古書組合の役割と古書業界の仕組み その5

古書組合の役割と古書業界の仕組み その5

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

メルマガ読者の皆様、年明け早々に一都二府七県にコロナ対応の緊急事態宣言が再び発出され、不自由な生活を強いられていることと存じます。世界中が未曽有の災厄に見舞われている現在、力を合わせて乗り越えていくより他はありません。

 さて、今回は古書の交換会(市場)についてお話ししたいと思います。以前も若干触れましたが、もう少し詳しくご紹介したいと思います。古書組合の交換会(市場)は、古物営業法という法律の下、警察の公安委員会から市場許可を受けなければ開催することができません。その上、市場は古物許可証を受けた組合員しか参加できませんので、市場の様子は一般の読者の皆さんの目に触れることはほとんどありません。これまではせいぜいマスコミの写真やテレビ映像でしか公開されていませんので、市場の様子は一般に知られていないのが実状です。当事者としては、別に秘密裏に開催しているわけではなく、法律の立て付けがそうなっている結果です。今後、築地の魚市場のように見学コースでもあれば、一般の方も古書の市場を見る機会ができるかもしれませんが、実際の市会運営は地味で絵になりませんからあまり面白くはありません。しかし、見学させるとなれば、市会運営者もオークション等の市場開催方法を工夫するかもしれません。

 古書の交換会には、大別して二つの方法があります。一つは振り市方式、今一つは入札方式です。この入札方式には、置き入札方式と廻し入札方式がありますが、最近ではネット入札方式もあります。

 振り市方式は最も古い形態ですが、振り手(中座と言います)を中心に買い手が車座になり、本を見ながら声を出して落ち値を競っていく方式です。声を出して落ち値を決めていくので、本の相場を憶えやすく、また落札業者の店名も分かるうえ、その業者の扱い分野や特徴も知りやすいので、とても有効な方式ですが、出品物がすべて終わるまで市会参加業者を長時間拘束してしまうこと、新参者には声が出しづらいことなどのマイナス面もあります。
また、落札値を決定するのは中座の役目ですが、本の相場を知らなければ妥当な金額を決定できませんし、業者の顔と名前を知らなければ落札者の店名を発声できないので、組合員の中でもベテランの業者で人望のある人が中座になったようです。その上、参加業者にはなるべく均等に仕入れができるよう配慮しなければなりませんし、自分も業者ですから自分が欲しい本もあるわけで、自分で自分に落とすこともあります。そして、この中座の脇には、落札者の店名と落ち値を記録する人がいます。この記録帳を山帳と呼び、昔はこれを墨で書いていましたが、今はボールペンです。この山帳を書くスピードは半端ではなく、名人と呼ばれる人は、振りのどんな速さにもついていって、正確に書名と落ち値と店名を記録していました。この山帳を基にして、今度は各店ごとの買い上げ伝票を作成し、最後に金銭の清算につなげていきます。このように、振り市には各担当で名人と呼ばれる人がいるくらい専門性が必要とされていました。丁々発止、中座を中心に本が飛び交い、業者間の駆け引きもあって、見ていて大変面白い市会方式ですが、今日のあわただしい現代社会では衰退していっている開催方法です。

 また、これは五十年以上前に行われた市会方式ですが、古典籍を扱う市会では腕伏せ式と言って、自店専用のお椀のふたの中に墨で希望する落ち値を書き、それを中座に伏せ返し、最高値を書いた人に落札するという方式をとっていました。これは振り市と入札市を合わせたような中間的な方式ですが、現在では採用されず過去の歴史的な市会開催方法です。

 一方、置き入札方式は、当日の出品本を事前に机に並べ書名と口数を書いた封筒を付けて置き、業者が落札したい金額を入札用紙に書いて封筒に入れ、決められた締切り時間に市会担当者が開札し、最高値を書いた人に落札するという方式です。この方式は入札が済めばその場に居る必要はなく、落札は後から確認すればよいので、今日ではほとんどこの置き入札方式が市会運営で採用されています。この置き入札市会には、出品物(古書)の最低価格が決められており、安価な場合は本口(束)にして最低価格を満たすようにします。また、出品者がこの値段以下では売りたくないという場合は、止め値を事前に入札封筒に入れておくこともできます。一方、入札者にも取り決めがあり、入札金額の何千円以上は2枚札、1万円以上は3枚札、10万円以上は4枚札、50万円以上、100万円以上、500万円以上、1000万円以上8枚札と順に決められています。この何枚札という言い方ですが、これは入札札の枚数のことではなく、例えば、1万円以上であれば落ち値額を3通り書けるということで、1000万円以上は8通りの希望金額が一枚の入札用紙に書けるということです。開札の後、市会担当者が出品物の封筒に落札金額と落札者を記入し、その落札封筒を基に各店の買上伝票が作成され、清算につなげていきます。

 また、廻し入札方式は参加業者がコの字型に並べたテーブル席に座り、担当者が入札封筒のついた出品本を順次荷出し、その本を各業者が値踏み、希望値を書いて入札封筒に入れます。古書が順送りで移動していき、最後に市会担当者が封筒を開札し、書名と落札者と落ち値をその場で発声するという開催方法です。入札札の規定は置き入札と同一で、買上伝票の作成も同様に行います。置き入札は出品本の周りを人が回りますが、廻し入札は出品本が移動します。この方式を採用しているのは、東京古典会という古典籍を扱う市会です。やはり、参加業者を開札終了まで拘束してしまいますが、その場の雰囲気、落札値や落札者が即座に分かるので、高額本を扱う市会としては有効な開催方法として現在も継続しています。
 ネット入札方式はごく最近の開催方式ですが、まだ試行段階で全体的に定着するにはもう少し時間を要すると思います。

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2021年1月25日号 第315号

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☆INDEX☆
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1.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告 
            古本屋ツアーインジャパン 小山力也
2.「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」 高橋輝次
3.『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』
                    白戸満喜子

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━━━━━━━━━【古本屋ツアーインジャパン】━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告

                古本屋ツーリスト 小山力也

 2020年という、昭和生まれにとっては昔に夢見た、もはや遥か未
来の世界に突入している時代に、まさかこんな世界的規模の災禍に
見舞われようとは、いったい誰が想像したであろうか。謎の新型コ
ロナウィルスが出現し、パンデミックをひき起こしてから、すでに
一年以上が経過しているが、いまだ終息に向かう気配はない。我々
はただ、感染予防対策を地道に施し、ワクチンの完成&接種か、集
団免疫の獲得を待つことしかできないのである。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6599

小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売ってい
る場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン
・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚
で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑
誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(256)】━━━━━━━━━

「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」

                        高橋輝次

本欄への登場は今回で三度目。大へん光栄ですが、あがり症なので
毎回緊張します。
本書は主に、コロナの緊急事態宣言の期間中に集中して書いたもの
である。その意味で、交流のある書友の先生が伝えて下さったよう
に、コロナ禍の中での一古本者のささやかな〝記録集〟と言えるか
もしれない。

続きはこちら
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『古本愛好者の読書日録』 高橋輝次 著
論創社刊 定価:1800円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(257)】━━━━━━━━━

そこに古書があるから―『書誌学入門ノベル! 
           書医あづさの手控(クロニクル)』

                      白戸満喜子

 日本古書通信社の折付(村上)桂子さんから「古書店も世代が変
わってきているし、『日本古書通信』に若い人向けの内容を増やし
たい」というお話を伺った。学習院女子大学の司書課程で図書・図
書館史という科目を担当し、余談を話す時間もなく、ひたすら覚え
てほしい用語や事項の解説しかできていなかったため、副読本的な
読み物があればと思っていた時期のことである。渡りに舟で折付さ
んと企画を練り始めたのが10年以上前だった。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6595

『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』
白戸満喜子 著
文学通信 定価:本体1,800円(税別) 好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-41-8.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『古典籍の世界を旅する お宝発掘の目利きの力』 八木正自 著
平凡社  本体:860円+税  好評発売中!
https://www.heibonsha.co.jp/book/b482403.html

『近代出版史探索Ⅴ』 小田光雄 著
論創社刊 価格 6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

1月~2月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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┌─────────────────────────┐
 次回は2021年2月中旬頃発行です。お楽しみに!
└─────────────────────────┘

*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその315 2021.1.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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syoi

そこに古書があるから―『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控(クロニクル)』

そこに古書があるから―『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控(クロニクル)』

白戸満喜子

 日本古書通信社の折付(村上)桂子さんから「古書店も世代が変わってきているし、『日本古書通信』に若い人向けの内容を増やしたい」というお話を伺った。学習院女子大学の司書課程で図書・図書館史という科目を担当し、余談を話す時間もなく、ひたすら覚えてほしい用語や事項の解説しかできていなかったため、副読本的な読み物があればと思っていた時期のことである。渡りに舟で折付さんと企画を練り始めたのが10年以上前だった。

 主人公を大学生の双子にする、実際には存在しない「書医」という古典籍をなおす職人の世界を描く、ということで第1話がスタートした。『日本古書通信』に小説が掲載されるのはかつてない試みで、正直なところ長年定期購読していらっしゃる常連読者の方々がどのように反応なさるか怖かった。『日本古書通信』には何度も記事を投稿しているので、ここはペンネームで発表しようと思いつき、多久角星芳名義で連載した。(多久角は本名の白にかかる枕詞「たくづのの」を漢字に変換し、星芳は華道でいただいた号を使っている。)

 「書医」という職業は新聞広告で見かけた樹木医に想を得た造語である。古書を修復する仕事自体はあるものの、専門職としての用語はない。櫛笥節男『宮内庁書陵部 書庫渉獵―書写と装訂』(2006年2月刊)に刺激され、『日本古書通信』2006年4月号に「古書のお医者さん」という記事を投稿したことも「書医」という命名につながっている。櫛笥氏の同書は、『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控(クロニクル)』の表紙にも描いていただいた。また、東京編其の二「遺(のこ)されしもの」に登場している、火災で被害を受けながら、人間でいえば蘇生された書物が写真入りで掲載されている。きらびやかな装飾や威風堂々とした装訂の書物は誰が見ても圧倒される。焼け焦げた跡が生々しく、書かれている文字を読むのに苦労する書物を魅力的と感じる人は少ないだろう。とはいえ、その書物は私たちと同じ世界に存在するのである。「書医」という語には、灰燼に帰してもおかしくなかった書物が残っている事実と、その背景にある多くの人々の祈りにも似た思いや願い、そして書物を未来に伝えるための技術があることを知ってほしいという思いも含まれている。

 物語の舞台は東京の日本橋と京都であるものの、構想はほぼ神保町で練った。登場人物であり、付録では書誌学講座を担当する浅利先生のモデル・内田保廣先生(共立女子大学名誉教授)が日本橋のご出身で、ランチョンでビールを嗜みながらさまざまなアドバイスをいただいた。京都に関しては、折に触れて現地を訪問取材してみた。ただ、思いついたアイデアを基にしてすぐさま現物を確認できる、古書がふんだんにある神保町という環境に恵まれていなければ、本書は誕生しなかったと言ってよい。書物は自然発生ではできないモノである。紙も文字も画像も、すべて人間が作り出した産物である。書物は石や鉄のように堅牢ではないので、人が守り伝えようとしない限り朽ち果ててしまう。自分の目の前に古書がある。そのこと自体が歴史であり、物語であること、書物文化を堪能できる状況がどれほど幸せなのかということも本書では伝えたかった。

装訂がライトノベル風なので、マカロンや最中のように甘い雰囲気が漂っているものの、中にはキーマカレーがぎっしり詰まっている構造である。色恋沙汰も職場のもめごとも異世界への転生もないストーリーに仕上がっているのは、真の主人公が書物であるからだとお許しいただきたい。恋愛にまつわるときめき要素は皆無でも、モノとしての和書・漢籍・朝鮮本に関するときめきと魅力と味わいは可能な限り盛り込んだつもりなので、そういう視点でお読みいただければ幸甚である。

syoi

『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』
白戸満喜子 著
文学通信 定価:本体1,800円(税別) 好評発売中!
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「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」

「コロナ禍で読む、一古本者のささやかな記録」

高橋輝次

本欄への登場は今回で三度目。大へん光栄ですが、あがり症なので毎回緊張します。
本書は主に、コロナの緊急事態宣言の期間中に集中して書いたものである。その意味で、交流のある書友の先生が伝えて下さったように、コロナ禍の中での一古本者のささやかな〝記録集〟と言えるかもしれない。

 本文は長短のエッセイ、十四篇から成っている。まず古本ファン向けに、戦後第一回目に芥川賞を受けた由起しげ子の『本の話』を紹介。次に昭和初期の東京で、様々な文学者たちの交流の舞台となった書店兼喫茶・レストラン「南天堂」の詳細については既に寺島珠雄の労作があるが、私がたまたま見つけたマイナーな文学者、神戸雄一の短篇小説「蜘蛛の族」――南天堂に出入した太宰や辻潤、宮嶋資夫らをモデルにした文学者達の群像を生き生きと描き出している――を紹介した。これは私の周囲の書友の方々に好評のようである。続いて、戦後派作家のエッセイや名編集者、坂本一亀の評伝などから、様々なタイトルの由来のエピソードを抽出したりしている。さらに私がわずかに交流のあった敬愛する編集者たち数人の仕事やおもかげを点描した文章もある。そして、従来から関心のある誤植や校正の話も……。最後に、私の気に入ったマイナーな文学者、画家、デザイナー(犬飼武、大町糺、浅野孟府、森脇高行)との出会いや再会についてもまとめてみた。

 本書の装幀は、タイトルから連想して、古本や古本屋を素材にした写真や絵画、イラストなどを使ったものを期待していたのだが、出来上ったカバーを見ると、シンプルで可愛らしい抽象的デザインだったので、いささか面喰った。出版社内では好評とのことだが、果たして一般の本好き読者の反応は如何だろうか。
またタイトルは、初め「フリー編集者の~」としていたのだが、近年、看板に偽りありで、編集の仕事は殆んどしていない。そこで途中から「古本者の~」に変えたのだが、校了直前になって出版社側から、まだこの言葉は一般読者には分りにくいとのことで、現案を提案された。私としては「古本者」も古本ファンには大分普及している言葉なので、少々未練があったが、素直にその案を受け入れた。これも読者の御意見を伺ってみたいところではある。

 さて、以下はまた、私の書きぐせである〝追記〟になるのだが(苦笑)、本書刊行直後に、本書の内容に関連した文献を見つけたので、報告しておこう。一つは、私の愛読する作家、桜木紫乃さんの近作『家族じまい』のタイトルの由来を本書で紹介したのだが、たまたま新刊書店で、初のエッセイ集『おばんでございます』を見つけ、早速読み始めた。彼女が直木賞を受けるまでの下積み時代に北海道新聞に連載したものを中心にまとめたものだが、ユーモラスで自虐的、生きのいい話し言葉で綴った面白い文章が満載である。その一篇「愛は一途に」は、小説『ラブレス』のタイトルについて書かれている。もう一篇「タイトルの神様」には、『恋肌』命名の愉快な顛末が。詳細は本書を買って読んでほしい。

 もう一つ。これも刊行直後に尼崎の「街の草」さんで品川力の『本豪落第横丁』(青英舎、一九八四年)を見つけた。『古書巡礼』は読んだ覚えがあるが、本書は不勉強で未読であった。周知のごとく、品川氏は本郷にあったペリカン書房店主で、多くの文学者や研究者のために、関係文献を蒐めて届けた探書の達人である。まだあちこち拾い読みしている段階だが、私の未知な書物人も沢山出てきて、大いに参考になる。達意の文章も楽しい。その一篇「ほれて通えば千里も一里」には、自他の著作の誤植の例がいくつもあげられているではないか。これも早くに読んでおれば私の『誤植読本』に収録したのに、とほぞをかんだものである。最後に、勝手に〝誤植ハンター〟を自認している私だが、肝心の本書にも、書友の指摘で恥ずかしい誤植が見つかりがっくりきている。高名な装幀家、菊地信義氏のお名前を〝菊池〟と誤記してしまったのだ。どうも〝菊池寛〟の表記が先入観としてあったようだ。また英文学者の若島正氏を君島正氏と誤記してしまった。大へん申し訳なく、この場を借りて、お二人に深くおわび申し上げます。思い込みは恐ろしいですね。

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『古本愛好者の読書日録』 高橋輝次 著
論創社刊 定価:1800円+税 好評発売中!
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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2020年総決算報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 2020年という、昭和生まれにとっては昔に夢見た、もはや遥か未来の世界に突入している時代に、まさかこんな世界的規模の災禍に見舞われようとは、いったい誰が想像したであろうか。謎の新型コロナウィルスが出現し、パンデミックをひき起こしてから、すでに一年以上が経過しているが、いまだ終息に向かう気配はない。我々はただ、感染予防対策を地道に施し、ワクチンの完成&接種か、集団免疫の獲得を待つことしかできないのである。とは言っても、そんな歴史的状況下でも、人々の生活は、水の流れのように止めどなく続いて行く。生きるために仕事もしなければならないし、また様々な制限下でも、その中で人生の栄養としての娯楽を楽しんだりしているのだ。人はパンのみにて生きるにあらず!

 私にとっての娯楽とは、もちろん古本屋さんに足を運び、古本を買うことである…いや、娯楽というより、これが人生そのものと言っても過言ではない。一回目の緊急事態宣言発出以降、状況は二転三転し、もはや地方の古本屋さんを訪れることは、ちょっと難しくなってしまったが、生息している東京・阿佐ヶ谷周辺のお店を執拗に巡り訪れることで、どうにかこうにか人生を謳歌している。窮屈ではあるが、制限された中での小さな自由を楽しんで行くしかないと、今は己に言い聞かせている。そんな、今までとはガラリと変わってしまった、一年を振り返ってみよう。

 一月~六月の上半期はすでに前回のメルマガで報告済みなので、駆け足に済ましてしまおう。一月には新開店の吉祥寺「防破堤」・黄金町「楕円」・西荻窪「ロカンタン」を訪れ、御茶ノ水「三進堂書店」の閉店を目撃。二月には椎名町の魔窟古本屋「古書ますく堂」が大阪へ移転。新江古田に福祉系古本屋「潮路書房」を発見する。三月には東小金井の「BOOK・ノーム」がひっそりと閉店。そして四月には中央線の至宝「ささま書店」が大盛況の閉店セール後に潔過ぎる閉店を決行。長らく改装休業していた東村山「なごやか文庫」が新装営業再開する。また緊急事態宣言発出後、多くのお店がひと月ほどの休業に突入してしまう。これは仕方のないことだったが、やはり激しく寂しかった。五月には国立「みちくさ書店」が至近のデパートビルに移転開店。六月には調布の「円居」や王子の「山遊堂王子店」が閉店してしまった。

 そして七月。神保町パトロールの折りに、以前から気にしていた「神田書房」の閉店を確認してしまう。アダルトメインのお店だったが、店頭の二台の百均文庫ワゴンは、なかなか豊潤であった。吉祥寺「古本センター」は緊急事態宣言下も感染予防対策を施しお店を開けてくれていたが、店内に『コロナとの本格的な戦いはこれからです』『コロナとは永い戦いになります』などのテープラベルが出現し、依然として変わらぬ状況の厳しさを示していた。なおこの頃、すでにほとんどのお店が、入口に消毒液を置き(吉祥寺「よみた屋」はマスクも置き、入店時に装着するよう徹底した対策を採り始めていた)、帳場周りにビニールシートを巡らすスタイルを確立している。また、閉店後も色々な噂が流れ、古本好きの耳目を集め続けていた旧「ささま書店」跡地には、「古書ワルツ荻窪店」が堂々開店。店内にほぼ千円以下の安売本を雑多に並べる古本市形式で(掘出し物多し!)、今では「ささま」閉店の穴を埋めるほどの活躍を見せている。おかげで三日も開けずに通い詰めなければ気が済まない定点観測店となってしまった…。

八月には代田橋のリトル沖縄の一角に「flotsam books」という洋書写真集を核に扱うお店が開店。九月にはこの頃、地元近くの古本屋さんをじっくり回り続ける成果として、荻窪「竹中書店」の木製店頭台の面白さに目覚めたりもした。古い映画関連の紙物や、特撮映画のパンフ、白樺派の文学本等を百〜二百円で見付けたことにより、日々店頭台の動きに思いを馳せるようになってしまった。十月には貰い火事で移転することになった武蔵小金井「中央書房」が、より駅の近くになって新規開店する。そして経堂の「大河堂書店」が惜しまれながら突然の閉店。最後の最後に白井喬二の幻の初単行本、元泉社「神變呉越草紙」を函付きで千円で買えたりして、本当に訪れる度に古本心をビョンビョン弾ませてくれる名店であった…これで経堂には、一軒も古本屋さんがないことになってしまった。十一月には西荻窪の「花鳥風月」が閉店半額セール後、閉店予定の十二月を待たずして閉店。また武蔵小金井には八十〜九十年代カルチャーに強い「古書みすみ」が開店。おかげで武蔵小金井に、「中央書房」→「古書みすみ」→「古本はてな倶楽部」の、ちょっと距離はあるが古本屋ゴールデンルートが出現することになった。そして十二月、コロナ禍でお店を閉め気味だった高円寺の「都丸書店」が、大晦日に店舗営業を終了し、同時に2020年も幕となった。都丸は人文系の硬い老舗であったが、まだ高架下にお店が通じていた頃、そこの壁棚と入口付近の古書棚には、大いにお世話になった。ここで買った大正時代の表現派代表戯曲「転変/エルンスト・トラア」は、今でも大事な宝物である。

 やはりコロナ禍をひとつの機会としてお店を閉め、ネット営業に移行するお店が増えた感のある、古本屋界激動の一年であったのではないだろうか。古本市も緊急事態宣言解除後、マスク着用、入場前の手指消毒&体温測定、入場人数制限など対策を施し、徐々に開かれるようになって行ったが、感染者数の増減により、開催が左右される、不安定な状況が続いている。こんなことばかり書いていると、いまだに先が見えない五里霧中の状態なので、暗く不安になりがちだが、それでも面倒な感染対策等色々やることが増えながらも、多くの古本屋さんは開いているし、古本を売ってくれているのだ。お店にはただただ感謝である。とにかくコロナ禍が沈静することにより、煩わしいマスクを取り外し、帳場周りのビニールも外され、古本屋さんという知の空間を、お客さんとの距離や滞店時間など気にすることなく、気兼ねなく楽しめる日を、一刻も早く取り戻したいものである。

 最後になるが、2020年の自分にとっての古本屋さんベスト・トピックを選んでみると、やはり阿佐ヶ谷の「古書コンコ堂」で、五月〜十二月に五月雨式に棚出しされた、古い探偵小説群に出会い、三十冊以上買いまくったことであろうか。普通では手を出しかねる稀本たちが、函ナシ・イタミなどがあるために、安値でドシドシ並ぶ驚き! 家の近所で、予想外のお店で探偵小説に出会う喜び! ついついほぼ毎日お店に立ち寄り、棚の変化を決して見逃すまいと興奮しながら血眼になる楽しさ! 一番の獲物は、共に函ナシでイタミがあるが。大日本雄辯會講談社「評判小説 蜘蛛男/江戸川乱歩」と六人社「真珠郎/横溝正史」である(計一万四百円也)。まさか、この二冊が手に入る日が来るなんて…。『探偵小説狂想曲』とも呼べる興奮の日々は、改めて古本屋さんの楽しみ方を、体感しまくった時間であった。

小山力也 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
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2021年1月8日号 第314号

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 古書市&古本まつり 第96号
      。.☆.:* 通巻314・1月8日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。
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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

古書組合の役割と古書業界の仕組み その4

             東京古書組合前事務局長 高橋秀行

 メルマガ読者の皆様、明けましておめでとうございます。
 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます、と言いましても、例
年のように新年を寿ぐというわけにはいきません。昨年は年初から
世界に蔓延した新型コロナウイルスによって世界の活動は停止し、
経済も停滞、人の往来もストップする事態となりました。当然わが
国もコロナ禍に振り回された一年だった訳ですが、年が明けたから
と言ってコロナ禍が収束するわけでもありません。まもなくワクチ
ンができるということですが、それよりも早くコロナウイルスが変
異してしまう可能性もあります。

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━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第24回 関谷良寛さん シャクナゲと本を追い求めるひと

                       南陀楼綾繁

 昨年9月に山形県に行った。新型コロナウイルスのせいで、各地
のブックイベントはほぼすべてが中止となり、私も地方に出かける
予定がほとんど白紙になった。
そんななか、山形県南部の川西町フレンドリープラザでは、例年の
一箱古本市は中止になったが、新潟市〈北書店〉の佐藤雄一店長と
私のトークイベントを予定通り開催してくれた。

続きはこちら
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南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【1月8日~2月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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仙台古本倶楽部(宮城県)

期間:2020/09/01~2021/02/28
場所:宮城県仙台市青葉区中央4-1-1 イービーンズ3階

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2020/12/19~2021/01/12
場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F
中央エレベーター前  千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1

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Title 2Fの古本市

期間:2020/12/26~2021/01/11
場所:Title  杉並区桃井1-5-2 TEL:03-6884-2894

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立川フロム古書市

期間:2021/01/05~2021/01/19
場所:立川駅北口徒歩5分フロム中武(ビッグカメラ隣)
3階バッシュルーム(北階段際)

http://mineruba.webcrow.jp/saiji.htm

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第41回古本浪漫洲 Part.1

期間:2021/01/07~2021/01/09
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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東京愛書会 【会場販売あります】

期間:2021/01/08~2021/01/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

http://aisyokai.blog.fc2.com/

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杉並書友会

期間:2021/01/09~2021/01/10
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第41回古本浪漫洲 Part.2

期間:2021/01/10~2021/01/12
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第19回 上野広小路亭古本まつり

期間:2021/01/11~2021/01/17
場所:谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階

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第41回古本浪漫洲 Part.3

期間:2021/01/13~2021/01/15
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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さんちか古書大即売会(兵庫県)

期間:2021/01/14~2021/01/19
場所:神戸さんちか3番街さんちかホール

http://www.hyogo-kosho.net/

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2021/01/14~2021/02/03
場所:フィールズ南柏 モール2
2階催事場  柏市南柏中央6-7

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富山の魅力を発信する古本市 BOOK DAY とやま駅(富山県)

期間:2021/01/14~2021/01/14
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)

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趣味の古書展 ※会場販売は中止となりました

期間:2021/01/15~2021/01/16
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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第41回古本浪漫洲 Part.4

期間:2021/01/16~2021/01/18
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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第41回古本浪漫洲 Part.5(300円均一)

期間:2021/01/19~2021/01/21
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

https://www.kosho.co.jp/furuhon_romansu/

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五反田遊古会

期間:2021/01/22~2021/01/23
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4

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和洋会古書展

期間:2021/01/22~2021/01/23
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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大均一祭

期間:2021/01/23~2021/01/25
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第23回 紙屋町シャレオ古本まつり(広島県)

期間:2021/01/25~2021/01/31
場所:紙屋町シャレオ中央広場 広島県広島市中区基町地下街100号

http://furuhonmatsuri.blog.fc2.com/

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我楽多市(がらくたいち)即売展

期間:2021/01/29~2021/01/30
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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中央線古書展

期間:2021/01/30~2021/01/31
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2021/02/04~2021/02/07
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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柏モディ古本まつり(千葉県)

期間:2021/02/05~2021/02/24
場所:モディ柏店 3F 千葉県柏市柏1-2-26

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書窓展(マド展)

期間:2021/02/05~2021/02/06
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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富山の魅力を発信する古本市 BOOK DAY とやま駅(富山県)

期間:2021/02/11~2021/02/11
場所:富山駅南北自由通路(あいの風とやま鉄道中央口改札前)

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杉並書友会

期間:2021/02/13~2021/02/14
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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日本の古本屋メールマガジンその314 2021.1.8

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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古書組合の役割と古書業界の仕組み その4

古書組合の役割と古書業界の仕組み その4

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 メルマガ読者の皆様、明けましておめでとうございます。
 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます、と言いましても、例年のように新年を寿ぐというわけにはいきません。昨年は年初から世界に蔓延した新型コロナウイルスによって世界の活動は停止し、経済も停滞、人の往来もストップする事態となりました。当然わが国もコロナ禍に振り回された一年だった訳ですが、年が明けたからと言ってコロナ禍が収束するわけでもありません。まもなくワクチンができるということですが、それよりも早くコロナウイルスが変異してしまう可能性もあります。

 この世界を襲ったコロナ禍のとらえ方は、これから様々な分野で研究され、論じられると思いますが、おそらく元通りの世界には戻れないだろうと言われています。グローバル化した経済格差、矛盾に満ちた社会制度、行き詰まった政治体制等、地球的規模で起こりつつある環境破壊と大量エネルギーの消費は、人類の生存を脅かすものだという科学者の警告もあります。

 さて、視点をわが国に向けたとき、今年も経済活動は不自由を免れないでしょう。古書業界も昨年は大きな影響を受け、初めて交換会(市場)の休止や各店舗の自粛休業もありました。そのような厳しい経済環境の中でもそれぞれが工夫を凝らして古書展の開催やネット販売、店舗経営ができたことは、皆様のご支援やご協力の賜物だと思います。
 私は広い意味での教育と文化は、出版事業と古書事業が担っているのではないかと考えています。生涯にわたって知識と教養を蓄積していくには書物が必須ですが、その出版文化が斜陽だということは大きな問題です。一旦立ち止まらなければならない今こそ、私たちは科学を含めた文明を省みる必要に迫られています。

 ところで、メルマガ読者の皆様は古書の世界に興味があるかと思いますが、現在の状況下、古書店で働くということはどういうことかを考えてみたいと思います。

 昭和の前半は徒弟制時代に括ってよいと思います。大戦後の古書店は群雄割拠の中で一誠堂出身者や東陽堂出身者、南海堂出身者、巌松堂出身者などと判別できるほどで、それらの大店古書店では、一概には言えませんが、主人の出身県から多くの店員が就職したようです。その店で実績を積み番頭となり、主人が認めたところで暖簾分けとなり、独立して店舗を持つという形が王道でした。本の相場を憶えるという期間として、ほぼ十年は要したようですが、店員同士の横のつながりもありました。それらの古書店は、その後有名店となって古書業界を支える業者に育っていきました。

 現在の雇用形態は昔と違いますが、セオリーとしてはそんなに違いはありません。自分で古書店を経営してみたいと思う場合は、いろいろな入口がありますが、自分でいいなあと思い描く古書店に勤めさせてもらい、古書店経営のノウハウを得るのが一番良いとされています。また、店員として働いた後に古書店を開店する場合もありますし、店員を経験せずに最初から古書店を開店する場合もあります。古書店という業種は面白い面があり、もちろん営業ですから商いとしての経営が必要で利潤を出さなければなりませんが、一方で書物や著者や著作を知る、調べるといった地道な知識の積み上げが必要であり、これがとても古書店にとって大切な仕事なのです。この知識を身につけること、研鑽を積むこと、このことを嫌う人は残念ながら古書業者には向いていないかもしれません。この業者としての研鑽が日本の文化を陰から支えていることにつながり、古書店は自身の仕事に矜持を持つことになると思うのです。また一方で書物の専門分野の選択という問題もあります。自分の得手不得手や興味のあるなし、体験し勉強した専門分野等で自店に合った専門分野の書物を扱うようになれば、自店の特長を社会にアピールできるのです。

 このように古書店で働くということは、古書を販売するということを通じ、本の陳列から本の種別、本の価値、本の内容と著者、等々を学んでいかなければなりません。これは現在のコロナ禍にあっても変わらない古書店の営みです。

takahashi1

Copyright (c) 2021 東京都古書籍商業協同組合

第24回 関谷良寛さん シャクナゲと本を追い求めるひと

第24回 関谷良寛さん シャクナゲと本を追い求めるひと

南陀楼綾繁

 昨年9月に山形県に行った。新型コロナウイルスのせいで、各地のブックイベントはほぼすべてが中止となり、私も地方に出かける予定がほとんど白紙になった。
そんななか、山形県南部の川西町フレンドリープラザでは、例年の一箱古本市は中止になったが、新潟市〈北書店〉の佐藤雄一店長と私のトークイベントを予定通り開催してくれた。
 川西町には、「Book! Book! Okitama」(BBO)が開始されたときから毎年訪れている。作家の井上ひさしが生れた地であり、フレンドリープラザには井上の蔵書をもとにした「遅筆堂文庫」がある。2020年は井上の没後10年という節目だった。それだけに、この地の本好きのみなさんと再会できることが嬉しかった。

 米沢駅に着くと、荒澤芳治さんが迎えに来てくれていた。田沢寺の和尚で、BBOの母体となった読書グループ『ほんきこ。』のメンバーでもある。一箱古本市に毎年出店している古本好きだが、「私の先輩でもっとすごい人がいるから」と案内してくれることになったのだ。
 米沢から20分ほど車で移動し、小野川温泉に着く。駐車場に車を置いて、階段をのぼると、その上に甲子(きのえね)大黒天本山というお寺がある。境内から温泉街を眺めていると、関谷良寛さんがにこやかに迎えてくれた。1949年生まれ。父のあとを継いで、この寺の住職となった。

 関谷さんの記憶に残る最初の本は、小学校に入る前に読んだサン=テグジュペリの『星の王子さま』。この中に出てくるバオバブの木に「どんな木なんだろう?」と想像を膨らませたという。
 小学校の図書室には本が少なかった。中学校では図書室で夏目漱石の『こころ』などを借りて読んだ。高校では山岳部に属した。
「西吾妻山に登って、頂上でおにぎりを食べながら文庫本を読むのが楽しみでした。立原道造の詩集などを読んでいました」
 その頃から同時代の作家には関心が薄く、志賀直哉や島崎藤村ら近代作家の作品を読んでいたという。

大学は東京の中央大学で、神保町の古本屋にはよく行った。動植物の本で知られる〈鳥海書房〉では、キングドン・ウォード『青いケシの国』(白水社)を買って読んだ。ウォードはイギリスの著名なプラント・ハンター(植物採集者)である。関谷さんはのちに、ネパールでたまたまウォードの旅の跡を歩いたという。
また、当時は神保町のパチンコ屋で、景品の中に本があったという。
「筑摩書房だったかの日本文学全集が欲しくて、パチンコ屋に通い全巻揃えたこともありました」と笑う。
 在学中に、読んだ本の書誌事項とポイントの抜き書きをカードに記すようになった。その習慣は現在も続いており、何万枚にもなった。このカードホルダーが自分の一番の宝物だと関谷さんは云う。これとは別にノートに本の感想も書いている。
 現在は寺のサイトで「本のたび」として、読んだ本を紹介している。2006年から現在まで、1800冊以上。旅の本から人生論、歴史、科学、エッセイなど、幅広く読んでいる。
 寺を継ぎたくなくて経済学部に入った関谷さんだったが、父に「帰ってこい」と云われ、大学卒業後、京都の醍醐寺で1年間修業したのちに、小野川に帰ってきた。東京で集めた本が1万冊以上あり、一時はここで小さな図書館をやりたいと思っていたが、家を建て替えるときに置場がないのと管理の大変さからほとんど処分してしまった。
「それでもいつの間にか、また増えていますね(笑)」

 地元に帰ってきた関谷さんは、「この環境でしかできないことをやろう」と、栽培が困難とされるシャクナゲを育てはじめる。シャクナゲは世界で850種もあると云われる。関谷さんは50年かけて、6000本を生育。日本国内では最も多いという。
さらに、シャクナゲを求めて中国、インド、ネパール、ブータンなどを旅し、写真を撮ってサイトに載せている。
 当然、シャクナゲに関する本も集めている。
「『Rhododendrons of China』全3巻のうちⅢがなかなか手に入らなかったのですが、鳥海書房で見つけたときは嬉しかったです。また、『Joseph Hooker’s Rhododendrons of Sikkim-Himalaya』(1849)という図譜は古書目録に380万円で載っていて買えませんでしたが、のちにイギリスのキューガーデンで復刻版を見つけて買いました」
 中国やイギリス、ニュージーランドの古書店でも、植物に関する本を買ったという。
「本を集めるのには、こだわりがないと面白くないですね」と関谷さんは云う。

「この本も大切にしているんです」と関谷さんが見せてくれたのは、『森へ――ダリウス・キンゼイ写真集』(アポック社出版局 1984)という大判の本だった。アメリカ開拓時代の森の伐採を撮影した写真集で、中上健次が解説を書いている。
「『BE-PAL』で紹介されているのを見て、本屋に注文したらすでに絶版でした。その後、ブータンに行ったとき、たまたまこの出版社の社長と同室になったんです。後日、彼がこの本を送ってくれました」
 本への執着が呼びおこしたような出会いだ。偶然だが、必然でもある。

 一昨年、関谷さんはマダガスカルを訪れて、バオバブの木を見た。
「子どもの頃に読んだ『星の王子さま』を思い出して、3日間眺めていました」と感慨深げに話す。
シャクナゲ、旅、写真、そして本。関谷さんのやることには時間がたっぷりかかっている。その継続が深みを生むのだろう。いつかこの寺で、関谷さんの説法を聞いてみたいと思った。

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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2020年12月25日号 第313号

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☆INDEX☆
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1.『和歌でみる源氏物語 ~おばあさん的~』田辺真知子
2.『未来哲学』の創刊         末木文美士
3.『路上のポルトレ 憶いだす人びと』 森まゆみ

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━━━━━━━━━━━【自著を語る(255)】━━━━━━━━━

『和歌でみる源氏物語~おばあさん的~』

おばあさんなら(お姉さんも)わかる女性たちの心
(おじいさん、お兄さんもわかる親子の情)

                 たなべ書店・田辺真知子

 この本を刊行して、多くの日本人に『源氏物語』体験といったも
のがあるのだと気づかされました。学生のときにちらっと勉強した
だけだけれど、いつか、ゆっくり読んでみたいとか、現代語訳を読
んだことがある、原文は「須磨」の巻で挫折してしまった、などな
ど。世界に冠たる日本文学『源氏物語』はどんなお話なのだろうか、
いつかどこかで触れてみたいという思いは、日本人の心のどこか片
隅に巣くっているようです。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6530

『和歌でみる源氏物語~おばあさん的~』 田辺真知子著
たなべ書店刊 価格:1400円+税

注文は「日本の古本屋」のサイトか
メールで:order@tanabeshoten.co.jp
電話でも:03-3640-0564 たなべ書店

━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

『未来哲学』の創刊

                      末木文美士

 この度、未来哲学研究所の機関誌として『未来哲学』が創刊の運
びとなった。未来哲学研究所は、現代という困難な時代を超えて、
未来にどのような希望を紡ぐことができるか、という切実な課題へ
向けて、新しい哲学の創造を志す研究者が集まり、2019年に創設さ
れた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6513

『未来哲学 創刊号』未来哲学研究所編
ぷねうま舎 本体:1500円  好評発売中!
https://www.pneumasha.com/

━━━━━━━━━━━【自著を語る(257)】━━━━━━━━━

『路上のポルトレ 憶いだす人びと』

                     森まゆみ

この本を出して嬉しかったことは三つある。
四半世紀前、新潮社で『明治東京畸人傳』を出すとき、実は登場人
物はかつて私の住む谷根千にふいと姿を現した人たちなので、「路
上のポルトレ」という題を思いついた。しかし、おしゃれすぎて地
味すぎると実現しなかった。
 もう一つは、谷中に生まれ育ち、上野の藝大で学んだ有元利夫さ
んのフレスコ画が私は好きだった。あるとき私は編集者に提案して
みたが却下された。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6542

『路上のポルトレ 憶いだす人びと』森まゆみ 著
羽鳥書店 本体価格2,200円+税 好評発売中!
https://www.hatorishoten.co.jp/items/35418111

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

「2020年の古ツアをふり返る」(仮題) 
 古本屋ツアーインジャパン 小山力也
 http://furuhonya-tour.seesaa.net/

『古本愛好者の読書日録』 高橋輝次 著
論創社刊 定価:1800円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

『書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉』
白戸満喜子 著
文学通信 定価:本体1,800円(税別) 好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-41-8.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

12月~1月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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 次回は2021年1月中旬頃発行です。お楽しみに!
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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその313 2020.12.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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miraitetugaku

『未来哲学』の創刊

『未来哲学』の創刊

末木文美士

 この度、未来哲学研究所の機関誌として『未来哲学』が創刊の運びとなった。未来哲学研究所は、現代という困難な時代を超えて、未来にどのような希望を紡ぐことができるか、という切実な課題へ向けて、新しい哲学の創造を志す研究者が集まり、2019年に創設された。所長の末木文美士、副所長の山内志朗・中島隆博を始め、従来の西洋近代中心の枠にとらわれず、古代・中世、そして東洋・日本に及ぶ広い領域の哲学・思想の研究者によって、異質の思考がぶつかり合い、火花を散らしながら、次の世代につながるものが生まれてくる、そのようなエネルギーに満ちた場の形成を目指している。特定のオフィスを持たず、ゲリラ的、流動的であろうとする。事務局長のぷねうま舎の中川和夫氏が取りまとめ役に当たり、カクイチ研究所の後援を得ている。

 ところが、本格的な活動にかかろうとした矢先に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって出鼻をくじかれた。しかし、この危機的な事態こそ、むしろ新しい哲学の確立を一層強く要請するものである。2020年8月にオンラインで行われた創設記念シンポジウム「未来哲学とは何か」では、まさしくその船出に相応しい熱い討論が交わされた。現在、シンポジウムの他、セミナー、水曜哲学会、青年哲学会などの企画が進行中、あるいは準備中である。その活動の状況は、ホームページhttps://miraitetsugaku.com/でご覧いただきたい。

 『未来哲学』の刊行は、研究所の中核的な事業の一つであり、年2回程度の刊行を意図している。創刊号は2020年11月に刊行されたが、所長の末木による「創刊のことば」の後、特集・コラム・論考・書評と対話の4本の柱を設定した。「特集」は、シンポジウムの提題(山内志朗・永井晋・中島隆博)とコメント(佐藤麻貴)、ならびに中島隆博・納富信留の対談により、過去の叡知の再発見を通して、どのように未来を切り開くかが論じられている。「コラム」は、周辺分野の研究者による興味深いエッセーによって、視野を広げようというもので、辻誠一郎(縄文学)、三津間康幸(古代バビロン文化史)、細川瑠璃(ロシア思想)の三氏により、常識を打ち破る新鮮な知見が披露されている。

 「論考」は、中堅・若手の研究者による力の籠もった論文であり、仏教に関して護山真也・師茂樹、イスラームに関して小村優太・法貴遊、田辺元に関して田島樹里奈が執筆した。専門的な問題がスリリングに今日の課題に直結して論じられている。最後に「書評と対話」は、末木『日本思想史』に対する葛兆光の書評をもとに、葛・末木の対談で深めている。

 以上のように、本誌は研究所の活動を反映して、水準を落とすことなく、しかし、狭い専門の枠にとらわれず、未来へ向けて哲学のエネルギーを結集することを目指している。人文系の学問の不要論がかまびすしいが、そんな時代だからこそ、世界や人間についてもっとも深く根源から捉え直す真の哲学が生まれなければならない。広く関心を持っていただけることを期待したい。

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『未来哲学 創刊号』未来哲学研究所編
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