言う--その通り、愛することそのものの痛み、愛する人を失う喪失の痛みが、痛みをもたらす愛を否定する改良人種との対比でくっきりと描かれています。
そもそも最終行も「愛されている」という言葉で終わっています。
が、この「愛されている」をもたらすきっかけのエピソード自体は、改良人種の利己心による親切、もしくは相手へのいらつきの言葉が結果アドバイスとなったような小さな出来事です。
それを最後に肯定的に示すことで、哀切のトーンが強い後半の描写にもかかわらず、本作をセンチメンタルな甘ったるい作品にすることを防いでいます。
「愛は負けても親切は勝つ」と言ったのは別の作家で、たぶんディックは親切も含めて愛として、受け入れ、肯定したかったのでしょう。この読後感には、珠玉という表現がふさわしいと思います。