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「“ととのう”街 ~神田・神保町・御茶ノ水~」

「“ととのう”街 ~神田・神保町・御茶ノ水~」

『神田・神保町・御茶ノ水Walker』編集長 倉持美和

 このたびウォーカームック「神田・神保町・御茶ノ水Walker」を発行いたしました。

 「○○Walker(ウォーカー)」と言えば、「東京ウォーカー」が浮かぶ方が多いと思います。

 「東京ウォーカー」は、グルメや観光スポット、イベント、エンタメなどおでかけに役立つネタを紹介するエリア情報誌で、1990(平成2)年に創刊し、2020(令和2)年に休刊となりました。「東京ウォーカー」と同時に休刊した「横浜ウォーカー」編集部にいた私は、現在は「エリアLOVEWalker」ブランドの一つ、「横浜LOVEWalker」の編集長を務めております。

 「横浜LOVEWalker」は、「横浜ウォーカー」と何が違うのか? 字面では「LOVE」が加わっただけですが、コンセプトはかなり違います。
まず、定期刊行の紙媒体はありません。WEBやSNS、YouTube放送を中心に展開しています(もちろん雑誌も不定期で発行します)。また、「ウォーカー」はその街に遊びに行く人たちに向けた雑誌で、編集部のスタッフがリサーチ・取材した最新のおでかけ情報を紹介していましたが、「LOVEWalker」は”ジモト愛“をテーマに地域活性を推進することを目的にした地域共創メディアで、 “その街が好きになる”情報を地元の人たちと共に発信しています。※WEBサイト(https://lovewalker.jp/yokohama/)では、地元の人たちが執筆するコラム連載が多数掲載されています。

 そんな「LOVEWalker」のコンセプトも取り入れて製作したのが「神田・神保町・御茶ノ水Walker」です。“地元を愛する人たちと共に”“より深く掘り下げた”企画が、メイン特集の「心がととのう街歩き ベスト25トピックス」です。

 特集タイトルの「心がととのう街歩き」ですが、「神田・神保町・御茶ノ水という3つのエリアを象徴するキーワードを入れたい」という思いがありました。とはいえ、3エリアの特徴はかなり個性的で、一つの言葉でまとめるのは難しく、部内でも何度か話し合いを重ねました。その中で出てきたのが、サウナー効果で一気にメジャーになった「ととのう」という言葉です。きっかけは、神田ポートビルにある「SaunaLab Kanda(サウナラボ神田)」。サウナーの間で話題の場所ということで、リサーチも兼ねて体験しに行くと若い男女の多いこと! 文字通りの“ホットスポット”で、私自身、体も心も“ととのう”ことができました。また、編集スタッフからは、「街を歩いていると、新しいビルの横にすごく古い建物があったりして、その雑然とした雰囲気がなぜか心地よくて落ち着く」という話を聞き、【ととのう(整う、調う)=「きちんとそろう」「調和がとれる」「まとまる」】から、「ととのう」をキーワードに、企画構成を進めていきました。

 ”地元を愛する人たちと共に“という点では、地元企業や地元在住、街づくりを進める方々など、多くの方にさまざまな形でご協力いただきましたが、メイン特集以外でも、コミックエッセイ「気になるスポット調査隊」では、通常では見ることができない「古書交換会」の様子を取材させていただきました。「古書交換会がほぼ毎日行われているのは、世界中で神保町だけ」という話は、ぜひとも多くの方に知ってほしいと思っております。

 「食でととのう」「体験でととのう」「街がととのう」と、若干こじつけに近いものもあるかもしれませんが、ニュースだけでなく歴史やトリビアなど、さまざまな切り口で神田・神保町・御茶ノ水の魅力を伝えておりますので、ご覧になっていただければ幸いです。

 
 
 
 
横浜LOVEWalker(WEB)
https://lovewalker.jp/yokohama/

 


『神田・神保町・御茶ノ水Walker』
角川アスキー総合研究所 刊
ISBN:9784049111194
定価:990円(900円+税)
判型:A4正寸、平綴じ
ページ数:84p
好評発売中!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322205000767/

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『増補新版 東北の古本屋』―東北に寄り添った古本屋案内と、古本屋から見た震災記録

『増補新版 東北の古本屋』―東北に寄り添った古本屋案内と、古本屋から見た震災記録

日本古書通信社 折付桂子

 東日本大震災から一一年が過ぎた。私の故郷は福島県。神保町古書街近くの勤務先で、連絡の取れない故郷を案じたあの日を今も鮮明に覚えている。お世話になった古本屋さんたちも大きな被害を受けた。震災から三週間後、福島県須賀川市と郡山市に店を持つ、古書ふみくらさんに取材予約を入れ、単身オートバイで被災地へ向かった。そこで見た地震被害も衝撃的だったが、ふみくらさんの実家に避難していた楢葉町(当時、原発事故による警戒区域)の岡田書店さんとの出会いで、私の中の何かが変わった。「地震だけなら家に帰れるんですよ。問題は原発事故で全く先が見えないということ」といった言葉が胸に刺さる。こうした証言を記録として残したい、残さなくてはと思った。

 古本と本の雑誌である『日本古書通信』でも、伝えられることはあるはず。それ以来、震災・津波・原発事故に負けずにがんばる東北の古本屋さんたちの姿を取材し続け、『日本古書通信』にリポートを掲載してきた。二〇一八年には全古書連加盟の東北の古本屋さん全店を、店舗のある店には実際に足を運び店主に話を伺い地図と写真も付けて案内、無店舗の店もできるだけ特徴がわかるよう紹介した。その古本屋案内と震災ルポをまとめて、小著『東北の古本屋』を作ったのが二〇一九年秋のことである。

 少部数の自費出版であったが、東北の古本屋さんたちから続々と注文が寄せられた。『河北新報』や『赤旗』、雑誌『地域人』に紹介され、岡崎武志氏が『東京新聞』の「二〇一九年、今年の三冊」に選んでくださり、在庫は瞬く間になくなった。思いがけない反応は嬉しかったが、各地の図書館などからの注文に応えられないことが心苦しくもあった。そんなとき、文学通信さんから新版を出してくださるというありがたいお話をいただいた。

 この三年間で新規加入や開店もあれば閉店や廃業もある。旧版の記述も記録として生かしつつ、全面的に修正、加筆、新たに二〇二一年、二〇二二年のリポートも収録した。また、業界用語などには注釈を加え、詳細な索引も付した。私の拙い手書きの地図は描き直して見やすくなり、オールカラーの写真もより大きく配置され迫力が増した。一般の方にも手に取っていただきやすい本に出来上がったと思う。ちなみに表紙は、担当編集者が描いてくれた、あるお店の棚の風景である。どこのお店か、ぜひ読んで見つけていただきたい。

 この三年間はコロナ禍の三年間でもあった。二〇二〇年の春は、東京神保町でも古書街が閉まり、古書市場も古書即売展も休みになり、街がひっそりと静まり返っていた。同じころ東北でも古書市場が開けず、予定していた即売展が中止になったりしていた。ただその後は、宮城県と岩手県では、感染状況を見極めながら、できるだけ古書の灯を消さぬよう、古書店同士のつながりを保つよう、市場を開催している。

 今年の五月二九日には、二年間延期された「第二回松島皐月大入札会」が開催された。モチベーションを保つのが大変だったと思うが、宮城の若い業者を中心にまとまって開催にこぎつけ、宮沢賢治本を筆頭に多様な出品物が落札され好評を博した。企画、運営、目録作成、広報から後片付けまで自店を犠牲にしての開催には、相当な覚悟と苦労があったと思われる。地方では打ち合せに集まるにも距離があって大変なのだ。しかし、宮城の古書店たちは、今度は第二回「サンモール古本市」を盛り上げようと尽力している。昨年から仙台市の老舗新刊書店・金港堂を場として始まった催事。こちらもコロナ禍に負けずに継続されている。

 この力の源は何なのだろう。昭文堂書店さんは「連帯の機運が満ちてきた」と仰る。組合としてのその連帯の力こそ、共に大震災を乗り越えたゆえに生まれた共同体としての力(火星の庭談)なのではないか。阪神淡路大震災を経験した兵庫古書組合の連帯は、今に続くサンボーホールひょうご大古本市を生み出した。東北の業界にも同様に、つながりを大切にという思いが脈々と流れているのだと思う。

 東北の古書店有志が力を合わせるアオモリ古書フェア、より広がりを見せるイービーンズ古書展に加え、組合員以外の店と歩調を合わせた山形の催事も始まった。また、福島県でも組合員有志が、地元の出版社らと共に会津ブックフェアを企画中だ。本との出会いの場が広がっていることが嬉しい。

 東北の古本屋さんを取材して感じたのは、地域に対する思いの深さ、地域の文化を支えているという矜持である。ベテランが「地元の資料は地元にあるべき」と語れば、若手も「地元に根差して地域の方に愛される店に」と目を輝かす。店舗率も高い。原発事故による帰還困難区域だった楢葉町に帰還、開店した岡田書店さんは今年で七年目、しっかり地元に根付いてきている。これこそが本来の“復興”ではないか。こうした郷土への思いに震災の経験が加わり、連帯の意識が強まった東北の古書業界は、きっと今後も長く地元の文化を支え続けてくれるに違いない。紙の力、本の力、そして本と人をつなぐ古本屋さんの力を信じて、これからも本の世界の片隅からエールを送り続けたい。

 
 
 
 


『増補新版 東北の古本屋』 折付桂子著
文学通信刊
ISBN978-4-909658-88-3
四六判・並製・312頁(フルカラー)
定価:本体1,800円(税別)好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-88-3.html

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『全国タウン誌総覧―地域情報誌・ミニコミ・フリーペーパー・8700誌』

『全国タウン誌総覧―地域情報誌・ミニコミ・フリーペーパー・8700誌』

柴田 志帆

■『全国タウン誌総覧』の特徴
 戦後から現在までに日本各地で作られてきた、地域の情報を発信するタウン誌。私が今回制作した『全国タウン誌総覧』は、そのタウン誌8,715点をリストアップした目録です。地域で発行・流通するため、これまで網羅的に探せなかった「タウン誌」「地域情報誌」、さらに「ミニコミ」「フリーペーパー」「リトルプレス」から、地域に焦点を当てたものも採録しています。全体を地域別に並べ、創刊・休廃刊年、刊行頻度といった基本事項のほか、誌名変遷や関連文献、所蔵機関の情報についてもできるかぎり調査・収録しているところが特徴です。

■本書を作ったいきさつ
 中学生の頃に知った『本の雑誌』に「地方・小出版よろず案内」(川上賢一)などの記事がありました。これが、私が地方出版物や自主制作の出版物に関心を持ったきっかけです。ですが、タウン誌自体を特にたくさん集めていたり読んでいたりしたわけではなく、『ぴあ』も兄弟デュオ・キリンジの渋谷公会堂ライブ(2003年5月)のチケットをとる際に買ったくらい。一方、大学入学前に『おもしろ図書館であそぶ―専門図書館142館完全ガイドブック』(毎日新聞社,2003年)を購入し、この本で大宅壮一文庫などの雑誌専門の図書館があることを知りました。

 レファレンスツールの専門出版社で働いていた頃は、国立国会図書館に必ずしも全て所蔵されていない類の出版物――地域の雑誌、PR誌、社史・記念誌、文化施設の館報、市民活動団体の刊行物、趣味の雑誌などの書誌情報・目次を一覧するツールを作りたいと思っていました。特に、雑誌の現物確認のために所蔵機関を調べる過程で、1つの館で全号所蔵していることはほとんどなく、複数館の所蔵を確認する必要があることや、文学館や博物館などに図書館では所蔵されていないような雑誌があることに気づきました。そして、『ミニコミ魂』(串間努編,南陀楼綾繁ほか著,晶文社,1999年)や『神保町「書肆アクセス」半畳日記』(畠中理恵子,黒沢説子著,無明舎出版,2002年)を読むうちに、タウン誌などの地域発の雑誌の目録を作ってみたいと考えるようになります。2013年頃から資料を集めてExcelに入力を始めましたが、その後転居・転職などで生活環境が変わったこともあり、しばらく作業を中断していました。

 2020年春、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う飲食店休業・イベント自粛などに伴い、自宅にポスティングされるタウン誌から催事・お店情報が消えました。雑誌自体の休廃刊の動きも加速しそうな気配を感じたので、これまでに刊行されたタウン誌についてまとめておきたいと考え、入力を再開。そしてこの度、雑誌記事データベース「ざっさくプラス」を提供している皓星社とのご縁があり、蓄積したデータを書籍として刊行する運びになりました。

■本書制作に「日本の古本屋」をどう使ったか
 制作過程については「『全国タウン誌総覧』の作り方 ─あとがきに代えて─」に詳しく書きましたが、せっかくなのでここでは「日本の古本屋」の利用について取り上げます。

 1980年代前半頃までに刊行された図書の場合、図書館やオンライン書店などの書誌情報を見ても、概要や目次が分からず、タイトルや分類、件名、注記などを頼りに探す必要があります。同様に、地方雑誌や小雑誌は現在でも既存の雑誌記事索引の収録対象外であることが多く、どの雑誌のどの号に知りたいテーマの記事が載っているかを検索する手段がない状況です。

 そこで、「日本の古本屋」でタウン誌関連の言葉を入れて検索すると、「タイトル」に入っている雑誌の特集名や「解説」に載っている内容情報がヒットすることがあります。『Wander』の「特集:おきなわ雑誌名鑑ふくゎんじぇんぶぁん」や、『あすの三重』の「特集:地域情報誌を考える」などは、こうした検索によって存在を知り、制作に役立てることができました。なお、雑誌の表紙画像が掲載されている場合は、目次や執筆者などの情報からどんな性格の雑誌かを把握する手がかりになります。通常は在庫があるものだけが検索されるようになっていますが、詳細検索からその条件を外せば、これまで登録された出版物のカタログとして使うこともできることは意外と知られていないのではないでしょうか。制作中、コロナ禍での移動自粛や図書館の臨時休館もあったため、求める情報がどこに載っていそうかの当たりをつけ、現物を入手する手段として、「日本の古本屋」が役立ちました。

■おわりに
 近年、雑誌記事索引や所蔵目録のWeb公開、雑誌自体の電子化の動きにより、全国から地域資料にアクセスしやすくなってきました。タウン誌をどう利活用するかについては、本書内の「タウン誌の歴史」で私が触れたほか、近代出版研究所所長の小林昌樹氏による「解説『全国タウン誌総覧』の意義とタウン誌の効能」でも取り上げられています。本書が、調査・研究などにタウン誌がより活用される助けとなることを願っています。

 制作にあたって、可能な限り広く情報を集めましたが、遺漏も当然あるでしょう。今後は、各地域の方々の力をお借りして、追補していきたいと考えています。本書に未収録のタウン誌をご存じの方は、版元の皓星社まで情報をお寄せいただければ幸いです。

柴田 志帆(しばた・しほ)
1984年生まれ、茨城県出身。2007年慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻卒業後、レファレンスツールの専門出版社で書籍編集に従事。現在は、茨城県内の公共図書館で働く傍ら、茨城県出身の女性を応援するフリーマガジン『茨女』の編集に携わる。

 
 
 
 


『全国タウン誌総覧―地域情報誌・ミニコミ・フリーペーパー・8700誌』
柴田 志帆 編著
皓星社刊
B5判・上製・632頁
定価:本体15,000円(+税)
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774407708/

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2022年10月11日号 第356号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第117号
      。.☆.:* 通巻356・10月11日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見7】━━━━━━━━━

国立ハンセン病資料館 患者たちの手で集め、守った資料

                         南陀楼綾繁

 国立ハンセン病資料館の書庫を見たいと思ったのは、YouTubeで観
た一本の動画がきっかけだった。

 今年3月に同館が開催したオンラインミュージアムトーク「図書室
からの招待状~頁をめくり、想いを辿る~」は、図書室職員の斉藤聖
(あきら)さんが閲覧室や書庫を案内し、この図書室の役割を伝える
ものだった。斉藤さんの優しそうな風貌やソフトな語り口が心地よく、
見入ってしまった。

 私はハンセン病については無知だ。映画『砂の器』(野村芳太郎監督、
1974)で、私が偏愛する俳優の加藤嘉がハンセン病患者の老人を演じ、
故郷を追われ、各地をさまよう場面が印象に残っているぐらいだ。ち
なみに、松本清張の原作にはこういった描写はない。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=10202

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

国立ハンセン病資料館
https://www.nhdm.jp/

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショなひと 大屋書房 後編

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【10月11日~11月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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第2回 サンモール古本市 in 金港堂(宮城県)

期間:2022/09/29~2022/11/06
場所:金港堂本店 仙台市青葉区一番町2-3-26

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第22回 四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2022/10/07~2022/10/12
場所:大阪 四天王寺境内内 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

http://kankoken.main.jp/

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第27回八王子古本まつり

期間:2022/10/07~2022/10/11
場所:JR八王子駅北口ユーロード特設テント

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横浜市歴史博物館・古書フェア(神奈川県)

期間:2022/10/12~2022/10/23
場所:横浜市歴史博物館1階エントランス(入館無料エリア)
   横浜市営地下鉄ブルーライン・グリーンライン「センター北」駅より徒歩5分
   https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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ぐろりや会

期間:2022/10/14~2022/10/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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本の散歩展

期間:2022/10/14~2022/10/15
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/10/14~2022/11/02
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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京都まちなか古本市(京都府)

期間:2022/10/14~2022/10/16
場所:京都古書会館3階  京都市中京区高倉通夷川上ル福屋町723番地

https://kyoto-kosho.jp/

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平井のはみだし古本市

期間:2022/10/15~2022/10/23
場所:平井の本棚 2階 イベントスペース 江戸川区平井5-15-10
   総武線平井駅北口下車30秒

https://hirai-spheniscidae.peatix.com/

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秋の路面古本市 【第2回】(広島県)

期間:2022/10/15~2022/10/16
場所:広島PARCO本館1F 店頭  広島市中区本通10-1

https://hiroshima.parco.jp/pnews/detail/?id=20505

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ア・モール古本市(北海道)

期間:2022/10/20~2022/10/25
場所:アモールショッピングセンター1階センターコート 住所:北海道旭川市豊岡3条2丁目2‐19

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洋書まつり Foreign Books Bargain Fair

期間:2022/10/21~2022/10/22
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://blog.livedoor.jp/yoshomatsuri/

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好書会

期間:2022/10/22~2022/10/23
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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秋の路面古本市 【第3回】(広島県)

期間:2022/10/22~2022/10/23
場所:広島PARCO本館1F 店頭  広島市中区本通10-1

https://hiroshima.parco.jp/pnews/detail/?id=20505

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第101回シンフォニー古本まつり(岡山県)

期間:2022/10/26~2022/10/31
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2022/10/27~2022/10/30
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)

https://twitter.com/urawajuku

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特選古書即売展

期間:2022/10/28~2022/10/30
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://tokusen-kosho.jp/

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第62回 東京名物 神田古本まつり

期間:2022/10/28~2022/11/03
場所:神田神保町古書店街(靖国通り沿い・神田神保町交差点他)

https://jimbou.info/news/20220915.html

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杉並書友会

期間:2022/10/29~2022/10/30
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第46回 秋の古本まつり―古本供養と青空古本市―(京都府)

期間:2022/10/29~2022/11/03
場所:百萬遍知恩寺境内 京都府京都市左京区田中門前町103

http://koshoken.seesaa.net/

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東京愛書会

期間:2022/11/04~2022/11/05
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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オールデイズクラブ古書即売会(愛知県)

期間:2022/11/04~2022/11/06
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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古書愛好会

期間:2022/11/05~2022/11/06
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新橋古本市

期間:2022/11/07~2022/11/12
場所:新橋駅前SL広場

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2022/11/10~2022/11/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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趣味の古書展

期間:2022/11/11~2022/11/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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日本の古本屋メールマガジンその356 2022.10.11

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部・編集長:藤原栄志郎

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国立ハンセン病資料館 患者たちの手で集め、守った資料  【書庫拝見7】

国立ハンセン病資料館 患者たちの手で集め、守った資料 【書庫拝見7】

南陀楼綾繁

 国立ハンセン病資料館の書庫を見たいと思ったのは、YouTubeで観た一本の動画がきっかけだった。

 今年3月に同館が開催したオンラインミュージアムトーク「図書室からの招待状~頁をめくり、想いを辿る~」は、図書室職員の斉藤聖(あきら)さんが閲覧室や書庫を案内し、この図書室の役割を伝えるものだった。斉藤さんの優しそうな風貌やソフトな語り口が心地よく、見入ってしまった。

 私はハンセン病については無知だ。映画『砂の器』(野村芳太郎監督、1974)で、私が偏愛する俳優の加藤嘉がハンセン病患者の老人を演じ、故郷を追われ、各地をさまよう場面が印象に残っているぐらいだ。ちなみに、松本清張の原作にはこういった描写はない。

 しかし、この連載を担当してくれている晴山生菜さんが代表を務める皓星社は、『ハンセン病文学全集』全10巻(2002~2010)をはじめ、ハンセン病関係の書籍を多く刊行している。しかも、動画に登場する斉藤さんはもともと皓星社の縁で同館に関わるようになったというのだ。

 晴山さんによれば、近年、ハンセン病資料館の活動は活発になっており、展示や外部への発信も盛んだという。私のようにYouTubeをきっかけに、同館に関心を持つ人も多いのだろう。2022年7月には来館者総数50万人を達成するなど、新型コロナウイルス禍であることを差し引いても来館者は増加傾向にあるようだ。そのような情報を手がかりに、私にとっては未知の世界を訪れてみよう。

清瀬駅からハンセン病資料館へ

 7月1日、清瀬駅からバスに乗る。商店街を抜けると、そこから先は国立看護大学校、救世軍清瀬病院、東京病院など、医療関係の施設が目に付く。昔は「病院銀座」と云われていたそうだ。

 「ハンセン病資料館」というバス停で降りる。道を渡ってすぐのところにあるのが、国立ハンセン病資料館だ。ハンセン病問題に関する正しい知識の普及啓発によって偏見・差別の解消をめざす目的で、1993年に「高松宮記念ハンセン病資料館」として開館。2007年に国立ハンセン病資料館となった。同館の奥は、国立療養所多磨全生(ぜんしょう)園の敷地になっている。

 ハンセン病は古来、「癩(らい)病」と呼ばれ、差別の対象となってきた。1907年(明治40)には「癩予防ニ関スル件」が公布され、全国を5区域に区分し、各地に公立療養所がつくられた。1909年(明治42)に設立された全生(ぜんせい)病院が、のちに多磨全生園となる(以下、ハンセン病の歴史については『国立ハンセン病資料館常設展示図録2020』を参照)。

 1931年(昭和6)には、「癩予防法」によって、すべての患者を強制的に療養所に隔離できるようになった。これにより、1934年(昭和9)に20歳で全生病院に入院したのが、北條民雄である。北條は川端康成に小説を送ったところ激賞され、『いのちの初夜』が文學界賞を受賞するが、二十三歳で亡くなる。

 北條はこの地にやって来たときの心境を、『いのちの初夜』でこう綴っている。
「一時も早く目的地に着いて自分を決定するより他に道はない。尾田はこう考えながら、背の高い柊の垣根に沿って歩いて行った。(略)彼は時々立止って、額を垣に押しつけて院内を覗いた」(田中裕編『北條民雄集』岩波文庫)

 全生病院の敷地は3メートル近いヒイラギの垣根と堀で囲まれていた。ヒイラギは一般社会と患者の世界を隔てるものであり、患者の脱走を防ぐものでもあった。

 ハンセン病は、「らい菌」という細菌に感染することで引き起こされる感染症の一種だ。戦後、プロミンという特効薬によって、回復する患者が増えていった。しかし、国は従来通りの隔離政策を続け、多くの人が治った後も故郷や家族のもとに帰ることができず、療養所で亡くなった。

 現在、全国に国立13、私立1のハンセン病療養所があるが、入所者の高齢化などにより、その人数は年々減少している。

国立ハンセン病資料館外観。

病と差別に関する資料群

 ハンセン病資料館の図書室は2階にある。入り口で斉藤聖さんが迎えてくれる。動画と同じく、柔らかい人柄だった。
「皓星社にいた大学の後輩から、ここで資料をデータ化する仕事を紹介されました。当時はハンセン病については何も知らなかったです」と話す。前任者の退職に伴い、2021年に正規の職員となる。働くうちに、ここにある資料が他に替えがきかない、貴重な資料であることが判ってきたという。「本好きの自分にとっては天職みたいな職場ですね」と笑う。

 早速、閲覧室の奥にある書庫に案内していただく。

 図書室の蔵書数は現在3万6000点。そのうち書庫に収蔵されているものは約2万点だ。日本十進分類表(NDC)で配列されるものと、特殊分類の資料がある。後者のうち「H」が付くのは全国のハンセン病療養所や海外の療養所、関連団体・施設に関する資料だ。各療養所の年報や周年誌、報告書などが並ぶ。全生園関連では開院当初から発行されている『統計年報』とともに、『予定献立表』『国内諸行事プログラム』などとテプラ(印字機)で作成されたタイトルが貼られ、製本されたものもある。これらは後述する山下道輔さんらの手になるものだ。

「図書室の資料には図書資料と文書資料があります。図書資料は書籍や雑誌、ファイル類などで、文書資料は公文書や書簡などです。後者は別の収蔵庫に入っています。ただ、このように合本された一部の文書資料は図書資料扱いになることもあります」と、斉藤さんが解説する。

 療養所関係で重要なのは、各療養所が発行する機関誌だ。全生園では1919年(大正8)に『山桜』が謄写版で創刊。1952年に『多磨』と改題し、現在も発行されている。これらの雑誌には園内での患者の生活や感情が反映されており、利用度も高い。そのため、閲覧室に開架されている。

 このほか、1953年に成立した「らい予防法」への反対闘争や、1996年に同法が廃止された後に行なわれた国家賠償請求訴訟(2001年に国が控訴断念)に関する資料も並んでいる。新聞記事をファイリングしたものも多い。

 また、ハンセン病に限らず、水俣病、同和問題など、病と差別に関する資料を広く集めている。

ハンセン病資料館閉架書庫内

全生病院発足当時の『統計年報』

「ハンセン病」の一言を追いかけて――患者作品から週刊誌まで

 一方、NDCで配列された資料では、やはり、494.83(ハンセン病)が最も多い。海外の研究書も多い。次に多いのは900番台の文学で、療養所内で短歌、俳句、詩、小説などの創作活動が盛んだったことを示す。それ以外では、ハンセン病者が療養した草津温泉に関する本や、被差別、天皇制、人権問題に関する本が目に付いた。

 タイトルに「らい病」「ハンセン病」と入っていない本でも、どこかに記述があれば、スタッフ用の検索システムでヒットするようになっている。

 雑誌の棚には学術誌のほか、ハンセン病関連記事が載った一般誌もある。熊本ホテル宿泊拒否事件(2003)のルポが載った『女性セブン』、実在の回復者をモデルとした「すばらしきかな人生」掲載の『ビッグコミック』など。

 別の棚には、写真家の趙根在(チョウグンジェ)さんの蔵書約4000冊が並んでいる。趙さんは1961年に全生園を訪れたことから、全国の療養所で患者を撮影。指先に知覚麻痺のある視覚障碍者が舌で点字を読む様子を撮った写真が印象深い(『この人たちに光を 写真家趙根在が伝えた入所者の姿』国立ハンセン病資料館展示図録)。1997年に亡くなった後、寄贈された蔵書にはハンセン病関連はもちろん、歴史や民俗、文学に関する本も含まれる。本人が残したメモや付箋もそのままにされている。

 また、一番奥の棚にはマイクロフィルム化された資料の原本が、中性紙の箱に入れて保存されている。いずれも貴重なものばかりだ。その中には園内で子どもたちが通った「全生学園」の児童文芸誌『呼子鳥』(1934年創刊)や、映画『砂の器』の脚本もある。

 書庫を一通り見終えて、これまで知らなかったハンセン病の世界に、本を通じて少しだけ触れられた気持ちになった。

1928年から英国で発行されている研究雑誌『Leprosy Review』の合本

趙根在旧蔵書

マイクロフィルム化された資料の原本。

児童文芸誌『呼子鳥』。表紙の版画も子どもたちによるもの

全生図書館の時代

 ハンセン病資料館の図書室が現在のようになるまでには、多くの人たちの血がにじむような努力があった。

 全生病院に図書館ができたのは、1921年(大正9)。娯楽場内の一画だった(以下、全生園の歴史については、多摩全生園患者自治会編『倶会一処(くえいっしょ) 患者が綴る全生園の七十年』一光社 を参照)。雑誌『山桜』を創刊した栗下信策の熱意に基づくものだった。ここで所蔵されていたのは、一般教養のための書籍や雑誌が中心だったようだ。

 1936年(昭和11)には、新しい図書館が竣工。「全生図書館」となる。建材は上野の帝室博物館(現・東京国立博物館)を解体した際、一部を払い下げてもらったという(『ガイドブック 想いでできた土地』国立ハンセン病資料館)。現在、この建物は理髪・美容室となっている。「蔵書も沢山あり良く利用したものだ」(「写真で綴る思い出album」、『多磨』2010年1月号)という回想もある。

 この図書館の担当だったのが、入所者の松本馨だった。松本は「いつかは、われわれが『らい』の歴史を告発しなければ、と、そのころから考えており、そのため『らい』の文献だけの書棚を作り、貸し出しはせずに、カギをかけて保管していた」(瓜谷修治『ヒイラギの檻 20世紀を狂奔した国家と市民の墓標』三五館)。

 その後、松本は子どもの患者たちが暮らしている少年舎の寮父となり、数年後に戻ってみると、ハンセン病関係の資料を収めた書庫は無残な状態になっていた。「北条【ママ】民雄のものを集めた『北条文庫』も消え、本らしい本は残っていなかった」という。

 北條民雄の蔵書については、別の証言もある。北條とともに全生園で暮らした光岡良二は、北條の没後、形見分けとして蔵書から何冊かもらった。あとの本は全部患者図書室(全生図書館)に寄贈するつもりだった。

 しかし、病院側から「患者図書館内に『北条文庫』を作って永く記念するつもり」だから形見分けした本を返せと云われる。光岡らは生前の北條を厄介者扱いした病院当局が、死後、北條が文壇で知られるようになったことを利用しようとすることに怒った。

 「昭和二十三年、私が七年間の隔たり(引用者注:社会復帰のこと)をおいて再入院して来た時、患者図書館の書庫の『北条文庫』の棚は、どの全集もほとんど数冊の端本となり、北条の蔵書とは何の関係もない雑本が混り込み、惨憺たる荒廃の姿を曝していた。(略)当局がわざわざ設けた記念文庫にふさわしい管理の責任と誠意をそそいでいなかったことは明らかであった」(光岡良二『いのちの火影 北条民雄覚え書』新潮社)

 入所者にとって、図書館は「娯楽というより救いのオアシス」で「苦しい療養生活を支えてくれた大きな柱」だったことは間違いない(柴田隆行「解題にかえて」、山下道輔『ハンセン病図書館 歴史遺産を後世に』社会評論社)。しかしその一方で、ハンセン病関係の資料はないがしろにされていたのだ。

山下道輔さんとハンセン病図書館

 そこに登場するのが、前に触れた山下道輔さんだ。以下、『ハンセン病図書館』『ヒイラギの檻』に拠って経緯を見ていく。

 山下さんは1941年(昭和16)2月に、12歳で同じ病気だった父とともに全生病院に入った。この年7月には、全生病院は厚生省の所管となり、「国立癩療養所 多磨全生園」と改称される。

 翌年、山下さんは少年舎「祥風寮」に入る。ここで寮父の松本馨と出会う。松本は17歳のとき、ハンセン病と宣告されて自殺を決意するが、「おれは何のために生まれたのだ」という問いを解くために踏みとどまっている。それだけに、少年舎の子どもたちを熱心に指導した。小説を読み聞かせ、作文と詩を書かせた。このとき山下さんと一緒に学んだのが、のちの詩人・谺雄二だった。

 1966年、活動の停滞により自治会が閉鎖される。その後、1969年に再建されるが、そのとき中心となったのが松本だった。自治会は全生園創立60周年記念事業として、全生図書館内に「ハンセン氏病文庫」を設置することに決めた。そこにはハンセン病の資料を残すことが自分たちの責務であるという、松本の強い思いがあった。

 山下さんは当時、全生図書館の図書委員だった。
「そのとき山下が、『おとっつぁん、オレに資料やらせてくれ。資料に一生かける』と申し出て、資料室の責任者を任された」(『ヒイラギの檻』)

 その言葉通り、山下さんは谺をはじめ各地の療養所の知人に、手紙で資料の寄贈を依頼。神保町や園の周囲の古本屋をめぐり、ハンセン病関係の資料を収集した。

 1977年、創立70周年記念事業として、鉄筋コンクリート造りの「ハンセン氏病図書館」が建てられる(のちに「ハンセン病図書館」と改称)。この場所には、かつて「秩父舎」があり、北條民雄が暮らしていた。名作『いのちの初夜』が生まれた場所に図書館ができるとは、縁を感じる。

 山下さんの資料収集はここで本格化する。二代目園長だった林芳信が亡くなったときには、その蔵書を受け取りに行く。自治会長の松本が業務で各地の療養所に出向く際には付き添って、各園の本棚に同じ本が二冊並んでいると、一冊寄贈してもらうよう頼んだ。
「当時の私の頭には『ハンセン病に関する本ならどんな本でも手に入れたい』という思いしかありませんでした」(『ハンセン病図書館』)

  「ハンセン」という単語に反応しすぎて、プロレスラーのスタン・ハンセンが出てくる本まで入手したというエピソードもある(山下さんと交流の深い写真家・黒崎彰氏のインタビューhttps://leprosy.jp/people/kurosaki/)。本好きなら共感してしまう、行きすぎたハマりっぷりだ。

 林文庫と並んで同館の重要な資料が、『見張所勤務日誌』だ。園内の巡視の報告、郵便、死亡、葬式、面会、帰省などが記録されており、「当時の患者がいかに園・職員の支配下にあったか、それを証明する第一級の資料」だ(『ハンセン病図書館』)。園が所有していたこの資料が処分されようとしたとき、山下さんらが駆け付け、荒縄でくくられたそれらを救出した。

 『見張所勤務日誌』はかなり傷んでいたため、製本に詳しい知人が入所者の「佐藤さん」に指導しながら、製本を進めた。その後、山下さんと佐藤さんは600冊以上を製本したという。佐藤さんが手がけた製本は、いまもハンセン病資料館の図書室にあるが、プロ並みにしっかりした出来だ。

 山下さんは司書としての教育を受けておらず、独自のやり方でハンセン病図書館を運営した。そのどれもが、ハンセン病の専門図書館という特殊性を踏まえたものであることに感心する。

 同館ではNDCに拠らず、「短歌」「俳句」「論文」「ハンセン病資料」などに分類し、それらをまず全生園を先頭に、療養所単位で並べていく。

 療養所の機関誌が重要な資料であることは前に触れたが、同館では全生園が出していた『山桜』のある年の号がごっそり抜けていた。山下さんは全生園の医局の図書館から借りだした原本を手書きで筆写した。不自由な体で根を詰めすぎて、入院するほどだった。

 資料を集めるとともに、それが活用されなければ意味がないとも考えていた。ハンセン病について調べる研究者や学生に全面的に協力し、資料の館外貸し出しも行なった。その代わり、彼らの論文が発表されるとそれを寄贈してもらう。そうやって、蔵書を充実させていったのだ。

 その後、本だけでなく、入所者の生活に関する物品も集めるようになり、二年後にそれらを収容するプレハブ小屋も建てた。
『ハンセン病図書館』には、山下さんの話をもとに同館の見取り図が描かれている。「山下の城 ここで実に多くの人と本について語りあった」という一文に胸が詰まる。ここにはたしかに、本がつないだ人の縁があった。

 「資料を集めて、保存して、そこから利用者が希望する資料を探し出しては提供する。それを手にしたときの利用者の方の喜ぶ顔が何より自分への褒美でした。人の役に立てるというのは、生きている甲斐があるというものです」(『ハンセン病図書館』)

山下さんが筆者した『山桜』

ハンセン病図書館から、ハンセン病資料館図書室へ

 1993年、全生園の隣に「高松宮記念ハンセン病資料館」が開館した。

 ハンセン病の資料を収集保存するという趣旨に賛同し、山下さんはハンセン病図書館の蔵書の一部を寄贈する。しかし、資料館が貸出に消極的な姿勢をとっていることについて不満を持ち、「資料を保存することも大切ですが、それを死蔵させてはいけないと思います」(『ハンセン病図書館』)と述べている。その後も、外部のボランティアと一緒に資料の整理に携わっている。

「当時の図書室は一階の入り口近くにありました」と、2001年から資料館の図書室で働くようになった福富裕子さんは話す。2007年、資料館が国立となり、施設がリニューアルした際に図書室はいまの場所に移る。

 資料館の国立化にともない、山下さんは自治会長からハンセン病図書館が閉鎖されることを告げられ、呆然とする。資料館とハンセン病図書館は別の組織であり、国立化は理由にならないと思うのだが、自治会の真意は判らない。

 ハンセン病図書館は2008年に閉鎖され、蔵書のうち大部分は資料館の図書室に移された。林文庫もここに含まれる。それ以外の資料は、それまでの経緯に釈然としない思いを抱いていた山下さんが、『見張所勤務日誌』のように一部の貴重な資料を親友である谺雄二さんに託した(現在は資料館が所蔵)。現在、閲覧室には、約5000冊の旧蔵書が並ぶ。

山下さんは「資料集めは、遅れてやってきた、わたしの『らい予防法闘争』だ」と語った(『ヒイラギの檻』)。ハンセン病に関する資料を集め、研究者に提供することで、国のハンセン病に関する姿勢を告発しようとしたのだ。

 それとともに、山下さんにとって若い頃から本はなくてはならないものであり、本を集めることが生き甲斐だった。そして、自分が集めた資料の価値を理解してくれる研究者を全力で応援した。

「山下さんから『ハンセン病に興味のある学生が来館したら紹介してほしい』と云われて、何人か紹介しました。あとで論文を書いた人もいます」と、福富さんは話す。若い人にハンセン病研究の未来を託したいという気持ちがあったのだろう。

 開館以来、資料館の運営団体は三度変わっている。図書室も以前は利用しにくい面があったが、現在では開かれた図書室へと変化している。

 現在は、所蔵資料のデータベース化が進み、レファレンスにも丁寧に対応する。館外貸し出しを行なうのは、国立の資料館の図書室としては異例だが、山下さんのハンセン病図書館の伝統を受け継いだと思えば納得する。

「ハンセン病に関して何かしたいという人の役に立つ図書室であってほしい」と、退職した福富さんは云う。その願いは、かつて山下さんが抱いたものでもあっただろう。そして、いま、この図書室を守る斉藤さんの思いでもある。

 ハンセン病の資料をめぐって、過去、現在、そして未来を垣間見た思いだ。

 ハンセン病療養所の人たちが、どんなに過酷な生活を強いられてきたかを、ハンセン病について何も知らなかった私が理解できたと云うのは傲慢だろう。しかし、山下道輔さんの本に対する執念だけは、自分のこととして実感できる。彼のような稀代の本好きのおかげで、多くの資料が受け継がれているのだ。

 聞けば、他の療養所の書庫にも、貴重な資料が所蔵されているのだという。せっかくだから、そこにも足を延ばそう。そうすることで、ハンセン病との距離を少しでも縮めたい。

【追記】国立ハンセン病資料館の常設展示も企画展も素晴らしいので、ぜひご覧ください。また、過去の展示図録や紀要は、在庫があれば無料で入手できます。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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2022年9月26日号 第355号

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」を読むにあたって
                          中村文孝

2.あまりにも、あまりにも底辺な      古書現世 向井透史

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━【自著を語る(296)】━━━━━━━━━━

「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」を読むにあたって
                          中村文孝

 図書館には国会図書館から専門、大学、学校、私設の図書館まであ
るが、この本では公共図書館について述べている。

 公共図書館は地方自治体が税金を原資に運営している関連施設のひ
とつで、利用されたことのない人はほとんどいないはずだ。が、多く
の利用者は、税金で運営されている他の公共施設と同様に、図書館を
「無料」の貸本屋としてしかみていないのではないか。そこがまず最
初の問題だ。

 図書館の貸出冊数が書店の推定販売冊数を超えたのが、2010年だが、
それ以降は差が拡がるばかりだ。今や本を読むとは、本を買うことか
ら始まるのではなく、借りることからになってしまった。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9960

『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』 中村文孝・小田光雄 著
論創社刊
ISBN978-4-8460-2179-5
定価:本体2,000円(税別) 好評発売中!
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━【自著を語る(297)】━━━━━━━━━━━

あまりにも、あまりにも底辺な       古書現世 向井透史

 久しぶりに単行本を出させてもらうことになった。
2006年にまとめて2冊(『早稲田古本屋日録』(右文書院)『早
稲田古本屋街』(未來社))出させて以来なので16年ぶりになる。
雑誌連載の単行本化で、2010年夏から2021年末までの日記で
ある。まぁ「日記」というか、毎月店先や街中で見た面白いことを書
いたり、思ったことを書いたものと言った方がいいだろうか。

 一九九一年に高校を卒業してすぐに父親の古本屋で働き始めた。店
番などの他に、卒業式の一週間後に何をするところかも知らないまま
に神保町にある業者の市場で週一回働きはじめて古本屋としての一歩
を踏み始めた。もうキャリアも三十年を超えてしまったのだなぁと改
めて思う。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9970

『早稲田古本劇場』 古書現世 向井透史 著
本の雑誌社刊
ISBN978-4-86011-472-5
定価:2,200円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114728.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『全国タウン誌総覧
  ―地域情報誌・ミニコミ・フリーペーパー・8700誌』 柴田志帆 著
皓星社刊
B5判上製 632ページ
定価:15,000円+税
978-4-7744-0770-8
好評発売中!
https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774407708/

『流木記 ある美術館主の80年』 窪島誠一郎 著
白水社刊
四六判 258ページ
定価 2,400円+税
978-4-560-09894-3
好評発売中!
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b600629.html

『増補新版 東北の古本屋』 折付桂子 著
文学通信刊
四六判・並製・312頁(フルカラー)
定価:本体1,800円(税別)
ISBN978-4-909658-88-3 C0095
10月中旬刊行予定
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-88-3.html

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あまりにも、あまりにも底辺な

あまりにも、あまりにも底辺な

古書現世 向井透史

 久しぶりに単行本を出させてもらうことになった。
2006年にまとめて2冊(『早稲田古本屋日録』(右文書院)『早稲田古本屋街』(未來社))出させて以来なので16年ぶりになる。雑誌連載の単行本化で、2010年夏から2021年末までの日記である。まぁ「日記」というか、毎月店先や街中で見た面白いことを書いたり、思ったことを書いたものと言った方がいいだろうか。

 一九九一年に高校を卒業してすぐに父親の古本屋で働き始めた。店番などの他に、卒業式の一週間後に何をするところかも知らないままに神保町にある業者の市場で週一回働きはじめて古本屋としての一歩を踏み始めた。もうキャリアも三十年を超えてしまったのだなぁと改めて思う。

 入る前は古本屋の生活はとても静かなものだと思っていた。店主もお客さんもおとなしく知的な雰囲気の方々ばかりなのだと。しかしながらいざ入ってみると同業者はとてもクセが強い人が多く自分がずっと柔道部として関わってきた体育会系の雰囲気に近く感じた。初めて行った古本市では年配のお客さん同士が怒鳴り合ってケンカになっていたり、何かすごく恐ろしいものを見た気になったりもした。自分のような十代の古本屋なんて周りにいなくて、年齢が近い人でも十歳くらい上の人が当たり前の世界で、市場の度に真夜中まで飲みに連れて行かされてふらふらになっていた。当初はとんでもない所に入ってしまった、と気持ちが落ちた時もあった。

 店番は店番でまたありとあらゆることが店頭でおきた。スーツ姿で鎧兜をかぶった人が目の前に現れた時は動きが止まった。普通に立ち読みをしているだけで行動に不思議なところは無い。とはいえ鎧兜をここにつけてくる状況はどうしても思い浮かばない。天狗のお面をつけた人が入ってくることもあった。店というのはまさにストリートの延長なのだなと思うことが次から次へと起こるのであった。決して広いとは言えないうちの店ではあるけれど、そこは様々な人間がありとあらゆる人生を披露する舞台なのだと思うようになっていった。自分は帳場と言う特等席からそんなたくさんの出来事をずっと見て楽しんだり哀しい気分になったりと感情を揺らしてきた。
 
 たかが10年ではあるが、2011年には東日本大震災があり、ここ数年はコロナ禍で身動きとれなくなったりと激動の10年だった。しかしながら、ほぼほぼ「売れない」しか書いてないなとびっくりする。古本屋としては三流もいいとこなのは自覚しているもののよくやってるなぁと思う。でも改めてこうして振り返るとなんだかんだで店は楽しいな、と思う。今どきのお店のように素敵な雰囲気も無く、限りなく不真面目な生き方の自分ではあるが、なんとかかんとか安い本を売って生きてきた。この本は、いまや絶滅危惧種の底辺個人店主の哀しみと楽しみの日々だ。

 たまにくる「古本屋になりたい」という人に自分は絶対に「やりましょう」とは言わない。うまくいってない自分がそんなことを言えないからだ。でも、始めてしまって苦しんでいる人には村西とおる監督のようにこう言いたい。「下を見ろ、俺がいる」。こんな人でも生きている。本の蘊蓄など皆無で、古本屋を知らなくても楽しんでもらえる、と思います。
この不安な時代に読んで、少しでも笑っていただけましたら。よろしくお願いいたします。
 
 
 
 


早稲田古本劇場 古書現世 向井透史 著
本の雑誌社刊
ISBN978-4-86011-472-5
定価:2,200円(税込) 好評発売中!
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114728.html

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「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」を読むにあたって

「私たちが図書館について知っている二、三の事柄」を読むにあたって

中村文孝

 図書館には国会図書館から専門、大学、学校、私設の図書館まであるが、この本では公共図書館について述べている。

 公共図書館は地方自治体が税金を原資に運営している関連施設のひとつで、利用されたことのない人はほとんどいないはずだ。が、多くの利用者は、税金で運営されている他の公共施設と同様に、図書館を「無料」の貸本屋としてしかみていないのではないか。そこがまず最初の問題だ。

 図書館の貸出冊数が書店の推定販売冊数を超えたのが、2010年だが、それ以降は差が拡がるばかりだ。今や本を読むとは、本を買うことから始まるのではなく、借りることからになってしまった。

 せめて文庫や雑誌などの廉価本は、購入することを心がけねば、読者としての矜持を失うばかりでなく、出版界の基礎体力を奪ってしまい、本を刊行し続けることが叶わなくなってしまう。 

 テレビや新聞が、その使命を報道から権力の広報へシフトし、SNSがいまいちその信頼性に欠けるいま、出版はラジオと共に貴重なジャーナリズムのツールになっている。少なくとも、多様な意見を発表できる場所になっている。これを滅ぼしてならないのは自明のことである。現在の逼塞した出版状況では、応援購入(消費ではなく)が必要になってきている。これが第二の問題。

 出版物の様々な流通ルートのひとつに取次・書店ルートなるものがある。またの名を「正常ルート」と称し、以前は7割近くのシェアを占めていた。書店は、自らこのルートを王道のように、その他のルートを邪道のように扱い、再販委託制度とともに護持してきたのである。その邪道のひとつに図書館ルートがあった。

 つまり、書店は図書館を競合相手と見做していた。それはまた、一緒に本を読者のもとに届ける仲間ではなく、商売上の取引先と見ていた。逆に、図書館は書店を出入りの業者としてしか見ていなかったといえる。第三の問題は、導入する本の選書を含め、公共図書館と地元書店との関係性を構築出来なかったことにある。

 第四は、図書館が主要業務の外部化を推進してしまったことだ。書店が自らの仕入能力を失っていった後を追うように、図書館も自らの選書能力を外部に委ねてしまったのである。TRC(図書館流通センター)のMARCなどのシステムの導入で囲い込まれた上に、新刊パックの受入れによる選書業務の放棄である。その弊害はあまりにも大きい。

 多少の問題と思い込みはあったにしても、戦後からの図書館の普及活動を支えてきた先人の思いを無惨に打ち砕くものであるという自覚はないのだろうか。

 古書店・古本市場からの購入は、大学の一部と専門図書館以外からは殆どないと聞く。せめて郷土資料などは、地域に応じて独自に購入してほしいものだが、取次扱いの本のみ、それもパックになったものしか導入できない公共図書館には期待してはいけないのかもしれない。

 これからの最大の関心事は、本の電子化についてであろう。すでに始まっているが、まだ拡がりをみせていないうちに考えておくことがある。紙に書かれたものは、画像を含めすべてデジタル化、データ化が可能になることはもはや間違いない。これは書店だけではなく、図書館の存在をも脅かす。データベースセンターなるものからは新刊は有料で、一定期間後は無料で配信される時代になるだろう。ただし、全て情報は管理者に筒抜けになり、それでも受信を選びますか、ということだ。そして既刊本での収入がなくなり、ほとんどの出版社も疲弊し、消えてゆく。

 改めて言うが、図書館の主要業務とは、リファレンスと選書であり、多様な資料の公開である。そして改善すべきは、それを支える図書館長の適切な配置と図書館員の就業環境の整備である。

 また、利用者も勘違いしないことだ。図書館での利用者は顧客ではない。図書館員とはパートナーであり、まして本を読むとは読者になることであって、消費者になることではない。   (了)
 
 
 
 


私たちが図書館について知っている二、三の事柄 中村文孝・小田光雄 著
論創社刊
ISBN978-4-8460-2179-5
定価:本体2,000円(税別) 好評発売中!
https://ronso.co.jp/

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2022年9月9日号 第354号

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 古書市&古本まつり 第116号
      。.☆.:* 通巻354・9月9日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見6】━━━━━━━━━

長岡市立中央図書館・文書資料室
 戦災から復興した「文化の町」の象徴
                         南陀楼綾繁

 6月18日、JR長岡駅の大手口からタクシーに乗る。図書館までと
告げると、男性の運転手に「互尊文庫ですね?」と確認される。
これまで各地で運転手の「図書館? どこですか?」という反応に
遭ってきただけに、「互尊文庫で判るんですね」と驚くと、「長岡
のタクシーで互尊文庫知らない奴はモグリですよ!」という言葉が
返ってきた。

 話している間に明治公園に到着する。この敷地内にあるのが互尊
文庫だ。1987年に駅の東口の学校町に長岡市立中央図書館ができる
までは、ここは市立図書館の本館だった。現在は地域館のひとつに
なっている。4階建てで、1階に開架、2階に新聞雑誌コーナーと閲
覧室がある。古い建物なのでエレベーターはない。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9924

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

長岡市立中央図書館
https://www.lib.city.nagaoka.niigata.jp/?page_id=440

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショ怪談 坪井書店
多摩書房 西多摩と少年倶楽部と香山滋
コショなひと 大屋書房 前編
バックヤード拝見 坪井書店 2
多摩書房 文学趣味に生きる

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【9月9日~10月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2022/09/01~2022/09/14
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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TOKYO BOOK PARK 立川

期間:2022/09/02~2022/10/02
場所:PAPER WALL  エキュート立川 3階

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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丸善仙台アエル店20周年記念 バーゲンブックフェア 古本市(宮城県)

期間:2022/09/06~2022/09/20
場所:AER1階アトリウム 仙台市青葉区中央1-3-1

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第103回 彩の国 所沢古本まつり 2022(埼玉県)

期間:2022/09/07~2022/09/13
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

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第46回古本浪漫洲 Part 3 ※8/5一部内容更新しました

期間:2022/09/07~2022/09/09
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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書窓展(マド展)

期間:2022/09/09~2022/09/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第142回 倉庫会 古書即売会(愛知県)

期間:2022/09/09~2022/09/11
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

https://twitter.com/NAGOYAsoukokai

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好書会

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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第46回古本浪漫洲 Part 4

期間:2022/09/10~2022/09/12
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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はくぶつかん古書市(愛知県)

期間:2022/09/10~2022/09/19
場所:名古屋市博物館  名古屋市瑞穂区瑞穂通1-27-1

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御茶ノ水ソラシティ古本市

期間:2022/09/11~2022/09/18
場所:御茶ノ水ソラシティプラザ 千代田区神田駿河台4-6 地下1階
   JR御茶ノ水駅 徒歩1分、東京メトロ新御茶ノ水駅聖橋方面改札直通

https://twitter.com/koshoichi

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第46回古本浪漫洲 Part 5(300円均一) ※8/5一部内容更新しました

期間:2022/09/13~2022/09/15
場所:新宿サブナード2丁目催事場  新宿区歌舞伎町1-2-2

https://kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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趣味の古書展

期間:2022/09/16~2022/09/17
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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♭立川フロム古書市ご案内♭

期間:2022/09/16~2022/09/27
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣)3階バッシュルーム(北階段際)

http://mineruba.bookmarks.jp/saiji.htm

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第4回南大沢古本まつり

期間:2022/09/17~2022/09/22
場所:京王相模原線南大沢駅前~ペデストリアンデッキ~三井アウトレット前特 設テント

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2022/09/22~2022/09/25
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)

https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2022/09/23~2022/09/24
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2022/09/23~2022/09/24
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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中央線古書展

期間:2022/09/24~2022/09/25
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新橋古本市

期間:2022/09/26~2022/10/01
場所:新橋駅前SL広場

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第2回 サンモール古本市 in 金港堂(宮城県)

期間:2022/09/29~2022/11/06
場所:金港堂本店 仙台市青葉区一番町2-3-26

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西部古書展書心会

期間:2022/09/30~2022/10/02
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2022/10/06~2022/10/09
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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城南古書展

期間:2022/10/07~2022/10/08
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第22回 四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2022/10/07~2022/10/12
場所:大阪 四天王寺境内内 大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

http://kankoken.main.jp/

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古書の日即売会(愛知県)

期間:2022/10/07~2022/10/09
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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第27回八王子古本まつり

期間:2022/10/07~2022/10/11
場所:JR八王子駅北口ユーロード特設テント

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横浜めっけもん古書展(神奈川県)

期間:2022/10/08~2022/10/09
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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横浜市歴史博物館・古書フェア(神奈川県)

期間:2022/10/12~2022/10/23
場所:横浜市歴史博物館1階エントランス(入館無料エリア)
   横浜市営地下鉄ブルーライン・グリーンライン「センター北」駅より徒歩5分
   https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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ぐろりや会

期間:2022/10/14~2022/10/15
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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本の散歩展

期間:2022/10/14~2022/10/15
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/10/14~2022/11/02
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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日本の古本屋メールマガジンその354 2022.9.9

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 広報部・編集長:藤原栄志郎

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長岡市立中央図書館・文書資料室 戦災から復興した「文化の町」の象徴  【書庫拝見6】

長岡市立中央図書館・文書資料室 戦災から復興した「文化の町」の象徴 【書庫拝見6】

南陀楼綾繁

 6月18日、JR長岡駅の大手口からタクシーに乗る。図書館までと告げると、男性の運転手に「互尊文庫ですね?」と確認される。これまで各地で運転手の「図書館? どこですか?」という反応に遭ってきただけに、「互尊文庫で判るんですね」と驚くと、「長岡のタクシーで互尊文庫知らない奴はモグリですよ!」という言葉が返ってきた。

 話している間に明治公園に到着する。この敷地内にあるのが互尊文庫だ。1987年に駅の東口の学校町に長岡市立中央図書館ができるまでは、ここは市立図書館の本館だった。現在は地域館のひとつになっている。4階建てで、1階に開架、2階に新聞雑誌コーナーと閲覧室がある。古い建物なのでエレベーターはない。

 2階の「文書(もんじょ)資料室」に入ると、室長の田中洋史さんが出迎えてくれた。私は5年ほど前から「新潟日報おとなプラス」で記事を書いているが、田中さんには何度も助けてもらった。めんどくさい問い合わせにも嫌な顔をせずに、いつも丁寧に答えてくれる。長岡市生まれで、「互尊文庫には子どもの頃からよく来ていました」と話す。

現在の互尊文庫。手前にあるのは野本恭八郎(互尊翁)の胸像。

互尊文庫のなりたちと野本恭八郎

 互尊文庫が現在のかたちになるまでには、数奇な経緯があった。そこには戦争と災害が大きく影響している(以下、『長岡市立図書館開館100周年記念誌』長岡市立中央図書館、『大正記念長岡市立互尊文庫 市立図書館の開館と戦災復興』長岡市史双書57 を参照)。書庫を拝見する前に、その辺を整理しておこう。

 長岡における最初の図書館は、1885年(明治18)に読書会「友共社」が設立したものだった。日露戦争後には長岡倶楽部が戦勝記念私立長岡図書館を設立し、友共社と合併した。しかし、日曜だけの開館だったこともあり、閲覧者は減少した。

 1918年(大正7)、初の市立図書館として「大正記念長岡市立互尊文庫」が開館。その建設費・維持費を寄付したのが、実業家の野本恭八郎(1852~1936)だった。

 野本は「互尊独尊」(自分の天分を尊び、人の天分を尊ぶ)の思想を持ち、「互尊翁」と呼ばれた。生涯にわたり社会に奉仕する姿勢を持っていた。野本は長岡市と契約書を交わし、寄付の条件として「緑の多い所に建設すること」「文庫の経営は長岡市立とすること」「風水害などの自然災害で、互尊文庫が被害を受けた場合は復旧し、長年の維持を確保すること」などを挙げた。「寄付の総額は、当時の長岡市の年間予算に匹敵しました」と田中さんは云う。

 最初の互尊文庫は東坂之上町にあった。駅に近く、現在は長岡グランドホテルのある辺りだ。そこは、戊辰戦争で荒廃した長岡を復興させた三島億二郎の邸宅の跡地だった。互尊文庫は洋風木造2階建て。レンガ造り3階の書庫も併設された。1937年(昭和12)には、前年に亡くなった野本の遺志により、鉄筋コンクリート3階建ての第2書庫が竣工する。

 この時期、本はほとんどが書庫に納められて、利用者の請求に応じて出納する方式だった。そのため、「職員の労働量は非常なもの」で、次のような事件が起こった(『館報 創立四十年記念号』長岡市立互尊文庫)。
「或る男子出納手、年令は十七歳、一夜型の如く閉館になつたので、多勢の入館者の使用した図書を最後の力を絞つて書庫の中に運び入れ、正しく棚に排列していたが、遂に力尽きたのか、グツタリ書庫の中に眠りこんでしまつた。夜十一時過ぎても帰らないので、自宅から電話で問合せがくる。まさか書庫の中で白河夜舟を漕ぎ続けているとは想像もされず、大騒ぎとなつた」

長岡空襲を乗り越えて

 1941年(昭和16)には、蔵書数(約6万5000冊)、閲覧人数ともに全国市立図書館22館中6位になったと、「新潟県中央新聞」が報じている(『大正記念長岡市立互尊文庫』)。

 しかし戦時色が強まると、新聞閲覧室などを市の警防団に提供、閲覧室などを陸軍や憲兵派遣所に提供することになった。

 そして1945年(昭和20)、8月1日、長岡はB29に空襲される。このとき、市街地の8割が罹災し、1488名の死者が出た。互尊文庫も空襲により「本館は全焼、第1書庫はレンガが崩れ落ち、第2書庫は窓から火を吹き数日間燃えていました」(『100周年記念誌』)。この様子を土田邦彦が描いた「火を吹く互尊文庫の書庫」という絵からは、痛ましい思いが伝わる。これにより、約7万8000冊の蔵書が失われた。

 互尊文庫の職員は一日も早く再開すべく、第2書庫を事務所にした。「職員はリュックを背負って、空襲を受けなかった村を回り、本を集めたそうです」と田中さん。日本互尊社から2000冊、三条市立図書館、新発田市立図書館、県立新潟図書館などの応援を得て3000冊を寄贈され、終戦後の9月11日に開館した。

 その後、1948年に現在の明治公園内に新館を開館。本館は木造2階建て、書庫は鉄筋コンクリート造3階だった。市には建設費の余裕がなく、繊維卸商の内藤伝吉の寄付によるものだった。野本互尊翁に続き、ここでも民間の力が互尊文庫を支えた。戊辰戦争時に教育を重視した藩士・小林虎三郎のいわゆる「米百俵」の精神が、長岡の人たちには脈々と流れているのだ。

 そして1967年には、市制60周年を記念し、現在の互尊文庫が建設された。

 先に触れたとおり、1987年には長岡市立中央図書館が開館。それまで互尊文庫が所蔵していた貴重書は、中央図書館に移管された。同館の書庫には、互尊文庫の歴史を示す資料が見つかる。

 たとえば、『大正記念長岡市互尊文庫一覧』は、各年度の蔵書数・閲覧人数などの統計や図書・雑誌寄贈者の芳名が記載されている。
『大正記念長岡市立互尊文庫館則』(1919)は、利用者の注意事項をまとめたパンフレットで、市会議員・長部榮吉の名が記入された優待券が添付されている。「本券を受付に示し特別閲覧票を受取る」ようにとある。

 1921年(大正10)版の『互尊文庫図書目録』には、「新潟県立図書館蔵書」の印と、「昭和二十年十一月一日 県立図書館寄贈」の印がある。これは、互尊文庫から県立図書館に寄贈されたものが、戦災後に県立から互尊文庫に戻されたものであることを示す。

 また、江戸時代中期写本の『東鑑五十二巻』には、「大林館山口氏」の蔵章と1947年に「山口誠太郎寄贈」の印がある。山口氏は横澤村(現・長岡市小国町横沢)の庄屋で、野本互尊翁の実家である。これも戦災で蔵書を失った互尊文庫のために、山口家が協力したのだと思われる。

文書資料室が所蔵する資料の目録が並ぶ棚。

互尊文庫の優待券(長岡市立中央図書館所蔵)。

新潟県立図書館から互尊文庫に戻された『互尊文庫図書目録』(長岡市立中央図書館所蔵)。

文書資料室と在野研究者たち

 戦後の互尊文庫は、公共図書館であるとともに、長岡の文化の拠点でもあった。

 1959年には「長岡郷土史研究会」が発足。互尊文庫の内山喜助館長は「図書館にとって、郷土史研究が大切だ」と説き、同志とともに同会を組織。機関誌『長岡郷土史』を発行した(稲川明雄「内山喜助館長からの伝言」、『長岡郷土史』第37号、2000年5月)。

 また、長岡出身の作家で、夏目漱石の娘婿である松岡譲を偲んで、1976年に「長岡ペンクラブ」が結成され、機関誌『Penac(ペナック)』を創刊した。内山は同誌にも尽力した。

 1998年、互尊文庫内に長岡市立中央図書館文書資料室が開設。『長岡市史』のために収集された古文書や歴史公文書など、約22万点を収蔵する。
「この中で一番古いものは、1592年(慶長2)の『安禅寺御用記』です。長岡市の文化財にも指定されています」と、田中さんは云う。

 最初の室長は稲川明雄。中央図書館館長や河井継之助記念館館長も務め、長岡の郷土史に関する著作も多い。稲川は前館長の内山から引き継いで、『長岡郷土史』『ペナック』『互尊文芸』などの事務局を引き受けていた。「本づくりへのこだわりの強い人でした」と、田中さんは回想する。2019年没。

 開室の翌年には、「長岡市史双書」の続刊を開始。歴史、民俗についての資料をまとめるもので、現在61冊が刊行されている。

 同室が在野の研究者といい関係にあるのは、コレクションからも感じられる。閲覧室にはテーマ別の目録が並んでいるのだが、そこには「自転車チラシ」「各種商店しおり・メニュー」「長岡市厚生会館写真」「市内書店ブックカバー」「ナガオカ丸大買物袋」などが見つかる。個人が収集したものを同室に寄贈しているのだ。

 その中のひとつである、マッチラベルのコレクションには、昨年惜しまれながら閉店した喫茶店〈シャルラン〉のラベルもあった。先の松岡譲も通った店である。

 寄贈者には『長岡郷土史』や『ペナック』に参加している人も多く、市内の新潟県立博物館で毎年開催されている「マイ・コレクション・ワールド」展に、自分のコレクションを出品している人もいる。個人と資料室のコレクションを相互に参照することができるのがいい。
「書庫に潜って、こんな資料があったのかと思いながら過ごす時間が好きなんです」と、田中さんは話す。

長岡市内の喫茶店のマッチラベルのファイル(長岡市立中央図書館文書資料室所蔵)。

中越地震から生まれた長岡災害復興文庫

 文書資料室でもうひとつ重要な資料群は、「長岡市災害復興文庫」だ。

 2004年10月、新潟県で中越地震が発生した。
「地震の際は資料室内にいました。爆発したような揺れで、本棚から本が落ちました。中央図書館はライフラインが無事だったこともあり、臨時の避難所になりました。私はたまたま阪神・淡路大震災についての本を読んでいたので、『避難所の掲示物を集めませんか?』と提案しました。毛布や子ども用品配布の案内、炊き出し情報、行事のポスターなどが集まりました」と、田中さんは振り返る。

 また、文化財レスキューとして、市内の歴史資料の所蔵者に連絡をとり、その被害状況を調査した。取り壊すことになった土蔵・家屋から合計で約1500箱分の資料を運び出したこともある。東日本大震災後には、長岡市は福島県南相馬市からの避難者を受け入れた。その避難所の資料も収集した。

 これらの資料を基に2014年に開設したのが災害復興文庫で、約5万点を公開している。

中央図書館のコレクションたち

 2日後、私は中央図書館の書庫にいた。

 案内してくれたのは、奉仕係係長の松矢美子さんと主査の諏佐志保さんだ。松矢さんは子どもの頃から互尊文庫に通っていた。「映画上映会に行くと、鉛筆をくれたのを覚えています」と笑う。その後、長岡市立図書館の館員になり、中央図書館への資料の移動にも関わった。

 当時、「きれいな図書館ができるからスーツを着て行かないと」と云うおじいさんもいたという。それぐらい、図書館への関心が高かったのだろう。

 中央図書館の現在の蔵書数は約46万8000点。そのうち約26万点が閉架書庫に入っている。

 貴重資料室に収蔵されているコレクションには、「反町茂雄文庫」がある。反町は長岡市出身。神保町には、新潟、とくに長岡の出身者が開いた古書店が多いが、現在も営業する〈一誠堂書店〉の創業者・酒井宇吉も長岡生まれだ。反町は同郷の縁から一誠堂で「帝大卒の丁稚」として働き、独立して本郷で〈古書肆弘文荘〉を営んだ。云わずと知れた、古書業界の大立者である。

 1975年、長岡の丸専デパートで古書展を開催した際、互尊文庫の内山館長と知り合う。

 最初に互尊文庫を訪れた時の印象を、反町は内山館長への手紙でこう書いている。
「数量はそう多くない、しかしそう少なくもない。お許しを願って、正直な感想を申しますと、戦災で焼けた長岡の、全焼した公立図書館としては、まあ相当の所、大体予想した位の数量でございました」「貴書珍籍を見る事が本業である私にとりましては、驚くほどの稀本は、多くは見当たりませんでした」(『反町茂雄文庫目録 第一集』長岡市立中央図書館)

 郷土資料の収集は年を追うごとに費用が掛かるため、「着手は早いほどよく、早いほど経済的負担も軽くてすむ」と考えていた反町は、1976年以降、長岡や新潟県に関する資料を購入し、互尊文庫に寄贈する。また、3000万円に上る資料の購入資金を寄付している。

 1987年に中央図書館が開館すると、同館がその事業を引き継ぐ。その資料は現在までに約5800点に達する。

 同館の書庫には、ほかにもさまざまなコレクションがある。「川上四郎文庫」は、長岡市出身の童画家の旧蔵書で、絵本や児童雑誌が多い。川上が描いた絵本の原画は別置されている。「星野慎一文庫」は、長岡市出身のドイツ文学者の旧蔵書。「伊東多三郎文庫」は、歴史学者の旧蔵書で、講義のノートや論文の抜き刷り、全国の自治体史などがある。

 なかでも貴重なのが、「堀口大學コレクション」だ。

 詩人・堀口大學は2歳で家族とともに父の郷里である長岡に移り、17歳までそこで育った。同館では、高知市在住で堀口大學関係資料のコレクターとして知られた千頭將宏から購入した資料を基に、収集を続け、現在約6600点に達している。
「同コレクションは中性紙で包んで保存しています」と、松矢さんは説明する。この中には、訳詩集『月下の一群』の「幻の7部本」と呼ばれる、1925年(大正14)に第一書房から刊行された版もある。第一書房社主の長谷川巳之吉は新潟県出雲崎町の出身で、豪華な装丁で出版することで知られた。

 同館は、開架されている郷土資料も充実しており、調べもののために来館するとたちまち時間が経ってしまう。新潟について書く際に頼りになる図書館なのだ。

長岡市立中央図書館

 中央図書館開館後も、地域館のひとつとして、また文書資料室として利用されてきた互尊文庫だが、2023年に現在地から大手通りに新しくできる複合ビル内に移転することが決まっている。

 同時に文書資料室も別の場所に移転し、来年度中にリニューアル開館する予定だ。
「場所が変わっても、資料を集めて整理して本にまとめるというサイクルは続けていきます。それとともに、資料をもっと公開していくことも必要だと感じています」と、文書資料室の田中さんは云う。

 互尊文庫は、戊辰戦争の焼け跡の中から生まれ、空襲で大きな被害を受けた直後に再開した。そして、中越地震後にはいち早くアーカイブに着手している。戦災・災害と復興を繰り返してきた長岡の町を象徴する存在なのだ。

 長岡の人たちには、今後も図書館や文書資料室を大事にしてほしい。そして、タクシーの運転手さんは新しい場所にも一発で案内してください。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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長岡市立中央図書館
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