特集522 怪談と幽霊 - 日本の夏・涼の文化(2026年7月22日〜2026年8月4日 ホーム掲載)
日本の夏の風物詩「怪談」。実際、恐怖による自律神経の反応で体表温度が一時的に下がる心理的効果があるとのこと。江戸時代、部屋を暗くして百本の蝋燭を立て、怪談を語るごとに一本ずつ消していく「百物語」が流行。後に鶴屋南北の「東海道四谷怪談」や三遊亭圓朝の「牡丹燈籠」といった不朽の名作を生み出した。1970(昭和45)年代に入ると、世界的なホラーブームと連動して「オカルトブーム」へと発展。1973(昭和48)年日本公開、ウィリアム・フリードキン監督作の「エクソシスト」で、少女リーガンが地下室で見つけた「ウィジャボード」を使った悪魔憑きの引き金となる描写は、放課後の教室で怪異を呼び出す「コックリさん」として、日本風に受容・簡略化されたものといわれる。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が「怪談」で描いた霊魂から、現代のポップカルチャーに至るまで、日本では恐ろしいものすら、どこか愛おしいキャラクターとして形作ってきた。葛飾北斎や歌川国芳らが描いた幽霊画など、足がなく、柳の下で乱れ髪を垂らす幽霊の姿は、冷気や儚さを視覚的に決定づけた。怪談の背景には常に「無念の思いを晴らす」「愛しい人に会いたい」という切実な人間感情が存在し、恐怖の裏側には常に深い哀憐の情が込められている。この「怖さと切なさ」が同居する独特の情念こそが、日本の怪談を単なるスプラッター(残虐表現)とは一線を画す、叙情的な文化たらしめている理由ともいえよう。
書籍一覧