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メールマガジン記事 古本屋でつなぐ東北(みちのく)シリーズ

本という文化をつなぐ――震災と原発事故を乗り越えて 【古本屋でつなぐ東北(みちのく)6】

本という文化をつなぐ――震災と原発事故を乗り越えて 【古本屋でつなぐ東北(みちのく)6】

(福島県・岡田書店)岡田 悠

 岡田書店は、祖父の兄が戦前、福島県いわき市中心部より南にある植田町で開業しました。戦後は中心部に近い内郷に店を構えました。

 その後、祖父が港町の四倉で新刊書店を始め、そこで祖母も少しだけ貸本屋もしていたそうです。私はその町で育ちました。

 小さな商店街にある本当に小さな店でしたが、小学校の近くで、私と兄は毎日店で母の迎えを待っていました。そのうち父も会社を辞め古本屋を始め、小学生の私の周りは本だらけになりました。しかし、私は本には全く興味を持たず、読むのは漫画くらいで当時好きだった月刊誌は祖父が毎月与えてくれるし、欲しい漫画は父が全巻揃えてくれました。お小遣いを貯めて自分で買う事はなく、本の有り難みのようなものを感じる事はありませんでした。もちろん、自分が古本屋になるなど、考えた事もありませんでした。

 専門学校で上京し、卒業後は数年ねばりましたが、二十四歳で実家に帰る事になりました。そこから何となく父の古本屋の手伝いをするようになり、特に出張買取や催事の荷物運びが私の役目でした。その後、インターネット販売を始め、自分で仕入れた商品を催事などでも販売するようになり、地元や宮城県・茨城県の即売会に参加させて頂くことになりました。

 そのうち、いわき市平の国道6号沿いにあった店の手前にバイパスができ、通勤客などが減り、店舗のほうは閉める事にしました。インターネット販売と即売会に力を入れるようになり、特に仙台イービーンズは今でも長いお付き合いになっています。

 そして、私自身結婚し、この仕事に本腰を入れて「これからだ!」という時に……東日本大震災、そして福島原発事故が起きました。

 あの日、私は倉庫で商品整理をしていましたが、急いで外に出ると、立っていることがやっとの揺れ。見た事もないくらいフェンスや電線が揺れていました。そして、けたたましいカラスの鳴き声を今でも覚えています。

 福島第一原発が水素爆発をおこし、避難しなければと思った時に手を差し伸べてくれたのは古書ふみくらさんでした。須賀川市長沼にある、ふみくらさんのご実家に、私は二週間、父達は三ヶ月ほど避難させて頂きました。

 先に戻った私は、酷い有様の倉庫を途方に暮れながらも少しずつ片付け始めました。父がいわき市の借り上げ住宅に戻れるようになり、倉庫の片付けが順調に進みはじめ、再始動した時には、地元の小さな即売会以外は再開出来ませんでした。

 これはまずいと思い、以前から交流のあった茨城県や千葉県の書店さんに相談したところ、所沢彩の国古本まつりを紹介して頂き、そこから東京や関東の書店さんと繋がりができました。新宿サブナードや神奈川県・千葉県の即売会などたくさんの書店さんたちに助けて頂き、関東の催事を駆け回る日々が始まりました。その後は、つちうら古本倶楽部の立ち上げにも参加させて頂き、本以外に楽器販売などにも挑戦しました。つちうらでは、そんな異色なチャレンジを後押しして頂き感謝しています。

 二〇一五年九月には、父や兄家族が住んでいた、母の実家がある楢葉町が避難指示解除になります。家族で話し合った結果、私が住むことになり、すぐ考えが浮かびました。「場所はある、インターネット販売と催事の準備の倉庫だけでは勿体無い、店を開こう」。そこからは夢中でした。解除の三ヶ月ほど前から楢葉町に通い、準備をし、ほぼ解除と同時に開店しました。もともと母方の祖母が小さな商店をしていたスペースで、ブロックや板で棚を手作し本を並べました。最初の一週間はお客様はゼロで、来てくれたのは犬の散歩をする近所のお父さんだけでした。

 現在は、隣にあった納屋を改装し、スチールの棚にして店も少し広くなりました。

 催事についてはのちに声を掛けて頂いた八王子古本まつりと復活した仙台イービーンズに絞り、イービーンズでは期間限定の常設店(仙台古本倶楽部)にも参加させて頂きました。そして新たにFORUS古本市仙台古本倶楽部が始まります。

 店のお客様は当初原発作業員の方が中心でしたが、今では地元の方や復興関連の方に変わり、週末は忙しさを感じるようになりました。ほぼ毎週末来てくださる常連の役場職員の方が言ってくれました。「楢葉町には本屋さんはありませんでした。本という文化を持って来てくれてありがとう。」

 私はこの町で、少しでも長く古本屋を続けていきたいと思います。

 

 
 
(「日本古書通信」2023年1月号より転載)

 
 
 
 


『増補新版 東北の古本屋』 折付桂子著
文学通信刊
ISBN978-4-909658-88-3
四六判・並製・312頁(フルカラー)
定価:本体1,800円(税別)好評発売中!
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