2021年11月10日号 第334号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第106号
      。.☆.:* 通巻334・11月10日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

コロナ禍古本屋生活2 本の引っ越し編

                  火星の庭 前野久美子

 この秋に古本の在庫を置いていた倉庫を引っ越すことになった。
わたしのような古本屋に限らず本好きであれば、本の引越しがいか
に難儀か想像いただけると思う。引っ越すことが決まってからとい
うもの、頭の中から絶えず聞こえてくる「どうするんだ!倉庫の本
は?」という声に煽られていた。その声はやがて、「これからお店
をどうするつもりか?」という難問まで引き連れて来るから、さら
にやっかいだった。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7447

火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/

Twitter https://twitter.com/kaseinoniwa

『仙台本屋時間』
https://kasei003.stores.jp/items/605b5f5dd263f03059a1a9b2

━━━━━━━━━【シリーズ 古本の読み方1】━━━━━━

ズレて、ズラして、ズラされて――時代と価値観からのスピン・オフ

                      書物蔵

■古本の買い方ならぬ読み方
 古本読書術というお題は成立するだろうか。古本の「買い方」
本には意外と「読み方」が書かれていない。それらは、買い方+
自分がオモシロいと思った古本の紹介、というパターンがほとん
どで、「なんで自分がその本をオモシロいと思えたか」「どうし
てその本がユニークだと気づけたか」といったメタな記述、つま
り、購書術ならぬ読書術はあまり見当たらないのだ。気づいた結
果は書いてあるのに、なぜ気づけたのか、プロセスがないのは、
無意識的な動作だからだろう。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7451

書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ
移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

ツイッター
https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)

━━━━━【11月10日~12月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

-------------------------------
BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/11/11~2021/11/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
南大沢古本まつり

期間:2021/11/12~2021/11/18
場所:京王相模原線南大沢駅前&ペデストリアンデッキ特設テント

https://minamiosawausedbookfes.wordpress.com/

-------------------------------
第183回 神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2021/11/12~2021/11/14
場所:兵庫県古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5

https://hyogo-kosho.com/

-------------------------------
第3回 令和 古本まつり(高知県)

期間:2021/11/13~2021/11/14
場所:高知市南御座6‐10 高知蔦屋書店 1階テラス(屋外・屋根付き)

-------------------------------
趣味の古書展

期間:2021/11/19~2021/11/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

-------------------------------
名鯱会(愛知県)

期間:2021/11/19~2021/11/21
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
電話:052-241-6232 ※JR「鶴舞駅」名大病院口より徒歩5分
※地下鉄「鶴舞駅」1番出口より徒歩6分

https://hon-ya.net/

-------------------------------
浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/11/25~2021/11/28
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

-------------------------------
和洋会古書展

期間:2021/11/26~2021/11/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

-------------------------------
五反田遊古会

期間:2021/11/26~2021/11/27
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

-------------------------------
中央線古書展

期間:2021/11/27~2021/11/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
第100回 彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2021/12/01~2021/12/07
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

-------------------------------
関内・古本sevenマーケットwith文具&雑貨(神奈川県)

期間:2021/12/01~2021/12/30
場所:JR関内駅前セルテ1階

-------------------------------
書窓展(マド展)

期間:2021/12/03~2021/12/04
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

-------------------------------
西部古書展書心会

期間:2021/12/03~2021/12/05
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
12月反町古書会館展(神奈川県)

期間:2021/12/04~2021/12/05
場所:神奈川古書会館

-------------------------------
浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/12/09~2021/12/13
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

-------------------------------
歳末赤札古本市

期間:2021/12/09~2021/12/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
新興古書大即売展

期間:2021/12/10~2021/12/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

-------------------------------
第20回つちうら古書倶楽部・師走の古本市(茨城県)

期間:2021/12/11~2021/12/19
場所:土浦市大和町2-1 つちうら古書倶楽部

-------------------------------
フィールズ南柏 古本(千葉県)

期間:2021/12/11~2021/12/28
場所: フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

-------------------------------

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国950書店参加、データ約600万点掲載
の古書籍データベースです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】

https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=33

┌─────────────────────────┐
 次回は2021年11月下旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*゜*.:*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の古書店で ☆*.:*゜*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

==============================

日本の古本屋メールマガジン

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

==============================

2021年10月25日号 第333号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
     。.☆.:* その333・10月25日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国978書店参加、データ約612万点掲載
の古書籍データベースです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.『近代出版史探索外伝』について    小田光雄
2.『東京の古本屋』   橋本倫史
3.詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた
                      吉増剛造

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(279)】━━━━━━━━

『近代出版史探索外伝』について

                       小田光雄

 今回の拙著はこれまでの『近代出版史探索』五冊の短編連作と異
なり、「ゾラからハードボイルドへ」「謎の作者 佐藤吉郎と『黒
流』」「ブルーコミックス論」からなる三本立てである。映画を見
始めた1960年代は雑多な三本立て上映が主流であって、それを模し
てみようと思った。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7332

『近代出版史探索外伝』 小田光雄著
論創社刊 6000円+税 好評発売中!
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(280)】━━━━━━━━━

『東京の古本屋』

                     橋本倫史

 きっかけは、ふとした一言だった。
 大学4年生を迎えた春、単位がまだ足りなくてどの授業を履修し
ようかと頭を悩ませていたところに、同郷の友人がアパートを訪ね
てきた。ちょうどそのとき、テーブルの上に『SPA!』を広げてあっ
た。毎週購読していたわけではなく、その週はたまたま買い求めて、
テーブルに置いてあった。開いていたページには、福田和也さんと
坪内祐三さんによる対談連載「これでいいのだ!」が掲載されていた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7394

『東京の古本屋』 橋本倫史
本の雑誌社刊 本体2000円+税 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114620.html

━━━━━━━━━━━【自著を語る(281)】━━━━━━━━━

詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

                        吉増剛造

 “メズラシキゴイライニセッシ、コヽロオドリジャクヤクシオリ
ソロ(稀らしき御依頼に接し、心躍り雀躍し居候)”と、何処かへ
と“ウナ電(至急電報)”を打ってみたい気持が湧いて来ていた。
 これは、旧知の吉成秀夫さんからの書状での御依頼に接した折の
emotion=エモーション、“感情”と綴ろうとして、しばらく途惑っ
ていて、“emotion=エモーション”といたしましたのには、理由が
あって、…というのよりも、ここで、その“理由”が芽生(めば)
えて来ていて、それに誘われて、こう、綴っていたのだった。この
こと、後述、……。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7286

吉増剛造 詩集 『Voix(ヴォワ)』
思潮社 2800円+税 10月20日頃発売
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『古本マニア採集帖』  南陀楼綾繁
皓星社 定価:2,000円+税  発売日 2021年11月30日
https://www.libro-koseisha.co.jp/history_culture/9784774407500/

『古本屋的! 東京古本屋大全』 中山信如(編著)
本の雑誌社 予価:2970円(税込)2021年11月24日発売予定
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114663.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

10月~11月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=38

┌─────────────────────────┐
 次回は2021年11月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

==============================

日本の古本屋メールマガジン その333・10月25日号

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

==============================

コロナ禍古本屋生活2 本の引っ越し編

コロナ禍古本屋生活2 本の引っ越し編

火星の庭 前野久美子

 この秋に古本の在庫を置いていた倉庫を引っ越すことになった。わたしのような古本屋に限らず本好きであれば、本の引越しがいかに難儀か想像いただけると思う。引っ越すことが決まってからというもの、頭の中から絶えず聞こえてくる「どうするんだ!倉庫の本は?」という声に煽られていた。その声はやがて、「これからお店をどうするつもりか?」という難問まで引き連れて来るから、さらにやっかいだった。

 これまではありがたいことに同業のA書房さんが借りている倉庫に間借りさせてもらっていた。2年前、A書房さんが仙台市内で新たに倉庫を借りることになった。本の置き場に困り果てていたわたしは「少し本を置かせてもらえないでしょうか」とお願いしたところ、「いいですよ」と快諾してくれたのだった。
はじめ本は10箱だったが、すぐ50箱になった。やがて200箱、ついには300箱以上にもなっていた。これ以上甘え続けるわけにはいかないと思っていた。A書房さんがもっと交通のアクセスが良い広い倉庫に引っ越すことになったタイミングで、自力で倉庫を借りることにした。

 実はA書房さんの倉庫に間借りする前、大量の本は、あちこちに分散して置いていた。自宅マンションの4部屋のうちの2部屋と地下倉庫、仙台市内の夫の実家、福島県郡山市にあるわたしの実家の4カ所だ。自宅はとくに悲惨だった。ある時、布団を敷くスペース以外は家中すべてが本に埋め尽くされたことがあった。当時小学生だった娘の友だちが遊びに来て、昼間だというのに本で塞がれた薄暗い室内を見て「なんかこの家怖い」と言って泣出し、すぐ帰ってしまったということがあった。

 家じゅうが本だらけになっても一向にわたしが気にならないのは、子どもの頃の体験が関係している。父は筋金入りの男尊女卑の考えで、「女が本を読むと賢くなってロクなことがない」が口癖だった。そのためわたしはいつも隠れて本を読んでいた。高校生の頃、わたしが家に帰ると父が庭で何かを燃やしていた。それはわたしが押し入れに隠していた本だった。「燃えにくいな」と憎らしそうに長い棒で本をブスブスと突き刺していた。その光景があまりにも強烈すぎて、かえって本が好きになった。本に囲まれると毛布にくるまっているようなほかほかした気分になる。結果的に父はわたしの本好きの心にも火をつけたといえる。

 そうそう、今回の引越し先であるが、そもそも仙台は地方都市の割に家賃が高い。店の家賃に加えて、倉庫の家賃を払う余力はないので、間借りをしてしのいできた。さらに、今は長引くコロナ禍の影響で先行きが見えない状況にある。当店にとっては事業を拡大するなど無謀といえる。
 さて、どうしようと思案する日々が続いていたある日、一本の電話がかかってきた。旧友の皆川万葉さんからだった。彼女は、パレスチナ・オリーブという輸入販売会社を経営している。毎年1万本以上のオリーブオイルをフェアトレードで直輸入し、パレスチナの農業者の生活を支援し、情報や交流を促すなど人道支援にも力を注いでいる。当店でも販売しているそのオリーブオイルは非常に高品質で長年愛用するファンが多い。

 皆川さんは東北大学大学院在学中に、仙台で事業を始めた。しかし、震災後子どもを連れて山梨県に引っ越して行った。震災から10年が経ち、子育てが一段落する来春、仙台に戻ってくるという。「仙台で事務所と倉庫を借りなくては」と語る皆川さんに、わたしは一筋の光明を見た思いだった。思い切って「一緒に倉庫を探して借りませんか?」と提案してみた。すると、皆川さんは驚きながらも、「シェアしましょう!」と言ってくれた。大の読書家でもある皆川さんは、本の置き場の悩みにも共感してくれたのだ。

 それから3ヶ月、知り合いの不動産に依頼し、仙台市内の空き物件を見て歩いた。一階である程度広さがあり、道路にトラックが停められ、手頃な家賃という条件では、そう簡単には見つかるはずはなく、ここはと思っても断られたりもした。しかし、ついに私の店から車で10分の場所に、倉庫が借りられることになった。それからは、ひたすら本を紐で縛り、箱詰めする日々が続いている。ああ、本の落ち着く先が決まって本当によかった。今度はオリーブ・オイルと一緒だ。

 引越しをしたことで、「これから店をどうしよう」という迷いも落ち着いた。かつてのわたしのように本に飢えた人がいつか訪ねて来るかもしれない。縁あって当店に来てくれた本たちを次の方に手渡せるようきれいに整えておこう。今はお店を始めてから何度目かのスタートなのだと気持ちを新たにしている。



火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/
Twitter https://twitter.com/kaseinoniwa

sendai
『仙台本屋時間』
https://kasei003.stores.jp/items/605b5f5dd263f03059a1a9b2

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

ズレて、ズラして、ズラされて――時代と価値観からのスピン・オフ (古本の読み方1)

ズレて、ズラして、ズラされて――時代と価値観からのスピン・オフ (古本の読み方1)

書物蔵

■古本の買い方ならぬ読み方
 古本読書術というお題は成立するだろうか。古本の「買い方」本には意外と「読み方」が書かれていない。それらは、買い方+自分がオモシロいと思った古本の紹介、というパターンがほとんどで、「なんで自分がその本をオモシロいと思えたか」「どうしてその本がユニークだと気づけたか」といったメタな記述、つまり、購書術ならぬ読書術はあまり見当たらないのだ。気づいた結果は書いてあるのに、なぜ気づけたのか、プロセスがないのは、無意識的な動作だからだろう。
 そこで改めて考えてみた。

■古本とは、時代のズレを楽しむ本のこと
 購書術の中の「掘り出し」をする説明に、手がかりが少し示されている。例えば、唐沢俊一は『古本マニア雑学ノート 2冊目』(ダイヤモンド社, 1998)でこういう。
 たまたま行った地方の古本屋で名著の初版本を見つける、なんてことは「絶対にない」から、逆に「今から将来を見越した本集めを」(p.44)せよ、という。というのも「時代と共に、価値のある本が変わっていく」からと。これを敷衍すると、未来にせよ過去にせよ、時間的ズレ、正確には、それに伴う価値観のズレを楽しむのが古本だと思えてくる。
 それは秋山正美が『古本術。』(夏目書房, 1994)でいうような「〔自分の〕少年時代にそろえることのできなかったあこがれの本」(p.190)をはるかに超えて、自分の生まれる前まで拡張していくべきで。岡崎武志も『古本道入門』(中央公論新社, 2011)で「その人の古本人生を考える時、たぶん一つの分水嶺となるのが自分の生まれる前に出た本を買うことだ」(p.65)と指摘する。
 古本にはセカンドハンド(セコハン本)であるという意味と、古い本であるという2つの意味がある。初心者は安く買えるという値段から古本趣味に入門するが(ブックオフが典型だろう)、古本固有の楽しさとは、時代のズレを楽しむ点にあるのではなかろうか。

■ズレとは、読み手がつくるズラシのことでもある
 「あなたの紹介文を読んでとても面白かったので、原文が読みたくなり、手に入れて読んでみましたが、さっぱり面白くありませんでした」という手紙を唐沢俊一はもらうことがあったという(『古本マニア雑学ノート』ダイヤモンド社, 1996, p.178)。
 実は私も早稲田の古書現世さんに同じことを言われた。「書物蔵さんのブログで紹介された本を自分で見たら、そう面白く感じられないのは、紹介の仕方が面白いからでは」と。
 自分では素直にオモシロがっていただけなので、現世さんに言われて「あゝそうか」と気づいた。楽譜が同じでも演奏家によって演奏が異なるように、本が同じでも読み手によって読み取りが(実は)異なってくるのだ。
 唐沢は「(その古本の)価値は自分で作り出す」ものだと要約しているけれど、私が思うに、時間的ズレから生じる価値観のズレにつけこんで、つまりは自分の現在ただいまの興味から出発しながらも、ズラシた読みを積極的にやることが、その古本の価値を自分なりに作り出すことになる。
 などと、抽象的に言ってもわからないと思うので、事例に即して説明してみよう。

■(事例)日本は図書分類法でさきの大戦に勝利した……のか!?
 学生時代、絶版文庫や図書館情報学の本を蒐集していたのだが、古本趣味を復活させた2005年に、西部古書会館(高円寺)でこんな本を買った。ズラさずに紹介すると、この本はとある染織化学者の、研究一般論である。
 ・稲村耕雄『研究と動員(日本評論叢刊 ; 5)』日本評論社, 1944
 なぜ拾ったのかというと、もともと愛書家の司書に稲村徹元という人がいて――斎藤昌三の弟子――親戚かと思われたから(結果、違かった)。本をひらいたら、2章ほど図書の十進分類法について書いてあったので驚いた。
「研究の組織化にはカードが、あまりバカにできない役割をもつてゐる。カードを生かさうとすると問題になるのは分類である。現在わたくしが直接戦力増強のために全力を注いでゐるのも実はこの分類法の完成である」(p.81)
 昭和19年は大日本帝国いまだ聖戦完遂中にて、なにもかもが勝利のために総動員されていたわけであり、稲村さんも染織を通じて勝利に向かっていたわけだが、この人、たまたまフランスへ留学中に、研究方法論などに触れ、当時最先端の国際十進分類法(UDC)の知識を仕入れたのだった。UDCは単行本だけでなく、論文や著者(の専門)ですら厳密に分類可能な精緻なものであり、そこで稲村さんは科学文献、科学者の軍事動員にUDCが使えることに気づいたのだった。まさに、「直接戦力増強のため」である。日本のマンハッタン計画か?
 稲村さんのUDC普及は結局、上手くいったのだろうか? って上手くいかなかったから負けちゃったのか……*。
 戦後の我々は、図書館が栄えると平和が達成されるかのようなイメージに生きている。現に、昭和23年にできた図書館の親玉、国立国会図書館は「日本の民主化と世界平和」が使命だと法定されてもいる。しかし、その4年前、昭和19年の稲村さんは、戦争遂行、戦力増強にこそ、図書館事業が役立つと言っている。まるで逆さでオモシロい。
 稲村著を拾った後わたしは、読みようによっては図書館学書にも読めるものを「仮性図書館本」と呼んで、蒐集領域が広げ、大いに集めることになった。

■(読み方)体制変換をまたぐとオモシロい
 これは戦前と戦後に生じた(政治的)価値観の大転換を利用して古本を楽しんでいる例である。最近はすっかり戦前モノに集中してしまったのは、価値観の大転換があった敗戦前のものだと、大抵、オモシロいことが体得されたからである。
 もちろん日本なら1945年以前にも、1868年に変換があり、それ以前の本はさらにオモシロいだろうが、しかし江戸期和本は、くずし字を読めないといけないのと、古書会館の週末古書展でも陳列される会は限られるので、ちょっとやりづらい。しかし、旧漢字旧仮名の活字なら、慣れればわりとすぐ読めるようになるはず。

■(読み方)拡張概念で、自分の読みたい本を過去の方向へ殖やす
 1945年の体制変換は国家レベルの話だけれども、こちら、つまり読書者側の問題として、その事物をどれだけ知っているか、という問題もある。自分の仕事、自分の趣味の事柄であれば、現在の通説、当たり前を――言語化はできずとも――わりと広く知っているし、細かいことや、からくりもある程度わかるはずだ。旧漢字旧仮名への「慣れ」も、自分がすでに知っている事柄――それは『坊っちゃん』といった小説でもよい――を読んで慣れるのが、いちばんの近道でもある。
 ここで重要なのは、既存の興味を拡散させずに、むしろ貫きつつ、体制変換前や、周辺的な雑著をどう視野に入れて読むか、ということである。
 私の場合、すでに一通りの知識と本を持っていた図書館学ジャンルを、さらに「仮性図書館本」という言葉で拡張して集め出したことで、正統的な学史ではフォローされない周辺現象や在野活動が視野入るようになった。
 それはちょうど横田順彌が、英語のSF新作が読めない自分が作家仲間に自慢するために「古典SF」なる言葉を造語し、『炭素太閤記』など、普通なら珍奇、「その他」としか言えない雑著を発掘できたことに通じる。「古典SF」という概念の発明で、SF概念がない時代の本をSFとして拾えるようになったわけである。
 「仮性〇〇本」とか「古典〇〇」といった、ちょっとした言葉のアヤで、自分の興味を貫きつつ、一見、関係ない本を拾えるようになるのだ。

*書物蔵「カードと分類で大東亜戦争大勝利!:もうひとりの稲村さん、国際十進分類に挺身す(あったかもしれない大東亜図書館学; 6)」『文献継承』(22) p.11-16 (2013.4)

書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

ツイッター
https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

gaiden

『近代出版史探索外伝』について

『近代出版史探索外伝』

小田光雄

 今回の拙著はこれまでの『近代出版史探索』五冊の短編連作と異なり、「ゾラからハードボイルドへ」「謎の作者 佐藤吉郎と『黒流』」「ブルーコミックス論」からなる三本立てである。映画を見始めた1960年代は雑多な三本立て上映が主流であって、それを模してみようと思った。
 これは日本の古本屋メールマガジンの配信なので、ここでは「謎の作者 佐藤吉郎と『黒流』」にふれてみたい。この論考は十年以上前に書いているのだが、その後何ら新しい情報も得られず、さらなる知見を加えることができていない。ただひとつの進展はこの『黒流』という小説が国会図書館の蔵書デジタル化によって、誰でも読めることになったという事実であろう。

 だが依然として古書市場にはまったく見出せず、私が書いた時の状況と変わっていない。その私にしても、ずっと『黒流』を探していて、ようやく入手したわけではなく、古本屋の棚に置かれていたのを偶然に購入しただけである。確か古書価は千円であった。この四六判並製、函入六四六ページの長篇小説は佐藤吉郎という作者も含め、『日本近代文学大事典』を始めとするアーカイブにもまったく見当たらず、それは東北書房なる版元も同様だった。

 出版されたのは大正十四年十月であるので、大正文学に位置づけられようが、そちらの方面をたどってみても、その痕跡はどこにも残されていなかった。それゆえに、『黒流』という一冊と物語自体に謎を求めるしかなかった。確かに著者の写真は掲げられ、「自序」も示され、「今日地球上に於いて、最も重大な問題は、階級戦と人種戦である」と始まっている。そして次のような言葉も見られる。

  ” 私は一箇の放浪者だ。十九の秋から八年の間は、殆ど南洋に、メキシコに、キユーバに、北米にと云ふ様に放浪の旅を続けて居た。それも他の漫遊者の様に旅費を持つての放浪ではなかつた。だから冒険的な放浪であつた。一寸日本に居る人達の想像の出来ない様な経験もして居るのは云ふ迄もない。”

 この「自序」によって、『黒流』が長きにわたる南北アメリカの「冒険的な放浪」にベースを置き、「階級戦と人種戦」を描いていることが示唆される。しかもこの長篇小説『黒流』は当初千五百枚だったが、それを八百五十枚に縮めたので、「筋はそれ丈面白い処のみを取つて来た」とも述べられている。

 つまり現在の言葉に置き換えれば、エンターテインメント、もしくは冒険小説のようにして提出されたことになろう。そのために、『黒流』は大正文学にあって、まったく異形の小説、戦後の大藪春彦の小説に先駆けるようなかたちで出現している。
 それらの『黒流』をめぐる謎に関して、まずは『黒流』の書影、佐藤の写真、奥付記載を示した後で、出版と印刷の事象から始めている。本郷区駒込千駄木町に住所を置く東北書房と発行者の唐橋重政、大売捌所(取次)としての日本力行会、印刷所としての浜松市元城町の開明堂をたどっていくと、そこに現われてくるのは、キリスト教と日本力行会、浜松バンドと聖隷福祉事業団の関係である。そして『黒流』の全体の五パーセントに及ぶ伏字処理のプロセスも浮かんでくる。

 その一方で、黄禍論と排日の歴史もたどり、『黒流』の物語を分析し、石川達三の『蒼氓』に近代日本の南米移民史を追っている。また久生十蘭の『紀ノ上一族』に、『黒流』とは異なるかたちでの、アメリカにおける「階級戦と人種戦」を検証してもいる。
 大風呂敷を広げたばかりで、長篇小説『黒流』の物語そのものにふれてこなかったが、こればかりは拙稿を読んでもらうしかない。だが少部数のため高定価であるので、図書館にリクエストして頂ければありがたい。著者自らがいうのも何だが、一冊で三冊分が楽しめることを保証しよう。

gaiden

『近代出版史探索外伝』 小田光雄著
論創社刊 6000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

tokyohuruhon

『東京の古本屋』

『東京の古本屋』

橋本倫史

 きっかけは、ふとした一言だった。
 大学4年生を迎えた春、単位がまだ足りなくてどの授業を履修しようかと頭を悩ませていたところに、同郷の友人がアパートを訪ねてきた。ちょうどそのとき、テーブルの上に『SPA!』を広げてあった。毎週購読していたわけではなく、その週はたまたま買い求めて、テーブルに置いてあった。開いていたページには、福田和也さんと坪内祐三さんによる対談連載「これでいいのだ!」が掲載されていた。それを目にした友人が、「この人、早稲田で授業やってるよ」と教えてくれた。「レポートさえ出せば誰でも単位もらえる授業らしいけど」と。

 ぼくが通っていたのは早稲田大学ではなく、学習院大学だったけれど、単位交換システムがあり、その授業はぼくでも履修できるようだった。最初はただ「単位がもらえるなら」と申し込んだのが、坪内さんの「編集・ジャーナリズム論」という授業だった。そんなよこしまな気持ちで履修したものの、内容に引き込まれ、大学4年間で唯一欠席しなかった授業になった。
 授業は水曜日の5限だった。少し早めにアパートを出て、当時早稲田通りと明治通りの交差点にあった「すがきや」で腹を満たしたり、早稲田の古本屋街をのぞいたりしながらキャンパスまで歩いた。上京してからずっと高田馬場に暮らしていたけれど、古本屋に立ち寄るようになったのは、坪内さんの授業を受けてからだった。

 それからほどなくして、「わめぞ」というグループが立ち上がった。早稲田と目白と雑司ヶ谷で、本にまつわる仕事をしている人たちが集まり、「古書往来座」では外市という古本市が定期的に開催されるようになった。ぼくは買い物客として立ち寄りながら、「古書現世」の向井透史さんに誘ってもらって、打ち上げの席に混ぜてもらったり、飲み会があるときには声をかけてもらったりするようになった。そうして少しずつ古本屋の人たちと遊ぶようになり、楽器もできないのに、古書店主たちとボエーズというバンドまで組んでいた。ぼくは「記録係」ということになっていたけれど、ライター仕事で使うICレコーダーを持ち出し、演奏を録音しながらビールを飲んでいただけだった。大塚にあったオレンジスタジオで練習したあとは、サービスデイには焼酎の一升瓶が1300円で入れられる居酒屋「江戸村」でしこたま飲んで、酔っ払いながら都電脇を雑司ヶ谷に向けて歩いた。ぼくは古本屋で働いたこともなければ、頻繁に古本屋で買い物をするよいお客さんでもないけれど、そうしてお酒を飲んでいるうちに、古本屋の生活に少しだけ触れたような心地がした。そして、それをいつか言葉にしたいと、ずっと思っていた。

 ボエーズのボーカルを務めるのは、イラストレーターの武藤良子さんだ。その武藤良子さんが金沢の龜鳴屋から『銭湯断片日記』という本を出版する運びとなり、目白のブックギャラリーポポタム」で刊行記念トークイベントが二夜連続で開催された。その一夜目のゲストは「石神井書林」の内堀弘さんだった。
 トークイベントの冒頭で、内堀さんは、「この本を読んでいると、武藤さんが羨ましくなる」と切り出した。「銭湯と古本屋がある町に暮らしたい」なんて語られることも多いけれど、内堀さんは古本屋を始めた20代の頃、朝日も入らない風呂なしの物件に暮らしていて、当時の夢は「風呂つきの物件に住むこと」だった、と。銭湯の記憶はお金がなかった20代の記憶と結びついていて、ほっこりしたイメージとは程遠く、古本屋は「命懸けの場所だった」と内堀さんは言った。命懸けという言葉が、耳にこびりついた。

 武藤良子さんの『銭湯断片日記』は、本にまとめるつもりで書かれた文章ではなく、銭湯を訪れたときのことを日記としてつらつらと綴り、ブログに掲載されていたものだ。ただ、それがブログに綴られたままのテキストではなく、一冊の本にまとまったことで見えてくるものがあると、内堀さんは言った。
 そこまで話したところで、内堀さんは山口昌男さんの話をした。かつて山口昌男さんを中心に、「東京外骨語大学」という小さな集まりがあり、学長が山口昌男さんで助教授が坪内さん、学生が「なないろ文庫」の田村治芳さん、「月の輪書林」の髙橋徹さん、そして内堀さんだったという。

「山口先生にはすごくお世話になって、いろんなことを教わったんですけど、そのひとつが『コレクションというのは、集めることで初めて見えてくるものがあるんだ』ということで。たとえば本草学も、いろんな葉っぱをとってきて、これはあれに効く、これに効くと、コレクションから見えてくるものがあったと言うんですね。明治以前の日本にはコレクションの思想があって、その最たるものが日記だ、と。日記というのは日々のコレクションで、それだけを抜き出すと大したことは書いてないんだけど、それがまとまることで見えてくるものがある。その話を聞いてから、日記って面白いんだなと思うようになったんですよね」

 ぼくは以前から日記を書いたり読んだりするのが好きだったけれど、この夜のトークイベントを聞いているうちに、日記の面白さをあたらめて感じたような気がした。古本屋のことを書くのであれば、日記として綴ろう。ビールを飲みながらふたりの話を聞いているうちに、そう決めたのだった。

tokyohuruhon

『東京の古本屋』 橋本倫史
本の雑誌社刊 本体2000円+税 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114620.html

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

2021年10月8日号 第332号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第105号
      。.☆.:* 通巻332・10月8日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

コロナ禍古本屋生活1

                  火星の庭 前野久美子

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生し、非日常
が日常になって久しい。かつて、わたしの店ではトークイベントや
ライブを開催し、店内は多くの人で賑わっていました。それも遠い
昔のようです。今は、静かになった店内でお客様から買った本をき
れいに拭いた後、値付けをして棚に並べるといった古本屋の仕事を
続けられることに感謝の日々を過ごしています。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7288

火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/

Twitter https://twitter.com/kaseinoniwa

『仙台本屋時間』
https://kasei003.stores.jp/items/605b5f5dd263f03059a1a9b2

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第33回 退屈男さん ちょっとずつ「本の世界」に関わるひと

                      南陀楼綾繁

 この連載は、古本や古本屋と自分なりに付き合ってきた人に話を
聞くことを目的としている。インタビューの場では、その人の話を
引き出すために、私自身の体験を話すこともあるが、文章にまとめ
る際には極力カットしている。
 しかし、以前からの知り合いだとそれがやりにくい。つい、自分
の思い出を通して、その人を描いてしまう。相手と私を切り離して
書きにくいのだ。だから、数人の例外を除き、旧知の人はなるべく
外している。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7270

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

※ご好評いただきました『シリーズ古本マニア採集帖』は、今回を
持ちまして終了します。連載のご愛読ありがとうございました。
なお、11月に皓星社から刊行予定です。ご期待ください。

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

杉野書店 杉野 基
BOOKS 青いカバ

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【10月8日~11月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

-------------------------------
城南古書展【会場販売します】

期間:2021/10/08~2021/10/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

-------------------------------
第21回 四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2021/10/08~2021/10/12
場所:大阪 四天王寺 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

http://kankoken.main.jp/

-------------------------------
MARUZENギャラリー「秋の古本まつり」(福岡県)

期間:2021/10/13~2021/10/26
場所:ジュンク堂書店福岡店 2階 MARUZENギャラリー特設会場

-------------------------------
ア・モール古本市(北海道)

期間:2021/10/14~2021/10/19
場所:アモールショッピングセンター1階センターコート
旭川市豊岡3 条2丁目2‐19

-------------------------------
ぐろりや会【会場販売します】

期間:2021/10/15~2021/10/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

-------------------------------
本の散歩展

期間:2021/10/15~2021/10/16
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

-------------------------------
第24回 天神さんの古本まつり(大阪府)

期間:2021/10/15~2021/10/19
場所:大阪天満宮 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1-8

http://osaka-koshoken.com

-------------------------------
港北古書フェア(神奈川県)

期間:2021/10/20~2021/10/29
場所:横浜市営地下鉄 センター南駅
(市営地下鉄センター南駅の改札を出て直進、右前方 ※駅構内)

http://www.yurindo.co.jp/store/center/

-------------------------------
秋の阪神古書フェア(大阪府)

期間:2021/10/20~2021/10/25
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催場  大阪市北区梅田1丁目13-13

-------------------------------
秋の古本掘り出し市(岡山県)

期間:2021/10/20~2021/10/25
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

-------------------------------
特選古書即売展【会場販売します】※10/4WEBページ更新予定

期間:2021/10/22~2021/10/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
TEL:03-5280-2288(会期中のみ会場直通)

https://tokusen-kosho.jp/

-------------------------------
好書会

期間:2021/10/23~2021/10/24
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
第24回紙屋町シャレオ古本まつり(広島県)

期間:2021/10/25~2021/10/31
場所:シャレオ中央広場  広島市中区基町地下街100号

https://twitter.com/koshohiroshima

-------------------------------
浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/10/28~2021/10/31
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

-------------------------------
洋書まつり

期間:2021/10/29~2021/10/30
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://blog.livedoor.jp/yoshomatsuri/

-------------------------------
名古屋古書会館古書展示即売会(愛知県)

期間:2021/10/29~2021/10/31
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
電話:052-241-6232
※JR「鶴舞駅」名大病院口より徒歩5分/※地下鉄「鶴舞駅」1番出口より徒歩6分

https://hon-ya.net/

-------------------------------
杉並書友会

期間:2021/10/30~2021/10/31
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
東京愛書会

期間:2021/11/05~2021/11/06
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

-------------------------------
古書愛好会※中止になりました

期間:2021/11/06~2021/11/07
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------
11月反町古書会館(神奈川県)

期間:2021/11/06~2021/11/07
場所:神奈川古書会館1階特設会場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

-------------------------------
BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/11/11~2021/11/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

-------------------------------

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国950書店参加、データ約600万点掲載
の古書籍データベースです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】

https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=33

┌─────────────────────────┐
 次回は2021年9月下旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*゜*.:*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の古書店で ☆*.:*゜*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

==============================

日本の古本屋メールマガジンその330 2021.9.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

==============================

2021年9月25日号 第331号

■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■
 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
     。.☆.:* その331・9月27日号 *:.☆. 。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールは「日本の古本屋会員」の方で、メールマガジンの配信
を希望された方にお送りしています。
ご不要な方の解除方法はメール下部をご覧下さい。
【日本の古本屋】は全国950書店参加、データ約640万点掲載
の古書籍データベースです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.『ブックセラーズ・ダイアリー
       ―スコットランド最大の古書店の一年』 矢倉尚子
2.「敗れし者の静かなる闘い」について    茅原健

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(277)】━━━━━━━━

『ブックセラーズ・ダイアリー
           ―スコットランド最大の古書店の一年』

                     矢倉尚子

 翻訳は――人によって違うのだろうが少なくとも私の場合は―
―どこかの時点で憑依というか、原著者に乗り移ってもらって語
り出すことができなければ、満足な仕事にはならない。そこで著
者のことばに重なりそうな材料を探し求めて、まず最初に古本を
買いまくる。どの資料がいつ必要になるかわからないので、図書
館は役に立たない。あちこち歩きまわっている時間はないから、
とりあえずはネットで買う。慣れてくると鼻が利いて、これは使
えそう、というのがかなりの勝率で当たるようになる。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7282

『ブックセラーズ・ダイアリー』 ショーン・バイセル 著
矢倉尚子 訳 
白水社 定価3,300円(本体3,000円+税)好評発売中!
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b584634.html

━━━━━━━━━━━【自著を語る(278)】━━━━━━━━━

「敗れし者の静かなる闘い」について

                      茅原健

 我が家の家系を辿ると、曽祖父から流れている旧幕臣という素性
意識がわだかまっている。これは、時代錯誤といわれるかも知れな
い。しかし、戊辰戦争に敗れて虱だらけになって帰還した曽祖父の
無念を継いだ祖父は、旧幕臣の系譜にこだわり、薩長の栗は喰まな
いという気概を秘めて東北に流れて、その地方新聞に筆を執り、
「東北に平民政治を」という論調を掲げた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7273

『敗れし者の静かなる闘い』 茅原健
日本古書通信社刊 定価:2000円+税 好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『近代出版史探索外伝』 小田光雄著
論創社刊 6000円+税 9月下旬刊行予定
https://ronso.co.jp/

『東京の古本屋』 橋本倫史
本の雑誌社刊 本体2000円+税 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114620.html

吉増剛造 詩集 『Voix(ヴォワ)』
思潮社 2800円+税 10月20日頃発売
http://www.shichosha.co.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

9月~10月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見逃したメールマガジンはここからチェック!
 【バックナンバーコーナー】

https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=38

┌─────────────────────────┐
 次回は2021年10月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

https://www.kosho.or.jp/buyer/list.php?mode=from_banner

==============================

日本の古本屋メールマガジンその331 2021.9.27

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

==============================

コロナ禍古本屋生活1

コロナ禍古本屋生活1

火星の庭 前野久美子

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生し、非日常が日常になって久しい。かつて、わたしの店ではトークイベントやライブを開催し、店内は多くの人で賑わっていました。それも遠い昔のようです。今は、静かになった店内でお客様から買った本をきれいに拭いた後、値付けをして棚に並べるといった古本屋の仕事を続けられることに感謝の日々を過ごしています。
そうした中、違和感を感じるときがあります。コロナの自宅療養者は全国で60,532人に上り(厚労省サイト2021年9月17日現在)、こうしている間にも誰にも看取られずに亡くなる人、必要な医療を受けることができずにいる人のことをふと思い浮かべるときです。「もし瓦礫の下に6万人が生き埋めになっていたとしたら、すぐにも救助するだろうね」と友人が言っていました。自宅療養者という言葉の陰でリアルなイメージが描けないからなのか、多くの人が自分たちが過ごしている日常とパンデミックの深刻さのギャップを埋めるのが難しいと感じています。この感覚は東日本大震災のときに感じたものとどこか似ている気がします。あの頃もいつも通り店に立ち、古本を売りながら、10数キロ先で起きた大津波、80キロ先で起きている原発事故が、現実のものと思えずにいました。

 わたしが住む仙台市は東北では新型コロナウイルスの感染者数が最も多く、昨年の流行が始まると、県外はもとより市外の人からも「仙台に行くのはちょっと」という声が聞こえるようになりました。コロナ以前、店には週末になると県外から多くの方が訪れていました。岩手、山形、福島などに加え、首都圏をはじめ関西や沖縄からも来店がありました。ときには台湾、韓国、中国、欧米など外国からのお客様もいらしていました。
お客様と一緒にさまざまな情報も運ばれて来ます。見知らぬ街の古本屋の様子、買った本のことなど。話してくれたことに、こちらからも思いを伝える。短い時間であっても「本」を介して、心が通う濃密な時間があり、まさに顔と顔を合わせたふれあいがありました。

 中には、後日再び立ち寄ってくれる人もいて、「友人に火星の庭の話をしたら」などと後日談を聞かせてくれたりもします。そのおかげでこの狭い古本屋は思いがけないほど、広い世界と接することができました。それらはすべてお客様との出会いを通して作られた世界だったのだと今になって気がつきます。
そういった世界が、今は消えてなくなったようです。以前とやっていることは同じなのに、触れられる世界が小さくなっていく。このまま世界はどんどん小さくなっていくのではないかと不安にかられます。

 しかし、悪いことばかりではありません。2020年の春、宮城県にも緊急事態宣言が発令されて、古本は不要不急ということになり、古本屋に休業要請が出され3週間店を休業することになったときのことです。休業する前日、常連のお客様がやってきました。お会計のときに、「明日から休むことになりました」と伝えると、さっと顔色が変わったのです。いつもじっくり本棚を見られて、だまって本を買っていかれる方です。その日、帰り際にドアまで近づいたところで急に立ち止まり、こちらに背中を向けたまま、「困るんだよ、古本屋に休まれると。行くところがなくなるから!」と叫んだのです。一瞬のことでした。そして、足早に去って行かれました。予想外の出来事に茫然としつつも「辛いのは店主だけじゃないんだ。いや店主は休業中も店に来れるじゃないか。ドアの鍵を閉めてしまったらお客様は入ることはできない。その方が辛いのかもしれない」、そんな思いが頭に浮かびました。お客様の「困るんだよ!」という声がいつまでも店内に反響しているようでした。

 昨年4月の休業要請以降は、定休日以外は休まずに営業しています。売り上げは戻りませんが、閉店後にその日いらしたお客様の顔を思い浮かべて、以前より地域の古本屋であることを実感する日々です。そうした中でもときに県外からのお客様が立ち寄ってくれることがあります。お客様すべてと会話するわけではありませんが、中には声を潜めて「実は◯◯県から来たんです」とこっそり語ってくれる人もいます。

 見方によれば、コロナ禍の今は店を閉めオンライン販売だけにした方が、感染防止の上でも経営的にも正しいのだと思う。でも、古本屋がなくてはならない場所になっている人もいます。そういう人のためにもお店を続けようと思います。お店を開けるかどうかは、自分だけの問題ではない。あのお客様の叫び声を聞いてから思うようになったからです。小さくなった世界で何ができるだろうか。あらためて考えているこの頃です。



火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/
Twitter https://twitter.com/kaseinoniwa

sendai
『仙台本屋時間』
https://kasei003.stores.jp/items/605b5f5dd263f03059a1a9b2

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

Voix

詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

吉増剛造

 “メズラシキゴイライニセッシ、コヽロオドリジャクヤクシオリソロ(稀らしき御依頼に接し、心躍り雀躍し居候)”と、何処かへと“ウナ電(至急電報)”を打ってみたい気持が湧いて来ていた。
 これは、旧知の吉成秀夫さんからの書状での御依頼に接した折のemotion=エモーション、“感情”と綴ろうとして、しばらく途惑っていて、“emotion=エモーション”といたしましたのには、理由があって、…というのよりも、ここで、その“理由”が芽生(めば)えて来ていて、それに誘われて、こう、綴っていたのだった。このこと、後述、……。

 さて、心躍りの一端、……うーん、“一端”というのよりも端緒(たんしょ)は、“古ということ”にあったのであって、“どうしてかしら、=I don’t know why”ぼくは「古書」というものがすきなのだ。と、こうして、はっきりと云ってはみたのだけども、その、そう“古書がすきだ”という、“emotion=エモーション”の正体というのか心の芯は判らないまゝなのだ。“一計を案じて”……というのよりも、ある心景が脳裡にひかるようにして、通り掛って、これは「書肆吉成」の吉成さんに話し掛けるようにして綴ってみたい。札幌なのか神田なのかパリかニューヨークなのか判らないのだが、どこかの古書肆の狭い本棚に挟まるようにして、俯(うつむ)き様(ざま)の山口昌男がいて、紙の皺(しわ)を指先で撫(な)でる音(おと)だけがしている。みたこともないのに、はっきりと心に浮かんで来る、景色(けいしょく)がわたくしはすきなのだ。古書に、埋まるでもない、ただ読んでその鋭利な頭脳に刻み込むだけではない、このぼくの“古書というものがすきなのだ”という、少し襤褸(ぼろ)の何処かの馬の骨のような座敷童子(ざしきわらし)の小声をも聞きとって、そう古景色(コケイショク)の姿そのものになっているような山口昌男がすきなのだ。

 これで、そう「落(おと)し咄(ばなし)」の枕(まくら)にはなったのでしょうか。もう、この「落(おと)し咄(ばなし)」の枕(まくら)」にも、終始をしたい位なのだけれども、ご依頼の「自著を語る」、十月の中旬頃には、思潮社(ご担当髙木真史氏、装本中島浩氏)より上梓の予定の、……わたくしの最後の詩集、……流石にこう書くと、心が奥の方で、なにか“キー”と鳴る気がしていて、少しフデがとまるのだけれども、この“最後の、…”のことを、少しだけ語ることにする。たった今、無意識に繰り返した、この“少し”という小声の聞こえるところに、“古(フ)ル”ということの根(ネ)のようなものがあるのであって、思い掛けないことに、“古(フ)ル”で、論旨の筋道は、一息に途・切・ら・れ・ていた。(傍点のところ、これも、後述をいたします。)あるいは、こ・れ・も・、無意識の神木(き)の不意の言葉であったのかも知れなかった。途・切・ら・れ・た論旨が辿ろうとしていたのは、わたくしたちの古典の「古(ふ)る」、「古(いにし)え」には、微弱でもいい、未来への胎動のようなものがないのが、寂(さび)しいことだが、……であったのだが、おそらく、無意識の繰り返しと、次の光の糸がルビの“フ”と、“古(フ)ル”を、綴らせていたらしい。この“らし、…”が、直観といわれるものなのだ。

 新著—最後の詩集『Voix(ヴォワ)』(思潮社、二〇二一年十月刊)は、二〇一九年夏の第二回Reborn Art Festivalへのご招待を契機に、誕生をすることになりました。石巻市鮎川地区の「詩人の家」(島袋道浩、青葉市子、松田朕佳、志村春海さんら)のほかに、島周(しまめぐり)の宿(やど)さか井の遠藤社長のお志によって、金華山を眼前にする二〇六号室が創作とみなさまのお声と記憶の溜るあるいは沈むあるいは白い煙のようにして立つ場所、部屋、つまり結界となって来ていた。大津浪や災厄のもたらしました空気がさまざまに姿を変え形を変えて立ち現れて来る、ある種の、霊の部屋となって来ていたのだった。このことは、アートフェスティバルの会期が終了をしてからも、ほゞ毎月のようにして、三日か四日、そこに戻って行こうとする旅人(わたしくのことですが)の心の挙措(きょそ)、……なんでしょう、みえない運命に導かれるようにしてそこに戻って行こうとしているらしいこと、その“らし、…”によって確実に察知することが出来るものだ。「霊の部屋」とは、フランスの詩人Charles Baudelaire(1821-1867)の作品で、詩人の社会における孤獨を、ほゞ完璧に表現した傑作だったのだけれども、ここでは、このホテル「さか井」の二〇六号が、街角とも往来ともいえない、みなさんの吐息、溜息、言葉になりにくい、白い雲か煙が、棚引く、そうした「霊の部屋」となって行った。そこで絶えず、お客様をお迎えする人の心持ちの推移、変幻は察していたゞけることだろうと思います。たゞでさえ、孤獨がちで幻想的な「詩人の家」が、こうして、共同の、……“共同”という言葉を使いたくないと思いつつ、……そう、“まったくことなったそれぞれのともに、……”という言葉というのよりも、“口舌(くぜつ)”が、口を衝(つ)く。そうすると、夢見も、無意識も、白い煙の姿のようになって参ります。これはもう、この六月の最終校正に近いときでしたのですが、詩集『<Voix>』とともに、心血を注ぐようにしておりました新書(講談社、現代新書『詩とは何か』二〇二一年十一月刊予定)の「序」の何度かの手入れのときに、このときも、このホテルさか井の二〇六号室だったのですが、こんな言葉の湧き方あるいは言葉の小さな噴水に、書き手も、驚いてしまっていたのです。こうでした。

(以下、校正原稿より引用)

「詩」は、思いがけないところで、煙か白雲のように、不図、その姿のようなものをあらわすことがあります。ごく最近の経験を申し上げてみたいと思いますが、三年程をかけまして、石巻のホテルの一室に籠もって綴りました詩を、詩集(Voix<ヴォワ>)として、上梓をしようとして最終校正をいたしておりました。二〇二一年の六月のある日のことでしたが、どうもここは、イメージになっていないし、弱いな、消そうかしらという内心の囁きが聞こえてしまったのかも知れません。女川(おながわ)で大津波に逢われた方のお心が、ホテル(ニューさか井二〇六号室)の一室の通気口から入ってこられる一夜、……というところで、そうだ、思いのようなものが、白い煙か白雲のようにこの部屋に入ってきたというところで、詩人(作者)」の心にもまた、白い煙か白雲の一筋のような詩の姿形が入って来ていました、……この弱く、儚(はかな)い、白雲か煙のようなものこそが「詩」の姿形の一端であると気がついたことがありました。「純粋言語」とか「根源」とか、ひち面倒ないい方から漏れていってしまいますもの、漏れていってします、弱いもの儚いもののすぐ傍(そば)にこそ、詩の出入口があるようなのです。そしてこの「漏れる」ということからは、「音楽」にも「絵」にも、あるいは思考にもとどくような小径が、ふと、現れて来るのかも知れません。
……
先程、石巻のホテルの一室での最終校正について触れましたのですが、その折に、白い煙の一筋のような詩の姿形と申し上げましたが、それが気が付きますと「イ(i)の樹木(き)の君(きみ)が立って来ていた」という一行に変わって現れて来ていたのです。ああ、この一行の出現を待って、三年、十年、あるいはわたくしは生涯をすごして来ていたのだという、感慨がございましたことを、「詩」の現れの一例として、ご報告をしておきたいと思います。

(引用、ここまで)

 こうして、おそらく、白い雲か煙の筋か精のようなものの姿に添うようにして、詩集に喩が、未知の心の芯のようなものが登場をして来ていたのです。

 イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

 「イ(i)」は、アイヌの方々のとても大切にされている髭箆(イクパスイ)からの信号か知らせのようなものであったのかも知れません。北の親友(とも)たち(中森敏夫氏、中川潤氏、木ノ内洋二氏)に感謝の心のこめて、ご報告をし、なければならない。ホッカイドーを“根(ね)の邦(くに)”と呼んだことがあった。知里真志保さんを先頭に、この未知未聞の深い魂の在りどころからの、この一行、

 イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

 が、不意に、襲なり合う、白い雲か煙の下(シタ)や傍(ソバ)から、…何か「位置」や「空間」が判然とはしないのだが、そして、「声音(こわね)」といっても、あるいは英語の“gh”(無音=サイレント)の小脇の吐声のようなものであったのかも知れなかった。その背後に隠れている、小さな妖精のような“i”からの信号(“しるし”のようなもの)であったのかも知れなかった。判らないのです。ある程度までは、作者(詩人)にも説明は叶います。しかし、芯(シン)は朧(オボ)ろだ、…。

 もしかしたら、いま綴ったばかりの“芯(シン)は、朧(オボ)ろだ、…”は、いつも手にしている鉛筆や“ball-point pen=小鋼球ペン”の小声、あるいはさらに「絵筆」領域を拡げていうことが叶うならば、左手に支えるようにしている“video camera=ビデオの眼と耳”の呟いている声なのだといえるのかも知れない。わたくしたちの内部言語野は、確実にそこにもとどいているのであって、その“手の触手”の囁きをも聞いているのかも知れないのであって、たとえばこれは燃(も)え滾(たぎ)るようなヴァン・ゴッホについて書かれた論文に引かれていたのだが、“線からじかに読み取れるような生の方向にむかってすすんで”といいながら、Jean-Clet Martin=ジャン=クレ・マルタンはヘーゲルの次の言葉を引用していた。これは「書」に親しんでいる東洋の人の心にとどくような考えの刹那なのではなかったのだろうか。ヘーゲル曰く「いわば全精神が手の中に移行するといった奇跡」と。(『物のまなざし』大村書店、二〇〇一年刊、一一四頁)このことを、若き日の吉本隆明氏にもみて、一心に綴ったのが『根源乃手』(響文社、二〇一六年刊)と『怪物君』(みすず書房、二〇一六年刊)であったといえるのだ。そしていま、こんなこれも奇跡のようなときの到来に接して考えていると、“芯(シン)は、朧(オボ)ろだ、…”の何処から聞こえて来るのかは判然としない、この囁き声は、思い切って、これは“万物が触れること=touch or touching”あるいは“万物が触れるとき=the time of touching”といってみたいという心のうごくところ、働くところにまで、小文はたどり着いたものらしい。そしてこの“芯=core”は、W・B・イェイツの“心の芯=heart core”の掠れたような小声からとどいているものでもあったのだ。

 「技術」「作法」「様式」それらの古きことから、あたうるかぎり、遠く離れたところに「創る」場所を、創ること、それをこの”芯(シン)は、朧(オボ)ろだ、…”が伝えて来ている、そうして、これは、そう、…“誕生しつつ、誕生していること=be borning and already arrived”なのかも知れないのであって、ここまで、こうして綴ってみると、もう、“途上にあるもの=the things on the road”“未完成=unfinished”ということも出来ないのだ。

 小文の冒頭に“後述します”と申しました“emotion=エモーション)について。このことは、吉成秀夫氏、コトニ社の後藤亨真氏によるU-Tube配信の最近作で気がつかれた方もいらっしゃることでしょうが、わたくしは所謂コンピュータ難民なのですが、あらためて、あるいは初めて“/”=“slash=スラッシュ”を、激しく、ほとんど無意識が怒りこめて発語をしていたのでしょうか、その“slash=スラッシュ)”=“さっと切る”力の深さの顕現に驚き、そして、次の刹那、五十年もの昔、若年のわたくしは“.ᐟ”=“exclamation=絶叫をする”を、連発をして、識者の顰蹙(ひんしゅく)を買っておりましたことに、その刹那のようなところに、戻って来ていたのです。




Voix

吉増剛造 詩集 『Voix(ヴォワ)』
思潮社 2800円+税 10月20日頃発売
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

Just another WordPress site