松本剛 著、岩波書店、1993年5月、303p、20cm
初版 カバー付 カバーヤケ無し 本隊天点シミ 小口と地極少点シミ 小口と地ヤケ無し 線引き無し 書き込み無し 保存状態良好です。
イトルに「文化」とあるが、本書で触れられるのは副題の一部にあるように、「図書」の略奪や焚書などである。
大きく分けると、日中戦争・太平洋戦争時、日本軍や関係者が中国で略奪した図書についてと敗戦後の日本における占領軍による図書没収と焚書について書かれている。
戦争時に美術品や文化財などは必ずと言っていいほど略奪され、そこには、図書も含まれている。日中戦争・太平洋戦争時の中国でも例外ではなく、凄まじい数の図書が日本に持ち込まれているが、本書ではその実態についてかなり詳細に明らかにしている。日本文化における中国文化の影響が大きかっただけに、学術的に価値が高いものなどは、旧帝国大学などに一端収められていた。中華民国が第二次世界大戦後に出した資料などに基づきながら、日本から返還された分(戦争中に汪兆銘政府に返還されたものを含む)も追跡していく。また一方で、戦後の日本において行われた占領軍における図書没収についても詳しく論じられるとともに、占領軍の命令による焚書(命令の“誤訳”に端を発するものもあったとしている)についても、地方の図書館や教育関係者が残した証言などから、その実態を辿っている。戦前、戦時中と思想教育を後押しした特高警察などの面々が、戦後になると「軍国主義」関連の焚書に積極的に協力している皮肉な姿が浮かび上がる。
かなり多くの略奪図書が中国には返還されたようだ。ただ、あくまで本書刊行時点での話であるが、個人が所蔵している略奪図書などは返還されていない可能性が高いとしている。
著者は、そういったことを踏まえながら、1970年代あたりから国連で議論され提起されている文化財を本国へ返還していく流れも紹介している。