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本とエフェメラ⑥東京は古本の都❸谷根千の『不忍ブックストリートMAP』と、寄せられた古本マップ各種

本とエフェメラ⑥
東京は古本の都❸谷根千の『不忍ブックストリートMAP』と、寄せられた古本マップ各種

小林昌樹(近代出版研究所)

■四番目の古本街は?――高円寺? それとも……

 東京に三大古本屋街がある。神保町、本郷、早稲田である。それはよいのだが、では「4番目は」と言ったらどこだろう? 4番目はないのだろうか。以前、私は高円寺が4番目なのではないかと思ってきたが、いま古本エフェメラを見て思うに「不忍ブックストリート」が4番目かもしれないと気づいた。
 

【参考図1】Googleマップから
 
 不忍ブックストリートは2004年冬から地元のライター、古書店主などを中心に始まった地域文化運動で現在も続いているが*、その中心になるイベントが2005年から始まっ「一箱古本市」である。不肖、私もこのような文章を書いているキッカケの一つは、第2回「一箱古本市」(2006年)に出店したことだった。ただし、三大古書店街のように店が密集しているわけではなく、広域に散在している地域なので、星座のように星々を点でつなぐ作業が要る。
* くわしくは次を参照。南陀楼綾繁『一箱古本市の歩きかた』光文社、2009(光文社新書;433)

■「不忍ブックストリートMAP

 この団体の主要事業は一箱古本市とMAPの制作の2つだという。【図1】はその地図。この地図が古書店を星座のごとくまとめたものである。2005年から毎年出されて現在も継続刊行中だが、私が持っているのは2006年版からである。
 

【図1】『不忍ブックストリートMAP』(2005-)
 
 私が一箱古本市に出た2005年のものを見ると【図2】、いまも東大裏口(?)で営業している(読書好き向き良書ばかり)古書ほうろうが創業地にあってなつかしい。クルマで行った時には脇の坂をちょっと上がったところの駐車場を使っていた。以前乗っていた日産キューブの脇をこすってしまったのもそこいらへんだった憶えがある(道が狭い)。
 

【図2】『不忍ブックストリートMAP〔2005〕』部分
 
 全体として洒落ているのは、これはデザイナー等がかかわった地図だからで、今は違うが、古書組合系の案内図に欠けがちな要素だったと思う。
 一箱古本市では古書店前に限らず、喫茶店そのたの店頭がスポットとなっており、古本ラリーが楽しめた。【図3】はそのスタンプラリー用の集印紙。
 

【図3】「一箱古本市開催スポット」集印紙
 
 【図4】は2006年の一箱古本市に参加した際の参加マニュアルと一箱古本用の短冊。マニュアルは古本屋でない素人が本を売るには必須だし、短冊はマニュアルで事前に準備するよう求められた新刊書店っぽいものだが、これもまた一箱古本市ならではの工夫だろう。
これらも広い意味で古本エフェメラと呼べるだろう。
 

【図4】一箱古本市参加マニュアルと短冊
 
 実際、いま残された短冊を見ると、当時自分が絶版文庫を中心に品出しをしていたことや、1冊700円前後と現在よりも強気の値段をつけていたこと、さらにまたそれらが結構売れたことなどが思い出される。いまブログの記録を見ると半分も売れたとある。
 

【参考図2】一箱古本市(2006年4月29日)
 
 この時に買いに来てくれた人々のいくたりかは、後に古本フレンズになったことだった。のち古本ドキュメンタリー作家みたいになった黒岩比佐子さんも来てくれた。これはよく近代出版研究所員に指摘されるのだが、2000年代はブログ全盛期で現在の殺伐としたSNSとはかなりちがう環境にあったため、古本趣味といったノンビリした趣味の友人がネット経由で作りやすかった。自分がネットで多少注目されていたのもこの頃のことである。
 【図5】は『不忍ブックストリートMAP 2007-08』。前年まで別刷りだったスタンプ用紙がマップと一体化されていることに気づく。継続は力なりだなぁ。
 

【図5】『不忍ブックストリートMAP 2007-08』
 
 一箱古本市はその後、全国的な流行りとなった。また、現在流行っている「シェア型書店」の先祖でもあろう。初期のころは古書業界界隈に素人が古本を扱うことへの反感もあったようだが、すでに新古書店的な趨勢が全面化していた中で、市民、ふつうの読書人に古めの古本の価値を再発見してもらう意義があったように、私には思われる。
 

■【余談】読者から古本マップ一式を送らる

 なんと、この連載「古本エフェメラ」に呼応してくれた読者がおられた! その方は某古書店を経営なさっておられるのだが、手持ちの古本屋マップを送ってくれた。もともと他業種から参入した方らしく、現役時代には古本屋のユーザーだったらしい。だからこそ古本屋地図が手元に残ったものだろうか。
 いろいろ珍しいものがあるなかで、実は私が持っていなかった『おに吉古本案内』の第1号(2003.5)が入っていて嬉しかった【図6】。ほかにも『大阪古書店案内114』(980企画社、1980)は確かに市販されたらしい小冊子なのに、国会図書館にない本で珍しい。まえがきに「本書は古書店を利用する側からつくられた、はじめての古書店地図である。一応書店を見て廻る目安として四つのコースに分けてあり」とある。
 

【図6】古本マップ一式
 
 【図6】に見える『わが街ほんの街:神田神保町』(三省堂書店、[1981])は、この前建て替えられた三省堂本店ビルの前のビルが建った際の記念で発行されたものらしい。「〔三省堂書店〕館内ごあんない」【図7】の図が載っている。地下にドイツ料理のローターオクセンが当初から入っていたことがわかる。このお店は「放心亭」と改名された後も続いて、私も書物好きとの会合でよく使い、エルディンガー・ヴァイスビアを飲んだものだ。
 

【図7】『わが街ほんの街:神田神保町』部分「〔三省堂書店〕館内ごあんない」
 
 B2判をB5に折りたたんだものでかなり大判。こういった古本地図には気をつけているのだが、今まで見たことのなかったもの。御茶の水など一帯の地図をいくつか併載している。
 「神田神保町」【図8】にはロシア料理店バラライカや、予備校の研数学館がプロットされていて、往時の神保町を思い出させてくれる。イラストが1970年代ポップ風なのもGood。いまはなき古本屋・東京泰文社(1996年閉店)の写真も見える(地図にはプロットされていない)。1986年ごろ、ここで米国版『プレイボーイ』を立ち読みしたことがある(泰文社は米軍流れのペーパーバックで名を成した)を。
 

【図8】『わが街ほんの街:神田神保町』部分
 
 『わが街ほんの街』は裏の全面が「千代田周辺観光図」になっているのだが、付図として「昭和期の神保町(部分)」が載っていて驚いた。これはいわゆる「火災保険地図」だ。
 

【図9】『わが街ほんの街:神田神保町』裏面「千代田周辺観光図」
 
 火災保険地図は戦後の「住宅地図」と同様に、1棟ごとの情報がわかる戦前唯一の地図で、柏書房が復刻した1冊13万円、全28巻の『戦前期東京火災保険特殊地図集成』がようやく2026年9月に完結したばかりだ。私も復刻に少しだけ協力している。
 『わが街ほんの街』に使われているのはおそらく千代田図書館員だった鈴木理生から教えられたものだろう。火災保険地図の再発見は1981年前後なので、極めて早い段階での利用といえる。私も前職で同僚にいやがられながらも(当時、国会図書館にはほとんど無かった)再評価にいそしんだことだった。『近代出版研究』第3号(2024)に復刻の話などが載っている。
 

■次回は…

 神保町の古本エフェメラはたくさんありすぎるので、意外とみんなが集めていない国内各地の古本エフェメラを紹介しようと思う。
 
 
○小林昌樹(こばやし・まさき)
1967年東京生まれ。1990年と92年、慶應義塾大学文学部を2回卒業。2021年国立国会図書館を早期退職し、近代出版研究所を設立。近代書誌懇話会代表。現役時代の秘伝テクニックを盛り込んだ『調べる技術』がヒット。それを応用して書いた前代未聞の『立ち読みの歴史』は五大新聞紙すべてで紹介。専門は図書館史、近代出版史、読書史。
 
 
○近著

内容:初代館長の横死、全部局長の左遷を招いた「春秋会事件」。それを単なる疑獄としてではなく、アメリカ図書館使節が指示したマボロシの「オグジュアリー・サービス」局との対比で語る。敗戦で急転直下わいて出た国会図書館で、国立図書館事業が「収斂進化」しようとしていた! 2026年夏コミで持ち込み分完売! 同人誌ゆえ部数そう多くありません。
 
 
書名:国会図書館か国民図書館か:国立国会図書館ウチ・ソト通史【増補版】 / 小林昌樹
発行:近代出版研究所
発売日:2026年8月16日
ページ数:164ページ
定価:2,200円
判型:B5判並製
https://koseisha.stores.jp/items/6a823658efd70ec36c7d8e60
 
 

Copyright (c) 2026東京都古書籍商業協同組合

 

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