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古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年総決算報告

古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年総決算報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 
 ついに新型コロナウィルス患者が日本で発見されてから、三年の月日が経ってしまった。対策は色々講じられてきたが、未だ確実な予防法も治療法もなく、感染は収束と拡大を繰り返している。だがこの三年は、我々に、我慢と辛抱と諦めとともに、パンデミック下での生活様式の、土台を積み上げる方法を、手探りの遅いスピードでありながらも、確立して行く時間でもあった。古本界にとっても、それは例外ではない。おかげで、入場制限が行われることはあるが、営業形態や催事開催は、コロナ前の状況に近いものとなってきたようだ。だからお店に行き、古本もビシバシビシバシ買えるようになった。古本好きには嬉しいことである。もちろん今まで通りに、個人レベルでの感染対策は、きちんと継続しなければならないのだが。そんな2022年の活動を、まずは上半期を簡単に振り返った後、総決算報告に入って行こう。それにしても、もうコロナから文章を書き出すのは、いい加減うんざりだ。早いとこ普通の風邪みたいなものになって欲しいと、切に願う2023年の初めである。

 まず新たに開店&発見したお店を挙げてみると、東村山の「古本×古着ゆるや」、ひばりケ丘「古書きなり堂」、高根公団「はじっこブックス」などであろうか。逆に閉店では、豪徳寺「靖文堂書店」、西荻窪「TIMELESS」、高根公団「鷹山堂」、押上「イセ屋」、田園調布「田園書房りぶらりあ」、渋谷「古書サンエー」が挙げられ、こちらの方が数が多いのが気になるが、だが二年ぶりに神保町で『青空掘り出し市』が開かれたりと、明るい材料も存在する。

 さて、2022年後半戦であるが、六月は荻窪の「古書ワルツ荻窪店」がバックヤードを拡大し、店舗が以前の2/3ほどになるのを目撃。常設古本市的店内で、たくさんの棚が見られるのは魅力的だったが、その分かなりの時間を要してしまうのが辛い時もあったので(まぁのめりこんでしまう己の問題であるが)、程よい規模になったのではないだろうか。七月には長年続いて来た即売会『我楽多市』の最終回に立ち会う。即売会にはそれぞれの参加店による特色があり、その選択肢のひとつが消えるのは、誠に残念であった。荻窪では、駅北側の味のある商店街の小径に「古書かいた」が開店。昭和の店舗を改装したお店は洒落ているが、店内の空池に均一棚が立つ変わり種である。八月には目立った開店・閉店などはなかったが、高円寺「西部古書会館」で開かれた新タイプの即売展「Vintage Book Lab」に注目する。会場の半分が古本以外のグラビア雑誌・写真集・パネル・紙物で占められ、またその棚の様子をネットにアップし、web目録だけではなく、それを見ての注文を可能にするなど、色々新しい試みに挑戦していた。九月は経堂に「ゆうらん古書店」が開店。西荻窪「音羽館」出身の青年が、そのスピリットを受け継いだ店造りをし、古本屋の灯が消えてしまった経堂に、新たな力強い明かりを灯してくれた。荻窪では、線路から見える安値の雑本に魅力満載の「竹陽書房」が閉店。ご夫婦揃っての別れの挨拶には泣かされてしまう。十月は神保町で三年ぶりの「神田古本まつり」が開かれ話題を呼び、大変な人出&売り上げを記録する。古本好きも、通りすがりの人も、いかにこのまつりを待望していたかという、わかりやすい顕れであろう。人間には、祭りが必要なのである。新井薬師前駅前の「文林堂書店」が、駅前再開発を機にお店を閉店。ここではよくレアな創元推理文庫を買わせてもらったが、閉店セール中に二階から出て来たであろう古漫画類が目を惹き、何冊か我慢出来ずに購入してしまった。十月は、中野に古本も扱うカフェ「Chillaxin’ Book Shop」(お洒落な店構えだが、古本棚占有率はなかなか高い)を見つけ、千歳烏山では自宅の庭で雑貨や古本を売っているアナーキーな場所を発見。そして悲しみの十二月には、尾山台に殆ど外で古本を販売している「桜書店」の存在を確認するが、神保町で看板建築のお店がシンボルの「古賀書店」が閉店。最後のセールにたくさんの音楽家が駆け付け、楽譜を求めている様子が、本当に印象的であった。さらに祖師ケ谷大蔵では、ウルトラマン商店街の奥の奥にあり、たくさんの良書と児童文学を買わせてくれた「祖師谷書房」が閉店。これは足繁く通っていた私にとっては、衝撃の出来事であった。

 また閉店と言えば、ブログのコメント欄に数々の情報が寄せられるのだが、岡山県の象徴「万歩書店」の「津山店」の閉店と、今年の一月末には「中之町店」閉店を知り、うちひしがれている。…「本の雑誌」取材時に、車で全店舗を巡って、たちまちスタンプカードが一杯になったのが、もはや遠い昔である…。さらに横須賀の「港文堂書店」が、店主の逝去により九月に閉店。これは娘さんからのコメントで知ったのだが、行けばいつでも「おや、力也さん。いらっしゃい」と優しく出迎えてくれて、博識な高速面白伝法トークでもてなしてくれるご婦人店主を、知らぬ間に失っていたのは、大きな大きな痛手である。

 このように、近場の情報メインだが、開店より、少し閉店するお店の方が多かったのが、悲しいところである。だが、昭和・平成・令和と、古本を売り続けて来たお店たちに、とにかく多大なる感謝を捧げたい。ありがとうございます。そしてお疲れさまでした。

 そして古本者の業として、嬉しい掘出し物を列挙してみると、北代省三個展パンフレットが百円、國土社「たのしい舞臺装置/吉田謙吉」が百円、室町書房「火星の砂/アーサー・C・クラーク」が三百円、創元推理文庫「伯母殺人事件/リチャード・ハル」エラー本(カバーが小父さんマーク、背が時計マーク)が六百円、東京文藝社「黒魔王/高木彬光」が百十円、金の星社「火星地底の秘密/瀬川昌男」の帯付きが千円、春陽堂ヴエストポケツト傑作叢書「金色の死/谷崎潤一郎」が二千二百円、そして極め付けは白林館少年出版部「ドリトル先生「アフリカ行き」/ロフティング」の一万二千五百円である。

 このように、どうにかつつがなく、古本屋さんを巡り、古本を買いまくった一年となったが、変化の多い一年というか、いつまでもあるということが幻想である、と感じさせてくれた一年であった。馴染みの深かった「靖文堂書店」「竹陽書房」「祖師谷書房」「港文堂書店」「文林堂書店」の喪失が、そう思わせるのであろう。だがこれは、仕方のないことである。大役を果たしたお店が退場し、現在も奮闘するお店や、新しく出来たお店に、古本もその志も、バトンタッチされたのだ。だから今年もその受け継がれたお店たちに、古本を買いに行くのが私の使命でもある。というわけで、今年も何とぞよろしくお願いいたします。





小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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