文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 古本屋ツアーインジャパン

古本屋ツアー・イン・ジャパン2024年総決算報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 正直に告白してしまおう。2024年は、古本屋ツアーをサボりまくった年であったと。その
原因は、九月に大阪「梅田蔦屋書店」で一ヶ月間開催された、たった独りの古本市『古本屋
ツアー・イン・ジャパン 秋のお蔵出し』のために、セレクト古本664冊(結束本にすると三十本弱といったところか)を用意したことにある。古本屋さんならお茶の子さいさいの冊数で
あるが、素人にとってある程度のクオリティを保ちつつ準備するのは、やはり至難の業なのであった。そのため手持ちの本だけでは当然足りず、好みの本が安く買える可能性のある定点観測店にいつも以上に通い詰め、本を買い漁ったのである。これがおよそ五ヶ月ほどの基本行動となったので、自然と新しいお店や移転したお店を訪ねるのが疎かになってしまった……。

だがおかげで、本は300冊ほど売れ(開始時、台風が大阪を何度か直撃し、出足が危ぶまれたのであった)、フェアとしては一応成功を収めてくれたのである。我武者らに踏ん張り、
頑張った五ヶ月が報われた、満足の行く結果であった。

 だから、比較的近辺の、恵比寿新「九曜書房」にも国分寺「イム書房」と新「七七舎」にも学芸大学新「流浪堂」にも高円寺「古本長屋」にも神保町「アリエルズ・ブルービューティー」にも行っていない体たらくなのである……大変申し訳ない。あまつさえ、フェアが終了したら売れ残った本がそのまま送り返されて来ると思いきや、何と古書コンシェルジュさんが、現在レギュラー古書販売をしているお店の端っこの棚を増設し、販売スペースをおよそ
二倍にして、残りの本を新たにそこに並べてくれたのである。おかげでフェア終了後しばらくは、棚の補充は残りの本で賄えていたのだが、それが尽きると新たに、以前より多めに補充本を掻き集めて送付しなければならない事態に陥ったのである。というわけで、フェア前のように、引き続き好みの定点観測店に懸命に足を運ぶのが、常態化してしまっている、今日この頃なのである……重ねて申し訳ない。ハッ! そういえば、たった一軒だけ訪ねたお店があった。神保町から撤退後、湯島で営業を再開した「古書かんたんむ」である。ところが巨大集合住宅一階のお店の前に立ってみると、一般客は入れぬ事務所店であった……何度も重ねて申し訳ない……  

 だがそれでも、移転したお店や新しいお店は『いつでも行ける』という気持ちがあるので(これがいけないのだが…)後回しにしているが、閉店するお店はそうはいかない。その最後に立ち会わなければ、もう金輪際そのお店には催事やネット以外で出会うことはないのである。

豪徳寺「玄華堂」武蔵小金井「古書みすみ」吉祥寺「古本のんき」巣鴨「かすみ書店」金町「書肆久遠」には、突然の閉店が多く残念ながら駆け付けることは叶わなかったが、本八幡「山本書店」国分寺旧「七七舎」中野「古本案内処」早稲田「江原書店」上板橋「林屋書店」などには滑り込み、最後の思い出に古本を買うことが出来た。全店に、今まで街の古本文化を支えていただきありがとうございました、とお伝えしておきたい。そしてこれからも、違う形で支えていただければと、切に願う次第である。それにしても、古本屋さんの営業が、一見
盤石に見える中央線沿いでも、閉店が相次ぐのには驚きを禁じえない。お店それぞれの事情があり、業態変更の戦略的撤退であるのは想像出来るが、お客としては馴染みの定点観測店がなくなるのは、とても寂しいものである。

 また2024年は、フェア用本の補給のために、古書会館の催事に足繁く通った年となった。ほぼ毎週のように、御茶ノ水「東京古書会館」と高円寺「西部古書会館」を訪れ、安値で良書を掘り出すのが、補充業務を越えた楽しみとなり、すっかりクセになってしまったのである。その原因は、目を皿のようにして棚を探索すれば、高確率で思うような良書が手に入ることにある。本が大量に集まる、東京ならではの贅沢な利点と言えよう。そんな恩恵を催事からもお店からも受けつつ、古本との良い出会いに恵まれた。捜していて初めて目にすることが出来た羽澤文庫「怪談と名刀/本堂蟹歩」は3300円、大藪春彦の盗作騒動絶版本である浪速書房「火制地帯/大藪春彦」(帯元セロ付き)220円、編集者改竄回収本の立風書房「狼男だよ/平井和正」2800円、東武百貨店「三島由紀夫展」550円、小壺天書房「登山者/伊藤人誉」200円、朝日新聞社「バンビブック 空飛ぶ円盤特集号」1500円などが、2024年後期の目立った掘出し物であろうか。

 さらに個人的な様々な活動として、西荻窪「盛林堂書房」の臨時店員として良く買取に同行させてもらっているが、別なレギュラー仕事となりつつある、『神田古本まつり』にも、四日間ワゴンの裏に立ち、詰めかけるお客さんを相手にしての、暗算地獄と補充地獄に従事した。この仕事、段々勤務日数が増えつつあるのは、気のせいだろうか……。また古書組合のお仕事としては、買取ポスターのデザインに続き、業界誌「古書月報」の表紙フォーマットデザインを担当。些細なお仕事であるが、少しでも古書組合のために役立てば、古本好きとして本望である。

そしてこれも盛林堂さんとともに行っている、ミステリ&SF評論家で稀代のアンソロジストである日下三蔵氏邸の書庫片付けであるが、この年は計七回と、比較的少なめであった。盛林堂さんが連続する催事などで忙しかったこともあるが、一番大きいのは日下邸書庫が魔窟から
完全に脱し、書庫としてしっかり機能し始めたことが大きいのであろう。我々の手伝えることは、少なくなりつつあるのだ。そんな十年の長きに渡る作業の結果が、この平和を生み出したわけだが、何と三月に「本の雑誌」に連載されていた日下氏の「断捨離血風録(仮)」(膨大な蔵書量を誇る書庫の片付けを本人の目で捉えた記録。基本的に書庫を片付けるために近所に臨時の書庫となるアパートを借り、そこを引き払うまでの、およそ四年の物語)が書籍化されるのに伴い、私の目から見た書庫片付けの様子を面白可笑しく捉えた「古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸」も、出版されることが決定したのである。ブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』に書き続けた七年の記録に、加筆修正を加えた、位置づけとしては「断捨離血風録」の副読本である。恐らく二冊とも、前代未聞の壮絶なノンフィクションとなっているので、発売を刮目してお待ちいただきたい。

 とういうわけで、2025年はサボらずに、色々なお店を訪ね歩きたいと思っているが、どうなるかは古本の神のみぞ知る……だが古本を買いまくっていることは間違いないので、本年も何とぞよろしくお願いいたします。

 
 
小山力也 (こやま・りきや)

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を
目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書店」で古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも
通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

 
 

Copyright (c) 2025 東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 書影から探せる書籍リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース