第26回 藤田加奈子さん 戸板康二を愛でるひと南陀楼綾繁 |
もう20年近く前のこと。当時、『季刊・本とコンピュータ』の編集スタッフだった私は、仕事場にいるときに暇ができると、思いついた言葉を検索していた。そうやって見つけたサイトは聞いたこともない古書の図版を載せていたり、マイナーなテーマの研究成果を発表したりしていた。 藤田加奈子さんによる「戸板康二ダイジェスト」もそのひとつだった。演劇評論家にして小説家、エッセイストの戸板康二について、さまざまな角度から光を当てていた。私も中村雅楽ものの推理小説や人物エッセイは好きだったが、戸板康二自身のことは何も知らなかった。だから、ひとつひとつの記事やデータが面白かった。 サイトの中にあった「日日雑記」は、日々の古本屋通いや映画館で見た作品などを記しており、私自身の興味に重なるところがあった。当時、女性が古本について書いた文章は、雑誌でもウェブでもまだ少なかった。2003年からは「日用帳」という名前でブログとなり、文章の量も増えた。のちにご本人にお会いしたとき、饒舌ぶりがブログそのままで笑ってしまった。 「ナンダロウさん、久しぶりですね!」と、藤田さんは相変わらず饒舌だった。乗ってくると早口になるので、メモが追いつかない。しばしば制止しながら、話を聞いた。 はじめて古本屋に行ったのは、高校生のとき。学校帰りに吉祥寺や三鷹の古本屋に寄った。 卒業後、仕事が決まらなかった時期に、藤田さんは趣味の世界に入り込む。 1990年代末から2000年代の頭にかけては、出版メディアにおける「古本ブーム」が起こっていた。古書業界としてはバブルの時期から売り上げが後退し、デパートでの即売会も終了するところが増えた。そんな時期だからこそ、むしろ注目が集まったと云えるだろう。唐澤俊一や岡崎武志、坪内祐三らの古本エッセイ、月の輪書林をはじめとする古書店主の本などが、晶文社などから次々刊行され、活気があった。古本屋を特集する雑誌やムックも出た。その空気が、藤田さんの古本好きを加速させたのだろう。 藤田さんは1998年頃からウェブで日記を書いていたが、2002年にはサイト「戸板康二ダイジェスト」を開設。自分用のメモのつもりで、戸板の著書やプロフィールなどをまとめた。翌年にはブログ「日用帳」をスタートし、古本屋めぐりや買った本について書く。これが注目され、2004年には『ブッキッシュ』第6号の特集「戸板康二への招待」に、戸板康二ブックガイドを寄稿した。 即売会はよく行くが、2014年に〈奥村書店〉が閉店して以来、店舗に足を運ぶことが少なくなった。ただ、関西に旅行に行くと、古本屋をめぐる。
藤田さんのブログ http://www.ne.jp/asahi/toita/yasuji/ 南陀楼綾繁
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2021年2月25日号 第317号
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☆INDEX☆
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1.『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自
2.『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄
3.『日本の医療崩壊をくい止める』 本田宏
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━━━━━━━━━━━━【自著を語る(258)】━━━━━━━━
『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』
八木正自
私は半世紀に亘る古書業で古典籍を商品として扱ってきたのであ
って、研究者として向き合ってきたのではない。しかし、日常的に
かなり多くの古典籍の現物を手にしていると、よくも長い時を経て
今まで生き延びて来たものだ。その文字、紙、墨によってどのよう
に制作されたのか、内容やその成り立ちについての奥深さを知りた
い、という欲求が起こる。
続きはこちら
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『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自 著
平凡社 本体:860円+税 好評発売中!
https://www.heibonsha.co.jp/book/b482403.html
━━━━━━━━━━━【自著を語る(259)】━━━━━━━━━
『近代出版史探索Ⅴ』
小田光雄
『近代出版史探索』は短編連作のかたちで書き継がれ、2019年に
第1巻、20年に第2巻から第5巻までが続けて出され、ようやく1001話
に達した。この連載は2009年に始めているので、12年を閲したこと
になる。
拙ブログ連載タイトルは「古本夜話」で、確かに毎回古本屋で購
入した本を取り上げ、それに関する様々な事柄を記述していくスタ
イルをとっている。そのためによくある古本エッセイかと思われる
かもしれないが、もちろんそのように読まれてもかまわないけれど、
いくつもの問題設定と目的を内包させ、書き続けてきたのである。
続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6709
『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄 著
論創社刊 価格 6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/
━━━━━━━━━━━【自著を語る(260)】━━━━━━━━━
『日本の医療崩壊をくい止める』
NPO法人医療制度研究会副理事長 本田 宏
2020年は新型コロナ感染一色の年となりましたが、1年経った現
在は第三波による医療崩壊の危機が叫ばれています。
昨年6月には麻生太郎副総理兼財務相が、日本は新型コロナ感染
による死者数が欧米より少ない「民度が違う」と答弁し、Go To
トラベルキャンペーンが開始されました。しかし多くの医療関係者
が懸念した通り感染者が年末にかけて激増、2021年1月には日本医
師会の中川俊男会長が「すでに医療は崩壊している」と記者会見
で述べる事態となりました。
続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6697
『日本の医療崩壊をくい止める』 本田宏・和田秀子 著
泉町書房 本体価格:1,900円 好評発売中!
https://izumimachibooks.com/book/9784910457000/
━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━
『戦前尖端語辞典』平山亜佐子著
左右社刊 定価:1,800円+税 好評発売中!
http://sayusha.com/
『自由律俳句と詩人の俳句』樽見 博 著
文学通信刊 定価:2,700円(税別) 3月上旬刊行予定
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-50-0.html
映画 ブックセラーズ 4月23日公開予定
世界最大のニューヨークブックフェアの裏側から見る
本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーの世界。
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━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━
2月~3月の即売展情報
※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
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日本の古本屋メールマガジンその317 2021.2.25
【発行】
東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
URL http://www.kosho.or.jp/
【発行者】
広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎
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『日本の医療崩壊をくい止める』
『日本の医療崩壊をくい止める』NPO法人医療制度研究会副理事長 本田 宏 |
2020年は新型コロナ感染一色の年となりましたが、1年経った現在は第三波による医療崩壊の危機が叫ばれています。
昨年6月には麻生太郎副総理兼財務相が、日本は新型コロナ感染による死者数が欧米より少ない「民度が違う」と答弁し、Go To トラベルキャンペーンが開始されました。しかし多くの医療関係者が懸念した通り感染者が年末にかけて激増、2021年1月には日本医師会の中川俊男会長が「すでに医療は崩壊している」と記者会見で述べる事態となりました。しかしなぜ海外よりベッド数が多い日本で、感染者は少ないのに医療が崩壊したのでしょうか。残念ながら納得できる説明は今のところなされていません。 少ないのは医師だけでなく看護師も同様で、医師も看護師も少ないために、一般のベッド数は確かに多いものの、重症者を診るベッド(ICU)数は先進国最低レベルでした。そのため重症者が増加した年末から新年にかけて病院の受け入れ態勢は一杯となって、新型コロナ以外のがんや救急患者さんの治療にも支障が出るようになったのです。これが日本の医療崩壊の実体です。 私は1979年に弘前大学医学部を卒業し、移植外科医を目指して東京女子医大に移籍しましたが、1989年から埼玉県の北端に新設された恩賜財団済生会栗橋病院の外科部長として赴任し、同地で四半世紀勤務しました。当初は急性期中核病院の外科部長として24時間365日病院からの呼び出しに応えて働いていましたが、1990年代に全国で医療事故やたらい回し(受け入れ不能)が頻発して社会問題化した時に、その背景にある先進国最低の医師不足と医療費の実態を知ったのです。 患者さんに安全で質の高い医療を提供するためには、多くの国民に日本の医療の真実を知ってもらわなければと、2002年の朝日新聞投稿を皮切りに、2006年にはNHKの「日本のこれから」に出演、2007年には「誰が日本の医療を殺すのか」(洋泉社)、2009年に「医療崩壊のウソとホント」(PHP研究所)を上梓しましたが、一向に日本の医療政策が改善される様子はありません。 本書はそのような私の活動を知った泉町書房の斎藤信吾さんとライターの和田秀子さんの絶大な協力をえてできた渾身の一冊です。私自身の経験に加えて北海道士別地域の危機的な医療体制、家族を過労死で亡くした家族の苦悩とその後、さらに新型コロナ禍にも関わらず進められようとしている全国400以上の公立・公的病院独法化や都立病院独法化問題、OECDより13万人医師不足を無視して厚労省が23年度からの医学部定員削減を強行しようとしていること・・、是非皆さんに知って頂きたい医療崩壊の現実が明らかにされています。 欧米より少ない患者数で、日本の医療が崩壊した根本原因は、政府の医療費抑制策ですが、日本の政府は明治時代から財政赤字を理由に公的病院を潰してきました。そして戦後もオイルショックを機に「医療費亡国論」を国策として、医学部定員削減と診療報酬点数(公定価格)を抑制して、先進国一高齢化社会なのに、医師数も医療費も先進国最低となってしまいました。そのため公立だけでなく民間病院も含めて多くの医療機関は赤字ギリギリの経営に苦しんでいたのです。そこを襲ったのが新型コロナウイルスでした。 新型コロナ感染もいつかは収束するでしょう。しかし歴史を振り返れば、必ず・必ず新しい感染症が人類を襲っています。しかし本書で現実を知った国民が声を上げなければ、わが国は新型コロナ禍による財政赤字を理由に、さらなる医療費抑制と患者窓口負担増、そして医学部定員削減を断行すると思います。
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『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』
『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』八木正自 |
私は半世紀に亘る古書業で古典籍を商品として扱ってきたのであって、研究者として向き合ってきたのではない。しかし、日常的にかなり多くの古典籍の現物を手にしていると、よくも長い時を経て今まで生き延びて来たものだ。その文字、紙、墨によってどのように制作されたのか、内容やその成り立ちについての奥深さを知りたい、という欲求が起こる。
それで本書の「むすびに」で、「私の現在の生き方は、古書の営業に50パーセント、調査・研究・執筆に50パーセントという時間配分である」と書いたのだが、業者市で首尾よく入手して、事務所でその古典籍と向き合い、諸参考文献を捲り真偽や価値を調べるときが無上の悦楽の時間なのである。その成果を月刊誌『日本古書通信』の「Bibliotheca Japonica」という欄に23年間書き続けてきた。主な分野は、日本と西洋との交流史原典、原史料なのだが、和洋の古典籍も含まれる。それらの稿からいくつかを選んで、文を改め、加筆し、また新稿も加え本書を編集した。 私は工学部出身なのだが、大学卒業間近に進路を変更して文科系の古書籍業に足を踏み入れた。父が日本橋の丸善に長く勤務していて、家中本だらけ、という環境も大きな影響を与えた。それで卒業後、四谷の雄松堂書店に入り、洋古書の世界にどっぷりと浸かり、その神髄にも触れることが出来た。 5年間在職の後に独立して、古書の安土堂書店を創業。店舗無しで目録販売を中心として営業してきた。独立してから最初に知り合ったのが、終生の師となる弘文荘の反町茂雄氏。反町氏は東大を卒業後、神田の一誠堂書店に就職。昭和2~7年在職して弘文荘を創業。店舗無しで、目録販売の営業形態。戦前戦後を通じて、諸名家や旧華族などから奔流した貴重古典籍・古文書を的確に評価して、公共機関やコレクターに販売、貴重書の再配分に寄与した。そのような古書業界の重鎮に声を掛けられて、自分の営業は続けながら、言わば書生のような日々を送った。 また、昭和年代・平成初めはまだ私立大学のオーナー学長・理事長がいる時代で、鶴の一声で大学図書館に貴重書を収蔵する機運が旺盛であった。そのような張り合いがあるからこそ海外に出向き、洋古書や日本の古典籍を里帰りさせるという営業が成り立っていた。 フランシスコ・ザヴィエル書簡の入手秘話、アムステルダム駅で北斎版画を盗まれた話、川原慶賀「出島図」発見の経緯、捨てられる運命であった紙くずの中から発見した日本最古のかわら版「大坂冬之陣図」、奈良時代初期の「長屋王願経」断簡、国宝である『南海寄帰内法伝』の僚巻断簡、最古の長崎版画『紅毛本国船之図』、シーボルトの秘密出版『薬品応手録』、伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』の原図、後白河法皇の『梁塵秘抄』、甘藷先生青木昆陽自筆の『国家食貨略』、吉田松陰自筆「野山獄文稿」断簡、姉乙女宛の坂本龍馬自筆書簡、明治4年米欧使節岩倉具視宛の明治天皇「勅旨」、ベルリンのオークションに出た長崎発シーボルトの手紙、フィルモア大統領のペリー提督日本遠征命令書、などの貴重文献、文書、書簡の入手秘話。最後に「世界的に評価の高い日本の古典籍とその蒐集」と題して、如何に日本の古典籍は世界的に評価が高いのか、なぜ歴代の為政者や財閥はそれらの蒐集に邁進していたのか、現代にあってもまだ貴重古典籍は市場に浮遊しているので、それらにもっと関心を持ってもらいたい、それを扱う古書業者も絶えずに継承してもらいたい、ということを述べた。
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『近代出版史探索Ⅴ』
『近代出版史探索Ⅴ』小田光雄 |
『近代出版史探索』は短編連作のかたちで書き継がれ、2019年に第1巻、20年に第2巻から第5巻までが続けて出され、ようやく1001話に達した。この連載は2009年に始めているので、12年を閲したことになる。 拙ブログ連載タイトルは「古本夜話」で、確かに毎回古本屋で購入した本を取り上げ、それに関する様々な事柄を記述していくスタイルをとっている。そのためによくある古本エッセイかと思われるかもしれないが、もちろんそのように読まれてもかまわないけれど、いくつもの問題設定と目的を内包させ、書き続けてきたのである。それは前著『古本屋散策』のタイトルと内容に差異が生じていることとも共通していよう。 そうした問題設定と目的に関しては各巻の本文や「あとがき」で、様々にふれてきているが、第5巻刊行に際し、このような多くの読者に配信されるメールマガジンに書く機会を得たこともあり、それらを具体的に挙げてみる。 *出版業界総体をテーマとする。それは作者(著者)・出版社(経営、編集、営業)・取次(流通)・書店(販売)・読者がトータルな対象となる。 とりあえず「千一夜」を迎えたし、第5巻の刊行に合わせて告白すれば、この探索シリーズの試みは、ベンヤミンの『パサージュ論』を範として続けられてきた。ここではパリのパサージュならぬ、日本の出版業界総体が対象となり、近代の商品としての出版物が生み出す幻想の中に、近代日本がイメージした集団の夢と神話の探究を目的としている。 近代日本のイメージ造型は西洋と東洋のせめぎ合いの中で、出版物を通じて形成されていった。テレビもない戦前の世界にあって、雑誌や書籍が果たした役割は想像以上に大きく、それは大東亜戦争へと導いていく一端を担っていた。現在からみれば、それもベンヤミンのいうところの幻影・幻像空間(フアタンスマゴリー)のようでもある。 それらの根源と痕跡をたどるために、アトランダムな古本の集書を絶え間なく繰り返し、まさに遊歩者(フラヌール)のように近代出版史を遡行し、それらの内容を記録し、引用し、時代との関係、出版に至る経緯と事情を追跡し、その分野のトータルな集積となることもめざしてきた。 大風呂敷を広げて、本当に恐縮だが、「千一夜」を迎えての妄言として、ご海容願えれば幸いである。そのようなわけで、『近代出版史探索』シリーズは出版、文学、思想史もしくは広範な文化史の読み直しをめざし、現在でも続いている。少部数のために高定価で心苦しいこともあり、図書館にリクエストして、読んでもらえればと思う。 出版・読書メモランダム 『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄 著 |
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古書組合の役割と古書業界の仕組み その5
古書組合の役割と古書業界の仕組み その5高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長) |
メルマガ読者の皆様、年明け早々に一都二府七県にコロナ対応の緊急事態宣言が再び発出され、不自由な生活を強いられていることと存じます。世界中が未曽有の災厄に見舞われている現在、力を合わせて乗り越えていくより他はありません。
さて、今回は古書の交換会(市場)についてお話ししたいと思います。以前も若干触れましたが、もう少し詳しくご紹介したいと思います。古書組合の交換会(市場)は、古物営業法という法律の下、警察の公安委員会から市場許可を受けなければ開催することができません。その上、市場は古物許可証を受けた組合員しか参加できませんので、市場の様子は一般の読者の皆さんの目に触れることはほとんどありません。これまではせいぜいマスコミの写真やテレビ映像でしか公開されていませんので、市場の様子は一般に知られていないのが実状です。当事者としては、別に秘密裏に開催しているわけではなく、法律の立て付けがそうなっている結果です。今後、築地の魚市場のように見学コースでもあれば、一般の方も古書の市場を見る機会ができるかもしれませんが、実際の市会運営は地味で絵になりませんからあまり面白くはありません。しかし、見学させるとなれば、市会運営者もオークション等の市場開催方法を工夫するかもしれません。 古書の交換会には、大別して二つの方法があります。一つは振り市方式、今一つは入札方式です。この入札方式には、置き入札方式と廻し入札方式がありますが、最近ではネット入札方式もあります。 振り市方式は最も古い形態ですが、振り手(中座と言います)を中心に買い手が車座になり、本を見ながら声を出して落ち値を競っていく方式です。声を出して落ち値を決めていくので、本の相場を憶えやすく、また落札業者の店名も分かるうえ、その業者の扱い分野や特徴も知りやすいので、とても有効な方式ですが、出品物がすべて終わるまで市会参加業者を長時間拘束してしまうこと、新参者には声が出しづらいことなどのマイナス面もあります。 また、これは五十年以上前に行われた市会方式ですが、古典籍を扱う市会では腕伏せ式と言って、自店専用のお椀のふたの中に墨で希望する落ち値を書き、それを中座に伏せ返し、最高値を書いた人に落札するという方式をとっていました。これは振り市と入札市を合わせたような中間的な方式ですが、現在では採用されず過去の歴史的な市会開催方法です。 一方、置き入札方式は、当日の出品本を事前に机に並べ書名と口数を書いた封筒を付けて置き、業者が落札したい金額を入札用紙に書いて封筒に入れ、決められた締切り時間に市会担当者が開札し、最高値を書いた人に落札するという方式です。この方式は入札が済めばその場に居る必要はなく、落札は後から確認すればよいので、今日ではほとんどこの置き入札方式が市会運営で採用されています。この置き入札市会には、出品物(古書)の最低価格が決められており、安価な場合は本口(束)にして最低価格を満たすようにします。また、出品者がこの値段以下では売りたくないという場合は、止め値を事前に入札封筒に入れておくこともできます。一方、入札者にも取り決めがあり、入札金額の何千円以上は2枚札、1万円以上は3枚札、10万円以上は4枚札、50万円以上、100万円以上、500万円以上、1000万円以上8枚札と順に決められています。この何枚札という言い方ですが、これは入札札の枚数のことではなく、例えば、1万円以上であれば落ち値額を3通り書けるということで、1000万円以上は8通りの希望金額が一枚の入札用紙に書けるということです。開札の後、市会担当者が出品物の封筒に落札金額と落札者を記入し、その落札封筒を基に各店の買上伝票が作成され、清算につなげていきます。 また、廻し入札方式は参加業者がコの字型に並べたテーブル席に座り、担当者が入札封筒のついた出品本を順次荷出し、その本を各業者が値踏み、希望値を書いて入札封筒に入れます。古書が順送りで移動していき、最後に市会担当者が封筒を開札し、書名と落札者と落ち値をその場で発声するという開催方法です。入札札の規定は置き入札と同一で、買上伝票の作成も同様に行います。置き入札は出品本の周りを人が回りますが、廻し入札は出品本が移動します。この方式を採用しているのは、東京古典会という古典籍を扱う市会です。やはり、参加業者を開札終了まで拘束してしまいますが、その場の雰囲気、落札値や落札者が即座に分かるので、高額本を扱う市会としては有効な開催方法として現在も継続しています。 |
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2021年1月25日号 第315号
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1.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告
古本屋ツアーインジャパン 小山力也
2.「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」 高橋輝次
3.『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』
白戸満喜子
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━━━━━━━━━【古本屋ツアーインジャパン】━━━━━━━
古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告
古本屋ツーリスト 小山力也
2020年という、昭和生まれにとっては昔に夢見た、もはや遥か未
来の世界に突入している時代に、まさかこんな世界的規模の災禍に
見舞われようとは、いったい誰が想像したであろうか。謎の新型コ
ロナウィルスが出現し、パンデミックをひき起こしてから、すでに
一年以上が経過しているが、いまだ終息に向かう気配はない。我々
はただ、感染予防対策を地道に施し、ワクチンの完成&接種か、集
団免疫の獲得を待つことしかできないのである。
続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6599
小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売ってい
る場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン
・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚
で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑
誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/
━━━━━━━━━━━【自著を語る(256)】━━━━━━━━━
「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」
高橋輝次
本欄への登場は今回で三度目。大へん光栄ですが、あがり症なので
毎回緊張します。
本書は主に、コロナの緊急事態宣言の期間中に集中して書いたもの
である。その意味で、交流のある書友の先生が伝えて下さったよう
に、コロナ禍の中での一古本者のささやかな〝記録集〟と言えるか
もしれない。
続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6602
『古本愛好者の読書日録』 高橋輝次 著
論創社刊 定価:1800円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/
━━━━━━━━━━━【自著を語る(257)】━━━━━━━━━
そこに古書があるから―『書誌学入門ノベル!
書医あづさの手控(クロニクル)』
白戸満喜子
日本古書通信社の折付(村上)桂子さんから「古書店も世代が変
わってきているし、『日本古書通信』に若い人向けの内容を増やし
たい」というお話を伺った。学習院女子大学の司書課程で図書・図
書館史という科目を担当し、余談を話す時間もなく、ひたすら覚え
てほしい用語や事項の解説しかできていなかったため、副読本的な
読み物があればと思っていた時期のことである。渡りに舟で折付さ
んと企画を練り始めたのが10年以上前だった。
続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6595
『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』
白戸満喜子 著
文学通信 定価:本体1,800円(税別) 好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-41-8.html
━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━
『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自 著
平凡社 本体:860円+税 好評発売中!
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『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄 著
論創社刊 価格 6,000円+税 好評発売中!
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━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━
1月~2月の即売展情報
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即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
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日本の古本屋メールマガジンその315 2021.1.25
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【発行者】
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編集長:藤原栄志郎
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そこに古書があるから―『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控(クロニクル)』
そこに古書があるから―『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控(クロニクル)』白戸満喜子 |
日本古書通信社の折付(村上)桂子さんから「古書店も世代が変わってきているし、『日本古書通信』に若い人向けの内容を増やしたい」というお話を伺った。学習院女子大学の司書課程で図書・図書館史という科目を担当し、余談を話す時間もなく、ひたすら覚えてほしい用語や事項の解説しかできていなかったため、副読本的な読み物があればと思っていた時期のことである。渡りに舟で折付さんと企画を練り始めたのが10年以上前だった。
主人公を大学生の双子にする、実際には存在しない「書医」という古典籍をなおす職人の世界を描く、ということで第1話がスタートした。『日本古書通信』に小説が掲載されるのはかつてない試みで、正直なところ長年定期購読していらっしゃる常連読者の方々がどのように反応なさるか怖かった。『日本古書通信』には何度も記事を投稿しているので、ここはペンネームで発表しようと思いつき、多久角星芳名義で連載した。(多久角は本名の白にかかる枕詞「たくづのの」を漢字に変換し、星芳は華道でいただいた号を使っている。) 「書医」という職業は新聞広告で見かけた樹木医に想を得た造語である。古書を修復する仕事自体はあるものの、専門職としての用語はない。櫛笥節男『宮内庁書陵部 書庫渉獵―書写と装訂』(2006年2月刊)に刺激され、『日本古書通信』2006年4月号に「古書のお医者さん」という記事を投稿したことも「書医」という命名につながっている。櫛笥氏の同書は、『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控(クロニクル)』の表紙にも描いていただいた。また、東京編其の二「遺(のこ)されしもの」に登場している、火災で被害を受けながら、人間でいえば蘇生された書物が写真入りで掲載されている。きらびやかな装飾や威風堂々とした装訂の書物は誰が見ても圧倒される。焼け焦げた跡が生々しく、書かれている文字を読むのに苦労する書物を魅力的と感じる人は少ないだろう。とはいえ、その書物は私たちと同じ世界に存在するのである。「書医」という語には、灰燼に帰してもおかしくなかった書物が残っている事実と、その背景にある多くの人々の祈りにも似た思いや願い、そして書物を未来に伝えるための技術があることを知ってほしいという思いも含まれている。 物語の舞台は東京の日本橋と京都であるものの、構想はほぼ神保町で練った。登場人物であり、付録では書誌学講座を担当する浅利先生のモデル・内田保廣先生(共立女子大学名誉教授)が日本橋のご出身で、ランチョンでビールを嗜みながらさまざまなアドバイスをいただいた。京都に関しては、折に触れて現地を訪問取材してみた。ただ、思いついたアイデアを基にしてすぐさま現物を確認できる、古書がふんだんにある神保町という環境に恵まれていなければ、本書は誕生しなかったと言ってよい。書物は自然発生ではできないモノである。紙も文字も画像も、すべて人間が作り出した産物である。書物は石や鉄のように堅牢ではないので、人が守り伝えようとしない限り朽ち果ててしまう。自分の目の前に古書がある。そのこと自体が歴史であり、物語であること、書物文化を堪能できる状況がどれほど幸せなのかということも本書では伝えたかった。 装訂がライトノベル風なので、マカロンや最中のように甘い雰囲気が漂っているものの、中にはキーマカレーがぎっしり詰まっている構造である。色恋沙汰も職場のもめごとも異世界への転生もないストーリーに仕上がっているのは、真の主人公が書物であるからだとお許しいただきたい。恋愛にまつわるときめき要素は皆無でも、モノとしての和書・漢籍・朝鮮本に関するときめきと魅力と味わいは可能な限り盛り込んだつもりなので、そういう視点でお読みいただければ幸甚である。 『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』 |
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「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」
「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」高橋輝次 |
本欄への登場は今回で三度目。大へん光栄ですが、あがり症なので毎回緊張します。 本書は主に、コロナの緊急事態宣言の期間中に集中して書いたものである。その意味で、交流のある書友の先生が伝えて下さったように、コロナ禍の中での一古本者のささやかな〝記録集〟と言えるかもしれない。 本文は長短のエッセイ、十四篇から成っている。まず古本ファン向けに、戦後第一回目に芥川賞を受けた由起しげ子の『本の話』を紹介。次に昭和初期の東京で、様々な文学者たちの交流の舞台となった書店兼喫茶・レストラン「南天堂」の詳細については既に寺島珠雄の労作があるが、私がたまたま見つけたマイナーな文学者、神戸雄一の短篇小説「蜘蛛の族」――南天堂に出入した太宰や辻潤、宮嶋資夫らをモデルにした文学者達の群像を生き生きと描き出している――を紹介した。これは私の周囲の書友の方々に好評のようである。続いて、戦後派作家のエッセイや名編集者、坂本一亀の評伝などから、様々なタイトルの由来のエピソードを抽出したりしている。さらに私がわずかに交流のあった敬愛する編集者たち数人の仕事やおもかげを点描した文章もある。そして、従来から関心のある誤植や校正の話も……。最後に、私の気に入ったマイナーな文学者、画家、デザイナー(犬飼武、大町糺、浅野孟府、森脇高行)との出会いや再会についてもまとめてみた。 本書の装幀は、タイトルから連想して、古本や古本屋を素材にした写真や絵画、イラストなどを使ったものを期待していたのだが、出来上ったカバーを見ると、シンプルで可愛らしい抽象的デザインだったので、いささか面喰った。出版社内では好評とのことだが、果たして一般の本好き読者の反応は如何だろうか。 さて、以下はまた、私の書きぐせである〝追記〟になるのだが(苦笑)、本書刊行直後に、本書の内容に関連した文献を見つけたので、報告しておこう。一つは、私の愛読する作家、桜木紫乃さんの近作『家族じまい』のタイトルの由来を本書で紹介したのだが、たまたま新刊書店で、初のエッセイ集『おばんでございます』を見つけ、早速読み始めた。彼女が直木賞を受けるまでの下積み時代に北海道新聞に連載したものを中心にまとめたものだが、ユーモラスで自虐的、生きのいい話し言葉で綴った面白い文章が満載である。その一篇「愛は一途に」は、小説『ラブレス』のタイトルについて書かれている。もう一篇「タイトルの神様」には、『恋肌』命名の愉快な顛末が。詳細は本書を買って読んでほしい。 もう一つ。これも刊行直後に尼崎の「街の草」さんで品川力の『本豪落第横丁』(青英舎、一九八四年)を見つけた。『古書巡礼』は読んだ覚えがあるが、本書は不勉強で未読であった。周知のごとく、品川氏は本郷にあったペリカン書房店主で、多くの文学者や研究者のために、関係文献を蒐めて届けた探書の達人である。まだあちこち拾い読みしている段階だが、私の未知な書物人も沢山出てきて、大いに参考になる。達意の文章も楽しい。その一篇「ほれて通えば千里も一里」には、自他の著作の誤植の例がいくつもあげられているではないか。これも早くに読んでおれば私の『誤植読本』に収録したのに、とほぞをかんだものである。最後に、勝手に〝誤植ハンター〟を自認している私だが、肝心の本書にも、書友の指摘で恥ずかしい誤植が見つかりがっくりきている。高名な装幀家、菊地信義氏のお名前を〝菊池〟と誤記してしまったのだ。どうも〝菊池寛〟の表記が先入観としてあったようだ。また英文学者の若島正氏を君島正氏と誤記してしまった。大へん申し訳なく、この場を借りて、お二人に深くおわび申し上げます。思い込みは恐ろしいですね。
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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告
古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告古本屋ツーリスト 小山力也 |
2020年という、昭和生まれにとっては昔に夢見た、もはや遥か未来の世界に突入している時代に、まさかこんな世界的規模の災禍に見舞われようとは、いったい誰が想像したであろうか。謎の新型コロナウィルスが出現し、パンデミックをひき起こしてから、すでに一年以上が経過しているが、いまだ終息に向かう気配はない。我々はただ、感染予防対策を地道に施し、ワクチンの完成&接種か、集団免疫の獲得を待つことしかできないのである。とは言っても、そんな歴史的状況下でも、人々の生活は、水の流れのように止めどなく続いて行く。生きるために仕事もしなければならないし、また様々な制限下でも、その中で人生の栄養としての娯楽を楽しんだりしているのだ。人はパンのみにて生きるにあらず!
私にとっての娯楽とは、もちろん古本屋さんに足を運び、古本を買うことである…いや、娯楽というより、これが人生そのものと言っても過言ではない。一回目の緊急事態宣言発出以降、状況は二転三転し、もはや地方の古本屋さんを訪れることは、ちょっと難しくなってしまったが、生息している東京・阿佐ヶ谷周辺のお店を執拗に巡り訪れることで、どうにかこうにか人生を謳歌している。窮屈ではあるが、制限された中での小さな自由を楽しんで行くしかないと、今は己に言い聞かせている。そんな、今までとはガラリと変わってしまった、一年を振り返ってみよう。 一月~六月の上半期はすでに前回のメルマガで報告済みなので、駆け足に済ましてしまおう。一月には新開店の吉祥寺「防破堤」・黄金町「楕円」・西荻窪「ロカンタン」を訪れ、御茶ノ水「三進堂書店」の閉店を目撃。二月には椎名町の魔窟古本屋「古書ますく堂」が大阪へ移転。新江古田に福祉系古本屋「潮路書房」を発見する。三月には東小金井の「BOOK・ノーム」がひっそりと閉店。そして四月には中央線の至宝「ささま書店」が大盛況の閉店セール後に潔過ぎる閉店を決行。長らく改装休業していた東村山「なごやか文庫」が新装営業再開する。また緊急事態宣言発出後、多くのお店がひと月ほどの休業に突入してしまう。これは仕方のないことだったが、やはり激しく寂しかった。五月には国立「みちくさ書店」が至近のデパートビルに移転開店。六月には調布の「円居」や王子の「山遊堂王子店」が閉店してしまった。 そして七月。神保町パトロールの折りに、以前から気にしていた「神田書房」の閉店を確認してしまう。アダルトメインのお店だったが、店頭の二台の百均文庫ワゴンは、なかなか豊潤であった。吉祥寺「古本センター」は緊急事態宣言下も感染予防対策を施しお店を開けてくれていたが、店内に『コロナとの本格的な戦いはこれからです』『コロナとは永い戦いになります』などのテープラベルが出現し、依然として変わらぬ状況の厳しさを示していた。なおこの頃、すでにほとんどのお店が、入口に消毒液を置き(吉祥寺「よみた屋」はマスクも置き、入店時に装着するよう徹底した対策を採り始めていた)、帳場周りにビニールシートを巡らすスタイルを確立している。また、閉店後も色々な噂が流れ、古本好きの耳目を集め続けていた旧「ささま書店」跡地には、「古書ワルツ荻窪店」が堂々開店。店内にほぼ千円以下の安売本を雑多に並べる古本市形式で(掘出し物多し!)、今では「ささま」閉店の穴を埋めるほどの活躍を見せている。おかげで三日も開けずに通い詰めなければ気が済まない定点観測店となってしまった…。 八月には代田橋のリトル沖縄の一角に「flotsam books」という洋書写真集を核に扱うお店が開店。九月にはこの頃、地元近くの古本屋さんをじっくり回り続ける成果として、荻窪「竹中書店」の木製店頭台の面白さに目覚めたりもした。古い映画関連の紙物や、特撮映画のパンフ、白樺派の文学本等を百〜二百円で見付けたことにより、日々店頭台の動きに思いを馳せるようになってしまった。十月には貰い火事で移転することになった武蔵小金井「中央書房」が、より駅の近くになって新規開店する。そして経堂の「大河堂書店」が惜しまれながら突然の閉店。最後の最後に白井喬二の幻の初単行本、元泉社「神變呉越草紙」を函付きで千円で買えたりして、本当に訪れる度に古本心をビョンビョン弾ませてくれる名店であった…これで経堂には、一軒も古本屋さんがないことになってしまった。十一月には西荻窪の「花鳥風月」が閉店半額セール後、閉店予定の十二月を待たずして閉店。また武蔵小金井には八十〜九十年代カルチャーに強い「古書みすみ」が開店。おかげで武蔵小金井に、「中央書房」→「古書みすみ」→「古本はてな倶楽部」の、ちょっと距離はあるが古本屋ゴールデンルートが出現することになった。そして十二月、コロナ禍でお店を閉め気味だった高円寺の「都丸書店」が、大晦日に店舗営業を終了し、同時に2020年も幕となった。都丸は人文系の硬い老舗であったが、まだ高架下にお店が通じていた頃、そこの壁棚と入口付近の古書棚には、大いにお世話になった。ここで買った大正時代の表現派代表戯曲「転変/エルンスト・トラア」は、今でも大事な宝物である。 やはりコロナ禍をひとつの機会としてお店を閉め、ネット営業に移行するお店が増えた感のある、古本屋界激動の一年であったのではないだろうか。古本市も緊急事態宣言解除後、マスク着用、入場前の手指消毒&体温測定、入場人数制限など対策を施し、徐々に開かれるようになって行ったが、感染者数の増減により、開催が左右される、不安定な状況が続いている。こんなことばかり書いていると、いまだに先が見えない五里霧中の状態なので、暗く不安になりがちだが、それでも面倒な感染対策等色々やることが増えながらも、多くの古本屋さんは開いているし、古本を売ってくれているのだ。お店にはただただ感謝である。とにかくコロナ禍が沈静することにより、煩わしいマスクを取り外し、帳場周りのビニールも外され、古本屋さんという知の空間を、お客さんとの距離や滞店時間など気にすることなく、気兼ねなく楽しめる日を、一刻も早く取り戻したいものである。 最後になるが、2020年の自分にとっての古本屋さんベスト・トピックを選んでみると、やはり阿佐ヶ谷の「古書コンコ堂」で、五月〜十二月に五月雨式に棚出しされた、古い探偵小説群に出会い、三十冊以上買いまくったことであろうか。普通では手を出しかねる稀本たちが、函ナシ・イタミなどがあるために、安値でドシドシ並ぶ驚き! 家の近所で、予想外のお店で探偵小説に出会う喜び! ついついほぼ毎日お店に立ち寄り、棚の変化を決して見逃すまいと興奮しながら血眼になる楽しさ! 一番の獲物は、共に函ナシでイタミがあるが。大日本雄辯會講談社「評判小説 蜘蛛男/江戸川乱歩」と六人社「真珠郎/横溝正史」である(計一万四百円也)。まさか、この二冊が手に入る日が来るなんて…。『探偵小説狂想曲』とも呼べる興奮の日々は、改めて古本屋さんの楽しみ方を、体感しまくった時間であった。 小山力也 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。 |
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