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『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』

『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』

八木正自

 私は半世紀に亘る古書業で古典籍を商品として扱ってきたのであって、研究者として向き合ってきたのではない。しかし、日常的にかなり多くの古典籍の現物を手にしていると、よくも長い時を経て今まで生き延びて来たものだ。その文字、紙、墨によってどのように制作されたのか、内容やその成り立ちについての奥深さを知りたい、という欲求が起こる。

 それで本書の「むすびに」で、「私の現在の生き方は、古書の営業に50パーセント、調査・研究・執筆に50パーセントという時間配分である」と書いたのだが、業者市で首尾よく入手して、事務所でその古典籍と向き合い、諸参考文献を捲り真偽や価値を調べるときが無上の悦楽の時間なのである。その成果を月刊誌『日本古書通信』の「Bibliotheca Japonica」という欄に23年間書き続けてきた。主な分野は、日本と西洋との交流史原典、原史料なのだが、和洋の古典籍も含まれる。それらの稿からいくつかを選んで、文を改め、加筆し、また新稿も加え本書を編集した。

 私は工学部出身なのだが、大学卒業間近に進路を変更して文科系の古書籍業に足を踏み入れた。父が日本橋の丸善に長く勤務していて、家中本だらけ、という環境も大きな影響を与えた。それで卒業後、四谷の雄松堂書店に入り、洋古書の世界にどっぷりと浸かり、その神髄にも触れることが出来た。

 5年間在職の後に独立して、古書の安土堂書店を創業。店舗無しで目録販売を中心として営業してきた。独立してから最初に知り合ったのが、終生の師となる弘文荘の反町茂雄氏。反町氏は東大を卒業後、神田の一誠堂書店に就職。昭和2~7年在職して弘文荘を創業。店舗無しで、目録販売の営業形態。戦前戦後を通じて、諸名家や旧華族などから奔流した貴重古典籍・古文書を的確に評価して、公共機関やコレクターに販売、貴重書の再配分に寄与した。そのような古書業界の重鎮に声を掛けられて、自分の営業は続けながら、言わば書生のような日々を送った。

 また、昭和年代・平成初めはまだ私立大学のオーナー学長・理事長がいる時代で、鶴の一声で大学図書館に貴重書を収蔵する機運が旺盛であった。そのような張り合いがあるからこそ海外に出向き、洋古書や日本の古典籍を里帰りさせるという営業が成り立っていた。
 本書では、海外での貴重書・貴重書簡などの獲得秘話や、国内業者市でのそれらの発見・入手の過程、調査の結果などについて記した。

 フランシスコ・ザヴィエル書簡の入手秘話、アムステルダム駅で北斎版画を盗まれた話、川原慶賀「出島図」発見の経緯、捨てられる運命であった紙くずの中から発見した日本最古のかわら版「大坂冬之陣図」、奈良時代初期の「長屋王願経」断簡、国宝である『南海寄帰内法伝』の僚巻断簡、最古の長崎版画『紅毛本国船之図』、シーボルトの秘密出版『薬品応手録』、伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』の原図、後白河法皇の『梁塵秘抄』、甘藷先生青木昆陽自筆の『国家食貨略』、吉田松陰自筆「野山獄文稿」断簡、姉乙女宛の坂本龍馬自筆書簡、明治4年米欧使節岩倉具視宛の明治天皇「勅旨」、ベルリンのオークションに出た長崎発シーボルトの手紙、フィルモア大統領のペリー提督日本遠征命令書、などの貴重文献、文書、書簡の入手秘話。最後に「世界的に評価の高い日本の古典籍とその蒐集」と題して、如何に日本の古典籍は世界的に評価が高いのか、なぜ歴代の為政者や財閥はそれらの蒐集に邁進していたのか、現代にあってもまだ貴重古典籍は市場に浮遊しているので、それらにもっと関心を持ってもらいたい、それを扱う古書業者も絶えずに継承してもらいたい、ということを述べた。

kotenseki
『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自 著
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https://www.heibonsha.co.jp/book/b482403.html

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