2021年10月8日号 第332号

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 古書市&古本まつり 第105号
      。.☆.:* 通巻332・10月8日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

コロナ禍古本屋生活1

                  火星の庭 前野久美子

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生し、非日常
が日常になって久しい。かつて、わたしの店ではトークイベントや
ライブを開催し、店内は多くの人で賑わっていました。それも遠い
昔のようです。今は、静かになった店内でお客様から買った本をき
れいに拭いた後、値付けをして棚に並べるといった古本屋の仕事を
続けられることに感謝の日々を過ごしています。

続きはこちら
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火星の庭ホームページ https://kaseinoniwa.com/

Twitter https://twitter.com/kaseinoniwa

『仙台本屋時間』
https://kasei003.stores.jp/items/605b5f5dd263f03059a1a9b2

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第33回 退屈男さん ちょっとずつ「本の世界」に関わるひと

                      南陀楼綾繁

 この連載は、古本や古本屋と自分なりに付き合ってきた人に話を
聞くことを目的としている。インタビューの場では、その人の話を
引き出すために、私自身の体験を話すこともあるが、文章にまとめ
る際には極力カットしている。
 しかし、以前からの知り合いだとそれがやりにくい。つい、自分
の思い出を通して、その人を描いてしまう。相手と私を切り離して
書きにくいのだ。だから、数人の例外を除き、旧知の人はなるべく
外している。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7270

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

※ご好評いただきました『シリーズ古本マニア採集帖』は、今回を
持ちまして終了します。連載のご愛読ありがとうございました。
なお、11月に皓星社から刊行予定です。ご期待ください。

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

杉野書店 杉野 基
BOOKS 青いカバ

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【10月8日~11月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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城南古書展【会場販売します】

期間:2021/10/08~2021/10/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第21回 四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2021/10/08~2021/10/12
場所:大阪 四天王寺 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

http://kankoken.main.jp/

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MARUZENギャラリー「秋の古本まつり」(福岡県)

期間:2021/10/13~2021/10/26
場所:ジュンク堂書店福岡店 2階 MARUZENギャラリー特設会場

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ア・モール古本市(北海道)

期間:2021/10/14~2021/10/19
場所:アモールショッピングセンター1階センターコート
旭川市豊岡3 条2丁目2‐19

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ぐろりや会【会場販売します】

期間:2021/10/15~2021/10/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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本の散歩展

期間:2021/10/15~2021/10/16
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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第24回 天神さんの古本まつり(大阪府)

期間:2021/10/15~2021/10/19
場所:大阪天満宮 大阪府大阪市北区天神橋2丁目1-8

http://osaka-koshoken.com

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2021/10/20~2021/10/29
場所:横浜市営地下鉄 センター南駅
(市営地下鉄センター南駅の改札を出て直進、右前方 ※駅構内)

http://www.yurindo.co.jp/store/center/

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秋の阪神古書フェア(大阪府)

期間:2021/10/20~2021/10/25
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催場  大阪市北区梅田1丁目13-13

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秋の古本掘り出し市(岡山県)

期間:2021/10/20~2021/10/25
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

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特選古書即売展【会場販売します】※10/4WEBページ更新予定

期間:2021/10/22~2021/10/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
TEL:03-5280-2288(会期中のみ会場直通)

https://tokusen-kosho.jp/

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好書会

期間:2021/10/23~2021/10/24
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第24回紙屋町シャレオ古本まつり(広島県)

期間:2021/10/25~2021/10/31
場所:シャレオ中央広場  広島市中区基町地下街100号

https://twitter.com/koshohiroshima

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/10/28~2021/10/31
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

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洋書まつり

期間:2021/10/29~2021/10/30
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://blog.livedoor.jp/yoshomatsuri/

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名古屋古書会館古書展示即売会(愛知県)

期間:2021/10/29~2021/10/31
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12
電話:052-241-6232
※JR「鶴舞駅」名大病院口より徒歩5分/※地下鉄「鶴舞駅」1番出口より徒歩6分

https://hon-ya.net/

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杉並書友会

期間:2021/10/30~2021/10/31
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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東京愛書会

期間:2021/11/05~2021/11/06
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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古書愛好会※中止になりました

期間:2021/11/06~2021/11/07
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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11月反町古書会館(神奈川県)

期間:2021/11/06~2021/11/07
場所:神奈川古書会館1階特設会場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/11/11~2021/11/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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日本の古本屋メールマガジンその330 2021.9.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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2021年9月25日号 第331号

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☆INDEX☆
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1.『ブックセラーズ・ダイアリー
       ―スコットランド最大の古書店の一年』 矢倉尚子
2.「敗れし者の静かなる闘い」について    茅原健

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(277)】━━━━━━━━

『ブックセラーズ・ダイアリー
           ―スコットランド最大の古書店の一年』

                     矢倉尚子

 翻訳は――人によって違うのだろうが少なくとも私の場合は―
―どこかの時点で憑依というか、原著者に乗り移ってもらって語
り出すことができなければ、満足な仕事にはならない。そこで著
者のことばに重なりそうな材料を探し求めて、まず最初に古本を
買いまくる。どの資料がいつ必要になるかわからないので、図書
館は役に立たない。あちこち歩きまわっている時間はないから、
とりあえずはネットで買う。慣れてくると鼻が利いて、これは使
えそう、というのがかなりの勝率で当たるようになる。

続きはこちら
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『ブックセラーズ・ダイアリー』 ショーン・バイセル 著
矢倉尚子 訳 
白水社 定価3,300円(本体3,000円+税)好評発売中!
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b584634.html

━━━━━━━━━━━【自著を語る(278)】━━━━━━━━━

「敗れし者の静かなる闘い」について

                      茅原健

 我が家の家系を辿ると、曽祖父から流れている旧幕臣という素性
意識がわだかまっている。これは、時代錯誤といわれるかも知れな
い。しかし、戊辰戦争に敗れて虱だらけになって帰還した曽祖父の
無念を継いだ祖父は、旧幕臣の系譜にこだわり、薩長の栗は喰まな
いという気概を秘めて東北に流れて、その地方新聞に筆を執り、
「東北に平民政治を」という論調を掲げた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7273

『敗れし者の静かなる闘い』 茅原健
日本古書通信社刊 定価:2000円+税 好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『近代出版史探索外伝』 小田光雄著
論創社刊 6000円+税 9月下旬刊行予定
https://ronso.co.jp/

『東京の古本屋』 橋本倫史
本の雑誌社刊 本体2000円+税 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114620.html

吉増剛造 詩集 『Voix(ヴォワ)』
思潮社 2800円+税 10月20日頃発売
http://www.shichosha.co.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

9月~10月の即売展情報

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日本の古本屋メールマガジンその331 2021.9.27

【発行】
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コロナ禍古本屋生活1

コロナ禍古本屋生活1

火星の庭 前野久美子

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生し、非日常が日常になって久しい。かつて、わたしの店ではトークイベントやライブを開催し、店内は多くの人で賑わっていました。それも遠い昔のようです。今は、静かになった店内でお客様から買った本をきれいに拭いた後、値付けをして棚に並べるといった古本屋の仕事を続けられることに感謝の日々を過ごしています。
そうした中、違和感を感じるときがあります。コロナの自宅療養者は全国で60,532人に上り(厚労省サイト2021年9月17日現在)、こうしている間にも誰にも看取られずに亡くなる人、必要な医療を受けることができずにいる人のことをふと思い浮かべるときです。「もし瓦礫の下に6万人が生き埋めになっていたとしたら、すぐにも救助するだろうね」と友人が言っていました。自宅療養者という言葉の陰でリアルなイメージが描けないからなのか、多くの人が自分たちが過ごしている日常とパンデミックの深刻さのギャップを埋めるのが難しいと感じています。この感覚は東日本大震災のときに感じたものとどこか似ている気がします。あの頃もいつも通り店に立ち、古本を売りながら、10数キロ先で起きた大津波、80キロ先で起きている原発事故が、現実のものと思えずにいました。

 わたしが住む仙台市は東北では新型コロナウイルスの感染者数が最も多く、昨年の流行が始まると、県外はもとより市外の人からも「仙台に行くのはちょっと」という声が聞こえるようになりました。コロナ以前、店には週末になると県外から多くの方が訪れていました。岩手、山形、福島などに加え、首都圏をはじめ関西や沖縄からも来店がありました。ときには台湾、韓国、中国、欧米など外国からのお客様もいらしていました。
お客様と一緒にさまざまな情報も運ばれて来ます。見知らぬ街の古本屋の様子、買った本のことなど。話してくれたことに、こちらからも思いを伝える。短い時間であっても「本」を介して、心が通う濃密な時間があり、まさに顔と顔を合わせたふれあいがありました。

 中には、後日再び立ち寄ってくれる人もいて、「友人に火星の庭の話をしたら」などと後日談を聞かせてくれたりもします。そのおかげでこの狭い古本屋は思いがけないほど、広い世界と接することができました。それらはすべてお客様との出会いを通して作られた世界だったのだと今になって気がつきます。
そういった世界が、今は消えてなくなったようです。以前とやっていることは同じなのに、触れられる世界が小さくなっていく。このまま世界はどんどん小さくなっていくのではないかと不安にかられます。

 しかし、悪いことばかりではありません。2020年の春、宮城県にも緊急事態宣言が発令されて、古本は不要不急ということになり、古本屋に休業要請が出され3週間店を休業することになったときのことです。休業する前日、常連のお客様がやってきました。お会計のときに、「明日から休むことになりました」と伝えると、さっと顔色が変わったのです。いつもじっくり本棚を見られて、だまって本を買っていかれる方です。その日、帰り際にドアまで近づいたところで急に立ち止まり、こちらに背中を向けたまま、「困るんだよ、古本屋に休まれると。行くところがなくなるから!」と叫んだのです。一瞬のことでした。そして、足早に去って行かれました。予想外の出来事に茫然としつつも「辛いのは店主だけじゃないんだ。いや店主は休業中も店に来れるじゃないか。ドアの鍵を閉めてしまったらお客様は入ることはできない。その方が辛いのかもしれない」、そんな思いが頭に浮かびました。お客様の「困るんだよ!」という声がいつまでも店内に反響しているようでした。

 昨年4月の休業要請以降は、定休日以外は休まずに営業しています。売り上げは戻りませんが、閉店後にその日いらしたお客様の顔を思い浮かべて、以前より地域の古本屋であることを実感する日々です。そうした中でもときに県外からのお客様が立ち寄ってくれることがあります。お客様すべてと会話するわけではありませんが、中には声を潜めて「実は◯◯県から来たんです」とこっそり語ってくれる人もいます。

 見方によれば、コロナ禍の今は店を閉めオンライン販売だけにした方が、感染防止の上でも経営的にも正しいのだと思う。でも、古本屋がなくてはならない場所になっている人もいます。そういう人のためにもお店を続けようと思います。お店を開けるかどうかは、自分だけの問題ではない。あのお客様の叫び声を聞いてから思うようになったからです。小さくなった世界で何ができるだろうか。あらためて考えているこの頃です。



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Voix

詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

詩集の芯に、イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

吉増剛造

 “メズラシキゴイライニセッシ、コヽロオドリジャクヤクシオリソロ(稀らしき御依頼に接し、心躍り雀躍し居候)”と、何処かへと“ウナ電(至急電報)”を打ってみたい気持が湧いて来ていた。
 これは、旧知の吉成秀夫さんからの書状での御依頼に接した折のemotion=エモーション、“感情”と綴ろうとして、しばらく途惑っていて、“emotion=エモーション”といたしましたのには、理由があって、…というのよりも、ここで、その“理由”が芽生(めば)えて来ていて、それに誘われて、こう、綴っていたのだった。このこと、後述、……。

 さて、心躍りの一端、……うーん、“一端”というのよりも端緒(たんしょ)は、“古ということ”にあったのであって、“どうしてかしら、=I don’t know why”ぼくは「古書」というものがすきなのだ。と、こうして、はっきりと云ってはみたのだけども、その、そう“古書がすきだ”という、“emotion=エモーション”の正体というのか心の芯は判らないまゝなのだ。“一計を案じて”……というのよりも、ある心景が脳裡にひかるようにして、通り掛って、これは「書肆吉成」の吉成さんに話し掛けるようにして綴ってみたい。札幌なのか神田なのかパリかニューヨークなのか判らないのだが、どこかの古書肆の狭い本棚に挟まるようにして、俯(うつむ)き様(ざま)の山口昌男がいて、紙の皺(しわ)を指先で撫(な)でる音(おと)だけがしている。みたこともないのに、はっきりと心に浮かんで来る、景色(けいしょく)がわたくしはすきなのだ。古書に、埋まるでもない、ただ読んでその鋭利な頭脳に刻み込むだけではない、このぼくの“古書というものがすきなのだ”という、少し襤褸(ぼろ)の何処かの馬の骨のような座敷童子(ざしきわらし)の小声をも聞きとって、そう古景色(コケイショク)の姿そのものになっているような山口昌男がすきなのだ。

 これで、そう「落(おと)し咄(ばなし)」の枕(まくら)にはなったのでしょうか。もう、この「落(おと)し咄(ばなし)」の枕(まくら)」にも、終始をしたい位なのだけれども、ご依頼の「自著を語る」、十月の中旬頃には、思潮社(ご担当髙木真史氏、装本中島浩氏)より上梓の予定の、……わたくしの最後の詩集、……流石にこう書くと、心が奥の方で、なにか“キー”と鳴る気がしていて、少しフデがとまるのだけれども、この“最後の、…”のことを、少しだけ語ることにする。たった今、無意識に繰り返した、この“少し”という小声の聞こえるところに、“古(フ)ル”ということの根(ネ)のようなものがあるのであって、思い掛けないことに、“古(フ)ル”で、論旨の筋道は、一息に途・切・ら・れ・ていた。(傍点のところ、これも、後述をいたします。)あるいは、こ・れ・も・、無意識の神木(き)の不意の言葉であったのかも知れなかった。途・切・ら・れ・た論旨が辿ろうとしていたのは、わたくしたちの古典の「古(ふ)る」、「古(いにし)え」には、微弱でもいい、未来への胎動のようなものがないのが、寂(さび)しいことだが、……であったのだが、おそらく、無意識の繰り返しと、次の光の糸がルビの“フ”と、“古(フ)ル”を、綴らせていたらしい。この“らし、…”が、直観といわれるものなのだ。

 新著—最後の詩集『Voix(ヴォワ)』(思潮社、二〇二一年十月刊)は、二〇一九年夏の第二回Reborn Art Festivalへのご招待を契機に、誕生をすることになりました。石巻市鮎川地区の「詩人の家」(島袋道浩、青葉市子、松田朕佳、志村春海さんら)のほかに、島周(しまめぐり)の宿(やど)さか井の遠藤社長のお志によって、金華山を眼前にする二〇六号室が創作とみなさまのお声と記憶の溜るあるいは沈むあるいは白い煙のようにして立つ場所、部屋、つまり結界となって来ていた。大津浪や災厄のもたらしました空気がさまざまに姿を変え形を変えて立ち現れて来る、ある種の、霊の部屋となって来ていたのだった。このことは、アートフェスティバルの会期が終了をしてからも、ほゞ毎月のようにして、三日か四日、そこに戻って行こうとする旅人(わたしくのことですが)の心の挙措(きょそ)、……なんでしょう、みえない運命に導かれるようにしてそこに戻って行こうとしているらしいこと、その“らし、…”によって確実に察知することが出来るものだ。「霊の部屋」とは、フランスの詩人Charles Baudelaire(1821-1867)の作品で、詩人の社会における孤獨を、ほゞ完璧に表現した傑作だったのだけれども、ここでは、このホテル「さか井」の二〇六号が、街角とも往来ともいえない、みなさんの吐息、溜息、言葉になりにくい、白い雲か煙が、棚引く、そうした「霊の部屋」となって行った。そこで絶えず、お客様をお迎えする人の心持ちの推移、変幻は察していたゞけることだろうと思います。たゞでさえ、孤獨がちで幻想的な「詩人の家」が、こうして、共同の、……“共同”という言葉を使いたくないと思いつつ、……そう、“まったくことなったそれぞれのともに、……”という言葉というのよりも、“口舌(くぜつ)”が、口を衝(つ)く。そうすると、夢見も、無意識も、白い煙の姿のようになって参ります。これはもう、この六月の最終校正に近いときでしたのですが、詩集『<Voix>』とともに、心血を注ぐようにしておりました新書(講談社、現代新書『詩とは何か』二〇二一年十一月刊予定)の「序」の何度かの手入れのときに、このときも、このホテルさか井の二〇六号室だったのですが、こんな言葉の湧き方あるいは言葉の小さな噴水に、書き手も、驚いてしまっていたのです。こうでした。

(以下、校正原稿より引用)

「詩」は、思いがけないところで、煙か白雲のように、不図、その姿のようなものをあらわすことがあります。ごく最近の経験を申し上げてみたいと思いますが、三年程をかけまして、石巻のホテルの一室に籠もって綴りました詩を、詩集(Voix<ヴォワ>)として、上梓をしようとして最終校正をいたしておりました。二〇二一年の六月のある日のことでしたが、どうもここは、イメージになっていないし、弱いな、消そうかしらという内心の囁きが聞こえてしまったのかも知れません。女川(おながわ)で大津波に逢われた方のお心が、ホテル(ニューさか井二〇六号室)の一室の通気口から入ってこられる一夜、……というところで、そうだ、思いのようなものが、白い煙か白雲のようにこの部屋に入ってきたというところで、詩人(作者)」の心にもまた、白い煙か白雲の一筋のような詩の姿形が入って来ていました、……この弱く、儚(はかな)い、白雲か煙のようなものこそが「詩」の姿形の一端であると気がついたことがありました。「純粋言語」とか「根源」とか、ひち面倒ないい方から漏れていってしまいますもの、漏れていってします、弱いもの儚いもののすぐ傍(そば)にこそ、詩の出入口があるようなのです。そしてこの「漏れる」ということからは、「音楽」にも「絵」にも、あるいは思考にもとどくような小径が、ふと、現れて来るのかも知れません。
……
先程、石巻のホテルの一室での最終校正について触れましたのですが、その折に、白い煙の一筋のような詩の姿形と申し上げましたが、それが気が付きますと「イ(i)の樹木(き)の君(きみ)が立って来ていた」という一行に変わって現れて来ていたのです。ああ、この一行の出現を待って、三年、十年、あるいはわたくしは生涯をすごして来ていたのだという、感慨がございましたことを、「詩」の現れの一例として、ご報告をしておきたいと思います。

(引用、ここまで)

 こうして、おそらく、白い雲か煙の筋か精のようなものの姿に添うようにして、詩集に喩が、未知の心の芯のようなものが登場をして来ていたのです。

 イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

 「イ(i)」は、アイヌの方々のとても大切にされている髭箆(イクパスイ)からの信号か知らせのようなものであったのかも知れません。北の親友(とも)たち(中森敏夫氏、中川潤氏、木ノ内洋二氏)に感謝の心のこめて、ご報告をし、なければならない。ホッカイドーを“根(ね)の邦(くに)”と呼んだことがあった。知里真志保さんを先頭に、この未知未聞の深い魂の在りどころからの、この一行、

 イ(i)の樹木(き)の君が立って来ていた

 が、不意に、襲なり合う、白い雲か煙の下(シタ)や傍(ソバ)から、…何か「位置」や「空間」が判然とはしないのだが、そして、「声音(こわね)」といっても、あるいは英語の“gh”(無音=サイレント)の小脇の吐声のようなものであったのかも知れなかった。その背後に隠れている、小さな妖精のような“i”からの信号(“しるし”のようなもの)であったのかも知れなかった。判らないのです。ある程度までは、作者(詩人)にも説明は叶います。しかし、芯(シン)は朧(オボ)ろだ、…。

 もしかしたら、いま綴ったばかりの“芯(シン)は、朧(オボ)ろだ、…”は、いつも手にしている鉛筆や“ball-point pen=小鋼球ペン”の小声、あるいはさらに「絵筆」領域を拡げていうことが叶うならば、左手に支えるようにしている“video camera=ビデオの眼と耳”の呟いている声なのだといえるのかも知れない。わたくしたちの内部言語野は、確実にそこにもとどいているのであって、その“手の触手”の囁きをも聞いているのかも知れないのであって、たとえばこれは燃(も)え滾(たぎ)るようなヴァン・ゴッホについて書かれた論文に引かれていたのだが、“線からじかに読み取れるような生の方向にむかってすすんで”といいながら、Jean-Clet Martin=ジャン=クレ・マルタンはヘーゲルの次の言葉を引用していた。これは「書」に親しんでいる東洋の人の心にとどくような考えの刹那なのではなかったのだろうか。ヘーゲル曰く「いわば全精神が手の中に移行するといった奇跡」と。(『物のまなざし』大村書店、二〇〇一年刊、一一四頁)このことを、若き日の吉本隆明氏にもみて、一心に綴ったのが『根源乃手』(響文社、二〇一六年刊)と『怪物君』(みすず書房、二〇一六年刊)であったといえるのだ。そしていま、こんなこれも奇跡のようなときの到来に接して考えていると、“芯(シン)は、朧(オボ)ろだ、…”の何処から聞こえて来るのかは判然としない、この囁き声は、思い切って、これは“万物が触れること=touch or touching”あるいは“万物が触れるとき=the time of touching”といってみたいという心のうごくところ、働くところにまで、小文はたどり着いたものらしい。そしてこの“芯=core”は、W・B・イェイツの“心の芯=heart core”の掠れたような小声からとどいているものでもあったのだ。

 「技術」「作法」「様式」それらの古きことから、あたうるかぎり、遠く離れたところに「創る」場所を、創ること、それをこの”芯(シン)は、朧(オボ)ろだ、…”が伝えて来ている、そうして、これは、そう、…“誕生しつつ、誕生していること=be borning and already arrived”なのかも知れないのであって、ここまで、こうして綴ってみると、もう、“途上にあるもの=the things on the road”“未完成=unfinished”ということも出来ないのだ。

 小文の冒頭に“後述します”と申しました“emotion=エモーション)について。このことは、吉成秀夫氏、コトニ社の後藤亨真氏によるU-Tube配信の最近作で気がつかれた方もいらっしゃることでしょうが、わたくしは所謂コンピュータ難民なのですが、あらためて、あるいは初めて“/”=“slash=スラッシュ”を、激しく、ほとんど無意識が怒りこめて発語をしていたのでしょうか、その“slash=スラッシュ)”=“さっと切る”力の深さの顕現に驚き、そして、次の刹那、五十年もの昔、若年のわたくしは“.ᐟ”=“exclamation=絶叫をする”を、連発をして、識者の顰蹙(ひんしゅく)を買っておりましたことに、その刹那のようなところに、戻って来ていたのです。




Voix

吉増剛造 詩集 『Voix(ヴォワ)』
思潮社 2800円+税 10月20日頃発売
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/

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「敗れし者の静かなる闘い」について

「敗れし者の静かなる闘い」について

茅原健

 我が家の家系を辿ると、曽祖父から流れている旧幕臣という素性意識がわだかまっている。これは、時代錯誤といわれるかも知れない。しかし、戊辰戦争に敗れて虱だらけになって帰還した曽祖父の無念を継いだ祖父は、旧幕臣の系譜にこだわり、薩長の栗は喰まないという気概を秘めて東北に流れて、その地方新聞に筆を執り、「東北に平民政治を」という論調を掲げた。
 
 その末裔に連なる者としてやはり曽祖父、祖父の衣鉢を継がねばならない。それに、時代は変転し、その有り様は違うが、昭和ヒトケタ生まれの者が経験した日本の敗戦は、まさに敗者であった。いくさが終った訳ではない。いくさに敗けたのであるあとがきに添えた拙句の「疎開地や米食へぬ日々敗戦忌」は、疎開地での東京者の生活は惨憺たるものであったことを伝えるとともに、その敗者の心理を戊辰戦争で敗者となった旧幕臣の心情に重ねて詠んだつもりである。
 その戊辰敗者が、覇権奪還という大掛かりな企みではなく、敗者の精神的復活を期するために官学教育ではない、私塾教育による人間像を形成するという永劫不変なテーマに取り組んだ。本書は、そこに着目したのである。
 静岡学問所や沼津兵学校は旧幕臣の学び舎として典型的な例だが、戊辰敗者の大鳥圭介、榎本武揚など「逆賊」が私塾に掛けた思いは強いものがあった。

 とくに「この輩を養成する経費なし」と体よく文部省の役人に断られて官許が得られず、私立学校として設立された商法講習所(現・一橋大学)や工手学校(現・工学院大学)の設立については、渋沢栄一の惜しみない援助があった。 
 また、福沢諭吉の慶應義塾、中村正直の同人社、津田仙の学農社農学校、尺振八の共立学舎などは、旧幕臣の意気地が通底した私塾である。これら旧幕臣の学び舎は、旧幕臣のネットワークを形成して、その紐帯を強固なものとし、掲げる教育方針は、自主独立を基本としたのである。その顕著な例が、新島襄の同志社などのキリスト教による自由、博愛の教育である。ここにも本書の眼目を置いた。
B6判、二五八頁  定価二二〇〇円(送料一八〇円)日本古書通信社発売
ISBN978-4-88914-068-2

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『敗れし者の静かなる闘い』 茅原健
日本古書通信社刊 定価:2000円+税 好評発売中!
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『ブックセラーズ・ダイアリー―スコットランド最大の古書店の一年』

『ブックセラーズ・ダイアリー―スコットランド最大の古書店の一年』

矢倉尚子

 翻訳は――人によって違うのだろうが少なくとも私の場合は――どこかの時点で憑依というか、原著者に乗り移ってもらって語り出すことができなければ、満足な仕事にはならない。そこで著者のことばに重なりそうな材料を探し求めて、まず最初に古本を買いまくる。どの資料がいつ必要になるかわからないので、図書館は役に立たない。あちこち歩きまわっている時間はないから、とりあえずはネットで買う。慣れてくると鼻が利いて、これは使えそう、というのがかなりの勝率で当たるようになる。

 だから私の周囲に積み上げられた本は、本来の趣味嗜好とはあまり関係がない。4年ほど前に訳した小説に実験用のチンパンジーが登場したときは、机のまわりに霊長類研究の本が散乱し、どちらを向いても表紙のチンパンジーと目が合った。その前はイランの現代史や古典が並んだ。今回はいみじくも古書店主の日記を訳すことになったため、手始めに日本の古本屋さんが書いた古本を買い漁った。
 『ブックセラーズ・ダイアリー―スコットランド最大の古書店の一年』は、素人が書いたやや癖のある文章なので、当初はなかなか勝手が掴めず、著者が語り出してくれなくて苦労した。ショーン・バイセル氏がようやく饒舌になったのは、日本の古書店主さんたちの声が重なってくれたおかげだと思う。

 バイセルの店、その名も「ザ・ブックショップ」は、スコットランド南部の海岸に面したウィグタウンという美しい小さな町にある。ここは1999年に厳正な審査を経て選ばれた、スコットランド政府指定の「ブックタウン(古書の町)」である。人口1000人足らずの町に古本屋が少なくとも16軒、他に書籍や美術関係のさまざまなビジネスがあるそうだ。
 生まれ故郷がブックタウンに指定されてから2年後、帰省中に町の古本屋にふらりと入ったバイセルは、やりたい仕事が見つからない、人に使われるのは性に合わないんだとこぼしているうちに、年配の店主から、それならローンを組んでこの店を買い取らないかと言われて即決してしまう。その日から、彼のサバイバルゲームが始まった。

 日記はいかにもインテリ英国人らしいひねくれたユーモアで、客やアマゾンとの駆け引きが面白おかしく書かれているのだが、このバイセル氏、本の町ウィグタウンの発展を支えてきた中心人物でもあるらしい。ちょうどこの原稿がウェブに載るころにはウィグタウン・ブックフェスティバルが開催されているはずだ。これをヨーロッパでも指折りの魅力的なイベントに育て上げたのも、彼の力が大きいという。

 今回私が訳した日記にはほとんど触れられていないけれども、さまざまなブックタウン構想の中でも大成功を収めているユニークな企画が、Airbnbの「オープンブック」である。キッチン付きの洒落たワンベッドルームのアパートに最短1週間から最長2週間まで、2人で1泊約1万円で滞在できるのだが、じつはこの部屋には1階に自由に使える本屋がついている。つまり1~2週間の古書店主体験ができるわけだ。条件は、週に35時間以上店を開けること。もともと寄贈された本がたくさん置いてあるが、もちろん自分で持ち込んだ本を売ることもできる。作家やアーティストが自分の作品を売ることも多いという。ただし報酬はなく、利益は運営団体への寄付となり、維持費に使われる。

 タイムズ紙などの記事によると、ヨーロッパやアメリカ、カナダなどで大型書店を経営している人が昔の小さな店を懐かしんでやってきたり、逆に新しく書店の開業を考えている人が、体験学習の場として訪れることもあるらしい。もちろん、一生に一度でいいから本屋をやってみたかったという人も多い。地元の人たちはみな親切で好奇心旺盛で、つぎつぎに店を覗きにきたり食事に誘ってくれたりするようだ。あちこちのメディアに取り上げられたおかげで、ヨーロッパ全土どころか南北アメリカ、アジアからも、本屋になりたい滞在希望者が殺到して、現在は3年先まで予約が埋まってしまい、ウェイティングリストに登録するようになっている。

 じつはAirbnbのサイトでオープンブックを検索してみたとき、最初に現れた口コミ(もちろん体験者の)が日本人女性だったのには驚かされた。韓国や中国からは、ビジネスモデルを教えてほしいという問い合わせが相次いでいるそうだ。このアイデアを日本でも試みれば、町おこしの絶好の目玉アイテムになるのではないだろうか。体験してみようと思う方は、今すぐにもウェイティングリストに登録することをお勧めする。
 『ブックセラーズ・ダイアリー』は欧米で出版早々ベストセラーになり、すでに続編も出ている。それを読むとショーン・バイセルはオープンブックの滞在客をたびたび自宅に誘っている。面白い企画を持ち込めば、いつの日か彼の日記の続々続編あたりに登場できるかもしれない。

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『ブックセラーズ・ダイアリー』 ショーン・バイセル 著 矢倉尚子 訳 
白水社 定価3,300円(本体3,000円+税)好評発売中!
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b584634.html

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第33回 退屈男さん ちょっとずつ「本の世界」に関わるひと

第33回 退屈男さん ちょっとずつ「本の世界」に関わるひと

南陀楼綾繁

 この連載は、古本や古本屋と自分なりに付き合ってきた人に話を聞くことを目的としている。インタビューの場では、その人の話を引き出すために、私自身の体験を話すこともあるが、文章にまとめる際には極力カットしている。
 しかし、以前からの知り合いだとそれがやりにくい。つい、自分の思い出を通して、その人を描いてしまう。相手と私を切り離して書きにくいのだ。だから、数人の例外を除き、旧知の人はなるべく外している。
 最終回に退屈男さんに出てもらったのは、最後にプライベートな友人の話を聞いてみたかったからだ。その話の中には当然、私も出てくる。友人と云っても、一回り以上年下で、ふだんは「退屈くん」と呼んでいるので、ここでもそう書かせてもらう。

 2004年6月にはじまったブログ「退屈男と本と街」は、新刊書店や古本屋をめぐって買った本の話を書くという点では、ほかの本好きによるブログと変わらない。しかし、取り上げる本の雑多さと、それにまつわる情報の豊富さでは突出していた。
 一冊の本から、出版社のサイトに飛んで裏話を見つけ、書店でやっているフェアに触れ、その本に言及している個人のブログを紹介する。ひとつの記事は短いが、貼ってあるリンクをたどると、読むテキストは2倍にも3倍にもなる。
 圧巻だったのは、2005年4月にはじめて開催された「不忍ブックストリートの一箱古本市」の2日後にアップされた「一箱古本市まとめリンク集」だった。主催者、店主さん、お客さんのブログの記事が70本近く取り上げられている。これによって、一箱古本市に対するネットの反応が目の前にドンと投げ出されたような気がした。

 この第1回一箱古本市で、退屈くんは自転車で走る私を目撃しているが、会話は交わさなかったように思う。はじめて話をしたのは、この年9月、私が谷中で開催した「一部屋古本市に、退屈くんが参加したことだった。「こんなに若いのか!」とびっくりしたことを覚えている。日は違ったが、このイベントには当時は「書物奉行」と名乗っていた書物蔵さんも参加している。
 その後、退屈くんは毎回、「一箱古本市まとめリンク集」をアップしてくれた。また、「わめぞ」(早稲田・目白・雑司ヶ谷で本のイベントを開催するグループ)にも加わり、さまざまなイベントを手伝う。本周りの楽しいことには、いつも顔を出している青年というイメージがある。
 前置きが長くなったが、彼が「退屈男」になる過程をたどってみよう。

 1982年、新潟県小千谷市に生まれる。当時は祖父母、父母、2つ下の妹の6人家族。父は市役所に勤めていたので、家の本棚には行政の実務書ばかり。文学全集は屋根裏に眠っていた。
「絵本で覚えているのは、いわむらかずおの『14ひきの』シリーズや、『あしにょきにょき』(深見春夫)など。もう少し大きくなると、車や建物、昆虫などの図鑑を読みました。図解されているものが好きだったんです」
 両親は本をよく買ってくれた。小学生になると、学習マンガのシリーズを買ってもらった。市内に書店がいくつかあった。自宅の斜め向かいに〈ブックス平沢〉という県内のチェーン店が本、ビデオ、CDの複合店を出店すると、しょっちゅう通う。
「父が仕事に関する雑誌、母は『暮しの手帖』や『主婦と生活』、僕は少年マンガ誌や小学館の学年雑誌を購読していました。父がプロ野球好きだったのに影響されて、『週刊ベースボール』と『ファミコン通信』も購読しました。投稿が初めて掲載されたのも『ファミ通』です」
 ナイター中継からラジオ好きになり、小学校低学年から深夜ラジオを聴くようになる。ラジオとの付き合いは、その後ずっと続く。

 小学生では宗田理の「ぼくら」シリーズやスニーカー文庫などのライトノベル、中学生になると夏目漱石や太宰治、藤沢周平や山田風太郎などの時代小説も読んだ。しかし、小説よりはノンフィクションの方が好きで、中公新書や講談社現代新書の歴史ものを読んだり、山際淳司や近藤唯之のスポーツもの、現代教養文庫で佐高信が監修して復刊したノンフィクションの名作を読む。
「一方で、新潮文庫で泉麻人のエッセイを読み、そこから小林信彦、橋本治、大瀧詠一などのサブカル系に入っていきました。中野翠、山本夏彦、えのきどいちろうなど、コラムニストと呼ばれる人が好きだった。ブックス平沢にはちくま文庫の棚があり、そこで荒俣宏や赤瀬川原平、虫明亜呂無などを買って読みました」
 文庫について、退屈くんは「当時は単行本から文庫化するまで、いまよりも時間がかかっていましたよね。だから、ちょっと古い本という感覚がありました」という。たしかに、この数年間のタイムラグが不思議だったり面白かったりしたのだ。先走って云えば、古本についても退屈くんは「ちょっと古い本」を好んで買っている。
「ブックス平沢には毎日通い、『広告批評』『ダカーポ』『ナンバー』『別冊宝島』などを立ち読みしました。買っていたのは、『レコードコレクターズ』やゲーム雑誌、『モノマガジン』など。新発売の商品のスケジュールをマーカーでチェックしたりしていました(笑)。データを見ること自体が好きだったんです」

 2000年、法政大学二部(夜間)に入学する。父が公務員であることや、高校のとき岩波文庫で『石橋湛山評論集』を読んだことから、政治学科を選ぶ。昼間はゴルフ練習場やコンビニでアルバイトして、夕方から授業に出た。
 実家にいた頃、リサイクル系の古本屋で文庫を買ったことがあるが、神保町の古本屋に行ったのは、受験で上京したときが最初だった。大学に入ってからはときどき神保町に行ったが、店頭の均一台を覗くだけで、中に入ることはなかった。
 小竹向原に住んでいたので、西武池袋線沿線の古本屋によく行った。江古田では〈落穂舎〉〈根元書房〉、ブックオフなど。東武東上線の大山には〈ぶっくめいと〉があり、狭かったがちょっと珍しい文庫が買えた。
「ラジオを聴きながら散歩して、古本屋に寄り、公園で本を読むという生活でした。片岡義男や坪内祐三など読むものの範囲が広がりました」
 やりたい仕事もなく、就職活動もしないまま留年し、5年で卒業したのは2005年3月だった。

 在学中、先に書いたようにブログ「退屈男と本と街」を開始した。
「この頃、なにかの記事でブログというものがあることを知って、自分でもやってみることにしました。もともと日記を読むのが好きで、植草甚一のエッセイにどの本屋で何の本を買ったか書いてあるのが楽しかった。大瀧詠一の『ロックンロール退屈男』から『退屈男』をいただき、書評よりも本をめぐる動きの方が面白いと思って『本と街』と付けました」
 そうして生まれた「退屈男と本と街」は、最初は自分の買った本や読んだ本についての日記だが、次第に、本好きのブログやサイトを紹介することに主力が置かれるようになる。
「あまり知られていないけど、面白いと思うブログを紹介したかったんです。それで自分の行動の記録とリンクを一緒に載せました。あるブログと別のブログを紹介することで、こういう動きが起きていると伝えるようにしました」
 ブログを通じて、古本好きとやりとりをするようになり、イベントで顔を合わせたりした。早稲田〈古書現世〉の向井透史さんら古本屋と知り合いになり、古書会館での即売会にも行くようになった。
「第1回の一箱古本市には、先日亡くなった作家の小沢信男さんが出店されていて、ご本人から『あほうどりの唄』を買ったのが思い出深いです。小沢さんや小関智弘さんが描く東京が好きなんです」

 卒業後の退屈くんは、神保町の〈三省堂書店〉でアルバイトをする。知らない本が見られるのが面白く、古本屋に近いのもよかった。その頃、若き日の母親が、神保町のすぐ隣の神田三崎町にあった製本工場で10年間働いていたことを知った。「(近くにあった喫茶店の)〈エリカ〉はまだあるの?」などと聞かれ、驚いた。近代映画社の『スクリーン』などを製本する会社だったという。
その後、複数の出版社や図書館、古本屋で働いてきた。しばらく会わないと、もう別のところにいるという印象だ。これだけ本に詳しいのだから、どこかに落ち着いたらいい仕事をするはずなのにと、私は勝手に心配していたが、本人は「本のいろんな面に関わることができて面白い。僕にはこういうのが合っているみたいです。わめぞのイベントでもそうですが、雑用とか補佐が好きなんです」と話す。
 現在はある出版社で営業の仕事をしながら、二つの古本屋でアルバイトをしている。ほとんど休みもないようだが、いろいろなところにちょっとずつ関わるというスタイルが彼には向いているのかもしれない。
 ブログは2008年頃から更新が減り、その後はツイッターに移行する。「もともと僕には文章を書きたい気持ちはあんまりないんです」。ブログをはじめたことで、好きだった書き手に会うことができた。
「亡くなったノンフィクション作家の黒岩比佐子さんとも、ブログを通じて知り合いになれました。自然に知り合いが増えていくのがよかったです」

 本好きではあるけれど、モノとしての本にはそれほど興味がなく、電子書籍で読むことも多い。以前は部屋が本だらけだったが、引っ越しをするたびに処分して、いまは本棚に収まるだけしかない。
「古本屋の仕事で宅買い(出張買取り)していると、人のコレクションに触れるのが面白くなって、自分の本へのこだわりが薄くなっていきました」
 最近買った古本を見せてもらうと、『僕等の生活絵物語』という冊子を見せてくれた。スケッチブックに手書きされたもので、戦前の寮生活を描いている。バイトしている古本屋で買ったものだという。
 もうひとつは、文藝春秋のPR誌『本の話』。90年代のものを30冊ぐらいまとめて買った。「この時代の特集がいいんですよね。PR誌は前から好きで、本屋でもらって風呂で読んでいました」
 自分の読書は「雑食性」だと云うとおり、そのときの興味がおもむくままに、古本屋で見つけた本を買ってきた。何かにとらわれることがなく、とても自由だ。
「今後は、地方の本屋に行ってみたいですね。あと、ずっとラジオが好きなので、ラジオと本に関することに、なにか関われたらと思います」

 この文章を書くために、久しぶりに「退屈男と本と街」を開いてみたら、まだ本人と会う前の2005月1月に「二〇〇四年の五冊」という記事が見つかった。私の最初の単行本『ナンダロウアヤシゲな日々 本の海で溺れて』(無明舎出版)について書いている部分を、気恥ずかしいが引用する。
「『本の海で溺れて』とあるが、ただひとり溺れるだけでない。南陀楼さんはその海の泳ぎ方がじつによいのだ。そして、おなじように本の海を泳いでいるひとたちを見つけ、接し、また外にそれを伝えていく。そのことによって、読者は、本の海のまだ知らぬ領域まで泳ぎすすむことができる。
 ぼくのすきな『ふらふら』感を、けっこう感じられるところもいい」
 この一文を読んで、退屈くんの雑食性とちょっとずつ関わるスタイルは、自分にも共通していると気づいた。だから、たまにしか会わなくても、彼のことがなんだか気にかかるのだ。
 退屈男くんは、古本を通じて出会った大切な友人である。これからも。

 

 

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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※ご好評いただきました『シリーズ古本マニア採集帖』は、今回を持ちまして終了します。連載のご愛読ありがとうございました。
なお、11月に皓星社から刊行予定です。ご期待ください。

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2021年9月10日号 第330号

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 古書市&古本まつり 第104号
      。.☆.:* 通巻330・9月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【『東京古書組合百年史』刊行】━━━━━━

『東京古書組合百年史』 好評発売中!

東京都古書籍商業協同組合は、1920年1月に東京古書籍商組合とし
て創立され、2020年に創立100周年を迎えました。
100周年の記念事業の一環として 2021年8月に『東京古書組合百年史』
を刊行いたします。
本史は、昭和・平成・令和の各時代における古書市場の歴史は
もちろんのこと、当組合が経験してまいりました様々な歴史を
記録として残すことを心がけました。
ぜひ多くの皆様にご覧いただければ幸いです。

・書籍判型:A5上製本
・総 頁 数:696ページ(内、巻頭カラーページ:16ページ)
・定  価:8,000円(税込)

東京古書組合百年史
http://www.kosho.ne.jp/100/index.html

━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

高嶺格「歓迎されざる者」とホテルのライブラリー

                   書肆吉成 吉成秀夫

書肆吉成のメルマガ連載は最終回です。今回は現代アートの作品で
詩歌を選び、三菱地所が新築するホテルのライブラリールームで北
海道の本を選んだ、「選書」の仕事についてご報告します。
ーーーーーーー 
 
キーンと冷える真冬の3月だった。
元ダムタイプのメンバーで現代芸術のアーティスト・高嶺格(たか
みね・ただす)による展覧会「歓迎されざる者」の北海道バージョ
ンを夏に開催する予定がある、作品はパフォーマーによる詩の朗読
が大きなポイントになるのだが、そこで何を読むかゼロから考えた
い、相談にのってもらえないだろうか。札幌市文化芸術交流センタ
ーSCARTSの方からお話しがあったとき、直感的に面白そうだとおも
った。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7264

書肆吉成
https://camenosima.com/

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第32回 村上潔さん 都市を回遊し本と音楽に出会うひと

                      南陀楼綾繁

 7、8年前だったと思う。京都で古本屋めぐりをしているときに
立ち寄ったカフェで、一人の男性に声を掛けられた。私がTwitterで
つぶやいたのを見て気づいたようだ。村上潔さんと名乗るその人は、
小冊子を渡して去って行った。その頃から開催されていた「京都レ
コードまつり」を楽しむための副読本のような内容で、食事の間に
楽しく読んだ。
「あれは自分で最初につくったZINEでした。研究者としての仕事か
ら離れたところで、ひとりでつくる楽しさがありました。レコード
屋や古本屋で会った人に名刺代わりに渡していました」

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7268

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

自動車趣味の店 ロンバルディ 古戸 学
snowdrop 南 由紀
千章堂 林 高志
百年史ダイジェスト編

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【9月10日~10月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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書窓展(マド展)※会場販売中止になりました
(目録ご注文は通常通り承ります)

期間:2021/09/10~2021/09/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2021/09/10~2021/09/21
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武
(ビッグカメラ隣) 3階バッシュルーム(北階段際)

http://mineruba.webcrow.jp/saiji.htm

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好書会【会場販売あります】

期間:2021/09/11~2021/09/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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反町古書会館展※会期が変更されました(神奈川県)

期間:2021/09/11~2021/09/12
場所:神奈川古書会館1F  横浜市神奈川区反町2-16-10
TEL:090-1656-9717(グリム書房)

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第43回古本浪漫洲  Part2

期間:2021/09/12~2021/09/14
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第43回古本浪漫洲  Part3

期間:2021/09/15~2021/09/17
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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特選古書市 書画骨董古美術展 福岡丸善ギャラリー古書展(福岡県)

期間:2021/09/15~2021/09/25
場所:ジュンク堂書店 福岡店2階 丸善ギャラリー

http://www.kosho.ne.jp/~izutuya/sokubaikai.html

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趣味の古書展※会場販売中止になりました

期間:2021/09/17~2021/09/18
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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たにまち月いち古書即売会(大阪府)

期間:2021/09/17~2021/09/19
場所:大阪古書会館 大阪府大阪市中央区粉川町4-1

https://twitter.com/tanimatitukiiti

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第43回古本浪漫洲  Part4

期間:2021/09/18~2021/09/20
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第43回古本浪漫洲 Part5(300円均一)

期間:2021/09/21~2021/09/23
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/09/23~2021/09/26
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2021/09/24~2021/09/25
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2021/09/24~2021/09/25
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展

期間:2021/09/25~2021/09/26
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新橋古本市※中止になりました

期間:2021/09/27~2021/10/02
場所:新橋駅前 SL広場

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西部古書展書心会

期間:2021/10/01~2021/10/03
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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フィールズ南柏 古本市 (千葉県)

期間:2021/10/06~2021/10/20
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/10/07~2021/10/10
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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城南古書展

期間:2021/10/08~2021/10/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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日本の古本屋メールマガジンその330 2021.9.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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第32回 村上潔さん 都市を回遊し本と音楽に出会うひと

第32回 村上潔さん 都市を回遊し本と音楽に出会うひと

南陀楼綾繁

 7、8年前だったと思う。京都で古本屋めぐりをしているときに立ち寄ったカフェで、一人の男性に声を掛けられた。私がTwitterでつぶやいたのを見て気づいたようだ。村上潔さんと名乗るその人は、小冊子を渡して去って行った。その頃から開催されていた「京都レコードまつり」を楽しむための副読本のような内容で、食事の間に楽しく読んだ。
「あれは自分で最初につくったZINEでした。研究者としての仕事から離れたところで、ひとりでつくる楽しさがありました。レコード屋や古本屋で会った人に名刺代わりに渡していました」
 それ以来はじめて会う村上さんは、画面の向こうでそう云った。村上さんは現在神戸にお住まいで、この取材はzoomで行なった。
 村上さんは立命館大学生存学研究所の客員研究員として、大きく云えば「現代女性思想・運動史」を研究している。『主婦と労働のもつれ――その争点と運動』(洛北出版)という著書があり、あとで触れるようにZINEの研究も大きなテーマだ。村上さんのサイトに挙げられている論文・寄稿の一覧を見るだけで、関心の幅がとても広いことが判る。
 村上さんはどういう経過をたどって、いまの村上さんになったのだろうか? そこに古本はどう関わっているのか?

 1976年、横浜市生まれ。2歳まで鵠沼海岸で過ごしたのち、3歳で町田市に引っ越し、26歳までそこで住む。一人っ子で、父は単身赴任が長く、母や母方の家族との暮らしが長かった。
 記憶にある最初の本は、江ノ電の絵本だった。また、母の実家にある古い絵本を読んだことも覚えている。小学1年生のときに、自分の意志で買ってもらったのは、集英社版の『学習漫画 日本の歴史』全18巻。
「なかでも鎌倉時代の巻が好きでした。大学で日本中世史を専攻するきっかけになったのかもしれません」
 小学生の頃に読んだのは、子ども向けの落語や民話の本、そして赤川次郎。中学生になると北杜夫の小説やエッセイを読む。

 町田には〈久美堂〉という老舗書店チェーンがあり、村上さんは本店で本を買うことが多かった。
「高校2年の現代文の内田保男先生は、授業の課題で講談社学術文庫や岩波新書の黄版を読ませる名物教師で、久美堂の2階には内田先生がセレクトした本のコーナーがありました。加藤周一『雑種文化』、村上陽一郎『近代科学を超えて』、田中克彦『ことばと国家』など、高校生には難しかったけど、がんばって読みました」

 一方、はじめて古本屋に入ったのは中学2年生のとき。
「『機動警察パトレイバー』の初期OVAシリーズにはまった流れで、その漫画版を担当したゆうきまさみの前作『究極超人あ~る』を、近所の古本屋で買いました。中学では野球部だったのですが、その作品に出会った影響で、高校では校内でいちばん風変わりな部活に入ろうと決意し、超文系人間なのに〈理化部〉に入りました(笑)」
 その後、〈高原書店〉に足を踏み入れる。1970年代に町田で創業し、一時期は高円寺や新大久保にも支店があった。ここの出身者で古本屋を開業した人が多いのは、ご存知の通り。村上さんが通った店は、POPビルの2階にあり、とても広かった。余談だが、私は昔、雑誌の企画でここで半日店員を体験したことがある。
「最初はいしいひさいちのマンガなどを買っていましたが、高校の頃は少し前のサブカル雑誌とか、古いプロ野球関係の本などの物珍しい本をネタ的に買っていた気がします」

 本と並んで、当時の村上さんに大きな影響を与えたのは音楽だ。その出会いもやはり町田でのことだった。
 理化部の先輩が編集したカセットテープと「電気グルーヴのオールナイトニッポン」の影響で、テクノやニューウェーブに興味を持ち、町田駅近くにあった〈Tahara〉でCDを買ったり、町田市立図書館で借りたりした。
「電気グルーヴ経由で音楽ライター・編集者の野田努さんの文章を読むようになりました。大学を出てからですが、野田さんが『ele-king』の後に編集を手がけていた音楽誌『remix』に、ベルリンの音楽グループについて寄稿したのが、私のライターデビューです。同誌にはその後、映画評の連載も任されました」

 高校卒業後、予備校のあった神保町の古書店街を覗く。翌年、東洋大学史学科に入学。
「1年から研究会に属し、報告や論文を発表しました。大学の図書館はよく通いましたね。その頃読んでいたのはカヌーイストの野田知佑の本です。環境を守る意識や権力的なものへの批判が芽生えました。音楽の野田努さんと並んで、ダブル野田の影響を受けました(笑)」
 また、大貫妙子のファンになり、彼女が書いた文章も読む。『散文散歩』というエッセイ集は「私の人生のバイブルです」と、村上さんは云う。
大学を卒業する少し前から、ミニシアターや名画座にも通いはじめた。東京を離れるまで続き、古本屋で旧作映画関係の資料を買う機会も増えた。

 修士課程を終え、立命館大学の博士課程に進学。主婦の研究をテーマにする。中世史とは一見かけ離れているが、「史料を前提とする点で、方法論はあまり変わりません」。京都の大学を選んだのは、東京以外の都市を知りたいという思いがあった。
 上京区に住み、自転車で街をめぐる。
「〈あっぷる書店〉ではおもに女性作家の作品を文庫で買いました。〈カライモブックス〉は戦後の社会運動や環境問題に関する本が強いので、石牟礼道子や森崎和江、女性史関係、主婦のサークル誌など、多くの貴重な資料を入手することができました。〈100000t アローントコ〉では本だけでなくレコードもよく買います。店主の加地猛さんは『京都レコードまつり』の中心メンバーで、その縁で私も企画に関わる経験ができました」
 神戸では〈トンカ書店〉(現〈花森書林〉)に通った。
「あまりマンガは読まないのですが、古本屋でたまたま買った『美紅・舞子』という作品から西村しのぶにはまり、彼女の作品を集めるようになりました。エッセイマンガも含め、彼女の昔の作品はおもに神戸を舞台にしているので、その影響で神戸によく行くようになったんです。それが縁でいまは神戸に住んでいます」
 氷室冴子、如月小春ら、1970~1980年代の都市で強い自律性を持った女性が書いた本が好きだと、村上さんは云う。それらの本はほぼ絶版になっており、古本屋のおかげで手に入る。
 また、2008年頃、村上さんは、「ZINE」という言葉を日本に広めた野中モモさんが主宰するサイト「Lilmag」でZINEを買ったことがきっかけで、ZINEカルチャーについて調べるようになった。とくに海外のラディカルなフェミニズム運動のなかでのジンに注目する。海外のイベントにも参加し、各地の企画にゲストとして招かれ、レクチャーを担当したりもする。ZINEに関する文献も継続的に蒐集している。「メディアが仕掛けるブームとは異なる、独自の発信に惹かれるんです」

「あまりモノへの欲はない方だと思います」と云う村上さん。本の量はそれほど多くなく、段ボール箱に入れて家に置いている。
 最近書いた論文は日本のウーマンリブ運動の見直しで、当時のミニコミやビラを蒐集・保管・公開する意義を説いたという(「地域のウーマンリブ運動資料のアーカイヴィング実践がもつ可能性――二〇〇〇年代京都市における活動経験とその先にある地平」、大野光明・小杉亮子・松井隆志編『[社会運動史研究3]メディアがひらく運動史』新曜社)。

 町田、京都、神戸と都市で生活しながら、古本とレコードと出会い、それが研究にもつながっている。
 そんな村上さんが「世界で一番大事な場所」と云うジャズ喫茶〈町田ノイズ〉に、近いうちに行ってみようと思っている。

 

 

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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高嶺格「歓迎されざる者」とホテルのライブラリー

高嶺格「歓迎されざる者」とホテルのライブラリー

書肆吉成 吉成秀夫

書肆吉成のメルマガ連載は最終回です。今回は現代アートの作品で詩歌を選び、三菱地所が新築するホテルのライブラリールームで北海道の本を選んだ、「選書」の仕事についてご報告します。
ーーーーーーー 
 
キーンと冷える真冬の3月だった。
元ダムタイプのメンバーで現代芸術のアーティスト・高嶺格(たかみね・ただす)による展覧会「歓迎されざる者」の北海道バージョンを夏に開催する予定がある、作品はパフォーマーによる詩の朗読が大きなポイントになるのだが、そこで何を読むかゼロから考えたい、相談にのってもらえないだろうか。札幌市文化芸術交流センターSCARTSの方からお話しがあったとき、直感的に面白そうだとおもった。

私に声がかかったのは、書肆吉成が北海道に根ざした古書店だからだろう。当店はとくに北海道の歴史と詩歌、思想、芸術の本に重きをおいている。北海道と詩歌の本ならたくさんある。

「歓迎されざる者」とはいったい何者なのか。植民地北海道においてはセンシティブなテーマだ。打ち合わせで、歓迎されざる者のテーマをさまざまに掘り下げていくなか「もしかしたら物事の線引きとか差別に繋がると思う」と高嶺さんがいった。その言葉を捕まえて軸に置き、北海道に縁のある詩人・詩歌を読みすすめることにした。

詩をえらんでいた半年のあいだに、じつに多くのことがおきた。

旭川市では中学2年生の女子がいじめによって失踪し凍死していた。日テレではアイヌ差別表現があった。SNSではその差別表現を指摘したアイヌの人に対してヘイトの言葉があびせられた。難民が苦しむ入管法が改悪されそうになった。ミャンマーでクーデターがあった。札幌の市街地にヒグマが現れて刹処分された。オリンピックでは小山田圭吾の過去のいじめと小林賢太郎がユダヤ虐殺を揶揄していたことが明らかになった。私の故郷の清里町役場でパワハラにあった職員が自殺した。猛暑、河川が氾濫した。メンタリストDaiGoはホームレスへ攻撃的な発言をして話題をとろうとした。さらに展覧会直前には北方領土の国後島から泳いで来たというロシア人男性が根室管内標津町で保護された。アメリカ軍がアフガニスタンから撤退を開始した。

これらはすべてたった半年のあいだに次々と起きては忘却された。「歓迎されざる者」とは何かと考えつづけていた私は、事件が起きるたびに胸が痛み、詩の読み方に影を落とさずにはいられなかった。私が選ぶ詩は「忘却に抗して声をあげ、排除されたものの痛みをとどめた、何一つあたりまえではない多くの声」でなければならないと思いつめた。私はいつしか闇落ちしながら詩歌を読み漁っていた。

そんなとき、高嶺さんから意外な作品が提示された。それは書肆吉成が発行する「アフンルパル通信」に以前掲載した長歌で、モチーフはストレートな「恋愛」だった。
 
 
 恋人はきみの一部ではない
 それゆえに何もかも思い通りにいくことはない
 だからこそ抱きしめるとき暖かくおもうのだ
 ほんとうのゆきどけをきみは知るだろう
 
  (山田航 長歌「はじめて恋人ができたきみに贈る歌」より)
 
 
流氷のように硬くなっていた私の心はここに氷解した。
「ひとりひとりが違うこと」、社会に存在するあらゆる線引き、たとえば差異・違和・格差・他者・蔑視・排除・攻撃・不理解・国境などと言われるものを、この歌の「恋愛」は乗り越えて結びつける力に満ちていた。「かなしいこともたぶんあるけれど」、それをうわまわる希望がある。私の内なる線引きをも抱擁する「恋愛」の歌に心から感動を覚えた。

結局私は200篇ほどの詩歌を選びだして紹介し、高嶺さんはそこから約40篇を厳選した。選別には痛みがともなった。「線引き」の痛みをみずから引き受けながらふるいにかけるしかなかった。選ばれた詩は、氷山の一角である。

詩歌の選定が済み、会場も整い、いざこれから本番というときになって北海道でコロナ感染が拡大し、ついに緊急事態宣言がでた。そのため会期が8/27~29の3日間に短縮された。「歓迎されざる者」はこのような例外状態のなかではじまった。

水と光と声による静謐な空間が出現した。すなおに、非常に美しいとおもった。朗読者のほんのわずかな声のふるえも耳につたわる。詩を聞くのにこれ以上ない空間だった。この美しい空間に、ヒリヒリとした剝き出しの詩歌が、それぞれの狼煙をあげる。

浅野明信、麻生直子、石川啄木、伊藤整、江原光太、風山瑕生、くぼたのぞみ、更科源蔵、管啓次郎、中城ふみ子、中野重治、中村和恵、長屋のり子、二条千河、宮沢賢治、向井豊昭、森竹竹市、山田亮太、山田航、吉増剛造の詩歌。それに明治時代の流行歌である監獄節が歌われ、サハリンのニヴフを描いたドキュメンタリーの日本語字幕が朗読された。
ひととおり聞くだけで二時間かかる。さらに朗読者によって読み方が違う。

展示ではアイヌのアーティスト・マユンキキさんとの協働がひっそり実現していた。どこにも説明がなかったのでだれも気がつかなかったろう。
マユンキキさんは、朗読会場の裏側の通路にアイヌ語の物語を手書きしたのだった。アイヌ語を知らなければ意味がわからないカタカナの羅列が通路にならんでいた。アイヌはもともと無文字文化なので言葉は本当は文字でなく声であるはずのものだ。声のかわりにあてがわれたのがカタカナである。日本語による朗読の声が響きわたるなか、アイヌ語の物語はカタカナに沈黙していた。
さらにその先には文字を二重に書いて読めなくした黒い字の羅列が続いた。マユンキキさんが自分やアイヌ全体に浴びせられた誹謗中傷の言葉を抜き出し、高嶺さんが黒く重ね書きしたのだ。
これらふたつの沈黙の筆記が展示空間の出口となった。

「歓迎されざる者 北海道バージョン」は他者の言葉が主だった。高嶺格というアーティストの存在は影となり水となってその場をやわらかく包みこむばかりだ。こんなにも自分を消し去れるアーティストがいるのかと私は驚いた。高嶺格は「場」そのものだった。さまざまな言葉と出会う繊細な場で、人はやさしく傷ついた。

ーーーーーーー

さて、もう一つのプロジェクトに関わっている。
10月1日にグランドオープン予定のホテルがあり、ライブラリーの選書を任された。これから追い込み作業に入る。

札幌市中心部のテレビ塔ちかく、大通公園に面した「ザ・ロイヤルパーク・キャンバス札幌大通公園」は三菱地所によるホテルだ。
目をみはるのは高層階を木造建築する新技術を採用していること。内装やインテリアに至るまで北海道産の木材にこだわってふんだんに使用し、これによって持続可能な社会の実現に寄与している。
ホテルのコンセプトはずばり「北海道を体感する」。ライブラリーの部屋は2階にある。本で北海道を体感する、くつろぎの空間となるだろう。

こちらはむずかしく考えずに、たのしく北海道を感じられるラインナップで選書した。
ビジュアル本や写真集、動植物、昆虫など自然の本、食べ物、歴史の本などがゆったりならぶ。
目玉となるのはむかしの北海道を知ることのできる2冊だ。『蝦夷島奇観』と『北海道古地図集成』。本を開けばいまとはちがう北海道に出会えるはず。
ぜひ本を手にとりいろいろな北海道を楽しんでほしい。ライブラリーは宿泊客だけでなく一般の人も自由に出入り可能となっている。

札幌にご宿泊の際にはぜひ当ホテルをご利用ください。10月1日のオープンをどうぞお楽しみに!
 
ザ・ロイヤルパーク・キャンバス札幌大通公園 公式サイト
https://www.the-royalpark.jp/canvas/sapporoodoripark/
 
 
最後に。書肆吉成は本の買取を承っております。蔵書整理の際にはぜひお声がけ下さいますよう、心よりお願い申し上げます。



書肆吉成
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