昭46、127p、26cm
もともと芝居絵は、 歌舞伎絵とも浮世絵とも呼ばれていた。 しか
し金山画伯の芝居絵を、いわゆる浮世絵と同じ範疇に入れ、同一概
念で論じるわけにはいかない。 呼び名は同じ芝居絵でも、これはた
画材を、歌舞伎から求めたというだけで、他はすべて純然たる近
代洋画の理念と技法とに基づいた立派な油彩画であるからだ。
金山画伯の芝居絵の, 純粋の美にみちみちた, まれにみる清潔な
品格の高さは, まさしく画伯の人となりそのままの現われであって
何人の追随をも許さない。 (芝居絵以外の作品も同様である。)
これは画伯が,日常生活では,権威をきらい, 名声を避けて 庶
民の一人となりながら, いったん絵筆を取れば, 練達の技術になお
いささかも妥協を許さず, あくまで真実を追求してやまないノーブ
ルでナイーブな魂の発露であるからだ。 われわれはその画面に, 人
と作品との美事な一致を見, そしてそのゆえに持つ真の芸術の慈味
を心ゆくまで味わうことができる。
さらりと流しているようでいて, すみずみまで神経のゆきわたっ
た密度の細かい画面からくる快い緊張感。
和紙 (鳥の子紙) にテレビンでうすめた油彩の, 渋く沈んだ日本
的情緒に富む独特の色調。
意表をつくアングルと, 直線の美しさとを自在に活用し併用した
空間処理の変化ある緊密な画面構成。
平均30cm×20cmほどの小画面が, そのまま質と量をもった大舞台
を連想せしめる迫力。
ほとんど目鼻も口も描かれていない画中の小人物が、いかにも生
き生きとその存在を主張し, ある一瞬を描きながら、 前後の動作を
暗示するなど, われわれ鑑賞者に与える無限の感興。
画伯の言によれば, いずれもスケッチをしていないという。 デッ
サンなしに空で, ぶっつけ本番に描いたものだそうである。
、兵庫県立近代美術館他で開催
表紙ヤケ グラシン紙包装にてお届け致します。