柔らかい土をふんで、

￥500

• 著者 金井美恵子 著
• 出版社 河出書房新社
• 刊行年 １９９７年１１月
• ページ数 203p
• サイズ 19cm
• ISBN 4309011799
• 状態 中古品（良好）
• 解説 初版　 カバー付　 帯欠　カバーヤケ無し　本体三方ヤケ無し　線引き無し　書き込み無し　保存状態良好です。
  
  柔らかい土をふんで、と始まり柔らかい土をふんで、と締めくくられる
  この魅惑の作品は金井美恵子によって築かれた日本文学における金字塔である。
  清らかな水滴のような繊細な語句を緻密に結合させ、緩やかな風をはらんだ
  帆布のように伸びやかにゆったりと書き連ねられるテクストに没入することによって、
  読者は豊かな言葉で満ち溢れた、温かい快楽の海にゆっくりと飲み込まれる。
  華やかだが情事の際には複雑な作業を経なければ脱ぐことが出来ないサマードレス、
  情婦の浮気を目の当たりにし、そっと扉を閉じるメリヤス会社の出納係、
  どこを探しても決して見つかることのない頭痛薬などの細やかで計算された
  数々の豊饒なイメージが幾度もリフレインされ、
  まるで鮮やかな絵具をふんだんに混ぜ合わせたパレットのように
  心地よく読者の視覚に幾度も働きかける。
  (あたかもゴダールが『軽蔑』で見せたブリジット・バルドーの美しい裸体のリフレインのように)
  そして作者によって提供されたイメージが読者の中に新たなイメージを呼び起こし、
  作者によって編み出されたリフレインが読者の中に新たなリフレインを呼び覚ます時、
  彼女によって書かれたテクスト以上の物語が私たちの中に、新たに誕生するのだ。
  金井美恵子のエクリチュールは、眠れる読者の官能を覚醒させ、芽生えさせ、翻弄し、
  快楽の果てへと導く。
  そしてクライマックスが段落も句読点もない3ページに及ぶ一文で私たちを襲う。
  それはもはや文章ですらなく、ということは単語の集積ですらなく、もはや音楽の域に
  近い、形容しがたい新たな芸術の一種ともいえる何かであり、
  それを読むことによって、私たちはかつて経験したことのない感動を覚える。

マスターID：2491390
初版刊行年：1997.11
ISBN：4309011799