2021年8月25日号 第329号

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☆INDEX☆
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1.『書物・印刷・本屋』    藤本幸夫
2.『読む・打つ・書く』     三中信宏

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━━━━━━━━━━━━【自著を語る(275)】━━━━━━━━

『書物・印刷・本屋 日中韓をめぐる本の文化史』

                      藤本幸夫

 本書は中国・朝鮮・日本の坊刻本、即ち民間の営利出版(日本で
は「町版」)を対象とし、その具体的な諸相を明らかにしようとす
るものである。坊刻本は庶民の擡頭と共に内容・意匠それぞれに工
夫を凝らしつつ、深淵且つ絢爛たる出版文化を形成してきた。従来
書籍を対象とする類書では、文学史的意義・理論的研究や内容分析、
或いは版種や文字の異同等が中心であった。このような研究が高踏
的とされ、今回のテーマのような分野は、ややもすれば低く見られ
勝ちであったように筆者には思われる。

続きはこちら
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『書物・印刷・本屋』藤本幸夫編
勉誠出版刊 定価:17,600円(税込み) 好評発売中!
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101221

━━━━━━━━━━━【自著を語る(276)】━━━━━━━━━

『読む・打つ・書く- 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』

                         三中信宏

 私は三十年あまりにわたって、農林水産省の研究機関で職業研究
者として勤務してきた。世間的に見ればいわゆる “理系の研究者”
なので、実験・観察を繰り返し、しかるべきデータを取って、その
結果を学会発表や原著論文というアウトプットとして世に出すとい
うやや固定されたイメージで見られることには慣れている。確かに、
そのようなステレオタイプな “理系研究ライフ” は大筋では外れ
ていないだろう。しかし、それだけが理系研究者の仕事かと言われ
れば即座に「否」と答える。

続きはこちら
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『読む・打つ・書く』 三中信宏 著
東京大学出版会 税込3,080円 好評発売中!
http://www.utp.or.jp/book/b577413.html

━━━━━━━【日本古書通信社からのお知らせ】━━━━━━━

日本古書通信社からのお知らせ

日本古書通信8月号より「札幌・一古書店主の歩み―弘南堂書店高
木庄治氏聞き書き」が連載開始されます。高木さんは現在88歳、昭
和8年札幌の老舗古書店南陽堂書店の次男として誕生、昭和27年か
ら1年間、神保町・八木書店での修業後に帰札。闘病中の父に代わ
り、兄と共に南陽堂書店の復興に努め、昭和32年に弘南堂書店と
して独立されました。多くの同業や熱心な顧客との出会いを得て、
現在は北方文献・近代文学などの専門店として全国的に高く評価
されています。高木さんの古書店主としての歩みは古本屋の戦後
の歴史を体現したものと言えます。若い古書店人、古書業界の歴
史に興味を持たれる方々に読んで頂きたいと思います。連載1回
目前半部分を「試し読み」出来るようにいたしました。

試し読みはこちら
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日本古書通信
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『ブックセラーズ・ダイアリー』 ショーン・バイセル 著
矢倉尚子 訳 
白水社 定価3,300円(本体3,000円+税)好評発売中!
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b584634.html

『敗れし者の静かなる闘い』 茅原健
日本古書通信社刊 定価:2000円+税 好評発売中!
https://www.kosho.co.jp/kotsu/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

8月~9月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジンその329 2021.8.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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yomuutu

『読む・打つ・書く —— 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』

『読む・打つ・書く —— 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』

三中信宏

私は三十年あまりにわたって、農林水産省の研究機関で職業研究者として勤務してきた。世間的に見ればいわゆる “理系の研究者” なので、実験・観察を繰り返し、しかるべきデータを取って、その結果を学会発表や原著論文というアウトプットとして世に出すというやや固定されたイメージで見られることには慣れている。確かに、そのようなステレオタイプな “理系研究ライフ” は大筋では外れていないだろう。しかし、それだけが理系研究者の仕事かと言われれば即座に「否」と答える。

私のいる農研機構という複合的な研究機関には何千人かの研究員が在籍しているので、その研究人生には多かれ少なかれ多様性(ばらつき)があっても不思議ではない。私は31歳のとき研究員として採用されたのだが、当時はいったい何をしているのかよくわからない研究員もあまたいたし、何を目指しているのか判然としない研究室も今よりももっとたくさんあった記憶がある。そして、周囲を見回しても、専門的な論文を書く以外に、一般向けの本を単著で書く多様な研究者がもっと多かったような気がする。そのような手本になるモデルケースがあれば、あとに続く人は絶えないだろう。しかし、残念ながら、その後は “淘汰” が進んでしまって、一見ムダなばらつきは一掃されてしまった。

昨今の農研機構を見ると、社会に向けた対外的な宣伝は確かに手間ひまかけて機動的に行っていることはよくわかる。しかし、その一般向けPRからは個々の研究者の “顔” は浮かび上がってこない。あくまでも「オール農研機構」としての研究成果を外に向けて強調する一方で、それを遂行してきた研究員たちそれぞれの “実体” はむしろ見えなくなってしまっている。そのひとつの証拠が、私の周囲で本を書いたことがある研究員がほとんどいなくなっているという事実だ。私はこれまで単著で本を書く機会を多く得てきたが、これは私のいる職場では例外中の例外だ。ほとんどの研究員は論文は書いても本は書いていない。研究組織としていくら成果が広報されたからとしても、研究員たちが対外的に “カオナシ” のまま知られていない現状では、原著論文は書いても単著の本を書いてみようという動機付けがなかなか湧いてこないのが、昨今の日本の研究環境の実情だ。

このたび上梓した『読む・打つ・書く —— 読書・書評・執筆をめぐる理系研究者の日々』は、「理系の本を書く研究者が昨今とみに減ってきている」という危機意識を東京大学出版会の編集者から聞いたことが執筆の動機だった。本書では研究者がその人生の中で出会う本との付き合い方を「読書・書評・執筆」の三つの場面に分けて、私自身の研究者としての執筆経験をちりばめながら論じた一冊だ。

前半第一部「読む」は読書論である。専門の原著論文を読めば “断片化” された最新の知識を得ることはできる。しかし、一冊の本を読めば断片的な知識の “体系化” を図ることが期待できるだろう。知識の “断片化” と “体系化” という両極を対比しながら、本を読むことの意義を再考する。そこでは、ある専門知の体系を身につけるための読書法や広く出回っている電子本はどこまで信用していいのかという論点も含まれる。研究者にかぎらず、読者ひとりひとりの “探書アンテナ” をしっかり鍛えていくことは読書人としてのリテラシー養成にもつながるだろう。

続く第二部「打つ」は書評論である。日本の新聞や雑誌の書評欄では長文の書評が出ることはほとんどない。一方、インターネット上の書評サイトではもっと長文の書評が公開される。私は2019〜2020年の2年間にわたり読売新聞読書委員として書評欄に寄稿してきた。そのときの経験も踏まえて、さまざまな書評の様式について、私の書評を例として挙げながら説明する。さらに、著者あるいは読者として実名書評や匿名書評をどのように読み解けばいいのかを論じた。書評の書き方はこれまで論じられてきたが、書評の読み方についてのまとまった議論は本書が初めてだろう。

最後の第三部「書く」は執筆論である。一冊の本を書き上げるのはどの著者にとっても大仕事だ。しかしも、単著の本を書くことに対してためらったりたじろいだりする理系研究者がほとんどだろう。彼らは日々忙しすぎて本を書く時間などないと思いこんでいるからだ。私は自分を “実験台” にして、毎日のちょっとした努力の積み重ねを怠らなければ、誰でも単著で本を書くすべがあることを示した。単著の執筆をまだためらっている書き手たちの背中を押すことが大きな目的である。本書を読み終えたら、もう本を書くしかない。

学術書であれ一般書であれ、本との付き合い方が根本的なところで揺らいでいるのが今もっとも大きな問題ではないだろうか。本書は「本」をめぐる三つの側面 —— 読書・書評・執筆 —— の現状と問題点を示し、その解決のための実践的手法を読者に提示した。また、私が見渡してきた “理系” 分野での「本ライフ」を前提にして、自然科学・科学史・科学哲学分野の本を実例として多く取り上げている。しかし、本書の考察それ自体は分野の別には関わりなく、 “理系” / “文系” の双方にまたがって参考になる部分が多いだろう。

yomuutu
『読む・打つ・書く』 三中信宏 著
東京大学出版会 税込3,080円 好評発売中!
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syomotuinsatu

『書物・印刷・本屋 日中韓をめぐる本の文化史』

『書物・印刷・本屋 日中韓をめぐる本の文化史』

藤本幸夫

 本書は中国・朝鮮・日本の坊刻本、即ち民間の営利出版(日本では「町版」)を対象とし、その具体的な諸相を明らかにしようとするものである。坊刻本は庶民の擡頭と共に内容・意匠それぞれに工夫を凝らしつつ、深淵且つ絢爛たる出版文化を形成してきた。従来書籍を対象とする類書では、文学史的意義・理論的研究や内容分析、或いは版種や文字の異同等が中心であった。このような研究が高踏的とされ、今回のテーマのような分野は、ややもすれば低く見られ勝ちであったように筆者には思われる。敢えて申せば、全体として機能する人体の頭部だけを重んじ、日常生活を支える下半身を軽んじるに近い。本書では書籍の出版から販売・読書に至る具体的な諸相、即ち潤筆料・版下・刻版・彫師・摺師・版木・料紙・装幀・本屋・貸本屋・書価・出版部数・流通・読者・版株・印刷術・和刻・禁書・出版統制等々に視点を置き、理解に資すために写真三九〇点余をも掲載した、これまでにあまり類例のない書の出版を目指した。このような視点から本を見る研究者は寧ろ少ないが、今回ご執筆者の方々には極力お触れいただけるようにお願いした。幸いにも斯界第一線で御活躍の方々のご賛同を得て、かなりの達成度を得られたのではないかと思っている。

 木版印刷の濫觴は中国の隋から唐初にあるとされ、朝鮮、そして日本には八世紀には伝わっていた。坊刻本成立には、必要とされる書籍を見極め出版に必要な資本を有する人物と刻版の技術、更には出版書を購入し得る読者層がなければならない。中国では北宋代に条件が整い、その後隆盛に向かうが、日本では十七世紀前半、朝鮮では十八世紀末に始まる。日本では十七世紀に町人が擡頭し、それに応じて坊刻本も盛んになってゆく。高度な金属活字印刷術を有する印刷文化国朝鮮では官版・家刻版・寺刹版・書院版などが盛んであったが、庶民の経済力の脆弱さと特に庶民読者層の薄さが坊刻本の発達を阻んだ。本書の執筆陣は三五名(但し内二名は二本執筆)、その内中国学六名、朝鮮学三名、キリシタン版一名、日本学二五名と甚だ人数的にはバランスを欠いているように見えるが、それには以下のような事情がある。

 筆者は朝鮮語学と文献学を専攻する者で、朝鮮には坊刻本の発生が遅く、また出版の諸相を示す文献の極めて少ないことを承知している。ただ朝鮮は中国文化を早くから受け入れ尊崇して来たため、文化のあり方が中国に酷似している。従って士大夫は中国同様漢文による詩・文を残し、子孫や門弟たちはそれらを編纂し出版した。その際に出版経緯・費用の調達・刻手の賃金・紙代、果ては刻手への酒代までも記録した「刊役日記」がある。文集刊行の際資金を広く募るので、使途を問われた場合を想定しても、記録が必要であったと思われる。これ迄公にされたのは僅かであったが、最近精粗さまざまではあるが十一種の「刊役日記」を集めた韓国語訳版が出ており、刊役の内幕を窺知し得て興味深い。今回は利用叶わず、今後紹介できる機会があればと思う。中国では宋代以降書肆が極めて多く、中には数百年の老舗もある。しかし筆者の知る限りでは、上記の如き出版の諸相を示す具体的な資料は少ないように思われる。その点江戸時代では本屋仲間の記録・幕府のお触書・出版された書目類・諸蔵書目録・書物末の書物広告、諸随筆類があって大いに資するのである。朝鮮では官の蔵書目録や地方官衙所蔵版木目録はあるが、個人の蔵書目録は殆どない。また中国では官や大蔵書家である士大夫の蔵書目録は種々あるが、多くは四部分類に従った正規の書籍類が列挙されている。ところが日本では蔵書は官だけに限らず、寺刹・神社・武士・町医者・町人など多岐にわたっており、それぞれの収書意図によってその内容は様々である。写本の国書類も多い。神道・武道・華道・茶道・香道等、又本屋が営利目的で出した五張単位の絵が中心の安価な草双紙類等、枚挙に遑ない。それに町人出身、例えば屋根屋・キセル屋・呉服屋・薬屋や農民等出身の学者や文人が知的関心を持って文筆界に加わる。このようなことは中国や朝鮮にはなく、彼らは己が身を置く町人文化に対する視点を持っており、その書き物では出版の世界にも触れられる。武士と町人の間に立ち位置のある曲亭馬琴の『近世物之本江戸作者部類』等はその逸なるものである。それに江戸時代の出版物ジャンルの多様性もあり、他の二国に比べ遥かによく出版実態を窺知できるため、日本書研究者がその三分の二を占めることとなった。

本書には謂わばマニアック的な論文もあるが、上辺を撫でるだけではなく、深く入り込む研究も大事である。筆者は朝鮮本研究において、長澤規矩也氏の御研究に倣い、当初より刻手名を徹底的に集めてきた。面倒で時間のかかる作業であった。朝鮮本は刊記を付すことが極めて少ないが、刻手名を手掛かりに刊年・刊地を特定し得ることがあり、刻手名は極めて有効な手掛かりとなる。ここで諸論文に一一触れる余裕はないが、上記諸相を知ろうとすれば、多くの書を繙かねばならないが、本書にはそれらが詰まっており、エンサイクロペディア的な役割を果たし得ているのではないかと思う。

本書に収め切れなかった分野も多い。俳書や浄瑠璃・旅行案内書・武鑑・重宝記・狂歌・川柳・細見等も、出版事情は基本的には同じであろうが、それぞれに特殊性もあるであろう。また中国書については卑見の及ばぬ所も多いと思われる。本書が今後研究者及び読書子の関心がこの方面に向かう契機になればと願っている。

syomotuinsatu
『書物・印刷・本屋』藤本幸夫編
勉誠出版刊 定価:17,600円(税込み)好評発売中!
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Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

2021年8月6日号 第328号

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 古書市&古本まつり 第103号
      。.☆.:* 通巻328・8月6日号 *:.☆. 。
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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

濡れた本

                   書肆吉成 吉成秀夫

 2019年晩夏、仙台市に「book cafe 火星の庭」をたずねた。店主
の前野久美子さんには以前私が発行する「アフンルパル通信」に寄
稿してもらったことがあった。
道路に面した大きな窓から店内が見える。たくさんの本が丁寧に並
ぶとなりにカフェコーナーがあり、奥のカウンターに小柄な女性、
前野さんがいた。店に入り「札幌の書肆吉成です」と告げると、目
を丸くして驚いてくれる。妊娠中の妻にはエルダーフラワー、4歳の
息子にはバナナセーキを出してくれた。どちらもメニュー表にない
ドリンクだった。

続きはこちら
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書肆吉成
https://camenosima.com/

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第31回 猪熊良子さん 「移動の記憶」と本が結びつくひと

                      南陀楼綾繁

 夏葉社、スタンド・ブックス、水窓出版、信陽堂など、いわゆる
「ひとり出版社」と呼ばれる個人経営の版元の刊行物には、校正者
として猪熊良子さんが関わっていることが多い。彼女は以前からの
知り合いだが、版面から丁寧な仕事ぶりが伝わってくる。
「新しくはじめた出版社では、校閲についての意見をしっかり聞
いてくださいます。どんな装丁になるのか楽しみですし、書店で
の売れ行きも気になります」と、猪熊さんは云う。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7213

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━━━━━【東京古書組合からお知らせ】━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【8月6日~9月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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三省堂書店 池袋本店 古本まつり

期間:2021/08/03~2021/08/09
場所:西武池袋本店 別館2階=特設会場(西武ギャラリー) 
東京都豊島区南池袋1-28-1

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第70回 東武古書の市(栃木県)

期間:2021/08/05~2021/08/17
場所:東武宇都宮百貨店 6階特別会場  宇都宮市宮園町5-4

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城北古書展【会場販売あります】

期間:2021/08/06~2021/08/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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下鴨納涼古本まつり(京都府)

期間:2021/08/11~2021/08/16
場所:下鴨神社糺の森  京都府京都市左京区下鴨泉川町59

http://koshoken.seesaa.net/index-4.html

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好書会

期間:2021/08/14~2021/08/15
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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ぐろりや会

期間:2021/08/20~2021/08/21
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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たにまち月いち古書即売会

期間:2021/08/20~2021/08/22
場所:大阪古書会館 大阪府大阪市中央区粉川町4-1

https://twitter.com/tanimatitukiiti

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フレスポ小田原古書フェア(神奈川県)

期間:2021/08/24~2021/08/30
場所:フレスポ小田原シティモール
南館1階エントランス(マクドナルド側)小田原市前川120
TEL:0465-45-5588

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/08/26~2021/08/29
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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紙魚之會

期間:2021/08/27~2021/08/28
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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アオモリ古書フェア 2021(青森県)

期間:2021/08/29~2021/09/05
場所:青森市役所駅前庁舎1F 駅前スクエア  青森市新町1-3-7

http://omoidenorekishi.blog.fc2.com/blog-entry-283.html

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第99回 彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2021/09/01~2021/09/07
場所:くすのきホール
(西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

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『東急百貨店』たまプラーザ大古本市(神奈川県)

期間:2021/09/02~2021/09/07
場所:東急百貨店たまプラーザ店 3階 催物場

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2021/09/02~2021/09/15
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
藤沢市南藤沢2-1-1フジサワ名店ビル7F TEL:0466-26-1452(代表)

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東京愛書会

期間:2021/09/03~2021/09/04
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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杉並書友会

期間:2021/09/04~2021/09/05
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第43回古本浪漫洲  Part1

期間:2021/09/09~2021/09/11
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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書窓展(マド展)

期間:2021/09/10~2021/09/11
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2021/09/10~2021/09/21
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣)
3階バッシュルーム(北階段際)

http://mineruba.webcrow.jp/saiji.htm

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好書会

期間:2021/09/11~2021/09/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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反町古書会館展※会期が変更されました(神奈川県)

期間:2021/09/11~2021/09/12
場所:神奈川古書会館1F  横浜市神奈川区反町2-16-10
TEL:090-1656-9717(グリム書房)

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第43回古本浪漫洲  Part2

期間:2021/09/12~2021/09/14
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第43回古本浪漫洲  Part3

期間:2021/09/15~2021/09/17
場所:新宿サブナード2丁目催事場 新宿区歌舞伎町1-2-2
TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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日本の古本屋メールマガジンその328 2021.8.6

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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濡れた本

濡れた本

書肆吉成 吉成秀夫

 2019年晩夏、仙台市に「book cafe 火星の庭」をたずねた。店主の前野久美子さんには以前私が発行する「アフンルパル通信」に寄稿してもらったことがあった。
道路に面した大きな窓から店内が見える。たくさんの本が丁寧に並ぶとなりにカフェコーナーがあり、奥のカウンターに小柄な女性、前野さんがいた。店に入り「札幌の書肆吉成です」と告げると、目を丸くして驚いてくれる。妊娠中の妻にはエルダーフラワー、4歳の息子にはバナナセーキを出してくれた。どちらもメニュー表にないドリンクだった。
「火星の庭」は店内でミニコンサートを開いたり地域に根差した市民活動をするなど、古本屋の枠におさまらないユニークな活動をしている。私たちが訪れた前日には原マスミがライブをしたそうだ。最近知ったのだが、前野さんは一時本気で自分の店をNPOにしようと考えていたらしい。そのバイタリティーはどこからくるのだろう。
「けっきょく古本屋さんはそれぞれ自分のスタイルをつくるしかないですよね」。雑談のなか、ふっとこんな言葉が漏れた。他のお店の真似をしてみたくてもそううまくいかないものだ。しかし、だからこそ個性的な古本屋さんの話を聞くのは楽しい。3冊の本を買った。安東量子『海を撃つ』、『念ふ鳥 詩人高祖保』(龜鳴屋)、『FREE USHIKU|EVERYONE HERE, EVERYONE COMING/ ここにいるすべてのひと、ここにくるすべてひと』。

仙台文学館に行くと東日本大震災の津波で泥にまみれた本のオブジェが展示してあった。どこにもあるような文学全集の端本や家庭雑誌が汚れている。津々浦々に本があることを実感するとともに、どこにもあるような本棚が津波にのまれたのだという事実がいままた胸に刺さった。泥まみれでよれよれになった本を前にして、立ち尽くすしかない。全集の残りの巻は海底で蟹と戯れているだろう。文字は魚が食べたに違いない。花を添えたくなる。

この東北旅の目的は、石巻の牡鹿半島で開催のReborn-Art Festivalに詩人・吉増剛造さんを訪ねることだった。
吉増さんは津波が押し寄せた集落の一つに「詩人の家」をつくって本棚に本を置き、そこで客人を迎えるという、これを展示と言っていいのか作品と言っていいのかわからないけれど、とにかくその場所で生きる、人と出会い言葉をかわす、そんな営みをしていた。それとはべつに霊山として知られる金華山(キンカサン)が見えるホテルの一室に詩作の部屋がしつらえられ、詩「Voix」の原稿用紙、文具、本が置かれ、大きな窓にはカラーペンで新しい詩が書きつけてあった。なんとも不思議な明るい部屋だった。金華山のむこうの海が大震災の震源地という。妻の胎内で羊水に浮かぶ赤子はへその穴から窓の光を見ただろうか。長男は鯨の歯で遊んだ。

それから半年後、世界は新型コロナウィルスの恐怖に覆われて一新した。
2020年4月、コロナの禍中で吉増剛造さんがYouTubeに映像作品を発表することを思い立ち、私はその手伝いをすることになった。吉増さんから毎週送られてくるモノローグと歌のビデオを編集し、概要欄に説明と文字起こしをのせてYouTubeにアップする。出版社コトニ社の後藤氏と協力して毎週の発信が続く。この記事が配信される頃には70回近くなるはずだ。映像作品は国内外で展示され、イギリスの芸術祭への出展作品には字幕を入れるお手伝いをした。https://www.youtube.com/channel/UCiSexx2GYYS_JAYlpt8n5Kw

「書肆吉成」は吉増さんが名付け親だ。古書店の独立準備をしているとき、売るための本がほしかった私は必死の思いで吉増さんに「ご不要な本があればお譲り下さい」とお願いした。その願いは叶えられた。しかしいざ届いた本をみて、敬愛する詩人の蔵書だと思うととたんに手離せなくなり、しまいこむことに決めた。いまや段ボール300箱をゆうに超えている。

ときどき吉増さんから探して欲しい本のリクエストがくる。求めに応じて送った本が詩や講演や映像作品になり、再び私のところに送られる。最近吉増さんは本のリクエストに「山口昌男大先生みたいです」と言葉を添えていた。たしかにかつて私が山口先生の付き人をしていたときもひたすら本を探していた。あれから20年以上ずっと古い本から新しい表現が生まれることのお手伝いをしている。これが私の古本屋のスタイルなのだろう。今夏刊行予定の吉増剛造詩集『Voix』(思潮社)には吉増さんへ書き送った私の手紙が引用される。

一つ懺悔しなくてはならないことがある。吉増さんの蔵書を古い一軒家に保管していたときのこと、春の大雨で大量の雪解け水が屋根からあふれて室内に降り注いだ。そのため多くの本が水に濡れてしまった。すぐさまべつの建物に本を移し、吉増さんに謝罪の手紙を書いた。数日後、速達で届いた吉増さんからの手紙には「本も濡れてみたかったんだと思います」と書いてあった。涙がこぼれた。

昨年、火星の庭の前野さんがコロナ禍の間隙をぬって札幌に来てくれた。前野さんの札幌滞在最終日に私たちは再会して、書肆吉成の店や倉庫を案内し、帰りの新千歳空港までの車中よもやま話を楽しんだ。仙台から石巻の間に名所が多いこと、店からあふれるたくさんの本のこと、山登りのことなど。震災後、原発事故の影響を心配した前野さん御一家は仙台から移住しようとして西日本を転々としたことがあったそうだ。移住を断念してからは娘さんの通う仙台市内の学校給食を心配し、西日本の食材で作った弁当を持たせつづけたらしい。このあたりに前野さんのバイタリティーの源泉の一つがあるのかもしれないと思った。倉庫に保管してある吉増さんの大量の蔵書をお見せすると目を丸くして驚いていた。水に濡れて波打った蔵書が、前野さんとの出会いを喜んで、心なし身をよじっていたように見えた。



書肆吉成
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第31回 猪熊良子さん 「移動の記憶」と本が結びつくひと

第31回 猪熊良子さん 「移動の記憶」と本が結びつくひと

南陀楼綾繁

 夏葉社、スタンド・ブックス、水窓出版、信陽堂など、いわゆる「ひとり出版社」と呼ばれる個人経営の版元の刊行物には、校正者として猪熊良子さんが関わっていることが多い。彼女は以前からの知り合いだが、版面から丁寧な仕事ぶりが伝わってくる。
「新しくはじめた出版社では、校閲についての意見をしっかり聞いてくださいます。どんな装丁になるのか楽しみですし、書店での売れ行きも気になります」と、猪熊さんは云う。

 1969年、高松生まれ。父は証券会社勤務で転勤が多く、猪熊さんは生後10か月で広島市に引っ越す。その後、小学3年生で沼津市、小学4年生で西宮市、中学3年で東京の文京区と引っ越しを繰り返す。
「両親の故郷が香川県なので、祖父母のいる高松には毎年帰省していました。丸亀町の〈宮脇書店〉本店や〈宮武書店〉で、よく本を買ってもらいました。大学生になって、古本屋の〈讃州堂書店〉にはじめて行きました」

 猪熊さんは一人っ子。父は映画、歌舞伎、落語が好きな趣味人で、家には本がたくさんあった。歴史書、ビジネス書、雑誌など何でも読み、「家では父が本を読んでいる姿しか覚えていません」。母は文学少女で、高校のときに〈高松書林〉でアルバイトをしていた。当時刊行がはじまった『世界の文学』(中央公論社)を1冊ずつ集めたという。いまはその本を猪熊さんが受け継いでいる。

 広島では、父の行きつけだった〈廣文館〉金座街本店で、本を買ってもらう。両親は、本に関しては好きなだけ買ってくれたという。
 幼稚園のとき、マルシャーク『森は生きている』(湯浅芳子訳、岩波書店)の表紙に描かれたロシアの少女の絵に惹かれて、買ってもらう。その頃から「子どもだましに思えて」絵本はほとんど読まず、文字の本を読んでいた。「判らない文字があったら辞書を引きなさい」と、母から三省堂の辞書をもらい、ヨレヨレになるまで何度もめくった。
 アレルギー体質だったこともあり、人が触った本は汚いと図書館には行かなかった。「自分で本を所有したいという気持ちもありましたね」。沼津に引っ越してから、友だちについて児童図書館に行ったが、借りるのに抵抗があり、そこで見つけた本を書店で取り寄せたりしていた。

 小学3年生ごろには、文字がいっぱい詰まった本を読みたくなり、父の書棚にあった五木寛之、山本周五郎などを読む。西宮に引っ越すと、大丸芦屋店の中の書店に父と毎週行った。「車で行って、いちどに20~30冊買うこともありました(笑)」。ここで平積みになっていた村上春樹『風の歌を聴け』を買う。その後、この作家の本は全部読んでいる。向田邦子はドラマも本も好きで、1981年に航空機事故で亡くなったときにはショックを受けたという。三宮や大阪の大型書店にも出かけている。

 中学では「あまり練習に出なくていい」と聞いて演劇部に入るが、文化祭で主役に抜擢されストレスを感じた。子どもの頃から腰痛、肩こり、頭痛があったが、脊柱側湾症(背骨が曲がる症状)と診断されたのもこの時期だ。その後ずっと、この病気と付き合って生きている。
 2年生のとき、近所の「寿市場」にあったボロボロで薄暗い小さな書店で、マッカラーズ『心は孤独な狩人』(河野一郎訳、新潮文庫)を買って読む。報われない愛を描いた小説で読むのが辛かったが、心に残る。それまで手当たり次第に読んできたが、今後はじっくり読もうと、新聞の書評を参考にしたり、父に聞いて本を選ぶようになる。

 1984年、文京区に引っ越す。いくつか引っ越し先の候補があったが、夏目漱石や森鷗外のゆかりの土地である千駄木に住みたいと主張し、そこに決まった。現在の森鷗外記念館の位置にあった鷗外記念図書館で、アガサ・クリスティーが並んでいるのを見つけ、片っ端から読む。
「神保町にも初めて行きましたが、古本はやはり埃っぽくて不潔だと思っていたので、新刊書店ばかり寄っていました。〈矢口書店〉で映画のパンフレットを探すぐらいです」
 高校に入ると映画にのめり込み、授業をサボって映画館に通う。『ぴあ』の情報を見て、マイナー映画の上映会にも行った。
 この頃は村上春樹ら同時代の作家を読んでいたが、父に神坂次郎の『縛られた巨人』を勧められて読み、南方熊楠に興味を持つ。
 映画に明け暮れ、受験勉強を何もしてなかったので3年になって焦る。
「神保町の〈三省堂書店〉に行って、他の本は見ないようにして、参考書コーナーに直行しました。参考書を選ぶのが楽しかった(笑)」
 その甲斐あって、青山学院大学の文学部日本文学科に入学。両親が転勤で東京を離れたため、護国寺の学生会館に入る。さまざまな大学に通う女子学生が200名ほどおり、仲良くなった子と本の貸し借りをするようになった。
「先のマッカラーズ『心は孤独な狩人』も誰かに貸して失くし、しかたなく神保町の古本屋で探しました」
 この頃もまだ古本へのアレルギーがあり、それが30代まで続くのだった。

 就職活動をするが決まらないでいるとき、新聞広告で文化学園文化出版局校閲部の募集を見つける。主婦のライフスタイルを綴った佐藤雅子『季節のうた』を出していた出版社だからと、受けてみる。面接ではこの本のことを話した。校閲のことは何も知らなかったが、文章の間違いを指摘する試験で褒められる。
 採用され、『MRハイファッション』『ハイファッション』などの雑誌を担当。「誤植が少なくて有名な出版社でしたが、私は失敗続きで何度か誤植を出してしまいました」。学生会館を出て一人暮らしをするが、給料は安く、本を買うお金もなかった。
「文化学園購買部で1割引きで本を買い、敷地内の大学図書館の本も借りました。新大塚に〈ノーベル文庫〉という貸本屋があり、そこで小説を借りました。あまりきれいな本じゃなかったけれど、しかたがない。貧乏が古い本へと向かわせたんです(笑)」
 4年半ほど勤め、雑誌以外の校閲もやってみたいとフリーランスの校正者になる。その後、文藝春秋の『オール讀物』『文學界』や単行本の校閲を手がけるように。車谷長吉や西村賢太などの私小説が好きで、彼らの作品のゲラを担当するのが嬉しかった。
 
 台東区池之端に引っ越した2010年、谷根千で開催されている「不忍ブックストリートの一箱古本市」の助っ人(ボランティア)に応募する。
「友人も少なく、引きこもって仕事をしてばかりの生活をなんとかしたくて参加しました」
 私が猪熊さんと最初に会ったのもこのときで、打ち上げの際に最後まで残って楽しそうに話していたのを覚えている。
 しかし、古本嫌いだったはずなんじゃ……?
「なんででしょうね(笑)。当時は千駄木にあった〈古書ほうろう〉が入りやすい店で、本がきれいだったこともあるかもしれません。その後、雑司ヶ谷の〈JUNGLE BOOKS〉のように、一箱古本市に出店した人が店舗を出したり、ほうろうから日暮里の〈古書信天翁〉が独立したりと、知り合いの古本屋が増えたことで、古本がさらに身近なものになりました。また、「わめぞ」(早稲田・目白・雑司ヶ谷で本のイベントを行うグループ)にも関わって、『古本好きに悪い人はいない』と判ったことも大きいです」
 地方の一箱古本市にも出向くようになり、仙台、盛岡、広島などの古書店を回るのが楽しみに。いまでは、旅行に行くときは古書店訪問をメインに据えるというから、大きな変化だ。
 仕事面にも影響があった。ほうろうのイベントで、夏葉社の島田潤一郎さんに会って、同社の本の校閲を担当したことから、小さな出版社での仕事が増えていった。 

 2019年8月、猪熊さんは神戸に部屋を借りて、東京との二拠点生活をはじめた。
「両親はいま高松に住んでいますが、高齢なので私が東京と高松を行き来する必要があります。その中間に落ち着ける場所がほしいと思ったんです。東京で引きこもって仕事をすることにも限界を感じていました。それで、神戸の春日野道の古い団地を借りたんです。古本屋で買った山本さほのマンガ『この町ではひとり』はこの街が舞台で、よく見ている風景が出てきます」
 月に2回程度、東京を離れて神戸で過ごす。新刊やミニコミも扱う元町の〈1003〉、沖縄に関する本を扱う岡本の〈まめ書房〉、六甲の〈口笛文庫〉などに行く。また、大阪や京都にも足を延ばし、本屋を覗く。
「やっぱり、明るくて埃っぽくない古本屋が好きですね。もっとも、二拠点生活をはじめて半年後に新型コロナウイルスが広まったので、まだあまり神戸を歩けていないのですが」
 故郷の高松にも、古本屋の〈なタ書〉〈YOMS〉や新刊書店〈本屋ルヌガンガ〉などができて、充実してきたと話す。

 子どもの頃から引っ越しをするたびに、増えた本を処分するのが習慣だったため、いまは手元にない本が多い。古本屋に行くのは、手放した本を探すためでもある。
「思い出のある本は持っていたいですね。あと、子どもの頃はまったく興味のなかった絵本を、古本屋で買うようになりました(笑)」
 神戸に住むようになって、子どもの頃の記憶を掘り起こしたいと、神戸の古い地図を探したりしている。「移動の記憶」と本が結びついているのだ。

 そんな猪熊さんが大事にしている一冊が、佐野英二郎『バスラーの白い空から』(青土社、1992)。10年ほど前、友人から「ぜったい好きだと思う」と勧められて読んだ。
「この本を読んでいると、どこかに埋もれている未知の書き手を探し出すことが編集者のもっとも重要な仕事だと思います。こんな文章を書く人がいたのかという驚きがありました。佐野英二郎さんは、文筆家ではなく商社員。この人の本は、亡くなられたあとに出されたこの一冊きりなんです。2019年に同じ版元から新装版が出ています」
 猪熊さんが積極的に小さい出版社の本の校閲をしているのも、「未知の書き手を探し出す」手伝いをしたいという思いからなのかもしれないと感じた。

 

 

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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札幌・一古書店主の歩み(試し読み)

札幌・一古書店主の歩み
弘南堂書店 高木庄治氏 聞き書き 創業前(一)

 昨年11月に刊行された『北の文庫』71号「古書専門弘南堂書店高木庄治氏聞き書き一~三」を、これから2年近くに亘って再録させて頂く。聞き書きは、元藤女子大学付属図書館司書大館光男氏、元北海道大学付属図書館司書藤島隆氏を中心に、古地図研究家で高木氏と親しい髙木崇世芝氏を加え、平成12年9月、13年7月、14年10月に収録された。今回B5判2段組を本誌の体裁に変更、また挿入の写真を新に製版、追加した。
なお、大館氏は本年2月8日に逝去された。この聞き書きは20年前の記録だが、昨年初めて刊行された。しかし小部数の為、今回敢えて高木、藤島氏の御了解を得て広く公開するものです。(編集部)

 少年時代・南陽堂書店の思い出
 私が生まれたのは昭和八年三月十二日ですね。南陽堂書店(一九二九(昭和四)年創業)は今の場所(札幌市北区北八条西五丁目)のちょうど隣り、現在の店の北隣りにあったんです。うちの親父(高木庄蔵・一九〇五(明治三八)年~一九六五(昭和四〇)年)に言わせますと、そこに夜逃げした料理屋さんがあって、その跡を親父が借りたらしいです。
 大家さんが今も南角にある坪田商店で、坪田さんは明治三十年代の後半からあった店だと思います。この辺りでは坪田さんと沢田さん(雑貨商・北九条西四丁目北大正門前)が古いんです。

 明治四十三年の札幌市の商工地図をこの間やっと手に入れましてね。以前一度手に入れて札幌市の図書館に寄贈したことがあるんですが。それに坪田さんと沢田さんが載っていました。その地図の北の方(現JR札幌駅(北六条西二~四丁目)以北)で僕が知っている店はその二軒だけです。
 親父はそれまで北七条西五丁目にいて、そこから引っ越して店を借り、本格的に古書店を始めました。非常に北大の学生さんにかわいがられて、店の前の真ん中に黒板の新入荷速報を置き、間口は今の店よりもちょっと大きかったんじゃないでしょうかね。平屋だったんですよ。

 それがこの写真です。この左隣りが今の店の場所です。この坂口という洋服屋が現在の南陽堂です。その右隣りが亀山と言ったか、標本屋さんで三階建てのちょっと洒落たサイロ造りの建物でして、現在フシマン商事というビルになっています。北七条の南陽堂の写真はあるのかどうか分かりません。
 新入荷速報の黒板は有名で、一週間に一度書き直していました。〈 店の写真を見ながら 〉ここがストック場で、こっちが店だと思いました。僕らが子供の頃はお客さんの間をくぐるようにして外から帰って来ました。

ある年、亀山さんの三階の屋根から雪が落ちてきました。昭和十二・三年頃かな。僕がまだ小学校に上がる前です。店の中にドーンと雪が、屋根をぶち抜いて入ってきて大騒ぎになりました。そんなこともあって、隣りの坂口さんが引越しされて店が売り物に出たときに、親父がそこへ、借家ではない初めての自分の店(家)として移るわけです。それが今の場所です。
 僕はそうですね、中学生の頃くらいから、何となくストック場の::。店員としておふくろの弟(相馬寿幸氏)が住み込みでいたんですよ。十幾つから入ってますけどね。今、横浜にいます。その他に砂川出身の住み込み店員も一人いました。

 当時は店というのは朝六時から起きたら掃除を始め、七時か八時にはもう完全に開いている状態でしたからね。夜は夜で十時くらいまでやりましたから。夜カーテンを閉めても電気は消さなかったものです、戦前は。私のところは消さなかったね。全部じゃないけれど。ほとんど店の中が明るくなった状態で夜通し点いていました。電気代というのは割合い安かったのではないでしょうか。昭和十四・五年頃までそうでしたね。裸電球でしたけど。

カーテンは白い木綿のカーテンでした。夜、店を閉めてからでも学生さんなどがよく戸をドンドンドンドン叩いて、「親父、イノシシ(旧十円紙幣の俗称・裏にイノシシの図があった)一枚貸してくれ」とかね。
 冬、店のストーブは石炭ストーブで、その上にやかんを乗せて、銚子をつけて酒の支度ができるようにしてありました。私ら子供は夜八時になったらもう「子供たちは早く寝なさい」と言われ、茶の間の隣の部屋で寝ました。その頃兄弟は四人いましたからね。

こちらの隣りに移った時にストックしてあった本を、店員さんが雑誌を=親父は雑誌が好きで坪田さんの隣りを借りて倉庫にしていましたが=当時の北大の先生は雑誌のバックナンバーを皆さんお持ちで、植物学雑誌や医学の雑誌を製本して並べてありました。そういう雑誌は教授室の部屋に、アクセサリーといえば悪いけれど置いてあるんですよ。また、そうした雑誌のバックナンバーはある程度の金額だったんです。先生が退職される際などにバックナンバーを買うことがよくありました。親父は同じタイトルでもAセット、Bセット、Cセットなどと随分持っていました。

 僕ら子供の頃に巌松堂の先代さん、波多野重太郎さんが、札幌へ来て、それを馬車に一台か二台買ってもらって大した大商いだったことがあるんですよ。その時のことははっきり覚えてます。それで何となくそういうような仕事をしているのを見たり、それから雑誌のカードを作って=南陽堂は早くからカードがありました=殆ど利用はしないんだけど、仕入れたものなどをカードに記入していました。見よう見まねで私も中学時代からするようになりました。

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2021年7月26日号 第327号

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☆INDEX☆
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1.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告
                 古本屋ツーリスト 小山力也
2.『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』
                      阪本博志
3.『社史・本の雑誌』 浜本茂

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━【古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告】━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期活動報告

               古本屋ツーリスト 小山力也

 新型コロナウィルスに相変わらず振り回されながら、あっという
間に今年も半分が過ぎ去ってしまった。世界中でワクチンの接種が
進み、パンデミックを抑え込む希望の光は見え始めているが、まだ
まだ遠い場所での、手に届かぬ輝きである。そんな状況での、あり
えないオリンピック開催に憤りながら、二度目・三度目の緊急事態
宣言にもめげず、個人が出来る感染対策を十分に施しながら、素敵
な古本を求めて、愛しい古本屋さんを工夫して巡る日々は、何とか
継続している。ただし三回目の緊急事態宣言発出時は、さすがに苦
しめられた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7131

小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている
場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・
ジャパン』管理人。「東京古書組合百年史」の『古本屋分布図』
担当。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、
大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。
「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━━【自著を語る(273)】━━━━━━━━

『大宅壮一文庫解体新書――雑誌図書館の全貌とその研究活用』

                        阪本博志

 立花隆氏が4月30日に亡くなっていたことが、6月23日に報じら
れた。7月9日発売の『文藝春秋』『中央公論』8月号には、追悼記
事が掲載されている。
よく知られているように、立花氏が『文藝春秋』1974年11月号に発
表した「田中角栄研究――その金脈と人脈」は、同年11月26日の辞
任表明につながった。
『出版ニュース』1974年12月下旬号「’74年出版界・読書界10大ニ
ュース」の第1位は、「『文藝春秋』11月号のヒット企画」である。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7134

『大宅壮一文庫解体新書 雑誌図書館の全貌とその研究活用』
阪本博志 編 勉誠出版 定価:3,850円 好評発売中!
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101210

━━━━━━━━━━━【自著を語る(274)】━━━━━━━━━

『社史・本の雑誌』

                      浜本 茂

 社史・記念史専門の自費出版会社(そんな会社があるんですね)
によると、社史制作五原則というのがあるそうで、その五つのポイ
ントさえ押さえておけば間違いなく読まれて面白い社史になるという。

 ちなみにその五原則というのは、
 一、経営史として書く
 一、主語は当社は
 一、社史の本体は文(ドキュメント)
 一、「内部向け」>「外部向け」であること
 一、「社史」とは「社」会貢献「史」

 の五つで、ようするに「当社は」を主語にして、社外よりも社内
向けの感覚で、いかにわが社が社会の役に立ってきたかを熱い思い
をもって、写真ではなく言葉で伝えるべく書かれた経営ドキュメン
ト、が面白い社史ということになるわけである。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=7138

『社史・本の雑誌』 本の雑誌編集部
本の雑誌社 定価6600円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114574.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『書物・印刷・本屋』藤本幸夫編
勉誠出版刊 定価:17,600円
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101221

『読む・打つ・書く』 三中信宏 著
東京大学出版会 税込3,080円 好評発売中!
http://www.utp.or.jp/book/b577413.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

7月~8月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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 次回は2021年8月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその327 2021.7.26

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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 新型コロナウィルスに相変わらず振り回されながら、あっという間に今年も半分が過ぎ去ってしまった。世界中でワクチンの接種が進み、パンデミックを抑え込む希望の光は見え始めているが、まだまだ遠い場所での、手に届かぬ輝きである。そんな状況での、ありえないオリンピック開催に憤りながら、二度目・三度目の緊急事態宣言にもめげず、個人が出来る感染対策を十分に施しながら、素敵な古本を求めて、愛しい古本屋さんを工夫して巡る日々は、何とか継続している。ただし三回目の緊急事態宣言発出時は、さすがに苦しめられた。何故か古本屋にも東京都から休業要請が出されたため、東京では多くのお店が制限が緩和されるまでの一ヶ月ほど、休業に入ってしまったのだ。馴染みのお店のシャッターが閉じられ、そこに貼られた『臨時休業のお知らせ』の紙を、どのくらい目にしたことか……それはまるで“禁古本屋法時代”に迷い込んでしまったような、切なく乏しい一ヶ月……だが、砂漠の中のオアシスのように、それでも開けてくれている貴重なお店をトボトボ伝い、古本と言う名の命の露を必死に啜り、どうにか乗り切ることが出来たのであった。こんなことがいつまで続くのだろうか。またもや七月に入ってから緊急事態宣言が出されてしまった。そして愚挙と声を大にして言えるパンデミック下での東京オリンピック開催…これらが一介の古本屋ツーリストにどんな影響を及ぼすのか、その月日を乗り越えなければ、行く末はわからない。だが、これまで暮らして来た生活の中に、この継続する過酷な事態を乗り越えるヒントが、もしかしたら潜んでいるかもしれない。それに気付くために、一月からの古本屋行動を急ぎ足で振り返ってみる…。

 一月、去年同様、中央線の中野〜武蔵小金井間で古本を買い漁る日々が続いている。特に一月八日の二度目の緊急事態宣言発出以降は、主に高円寺〜吉祥寺間を頼みにすることが多くなった。そんな最中に、武蔵境の「浩仁堂」が店売りを辞めることを知り、大泉学園の名店「ポラン書房」閉店一割引セールに駆け付けたりした。二月は、いつでも開けてくれている上井草の「井草ワニ園」で童心社のヨセフ・チャペック「こいぬとこねこはゆかいななかま」を800円で、沼袋の「天野書店」で河出書房新社「霧と影/水上勉」の献呈署名入りを千円で買ったり、荻窪の「古書ワルツ」でカバーナシだがポプラ社の少女探偵小説「流れ星の歌/西條八十」を330円で見つけたり、都立家政の「ブックマート」で國民文藝社「溺れる川/窪田空穂」の歌入り署名本を330円で掘り出したりと、意外なほどの掘り出し物当たり月に。神保町では「大島書店」の跡地に入った「光和書房」の店頭の古書の充実に瞠目したり、白山通りの古本もちょっと扱っていた「東西堂書店」の『閉店の原因は、新刊書店業界の長期低落と新型コロナウィルスです』の閉店の貼紙に涙する。

また国立では老舗の、街の小さなランドマークでもあった洋古書専門店「銀杏書房」が閉店。同時期に同国立の「みちくさ書店」が、駅裏手の『国立デパート』内に移転する。三月も奮闘してなかなか良い本を見つけており、荻窪「竹中書店」で徳間書店「ミステリー 戦艦金剛/蒼社廉三」とアルス「槐多の歌へる/村山槐多」(函ナシ、大正九年初版)をともに200円で買えたのは奇跡であった。また吉祥寺には「あぷりこっとつりー」という絵本の古本を扱うお店が出現し、阿佐ヶ谷でも古着屋なのに知的な読了本を店先に並べる「雑踏」というお店が、小さいながらも近辺古本屋ルートに新たな選択肢を増やしてくれた。三月二十八日に緊急事態宣言が解除され、その直後に吉祥寺に「古本のんき」が誕生。これで吉祥寺古本屋ルートの駅南側が、キレイな半円を描くことになった。四月、荻窪に「中央線書店」が出来ているのを、たまたま車窓から発見。

今は店頭に100〜500円棚を出しているだけだが、秋くらいには店売りも始めるらしい。そして出来たばかりの「古本のんき」で春陽堂探偵双書「不連続殺人事件/坂口安吾」を千円で見つけたり、函ナシの日本評論社「勞働詩集 どん底で歌ふ/根本正吉・伊藤公敬」を千五百円で手にしたりと、一気に当店のファンとなる体験が連続。そんなことでウハウハ喜んでいると、本郷古本屋街とば口の老舗「大学堂書店」が閉店することを知り、ビル奥のロケーションが素敵だったお店に別れを告げに行く。そして四月二十五日には三度目の緊急事態宣言が発出。都下の多くの古本屋さんが休業に入ってしまう。“禁古本屋法時代”の到来である。そうして迎えた五月も、それでも開けてくれているお店を求め、街を彷徨う。そんな厳しい状況下で、下北沢「ほん吉」で櫻木書房「日米對譯 映画劇」(函ナシ)に330円で出会えたのは、古本の神が与えてくれた哀れみの慰めか。高円寺ではバンドマンが酔っ払いながら開いていた「おもしろ古本市」に偶然出くわし、角川文庫のレア本「流砂/ビクトリア・ホルツ」を二冊も500円で買えてしまったのは、古本の神がニヤリと微笑んでくれたおかげだろうか。さらにその高円寺では、元クリーニング屋さんが蔵書を並べて古本屋と化した「クリーニングまるや店」が出現。

だが、そんな風にどうにかヨロヨロと古本ライフを楽しみながらも、神保町に赴いてみたら、開いているお店が二十店弱…世界に誇る本の街が、さすがにこの状態はかなり寂しい、とショックを受ける。六月、緊急事態宣言は続くが、規制が緩和され、多くの古本屋さんも休業トンネルから脱出。開き始めたお店をあちこち挨拶するように巡りながらも、代田橋駅前の小さなお店「バックパックブックス」の開店を目撃したり、高円寺の変わり種店「アニマル洋子」の建物の解体に伴う閉店を悲しむなどする。この月一番の掘出し物は、吉祥寺「古本センター」で80円で買った千代田書院「決定版 祇園小唄/長田幹彦」(函付き、献呈署名入り)であった。

 ……うぅむ、ここまで書いて、何がヒントかまるで閃かない。ただ古本屋に行って古本を買っているだけではないか…まぁ、とにかくいつワクチンを接種出来るのかわからぬが、引き続き感染対策を施し、もはや己にとって性で呪いで福音でもある、古本屋さん探索に血道を上げてゆくことにしよう。江古田に出来た「snowdorop」にもいまだに行けてないし、池袋に移転した「コ本や」や、南足柄に移転した「中島古書店」、神保町すずらん通りに移転した「永森書店」、神保町に新しく出来た「NAGA」、伊勢原の「おほりばた文庫鐙堂」にも行かなけりゃならないんだ!新型コロナとそれに伴う強制型環境に、負けてなるものか!




小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。「東京古書組合百年史」の『古本屋分布図』担当。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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honshashi

『社史・本の雑誌』

『社史・本の雑誌』

浜本茂

 社史・記念史専門の自費出版会社(そんな会社があるんですね)によると、社史制作五原則というのがあるそうで、その五つのポイントさえ押さえておけば間違いなく読まれて面白い社史になるという。

ちなみにその五原則というのは、
一、経営史として書く
一、主語は当社は
一、社史の本体は文(ドキュメント)
一、「内部向け」>「外部向け」であること
一、「社史」とは「社」会貢献「史」
の五つで、ようするに「当社は」を主語にして、社外よりも社内向けの感覚で、いかにわが社が社会の役に立ってきたかを熱い思いをもって、写真ではなく言葉で伝えるべく書かれた経営ドキュメント、が面白い社史ということになるわけである。

なるほど、そうだったのか!
と思ったのはわけがある。実は「当社」もこの六月末に社史を刊行したのである。その名も『社史・本の雑誌』。「社史1」「付録2」からなる二分冊の箱入りで四六判厚さ五十五ミリ! グレーの箱に空いた窓から茶色の表紙がきりりと覗く、本の雑誌創刊四十五周年記念にふさわしい造本・装丁の大部なのである、と言ってしまおう。
しかしてその実態は。

何を隠そう「社史1」、つまり社史本編は『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』のカップリング。ご存じない方がいるかもしれないので、念のため説明すると『本の雑誌風雲録』は本の雑誌初代発行人の目黒考二が本の雑誌十周年を記念して書き下ろした本の雑誌社配本部隊十年のドキュメントであり、『本の雑誌血風録』は本の雑誌二代目編集長(創刊号のみ目黒が編集兼発行人だった)椎名誠が一九九六年の一年間「週刊朝日」に連載した超零細企業実録小説である。『風雲録』は一九八五年に本の雑誌社(「当社」ですね)から単行本が刊行。九八年に角川文庫化され、二〇〇八年には書下ろし+書籍未収録原稿九十枚を加えた「新装改訂版」がやはり当社から刊行。『血風録』は九七年に朝日新聞社から単行本として刊行されたうえ、二〇〇〇年に朝日文庫化、二〇〇二年には新潮文庫にもなっている。言ってみればどちらも相当数の読者に読まれてきた作品だ。だいたいドキュメントである『風雲録』はまだしも、『血風録』は実録小説である。これを「社史」と言っていいのか!?

よかったのである。冒頭の社史制作五原則に照らし合わせてみると、『風雲録』も『血風録』もともに経営者(ふたりとも取締役だった)の視点で会社の歴史を書いたものであり、もちろん文章がメイン。内部向けの内幕もので、本人たちが意識しているかどうかは別にして、エンタメ書評を確立して出版界に貢献した本の雑誌の立ち位置が熱く描かれている(本当です)。主語こそ「ぼく」だが、目黒も椎名も本の雑誌を自分たちの子どものように大事に育てていこうと慈しんでいたくらいだから、「当社」と「ぼく」は一蓮托生、一心同体と言っていい。まさに五原則にそった理想の社史だったのだ。
しかも初版刊行からそれぞれ三十六年、二十四年が経ち、残念なことにどちらの文庫も品切れになっている。本の雑誌創刊四十五周年だというのに、初期の本の雑誌史を伝えるこの歴史的名著二作を読めないままにしておいては本の雑誌社の名がすたる!

という次第で『本の雑誌風雲録』と『本の雑誌血風録』を合本にして、本の雑誌社の社史として世に問うことにしたのだが、前述したとおり、どちらも文庫にまでなっているわけで、合本だけでは「全部読んじゃってるよ~」という人もいるだろう。そこで「付録2」として「付録本の雑誌」を用意することにした。「付録」には本の雑誌創刊号から最新号までの全表紙と「和田誠カバー劇場」「和田誠装丁劇場」をカラーで収録。椎名、目黒、沢野ひとし、木村晋介、浜本茂の書下ろし「本の雑誌の45年」のほか、ベテラン編、同期入社編の社員座談会が二本、さらに節目節目の対談や原稿、秘蔵写真集に年譜までを収め、合本では描かれなかったその後のエピソードを網羅。社史としての体裁を整えた(と思っている)のである。

『社史・本の雑誌』の刊行によって、当社が、まあ、いつか消えた出版社となったとしても、本の雑誌社の歴史は購入してくれた人の本棚や図書館(少なくとも社史コレクションがある神奈川県立川崎図書館には置いてほしい)の書架に長く残るに違いない。社史こそ歴史なのである。そして箱の背に記された「無理をしない 頭を下げない 威張らない」の本の雑誌社社是が、その前を通る人々の目に止まり、なんだ、これ?と笑ってもらえたら、こんなにうれしいことはない。

honshashi
『社史・本の雑誌』 本の雑誌編集部
本の雑誌社 定価6600円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114574.html

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