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100年前のわたしたちの言葉

100年前のわたしたちの言葉

平山亜佐子

1月末に左右社より3冊目の自著『戦前尖端語辞典』を上梓した。
大正8年から昭和15年に出た30余りの流行語辞典のなかから、今見ても面白い、または意外な驚きのある言葉を集め、語釈を採録し、解説をつけ、当時の文芸作品から用例を引いた辞典風読み物である。
このメールマガジンの読者諸氏なら、大正後期から昭和10年代にかけて流行語辞典が大量に出版されていたことをご存じだろう。
古書店や古本市に行けばよく目にするし、比較的安価なため、書架にお持ちの方もおられることと思う。
パラパラとめくってみると、何しろ語釈が面白くて引き込まれる。
冗談あり、皮肉あり、ときには偏見ありで、辞書というよりコラム集のような感覚で読める。
なかには大して流行していないのに先走って収録したとしか思えない珍妙な言葉があるのもいい。
この面白さを多くの人に伝えたいと考え、本書では語釈をそのまま採録することに拘った。

なぜ大正8年から昭和15年に区切ったのかという質問をときどき受ける。
本邦のいわゆる流行語辞典の歴史には記念碑的な二冊がある。
下中弥三郎著『ポケット顧問 や、此れは便利だ』(成蹊社、のち平凡社)と、服部嘉香 植原路郎共著『新らしい言葉の字引』(実業之日本社)である。
『ポケット顧問 や、此れは便利だ』は「や便」と呼ばれ、流行語辞典の嚆矢とされる本だ。
下中が師範学校教員時代、間違いやすい文字とその使い方を学生に話したところ反応がよかったことから思いついた企画で、成蹊社の主人が「や、これは便利な本ですな」と出版を引き受けてくれたため、書名に採用したと「思い出を語る」(『平凡社百年史 1914-1973別巻』平凡社)にはある。
大正3年の刊行からたちまち版を重ね、増補しながら昭和11年まで売られ続けた。
その4年後の大正7年に出た、服部嘉香 植原路郎共著『新らしい言葉の字引』は、新語・流行語に特化したことと五十音順に並べたことで成功をおさめた。
こちらも大正14年には115版を数え、昭和になっても並んでいたという。

この2冊の成功を見た他の出版社が、これに続けとばかりに刊行を始める。
つまり、大正8年の辞典から始めた訳は、流行語辞典の流行が始まった年であるからだ。

また、昭和15年までとしたのは、太平洋戦争前夜で空気が変わってくるから、という理由に尽きる。
その頃ともなると、『現代時事常識辞典:附・新語辞彙』(時事調査会編、教文社)、『時局新語辞典 : 1億民の教養』(野田照夫 著法学書院)と、新語辞典もきなくさく
なってくる。
本書はモダン文化を象徴する「尖端語」にスポットを当てたいと考えていたため、この年を区切りとした。

大正8年から昭和15年という時期は、第一次大戦と第二次大戦のいわゆる戦間期にあたる。
日本では、前年の大正7年にスペイン風邪が上陸し、大正10年頃まで猛威を振るった。

大正8年の後半にはバブル景気があったものの、翌年には大恐慌となり、その後は慢性不況が10年続く。
都市にはホームレスや下層民があふれ、労働問題がにわかに拡大した。
大正12年には関東大震災、昭和2年に昭和金融恐慌、昭和5年に金解禁、昭和6年に金輸出(再)禁止、そして昭和12年、中国との全面戦争になだれこむ。
その一方で、雑誌、ラジオ、映画、レコード、レビューなどのメディアは咲き乱れる。

パンデミック、不景気、震災、ホームレス、労働問題、メディアの発展……並べてみると、2021年の我々ととてもよく似た状況なのだ。
つまり本書に収められた尖端語は、マスクをして外出自粛をしながら低い給料と失業の不安におびえつつ、テレビや本やSNSで気を紛らわしてなんとか毎日をやり過ごしている私たちの、100年前の言葉とも言えるのだ。

私事ではあるが、本書は11年ぶりの著書となる。
長い間苦戦したが、この度縁あって左右社から出版の運びとなった。
結果的には、この時期に出せてよかったのではないかと考えている。
お陰さまで発売3日後に重版が決定した。
何も思い残すことはないほど大満足の出来と言うことはできないが、尖端語の面白さにはちょっと自信がある。
長く読まれて欲しいと願っている。

senzensentan
『戦前尖端語辞典』平山亜佐子著
左右社刊  定価:1,800円+税 好評発売中!
http://sayusha.com/

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映画ブックセラーズについて

映画ブックセラーズについて

かげろう文庫 佐藤龍

 先日、『ブックセラーズ』という映画を見てきました。
「本屋さんたち」というタイトルの映画ですが、本屋だけでなくお客さんや図書館や美術館の人たち、ブックハンターなど、本を取り巻く人々のインタビューを主としたドキュメンタリー映画です。

 舞台となるのはアメリカ、ニューヨーク。世界最大規模となる希少書の展示即売会を基軸として本の文化が語られます。ぼくも毎年参加しているのですが、かつて武器庫であった重厚な会場の雰囲気は独特で、他の都市で行われる古書展と比較しても業者、お客さんの情熱が感じられるフェアです。
映画でも映されていますが、本を売る業者や、それを見るお客さんだけでなく、シャンパンが空き熱心に談笑する人々といった、ちょっとしたパーティー会場のような世界です。

 映画では古書取引の歴史や文化、その意義なども解説されて行きます。
19世紀からの希少書取引の勃興、グーテンベルク聖書やシェイクスピアのフォリオの取引を手掛けた伝説的な書籍商の話し、世紀のオークションとなったダ・ヴィンチの手稿の行方など本好きには興味深いエピソードの数々が登場します。
 また近年の本の文化に対する危機感も大きく取り上げられています。インターネットの普及とオンライン販売の台頭、本のデジタル化の波と本屋さんの減少などです。この危機に関しては日本やヨーロッパでも同様で、どこでも本屋さんは消えて行き、電車では本を読む人を見かけなくなりスマートフォンを眺める人で埋め尽くされています。一古書業者としてこの映画を見ていて羨ましく思ったのは、ニューヨークではまだ確固とした、本を巡るコミュニティーが有り、デジタル化の波に対抗しうる力を持っている点でした。映画に登場する人物たちはある種の熱気(狂気?)を感じさせる人びとたちばかりで、古書とその取引の何が重要なのかを語っていきます。
実を言うと登場人物の多くはぼくの知己の人たちですがパンデミックで会えない中、とても懐かしい気持ちにもなりました。

 例えば映画の冒頭に登場するデイヴ。彼はオンライン販売には目もくれない本屋さん、日々本を探してアメリカ以外にも各地の本屋やブックフェアを渡り歩いて本を探し、手当たり次第にフェアに参加して本を売る業者さんです。ネット販売をしない本屋ですが、彼はメトロポリタン美術館やニューヨーク自然史博物館をはじめとした地元の大口の顧客も持っています。実際に本を手に取り、吟味して値付けする姿勢を、多くの美術館・図書館員が信頼しています。初めて自然史博物館の近くにある彼の店舗兼自宅を訪ねた時のことをよく覚えていますが、半地下の、古書と化石に埋もれた部屋に入った際、思わずその混沌さに大笑いしてしまいました。(彼はその時、ぼくの恐竜好きの娘のためにデスモスチルスの歯の化石をお土産にプレゼントしてくれたチャーミングな人でもあります。)

 そんな魅力的な人々を中心に映し出されていく映画ですが、撮影は確か2019年中のこと、向こうでの公開は昨年のパンデミック直前、2月だったと記憶しています。古き良き本屋の時代から書店の実店舗の激減と、それに抗う流れを伝えた映画の意義は今、パンデミックによって大きく変わってしまったと考えています。
あらゆる業種の営業形態から、人々のライフスタイルさえ変えてしまったCOVID後の“The Booksellers”『本屋さんたち』の未来は本屋の自分でも、あまり想像出来ません。でもこの映画の中で、ある本屋さんのスタッフ(レベッカ! 彼女は映画の撮影後に独立して古書店主として活躍しています。)が、こんな感じのことを話していました。『本の文化に関して、古い世代の本屋は悲観的だけど、自分は楽観的、アイデアが沢山あるから。』

 ぼくも同感で、これからの古書の世界に楽観的に思っています。その理由は日本にも、まだまだ(沢山とは言えないけど)本に愛情を持つ人たちがいて、古本・古書の文化を支えてくれていると感じているからです。
 『本好き』のあなたにはオススメの映画ですよ。

かげろう文庫
https://www.kageroubunko.com/

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映画 『ブックセラーズ』
4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、
アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

原題:THE BOOKSELLERS|アメリカ映画 | 2019年 | 99分
監督:D.W.ヤング 製作総指揮&ナレーション:パーカー・ポージー 
字幕翻訳:齋藤敦子 配給・宣伝:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ

世界最大のニューヨークブックフェアの裏側から見る
本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーの世界。

http://moviola.jp/booksellers/

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『自由律俳句と詩人の俳句』について

『自由律俳句と詩人の俳句』について

樽見博(日本古書通信社)

 俳句好きな人でも自由律の俳人の名や作品で思い浮かぶのは、種田山頭火の「分入つても分入つても青い山」や尾崎放哉の「咳をしてもひとり」くらいのものであろう。荻原井泉水や中塚一碧楼、橋本夢道、栗林一石路の名は聞いたことがあっても、作品やその生涯まで知る人は稀である。かく言う私も、2014年2月に『戦争俳句と俳人たち』(トランスビュー)を出した時点で全く大差はなかった。戦時中と終戦後の俳人たちの言動を追った前著をまとめ終った時に、自由律俳人たちの側から戦争がもたらしたものを見ることも出来るなと気が付いた。今は影を潜めた自由律俳句だが、戦前には多くのすぐれた人材を擁していたのである。

 戦時中に飯田蛇笏が、若き日の友人でもあった中塚一碧楼の
  とつとう鳥とつとうなく青くて低い山青くて高い山

という過去の自由律俳句を批判的に取り上げる一方で、最近の一碧楼作品は伝統に回帰しており結構なことだと書いていた。蛇笏が否定的に捉えた句が私には非常に魅力的に思えたのである。そこから自由律俳句の資料探しを始めたのだが、井泉水の著作は膨大にあり、山頭火や放哉関連の本も多いが、その他の自由律俳人たちの作品は触れようにも資料がほとんどないに等しかった。古書市場には沢山の俳句資料が流通しているが、定型・伝統側の資料が100あるとすれば、自由律俳句資料は1にも満たないだろう。先に上げた6名の作品なら、日本文学全集類の現代俳句篇などにごく一部が収められているが、その他がない。

 上田都史という、自由律俳人がいて、『自由律俳句文学史』『自由律俳句作品史』(共に永田書房)を刊行している。比較的よく見かける本で、まず自由律俳句を見るには基本となる本である。他にもやや珍しい本になるが、西垣卍禅寺による『自由律俳句文学史』『自由律俳句作品史』(共に「新俳句講座」)、唐沢隆三『自由律俳句史ところどころ』『自由律俳句史雑記』(共に私家版)などがある。しかし、これらはすべて自由律俳人によって書かれた著作で、定型・伝統派を含む全体的な現代俳句史にはなっていない。逆に定型・伝統派俳人による現代俳句史は枚挙に暇ないが、そこで自由律俳句が取り上げられることは極めて稀と言って過言でないと思う。季語使用や五七五の定型を遵守する俳人の作品にも、無季俳句や、敢えて定型を崩し語調の変化を効果的に使う例は極めて多いが、それは自由律ではなく破調の句であり、極端に言えば彼らにとって自由律は俳句の範疇外という認識なのである。

 ただ、前著で数多く取り上げた昭和前期の新興俳句系の俳人たちの作品を読んでいくと、プロレタリア俳句を含む自由律俳句からの影響が見られる。これは直接の影響というよりも、その時代の持つ息吹を定型派も自由律俳人たちも同様に捉えて(あるいは捉えられて)生まれた共通現象なのかもしれない。俳句ばかりでなく、あらゆる表現者は自ら選んだ手段、それは絵画でも音楽でも演劇でも同じだと思うが、他の表現法と時代の影響から自由でいることはできないからだ。

 自由律俳句には、大橋裸木の「陽に病む」という4音の作品がある一方で、松本和也の「空つきぬける青さ二番草三番草ととつても稲のうち側からはえてはもうこれ以上のびなくなつた腰」という55音もある作品が存在する。自由律には定型・伝統派の五七五の音数律、季語・切れ字を使うといった原則がない。それでいて結社主宰者の選句を仰ぐという形は同じなので、師の作品の模倣に傾き、自由律といいながら類型化を生じやすい。また、定型を否定するならば俳句という概念に捉われることなく、一行詩でよいではないかという「短歌俳句解消論」に常にさらされてきた。その意味で、自由律俳人は定型・伝統派以上に「俳句とは何か」という問題を常に突きつけられてきたのである。

次にあげる中塚一碧楼の句を読んで頂きたい。
  桑の茂りししずもりを筑波山近し(『一碧楼句抄』上馬)
  こゝに死ぬる雪を掻いてゐる(同くちなし)
  蛍を見てねむる夜の一つの枕(同 同)
  椿のつぼみ風にうごく時間が過ぎ去つてしまふ(同冬海)
  病めば蒲団のそと冬海の青さを覚え(同 同)

最後の句は一碧楼辞世の句とも言える作品である。自由律だが、これは俳句ではないと思うだろうか。
 また、三重県で『碧雲』という河東碧梧桐の流れを汲む俳句誌を主宰していた原鈴華の作品、
  吹いてきた風が こんなところに垣穂に花が 空に降る雨
  目覚むれば たゞ青葉 閑寂の寝具 肌ぬくもる
  雨雨雨 白い穂の花 カラリと葉が散る 秋の横顔
  蒼々と窓の玻璃 流れるよな雲 落葉が描く

俳句の原則からは大分離れているが、この形でしか表せない魅力を感じないだろうか。
 一碧楼と原鈴華は、今回の本を書く中で、私が最も魅力的に感じた俳人であった。山頭火や放哉とは別の自由律俳句を創出した人々が沢山いたのである。
 九年前、本書の元になった連載を始めた時に、最初に出会ったのが、長崎原爆の悲劇を、回想としてではなく、即時的に自由律で描いた松尾敦之であったことも、私には大きな意味があった。
 本書をまとめて改めて俳句の定型の持つ力を感じたことも確かであったが、それは何の疑いや迷いもなく定型を受け入れることと、様々な試みの末に定型に行き着くのとでは意味が違うと思うのである。「俳句とは何か」という正解のない問いに、真っ向からぶつかっていった自由律俳人たちの闘いを知ることは意義のあることだと考える。それが本書執筆の目的である。
 第三章「詩人の俳句」は、定型を持たない詩人たちが俳句をどのように捉えていたか、詩形の面から考察したものである。優れた俳句を残した詩人よりも、詩形の上で興味ある詩人を取り上げたのだが、自由な形で表現していた詩人たちは俳句定型の枠を楽しんでいる場合が多いのは意外でもあった。

 なお、最後に付け加えたいのは、最初にも書いたように、自由律俳句資料は古書市場での流通が少ないのだが、奇跡のようなことが起こった。新宿の文学堂書店の御当主が高齢を理由に膨大な在庫を十年ほど前から順次、古書市場に放出してくれたのである。その中に前著『戦争俳句と俳人たち』に使用した資料もあったし、その後も自由律を含む多くの俳句雑誌がまとまった形で出品されてきた。前記の一碧楼の『海紅』、原鈴華の『碧雲』も十年分以上が入っていて、幸運にも落札できたのである。俳句雑誌は殆ど需要がないが、価値ありと判断して長年にわたり収集されてきた筈である。全体的な古書需要の減少の中で、ともすれば我々古本屋は目先の利益を追いやすいのだが、資料の価値を知り、何時か現れる顧客のための収集を怠らない古本屋の矜持を文学堂の在庫によって認識させられた。こうした努力がなければ資料は後世に残らないからだ。
改めて文学堂書店内藤勇さんへの感謝とご冥福を祈りたい。

●本書の試し読みが以下のURLから可能です。
 https://hanmoto.tameshiyo.me/9784909658500

jiyuuhairitu
『自由律俳句と詩人の俳句』樽見 博 著
文学通信刊 定価:2,700円(税別) 好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-50-0.html

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2021年3月10日号 第318号

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 古書市&古本まつり 第98号
      。.☆.:* 通巻318・3月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

古書組合の役割と古書業界の仕組み その6          
 
             東京古書組合前事務局長 高橋秀行
 
 前回のメルマガで古書組合の交換会(市場)の開催方式について
ご紹介をしました。なるべく分かりやすくお話ししたつもりですが、
実際にはなかなかイメージが湧かなかったかもしれません。一見す
ればすぐ納得できるのですが、そのような機会もないわけで、いた
仕方がありません。古書業界では古書の日(10月4日)の記念事業と
して「古書店になるには、講座」なども開催したりしているので、
今後はホームページ等で市場の様子を動画配信してくれると、一般
にも分かりやすくて面白いのですが。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6763

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第26回 藤田加奈子さん 戸板康二を愛でるひと

                      南陀楼綾繁

 もう20年近く前のこと。当時、『季刊・本とコンピュータ』の編
集スタッフだった私は、仕事場にいるときに暇ができると、思いつ
いた言葉を検索していた。そうやって見つけたサイトは聞いたこと
もない古書の図版を載せていたり、マイナーなテーマの研究成果を
発表したりしていた。
藤田加奈子さんによる「戸板康二ダイジェスト」もそのひとつだっ
た。演劇評論家にして小説家、エッセイストの戸板康二について、
さまざまな角度から光を当てていた。私も中村雅楽ものの推理小説
や人物エッセイは好きだったが、戸板康二自身のことは何も知らな
かった。だから、ひとつひとつの記事やデータが面白かった。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6776

藤田さんのブログ http://www.ne.jp/asahi/toita/yasuji/

ツイッター https://twitter.com/foujika

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【3月10日~4月15日までの全国即売展情報】━━━━━

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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西部古書展【会場販売あります】

期間:2021/03/12~2021/03/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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御茶ノ水ソラシティ古本市

期間:2021/03/12~2021/03/20
場所:御茶ノ水ソラシティプラザ 千代田区神田駿河台4-6

https://twitter.com/koshoichi

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第181回神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2021/03/12~2021/03/14
場所:兵庫県古書会館 一階・二階 主催:兵庫県古書籍商業協同組合

http://www.hyogo-kosho.net/

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紙魚之會

期間:2021/03/12~2021/03/13
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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反町古書会館展(神奈川県)

期間:2021/03/13~2021/03/14
場所:神奈川古書会館 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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春の阪神古書ノ市(大阪府)

期間:2021/03/17~2021/03/30
場所:阪神百貨店梅田本店8階催場
大阪市北区梅田一丁目13番13号

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2021/03/18~2021/03/31
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場
柏市南柏中央6-7

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east TOKYO BOOK PARK vol.2

期間:2021/03/19~2021/03/21
場所:錦糸町パルコ 1階エントランス/外通路
墨田区江東橋4-27-14号

http://tokyobookpark.com/

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趣味の古書展

期間:2021/03/19~2021/03/20
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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east TOKYO BOOK PARK vol.2

期間:2021/03/23~2021/04/18
場所:錦糸町パルコ 6階特設会場  墨田区江東橋4-27-14号

http://tokyobookpark.com/

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2021/03/25~2021/03/28
場所:JR浦和駅西口 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前

https://twitter.com/urawajuku

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和洋会古書展

期間:2021/03/26~2021/03/27
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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中央線古書展

期間:2021/03/27~2021/03/28
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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青札古本市

期間:2021/04/01~2021/04/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2021/04/02~2021/04/14
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前
千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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下町書友会

期間:2021/04/02~2021/04/03
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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書窓展(マド展)

期間:2021/04/09~2021/04/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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大均一祭

期間:2021/04/10~2021/04/12
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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 次回は2021年3月下旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその318 2021.3.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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古書組合の役割と古書業界の仕組み その6

古書組合の役割と古書業界の仕組み その6

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 前回のメルマガで古書組合の交換会(市場)の開催方式についてご紹介をしました。なるべく分かりやすくお話ししたつもりですが、実際にはなかなかイメージが湧かなかったかもしれません。一見すればすぐ納得できるのですが、そのような機会もないわけで、いた仕方がありません。古書業界では古書の日(10月4日)の記念事業として「古書店になるには、講座」なども開催したりしているので、今後はホームページ等で市場の様子を動画配信してくれると、一般にも分かりやすくて面白いのですが。
 さて、今回は交換会(市場)の現場において、業者間ではそれぞれどんな思惑が生じるかについて、お話を進めていきたいと思います。

 まず、古書市場の開催方式は大別して二つの方法があり、一つは振り市方式だと説明し、前回、開催方法も紹介しました。この市方式を分かりやすく例えれば、厳密には少し違うのですが、サザビーやクリスティーズのオークションで競り合っている様子に似ています。競争相手の発声値に金額を上乗せしていけばよいので、一見楽そうに思えますが、相手が意地になった場合や売値との兼ね合いで、競りから自分で降りざるを得ない場合もあります。その上、対抗者が目の前にいて、同業者間での競り合いなので様々な思惑もあり、やりにくい面があるかも知れません。また、業者がどうしてもその本を入手したいときは、低額から落ち値を競るのではなく、唐突に高額の買値を付けて落札することもあります。この発声をハナ声と言い、他業者は暗黙の了解として競るのを控えますが、まれに競り合いになることもあります。

 今一つは、置き入札方式でした。この市は出品本を事前に並べて置き、業者は落札希望金額を書いて封筒に入れ、後で市会の担当者が開札し、最高値を書いた人に落札するという方式ですが、今日ではこの方式が主流になっています。
 この交換会に参加して古書を競る醍醐味は、参加した古書業者しか味わうことができないものです。もちろん業者は日常的に交換会に参加して、仕入れのための入札をしているわけですから、いちいち入札にドキドキしているわけではありません。ある意味機械的ですが、しかし、これはといった自店向きのレアな本が目の前に出品されていたとき、いくらの値で入札するか、自分の懐具合もあり悩み始めます。交換会参加者の皆がライバルですが、中でも競合店の参加の有無、相場が分かる業者の存在、販売先の見当等を総合的に判断し、落札値を予想しながら札を入れていきます。一度入れた金額を何度も書き直し、再入札をしたあげく、また再々入札をすることもあります。そのようなとき、開札は息をのむ思いで、うまくいけば天にも昇る快感、小差で他店に持っていかれたときの悔しさは半端ではありません。10円単位まで競り合いますので、入札する金額にも業者それぞれの癖があって、金額の百円単位に990円とつける人、890円、870円、210円、110円、000円の人など(〈例〉78,990円や34,210円等)、千差万別でとても興味深いものです。(入札は10円単位まで認められています。)

 また、入札用紙に金額と店名を書くのですが、これもまた各業者共それぞれ独特で、文字というよりも記号のような筆記なので、開札の担当者もこの記号のような文字が判読できなければ一人前でないという風潮もあります。最近では読み違いの問題もあって、入札用紙に社判を押してくる人もおります。このように市場には悲喜こもごも見えないところで様々な人間模様があります。

 最後にエピソードを一つ。古書業界で将来を嘱望された若手の組合員の方でしたが、彼は将来、自分の小屋(劇場)を持つのが夢でした。ある時都内で劇場に適した物件が見つかり、それが競売になり、彼が落札してビル一棟を入手したのです。私が『不動産の専門家が並みいる中で、よく落札したねえ』と言うと、彼は事もなげに「ウン、入札は毎日練習しているからねえ」と答えたのでした。

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第26回 藤田加奈子さん 戸板康二を愛でるひと

第26回 藤田加奈子さん 戸板康二を愛でるひと

南陀楼綾繁

 もう20年近く前のこと。当時、『季刊・本とコンピュータ』の編集スタッフだった私は、仕事場にいるときに暇ができると、思いついた言葉を検索していた。そうやって見つけたサイトは聞いたこともない古書の図版を載せていたり、マイナーなテーマの研究成果を発表したりしていた。
 藤田加奈子さんによる「戸板康二ダイジェスト」もそのひとつだった。演劇評論家にして小説家、エッセイストの戸板康二について、さまざまな角度から光を当てていた。私も中村雅楽ものの推理小説や人物エッセイは好きだったが、戸板康二自身のことは何も知らなかった。だから、ひとつひとつの記事やデータが面白かった。
 サイトの中にあった「日日雑記」は、日々の古本屋通いや映画館で見た作品などを記しており、私自身の興味に重なるところがあった。当時、女性が古本について書いた文章は、雑誌でもウェブでもまだ少なかった。2003年からは「日用帳」という名前でブログとなり、文章の量も増えた。のちにご本人にお会いしたとき、饒舌ぶりがブログそのままで笑ってしまった。

「ナンダロウさん、久しぶりですね!」と、藤田さんは相変わらず饒舌だった。乗ってくると早口になるので、メモが追いつかない。しばしば制止しながら、話を聞いた。
 藤田さんは1974年、長野市生まれ。一人っ子で、会社員の父と主婦の母との3人暮らし。父も母も小説好きだったが、家にはあまり本はなかった。例の黄色い表紙の『チボー家の人々』 (白水社)があったのは覚えているそうだ。
 小学1年から東京の武蔵野市に住む。武蔵野市公会堂の隣に市立図書館があり、そこに一人で通うようになる。平家物語や源氏物語など古典を子ども向けにしたものを読んだ。高学年になると、新潮文庫で芥川龍之介、太宰治などを買い、通学するときに電車で読んでいた。
 中高一貫の私立校に入ると、経堂まで電車で通う間にさまざまな本を読む。
「新潮文庫と岩波文庫で萩原朔太郎、大江健三郎などを読みました。この頃創刊した講談社文芸文庫は定価が高かったけど、大江などを買いました。『ちくま文学の森』は初めて読む作家が多くて、楽しかったです」
 学校の図書館は蔵書が多かった。三島由紀夫が割腹自殺した日の新聞の縮刷版を引っ張り出して、友人と見たりした。図書委員になり、文化祭で古本市をやったという。
 女子高生らしく、『mc Sister』や『Junie』も読んだが、『Olive』では洋書店の紹介記事に「ステキ」とうっとりし、『本の雑誌』や『リテレール』をブックガイドとして愛読する立派な本好きになっていた。

 はじめて古本屋に行ったのは、高校生のとき。学校帰りに吉祥寺や三鷹の古本屋に寄った。
「友だちには古本は汚いと云われましたが、私は気になりませんでした。『大江健三郎全作品』(新潮社)などを買いましたね」
 大学浪人のときは、神保町に近い予備校に入り、〈東京堂書店〉や〈三省堂書店〉などの新刊書店に通った。翌年には慶應義塾大学経済学部に入学。渋谷の新刊書店でアルバイトをする。
「愛読している作家が来店したときは、すぐ判りました。アルバイトは割引で本が買えるのも嬉しかったです」
 在学中に海外旅行に出かけ、ニューヨークの本屋で、柴田元幸訳で読んでいたポール・オースターの原書を買ったこともある。

 卒業後、仕事が決まらなかった時期に、藤田さんは趣味の世界に入り込む。
「唐澤平吉『花森安治の編集室』(晶文社)を読んで、子どもの頃、母が購読していた『暮しの手帖』が懐かしくなり、当時、六本木にあった暮しの手帖社別館でバックナンバーを読みました。そこで、創刊号に掲載された戸板康二の『歌舞伎ダイジェスト』を読んだんです。これが戸板康二との出会いでした。花森安治のカットがステキでした」
 歌舞伎を観たり、閉館する間際の銀座の名画座〈並木座〉で黒澤明や成瀬巳喜男の映画を観るなど、藤田さんのなかで日本的な文化への嗜好が強くなっていた時期だった。
 その翌年、銀座の〈奥村書店〉で『歌舞伎ダイジェスト』の単行本を買う。この店では戸板の『歌舞伎への招待』(衣裳研究所)も購入した。その頃から、藤田さんは「戸板康二の本を集めよう」と思い立つ。
「吉祥寺の〈よみた屋〉、荻窪の〈ささま書店〉、神保町の演劇関系の専門店〈豊田書房〉などを回って、戸板康二や歌舞伎の本を探しました。就職が決まっても、会社の帰りに早稲田の古本屋街に寄っていました(笑)。また、江戸東京博物館の『荷風と東京』展に感激して、野口冨士男の『わが荷風』から派生して、野口が編集していた雑誌『風景』も集めるようになります」
 戸板康二の『あの人この人 昭和人物誌』(文春文庫)を読めば、そこに出てくる獅子文六、十返肇らのことが気になり、彼らの本を探すようになる。自然に買う本の範囲が広がってくる。まさに古本沼にハマった状態だ。
「一人暮らしするようになると、解放されてさらに本が増えました(笑)」

 1990年代末から2000年代の頭にかけては、出版メディアにおける「古本ブーム」が起こっていた。古書業界としてはバブルの時期から売り上げが後退し、デパートでの即売会も終了するところが増えた。そんな時期だからこそ、むしろ注目が集まったと云えるだろう。唐澤俊一や岡崎武志、坪内祐三らの古本エッセイ、月の輪書林をはじめとする古書店主の本などが、晶文社などから次々刊行され、活気があった。古本屋を特集する雑誌やムックも出た。その空気が、藤田さんの古本好きを加速させたのだろう。
「岡崎さんや坪内さんのエッセイで知った本を、古本屋で買おうと思いました。大村彦次郎さんの『文壇うたかた物語』など文壇三部作が出るのもこの頃で、かなり影響を受けました」
 2001年には、人から教えてもらい、石神井書林の古書目録を手に入れる。サイトの日記には、「噂に違わず、んまあ、なんて素晴らしい目録なのでしょう。まさしく、ページをめくる指を止めることができない」と興奮を抑えきれずにいる。
 その後、月の輪書林の目録も入手。その勢いで、五反田の南部古書会館の即売会にはじめて足を運ぶ。
「雑多に古本が並ぶなかから、100円で買えるのが魅力でした。古本屋の店舗では店主の目が気になるけど、即売会では荷物を預けるのでのびのび見て回れます。その頃はまだ女性客が少なかったせいか、帳場の古本屋さんによく話しかけられました(笑)」
 同じころ、神保町の〈書肆アクセス〉で書物同人誌『sumus』の洲之内徹特集を買い、バックナンバーも入手する。その後、『彷書月刊』『日本古書通信』の二大古書雑誌も読むようになった。神保町の古書会館にも行くようになる。

 藤田さんは1998年頃からウェブで日記を書いていたが、2002年にはサイト「戸板康二ダイジェスト」を開設。自分用のメモのつもりで、戸板の著書やプロフィールなどをまとめた。翌年にはブログ「日用帳」をスタートし、古本屋めぐりや買った本について書く。これが注目され、2004年には『ブッキッシュ』第6号の特集「戸板康二への招待」に、戸板康二ブックガイドを寄稿した。
「サイトやブログで書くために、戸板康二や東京について、国会図書館や大学図書館などで調べるようになりました。その習慣はいまも続いています。いま調べているのは、東京のテレビ塔のことです。なかなか先に進みませんが……」
 戸板康二関連では、戸板が参加していた句楽会の句集『もずのにへ』と同会の雑誌『太平楽』を〈扶桑書房〉の目録で見つけ、9万円で購入。そこで判ったことを、雑誌『游魚』第6号(西田書店)に寄稿した。ブログ「戸板康二ノート」ではその余話が掲載されている。もっとも、「余話」と呼ぶには恐ろしく長い文章である。
「書きたいことは、まだたくさんありますね。コンスタントに調べて、ブログで書いていきたいです」
 ちなみに、戸板康二本のベスト3は? と訊くと、悩みながら答えてくれた。
「『演芸画報・人物誌』『六代目菊五郎』『久保田万太郎』『折口信夫坐談』ですね。あ、4冊になっちゃいました(笑)」

 即売会はよく行くが、2014年に〈奥村書店〉が閉店して以来、店舗に足を運ぶことが少なくなった。ただ、関西に旅行に行くと、古本屋をめぐる。
「新型コロナウイルスの影響で、昨年春に即売会が中止になったときはつまらなかったですね。7月に東京古書会館で趣味展が再開されたときは、わーいと喜んで駆け付けました。バカみたいにたくさん買っちゃいましたよ(笑)」
 それにしても、買った本はどう整理しているのだろう。ましてや、藤田さんは『脇役本』(ちくま文庫)などの著書を持つ濱田研吾さんと結婚している。マニアックな古本好きの夫婦なのだ。
「本棚は別になっていて、夫の本棚は片付いています。私の本がそっちに侵食すると、黙ってどかされるんです(笑)」
 改めて古本の魅力は? と訊いてみた。
「世に埋もれている本と出会えることですね。私が手に取らなければ、ひょっとしてゴミとして捨てられたかもしれないと思うと、資料として残しておかなければと思います」
 藤田さんは今後も、戸板康二をはじめとする好きなテーマを愛でつつ、自分のペースで進んでいくだろう。

藤田さんのブログ http://www.ne.jp/asahi/toita/yasuji/
ツイッター https://twitter.com/foujika

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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2021年2月25日号 第317号

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☆INDEX☆
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1.『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自
2.『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄
3.『日本の医療崩壊をくい止める』 本田宏

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━━━━━━━━━━━━【自著を語る(258)】━━━━━━━━

『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』

                       八木正自

 私は半世紀に亘る古書業で古典籍を商品として扱ってきたのであ
って、研究者として向き合ってきたのではない。しかし、日常的に
かなり多くの古典籍の現物を手にしていると、よくも長い時を経て
今まで生き延びて来たものだ。その文字、紙、墨によってどのよう
に制作されたのか、内容やその成り立ちについての奥深さを知りた
い、という欲求が起こる。

続きはこちら
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『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自 著
平凡社  本体:860円+税  好評発売中!
https://www.heibonsha.co.jp/book/b482403.html

━━━━━━━━━━━【自著を語る(259)】━━━━━━━━━

『近代出版史探索Ⅴ』

                      小田光雄

 『近代出版史探索』は短編連作のかたちで書き継がれ、2019年に
第1巻、20年に第2巻から第5巻までが続けて出され、ようやく1001話
に達した。この連載は2009年に始めているので、12年を閲したこと
になる。
 拙ブログ連載タイトルは「古本夜話」で、確かに毎回古本屋で購
入した本を取り上げ、それに関する様々な事柄を記述していくスタ
イルをとっている。そのためによくある古本エッセイかと思われる
かもしれないが、もちろんそのように読まれてもかまわないけれど、
いくつもの問題設定と目的を内包させ、書き続けてきたのである。

続きはこちら
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『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄 著
論創社刊 価格 6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(260)】━━━━━━━━━

『日本の医療崩壊をくい止める』

         NPO法人医療制度研究会副理事長 本田 宏

 2020年は新型コロナ感染一色の年となりましたが、1年経った現
在は第三波による医療崩壊の危機が叫ばれています。

 昨年6月には麻生太郎副総理兼財務相が、日本は新型コロナ感染
による死者数が欧米より少ない「民度が違う」と答弁し、Go To
トラベルキャンペーンが開始されました。しかし多くの医療関係者
が懸念した通り感染者が年末にかけて激増、2021年1月には日本医
師会の中川俊男会長が「すでに医療は崩壊している」と記者会見
で述べる事態となりました。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6697

『日本の医療崩壊をくい止める』 本田宏・和田秀子 著
泉町書房 本体価格:1,900円 好評発売中!
https://izumimachibooks.com/book/9784910457000/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『戦前尖端語辞典』平山亜佐子著
左右社刊  定価:1,800円+税 好評発売中!
http://sayusha.com/

『自由律俳句と詩人の俳句』樽見 博 著
文学通信刊 定価:2,700円(税別) 3月上旬刊行予定
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-50-0.html

映画 ブックセラーズ 4月23日公開予定
世界最大のニューヨークブックフェアの裏側から見る
本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーの世界。
http://moviola.jp/booksellers/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

2月~3月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
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日本の古本屋メールマガジンその317 2021.2.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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iryou

『日本の医療崩壊をくい止める』

『日本の医療崩壊をくい止める』

NPO法人医療制度研究会副理事長 本田 宏

 2020年は新型コロナ感染一色の年となりましたが、1年経った現在は第三波による医療崩壊の危機が叫ばれています。

 昨年6月には麻生太郎副総理兼財務相が、日本は新型コロナ感染による死者数が欧米より少ない「民度が違う」と答弁し、Go To トラベルキャンペーンが開始されました。しかし多くの医療関係者が懸念した通り感染者が年末にかけて激増、2021年1月には日本医師会の中川俊男会長が「すでに医療は崩壊している」と記者会見で述べる事態となりました。しかしなぜ海外よりベッド数が多い日本で、感染者は少ないのに医療が崩壊したのでしょうか。残念ながら納得できる説明は今のところなされていません。
日本の医療は世界に誇る国民皆保険制度、そう思っていた国民が多いと思います。しかしその実態は、世界一高齢社会の日本の医師数は先進国最少で人口当り医師数はOECD(経済協力開発機構)平均より「13万人」も不足していました。その結果新型コロナに対応する感染症専門医も、ECMO(膜型人工肺)などを必要とする重症患者さんに対応する集中治療医も極端に少ないのです。

 少ないのは医師だけでなく看護師も同様で、医師も看護師も少ないために、一般のベッド数は確かに多いものの、重症者を診るベッド(ICU)数は先進国最低レベルでした。そのため重症者が増加した年末から新年にかけて病院の受け入れ態勢は一杯となって、新型コロナ以外のがんや救急患者さんの治療にも支障が出るようになったのです。これが日本の医療崩壊の実体です。

 私は1979年に弘前大学医学部を卒業し、移植外科医を目指して東京女子医大に移籍しましたが、1989年から埼玉県の北端に新設された恩賜財団済生会栗橋病院の外科部長として赴任し、同地で四半世紀勤務しました。当初は急性期中核病院の外科部長として24時間365日病院からの呼び出しに応えて働いていましたが、1990年代に全国で医療事故やたらい回し(受け入れ不能)が頻発して社会問題化した時に、その背景にある先進国最低の医師不足と医療費の実態を知ったのです。

 患者さんに安全で質の高い医療を提供するためには、多くの国民に日本の医療の真実を知ってもらわなければと、2002年の朝日新聞投稿を皮切りに、2006年にはNHKの「日本のこれから」に出演、2007年には「誰が日本の医療を殺すのか」(洋泉社)、2009年に「医療崩壊のウソとホント」(PHP研究所)を上梓しましたが、一向に日本の医療政策が改善される様子はありません。
 そして2015年に「本当の医療崩壊はこれからやってくる」を書いて外科医を引退し、医療再生の活動に専念しています。現役時代を含めて今まで、全国で行った講演も1500回を超えましたが、力及ばず、新型コロナで医療崩壊が現実のものとなってしまいました、残念無念です。

 本書はそのような私の活動を知った泉町書房の斎藤信吾さんとライターの和田秀子さんの絶大な協力をえてできた渾身の一冊です。私自身の経験に加えて北海道士別地域の危機的な医療体制、家族を過労死で亡くした家族の苦悩とその後、さらに新型コロナ禍にも関わらず進められようとしている全国400以上の公立・公的病院独法化や都立病院独法化問題、OECDより13万人医師不足を無視して厚労省が23年度からの医学部定員削減を強行しようとしていること・・、是非皆さんに知って頂きたい医療崩壊の現実が明らかにされています。

 欧米より少ない患者数で、日本の医療が崩壊した根本原因は、政府の医療費抑制策ですが、日本の政府は明治時代から財政赤字を理由に公的病院を潰してきました。そして戦後もオイルショックを機に「医療費亡国論」を国策として、医学部定員削減と診療報酬点数(公定価格)を抑制して、先進国一高齢化社会なのに、医師数も医療費も先進国最低となってしまいました。そのため公立だけでなく民間病院も含めて多くの医療機関は赤字ギリギリの経営に苦しんでいたのです。そこを襲ったのが新型コロナウイルスでした。

 新型コロナ感染もいつかは収束するでしょう。しかし歴史を振り返れば、必ず・必ず新しい感染症が人類を襲っています。しかし本書で現実を知った国民が声を上げなければ、わが国は新型コロナ禍による財政赤字を理由に、さらなる医療費抑制と患者窓口負担増、そして医学部定員削減を断行すると思います。
 今振り返ると20年近く続けた私の活動は、埼玉で日本の医療危機に気づいた「炭鉱のカナリア」の役割だったのかも知れません。本書を通して、新型コロナ禍が明らかにした日本の医療や政治の深層が、一人でも多くの方の手に届くことを心から願っています。

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『日本の医療崩壊をくい止める』 本田宏・和田秀子 著
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『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』

『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』

八木正自

 私は半世紀に亘る古書業で古典籍を商品として扱ってきたのであって、研究者として向き合ってきたのではない。しかし、日常的にかなり多くの古典籍の現物を手にしていると、よくも長い時を経て今まで生き延びて来たものだ。その文字、紙、墨によってどのように制作されたのか、内容やその成り立ちについての奥深さを知りたい、という欲求が起こる。

 それで本書の「むすびに」で、「私の現在の生き方は、古書の営業に50パーセント、調査・研究・執筆に50パーセントという時間配分である」と書いたのだが、業者市で首尾よく入手して、事務所でその古典籍と向き合い、諸参考文献を捲り真偽や価値を調べるときが無上の悦楽の時間なのである。その成果を月刊誌『日本古書通信』の「Bibliotheca Japonica」という欄に23年間書き続けてきた。主な分野は、日本と西洋との交流史原典、原史料なのだが、和洋の古典籍も含まれる。それらの稿からいくつかを選んで、文を改め、加筆し、また新稿も加え本書を編集した。

 私は工学部出身なのだが、大学卒業間近に進路を変更して文科系の古書籍業に足を踏み入れた。父が日本橋の丸善に長く勤務していて、家中本だらけ、という環境も大きな影響を与えた。それで卒業後、四谷の雄松堂書店に入り、洋古書の世界にどっぷりと浸かり、その神髄にも触れることが出来た。

 5年間在職の後に独立して、古書の安土堂書店を創業。店舗無しで目録販売を中心として営業してきた。独立してから最初に知り合ったのが、終生の師となる弘文荘の反町茂雄氏。反町氏は東大を卒業後、神田の一誠堂書店に就職。昭和2~7年在職して弘文荘を創業。店舗無しで、目録販売の営業形態。戦前戦後を通じて、諸名家や旧華族などから奔流した貴重古典籍・古文書を的確に評価して、公共機関やコレクターに販売、貴重書の再配分に寄与した。そのような古書業界の重鎮に声を掛けられて、自分の営業は続けながら、言わば書生のような日々を送った。

 また、昭和年代・平成初めはまだ私立大学のオーナー学長・理事長がいる時代で、鶴の一声で大学図書館に貴重書を収蔵する機運が旺盛であった。そのような張り合いがあるからこそ海外に出向き、洋古書や日本の古典籍を里帰りさせるという営業が成り立っていた。
 本書では、海外での貴重書・貴重書簡などの獲得秘話や、国内業者市でのそれらの発見・入手の過程、調査の結果などについて記した。

 フランシスコ・ザヴィエル書簡の入手秘話、アムステルダム駅で北斎版画を盗まれた話、川原慶賀「出島図」発見の経緯、捨てられる運命であった紙くずの中から発見した日本最古のかわら版「大坂冬之陣図」、奈良時代初期の「長屋王願経」断簡、国宝である『南海寄帰内法伝』の僚巻断簡、最古の長崎版画『紅毛本国船之図』、シーボルトの秘密出版『薬品応手録』、伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』の原図、後白河法皇の『梁塵秘抄』、甘藷先生青木昆陽自筆の『国家食貨略』、吉田松陰自筆「野山獄文稿」断簡、姉乙女宛の坂本龍馬自筆書簡、明治4年米欧使節岩倉具視宛の明治天皇「勅旨」、ベルリンのオークションに出た長崎発シーボルトの手紙、フィルモア大統領のペリー提督日本遠征命令書、などの貴重文献、文書、書簡の入手秘話。最後に「世界的に評価の高い日本の古典籍とその蒐集」と題して、如何に日本の古典籍は世界的に評価が高いのか、なぜ歴代の為政者や財閥はそれらの蒐集に邁進していたのか、現代にあってもまだ貴重古典籍は市場に浮遊しているので、それらにもっと関心を持ってもらいたい、それを扱う古書業者も絶えずに継承してもらいたい、ということを述べた。

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『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自 著
平凡社  本体:860円+税  好評発売中!
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『近代出版史探索Ⅴ』

『近代出版史探索Ⅴ』

小田光雄

 『近代出版史探索』は短編連作のかたちで書き継がれ、2019年に第1巻、20年に第2巻から第5巻までが続けて出され、ようやく1001話に達した。この連載は2009年に始めているので、12年を閲したことになる。
 拙ブログ連載タイトルは「古本夜話」で、確かに毎回古本屋で購入した本を取り上げ、それに関する様々な事柄を記述していくスタイルをとっている。そのためによくある古本エッセイかと思われるかもしれないが、もちろんそのように読まれてもかまわないけれど、いくつもの問題設定と目的を内包させ、書き続けてきたのである。それは前著『古本屋散策』のタイトルと内容に差異が生じていることとも共通していよう。

 そうした問題設定と目的に関しては各巻の本文や「あとがき」で、様々にふれてきているが、第5巻刊行に際し、このような多くの読者に配信されるメールマガジンに書く機会を得たこともあり、それらを具体的に挙げてみる。

 *出版業界総体をテーマとする。それは作者(著者)・出版社(経営、編集、営業)・取次(流通)・書店(販売)・読者がトータルな対象となる。
*もう一つの出版のバックヤード的世界ともいうべき古書業界、及び全国出版物卸商業協同組合に代表される赤本、特価本、造り本、紙型売買を通じての譲受出版にも注視する。
*三百数十種に及んだとされる円本とその明細、予約出版の起源と出版流通販売システムを検討する。
*昭和円本の前史である古典、宗教、文学、思想ルネサンスとしての大正時代の出版と出版社を再考する。
*それらを通じて、伊藤整の『日本文壇史』と山口昌男の『「敗者」の精神史』『「挫折」の昭和史』『内田魯庵山脈』などの歴史人類学を架橋する試みである。
*これらの目的は一応の目安として千編以上書かないとリンクしていかないので、連載は『千夜一夜物語』を擬して始められている。

 とりあえず「千一夜」を迎えたし、第5巻の刊行に合わせて告白すれば、この探索シリーズの試みは、ベンヤミンの『パサージュ論』を範として続けられてきた。ここではパリのパサージュならぬ、日本の出版業界総体が対象となり、近代の商品としての出版物が生み出す幻想の中に、近代日本がイメージした集団の夢と神話の探究を目的としている。

 近代日本のイメージ造型は西洋と東洋のせめぎ合いの中で、出版物を通じて形成されていった。テレビもない戦前の世界にあって、雑誌や書籍が果たした役割は想像以上に大きく、それは大東亜戦争へと導いていく一端を担っていた。現在からみれば、それもベンヤミンのいうところの幻影・幻像空間(フアタンスマゴリー)のようでもある。

 それらの根源と痕跡をたどるために、アトランダムな古本の集書を絶え間なく繰り返し、まさに遊歩者(フラヌール)のように近代出版史を遡行し、それらの内容を記録し、引用し、時代との関係、出版に至る経緯と事情を追跡し、その分野のトータルな集積となることもめざしてきた。
 ただいうまでもなく、私個人の力量はベンヤミンと比ぶべくもないので、質と内実に関しては及ぶところがないけれど、第5巻まで刊行したことにより、量だけは岩波書店の単行本『パサージュ論』5冊と並んだことになり、いささかの満足を覚えている次第である。

 大風呂敷を広げて、本当に恐縮だが、「千一夜」を迎えての妄言として、ご海容願えれば幸いである。そのようなわけで、『近代出版史探索』シリーズは出版、文学、思想史もしくは広範な文化史の読み直しをめざし、現在でも続いている。少部数のために高定価で心苦しいこともあり、図書館にリクエストして、読んでもらえればと思う。

出版・読書メモランダム
出版と近代出版文化史をめぐるブログ
https://odamitsuo.hatenablog.com/

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『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄 著
論創社 定価:6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

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