地方の古本屋三代目―店舗移転の先を見据えて 【古本屋でつなぐ東北(みちのく)4】(秋田県・板澤書房)板澤吉将 |
秋田県秋田市にある板澤書房の板澤吉将と申します。戦前に私の祖父が創業し、現在は父が現役の店主、私は次代ということになります。
祖父の代では戦争を挟み、またあまり自らを語らない性格だったようで、六人兄弟の末っ子である父に聞いても店を始めた経緯などあまり詳しくはわからないようです。戦中戦後の本が少ない時代には短い間ですが貸本屋としても営業していました。手元には「新々堂 板澤書店」と見返しに印がある傷んだ本があります。私にとってはお菓子をねだると必ずくれる大甘な祖父でした。 一九七〇年代後半に神保町で修業していた父が店に戻ります。そしてバブル期と崩壊、インターネットの隆盛があり、営業の重心も店売りと即売会からネット通販へと移ります。私が小さい頃の店頭には、雑誌や連載中の少年漫画の単行本、回転するスチール棚に並んだ絵本や切手にトランプなどがありましたが、今はどれも残っていません。 私は二〇〇四年に東京の大学を卒業し、すぐに実家に戻りました。現在は出張買い取りやSNSを担当するなど、父に頭数に入れてもらえている実感があります。 さて、近く、店の移転が控えています。当店は秋田市の繁華街・川反に程近い場所、通称横町商店街にあります。以前は文房具店やスーパー、床屋などがあり商店街然としていましたが、現在はほぼ飲食店街となっています。三〇年くらい前から、この横町を含む六五〇メートルほどの区間に道路拡幅の話があり、横町は最後の工事区間で既に信号一つ向こうの目と鼻の先まで拡幅工事が迫っています。スペース的に後ろに下がるという選択肢はなく、道路拡幅イコール移転となります。今のところ、具体的な時期等の話は来ていませんが、聞く所によると数年以内だろうとのことです。 移転する際には店売りを続けるのか、店ではなく事務所にしてネット専売にするのではないかとお客様や同業者に問われることがあります。現在の実店舗とネット通販の両輪という営業スタイルは継続していくつもりです。地方の古本屋にとって、ネット通販は商売上避けられません。コロナ禍では尚更です。 実店舗は買い取りの窓口の意味合いももちろんありますが、お客様の顔が見える、古本屋を体験していただける意義があります。店の人間が棚に並べ、入れ替え、それをお客様が手に取り、予想外の出会いに思わず小さな声を上げる。この光景は魅力的です。 数年前にSNSを始め、それをご覧になったのか若いお客様も増えました。制服で来られていた方が少しの間見なくなり、また垢抜けてご来店された時などは、生活のステージが変わっても忘れないでいてくれたのかと感慨深い思いでした。言葉を交わしたわけではないので想像に過ぎませんが。 また二〇一七年にはご近所であった松坂古書店さんが閉業されるなど古本屋が減る一方で、なんとか歯止めをかけたい思いもあります。 祖父が創り、父が固めた店を、私がどうしていくか。一にも二にも生き残りです。レトロなイメージが強い職業ですが、加速し続ける時代の流れにしがみつかなければいけません。祖父も父も同様だったと思います。店の移転もあり、可能なところはデジタル化をするなど、今まで蓄積されてきた品物なり数字なりを再整理する時期に来ていると感じます。 私事ですが、一昨年娘が生まれました。ぽこんと出たお腹で走り回りかわいい盛りです。以前は自分の後のことはおろか自分自身の先さえ想像できていませんでしたが、そうも言っていられなくなりました。眼前には創業以来初めての店舗移転という転機があり、その次までは今は見通せていませんが、存続することで何かしらを次の世代に渡せるものと考えています。
(写真は昨年冬の板澤書房外観) ![]() 『増補新版 東北の古本屋』 折付桂子著 文学通信刊 ISBN978-4-909658-88-3 四六判・並製・312頁(フルカラー) 定価:本体1,800円(税別)好評発売中! https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-88-3.html |
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