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出版業界のきのう・今日・あした

出版業界のきのう・今日・あした(1) きのう編

能勢 仁(ノセ事務所)
 出版界の過去、現在、未来について考えてみたい。過去は2010年~2019年、現在はコロナ~2026年、未来は明日からの時期である。わかり易く言えば、平成から令和の写しである。未来は考えるだに楽しいことである。
 
 では早速、過去を振り返ってみよう。インパクトの強いことはアマゾンの存在である。2000年に日本に上陸して、今日までやりたい放題である。成長に次ぐ成長で、紀伊國屋書店の売上を凌駕する書店になった。当初は書籍販売の会社であったが、今は楽天に対抗する大商社になった。スタートして、間もなく日販を足蹴にし、出版社との直接取引を有利な条件で始めた。中小出版社ではアマゾン依存率が年々高くなっている。徹底した守秘義務によって出版社は弄ばれた。アマゾンの横暴も目立つ。学生対象の大幅割引サービスなどその一例である。アマゾンで働く日本人の労働条件は地獄である。残業時間を含めた労働条件、内定承認はアマゾンに呼び出されたその日に決めなければ、内定取消しになる。優越的圧力の契約である。ボーナス支払いが自社株であることが後日わかるなど、一方的な労働契約である。行政力でなければ改善されぬであろう。
 
 21世紀初頭、児童書の売上シェアが5%になる程低迷していた。その現況を救ったのが「ハリーポッター」であった。この救世主に似た本が料理書に現れた。「体脂肪計タニタの社員食堂(正・続)」(大和書房)は430万部売れた。この本が引き金となり、健康ブームが起こり、「料理書フェア」をする書店が増えた。
 
 明治以来、世界に冠たる出版流通ルートがこの時期に壊滅した。大取次を誇っていた大阪屋、栗田出版、大洋社、協和出版が滅びた。専門取次も全滅(鈴木書店、明文図書、安達図書、地図共販等)、地方取次も壊滅(神奈川図書、名古屋の三星、山口教販等)した。
 
 崩壊した最大手は大阪屋である。その事業を引き継いだ会社が楽天ブックスである。
 この商社はこれまでの取次と考え方が全く違う。細かい商品は敬遠する(文庫)、安い商品も売らない(文庫・新書)、単品で売ることを嫌う(高単価、大量販売を狙う)、形のない商品を売ることが得意な商社で、同一商品を何回でも買うお客様を好んだ。
多品種少量販売、低単価商品を扱ってきた取次とは異なり、楽天ブックスには本を積極的に売る姿勢は見られなかった。楽天会員の大募集、楽天ポイントセールの実施など、楽天特有の販売姿勢があった。少々誹謗が過ぎたが、旧大阪屋帳合書店を救ったことは評価したい。
 
 取次の倒産で大ショックであったのは鈴木書店の倒産であった。ハイクオリティの取次が鈴木書店であった。良心的、良質取次業務を展開して、二次取次としては抜群であった。
 負債額は40億円、債権出版社は約300社であった。倒産の原因は、高正味、内払いに大手老舗出版社を優遇し、中小版元には低正味、支払保留等、差別取引があったことによる。
赤字の直接原因は7.2%の粗利であった。トーハン11.29%、日販11.18%と比較すればすぐわかることである。
 
 大型書店のM&Aが進んだ。平安堂→長野・高沢産業、明屋書店(84店舗、売上164億円)がトーハン傘下に、くまざわ書店が沖縄・球陽堂書店を吸収、ジュンク堂書店がビッグウイルを傘下にした。
 
 公共図書館の民間管理経営が話題になった。武雄市図書館は来館者3.2倍、他都市からの利用者急増した。ツタヤとスターバックス併設が大好評であった。
 海老名市立図書館もこれを真似たが、二匹目のどじょうはいなかった。
 紀伊國屋書店が春樹本を買切り、卸事業をした。好評であった。全国書店、アマゾン対策であった。
 
 この時代に「マーケットイン」が流行語になった。明治40年以降、日本の書店は委託送本に慣れ、商品計画上重要な仕入業務を怠った。一方商品を送り出す取次も、相手の立地、販売力、やる気、特色などを考慮していなかった。送品担当者は相手先の条件を知らずに送本していた、この姿勢は全取次同じであった。盲目送品が100年続いたのである。こんな業界は他にはない。そのつけは返品増、利益減を生み、書店は瘦せ細った。書店の在庫は預かり商品であって、資産ではない。古書店と対照的である。この無責任取引は、26000店あった書店を9800店にしたのである。書店沈没のシナリオの幕が下りた。
文化産業危うしを政府が感じ、支援策を業界に送った。やっと書店の眼がさめたが、時すでに遅しであった。
 
 
能勢 仁
1933年(昭和8年)千葉市生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、高校教師を経て、多田屋常務取締役、JBB取締役(平安堂FC部門)、アスキー取締役、太洋社勤務。1996年ノセ事務所設立。主な著書に「明治・大正・昭和の出版が歩んだ道」(出版メディアパル刊)、「本のことがわかる本・1~3巻」(ミネルヴァ書房)、「商人の機微」(中央経済社)など30数点。
 
 
 

 
書名:明治・大正・昭和の出版が歩んだ道  近代出版の誕生から現代までの150年の軌跡
編著:能勢仁、八木壯一
出版社:出版メディアパル
判型・ページ数:A5判/174ページ
定価:1,980円(税込)
初版年月日:2022年11月25日
ISBN:978-4-902251-43-2
Cコード:2000
 
 

 
書名:昭和の出版が歩んだ道 本を創る人々と本を販売する人々の夢と冒険物語
編著:能勢仁、八木壯一
出版社:出版メディアパル
判型・ページ数:A5判/190ページ
定価:1,980円(税込)
初版年月日: 2023年4月10日
ISBN:978-4-902251-44-9
Cコード:2000
 
 

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