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メールマガジン記事 シリーズ古書の世界

古書組合の役割と古書業界の仕組み その6

古書組合の役割と古書業界の仕組み その6

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 前回のメルマガで古書組合の交換会(市場)の開催方式についてご紹介をしました。なるべく分かりやすくお話ししたつもりですが、実際にはなかなかイメージが湧かなかったかもしれません。一見すればすぐ納得できるのですが、そのような機会もないわけで、いた仕方がありません。古書業界では古書の日(10月4日)の記念事業として「古書店になるには、講座」なども開催したりしているので、今後はホームページ等で市場の様子を動画配信してくれると、一般にも分かりやすくて面白いのですが。
 さて、今回は交換会(市場)の現場において、業者間ではそれぞれどんな思惑が生じるかについて、お話を進めていきたいと思います。

 まず、古書市場の開催方式は大別して二つの方法があり、一つは振り市方式だと説明し、前回、開催方法も紹介しました。この市方式を分かりやすく例えれば、厳密には少し違うのですが、サザビーやクリスティーズのオークションで競り合っている様子に似ています。競争相手の発声値に金額を上乗せしていけばよいので、一見楽そうに思えますが、相手が意地になった場合や売値との兼ね合いで、競りから自分で降りざるを得ない場合もあります。その上、対抗者が目の前にいて、同業者間での競り合いなので様々な思惑もあり、やりにくい面があるかも知れません。また、業者がどうしてもその本を入手したいときは、低額から落ち値を競るのではなく、唐突に高額の買値を付けて落札することもあります。この発声をハナ声と言い、他業者は暗黙の了解として競るのを控えますが、まれに競り合いになることもあります。

 今一つは、置き入札方式でした。この市は出品本を事前に並べて置き、業者は落札希望金額を書いて封筒に入れ、後で市会の担当者が開札し、最高値を書いた人に落札するという方式ですが、今日ではこの方式が主流になっています。
 この交換会に参加して古書を競る醍醐味は、参加した古書業者しか味わうことができないものです。もちろん業者は日常的に交換会に参加して、仕入れのための入札をしているわけですから、いちいち入札にドキドキしているわけではありません。ある意味機械的ですが、しかし、これはといった自店向きのレアな本が目の前に出品されていたとき、いくらの値で入札するか、自分の懐具合もあり悩み始めます。交換会参加者の皆がライバルですが、中でも競合店の参加の有無、相場が分かる業者の存在、販売先の見当等を総合的に判断し、落札値を予想しながら札を入れていきます。一度入れた金額を何度も書き直し、再入札をしたあげく、また再々入札をすることもあります。そのようなとき、開札は息をのむ思いで、うまくいけば天にも昇る快感、小差で他店に持っていかれたときの悔しさは半端ではありません。10円単位まで競り合いますので、入札する金額にも業者それぞれの癖があって、金額の百円単位に990円とつける人、890円、870円、210円、110円、000円の人など(〈例〉78,990円や34,210円等)、千差万別でとても興味深いものです。(入札は10円単位まで認められています。)

 また、入札用紙に金額と店名を書くのですが、これもまた各業者共それぞれ独特で、文字というよりも記号のような筆記なので、開札の担当者もこの記号のような文字が判読できなければ一人前でないという風潮もあります。最近では読み違いの問題もあって、入札用紙に社判を押してくる人もおります。このように市場には悲喜こもごも見えないところで様々な人間模様があります。

 最後にエピソードを一つ。古書業界で将来を嘱望された若手の組合員の方でしたが、彼は将来、自分の小屋(劇場)を持つのが夢でした。ある時都内で劇場に適した物件が見つかり、それが競売になり、彼が落札してビル一棟を入手したのです。私が『不動産の専門家が並みいる中で、よく落札したねえ』と言うと、彼は事もなげに「ウン、入札は毎日練習しているからねえ」と答えたのでした。

takahashi1

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