フレンチ警部とチェインの謎 <創元推理文庫> クロフツによるフレンチ警部シリーズの長編。本作品は、クロフツお得意の鉄道アリバイ崩しものではなく、暗号解読もの。さらにストーリとしては暗号が主体と言うよりは、チェイン君の冒険譚と、フレンチ警部の推理が冴える冒険物語に近い。 クロフツのほかの作品にもこういう例はあるが、フレンチ警部は物語の半分が過ぎるあたりでようやく登場する、という構成だ。前半は、チェイン君が素人なりに苦労しつつ、降りかかる冒険に挑んでゆく話がちゃくちゃくとすすむ。そして後半に入って、フレンチ警部が事件を引き取り、足を使った地道な聞き込み捜査やらを逐次進めていき、しだいに捜査の網を絞っていき、そして・・・、という形である。途中に暗号解読の話があるが、そこがクライマックスと言うわけではない感じである。 本作は舞台が第一次大戦後の欧州であるので、そのあたりの時代も含めた背景事情がストーリにしっかり組み込まれている。日本だと横溝あたりが好んで書きそうなテーマかもしれない。 最後の結末のあたりはちょっとばかり、ベルヌとか、そういう時代の小説を髣髴とさせるものがあるが、まあ、そのあたりは良しとしましょう。ハッピーエンドなので読後感も良いし、クロフツというとアリバイ崩し、という固定観念を壊すのに良い読み物ですね。