フーゴ―・グロティウス、Martinus Nijhoff、1868
First edition, 8vo, xvi, 359p., original printed wrappers, unopened copy, paper of upper & lower spine sl. Damaged, bit frayed on. Meulen 684
新興の海洋進出国であったオランダが、アジア地域での交易を巡って先行する海洋帝国であったポルトガルと対立し、同国所属の船であったカタリナ号を捕獲しアムステルダムまで曳航したカタリナ号事件。この事件の当事者であったオランダ東インド会社が、本事件における海上での捕獲権を弁護・正当化する目的で、当時新進の弁護士であったフーゴ―・グロティウスに著作の執筆を依頼し、1604年から1609年に執筆されたのが本書「捕獲法論」です。
しかし、本書は原稿が完成した後も理由が不明のままグロティウス存命中に刊行されることはありませんでした。1864年にグロティウスの末裔の家より本書の原稿が発見され、ハーグの出版社ナイホフ(現在のDe Gruyter Brillのインプリント)より競売に付され、ライデン大学法学部が落札し、同大学編集の下で1868年にようやく刊行されることとなりました。なお、このグロティウスの原稿落札に尽力した人物のうちの一人であるシモン・フィッセリングはオランダに留学していた西周と津田実道に法学と経済学を教えた人物として知られています。
本書の原稿発見で明らかになった有名なエピソードは、17世紀に海洋の自由を巡ってヨーロッパで大論争を引き起こしたグロティウスの主要著作「自由海論」は単独の著書として刊行されたものではなく、「捕獲法論」の第12章を手直ししたものであったことが判明したことでした。また「捕獲法論」はグロティウスのもう一つの主要著作である「戦争と平和の法」を執筆するにあたっても参考にしたと言われており、時を越えて刊行された本書は、グロティウスの国際法思想研究にとって不可欠なものと言えます。
参考文献:
伊藤不二男『グロティウスの自由海論』、有斐閣、1984年
柳原正治『グロティウス』 清水書院 2000年