帯に込めた推薦文―想いをつなぐ古本屋として 【古本屋でつなぐ東北(みちのく)2】(岩手県・盛高書店)工藤 尚 |
古本販売で独立をして今年の四月で一〇期目となりました。震災後、これからの日本には、地方でも未来に夢と希望をもって生きていける会社を作る事が必要だと考え、全国に販路を持てるビジネスを模索し、ネットで古本を売る仕事を選び独立しました。
ビジネス書などは好きで買っていましたが、古本に対する想い入れは薄く、古本販売はあくまでもビジネスの手法でした。本について素人の私にとって、仕事を通して出会った人達との関わりは学びの連続で、「古本屋」という仕事の意義を知るきっかけを沢山頂きました。 一番大きな出来事は古書籍商組合へ加入した事で、沢山の古本屋の先輩や同世代の仲間と出会う事が出来た事です。その出会いが古本屋として成長する糧となりました。特に市会に参加出来る事は刺激的で、そこで多くの本の売買に関わる事が出来、様々な本の価値を知る事が出来ました。 二〇二一年一月に店舗をオープンして以降は、お店にご来店頂いたお客様からの気付きもありました。『岩手のスポーツ人』という本をご購入されたお客様から、「この本を長い間探し続けていたが見つけられなかった。やっと見つけられて嬉しい。大好きだったおじいさんの事が書かれている本なんです。本当にありがとうございます。」と涙ながらに話して頂きました。長年ネット販売しか行っていなかったので、お客様から直接感謝の言葉を頂ける事がとても嬉しく、古本屋としてのやりがいを感じました。また、ネット販売の先にも同じようにお客様がいて、ご購入者様の想いに応えているという事にも気付きました。 店舗は、お陰様でほぼ毎日来られる常連さんも増え、お客様からスタッフへ差し入れを頂けるような交流が生まれるお店になってきました。一〇〇円本だけではなく、高額な郷土史などもご購入頂いており、幅広い客層の地元のお客様から支持されるお店に近づいていると実感します。 まだまだ勉強しなければならない事は沢山ありますが、これからも古本屋の先輩や仲間、お客様と向き合いながら地元から愛される古本屋を目指していきたいと思います。 そんな中、店舗の新たな取り組みとして、お売り頂くお客様に「帯に込めた推薦文」を書いて頂き、それを付加価値として買取させて頂くサービスをスタートさせる事にしました。推薦文を書いた帯が本を選んでいる方への新たな提案や気付きとなり、売り買い双方の付加価値となると考えます。お客様自身が商品に付加価値を付ける新しい取り組みとなります。 同じ本を読んでも、心に残る文章は人それぞれです。新たな視点を知ることによって「また読み返してみようかな?」というきっかけにもつながるかも知れませんし、この人の帯の他の本を読んでみたい、となるかも知れません。帯が本と人とのつながりを生み、更に本を介して人と人がつながる古本屋になれたらと思います。 誰かに読んで欲しいという想いと、欲しい本を探し求めている人をつなぐ事が古本屋の大切な仕事の一つだと思います。手放す人にとっては役目を終えた本かも知れませんが、誰かにとっては探し求めているたった一つの本かも知れません。最後に、そんな想いに気付かせて頂いたお客様からのメッセージをご紹介します。「この本をずっと探していました。子供の頃に月一で幼稚園から配られた本の一冊で、大人になってから度々思い出しては探していましたが、図書館にも無く諦めていたところ、こちらに出品されていて感動しました。先程届きましてドキドキしながら開封しました。早速読み、再びこの本に巡り合えた喜びをかみ締めています。幼い頃には読めなかったあとがきも読むことが出来ました。本当に本当にありがとうございました。一生の宝物にします。」 ![]() 『増補新版 東北の古本屋』 折付桂子著 文学通信刊 ISBN978-4-909658-88-3 四六判・並製・312頁(フルカラー) 定価:本体1,800円(税別)好評発売中! https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-88-3.html |
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