古書月報 編集後記 2003年4月号より東京古書組合 機関誌部 |
◆新時代の風景◆春の日ざしのなか駿河台下を散歩すれば、建築中の古書会館の風景が見えてくる。 |
◆蔵の中の幻影城◆「江戸川乱歩展」を見る。 永遠の開かずの間、乱歩“蔵の中の幻影城”の扉がはじめて開かれた。 二十一個にも及ぶ自著箱には自らの作品群がぎっしり詰まっていたという。処女作「二銭銅貨」を含む第一創作集『心理試験』などの創作探偵を代表とする初期作品から、異色作『陰獣』をはじめ、『吸血鬼』、『幻想と怪奇』、『幽霊塔』、『孤島の鬼』おなじみの『少年探偵団』、『明智小五郎』そして稀覯本『江川蘭子』など輝くばかりの著作である。また華やかな表紙で飾られた戦後の仙花紙本に至っては、めったに見られない珍本がいくつか陳列されていた。これらが一堂に集まることは今までなかったことである。 そのなかで今回最も注目されていいのは、全九巻から成る乱歩自らが蒐集作成した『貼雑年譜』であろう。そこには、膨大且つ種々雑多の新聞や雑誌の切り抜き、手書きの地図や絵、書簡・短文、はては紙幣、賞状などの時代の証拠品が、四十七年間分スクラップブックにされ並べられているのだ。 そこに貼られた捨て難い、たった一枚の古き紙片が、時代を破壊し人の想像力を異常に促してしまうのか、あるいは、人はいつもどこかで何かを求めているそれがため、過剰に自己の分身を作り上げてしまうのか……。 『年譜』が作品以上の作品であるとは乱歩自身も思わなかったかもしれない。 ところで、夢野久作の代表作『ドグラ・マグラ』(昭和十年)が硝子ケースの中に端然と置かれていた。 *表示の都合上、一部表記を新字とさせていただいております。 |
◆胡桃◆河原でカラスが空高く飛び、なにやら物を落としていた。 堅牢で容易に割れないのが胡桃だ。カラスにそんな知恵があるのか、そこで愚者は真似をする。 |
東京古書組合発行「古書月報」より転載 禁無断転載 |