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メールマガジン記事 古本屋ツアーインジャパン

古本屋ツアー・イン・ジャパン2024年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 私は今、非常にてんてこ舞いなのである。何故ならば、古本屋さんでもない私が、八月の
終りから一ヶ月、大阪「梅田蔦屋書店」で古本フェアを開催するからである。以前からこちらでは、古本を販売させてもらっており、また時折古本まつりやフェアなどにも参加させてもらってはいたが、今回単独で五百冊を準備してくれと言うのである。五百冊……プロではない素人には、大変に重い数字である。ただ右から左に用意するだけならなんてことはないのだが、“古本屋ツアー・イン・ジャパン”としてのフェアなので、精選し良質でおかしな並びに
しなければ、とてもじゃないが気が済まない……。

そのオファーが来たのは、フェアの五ヶ月前の三月であった。普段の販売用の補充も送りつつ、フェア用の古本をひと月に百冊は送らねば、フェアは成立しないのだ。だが気持ちは
最初から決まっていたので、依頼を承諾し、早速古本の準備に取りかかったのである。

 家にある古本をまとめれば話は簡単なのだが、やはりそうは言っても売りたくない本やまだ読んでいない本も多いので、ここからすべてを出すわけにはいかない。そんな訳で当然仕入れをしなければいけないことになるのだが、もちろん私は古本屋さんではないので、市場で仕入れたり買取をしたりということは出来ない。自然、古本屋さんを巡り、安値で己のメガネに適った古本を買い集めるということになるのだ。

生活圏は東京の西方中央線沿線なので、中野〜三鷹間の馴染みの古本屋さんを中心に、西武
池袋線沿線・京王井の頭線沿線・小田急線沿線の古本屋さんを順繰りに、ほぼ毎日のように
こまめに巡りまくり、辛抱強く古本を買い集めたのである。またこれに加え、高円寺「西部
古書会館」や御茶ノ水「東京古書会館」で開かれる会館展にも足繁く通うようになった。

店巡りと同じで、いつでも好みの本が買えるとは限らないのだが、おかげでそれぞれの催事に個性があるのを感じ取ることが出来るようになってきた。だがその個性についてはあまり気にせず、とにかく通った。好みの本が多い催事は確かに収穫も多いし楽しいが、それ以外の本が多く並ぶ催事では、極少量だが好みの本が安値で並ぶことがあったりするので、結局どの催事も見逃せないのである。

中でも六月に開催された新しい催事「萬書百景市」は、それぞれの参加店が全力で古本を
並べ、去年開催の「中央線はしからはしまで古本フェスタ」同様、古本ファンの期待に応えつつも、新たな古本ファンを引き寄せる力を持った試みであった。この会館通いは、古本販売の世界が、伝統と革新が絡み合い発展して行くのを垣間見る思いであった。

 そんな風に現在進行形で大量に古本を買い集めているのだが、フェア中の補充分も含め、
まだまだ続けねばならないだろう。家の精選良書を核にして、買い集めた古本で一群を作り
上げるのだが、一回に送る量はだいたい三十〜五十冊くらいで、現時点で十三箱を送付済みである。どうにか約束の五百冊には達しているので、ホッと一安心しているが、それでもまだまだ油断せず、古本は準備しなければならないのだ。

このように古本準備でてんてこ舞いの日々を送っているのだが、その間にも様々な変化は
起こっている。武蔵小金井「古本ジャンゴ」、豪徳寺「玄華堂」、本八幡「山本書店」、
国分寺「七七舎」、巣鴨「かすみ書店」、金町「書肆久遠」、などがお店を閉じ、古本界に
寂しい風を吹き入れてしまった。

だが、武蔵小山「九曜書房」が恵比寿に移転して店舗再開、神保町から撤退した「古書かんたんむ」が湯島で店舗再開、「七七舎」跡地ではすぐに「イム書房」が開業(この店舗はこれで、「ら・ぶかにすと」→「七七舎」→「イム書房」とまた古本屋さんに引き継がれることになった)、さらにその「七七舎」も倉庫を店舗として開けるべく奮闘中、また三月に古書会館のトークショーでお世話になった古本乙女&母カラサキ・アユミ氏の古本仲間が博多に「ふるほん住吉」を開業(現在カラサキ氏は店員さんとして活躍中とのこと)、神保町では裏路地にレトロ雑貨+古本の「アリエルズ・ブルービューティー」が開店し、古本屋界に風通しを良くしたり、新たな風を吹き入れたりもしている。

すでにこの七月に入っても、閉店情報や営業再開情報&開店情報も飛び込んできているので、暑い夏もまだまだ古本の風が吹き荒れ続けそうな予感がしている。

 さらなる古本活動としては、定期的に行っているアンソロジスト・日下三蔵氏邸の書庫片付けがいよいよ佳境に突入している。月に一回「盛林堂書房」さんと通い続けた甲斐があり、
ついに古本一時避難用として臨時に借りていたアパートを引き払い、本邸&マンション書庫の集約フェイズに入ったのである。

スペースが出来たことにより、作業が俄然しやすくなったので、日下氏単独でも整理が進める状況になったのは大きい。足掛け十年、もはやライフワークの一つの如く他人の書庫整理に
関わろうとは、思ってもみなかった。いったいどんな結末を向かえるのか、いや、それよりも本当に結末はあるのか、あの元魔窟の行く末が今後も楽しみである。

 そして「盛林堂書房」買取の手伝いや古本まつりでの臨時店員などを務め、相変わらず色々な楽しい経験をさせてもらっているのだが、五月には非常に稀有な仕事に従事させてもらった。それはある古本屋さんの閉店作業で、市場に出す本を運び出す前に、大量の廃棄本を
トラックに積み上げ、何度も運び出すと言う重労働。およそ八トンの量を、店から運び出して、バンバントラックの荷台に放り投げて行く……古本を投げるのは荒事祭のような状態で、ハイになること請け合いであった。いや、古本屋さんって、重労働である。

 またそんな大好きな古本屋さんに関わった仕事としては、東京古書組合の買取ポスターや
全古書店大市会のポスターをデザインさせてもらったのも、貴重な体験であった。何度も何度も理事さんたちと協議を重ね、練り上げて行った作品である。その功績として、『日本の古本屋』の帆布エプロンをいただけたのは、身に余る光栄であった。古本に関わるイベントに出るときは、なるべくこれを身に着けて出るようにしよう。

 とまぁ、相変わらず古本に塗れて毎日を送っているわけである。以前のように新しい店舗を求めて全国を飛び回るようなことはしなくなっているが、大好きな古本屋さん&古本には違うカタチで触れ合うことが増えてきた。これは時代は流れるし、私も年を取りつつあるので、
当然の変化として前向きに鷹揚に受け入れている。

 最後に上半期の主だった古本収穫を紹介しておこう。今年は何故か署名本に恵まれる機会が多く、それは今でも継続している。殿山泰司の「ミステリ&ジャズ日記」署名イラスト入りが五百円、山下清の「日本ぶらりぶらり」がサインペン署名で百円、種村季弘の「怪物のユートピア」がフランス文学者窪田般彌宛署名入りで二千円、古川緑波「ロッパ食談」が徳川夢声宛毛筆署名で三千円。やっぱり古本屋さんはいつでも、夢があって、面白いところなのである。 

 
 
小山力也 (こやま・りきや)

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を
目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の
『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書店」で古本を販売中。
「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

 
 

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