2022年8月25日号 第353号

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☆INDEX☆
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1.『ポスター万歳 百窃百笑』
            田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

2.著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない
〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

                                                                                          和田敦彦

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━━━━━━━━━【自著を語る(295)】━━━━━━━

『ポスター万歳 百窃百笑』
             田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

 2022年7月に文生書院から刊行した拙著『ポスター万歳 百窃百
笑』は、戦前・戦中期に製作された日本製ポスターのある部分が、
外国の専門誌に掲載された作品を元ネタとしていた実態を、適宜解
説を加えながら見開きで紹介する書籍である。

 著者は1945年までの日本製ポスターを専門としており、これまで
の調査経験から、同時代の作品と比べて異質なものは、たいてい外
国作品に依拠していることが判ってきた。しかも、その中には「影
響を受けた」や「着想を得た」レベルを遥かに超えた、いわゆる
「丸パクリ」が数多く含まれており、それゆえ書名は『ポスター万
歳 百窃百笑』とした。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9815

『ポスター万歳 百窃百笑』  田島奈都子 編著
文生書院刊
320ページ・四六判 図版(249図)オールカラー
4,950円(税込)好評発売中!
ISBN978-4-89253-651-9
https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/tajima/

━━━━━━━━━【自著を語る(番外編)】━━━━━━━━━━━

著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない
〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

                           和田敦彦

■作家名頼りの企画にならないために
 本書では、今はもう忘れられているある直木賞作家に焦点をあて、
戦後の職業作家の営みから何が見えてくるのかを様々な資料、角度
から追っていくことを試みました。作家の名は榛葉英治(しんば・
えいじ)、ただその名前は本書のタイトルには入っていません。忘
れられている以上、名前をタイトルに掲げても読者にピンとこない
ということも理由の一つです。ただそれ以上に、偉大な、あるいは
著名な作家名「ブランド」のもとで出されてきた数多くの研究が見
落としてきたもの、とりこぼしてきたものをとらえることを試みた
かったというのがより大きな理由としてあります。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9825

『職業作家の生活と出版環境
 日記資料から研究方法を拓く』  和田敦彦 編
文学通信刊
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)好評発売中!
ISBN978-4-909658-82-1 C0095
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-82-1.html

━━━━━━━━━━━━【お知らせ】━━━━━━━━━━━━

中村洸太さんの自主製作ドキュメンタリー長編版映画『ポラン』が
「ぴあフィルムフェスティバル」で初上映されます。

それに際して、中村洸太さんからのメッセージをいただきましたので
ご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9月に東京で開催される「ぴあフィルムフェスティバル」にて、拙
作『ポラン』が初上映されます。

本作は2021年2月に惜しまれつつ閉店した古書店「ポラン書房」を
追ったドキュメンタリー映画で、メールマガジン第347号「自著を
語る(番外編)」(5月25日配信)でご紹介した短編『最終頁』の
長編版です。
上映は以下の日程で行われます。「Hプログラム」として、宇治田
峻監督の短編映画『the Memory Lane』と併映されます。

9月14日(水)18:30~
9月17日(土)11:15~

会場は国立映画アーカイブ 小ホールで、チケットは現在販売中です。

映画祭公式サイト https://pff.jp/44th/
『ポラン』詳細 https://pff.jp/44th/award/competition-tokyo.html#h
チケット詳細 https://pff.jp/44th/tickets.html

なお、本作は9月10日(土)12:00~10月31日(月)にDOKUSO映画館と
U-NEXTにてオンライン配信されます。
11月19日(土)〜27日(日)には京都文化博物館でもぴあフィルム
フェスティバルが開催される予定です。
『ポラン』を通じて、多くの方々に古書店という「居場所」の持つ
力を発見/再発見していただけることを願っています。是非ご覧く
ださい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

メールマガジン第347号「自著を語る(番外編)」はこちらから
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9425

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『早稲田古本劇場』 古書現世 向井透史 著
本の雑誌社刊
四六判変型並製 380ページ
予価2200円(税込)
2022年8月26日発売予定
978-4-86011-472-5
https://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114728.html

『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』 中村文孝・小田光雄 著
論創社刊
四六判上製
定価2000円+税
2022年8月27日刊行予定
ISBN978-4-8460-2179-5
https://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

8月~9月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その353・8月25日

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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『ポスター万歳 百窃百笑』

『ポスター万歳 百窃百笑』

田島奈都子(青梅市立美術館 学芸員)

 2022年7月に文生書院から刊行した拙著『ポスター万歳 百窃百笑』は、戦前・戦中期に製作された日本製ポスターのある部分が、外国の専門誌に掲載された作品を元ネタとしていた実態を、適宜解説を加えながら見開きで紹介する書籍である。

 著者は1945年までの日本製ポスターを専門としており、これまでの調査経験から、同時代の作品と比べて異質なものは、たいてい外国作品に依拠していることが判ってきた。しかも、その中には「影響を受けた」や「着想を得た」レベルを遥かに超えた、いわゆる「丸パクリ」が数多く含まれており、それゆえ書名は『ポスター万歳 百窃百笑』とした。

 さて、本書を読み進めていくと、「あの作品もこの作家も、実は外国作品をパクっていたのか・・・」と驚愕し、それらが続くと、次第にいたたまれなくなってくるかもしれない。しかし、元ネタとして何を選択し、どのように加工するかにも、一定の才能やセンスは必要である。また、戦前期は外国作品と接点を持てる人物や機会が、極端に限られていたことから、こうした行為は「勉強している証し」として、評価された面もあった。

 もちろん、本書で取り上げた作品は、多くが現在では著作権法違反で訴えられないような類似性を見せており、そうした負の実態を白日の下に「さらす」行為に対しては、自虐史観と捉える向きもあるかもしれない。ただし、そのような過去を経て、今日の日本の広告界やデザイン界が存在する以上、史実に対して怒るだけでは意味がないと筆者は考えている。

 ところで、本書の内容は前述したようにユニークであるが、実は執筆するに当たって採用した調査方法も、相当ユニークであった。詳しくは本書でご確認いただきたいが、実は今回翻案とされた海外作品の調査は、基本的に外国の機関がインターネット上で公開しているデータベースを閲覧することで済ませた。もっとも、データベース上で閲覧した洋雑誌については、著者もその実物を日本国内で閲覧した経験を持っており、翻案化の実例が複数見つかることは確信していた。また、そもそも戦前期の日本のポスターについて熟知していなければ、外国作品を見ても「こういう作品があったのか・・・」で終わってしまい、それが日本人作家によって翻案化されたことには気づけない。要するに、『ポスター万歳 百窃百笑』の執筆に当たっては、改めて行ったこともあったが、基盤となっているのはこれまでの調査経験であり、それがなければ短期間で出版することは到底無理であった。

 ではなぜ、データベースを閲覧したたかであるが、これには2019年12月に中国で最初の感染例が見つかった、新型コロナウィルスが大きな影響を及ぼしている。この原稿を執筆している2022年7月末時点で、全国的には感染者数が増加傾向にあるものの、国からの強い行動制限は呼びかけられていない。しかし、一時期の東京都内の図書館は、ほとんどが感染防止を目的に利用が停止となり、この事態は文献調査に関しても各機関に足を運び、直接閲覧してきた筆者にとっては、研究上の大きな痛手となった。

 こうした状況で実施したのが、自宅のパソコンからアクセス可能な、データベースを用いた文献の総覧であり、この作業は筆者にとっては当初、直接図書館等を訪問できないことに対する、代替えでしかなかった。しかし、国内における古い洋雑誌はそもそも所蔵先が少なく、かつ貴重な資料であることを理由として、利用に制限が設けられがちである一方、筆者が活用したデータベースでは、全ページがフルテキストで閲覧でき、検索やダウンロード、プリントアウトもある程度可能となっている。おまけに、在宅のまま時間を気にせず閲覧でき、結果的にそのような作業を通じて、100組以上の翻案例を新たに発見でき、それが今回の書籍化につながったのであるから、得るところは予想以上に大きかった。

 とはいえ、実際の書籍化に伴う編集作業は、掲載図版が多いことから面倒なうえ、コロナ禍では何かと思い通りに運ばず、出版して下さった文生書院や、担当の目時氏には大いにご苦労をおかけした。しかし、内容としても調査方法としてもユニークな本書は、各方面にとって興味深いものになると自負している。ちなみに、「笑い」は免疫力を高めるようであることから、第7波の流行を乗り切るためにも、読者の皆さんには本書を見て読んで大いに笑っていただきたいと思っている。そしてその後に、「創作」ということについて、改めて考えていただけたら幸甚である。
 
 
 
 


『ポスター万歳 百窃百笑』 田島奈都子編著
文生書院刊
320ページ・四六判
図版(249図)オールカラー
ISBN978-4-89253-651-9
4,950円(税込) 好評発売中!
https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/tajima/

Copyright (c) 2022 東京都古書籍商業協同組合

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著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

著名な作家と、研究すると面白い作家は必ずしも一致しない〜『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』について〜

和田敦彦

■作家名頼りの企画にならないために
 本書では、今はもう忘れられているある直木賞作家に焦点をあて、戦後の職業作家の営みから何が見えてくるのかを様々な資料、角度から追っていくことを試みました。作家の名は榛葉英治(しんば・えいじ)、ただその名前は本書のタイトルには入っていません。忘れられている以上、名前をタイトルに掲げても読者にピンとこないということも理由の一つです。ただそれ以上に、偉大な、あるいは著名な作家名「ブランド」のもとで出されてきた数多くの研究が見落としてきたもの、とりこぼしてきたものをとらえることを試みたかったというのがより大きな理由としてあります。

 作家を偉人化、神聖化するとらえかたは、作家という書き手の内側で作品の価値をすべて説明できる、という考え方を生み出しかねません。しかし言うまでもなく作品の価値を生み出すのは作家のみではありません。本の作り手、広報の仕方、売り方、教え方、さらにはそれを読む読者を取り巻く経済、政治状況によって、作品の読み方や評価は生まれ、変わっていきます。ですから、純粋に作家の中、あるいは小説の中だけをいくら深掘りしても、小説が実際に果たす役割は見えてきません。

■日記資料の面白さ
 本書では、この職業作家の戦後の営みを、原稿を書き、売り、生活するそのありようと、それを取り巻く出版環境の中でとらえることを試みています。偉人としてというより、生活者、職業人としてその活動を追い、そこから見えてくる問題を考えています。そこで大きな意味をもったのが、戦後半世紀以上に及ぶこの作家の手書きの日記でした。そこには禁酒をしてはその禁をやぶる日々の生活があり、不本意な依頼原稿を書いてでも家族の生活費を工面する日常があり、自作への編集者や知人の評に一喜一憂し、ときにはそれが酔って諍いにまで至るような日々が記されています。

 本書は、こうした日記をいくつかのテーマにそって読みやすく編集する一方で、その著述活動をその時代の読者や出版環境との関係の中でとらえたいくつかの論考で構成しています。日記を読むだけでもエピソードとしてはとても面白いのですが、本書の執筆者達の中で、日々の日記を時間をかけてたどっていくうちに、多くの問いや発見が生まれていったからです。

■本書でとりあげたテーマ
 そうした論考では、戦後、新たな文学の担い手として登場したこの作家と、その執筆していたカストリ雑誌の作り出す作家イメージとの葛藤、あるいは先端的な若者像を小説にしようとモデル料まで払って取材し、あげくに自分の方がその若者に小説に描かれてしまう事件もとりあげています。

 榛葉英治は1958年には『赤い雪』で直木賞をとり、同年には小説『乾いた湖』が映画化され、活動の幅が広がっていきます。小説が映画化されていく際に出てきた当時の問題点を追った論考もあります。戦後、中間小説、大衆小説といった小説ジャンルも大きく変わっていきますが、その中での書き手としての位置をこの作家が模索しながら執筆していくその営みも論じられています。

 彼はまた60年代には『城壁』を刊行します。日本の文学作品で南京大虐殺事件を描いた数少ない小説です。その制作の過程や、その後この小説がどうなっていったのかが論考ではとりあげられています。この作家の場合、「釣り」もまた重要な視点を提供してくれます。戦後、釣り自体がレジャーとして、そしてまた雑誌や文学としても大きな位置をしめていくことになります。生涯釣りに魅せられ、かつメディアの中でそれを発信していった榛葉英治の軌跡から何が問えるのか。それもまた本書の論考からは見えてきます。

■一人の生活者としての職業作家の営み
 こうしてそれぞれの問いを振り返ってみると、著名な純文学作家ブランドのもとではけっして問題にならないような、あるいは問題にできなかった問いが、まだまだいろいろな作家や、メディアの中の職業人を対象にして見つけ出していくこともできると思います。そうした可能性をひらいていくために本書が少しでも役立っていってくれればとも思います。先日、本の刊行をきっかけにつながりができたこの作家のご子息とお孫さんを囲み、本書の執筆者達で話をうかがう機会がありました。榛葉英治が生前、「火宅の人」になりたかったと家族にこぼしていたという話が印象的でした(ちなみに榛葉英治と壇一雄の間には家族間のつきあいがありました)。「火宅の人」になりたかったけれど、家族がいたから、家族を支える生活があるからそうなれなかった。偉大な、著名な作家としてではなく、一人の生活者としての職業作家の営みを、本書を通していろいろな角度から見て、感じてもらえればと思います。

 
 
 
 


『職業作家の生活と出版環境
 日記資料から研究方法を拓く』  和田敦彦 編
文学通信刊
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)好評発売中!
ISBN978-4-909658-82-1 C0095
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-82-1.html

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2022年8月5日号 第352号

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 古書市&古本まつり 第115号
      。.☆.:* 通巻352・8月5日号 *:.☆. 。
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━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見5】━━━━━━━━━

日本近代文学館 後編 蔵書収集と3人の古本屋   南陀楼綾繁

 日本近代文学館が駒場公園で開館したのは1967年。私が生まれた
年だ。

 設立準備会が結成された1962年以降、開館までの経緯を伝えるのが、
63年1月に創刊された『日本近代文学館ニュース』だ。1969年4月まで
発行された。B5判で、体裁がどことなく『日本古書通信』に似てい
る。参考にしたのだろうか。

 1971年5月創刊の館報『日本近代文学館』(以下、館報)は『ニュー
ス』の後継誌だが、同館の図書資料委員会の活動を伝える一連の発行
物を受け継いでもいる。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9798

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

日本近代文学館
https://www.bungakukan.or.jp/

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショなひと 坪井書店
コショBUZZ 古書 月世界
コショなひと 多摩書房
日本最古の古本屋・浅倉屋書店へ素朴な質問

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【8月5日~9月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/07/28~2022/08/17
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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夏の阪神古書ノ市(大阪府)

期間:2022/08/03~2022/08/08
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催事場  大阪市北区梅田1丁目13番13号

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城北古書展

期間:2022/08/05~2022/08/06
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2022/08/06~2022/08/06
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

https://www.vintagebooklab.com/

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第35回 下鴨納涼古本まつり(京都府)

期間:2022/08/11~2022/08/16
場所:下鴨神社糺の森  京都府京都市左京区下鴨泉川町59

http://koshoken.seesaa.net/index-4.html

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第71回東武古書の市(栃木県宇都宮市)(栃木県)

期間:2022/08/11~2022/08/16
場所:東武宇都宮百貨店 5Fイベントプラザ(宇都宮市宮園町5-4)
   東武宇都宮駅よりすぐ(百貨店直結)
   JR宇都宮駅よりタクシー5分/バス+徒歩10分/徒歩25分

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オールデイズクラブ古書即売会(愛知県)

期間:2022/08/12~2022/08/14
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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好書会

期間:2022/08/13~2022/08/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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三省堂書店池袋本店 古本まつり

期間:2022/08/16~2022/08/22
場所:西武池袋本店 別館2階=西武ギャラリー  東京都豊島区南池袋1-28-1

http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/events/6652

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ぐろりや会

期間:2022/08/19~2022/08/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://www.gloriakai.jp/

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散歩の達人 納涼古本市

期間:2022/08/20~2022/08/28
場所:平井の本棚 2階 イベントスペース
   江戸川区平井5-15-10 総武線平井駅北口下車30秒

https://santasu-hirai.peatix.com

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2022/08/25~2022/08/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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紙魚之會

期間:2022/08/26~2022/08/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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フジサワ古書フェア(神奈川県)

期間:2022/09/01~2022/09/14
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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東京愛書会

期間:2022/09/02~2022/09/03
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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杉並書友会

期間:2022/09/03~2022/09/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第103回 彩の国 所沢古本まつり 2022(埼玉県)

期間:2022/09/07~2022/09/13
場所:くすのきホール (西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場)

https://tokorozawahuruhon.com/

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書窓展(マド展)

期間:2022/09/09~2022/09/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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好書会

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2022/09/10~2022/09/11
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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日本の古本屋メールマガジンその352 2022.8.5

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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日本近代文学館 後編 蔵書収集と3人の古本屋  【書庫拝見5】

日本近代文学館 後編 蔵書収集と3人の古本屋  【書庫拝見5】

南陀楼綾繁

 日本近代文学館が駒場公園で開館したのは1967年。私が生まれた年だ。

 設立準備会が結成された1962年以降、開館までの経緯を伝えるのが、63年1月に創刊された『日本近代文学館ニュース』だ。1969年4月まで発行された。B5判で、体裁がどことなく『日本古書通信』に似ている。参考にしたのだろうか。

 1971年5月創刊の館報『日本近代文学館』(以下、館報)は『ニュース』の後継誌だが、同館の図書資料委員会の活動を伝える一連の発行物を受け継いでもいる。

 開館準備のために、出版界や財界、政界に呼びかけたのが高見順、伊藤整ら作家であるのに対して、文学館の基盤となる資料を収集するという、いわば「裏方」を務めたのが、文学研究者たちだった。

 1964年4月に設置された図書館委員会(1967年の開館時に「図書資料委員会」に改組)には、久松潜一が委員長、稲垣達郎が副委員長で、小田切進、瀬沼茂樹、紅野敏郎、保昌正夫らが参加。このうち紅野は40代はじめ、保昌は30代と若く、資料収集の中心となっていく。翌月に創刊された手書き・謄写版印刷の『図書館委員会週報』では、紅野・保昌らが東京古書会館、中央線古書会、明治古典会に出かけて古書の収集を行なったことを報告している。同号では委員会の仕事として、個人・出版社への寄贈依頼、古書の蒐集・購入、分類・目録整理、レファレンス・調査を挙げる。

 9月発行の第12号でも、図書購入について報告されている。
「8月28日 早朝より二班に分れて古本収書に廻った結果について紅野氏(神田方面)、保昌氏(城北方面)より報告。この日研究書を中心に約650冊購入」

 9月5日にも全集・雑誌の穴を埋める目的で、同様の買い出し部隊が出発し、1200冊を購入している。

 これらの報告からは、文学館の資料が揃っていくことへの喜びとともに、「こんな本が買えた!」という古本好きの高揚感が伝わってくる。

 小田切進は、文学館開館のために多くの人を動かした高見順が、癌に倒れてから談話筆記で記事になった以外、自分では館についてはまったく書かなかったと述べる。
「原稿の点では、高見さんはとても頑固で、『それは小田切に頼め』と言って、いつも固辞した。(略)今になって思うと、高見さんの文士に徹したいという態度からだったのではないか、と考えられる」(「高見さんのこと 没後十年」、館報第26号、1975年7月)

 高見に自分で書くものへのこだわりがあったことはたしかだろうが、それとともに、実際に資料を集め、館を運営していく「裏方」に光を当てたいという気持ちもあったのではないか。

森鷗外文庫と〈時代や〉菰池佐一郎

 1964年11月、上野図書館内に「日本近代文学館文庫」を開設。はじめて一般が利用できる閲覧室を設けた。

 翌年9月には先の『週報』を受け継ぐ形で、『日本近代文学館 図書館委員会月報』を創刊。これも謄写版刷だ。創刊号によれば日本近代文学館文庫の利用者が増加し、30席が満席になって、来館者を断ることもあったという。

 同号には「『森鷗外資料』のことなど」という記事も掲載されている。これは古本屋〈時代や〉店主の菰池佐一郎が収集した森鷗外に関するコレクションを購入する交渉を伝えるものだ。

 のちに「菰池佐一郎収集 森鷗外文庫」と名付けられるもので、森鷗外の原稿・書簡など特別資料475点、図書412点、雑誌・新聞179種が含まれる。雑誌については、鷗外主宰の『しがらみ草紙』『めさまし草』などのほぼ全号、執筆誌も主要なものは揃い、鷗外の追悼号や特集号まで集められている。

 私も書庫で見せてもらったが、当たり前だが、すべてが鷗外に関する本ばかり。書名に出てこなくても、どこかで鷗外に言及されていれば集めている。研究者とは視点が異なる、古本屋ならではの徹底ぶりだと感じた。

 菰池は京都生まれで、東京に出て骨董店をはじめ、のちに古本屋に転じた。明治文学ものが主力で、1936年に古書目録『時代や書目』を創刊。森鷗外については「あるお客様が御熱心だった。鷗外さんのものなら何でも持ってこいという、けっこうなお客さんがありました」。敗戦後、その客が集めたものを買い戻したのがきっかけで、鷗外関連書を集めるようになる。1959年に『家蔵 鷗外書目(未定稿)』を刊行し、のちに何度か追録を刊行する(反町茂雄編『紙魚の昔がたり 昭和篇』八木書店)。

 集めてきたものを手放す際、菰池は「娘を嫁入らすような気持です、いい嫁入先ですからね」とつぶやいたという(紅野敏郎「図書資料委員会」、館報第13号、1973年5月)。一方、同業の古書店主を前にした『紙魚の昔がたり』の座談では、「その後、鷗外さんのものは、一段も二段も値上がりしました。売るのにはちょっと時期が早すぎて、しまったことをしたなと……(笑い)」と話している。どちらも本音だろう。

 このコレクションが上野の日本近代文学館文庫に搬入された際、理事長の伊藤整や図書館委員会のメンバーは喜びの声をあげたという(小田切進「はじめに」、『森鷗外文庫目録』)。

 1963年10月に、新宿伊勢丹で開催した「近代文学史展」が大成功を収めて以来、出版社からの寄贈や高見順文庫、野村胡堂文庫などの寄贈はあったが、森鷗外文庫ははじめての大型コレクションだった。森鷗外文庫搬入の頃から、貴重資料寄贈の申し出が増えた。
「20年余りの歳月をついやし、菰池さんが精魂かたむけて収集につとめられた豪華なコレクションを、文学館が受け入れさせていただけたということが、広く知られ、それで勢いづいたという感があった」と小田切は書いている。

自転車で本を――〈ペリカン書房〉品川力

 『日本近代文学館 図書館委員会月報』創刊号には、もうひとつ見逃せない記事がある。
「まさにぺリカンの如く 品川力氏の寄贈続く」と題するものだ。
「このところ品川さんが、毎日来庫される。本郷から自転車に乗ってこられるのだが、どしゃぶりの雨の日もそうして来られる。木下尚江のことやハイネのことなどをしらべに来られるのだが、荷台にのせた木の箱に必らず、図書・雑誌や資料を持って来られる」

 品川力(つとむ)は本郷にあった古本屋〈ペリカン書房〉の店主。東大赤門前の「落第横丁」にあった店舗には、私も何度か行ったことがある。『古書巡礼』(青英舎)などの著書も愛読している。

 新潟県柏崎市生まれで、父は牧場と書店を営む。上京後、1931年に本郷でレストラン〈ペリカン〉を開店。店には織田作之助、太宰治、檀一雄らが集まり、品川は織田の『夫婦善哉』が掲載された同人誌『海風』の発行人も務めた。1939年に古本屋を開く(『本の配達人 品川力とその弟妹』柏崎ふるさと人物館)。

 品川は長身でカウボーイハットを愛用し、自転車で都内のどこにでも出かけ、研究者が探している文献を配達した。日本近代文学館に対しても同様だった。

 駒場公園に開館した後の1968年9月、先の『月報』は『日本近代文学館 図書・資料委員会ニュース』に代わる。タイプ印刷。70年5月の第11号では「図書資料受入報告」で、保昌正夫は、毎号、品川力からの寄贈の話を出しているが、「やはり文学館へ本が集まってくるのは、品川さんのような尽力が原動力になっていることをおもうと、まず初めに挙げたくなる」と記している。

 第14号(1970年11月)にはやはり保昌が、次のように書く。
「品川さんの持ってきてくれる本には一冊、一冊に親しい手ざわりのようなものがある。(略)館にきてブックトラックに並べられた品川さんからの本をみてると、とにかくちょっと古本屋らしい古本屋の一角にいるような気持になる。掘り出しものが出てきそうな感じもする」

 文学館と古本屋は異なるものだと思う人は多いかもしれないが、少なくとも日本近代文学館には、古本の「親しい手ざわりのようなもの」を感じるセンスを持つ人たちが関わっていたのだと思うと、なんだか嬉しくなる。

 本郷から駒場まで、自転車でどれぐらいかかるか知らないが、品川はそうやって本を運んだ。その回数は「1200回以上と聞いています」と、案内してくれた宮西郁実さんは話す。

 そうやって寄贈された資料は約1万9000点を超える。そのなかには品川が書誌を作成するために収集したポーやホイットマンの文献が含まれている。

 特別資料に入っているものには、織田作之助、串田孫一らが品川に宛てた書簡がある。また、今回閲覧させてもらった『ちぎれ雲』と題する寄せ書き帖には、岡本唐貴、前田河広一郎、吉野秀雄らの名前が見つかった。

 品川は83歳で自転車がこげなくなるまで、文学館通いを続けた。寡黙な品川は本を届けると、おいしそうにお茶を飲んで帰って行ったという。その後も館員がペリカン書房まで本を受け取りに行った(『本の配達人』)。

 品川がこの世を去ったのは2006年、102歳だった。日本近代文学館とは準備段階から40年に及ぶ付き合いだった。
 

古本の埃と汗――――〈山王書房〉関口良雄

 時代やの菰池佐一郎、ペリカン書房の品川力に並んで、同館の恩人ともいえる古書店主が、〈山王書房〉の関口良雄だ。

 関口は長野県飯田市生まれ。1953年、大田区で山王書房を開店。私小説作家を愛し、『上林暁文学書目』『尾崎一雄文学書目』を自費で刊行する。没後に出た随筆集『昔日の客』(三茶書房)は、2010年に夏葉社から復刊され、若い世代にも読まれている。

 関口は1963年の「近代文学史展」を見に行った際、上林暁の本が一冊しかなかったという不満を、理事の小田切進にぶつける。その翌日もう一度行くと、第一創作集『薔薇盗人』をはじめ、「目のさめる様な最高の美本」が並べられていた。その翌年、関口は池袋にあった館の事務局に、上林と尾崎一雄の著書を持参したと、「『日本近代文学館』の地下室にて」で書いている(『昔日の客』)。このとき寄贈されたのは、上林が45冊、尾崎が47冊だった。

 同館の図書館委員会の若手である紅野敏郎と保昌正夫が古本を買い出しに廻る際、山王書房を訪れた。
「予算が限られていたので、安くて、筋のいい本、ということになると、足はおのずと山王書房に向った。棚から幾冊か選びつつおしゃべり、梱包を終ったところでまたおしゃべり。私たちはそこで半日を費し、楽しみ、意気揚々と引きあげた」(紅野敏郎「関口さん」、『関口良雄さんを憶う』三茶書房)

 同じ場面を関口は次のように書く。
「私は腹の中で予算は大丈夫かなと余計な心配をした。(略)先生方の顔は古本の埃と流れ出る汗でクシャクシャになり、額からはポタリポタリと玉の汗が落ちた。積み重ねた古本の上にも落ちて染を作った。

 私はこの玉の汗が、日本近代文学館の基礎を作るのだと思った」(「汗」、『日本近代文学館ニュース』第5号、1964年11月、『昔日の客』)

 また、関口は上林暁から受け取った葉書を同館に寄贈している。特別資料に入っているその一枚を閲覧した。1960年8月23日の日付だ。
「貴書房のことは岡本功司君より度々耳にしてゐます。その関係で昨年晩秋、室生犀星夫人の告別式に赴く途中、バスの窓より貴書房の看板を望見、なつかしい思ひが致しました。そちらの方面に赴く機会がありましたら寄せさせていただきます(略)」

 このとき、まだ二人は面識がない。その後、関口は上林を訪ね、上林が病床に伏してからも励まし続ける。

書庫で再び巡り合う蔵書たち

 関口は寄贈した資料以外にも、間接的に同館に寄与している。

 作家の結城信一が亡くなったあと、本人の原稿や書簡とともに、結城が集めた室生犀星の著書216点などを遺族が寄贈し、「結城信一コレクション」として整理された。

 結城は犀星を敬愛し、『室生犀星全集』(新潮社)の書誌の編者も務めた。彼が犀星本を集めるにあたって頼りにしたのが、山王書房だった。
「何度も私の家に足を運んでくれ、『抒情小曲集』初版函入美本を届けにきたときは、手離すのが惜しい、といふ興奮気味の顔で、もし売ることがあれば、今とおなじ値段で引取らせてもらひますよ、とも言つた」(「消えた来世の古本屋」、『関口良雄さんを憶う』)

 結城と関口について、保昌正夫は、関口良雄文庫が先に入っていることから、「結城さんの犀星コレクションが館に納められたことで、この二人は館の書庫で『久かつを叙し』ているかもしれない。これも因縁というものだろう」と記している(「結城信一の犀星本コレクションなど」、館報第89号、1986年1月、『暮れの本屋めぐり 保昌正夫《文学館》文集』日本近代文学館)。

 上林、尾崎の本を寄贈してから10年後、関口ははじめて近代文学館を訪れる。「図書資料部の大久保という人」に案内され、地下にある上林、尾崎の棚の前に立った。
「かつて私の背中におんぶされ、私の両手に手を引かれる様にして運ばれた本達よ。私はその本達に、また会ひに来ることを誓つて地下室を出た」(「『日本近代文学館』の地下室にて」)

 このエッセイは1977年6月の『人間連邦』に発表されたが、その2か月後、がんを患っていた関口は死去する。「また会いに来る」ことはかなわなかったのだ。

 なお、このときに関口を案内した「大久保」は大久保乙彦のことで、日比谷図書館を経て、日本近代文学館の職員となった。専門図書館である同館の特徴を生かす分類方法を提案したひとりであったという(紅野敏郎「『館』の歴史のなかで」、『追悼・大久保乙彦』)。大久保は1989年に、文学館からの帰途、交通事故に遭って亡くなった。

 同館の館報をめくっていると、理事や寄贈者の追悼記事が多く目につく。開設準備から同館に関わりつづけた保昌正夫は2002年、紅野敏郎は2010年に亡くなる。

 そうやって関わった人は消えていっても、同館の書庫のなかでは、さまざまな人たちが残した本や雑誌が再会している。そのことが奇跡のように思える。

 
 開館から55年。日本近代文学館は数々の図書・雑誌の複刻版や資料集を刊行し、展覧会を開催してきた。2011年には公益財団法人へ移行している。また、1995年には同館が呼びかけて、全国文学館協議会が発足。文学館同士が協力し合う体制ができている。

 今後の同館については、「増えていく資料に対する収蔵スペースの問題と、デジタル化にどう対応していくかが課題ですね」と、宮西さんは話す。

 貴重な資料を収めた書庫と静謐な閲覧室がいまもこの場にあるのは、関わった多くの人たちの努力と、本と出会うことへの喜びがあったからだ。この空間をこの先も残していくためにも、積極的に同館を利用していきたい。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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2022年7月25日号 第351号

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1.古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告
                 古本屋ツーリスト 小山力也

2.なぜ『左川ちか全集』は生まれたか
   ―書物としての「左川ちか」と解放の企図―    島田龍

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━━━━━━━━━【古本屋ツアーインジャパン】━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告
                 古本屋ツーリスト 小山力也

 世界が新型コロナの脅威に晒され続け、二年半以上が経過した。
その間に、感染対策は定着化し(マスクにもすっかり慣れてしまっ
た…いやですねぇ)、ワクチン接種も進み、コロナウィルスをどう
にか制御し始めたような雰囲気が世界中に流れているが、敵もさる
もの巧妙な進化を続けており、相変わらず未知のウィルスであるこ
とに変わりはないのであった。まったく『何処まで続くぬかるみぞ』
と言った感じである。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9723

小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている
場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・
ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、
大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」
にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミ
ステリ懐旧三面鏡』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━【自著を語る(294)】━━━━━━━━━━━

なぜ『左川ちか全集』は生まれたか
   ―書物としての「左川ちか」と解放の企図―    島田龍

はじめに
 森谷均を社主とする昭森社から遺稿詩集『左川ちか詩集』(以後
適宜『詩集』と略す)が刊行されたのは1936年11月のこと。編者は
伊藤整である。「彼女の残した一冊の詩集は、昭和初期における女
性詩の最高にちかい光芒をはなった」(『株式会社紀伊國屋書店創
業五十年記念誌』1977)と称賛したの春山行夫だった。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9731

『左川ちか全集』 左川ちか/島田龍 編
四六判、上製、416ページ
書肆侃侃房 定価:本体2,800円+税 好評発売中!
https://ajirobooks.stores.jp/items/625000c23463e711bb1550ba

━━━━━━━━━【イベント紹介】━━━━━━━━━━━

「左川ちか2022 〜新たに開かれる詩/モダニズム/世界〜」
島田龍×中保佐和子×イリナ・ホルカ×小川公代×エリス俊子×矢代朝子

日時:2022年8月3日(水)14:00〜17:30
場所:立命館大学衣笠キャンパス 創思館カンファレンスルーム
主催:立命館大学国際言語文化研究所
協賛:書肆侃侃房
問い合わせ先: 吉田恭子(立命館大学文学部) kyoko@fc.ritsumei.ac.jp
詳細:http://www.kankanbou.com/news/archives/372

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『ポスター万歳 百窃百笑』  田島奈都子 編著
文生書院刊
320ページ・四六判 図版(249図)オールカラー
4,950円(税込)
2022年7月28日刊行
https://www.bunsei.co.jp/original/new-publication/tajima/

『職業作家の生活と出版環境
 日記資料から研究方法を拓く』  和田敦彦 編
文学通信刊
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)
好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-82-1.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

7月~8月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
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日本の古本屋メールマガジン その351・7月25日

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sagawa_chika

なぜ『左川ちか全集』は生まれたか―書物としての「左川ちか」と解放の企図―

なぜ『左川ちか全集』は生まれたか―書物としての「左川ちか」と解放の企図―

島田龍

はじめに

 森谷均を社主とする昭森社から遺稿詩集『左川ちか詩集』(以後適宜『詩集』と略す)が刊行されたのは1936年11月のこと。編者は伊藤整である。「彼女の残した一冊の詩集は、昭和初期における女性詩の最高にちかい光芒をはなった」(『株式会社紀伊國屋書店創業五十年記念誌』1977)と称賛したの春山行夫だった。

 1930年代の詩壇において、セクシュアリティの幻想に対峙した左川ちかの詩は極北にあった。ジェイムズ・ジョイスやヴァージニア・ウルフ、ハリー・クロスビーらモダニズム文学を血肉化した翻訳者でもあった。10代でキャリアを出発し、1936年1月に急逝する。享年24。

 『詩集』は全350部発行。内訳は並製版(普及版)300部(定価2円)。特製版45部(3円)。書痴版5部(10円)。判型・本文組版は同じだが、特製版は本文の上質紙が特漉鳥の子紙に改められるなどしている。書痴版はさらに三岸節子の肉筆デッサン画が一葉収められている(未見)。ちなみに「三百五十部限定内五十部特製」と並製版の奥付にもあるためか、これを特製版と扱う古書店が複数あるので注意されたい。定価で区別するのが最も簡便である。

 伊藤整旧蔵本は現在市立小樽文学館に、近藤東旧蔵本は神奈川県近代文学館に所蔵されている。森谷均旧蔵本は私の手元にある。また、次世代の若者たち、例えば黒田三郎や吉岡実といったモダニズム詩から出発した詩人たちも、戦時中『詩集』を手に入れている。とくに吉岡の初期詩には大きな影響を与えたようだ。

 戦後ともなると『詩集』は市中に出回らなくなった。札幌に暮らしていた百田宗治は森谷に宛てた葉書で次のように綴っている。

いつか左川ちかの詩集など出してもらつたことがありましたね。この二十五日は当地の詩人たちの会合で左川ちかのことを話します。あの詩集の少部数の再版なども時期よろしいのではありませんか。  「森谷均宛百田宗治書簡」1947.10.23(筆者蔵)

 
□「再刻されるべき詩の一つであろう」と、鎌倉文庫の『文芸往来』「詩壇点鬼簿」(1-3.1949.3)にも匿名の評者「K」が書いている。

 「日本の古本屋」のメルマガということもあり、書物(古書)としての『左川ちか詩集』について卑見を述べたい。それが『左川ちか全集』出版の意味とも関わる話だからである。

 
1 蒐集対象としての『左川ちか詩集』

 『日本古書通信』をひもとくと、齋藤昌三作成の「日本限定本人気番附」(20-1.1955.1.1)には『詩集』書痴版が前頭に位置づけられている。

 具体的な価格の推移を調べよう。①1954年の『日本古書通信』「限定本時価目録」(19-6.1954.6.15)には、書痴版が2,500円となっている。昭森社の中でも高値の本で、中原中也『山羊の歌』(文圃堂1934)著者愛蔵本20部と同じ値だ。

 さらに②1958年「限定本時価目録」(23-3.1958.3.15)では、特製版1,000円、書痴版7,000円。③1960年「限定本時価目録」(25-7.1960.7.15)では、並製本1,500円、特製本3,000円と価格が上昇している。昭森社の同時期刊行の詩集で比べると、田中冬二『花冷え』書痴版50部①1,500円→②2,500円→③3,500円。荘原照子『マルスの薔薇』特製10部①1,000円→②1,500円→③2,000円となっている。

 1950年代、左川ちかは決して忘れられた存在ではなかった。中野重治編『日本現代詩大系』10巻(河出書房1951)、北川冬彦他編『日本詩人全集』6巻(創元社1952)には詩が複数収録されている。また、北園克衛(「左川ちか」『詩学』6-8.1951.8)、春山行夫(「左川ちか〈季節風〉」『北海日日新聞』1954.8.9)らが生前の姿を回想し、塚本邦雄(「詩人について」『詩学』1959.7)、吉岡実(「救済を願う時‐《魚藍》のことなど」『短歌研究』1959.8)らがその詩の衝撃を語っている。伊藤整の自伝風小説『若い詩人の肖像』(新潮社1956)には、青春をともにした少女時代が印象的に描かれている。

 ただ、『詩集』書痴本に関していえば、左川ちかそのものの文学的評価以上に、三岸節子の肉筆デッサン画入りの稀覯本(5部)であることが大きいだろう。蒐集家にとって肉筆挿絵の本は「書物の中での王様」(佐々木桔梗「肉筆挿絵本」『書痴往来』2-3.1957.9)らしい。

 「黒い天鵞絨の天使―左川ちか小伝」(『北方文芸』5-11.1972.11)を著した詩人小松瑛子は、どうしても『詩集』が手に入らず、札幌の詩人坂井一郎所蔵の特製版を借り全編書写したという(「左川ちかの詩と私」『左川ちか全詩集』森開社1983)。小松自身、左川ちか詩集の出版を計画していたが叶わなかった。

 詩人佐々木逸郎は、「私たち戦後に詩を書き始めたものの立場で言うと、(略)なんとなく“幻の詩人”という感じがあった」(「座談会 北の詩・その女流の系譜」前掲『北方文芸』)と話している。

 左川ちかが鮮烈な印象で語られる一方で、『詩集』が蒐集対象として成立しており、再刊・新刊を望む声もあったが実現しなかったことがわかる。これと同じ構造はさらに続くことになる。全く不幸なことに。

 
2 『左川ちか詩集』書痴版の行方と古書価の相場

 1985年には札幌の並木書店の目録に書痴版が50万円で出品、すぐに売り切れたという。書痴版の書影を私が初めて見たのは、詩書の蒐集家だった小寺謙吉『現代日本詩書綜覧』(名著刊行会1971)である。ただ、同書に三岸の肉筆デッサン画は掲載されていない。

 小寺謙吉以外の書痴版の所蔵者としては、國學院大教授の塚谷晃弘(「コレクション礼讃」『陶説』245.1973.8)、高橋啓介(『別冊太陽 古書遊覧』平凡社1998)がいる。高橋は少女を描いた肉筆画を掲載している。5部それぞれ絵柄が違うのかどうだろうか。近年は長山靖生が「わたしの蔵書から 小宇宙としての詩集」(『日本近代文学館報』304.2021.11)でその魅力を語っている。

 田辺福徳(北大医学部助教授)は、86年に東京の田村書店から『詩集』特製版26番を手に入れ「嬉しさのあまり、夜も枕頭に飾って夢に出ることを願った」と、『本と珈琲』(私家本1993)で語る。素直な興奮が伝わってくる。

 近年の『詩集』古書価の変遷については、林哲夫のブログ記事「古書目録の左川ちか」(daily-sumus2.2017.11.29)が古書目録から整理している。

田村書店『近代詩書在庫目録』(1986)特製版90,000
『石神井書林古書目録』35号(1995.2)特製版350,000 
『同』44号(1998.2)並製版80,000 同・函なし背痛み30,000
『同』50号(2000.2)書痴版1200,000
『扶桑書房古書目録 近代詩特集号』(2010.9)特製版160,000

 私が記録している日本の古本屋・ヤフオク・メルカリの相場を勘案すると、『詩集』特製版はここ10数年ほどで15万前後から現在は30万弱。並製版は状態が悪くなければ10万前後から現在は20万足らずといった感覚だ。

 私が左川ちかに出会ったのは、1998年末か99年初頭に『詩と詩論』を読んでのことだった。それからプライベートプレスの森開社から刊行されていた『左川ちか全詩集』(以降適宜『全詩集』と略す)を「日本の古本屋」を通じて購入した。

 『全詩集』は550部(普及版500部、特製版50部)。普及版の定価は7,300円。布装背皮継表紙の実に美しい本に一瞬で魅了された。特製版(定価15,000)も1冊購入した。古書価は定価のそれぞれ1.5倍ほどだったと記憶する。解題・校訂も行き届いた『全詩集』は左川ちか再評価の機運を高め、極めて画期的だった。『全詩集』によって左川ちかに出会った、または再会した読者は少なくないだろう。ちなみに現在『全詩集』は新版含め現在は安くて2万、上限は5万前後だ。こちらも高騰している。

 『詩集』を入手したのはのちのことで、私の場合は蒐集の欲望というよりは研究資料として認識していた。それでも、生田耕作旧蔵のジェイムズ・ジョイス著/左川ちか訳『室楽』(椎の木社1932)が札幌の書肆吉成から届いたときは、私淑する文学者だけに興奮したものだ。

 最近話題になったといえば、2019年の七夕古書大入札会で自筆詩稿「暗い唄」「おなじく(果実の午後)」が出品されたことだろう。保昌正夫監修・青木正美解説『近代詩人・歌人自筆原稿集』(東京堂出版2002)に掲載された青木正美旧蔵品である。

 内堀弘「下町の古本屋の懸命な好奇心 独学の意欲があれば古書の世界は一生学校だ」(『図書新聞』2019.10.5)によると、『自筆原稿集』出版後に青木が手放し、石神井書林を経て20年近く経って再び世に現れたらしい。私も入札したが、予想を遥かに上回る価格であっさり落札を逃した。左川ちかの人気の高まりを実感した。この詩稿ともいずれまみえたいと願っている。

 以上、向後の記録を兼ね煩雑に書き連ねた。左川ちかの詩集が蒐集家のコレクションか、研究者の資料として取引されることはあっても、『全詩集』の一時期をのぞけば、一般の読者が容易く手に入れ難い状況にあることがおわかり頂けただろう。

 
3 『左川ちか全集』編纂の経緯 「左川ちか」の解放を目指して

 左川ちかを研究対象として意識したのは5年ほど前のことだ。いまだその詩をまとめて読むことが難しい状況を知った。作品を読みたいとの若い人たちの切実な声を聞いた。また、研究の進展と学界における認知度の向上にはテクストの普及が欠かせない。適切な校訂を加えた初の全集の編纂を考えるようになった。

 さらに直接的なきっかけは、杉並の某古書店などに委託販売されている同人本の存在である。およそ80数か所に及ぶ誤字誤植や本文の錯簡が甚だしい極めて質の悪い本で、私の名前を無許可で編集協力者にクレジットし、現在も中身をほぼ訂正することなく高額で取引されている。かかる同人本が今後の批評・研究で用いられては取り返しのつかない過ちにつながってしまうと、研究者として大きな危機感を覚えた。

 マニアックな復刻本を有難がりながらその真贋に関心がない、書痴を気取るマニアたち。先人の書誌学に裏打ちされた校訂の術を無視する素人編集と、これをバックアップする古書店の存在。80年以上に及ぶ書物としての「左川ちか」が行き着いた先だった。

 詩人の言葉が無惨に切り刻まれ、決して安くない額を支払った一般読者の方々を思うと、研究者としてもっと早くに警鐘を鳴らすべきだったと悔やんでいる。詩人の言葉は、小銭稼ぎの道具として使い捨てされては決してならない。このような特異な市場から「左川ちか」を解放しなければならない。私がこれを訴えると、妨害・示威行為が私や周辺者、複数の出版社などに向けられるようになった。SNSで訴えた私の告発には、20万回をこえるインプレッション(表示)と2万回ほどのエンゲージメント(反応)を得た。それまでさんざん左川ちかを持ち上げながら、無視を決め込む少数の人もいないではなかったが、私と直接交誼がなくとも激励の言葉をかけてくれる多くの人々が支えになった。

 そうした紆余曲折を経て『左川ちか全集』が生まれた。年譜・解題・解説・ブックガイドが約100頁、全416頁で本体価格2,800。全集の出版を相談したある出版社からは、いくら高くても本物であれば購入する読者がいるのだから「愚挙」だと言われた。しかし、研究者や愛書家以外にも手が届く、全国の書店でリーズナブルに購入できる一冊をというのは譲れない一線だった。

 幸い、そのコンセプトを尊重してくれる編集者と出版社がいた。価格に上乗せされないよう、函も写真も省いた。そのため、人々の憧憬を誘った『全詩集』のような贅沢な造りではないものの、作品世界の入り口となるような名久井直子装幀・タダジュン装画の書影は予想以上の好評を得て迎えられた。本は一人で作るものではないことを実感した。

 
4 『左川ちか全集』の意義 詩人の言葉の復権を目指して 

 『全集』の編集方針の一つは、端的にいえば『左川ちか詩集』=伊藤整の眼差しからの解放である。

 伊藤整が編集した『詩集』には、発表の時系列に配列する、初出版と再掲版(改稿版)では後者を採用するなどの編集方針があった。しかし、時間的な制約のもと十分な資料が手元に揃わなかったためか、実際には混乱したまま刊行された。また、伊藤が最も大事にした自身の詩「海の捨児」とスキャンダラスな因縁のあった「海の捨子」を収録していないなど、留意すべき点も少なくない。

 もちろん、『詩集』刊行の文学史的な意義は十二分に理解されるべきもので、現代の編集水準を求めても仕方のないことだ。『全集』の編纂にあたっては、従来のように『詩集』の配列・本文に依拠するのではなく、抜本的なテクストクリティークを行った。あわせて、翻訳に用いた底本や新出詩篇の調査を行い、発表順の配列を徹底し、ヴァリアント(異稿)の採用もできるだけ詩人の最後の意思が反映できるよう詩篇ごとに慎重な判断を下した。これが「伊藤整」という『詩集』の眼差しからの解放の意味である。

 また、一冊の詩集ではなく全集であることから、研究・鑑賞の手引きとなるよう、最新の研究動向を踏まえた詳細な解説・解題を施し、本文にはルビなども積極的に振った。古い文体に不慣れな若い読者と海外の読者を意識している。近年、左川ちかは海外での評価が先行し、欧米などでは何冊も訳詩集が出版されている。今後さらに翻訳されるであろうことを想定すると、決してやりすぎではないだろう。実際、海外在住の方から読みやすい編集に感動したと感想を頂戴し、我が意を得たりと思ったものだ。

 翻訳詩文と詩篇・散文・書簡類を初めて同時収録することの意味は小さくない。翻訳と創作の関係を含め、詩人であり翻訳家でもあった「左川ちか」の全体像を浮かび上がらせるテクストになるよう心掛けた。もっとも本書も私自身の眼差しと無縁ではなく、これが唯一の正典というつもりはない。心ある人々によって、それぞれの見識を活かした新たな書物が編まれることを期待したい。詩人のの解放と復権を果たすために。

 
参考文献
島田龍「左川ちか研究史論―附左川ちか関連文献目録増補版」(『立命館大学人文科学研究所紀要』115.2018.3)
同「昭森社『左川ちか詩集』の書誌的考察―伊藤整の編纂態度をめぐって」(『立命館文学』669.2020.9)
同「左川ちかを探して 百田宗治と『左川ちか詩集』」(『詩と思想』3-401.2020.12)

 
 
 
 


『左川ちか全集』 左川ちか/島田龍 編
四六判、上製、416ページ
書肆侃侃房 定価:本体2,800円+税 好評発売中!
https://ajirobooks.stores.jp/items/625000c23463e711bb1550ba

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古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告

古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 世界が新型コロナの脅威に晒され続け、二年半以上が経過した。その間に、感染対策は定着化し(マスクにもすっかり慣れてしまった…いやですねぇ)、ワクチン接種も進み、コロナウィルスをどうにか制御し始めたような雰囲気が世界中に流れているが、敵もさるもの巧妙な進化を続けており、相変わらず未知のウィルスであることに変わりはないのであった。まったく『何処まで続くぬかるみぞ』と言った感じである。だがそれでも、日々を平穏に楽しく暮らして行かねばならぬ我らは、感染対策のさじ加減を手探りしつつ工夫し、以前とまったく同じカタチではないが、少しずつ日常に近いものを取り戻したり、新たに日常化したりして、薄暗闇の中を歩み続けている。古本業界の売る人も買う人も、その例外ではなく、どうにか色々やりくりしながら、今を生き続けている。と言うわけで、ほぼ毎日古本屋さに通い古本を買っている男の六ヶ月を、駆け足で振り返ってみよう。

 一月は、西荻窪の「にわとり文庫」で稀少な本も含めて激安値で大判振る舞いするイベント『帰って来たニワトリブンコ新春100円均一大会』が二年ぶりに催された。事情あって一日目に参加出来ず、ネットに飛び交う掘出し物を涙して眺めていたが、二日目に行っても、暮しの手帖社「暮しのなかで考える/浦松佐美太郎」が買えたりしたので、大いに溜飲を下げる。また神保町では名店の譽れ高い「田村書店」がバーゲンセール(一般書50%オフ、揃い&稀覯書は30%オフ)を敢行。その後は名物の店頭安売も規模を小さくして形を変えたりしたので、何かがひとつ消え去った感じとなる。また四月に「三省堂書店神保町店」が建て替えのために一時閉店するので、八階の催事場で定期的に開かれていた古書市も、『最後の古書市』を開催し幕を下ろした。

 二月は東村山にいつの間にか出現していた「古本×古着ゆるや」を訪ね、豪徳寺の「靖文堂書店」の実店舗閉店を目撃。豪徳寺から古本屋さんが一件減ってしまったと思ったら、明大前から「七月堂古書部」が移転して来たので増減なしの結果に胸を撫で下ろす、また久しぶりに対面で古本を販売する機会に恵まれ、谷中の洋服屋さん『蜜とミシン』の二階で、大阪から上京した「古書ますく堂」と和室で古本販売に勤しむ。古本が目の前で売れてゆく喜びと、お客さんと言葉を交わす喜びに打ち震える。

 三月はひばりケ丘の住宅街に実は一月から開店していた「古書きなり堂」を苦心の末に探り当てる。また二年ぶりの再開となった『第61回神田古本まつり 青空掘り出し市』には、客として駆け付けるばかりか、西荻窪「盛林堂書房」の手伝いとしてワゴンの内側に立ち、ひたすら精算作業を続ける地獄のような忙しさを体験する。そして西荻窪では駅近くの「TIMELESS」が閉店し、学芸大学の「流浪堂」も建物老朽化のために店舗を一時閉店。だが必ず同じ学芸大学の地にて店舗営業を再開するとのことだったので、今からその時が楽しみである。

 四月は前述の「三省堂書店神保町店」一時閉店に伴い、四階にあった「三省堂古書館」も閉館となる。今のところ、新・三省堂書店神保町店に再び入居の予定はないとのこと。大変残念である。また千葉・高根公団駅近くにあったミステリにも強い「鷹山堂」が惜しまれながら閉店。だがお店の跡地は、そのまま「はじっこブックス」が受け継ぎ、在庫も一部受け継ぎ六月には実店舗として営業をスタートした。古本屋さんの後を別の古本屋さんが受け継ぐのは時々あることだが、何か心温まるホッとする出来事である。さらに有名な古本イベントである谷根千の「不忍一箱古本市」も開催日を一日限定にして復活。一日故に参加者の競争率が凄まじく跳ね上がったとのこと。皆古本を媒介に対面でコミュニケーションをはかりたくて、ウズウズしまくっていたのである。

 五月には早稲田で早稲田通り沿いから「古書ソオダ水」のあるグランド坂通りに移転した「三幸書房」に早々に来店。新小説社の「傳法ざむらひ/長谷川伸」が二千円で買えたりして、お店のことが一気に好きになる。また、ミステリ評論家・日下三蔵氏が講演で松本を訪れると言うので、訪ねるべきお店を列挙して伝えると、松本城を模した古本屋さん「青翰堂書店」は2020年三月に閉店したと逆に教えられ、ショックを受ける。

 六月には激安だが良書が紛れ込んでいる押上の「イセ屋」が消滅しているのを目の当たりにしてショックを受ける。そして渋谷の老舗「古書サンエー」も75年の歴史に幕を下ろして閉店してしまった。相変わらず昔程フットワークが軽くないのとコロナ禍のせいで、関東近くのお店の話ばかりだが、閉店情報が目立つのが痛いところである。だが、新しいお店がチラホラ生まれ、この先の開店情報もすでに飛び込んで来ているので、新たな巡る楽しみはこれからも無事に続きそうである。

 そんな古本屋探訪活動の目立ったご褒美としては、講談社「兼高かおる世界の旅」&実業之日本社「兼高かおる世界の旅 オセアニア編」がともに百円、青心社「世界はぼくのもの/ヘンリー・カットナー」が百円、天佑社「小さな王國/谷崎潤一郎」が函ナシだが百円、これはヤフオク落札品だがアルス「槐多画集」が4980円、筑摩書房「人間失格/太宰治」の初版が百円、などであろうか。後半もこのような輝ける安値の宝の獲得を目指し、古本屋をギラギラ彷徨うこととなるだろう。

 また昨年秋辺りから再開した、日本屈指のミステリ古本魔窟・日下三蔵氏邸の書庫片付けにも、盛林堂書房の手伝いとして、もはや上半期だけで七回もうかがっている。これまでの地道な活動の成果か、作業効率が段々上がり、各所に整理のためのスペースが生まれ、長い長いトンネルの先に仄かに光が見えて来た思いである。人の家の書庫の片付けを始めて、間に多少のブランクはあるがすでに八年が経過している…まるでサグラダ・ファミリア建設の難事業に関わっているみたいだが、ライフワークの一つとして、どうにかみんなの力を合わせ、美しく使える書庫の完成に漕ぎ着けたいものである。

 気付けばもう2022年も半分が終わってしまった。齢を取るごとに、時間の進みがドンドン早くなっているように感じるのは、決して気のせいではないだろう。もはや若い頃とは違い、この先使える時間は、段々と限られて来ているのだ。だがそれがわかっていても、これからも古本屋と古本に、人生をぶちまけて行くのに変わりはないだろう。まずは酷暑の夏を古本を買いながら乗り切って、コロナの第七波も古本を買って乗り切って、またこの場をお借りして、色々ご報告させてもらえれば幸いである。

 
 
 
 
 

小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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2022年7月11日号 第350号

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 古書市&古本まつり 第114号
      。.☆.:* 通巻350・7月11日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━【シリーズ書庫拝見4】━━━━━━━━━

日本近代文学館 前編 作家たちが託した夢     南陀楼綾繁

 5月18日、井の頭線の駒場東大駅から駒場公園への道を歩く。周
囲は静かな住宅街。この道を通るのは久しぶりだ。

 20代の頃、毎週のようにこの道をたどって、日本近代文学館に通っ
た時期がある。復刻版の出版社の編集者として、資料を探しに来てい
たのだ。公園に入ると、平べったい建物がある。短い階段を上がり、
入館手続きをして中に入ると、カードケースがずらりと並ぶ。奥の
閲覧室には先客が1人か2人いるだけだ。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9684

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

日本近代文学館
https://www.bungakukan.or.jp/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

コショなひと ビブリオ
コショなひと 古書 月世界
コショなひと 浅倉屋書店

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━━━━━━━━【お知らせ】━━━━━━━━━━━━

◆長編版映画『ポラン』PFFアワード2022選出◆

中村洸太さんの自主製作ドキュメンタリー長編版映画『ポラン』が
「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」の「PFFアワード2022」
に選出されました。

選出に際し中村洸太さんから本メールマガジンにメッセージを
いただきましたのでご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
メールマガジン第347号「自著を語る(番外編)」(5月25日配信)では、
2021年2月に実店舗営業を終えた東京都練馬区大泉学園の古書店「ポラ
ン書房」の閉店を追った短編ドキュメンタリー映画『最終頁』を紹介さ
せていただきました。その長編版である『ポラン』が、このたび、「第
44回ぴあフィルムフェスティバル2022」の「PFFアワード2022」に選出
されました。

短編版はポラン書房の閉店までを描きましたが、今回の長編版は、店主
の石田恭介さん・石田智世子さんご夫妻、店員の南由紀さんを軸に、閉
店に至るまでのポランの軌跡、テナントからの撤収、そして閉店後の足
取りを描いています。(南さんは現在、江古田で古書店snowdropを開業
されています。)

映画『ポラン』は9月に東京の国立映画アーカイブで2回、11月に京都文
化博物館で1回、スクリーンで上映されます。DOKUSO映画館とU-NEXTでの
オンライン配信もある予定です。

ぴあフィルムフェスティバルの詳細は8月上旬に発表とのことです。

古書店をテーマとするこの映画を、大きなスクリーンで観ていただける
ことになり、とても嬉しく思います。本作を通して、多くの方々に古書
店の魅力を発見/再発見していただけることを願っています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022 PFFアワード2022」入選作品
https://pff.jp/jp/news/2022/07/pffAward2022_0701.html

メールマガジン第347号「自著を語る(番外編)」はこちらから
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9425

━━━━━【7月11日~8月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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TOKYO BOOK PARK 吉祥寺

期間:2022/05/20~2022/10/30
場所:吉祥寺パルコ2階 武蔵野市吉祥寺本町1-5-1

https://twitter.com/TOKYOBOOKPARK

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第16回 カジル横川古本市(広島県)

期間:2022/07/04~2022/07/11
場所:JR横川駅前フレスタモール  カジル横川1階通路
   広島市西区横川町3-2-36 JR横川駅隣接

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2022/07/06~2022/07/19
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴン販売
最寄駅:横浜市営地下鉄 センター南駅
    市営地下鉄センター南駅の改札を出て直進、右前方。※駅構内 

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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神戸阪急古書ノ市(兵庫県)

期間:2022/07/13~2022/07/18
場所:神戸阪急本館 9階催場 神戸市中央区小野柄通8丁目1番8号

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趣味の古書展

期間:2022/07/15~2022/07/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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第141回 倉庫会 古書即売会(愛知県)

期間:2022/07/15~2022/07/17
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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第2回八王子オクトーレ古本まつり

期間:2022/07/16~2022/07/24
場所:JR八王子駅北口デッキ直結 八王子オクトーレ2階特設会場

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和洋会古書展

期間:2022/07/22~2022/07/23
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2022/07/22~2022/07/23
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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中央線古書展

期間:2022/07/23~2022/07/24
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2022/07/28~2022/08/17
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  柏市南柏中央6-7

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我楽多市(がらくたいち)

期間:2022/07/29~2022/07/30
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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杉並書友会

期間:2022/07/30~2022/07/31
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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夏の阪神古書ノ市(大阪府)

期間:2022/08/03~2022/08/08
場所:阪神百貨店梅田本店 8階催事場 大阪市北区梅田1丁目13番13号

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城北古書展

期間:2022/08/05~2022/08/06
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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Vintage Book Lab(ヴィンテージ・ブック・ラボ)

期間:2022/08/06~2022/08/06
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

https://www.vintagebooklab.com/

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オールデイズクラブ古書即売会(愛知県)

期間:2022/08/12~2022/08/14
場所:名古屋古書会館 2階 名古屋市中区千代田5-1-12

https://hon-ya.net/

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好書会

期間:2022/08/13~2022/08/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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日本の古本屋メールマガジンその350 2022.7.11

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 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
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 広報部:志賀浩二
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日本近代文学館 前編 作家たちが託した夢  【書庫拝見4】

日本近代文学館 前編 作家たちが託した夢    【書庫拝見4】

南陀楼綾繁

 5月18日、井の頭線の駒場東大駅から駒場公園への道を歩く。周囲は静かな住宅街。この道を通るのは久しぶりだ。

 20代の頃、毎週のようにこの道をたどって、日本近代文学館に通った時期がある。復刻版の出版社の編集者として、資料を探しに来ていたのだ。公園に入ると、平べったい建物がある。短い階段を上がり、入館手続きをして中に入ると、カードケースがずらりと並ぶ。奥の閲覧室には先客が1人か2人いるだけだ。

 請求した本や雑誌を受け取って、席に座る。同館では資料を製本や合本せずに、原形のまま所蔵している。グラシン紙の掛かった雑誌の表紙を眺め、薄いページを慎重にめくると、「ペラリ」という音さえ聴こえる気がする。それほど静かなのだ。ここで過ごすと、時間が経つのを忘れてしまう。腹が減ると、隣の喫茶室でサンドイッチなどを食べて、また戻ってきた。

 それから30年経っても、そうした風景は以前と同じだ。変わったのは、喫茶室が〈BUNDAN COFFEE&BEER〉というブックカフェになったことぐらいか。

日本近代文学館 外観

方針は「原型保存」

 そんなことを思いながら受付で待っていると、事務局の宮西郁実さんが迎えに来てくれた。さっそく書庫に案内してくれるというので、持参した上靴に履き替えて、中に入る。

 まずは1階を見学する。ここには主に雑誌が収蔵されている。配列はタイトルの50音順。『日本〇〇』『文学〇〇』という誌名は多いので、延々とその棚が続くことになる。

 前述したように、同館では基本的に原型保存を旨としており、雑誌の1冊ごとにグラシン紙が掛けられている。表紙や裏表紙をコピーしたい人のために、取り外せるようになっている。

 2012年に同館に入館した宮西さんは、研修期間中にグラシン紙の掛け方を習ったそうだ。何冊もやっているうちに慣れてくるというが、人によって上手い下手はあるのではないか。絶望的に不器用な私には、こんなのはムリだ。

 同館には「高見順文庫」などの文庫・コレクションがあるが、その中に入っている雑誌も、バックナンバーを揃える目的からここに「混配」(一緒に配架)している。その雑誌には文庫の印が押されている。また、中には寄贈の段階で合本された雑誌も混じっている。

 あまりに膨大でどこから見たらいいか、判らなくなる。それで以前、ここで閲覧した『文明』を手に取る。終戦の翌年に田宮虎彦が発行した雑誌で、花森安治が表紙とカットを手がけている。すっきりと印象的なデザインだ。田宮と花森は神戸の雲中小学校の同級生で、東京帝大の『帝国大学新聞』編集部でも一緒だった。その縁で花森は、文明社のほとんどの単行本や雑誌の「装釘」(花森の用法)を担当した。

花森安治装釘の『文明』。近代文学館には創刊号から3巻3号までが揃う

 なんとなく上を見あげると、棚の上に本の函が並べられている。アレはなんですか? と訊くと、宮西さんは「単行本の函は場所を取るので、あそこに並べているんです」と答える。中には戦前のものもあり、閲覧者が希望すれば出してもらえる。ここでも原型保存の方針が貫かれている。

 同館の資料総数は、現在約130万点。そのうち図書が50万点、雑誌が71万点、残りは原稿類などの特別資料だ。同館が設計された時点では「とりあえず50万冊の図書・雑誌類、10万点の特殊資料を収蔵できるスペースを前提」としていたらしい(大久保乙彦「私たちの新しい図書館 日本近代文学館」、『図書館雑誌』1968年2月号)が、その倍にまで増えている。2007年には成田市で成田分館を開館し、新たな収蔵庫が確保されたとはいえ、慢性的なスペース不足に悩まされている。これは書庫、収蔵庫を持つ資料館に共通する悩みだろう。
「同人雑誌だけで毎月200冊が届くんです」と、宮西さんは云う。棚が埋まってくると、一部を他に移して空きをつくる。そのたびに、棚の表示ラベルもつくり変えるという。
『改造』『キング』『講談倶楽部』など著名で発行時期の長い雑誌は、壁際に配架されている。コミケの壁際サークルみたいで面白い。また、大判の雑誌は別の棚に平置きされている。50音順配列が基本であるが、例外も多く、どこに何があるかを把握できるまでには経験が必要だろう。

 中央に、閲覧から戻ってきた雑誌を置いておくブックトラックがある。開館当時から使われているもので、「車輪の片側のみが動くので、使いこなすまでに時間がかかるんです」と、宮西さんは云う。

1階書庫。

ブックトラックは、
開館当時から働き続ける50年選手だ

目眩く本の数々

 地下1階に移る。ここには図書と文庫・コレクションが所蔵されている。

 この階には電動棚が多い。それ自体は珍しくないが、この棚は間に人がいるのを感知して、ボタンが点灯するのだ。こういうのは初めて見た。書架と書架のすき間は少しだけ開いていて、空気を通すようになっている。

 文学作品については、著者名の50音順に表示されている。赤瀬川原平は尾辻克彦としても活動しているが、尾辻のところにまとめられている。

 ここでもやはり、どこから見ればいいか悩み、自分の好きな作家を求めてウロウロする。尾崎一雄の本は私も以前、集めていたが、さすがに美本揃いでうっとりする。棟方志功が装丁した『玄關風呂』(春陽堂書店、1942)を手に取って奥付を開くと、「関口良雄氏寄贈」の印がある。大森の古書店〈山王書房〉の店主が寄贈したものだ。関口良雄と同館のかかわりについては、次回詳しく書くつもりだ。

 作者別とは別の棚には、「複刻版」(同館では元のかたちの精密な複製という意味でこう表記する)の原本が並ぶ棚がある。同館では開館時から雑誌と初版本の複刻事業を手掛けてきた。なかでも大事業だったのが、1968年に開始された「名著複刻全集近代文学館」だ。明治前期、明治後期、大正期、昭和期の4期で合計120点、159冊を、刊行当時の原本に限りなく近いかたちで複刻し、ほるぷ出版から刊行された。このシリーズは大いに売れ、館の運営を支える基盤となった。いまでも古本屋でよく見かけるが、一瞬、原本じゃないかと罪な期待をさせてしまうほど出来がいい。
「可能な限り状態のいい原本を集めたので、同じ本が複数冊あります」と、宮西さん。たしかに、夏目漱石の『三四郎』(春陽堂書店、1909)だけで4冊もあった。

 川端康成『感情装飾』(金星堂、1926)を見せてもらう。この棚では函が付いたままにしてある。函、本体とも吉田謙吉の装丁が美しい。取材時には展示室で「川端康成展」が開催中だったので、ひときわ興味深い。

 そういえば、貴重な資料を手にするときにも、宮西さんは素手のままだ。「本館では指の感覚を保ち資料に負荷をかけないように、手袋は使用しないんです。その代わり、手は事前に洗って清潔に保ちます」。なるほど。

 このほか、研究書や評論、全集、文庫本などの棚がある。

川端康成『感情装飾』

近代文学館の生みの親「高見順文庫」

 次に文庫・コレクションの棚を見学する。同館の肝とも云える一角だ。

 現在約165種があり、文庫は所蔵者の旧蔵書、コレクションは所蔵者と対象作家が別人である場合を指す。たとえば、「原民喜コレクション」は義弟の評論家・佐々木基一が寄贈したものであり、「瀬戸内寂聴コレクション」は与儀実忠が収集した瀬戸内の著書などである。

 文庫には、芥川龍之介、川端康成、谷崎潤一郎、太宰治ら文学史に名を残す作家のものが多いが、私がまず見たかったのは「高見順文庫」だった。なぜなら、彼は日本近代文学館の生みの親の一人だからだ。

 1962年、日本近代文学館の設立準備会が発足。翌年4月に財団法人が発足し、高見は理事長となった。本好き、雑誌好きとして知られ、蔵書をもとに長大な『昭和文学盛衰史』を執筆した。それだけに「今のうちにかういふ雑誌や本を集めて保存しておかないと、みんななくなつてしまふ。有名な作家の本や有名な雑誌は保存されてゐるが、名もない同人雑誌のやうなもので今となると実は大切な文献だといふのが、ほとんど失はれて行く」(『貴重な屑雑誌』、『高見順全集』第17巻、勁草書房)という思いは人一倍強かった。同年10月に「近代文学史展」を開催し、開館前から寄贈が続いた。

 この頃の高見について、開館当時の理事であった小田切進(のちに理事長となる)はこう書く。
「高見さんはどこへ出かけ、どこを歩いても、旅先でも、古書店のある場所をよく知っていた。さっさと入った。池袋へ現れても、必ず幾つもの店をのぞくという風だった。そのため歩く時が滅法早くなり、追いつけない。ひとたび古書店へ入ると、もう愉しくて仕様がない、という感じだった。収集趣味というより、古い本や雑誌がとにかく無類に好きだった」(『続文庫へのみち 郷土の文学記念館』東京新聞出版局)

 この運動の最中、高見は癌を宣告されるが、1964年5月に開催された「近代文学館を励ます会」には病を押して出席した。この時期の『続・高見順日記』の記述は鬼気迫る。そして翌65年8月17日に死去。前日には、駒場公園に決まった建設地の起工式が行なわれていた。高見の遺志を継いで、伊藤整が理事長に就任する。

 高見文庫の図書は没後、2回にわたって妻・秋子から寄贈されたもので、蔵書のほぼ全部が収まった。自身の著作をはじめ、文学関係書が約9000冊あり、そのほか、太平洋戦争や満州・上海関係、戦時中に陸軍報道班員として滞在したビルマに関する本などがある。

 同館に所蔵されている『日本近代文学館図書台帳』には、受け入れ番号順に受贈・購入した本が記入されている。そのうち、かなりの部分を高見順からの寄贈が占めている。

 高見文庫の雑誌は1700種、2万5000冊ほどが寄贈されたが、前述したように雑誌の棚に混配されている。

 また、原稿や書簡などは「特別資料」に分類されている。そのなかの「鎌倉文庫関係書類」を閲覧する。鎌倉文庫は1945年に鎌倉在住の文学関係者で開店した貸本屋(戦後は同名の出版社)で、この書類には鎌倉文庫の社則や、高見の名前が入った身分証明書が含まれていた。高見は鎌倉文庫のために貴重な本を提供しているが、そのとき提供した中戸川吉二の5冊のうち、『反射する心』(新潮社、1920)など4冊が同館に寄贈されている。

高見文庫の中戸川吉二の著書。

夢を託される場所――受贈と公開

 文庫やコレクションは、どのような段階を経て公開に至るのだろうか?
「まず所蔵者からご連絡をいただいて、受け入れるかどうかを判断します。ご自宅に収書に伺う場合と、送っていただく場合があります。分量が多いと、何回にも分けて通い、箱詰めをします」と、宮西さんは話す。

 文学館に到着すると、リストをつくって寄贈者に報告し、データベースに登録する。また、館報の「図書・資料受入れ報告」欄に掲載する。「資料整理が終わったら、すみやかに公開するように心がけています」。受け入れたまま何年も放置するようなことは、同館に関してはあり得ないのだ。

 主要な文庫・コレクションについては、目録を刊行する。いずれも販売されており、在庫がないものもコピー版を同価格で購入できる。また、隔月で発行されている館報にも、文庫・コレクションの紹介が掲載されている。これも一部100円で販売しており、オンラインショップからも購入できるので便利だ。

 整理中の文庫・コレクションは、書庫内に仮置きされている。整理が終わると、書庫内の「住所」が決まる。安住の地を得るわけだ。

 2017年に受け入れた「曾根博義文庫」は、その前年に死去した日本文学研究者の蔵書のうち、図書・雑誌約9000点を収めるものだ。曾根さんは古書展通いを続けて、膨大な蔵書をお持ちだった方で、本の収納のために建てられた自宅を私も訪れたことがある。

 懐かしいなあと棚を眺めていると、私が最初に出した『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)が並んでいた。手に取ると、何やら挟まっている。献本したときの私の手紙じゃないか! 汚い字が恥ずかしい。それに対して、曾根さんが私に送った葉書のコピーも挟んである。こういった片々とした紙ものも、資料として保存されていたことに感動を覚えた。

 同館では、個人情報に関するものは閲覧できないので、これは書庫だからこその出会いなのだ。

 作家や研究者の蔵書からは、彼らが文学館に託した夢のようなものを感じる。

 
 次回は、蔵書の収集に尽力した同館の人たちと、それを支えた3人の古本屋について書きたい。

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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